「ね‥‥‥眠い〜‥‥」
「貴女まで無理に来る事は無かったのであります」
「睡眠可能」
「そんな今さらな事言わないで下さいよ〜‥‥カルメルさんと坂井君のお稽古なんて面白そうじゃないですか‥‥むにゃ」
「稽古ではなく、鍛練であります」
「訂正要求」
「はいな。鍛練鍛練」
「一度」
「は〜〜い」
落ち着こう。いや、すでに騒いでいないだけ少しは落ち着けているのだろうか?
起き抜け、昨日の朝よりも近い位置、ヘカテーの顔がある。
二日連続だとはいえ、騒ぎ立てて少女を起こさなかった自分を褒めたい。
というか、昨日ヘカテーは布団に潜り込んだ覚えは無さそうだったが、寝る前は当然別々。
ヘカテーが寝ぼけて潜り込んできたか、考えたくはないが、自分が寝ぼけて寝てる間にヘカテーを布団に引き入れているのか?
もし、後者なら殺されても文句は言えず、前者でも当然、問題はある。
自分で、自分が暴走しないと断言出来ないのが情けないが。
そろそろ部屋を分けるべきか?
まあ、それはそれとして、そろそろ用意しなければ、カルメルさんが来る時間である。
眠る少女の頭をなで、下に下りる(二度同じ過ちは犯さない)。
そこに、
「おはよ。坂井君♪」
「六分の遅刻であります」
「怠慢厳禁」
「お客様、待たせちゃだめよ?悠ちゃん」
母・千草、ヴィルヘルミナ・カルメルとティアマトーはいい、だがなぜに、
「坂井君、我らがアイドルは?」
平井ゆかりがいる?
「いや〜、坂井君とカルメルさんの鍛練見たくてさ〜。あと、寝起きのヘカテー」
悠二の心中の疑問に先取って応える平井。
「‥‥まだ、寝てるよ」
とりあえずそう応える。
というか、そんな理由でこんな朝に人の家に来るか?普通。
「ふっ、ふ〜ん。にゃるほどね。」
言って、素晴らしく楽しそうな顔になる平井ゆかり嬢。
すごく、嫌な予感がする。
「しからば、ヘカテーちゃんの寝顔を拝みに行きますか♪坂井君は顔洗っといで!」
「ちょっと待ってくれ!」
困る。すごく困る。
ヘカテーが居候し始めてからは、平井ゆかりを家に招いた事は無い。
ヘカテーが寝ている部屋、つまり自分の部屋で寝起きを共にしている事がばれてしまう。
いや、たとえヘカテーが起きて、この場にいたとしても、自分の部屋を平井に見せるわけにはいかない。
不似合いに置かれた黒板、ヘカテーの服を入れるタンス、(一応)自分のベッドの枕元に置かれたヘビのぬいぐるみシリーズも、色違いでそろそろ十に届きそうな数ある。
見られたら一発で同室生活が、ばれてしまう。
「待・た・な・い♪レッツゴー!」
「了解であります」
「同伴」
って、あんた達も見たいのか!?
「頼むから待ってくれー!」
そして、当然のように、全てばれる悠二である。
プライベートって何だっけ?
「‥‥‥‥‥」
今は、学校、朝のホームルーム前。
あの後、三人でそろって登校したのだが‥‥
てくてく
ニコッ
てくてく
かぁあああ
約一名、昨日の悠二以上に挙動不審である。
朝からほとんど口を開かない。
その代わり、何か足取りがフラフラし、時々、突然笑顔になったり、顔を紅潮させたりしている。
しかも、悠二や平井以外でも‥‥つまりは誰にでもわかるようなはっきりとした笑顔で。
(まっさか、本当にやるとはね〜)
この様子から、昨日の自分の秘策を悠二がやった事を悟る平井ゆかり。
ああは言ったものの、実際やるとは思ってなかったが、どうやらかましたらしい。
ちなみに、ヴィルヘルミナはともかく、平井は、実はヘカテーが悠二と同室で寝ている事は初めからヘカテーから聞いて知っていた。
直接見るのは初めてだったが。
ちらっと横に目をやる。
困惑顔の坂井悠二。
鈍い。不思議なほど、鈍い。
はあっ、と溜め息をつき、前方の挙動不審な妖精を見る。
うん、かわいい。
怪しさ全開だが、かわいいもんはかわいい。
と、そこへ。
「坂井君、おはようございます。近衛さんとゆかりちゃんもおはよう」
もう一人の親友、現る。
今のヘカテーの様子を見て、どんなアクションを起こすのか。
まったくもって、楽しみである。
「ああ、おはよう。吉田さん」
よかった。今日はいつもの吉田さんだ。
最近、『いつもの』が、どっちかわからないような気もしてきたが‥‥
そういえば、あの時、ヘカテーと何があったのだろうか?
