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No.38563の一覧
[0] 化物語SS こよみサムライ 第二部[3×41](2014/09/28 21:31)
[1] エルザバード001[3×41](2013/09/23 20:40)
[2] エルザバード002[3×41](2013/09/26 18:44)
[3] エルザバード003[3×41](2013/09/26 18:45)
[4] エルザバード004[3×41](2013/09/29 09:23)
[5] エルザバード005[3×41](2013/09/30 07:23)
[6] エルザバード006[3×41](2013/11/18 23:45)
[7] エルザバード007[3×41](2013/10/07 18:25)
[8] エルザバード008[3×41](2013/11/10 16:50)
[9] エルザバード009[3×41](2013/12/09 19:07)
[10] エルザバード010[3×41](2013/12/09 20:07)
[11] エルザバード011[3×41](2013/12/14 08:02)
[12] エルザバード012[3×41](2013/12/19 19:29)
[13] エルザバード013[3×41](2013/12/22 00:37)
[14] エルザバード014[3×41](2013/12/21 23:24)
[15] こよみサムライ001[3×41](2013/12/22 22:21)
[16] こよみサムライ002[3×41](2013/12/27 00:03)
[17] こよみサムライ003[3×41](2013/12/27 07:18)
[18] こよみサムライ004[3×41](2013/12/29 11:21)
[19] こよみサムライ005[3×41](2013/12/29 11:21)
[20] こよみサムライ006[3×41](2014/01/21 22:14)
[21] こよみサムライ007[3×41](2014/01/01 18:11)
[22] こよみサムライ008[3×41](2014/01/21 20:42)
[23] こよみサムライ009[3×41](2014/01/21 21:56)
[24] こよみサムライ010[3×41](2014/02/03 18:32)
[25] こよみサムライ011[3×41](2014/02/03 01:47)
[26] こよみサムライ012[3×41](2014/02/05 02:15)
[28] こよみサムライ013[3×41](2014/02/07 02:08)
[29] こよみサムライ014[3×41](2014/02/08 03:52)
[30] こよみサムライ015[3×41](2014/02/12 05:46)
[31] こよみサムライ016[3×41](2014/02/18 21:16)
[32] こよみサムライ017[3×41](2014/02/18 21:18)
[33] こよみサムライ018[3×41](2014/03/06 01:01)
[34] こよみサムライ019[3×41](2014/03/10 02:02)
[35] こよみサムライ020[3×41](2014/03/10 01:29)
[36] こよみサムライ021[3×41](2014/03/16 09:10)
[37] こよみサムライ022[3×41](2014/03/16 10:03)
[38] こよみサムライ023[3×41](2014/03/16 10:16)
[39] こよみサムライ024[3×41](2014/03/16 21:58)
[40] こよみサムライ025[3×41](2014/05/02 12:17)
[41] こよみサムライ026[3×41](2014/05/28 00:38)
[42] こよみサムライ027[3×41](2014/06/29 11:52)
[43] こよみサムライ028[3×41](2014/06/29 11:53)
[44] こよみサムライ029[3×41](2014/06/29 12:20)
[45] こよみサムライ030[3×41](2014/09/28 21:24)
[46] こよみサムライ031[3×41](2014/09/28 21:27)
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[38563] エルザバード006
Name: 3×41◆ae1cbd1c ID:b0318dc4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/18 23:45
 驚いたことに、神原からの電話に出ると聞こえてきたのは神原の声ではなく、
軽快な、軽薄な、剽軽な男の声だった。
 この春にこの町を出た。僕を半端な吸血鬼に変え、戦場ヶ原が重さを取り戻すきっかけを作った、忍野メメ、怪奇譚収集家、この世の怪異に近しいあやしげな男である。
 
『はっはー!驚かせちゃったかな阿良々木くぅ~ん。鳩が豆鉄砲食らったような声じゃぁないか!』

 ぐっ。お前は鳩が豆鉄砲食らった声を聞いたことがあるのかと聞きたかったが、どうでもいいのでおいておこう。問題はどうして忍野が神原の携帯を持っているのかということだ。

