週明けの月曜の朝。
坂井悠二はいつもより早くに御崎高校にいた。
自分の席に座り、何も見ていない。
あの後、何が起きたのか覚えていない。
あの少女が"徒"を倒し、自身も深手を負い、助からないと、そう言った少女を抱きしめ、最後まで側にいようと思っていたはずだ。
だが、記憶はそこで途切れている。
目覚めたら自室のベッドの上だった。
朝食の時に、母・千草はあの少女の事を口にはしなかった。
自分も訊かなかった。
『そんな少女は知らない』と言われるのが怖くて、訊けなかった。
"徒"もトーチも、消えてしまえばそこに存在した痕跡さえも消えてしまう。
母があの少女を知らないと言えば、少女が消えてしまったという事になる。
頭ではわかっている。
ヘカテーは助からないと言った。
そして目覚めたらいなかった。
答えは出ている。
だが、それでも千草の答えが怖かった。
だから訊かなかった。
訊きたくなかった。
最後の時、少女は助からないと言っておきながら、自分を喰わなかった。
これからも人を喰うのか?
そう訊いた自分の問いに対し、『貴方次第』と言っていた少女の、
あれが応えだったのだろう。
人は喰らわない。
そして、トーチ・その残りかすであるはずの自分も同様に扱ったという事だ。
色々あったようで、少女と出会ってから三日と経っていない。
この三日の出来事全てが夢の中の出来事のように感じられる。
だが、この三日の事は今も確かな現実として、目の前にある。
残りかすの証たる胸の灯りがそれを証明していた。
自分が人ではない事の証。
だが、これを今日最初に確認した悠二が感じたのは『安堵』。
『あの少女は確かにここにいた』
そう確信させてくれるものだと思えた。
これから、どう生きていこう。
自分はもう人ではない。
だが、ただ消滅を待つだけのトーチでもない。
唯一、答えをくれそうな少女も、もういない。
生徒達が登校してきて、朝のホームルームが始まる。
物思いに耽ける悠二は、周りの様子に気を払わない。
いつもなら朝に声くらい掛ける彼の友人達が今日に限って話し掛けてこなかった事にも気付かなかった。
当然、その友人達。
池速人、田中栄太、佐藤啓作の三人がこっちをみながらひそひそ話をしていた事も知らない。
ホームルームの最中、教室のドアが開く。
軽い足音と共に、一人の人物が入ってくる。
そのまま、教師を無視して教卓の前に立つ。
「おっ、おい。君は?
その制服はうちの生徒か?見ない顔だが」
戸惑ったような教師の声に、ようやく悠二が目を向ける。
そこに、
「今日からこのクラスを受け持つ事になりました。
近衛史菜です。
よろしくお願いします」
水色の髪の少女を見つけた。
「きっ、君!いきなり何を言って、、そもそも君みたいな子供が‥‥‥」
パァン!!
「私は子供ではありません」
初対面で自分を子供扱いする無礼者をその手に持ったチョークの一撃で沈める自称新任教師・近衛史菜ことヘカテー。
「ちょっ!先生!?」
前の席に座っていた女子・緒方真竹が騒ぎだす。
「やっぱりだ!!あの子、土曜にファミレスにいた坂井のかの‥‥」
パァン!!
「私は"悠二"のものではありません」
ヘカテーを指差し、喚き始めた所を高速のチョークの投擲によって田中栄太が沈められる。
が、
「「「「「"悠二"!!?」」」」」」
ヘカテーの、自身気付かぬ失言にクラス全体が異様な熱を持って騒ぎだす。
「本当に坂井の彼女なのか!?」
「ああ、この間ファミレスで一緒に飯食ってたのを俺と田中が見かけてな」
「佐藤に電話もらった時は信じられなかったけど、『悠二』、ね、なるほど。信じる」
「坂井君!あの娘と本当に付き合ってるんですか!?」
「一美?どうしたの?すごい食い付きっぷりだけど」
「あの娘、お人形さんみたいにかわいい〜!!!」
「坂井君って『あっち』系の人だったんだ」
「クラス受け持つとか言ってなかった?」
「教師‥‥なわけないよね? 制服だし」
もはや、収拾不可能なほどに盛り上がった生徒達は騒ぎ続ける。
額を白く染めて気絶している教師になど誰も気を払わない。
そんな喧騒の中、
騒ぎの根幹たる少年は、周りの事にまるで気付かないように、
ただ水色の髪の少女を見て、
一筋、涙を流した。
少年の非日常は続いて行く
傍らに一人の少女を伴って
(あとがき)
まず、謝罪を。
前の更新の時に次で整合性をつけるとか言ってたのに、つけてません。
説明入れるとエピローグ的話なのに、きれいにまとまらなかったんです。
これまとまってんのか?と言われると答えに窮しますが。
説明は二部(の頭ら辺)で必ず入れます。ご了承を。
一部終了を記念して?、二部から感想掲示板にて、書いて頂いた感想に返信する習慣をつけようと思います。
何かこのSSを読んで、感じた事があれば、掲示板に書いて頂けると幸いに思います。
一部まで読んで、見放さないでくれる方は、これからもよろしくお願いします。
最後に一言。短か!!