「それでは、おばさま。
行ってきます」
「本当に二人だけで大丈夫?」
「私がついています。
心配はいりません。」
「そう。気をつけてね。
悠ちゃん。いざとなったらヘカテーちゃんを守ってあげるのよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「"はい"は?」
「‥‥はい」
今日からゴールデンウィーク。
前からの口約通り、悠二とヘカテーは出掛ける事となっている。
『探し』に行く事が目的である以上。当然日帰りではない。
見つかるまで探すつもりらしい。
ゴールデンウィーク中に見つけられるかどうかはかなり疑問だが。
千草には、『ゴールデンウィーク中にヘカテーが実家に帰る事になり、それに悠二を連れて行く』という事になっている。
行き先すら告げていないのだから普通は怪しむ所だが、千草は、
「悠ちゃん。ヘカテーちゃんのご両親にいい印象もたれなきゃダメよ」
これである。
突っ込みたい部分は大分あるがこのまま何も気にしないでもらったままの方が断然都合がいい。
「「行ってきます」」
こう言って、出発してしまうのが一番だ。
「それで、その『天道宮』はどこにあるんだ?」
『天道宮』、ヘカテーの属する仮装舞踏会(バル・マスケ)の本拠、星黎殿(せいれいでん)と対をなす移動要塞。
球形中空の異界、『秘匿の聖室(クリュプタ)』に包まれている事でまず察知できない作りになっているらしい。
しかし、説明を受けたのはここまでだ。
『そんなものどうやって見つけるのか?』とか、
『察知できないのにどこに向かうのか?』とか、
『そもそも何でそんなもの探すのか?』などの部分の説明は一切受けていない。
「以前、『天道宮』の探索に執着していた"琉眼"という名の仮装舞踏会の捜索猟兵(イエーガー)の消息が途絶えた場所に行きます。
彼と最後に連絡を取った際に、ベルペオルが彼の周囲に破壊の自在法を使用したとの事です。
もし、彼が天道宮に侵入できていたとすれば、天道宮が墜ちている可能性はあります。」
ずいぶんと頼りない心当たりである。
「そんな手掛かりだけでわざわざ探しに行くのか?」
正直、気が乗らない。
いや、もう新幹線の中だから乗るも乗らないもないのだが。
「誰のために行くと思っているのですか。
それに、もし本当に天道宮が墜ちていたとすれば、陸地ならとっくに見つかっているはずです。
探すのは海中のみに絞り、それでダメなら当面は諦めます」
海中を探すらしい。余計やる気が失せそうになったが先ほどの説明に気になる言葉があった。
「もしかして、僕のために探しに行ってるのか?」
またこの少女に振り回されていると思っていた自分を少し恥じる。
「『それ』もあります。
前にも言った通り、私の属する仮装舞踏会にとって、貴方の中の『零時迷子』は重要な宝具。
いずれ貴方から取り出した時、貴方の存在を保つための代用品が必要になります」
つい、忘れかけていた脅威を思い出させられ、若干青ざめる悠二だが、どうやらヘカテーは『零時迷子』を取り出す事になっても自分を消すつもりはないらしい。
その程度の事だが、何故か消滅の脅威にわずかに勝ってしまう自分が少し可笑しい。
にやけた悠二に不思議そうな顔をしつつヘカテーは続ける。
「探しているのは正確には『天道宮』ではなく、その中にあるはずの『宝具』です。
いざという時、その『宝具』を零時迷子の代わりにするために手に入れておきたいのです」
なるほど、この旅の目的はわかった。
見つからなければ、自分の存在すら危ういという事と、そのためにヘカテーなりに、消えずに済む方法を考えてくれたというわけだ。
見つからなければかなり危険だというのに、妙に嬉しい。
やる気が出てきた。
「だったら、絶対に見つけないとな」
この小さな少女のためにも‥‥
その時の少年は、自身気付いていなかったが、とても優しい表情をしていた。
「ところで、その宝具ってどんなのなんだ?」
「‥‥‥‥‥」
「ヘカテー?」
「っ!?ぎっ銀の水盤『カイナ』です。
存在の力の消費を抑えるものです。応用すれば零時迷子ほどとはいかなくても代用品くらいにはなるはずです!」
何故か動揺している。
ヘカテーにしては実に珍しい早口だし、声も大きい。
「?、どうかし‥‥」
「何でもありません!!」
何やら様子がおかしい。 まあ、珍しいヘカテーが見られたので良しとしよう。
鈍い少年とウブな少女を乗せた新幹線は目的の街に到着する。
海沿いの小さな街に。
海上にて巨大な影に襲われた三人の"紅世の徒"。
うち、一人"王"が引き受ける形で体を張り、残り二人の"紅世の徒"は先を急いだ。
そしてたどり着く。
海沿いの小さな街に。
(あとがき)
苦しい。説明が苦しい。
もはや言い訳のレベルですね。
書いてて悲しくなりました。
展開失敗したかも。
激しい自己嫌悪に伴い、短めです。
モチベーションを立て直してきます。