「おい忍野。ちょっと待てよ。お前まるでちょっと疎遠だった男女がちょっと気が向いて電話しちゃいましたみたいなノリだけどさ。どうしてお前が神原の携帯を持ってるんだよ」

 携帯電話に向かってたずねると、再びあの飄々とした声が返ってくる。
 
『なぜって?そりゃぁそうだろう阿良々木く~ん。君は僕のことをどう思ってるのかしらないけど、僕だって一応文明人のはしくれなんだぜ?そりゃぁ電話くらいつかうさ。そういうもんだろう?おっと電話は使えても携帯電話は使えないような老人のカテゴリにはまだ入れないでくれよ。とは言ってもこの携帯電話はここにいる元気っこちゃんに通話ボタンっていうのかい?それを押してもらったあと貸してもらったというわけなんだけどね』

 借りた?ああそうか。神原は前にいっていたとおり、ランニングがてらおそらく町中を走り回っていたに違いない。
 あたりをその現代社会においておおよそ必要とされないような驚異的な視力でなめまわすように見回していたのだろう。
 捜査においては重要なことだ。捜査をするにあたってはまず足からというからな。
 しかし幸運にか不運にか、神原は火憐ちゃんを見つけるかわりに、この30代のひょうきんな中年男を発見してしまったらしい。

「ん?てことは忍野。お前いまこの町にいるのか?」

『うん?この町っていうのは、阿良々木君が住んでいるあの町のことだよな?もちろんそうさ。そうに決まってるだろう?僕がこの元気っこちゃんに携帯電話を借りてるってことは、もうそれ意外にないだろう』

 元気っこというのは神原のことだろう。
 
「ならちょうどよかったよ。お前に聞きたいことがあるんだよ。お前さ、20人の強化人間に襲われて、そいつらを一瞬でのせるか?のすっていうか、その前に一瞬ひかって、次の瞬間には全員をふっとばす、みたいなことがさ」

 聞くと、携帯電話の向こうでうーんとうなる声が聞こえる。
 やはり忍野でもこの程度の材料ではあの現象を説明するのは難しいだろうか。

『そうだなぁ、その強化人間って単語には少し興味ひかれるけどね、阿良々木君がビビりまくってるくらいなら僕にも難しいかもしれないな。いや、というかさすがにその人数は厳しいだろう。僕だって別に基本的にはごく一般的な人間なんだぜ。わかるかな?一般的な人間の身体能力で強化人間だったっけ?それを20人、それも一瞬でだぜ?金光鳥じゃぁあるまいし、一般的な人間にそれを求めるのはいささか過分な芸当というものさ』

「そうだよなぁ」

といっても忍野がどの程度一般的な人間かってことは僕はよくしらないんだよな。
それにしても一般的な人間か、では彼女、エルザ・フォン・リビングフィールドは一般的な人間ではない、ということになるのだろうか。
それをいえば、本当なら僕だって、この電話の主の忍野だって厳密には一般的な人間だとはいえないのだろうけど。

「ん?ちょっと待てよ忍野」

 こいつ今何か言ってなかったか?
 頭にひっかかってる単語を思い出してみる。
 
「お前今なんか、金光鳥?とかいってなかったか?そいつならそれができるってことなのか?」

『はっはー!』

 携帯電話から聞こえてくる軽快な声が続ける。

『まぁ具体的には金光鳥と同化した人間ってことになるかな。あれはそういう怪異だからね。まぁそもそも西洋、詳しく言うとヨーロッパあたりの怪異だから、この日本であれにお目にかかることなんてよっぽどないと思うけどね。ただあれもなかなか難しいところがあるからあったら注意が必要だぜ。うん、阿良々木君はただでさえただの人間じゃないんだ。ヨーロッパ旅行になんて行くときにはそこらへん注意しとくといいんじゃないかなぁ』

「具体的に教えてくれ。あと。そうだ忍野、お前人探しって得意か?」

 もしかしたら忍野なら、行方知れずのままでいる僕の妹を見つけることができるんじゃないだろうか。そしたらこいつはもしかしたらそれにもまた正当な代価というものを求めるかもしれないが、それはいたしかたないことだ。

