「では、事前に通達していた通り、この街の案内をお願いするのであります。
近日起こった事件、異変に関しては、その場ごとに説明をもらう、という形式で良いでありましょう」
(長く喋るとこの喋り方際立つな〜♪)
「街の案内ですね?はいはい喜んで!でもちょっと待ってくれますか?
すぐに食べおわりますから」
買い物も終わったしこのまま帰るつもりだったけど、こんな楽しそうなイベントが待っていようとは。
(明日、坂井君やヘカテーに詳しく話は訊くとして、今日は、私が近衛史菜だもんね♪街の案内なら私にもできるし。
いや〜本当坂井君達とつるんでから退屈しないね〜☆)
「‥‥‥それは何でありますか?」
「ビッグナスバーガーですけど?」
「‥‥ゆっくり食べていていいのであります」
そのまま、注文に行くメイドさん。
どうやら、食指が動いたようだ。
ところであそこの人は何だろう?
「お客様、どうかされたのですか?」
「話しかけるな。今の俺は置物に等しい存在だ」
「お客様、置物はテーブルの下に隠れたりしません。
先ほどからお客様が気にしてらっしゃるメイドさんなら今、注文してますよ」
「何?そうか。世話になったな。これは礼だ、釣りならいらん」
「えっ、あの?お客様?これ、代金足りな‥‥、くっ食い逃げー!?」
銀の長髪の青年が走って店を出ていく。
あっちのメイドさんは気付いていないらしい。
‥‥‥本当に退屈しない。
「それじゃ、ヘカテー。僕はメリヒムに今日のフレイムヘイズの事と、夜の鍛練無いって伝えてくるから、先に帰ってて」
「その帰りに、醤油を買ってきて下さい。
切らしていたはずです。」
「ん、わかった」
御崎グランドホテルは帰り道にあるから、ついでに伝えて帰る事にした。
「507号室の虹野翼様ですね?
ちょうどついさっきチェックアウトされておりますが」
チェックアウト?
出かけただけじゃなくて?
何か嫌な?予感がする。
「ただいま」
坂井家、醤油を買って帰った坂井悠二。
眼前には、やや怒りモードのヘカテー。
手に何か紙切れを持っている。
何も言わず、紙切れを差し出してくる。
どれ、
『俺は旅に出る。封絶も習得した以上、文句は無いはずだ。
力が不足したらまた来る。お前達が移動する際は行き先を奥方に伝えるのを忘れるな。
それと、妙な喋り方をする妙なメイドに俺の事を話したら刻む。
因果の交差路でまた会おう』
「‥‥‥‥‥‥‥」
差出人の名前さえ書いてないが、誰からの置き手紙かなど一目瞭然だ。
随分と、唐突かつ身勝手な別れもあったものである。
まさか、封絶習得したその日のうちに本当に旅立つとは。
そして、何だこれ?
メイド喫茶にでも入って何かやらかしたのか?あの男は、
そして、実はそのせいで逃げ出したのか?
「悠二の机の上に置いてありました。
おばさまには挨拶を済ませたようです。」
ヘカテーは今度は困り顔である。
「‥‥‥メリヒムが行って、寂しい?」
自分も少しは寂しいかも知れない。
「少しは‥‥‥でも、それより、彼は『タルタロス』の一節を持ったままです」
そういえば、金もヘカテーから借りたままのはずでは‥‥‥
「どうしよう‥‥ベルペオルに怒られる」
「ペルペオルって、確かヘカテーの同僚の?」
実は保護者みたいなものだろうと疑っているのだが、
「ペルペオルではなく、ベルペオルです。
その間違いは改めて下さい。彼女が泣きます。
会った時に間違えたらまたしばらく口をききません」
そうか、泣くのか、じゃあ気を付けなければなるまい。
というか、自分が会う予定があるのか。
相変わらずだが、そんな話はきいてない。
ちなみに『また口を利きません』というのは、以前悠二が、ヘカテーが箸ばかり使うのを治させるために、
三時のおやつに『タピオカ』を出し、その箸での食べづらさによって他の食器の有用性を示し、
いじめられたと判断したヘカテーにその日一日口を利いてもらえなかった時の事だ。
まあ、それ以来少しは箸以外も使うようにはなったが(箸好きな事は変わらない)、
話が逸れた。
「まあ、力が減ったらまた来るだろうから。
その時に捕まえよう」
そう言って、同僚(多分保護者)に怒られるのを危惧している可哀想な少女の頭をなでる。
よく平井ゆかりがやり、ヘカテーがわりと好きそうだと判断したためだ。
「‥‥‥‥‥」
思った通り、いつものように気持ち良さそうに目を閉じ‥‥‥
あれ?閉じてない。
こっち見て見開いている。
しかも顔がちょっと赤く‥‥‥‥
「‥‥ヘカテー?どうかした?」
「っ!〜〜何でもありません!」
言ってズカズカと自分の、というか悠二の部屋に行くヘカテー。
最近、少しわかったつもりになっていた彼女の挙動が読めない事がある。
母さんは困ったような顔をするだけで教えてくれないし。
(それにしても、フレイムヘイズか‥‥)
メリヒムが去った以上、ヘカテーに何かあった時には自分しかいない。
自分でどこまで、何ができるのだろうか。
そこまで考えて、
自分の認識に呆れる。
そもそも自分よりヘカテーの方が強いのだ。
ヘカテーに助けられる事はあっても、逆は無いだろう。
そうやって、自分とヘカテーの関係性を『正しく』認識して‥‥‥
心中、いやな種類のため息を吐いた。
「てんで、雑魚ね。」
「噛み応えのねえ獲物だなあ、おい」
『弔詞の詠み手』、マージョリー・ドーの手には今、運悪く"探知"にかかった哀れな徒が火花を撒いて吊られている。
「たっ、頼む。見逃してくれ‥‥‥」
「見逃すわきゃないでしょうが」
「馬鹿か?てめーは」
『弔詞の詠み手』達の残酷な宣言に、しかし徒は笑って応える。
「へへっ、この群青の炎、あんた、『弔詞の詠み手』だろ?」
「だったら、見逃すかどうかくらいわかるでしょ?」
「あんた‥‥"銀"を追ってるんだってな?」
途端、
マージョリーの手がギリギリと音を立てて、徒の首を絞めあげる。
「あんた、何か知ってるの?」
先ほどまでとは殺気の桁が違う。
「ぐっ!‥‥‥があっ、まっ、前に、"銀"の炎出してる奴見かけたんだ!!」
「何処で?」
さらに、絞めあげられる。
「ごっごごから、北に数キロ進んだ街だ!!
応えただろ!?見逃しでぐっがああああ!!!」
首を絞められ続けていた徒が群青の炎に呑まれて、消えて行く。
「北‥‥‥か」
「行くか?」
「当然でしょ?」
いつになく、口数の少ない『弔詞の詠み手』が、進路を決めた。
(あとがき)
メリヒム一時退場です。
今日からしばらく(一、二週間くらい)、忙しくなるので、その間、更新できないと思います。
更新速度が売りなのに。
再更新時に見捨てずに、また目を通してもらえると幸いに思います。