このSSは原作とアニメの両方の設定を使って行くつもりです。
設定をごちゃ混ぜにしたり、大きな設定改変に不快感を覚える方はあらかじめご了承ください。
この世の"歩いてゆけない隣"の世界。
"紅世"から渡り来た人ならぬ者達に古き詩人の一人が与えた総称を、"紅世の徒"という。
彼らは人がこの世に存在するための存在の力を奪い、その力で自身を顕現させ在り得ない不思議を自在に起こす。
思いのままに、力の許す限り滅びの時まで。
そんな徒達のこの世で最大級の集団の一つとして名を知られている組織、名を『仮装舞踏会(バル・マスケ)』。という
何処か世の空を彷徨う宮殿。『星黎殿(せいれいでん)』。
その中の一室、ひたすら機械、機械で占められた静謐の区画。
機械を織り合わせた柱の中程に磔にされた西洋鎧の前に二つの影がある。
「『暴君』が最後に正常に作動してからどのくらいになるかね。フェコルー?」 影の一つ、両腕に鎖を纏わせ、灰色のタイトなドレスを様々なアクセサリーで飾り、三眼の右目を眼帯で隠す妙齢の美女が尋ね。
「最後の『鏡像転移』から半年以上経っています。
これほどの期間に一度も人間の強烈な感情の発生が無いとは思えません。」
フェコルーと呼ばれた影のもう一つ、背中にコウモリの羽を生やし、尻尾が細く伸び、その黒髪からは角や尖った耳が覗く。
しかし、その顔は押しの弱そうな『小役人』とでも表現できそうな顔の男が返し、そして恐々と続ける。
「ぼっ、『暴君』自体の機能に、何らかの異常が生じた物と思われます。"逆理の裁者"ベルペオル参謀閣下」
フェコルーがベルペオルと呼んだ美女の非難を覚悟し、恐々と告げる。
しかし、
「困ったねえ、あれは教授くらいでしか手を加えられる者に心当たりが無いからねえ」
ベルペオルはまるで困っていないように、否、『困っている事こそを楽しむ』ように『困った』と言う。
「まあ、別段焦る必要は無いさ。
いずれにせよ我らが盟主は例の宝具が見つかるまでは仮の帰還もできないのだからね。」
ベルペオルは『盟主』の言葉を出す時、横にいるフェコルーが気付かない程ほんの僅か憂いを帯びた表情を見せた。
しかし、直ぐに常の表情に戻り傍らのフェコルーに告げる。
「だが、『暴君』の修復は急ぐに越した事はない。
我ら仮装舞踏会の大命遂行のためにあの教授の捜索を『捜索猟兵(イエーガー)』を中心に命じておくれ」即座に応えるフェコルー。
「はっ!!」
しかし、その会話を物陰から聞いている少女がいた。大きなマントと、大きな帽子に着られているような、小柄な少女。
肩までで揃えられた水色の髪の内の繊細な容貌は、氷の印象を感じさせる。
少女・"頂の座(いただきのくら)"ヘカテーは仮装舞踏会に於いて、『巫女』の位に就いている。
志向能力、ともに謎多くも仮装舞踏会の徒らから絶大な尊崇を受ける、組織の中核たる存在だった。
ヘカテーは考える。
自分の大命の盟約に於いて現状最も優先されるべき『託宣』は、星黎殿の外で行われる。
若い徒達に『訓令』を説く事も自分である必然性は無い様に思えた。
(ならば、私自らが出向くのも良いでしょう)
実際には、ヘカテー自らが出向く必要など無いが、同じ最高幹部『三柱臣(トリニティ)』の一柱たる"千変"シュドナイが星黎殿に寄る方が珍しいといった態度をとっている事も手伝って、ヘカテーは自らの考えに忠実に動く事にした。
(それに、)
自分が『何を求めているのか』という答えを見つけるきっかけになるかも知れない。
大命のためという目的の他にそんな思いがあった。
その後、ヘカテーはしきりにかしこまるフェコルーから、目的を告げないまま、『人間社会への介入の方法』を聞き出し、その三日後に星黎殿から下界へと降りた。
一枚の手紙を残して..。
『感情採集に行って来ます。おじさまも見つけたら捕まえて来ますね。』
行き先も告げずにヘカテーが降り立ったのは、道路を跨いで建つ二つのA型主塔の頂上。
真南川に掛けられた大鉄橋。『御崎大橋』である。
(あとがき)
初投稿です。自分でも知らない内にすごいミスをしてたりしてるか不安なので。指摘を下さるとありがたいです。8月23日の8時頃に一度投稿した際、改行などがあまりにひどかった様なのでタイトルごと書き直してみました。
それと、エヴァ投稿掲示板の方に誤って投稿していた件に関して、皆さんに多大な迷惑をお掛けした事をここに深く謝罪致します。