『ん?人探しかい?まぁできないことはないかな、人並みにだけどね。まぁそれも時間はかかるけどね。あ、そうだったそうだった』

 忍野は携帯電話のむこうで何か気がついた様子で続けた。
 
『僕はこの町にそう長くいれるわけじゃないんだったよ。というか用件が終わったらすぐ出て行かなくちゃぁならない。よそでちょっとごたついててね。それでもちょっとこっちでも大変らしい様子だから急いで戻ってきたってわけさ』

 本当だろうか。まさかそうやって成功報酬の引き上げでもたくらんでるんじゃないだろうな。いっとくが僕はたいして金銭を所持してはいないんだぞ。言わなくてもしってるだろうけどさ。
 携帯電話の向こうで忍野が軽快にわらった。まったく、相変わらずひょうひょうとしてつかめないやつだ。戦場ヶ原はというと、僕のとなりで手持ち無沙汰にしていたが、どうやら電話の相手が忍野だということには気づいているらしく、何を促すでも退けるでもなく、どうやら中立を決め込むつもりらしかった。

『というのも、この町の裏山さ。聞いてたよりもだいぶ力がふきだまってるんだよ。忍がこの町にきたときの倍以上だ。ぶったまげたよ』
 
 忍野いわく、この町の裏山に怪異に近い力の流れがかなり集中してしまっているらしい。
 忍、僕の影にひそむかつては世界一の怪異である鉄血にして冷血にして熱血の吸血鬼、今は幼女の姿だが、こいつがこの町にきたときもだいぶ力の流入があったそうだ。
 今またそれをはるかに越える力のふきだまりができてしまっているらしい。
 
 それを聞きつけて急いでこの町にもどってきたということらしい。
 本当だろうか?どうも口調が軽いからどこまで本気かわからないんだよな。
 
『はっはー!ことは急を要するよ阿良々木君。ここまで力のたまり場ができると、この町に影響が出始めるのも時間の問題だ。もしかしたら阿良々木君はその影響の一端をもう見ているんじゃないのかい?ほら、くだんの強化人間とかそれっぽいじゃないか』

 強化人間。あの廃工場の不良たちにまとわりついていた黒い影である。あれもその影響だったのだろうか?忍はあそこにほどこされた結界はいわく素人仕事だと言っていた。

『素人仕事?そりゃぁ通常気にするようなもんじゃぁないよ。なぜなら機能しないからね。ただしだ、近くにこんな力の集合体があれば話は別だよ。はっはー!この町にはそういうやっつけのまじないの類ははいて捨てるほどあるだろうよ。これはなにも阿良々木君にも無関係な話じゃないんだ。だからってわけじゃないけど阿良々木君、ちょっと僕に手を貸してはくれないかな』

 意外な申し出だった。

「え、僕が、か?」

『何も大したことをお願いしようってわけじゃないよ。何せ僕は急いでるんだよ。さっきもいったけどね。今は猫の手でも借りたいのさ。そもそもこれは君の町のことだぜ?ならむしろ君が一人で解決したっていいことなんだ』

 こいつの言い分はどこまでも軽薄だったが、忍野の言うことにも一理あるように思われる。
 
「くそっ、わかったよ!じゃぁそれが終わったら火憐ちゃんの足取りの捜査にも協力しろよ!」

 しぶしぶだが承諾せざるをえない。
 この町があの廃工場の不良のような人間であふれかえるのはごめんだった。
 
『うん?そりゃぁ無理な相談だよ阿良々木君。まぁニ、三アドバイスくらいはできるかもしれないけどね。繰り返すけど僕は急がなきゃならないのさ。それじゃぁあとはメールで連絡するから、携帯電話の電池は十分あるかい?今から裏山の言われた場所まで移動してくれ』

 言って電話は切れてしまった。ていうかということは神原は連れて行くってことか?
 忍野はたいしたことじゃないっていってたけど本当に大丈夫なんだろうな。
 
 プルルルル、プルルルル
 
 着信音。しかし僕の携帯じゃない。見ると戦場ヶ原が携帯電話を取り出して彼女の耳におしあてていた。

「はい、ええそうです。」

 どうやらまたしても忍野かららしい。
 戦場ヶ原に僕についてきちゃいけないと念を押してるらしかった。
 戦場ヶ原は最初抵抗していたようだが、彼女はやつに精神的な借りがあることもあってか最終的には承諾した。