訊いてみようか‥‥
と、悠二の目に、
ヒュン!!
白い軌跡が映る。
「ふっ!」
その飛び来るチョークの投擲を、絶妙なヘッドスリップで躱す吉田一美。
躱し、さらにそのまま、自分を射撃してきた少女‥‥近衛史菜に突っ込む。
そして、右ストレート。
ヘカテーも負けてはいない。
迫る右ストレートにかぶせるように、左のクロスカウンターを合わせる。
「っらあ!」
ストレートの軌道にあった右腕を払い、クロスカウンターを防ぐ吉田。
同時に左を突き出す。
その左と、クロスカウンターの追撃のつもりで構えていたヘカテーの右ストレートがぶつかる。
ゴォオン!!
拳と拳がぶつかり、派手な轟音が響き渡る。
そこで、両者、距離をとって構える。
シュッ、シュッと空ジャブで吉田を威嚇するヘカテー。
まるで子供を見るような穏やかな、だがどこか見下したような笑顔でヘカテーを見る吉田。
‥‥って。
「二人ともいきなり何やってんの!?」
「挨拶です」
「大丈夫ですよ、坂井君。スキンシップみたいなものですから」
(こんなハイレベルなスキンシップ聞いた事ないんだけど)
「覚悟‥‥」
言って、チョークを両の手に携えるヘカテー。
「ちょっ、ヘカテー!ダメだってば」
「いいの、気にしないで坂井君。何て言うのかな。
ちょっと元気で‥‥お茶目な小鳥と遊んでるようなものかな?って」
あれ?スイッチ入ってる?入ってない?
これなら‥‥なだめられる?
「よっ、吉田さん?ほら、吉田さんおとなしいんだから、こんな事、ね?」
「きゃふ〜ん☆そんなぁ坂井君。かわいいだなんてかわいいだなんてかわいいだなんて‥‥一美、困っちゃう☆」
「‥‥いや、誰もそんな事言ってないって‥‥」
ダメだ、これは。
ヒュヒュン!!
「っわ!」
「!」
「猫をかぶるのをやめなさい」
危うく、こっちにまで当たる所だ。
「‥‥‥‥‥ふっ‥」
ムカッ
ヘカテーの言葉を鼻で笑う吉田。
吉田の嘲いにムカッとくるヘカテー。
両者再びの激突。
そこへ、
パパァン!!
「はいはい。ホームルーム始まっちゃうよ、子猫たち?」
割って入り、両者の拳を手の平で受けとめる平井ゆかり。
「あっ、あの‥‥始めていいの‥‥か?」
いつの間にか来ていた担任が声をかける。
「はいはーい♪始めちゃっていいですよー♪」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥ちっ」
吉田、悠二、ヘカテーの反応である。
誰が誰のセリフかは推して知るべし。
そして、少し離れた席‥‥
「‥‥私、このクラスで一番運動神経いいのオガちゃんかと思ってた‥‥」
「私も‥‥」
「自信無くすなー」
中村公子、藤田晴美、緒方真竹が話していた。
その頃、
「うーん、美人だな。間違いなく」
「うんうん。美人、いや、美女というべきだ」
坂井悠二達のクラスメイト、佐藤啓作に田中栄太である。
学校の遅刻も何のその、市街地で、一人の女性を拝んでいた。
「ところで田中よ?」
「何かな佐藤よ」
「あれは、チンピラの山だよな?」
「まさしくチンピラの山だな」
「あの美女がやったわけ?」
「じゃないか?構図的に」
二人の拝む女性、その前に、うず高く、チンピラが積みあがっていた。
「まったく、トーチも多いけど、こんなのまで多いのね」
「ヒヒッ、わざわざ外界宿(アウトロー)でトーチの多い場所調べるなんて面倒な事までしたんだ。
これくれえの障害なんてへでもねーだろ?」
「まーね。こんだけトーチだらけなら、間違いなく"屍拾い"の奴も来てるでしょ。」
「まっ!そのためにわざわざしんどい思いして"隠蔽"までかけ続けてんだからな!
これで見つからなかったら笑い種だぜ!ヒャハハ!」
バンッ!
「笑えないっての。バカマルコ。
さっさと、案内人!私の事、美人って口にした奴!」
「ケーッ、色ボケが。‥‥二人いるな」
そこで、女性は振り向く。
「‥‥あれ?」
「あれだ」
一人の討ち手が‥‥御崎市に現れた。
(あとがき)
今回初めて気付いたけど。毎回(灼眼のシャナ再構成)ってタイトルに入れなくていいんですよね。
よく考えたら。
感想もらって充電した所で、頑張ります。