「今度はこっちから攻める番だ」
少年の宣言に当然ヘカテーは疑問を持つ。
「居場所が何とかなるとはどういう事ですか?
伺いましょう」
「トーチの仕掛けを辿っていけばいいんだ。
仕掛けを起動させるなら、必ず仕掛けた奴に繋がっていると思う」
(????)
トーチの仕掛けを辿る?
鼓動しているらしい事はわかったが、それを『辿る』とはどういう事か。
「ただ鼓動している物を辿るとはどういう事ですか?」
心中の疑問をそのまま口にする。
「いや、その鼓動の時の振動?が‥‥糸?みたいに繋がってて、それが別の場所に‥‥」
自分は見えないからか少年の言わんとしている事はわかりにくいが、どうやらトーチの仕掛けが糸のようなもので繋がっているらしい。
「その糸というのは昨日の『燐子』達には繋がっていましたか?」
もし繋がっていたとすればほぼ確実に徒にたどり着ける。
「いや、昨日はここまで見えたり感じたり出来なかったんだ。
朝起きたら何かやたらと気配みたいなのがはっきり掴める様になってた」
昨日はダメで今日はわかる?
寝ている間に何か‥‥、
アレか。
昨日の晩、少年が寝ている間に『器』を合わせた事を思い出す。
"紅世の王"である自分と『器』を合わせて感覚を共有した事が少年、あるいは中の宝具の感知能力を引き出すきっかけになったらしい。
ある意味、当然なのかもしれない。
並の徒よりは優れた感知能力を持つ自分と感覚を共有したのだから。
感覚を掴むきっかけにならない方がおかしい。
元々、潜在的に優れた感覚能力を持っている事自体は予想外だったが。
原因はわかったが今大事なのはそこではない。
「『都喰らい』の時にトーチに編み込んだものが、『鍵の糸』という仕掛けです。
敵が都喰らいを目論んでいる疑いが濃くなりましたね」
そう言うヘカテーに坂井悠二は『正解』を示す。
「奴らが僕を巻き込まないつもりな内に、居場所を突き止めなきゃな。」
そう、敵が何を企んでいようがこっちのする事に変わりはない。
「私にはその『糸』は見えません。
探索に関しては全面的にお任せします」
「わかった。行こう」
二人は再び歩きだす。
今度は闇雲ではなく。
敵に向かって真っ直ぐに。
御崎市依田デパートの高層フロア。
その一画の箱庭の上、紅世の王"狩人"フリアグネと燐子"可愛いマリアンヌ"は語らう。
「マリアンヌ、やはり『玻璃壇(はりだん)』には何も映らないかい?」
彼の愛する燐子にフリアグネは問う。
「はい。『玻璃壇』に映らないという事は昨日の"王"は自在法ではなく宝具の力で気配を隠している事になります。」
若干嬉しそうにマリアンヌは返す。
燐子もその主も宝具には目が無い。
「喜ぶべきか悔やむべきかわからないね、マリアンヌ。
貴重そうな宝具が近くに二つある。
しかし、在処はわからず、見つからない内は『都喰らい』は起こせない」
そう言いながらも目が笑っている。
宝具の狩人の血が騒ぐ。
「こうなれば、直接この目で探すか。
昨日の封絶の場所に燐子を向かわせて‥‥」
「その必要はありません」
フリアグネの声を遮り、凜とした声が響く。
同時に、
巨大な気配の出現と共に依田デパートの周辺一帯が陽炎の壁に包まれる。
その中を燃え盛るのは明るすぎるほどの水色の炎。
「仮装舞踏会が『巫女』、"頂の座"ヘカテー。
大命のもとに貴方を滅します」
現れた少女は強く言い放った。
坂井悠二は御崎大橋から見える陽炎のドームを見ていた。
さっきまで一緒に徒を探していた少女は今、あの封絶の中にいる。
徒との戦いに際して、悠二は当たり前の如く置いていかれた。
それが当然だ。
自分でもそう思う。
自分がついていったとして昨日のような怪物に何が出来るというのか。
『気遣いなど不要。
貴方には関係の無い事です。』
徒の場所を見つけただけでも大手柄だ。
『私は子供ではありません』
あとはヘカテーに任せればいい。
『紅世の徒、"頂の座"ヘカテー。
それが私の本当の名です』
そもそもあの少女だって徒じゃないか。
相討ちが一番望ましいはずだ。
『当面、貴方に危害を加えるつもりはありません。
こちらにも都合というものがあるのです』
今は何かの理由で見逃してもらっているだけだ。
いつ殺されるかわかったものじゃない。
"だが"少女は戦いに行った。
「‥‥‥‥‥はあぁぁぁ」
長い溜め息を吐く。
本当に調子が狂う。
もっと冷静で要領の良い性格だったと思うのだが。
そして少年は足を向ける。
陽炎のドームへ。
「まさか、仮装舞踏会の巫女殿とは思わなかったな。
」
突然現れたヘカテーにフリアグネは言う。
それには応えず、彼らの足元に目を向ける。
これは‥‥
「『玻璃壇』。
街中のトーチを把握し、『鍵の糸』を仕込んだのもこれのおかげということですか」
ヘカテーの言葉に僅か目を鋭くし、フリアグネは言う。
「どうやらもう『都喰らい』の事まで見破られているらしいね。
ああ、この『玻璃壇』でトーチを把握して式を紡いだのさ。
私は"死んだ君の主"とは違う。
この宝具を製作者以上に使いこなしているよ」
‥‥今まででも戦う理由は十分にあった。
だが、状況次第では命までとる必要は無いかも知れないとも思っていた。
だがそれもさっきまでの話だ。
もう、許すつもりはない。
撤回しても許さない。
「"狩人"フリアグネ。
場所を変えましょうか。
ここで戦うのは互いに都合が悪いはずです」
外見から正体を察した"王"に心中の怒りを面に出さずに提案する。
「いいだろう。このデパートの屋上はかなり広い。
そこで戦ろう」
フリアグネは考える。
封絶が張ってある。
今は都喰らいを起こせない。
だが、狙っていた『獲物』は向こうから来てくれた。
例のミステスの中身も当然もう取り出して持っているだろう。
用意は完全に整っている。
後はこの『獲物』を仕留めて、封絶が解けたら。
都喰らいを起こし、マリアンヌを永遠の存在に変えてやる!
左手の指輪をさすり、そう思う。
白い狩人は、負ける事など、微塵も考えていない。
その少し後、
封絶に覆われた依田デパートの屋上で炎がぶつかる。
(あとがき)
少し短いけれど、開戦前にワンクッション入れるという事で。
改行について、自分でも本当何回同じ事言われてんのかと思いますね。
ほとんどくせです。
ちょっとずつ治していきます。