「ああ、あと阿良々木君、忍野さんから言づてよ」

 戦場ヶ原がこっちを見て続けた。目がやさしく笑っている。ちょっとめずらしい表情だった。

「久しぶりにあうのだから、阿良々木君の秘蔵コレクションを持ってきてほしいらしいわよ。女子高生のパンチラ写真集なんかいいね、だって」

 戦場ヶ原のすずやかな声にとたんに僕の体がにわかに硬直し青ざめてしまう、気持ち冷や汗までかいてきた。
 あの野郎、戦場ヶ原になに注文させてるんだ!
 戦場ヶ原は携帯電話を切ると、笑った目のままで僕を見て言った。
 
「あららぎ君。私のパンツ、見る?」



-----------------------------



 ガハラさんとちょっとしたすったもんだがあった後、僕は一人で裏山に入り、
 忍野からのメールに言われるままに林に入って獣道を進み、
 小さな鳥居のようなものがある野原の石の上に腰を下ろしていた。
 
「いいわ、あららぎ君。次会うときはいままでの私じゃないわよ」

 それが去り際のガハラさんの捨てセリフだった。
 
「ドぎつい黒レースのパンツをはいておくわ」

 どんな捨てセリフだよ…しかもどうせ見せてくれないんだろうなぁ。いや、別に見たいわけではない。見たいけど。別にパンツが好きで戦場ヶ原といるというわけではないのだし。好きだけど。

『はっはー!悪いね阿良々木君。指定した場所にはついたかい?あとパンチラ写真集は持ってきてくれたかな?』

「うるせぇよ、持ってきてるわけないだろ。それで次は何をすればいいんだ?」

『とんがってるなぁあららぎ君は。何かいいことでもあったのかい?はっはー!それにしても写真集を受け取る時間もどうやらないらしいよ。とりあえず忍にいくらか血を吸わせてやっておいてくれるかい?』

「なっ、危ないことはないって言ってたじゃないか」

思わず驚いた声が出てしまった。
携帯電話から忍野が忍といったのを聞いたのか、石に座る僕の影から
ひょっこりと忍が顔を出した。長い金髪の8歳の幼女の姿である。
元吸血鬼のこの幼女が僕の血を吸うと、吸った量だけ僕は吸血鬼に近づく。
それが必要になるということは、どう考えてもこれから危ないことをしようとしているとしか思えない。

『いやーごめんごめん。あれは嘘だよ阿良々木。というか言葉のあやといったほうがいいだろうね。まぁまぁ、町のために体を張るなんてカッコイイじゃないか、きっと君たちのためにもいいハズさ、といっても実際どっちに出るかはわからないからね。もしかしたら無駄骨になるかもしれないよ』

 無駄骨?どういうことかと思っているうちに忍野が説明を続けた。
 
『力のふきだまりをどう鎮めるかってことなんだけど、今回はシンプルに退治することにしたんだよ。つまり力を凝縮して具現化させようって腹さ、でもそこで問題がひとつあって、どんなにしぼってもその出現場所が2箇所になっちまう』

「ああそれで、つまり忍野がいる場所にそれが出たら忍野がそれをやる、僕のところに出たら僕がやるってことでいいんだな?」

『ものわかりがいいね阿良々木君。こういうときには君はやけに往生際がいい。それじゃぁそういうことだから、もう少ししたら始めるよ。それじゃよろしくちゃん』

 そういって電話は切れてしまった。相変わらずいい加減なやつだ。やることはきっちりこなすやつではあるが、それ以外は本当に適当だった。
 とりあえず忍を呼ぶ。
 
「なんじゃおまえさま?またあの男に使われておるのか?かかか。難儀じゃのう」

 忍は言って、カラカラ笑った。
 確かに、そう思ってため息がでた。

「まったくだよ。とはいえ、今回はこっちのために忍野が動いてるってことだから、まぁ仕方ないといえば仕方ないよ。とりあえず何が出るのか言ってなかったし、いつ出るのか、こっちに出るのかってのもアバウトだったから、一応僕の血を吸っておいてくれ」

 僕がそういうと忍は石に座る僕のひざによじ登り、だっこする格好になると、そのまま僕の首筋にかじりついた。
 噛み付いて、そのまま吸い上げる。すると僕の首筋からスルスルと血液が抜かれていき、忍はそれをコクコクと嚥下していった。
 次第に血液が沸騰するように熱くなり、目が少しずつ赤らんでいくのがわかった。
 
「忍、あまり吸いすぎないでくれよ。血液の回復にも時間がかかるからな」

 いいながら、血を吸う忍の背中をさすってやる。
 そうすると忍はせかされたようにさらに吸引を強めるのだった。しまった、逆効果だったか?

「ぷはっ、ご馳走様。この程度すうておけば、まぁよいじゃろ」

 忍が言って、僕の首筋から口をはなすとそのままピョンっと飛んで地面に降りた。
 こいつ結局吸血できる最大量の1/3は吸いやがった。育ち盛りかお前は。
 いやまぁ見た目は8歳のそれだから育ち盛りの年頃ではあるのだが。
 いくら血をすわせても忍が身体的な成長を見せることはない。生命維持のための食事なのだ。
 
「すまんかったのう。つい吸いすぎてしもうたわい。しかしこれは、どうかのう。もしかすると吸い足りなかったかもしれぬぞお前様よ」 

 忍が幼い視線を横に向けた。
 どうやら「当たり」を引いたらしかった。
 あのとき廃工場で見た不良の肩から湧き上がる黒い影、
 それが小さな鳥居の周囲から沸きあがり、次第に黒い人型を形成しはじめていた。
 
「お、おいおい。こんなに出るなんて聞いてねぇぞ…」

 黒い人影はひとつ、ふたつ、どんどん増えている。

「お、おい忍。逃げるぞ」

「おぉ、逃げるのかおまえさまよ。ふむ、まぁ妥当な判断じゃろうな」

 忍が僕に手を伸ばして、僕が抱きかかえる、
 その間にも、最初に出てきた黒い人影が、ゆらりと揺れると、
 はねるようにこちらにダッシュしてきた。

「お、うわああぁぁぁぁああ!?」

反射的に岩から立ち上がって横っ飛びした。
黒い人影が振り上げていた右拳がさっきまで僕がいた場所に振り下ろされる。

バキィ

炸裂音がして、僕が座っていた岩が真っ二つに爆発するように砕き割られた。
忍野め、あのアロハシャツ野郎、やってくれやがった!

「ちょっとシャレになんねーよ!」

見ると出てきた黒い人影は全部で8体はいた。
岩を割った黒い人影の横から2体の人型が腕を振り回しながら走ってくる。
正直めちゃくちゃ恐い。

「いいいぃぃぃぃ!!?」

人型が拳を横にふりかぶり、僕の頭に全力で、おそらくだけど、振りぬいてきた。
吸血鬼の超反射でしゃがんでかわす。
次に上から降ってきた拳を横っ飛びでかわした。

そのときには三体目の人型が放っていた横なぎの拳を
上にジャンプして空中で回転し、後方に着地してかわした。

吸血鬼の身体能力はどうやら健在である。

ブシュッ!!

破裂音、前言撤回しておく。
どうやらさっきの攻撃で肩にかすったらしく、
それでも僕の左肩から鮮血が噴き出していた。

「おーおー、もったいないのう」

僕に抱きかかえられた忍がものほしそうに言った。
なんで楽しそうなんだよお前。

前を向くと、今度は黒い人型が8体全部、腕を振り回しながらこちらに走ってきていた。

「無理だこんなの!逃げるぞ!!」

そう叫んでくるりと振り返ると、
一目散に走り出した。


吸血鬼の筋力で、走る。
あんな化け物8体も相手にできるかっつーの。
後ろを振り向くと、あいつら全員僕を追ってきていた。
これはやばいな。
しかし同時に、よかったとも思う。
あんなのが町に下りていかなくてよかった。
もしそんなことになってたらと思うとそちらのほうが身の毛がよだつ思いだった。

走る。走る。
裏山の森の木々が前から後ろへと高速ですぎさっていった。

「おーおー、逃げっぷりは堂に入っておるのうおまえさまよ。しかしどうするのじゃ?このままでは埒があかんではないか?」

具体的な方策はなかった。
後ろからバキバキと木がなぎたおされる音が聞こえる。
あいつら木をなぎたおしながら追ってきてやがる。
とりあえずこのくそ広い裏山のどこかにいる忍野が自分を見つけてくれることにでも期待しようか。
忍野の野郎逃げてないだろうな…

「ふーむ、しかしお前さまよ。このままではおまえさまはあの影どもに殺されてしまうのではないかの?」

「そ、そうかもな。とりあえずは幸運を期待するよ」

忍は僕の苦し紛れの発言を聞いてカカカと笑った。

「カカッ、こんな状況にはまっておいて幸運も何もあるものか」

まったくその通りだよ。
でもあれを町にまでいかせるわけにはいかないし、とりあえずは逃げ回るしかない。

「仕方ないのうおまえさま。おまえさまにしなれてはわしも困る。あれらはわしが片付けることにしようかの」

走る僕の腕に抱かれた幼女が言った。
その顔は笑っていた。忍のとがった歯がヌラヌラ光っている。

「片付けるって、どうするんだよ!?いっとくけどお前の身体能力は8歳児のそれなんだぜ?
小学生レベルの身体能力でどうしようっていうんだ」

すると忍はまたしてもカカカと笑った。

「カカカ、お前様よ、早合点をするでない。まぁこれだけの力の場がたまっておれば、一回くらい使えるじゃろう」

そういった忍は、この山全体を見回した。

「よしお前さま、わしをおろせ」

むちゃくちゃな注文だった。それじゃ殺されてしまうだけだ。

「あとはおまえさまよ。ちょっと時間を稼いでくれ、これを使うのには時間がかかるのじゃ」

重ねて無茶をいいやがる。
走る僕の腕の中で忍が続けた。

「それしかあるまいて、おまえさま。わしらが死んだら次は街のものどもが餌食になるのじゃぞ?それを思えば少し時間を稼ぐことぐらいなんてことはあるまいて」

 言われて、走りながら考える。
 後ろからはなおも黒い人型が8体全部こっちに全力疾走中だった。
 
「くそっ!わかったよ!」

そういって忍を前方に放り投げると忍は空中でくるりとまわり、
後ろの黒い人型たちのほうを向いてストンと地面に着地すると、
両手を忍の体の前方に組んでなにやら集中しはじめた。

僕もそれを見るとすぐ反転してこっちに走ってくる8体の人型に走った。

「早くしろよ!僕が死ぬ前にな!!」

叫んで、黒い人型に走る。
一番先頭の黒い人型に狙いをつけて、
走りながら腕を振りかぶり、
こちらに走ってくる人型の頭部に全力でたたきつけた。

人型の上半身が衝撃でそりかえる。
吸血鬼の身体能力を乗せたカウンターの一撃だった。

が、しかしその人型は霧散もすることなく、
下に振りかぶった右腕を僕の胴体に叩き込んできた。

「うっ、ぶぁ…」

バキボキといやな音がする。
あきらかに骨の折れる音だった、

忍に1/3ほど血をすわせただけでは骨折の治癒も瞬間にというわけにはいかなかった。

砕けた腹をおさえて血をはきながらたたらを踏む僕に、
ほかの黒い影が殺到してきた。

黒い人影が降りかぶった右手が僕の頭部に振りぬかれる。

「ぐっ、ううぅうぅ」

うめいて左手を上げ、黒い右手をかかげた左手で受ける。

バキボキボキ

左腕がペシャンコにされ、威力が軽減された
拳が僕の頭部にめりこんで、
そのままふっとばされた。

10メートルほど近くの木につっこんで、木をひしゃげさせて体はとまった。

どうやら死んではいないようだ。

「うっ、うおおおおおおお!!!」

叫んで力を振り絞り、
こちらに走ってくる二体の黒い人型に走っていった。

僕に近いほうの人型が僕に右手で殴りかかってきた。
その手に左手を乗せ宙にういてそのまま右足で人型の頭部を蹴りつける。
同時にもう一体が滞空する僕の胴体を殴りにきている。くそいそがしい。
人型の頭部をけりつけた右足を今度は下に力をこめ、
もう一段階空中に浮いて渾身の右ストレートから逃れる。
あんなもんもらったら胴体が真っ二つになりそうだ。

とそのとき一体目の人型が下からアッパーを振り上げ
宙をまう僕の腹部に突き刺さった。

バァン!!と炸裂音がして僕の体がはるか上空に打ち上げられた。
遠くからこの光景を見るものがいれば思わずたまやと叫んでしまうかもしれない。
15メートルほどうちあげられて、
しこたま地面に打ち付けられる。

「カっ…カハッ…」

もはやバトル展開などというものではなかった、これでは一方的なリンチである。
地面に横たわりながら見上げると、8体の黒い人影がこちらに走ってきていた。
さすがに死を予感する。最後にガハラさんのどぎつい黒レースのパンツを拝みたかった。

「何かいかがわしいことを考えておるのうお前様」

なんだよ。死の間際の僕の願いを読むんじゃない。
血をはきながら忍のほうを見ると、
忍の前で合わせられた忍の両手のまわりに赤く輝く霧のようなものが漂い始めているのがわかった。

「久しぶりに使うからうまくいくとよいがのう」

忍と横たわる僕の前方からは黒い人型が8体、腕を振り回しながら全力疾走でこちらに走ってきていた。
見ると忍は赤く輝く霧に覆われて祈るようにあわせられた両手を、
短くさけんで迫る黒い人影のほうへむけた。

「カァッ!!」

その瞬間、忍の両手にただよう赤く輝く霧が前方の人型たちに疾走した。
その輝く霧は8体の人型たちに殺到すると、その体や手足を絡めとり、
まるで忍の腕から伸びた赤く輝く霧の縄が8体の人型をしばるかのように
すべての動きを一瞬に封じてしまっていた。

「ふーむ。どうやら成功したようじゃのう。この山に立ち込める力を使ってやっと使えた一回じゃ」

そういう忍の腕はまるで抵抗を受けるかのようにカタカタ震えている。

「さすがにこの体では縛封の制御も容易ではないのう。どれ、はようすうてしまおうか」

言って忍の瞳が赤く輝いた。
すると忍の両手から黒い人影までをただよう赤い霧がさらに輝き、
黒い人型をそのまますいつくすかのように、
人型たちの姿形がどんどんと小さくなり、やがて霧散してしまった。

「ふぅー。ご馳走さまじゃ」

忍は満足そうに言って、両手からあたりにただよう赤く輝く霧を両手に引き寄せると、
その霧は忍の両手に入るように消えていった。

そしてあたりには静寂だけが残った。
そして半死半生でヒューヒュー言う僕の息の音だけだ。

「ほれお前さまよ、すっきりと片付けてやったぞ。わしに何か言うことはないのか?」

僕は地面につっぷしながら虫の息で忍を見上げた。
忍はどうだといわんばかりに8歳児のドヤ顔で僕を見下ろしていた。

「ああ、ありがとう忍。助かったよ。あとでいくらでも頭をなでてやるよ」

そういうと忍の笑い声があたりに響いた。

「カカカカ、よいよい。おまえさまよ、わしとお前さまは一心同体じゃ。この程度のこと物の数でもあるまいよ」

ただしあとで頭はしっかりなでてもらうがのう、と付け加える。
しばらくして僕の傷が吸血鬼の治癒力でもって治りきったころに、
それを待っていたかというタイミングで携帯電話がなった。

「はい。阿良々木です」

『はっはー!あららぎく~ん。どうやらうまくやったようじゃないか、いやーよかったよかった。一時はどうなることかと思ったよ』

「おいてめぇ忍野。やってくれたな。危うく死ぬところだったんだぞ僕は」

『どうしたんだいあららぎ君。何かいいことでもあったのかい?』

 あいにくお世辞にもいいことがあったとはいえない。
 
『でもよかったじゃないか、これであららぎ君の言うところの素人仕事のまじないが本当に効力をもつなんてこともなくなるわけさ。僕も安心してまたよそにいけるってもんだ。あー、いいいい。今回のことはサービスってことにしとくよ』

「なんで僕がこのことでお前にお礼を言いたい感じになってんだよ。ほかになにかやりようがあったんじゃないか?」

『ん?そりゃぁないことはないさ、そりゃそうだろう?やり方っていうのは二つ三つ、それどころか十も百もあった。でもそれだとかかる金額も違ってくるしエコに越したことはないだろうと思うんだよ僕は』

「おかげで僕が地球のサイクルに組み込まれるところだったわ!」

『はっはっは、元気そうで何よりだよあららぎ君。まぁそれでお礼といっちゃなんなんだけど、気になったことをいくつか話しておこうと思うんだ』

「ああ、そのことだよ。それって火燐ちゃんのことや金光鳥って怪異のことか?」

『それだけじゃぁないけどだいたいそんなところさ。繰り返しになるけど、僕はすぐに戻らなくちゃならないんだ、それにだ。もし金光鳥が人と同化してるってことなら、それについてあまり突っ込んだことはいえない。それはフェアじゃぁないからね』

 そういえばこいつはこういうやつだった。
 
『さすがに裏山の力のたまり方がすさまじかったよ。忍がこの町に来たとき以来じゃないかな。それにさっきのあららぎ君の口ぶりからすると、もしかして金光鳥がこの町に来てるのかな?だとしたらえらく珍しいことだね。デズニーランドが日本にできるくらい珍しいよ』

「都合よくなまってるんじゃねぇよ。大体それは実際に日本にあるから例としてわかりにくいだろ。その金光鳥って怪異はどんなものなんだ?あと火憐ちゃんが4日前から行方知れずなんだよ。それについて何か思うことはないか?」

『はっはー!せっかちだなぁあららぎ君は。それじゃぁ女の子に嫌われちゃうよ~?』

「余計なお世話だ。時間がないんだろう?さっさと話を進めてくれ」

 第一忍野が使ってるのは神原の携帯だしな。ちゃんと通話料払うんだろうなこいつ。

『ああそうだったそうだった。妹ちゃんの失踪についてはちょっと見当がつかないね、わからないってことじゃなくて候補が多いんだよ。それはあららぎ君のほうでがんばってくれ』

「候補が多い?」

どういうことだ?もしかして人攫い集団でもできたのか?
ていうかそれじゃぁ警察沙汰だぞ。

『まぁおそらくだけど命に別状はないと思うよ。いずれにしても無為に傷つけられるようなことはないだろう』

「ああ、それならひとまずは安心だ。忍野、その金光鳥って怪異のことも教えておいてくれ」

『そうがっつくなよあららぎ君、もしかして欲求不満なのかい?そうだね。金光鳥っていうのは』

忍野が金光鳥なる怪異について説明を始める。
つまりはあの廃工場での怪現象のことである。

『最初にいったとおり西洋の怪異だよ。あっち風にいうなら精霊といったほうがいいのかな。洋名はヴィゾープニル。太古に世界樹の頂上で世界を照らしていたといわれる光の鳥さ。僕なら絶対に相手取りたくはないね。金光鳥、ヴィゾープニルは世界を照らす光の鳥という伝承どおり、光の概念の怪異だ。その移動速度はまさに光速なんだよ。もちろんそれを宿した人間もそうだ。だってそうだろう?光の速度で動ける人間なんてどう考えても相手にしたくないよ』

 そりゃもっともだ。Mrマンハッタンもビックリだ。
 ということは、廃工場のアレは、おそらく、つまりそういうことだったのだ。
 20人の不良がとびかかってくるのと同時に、瞬間にして、光の速度で殴打したのだ、一人一人を、一瞬にして。だから僕の目には瞬間に不良が全員爆発したように吹き飛ばされたふうに見えたのだ。

『これは人によって解釈が異なるだろうけど、世界七大怪異のひとつといってもいいと思うね、ほかには黒魔王とか鷹揚木や六魂幡なんかがいるけど、まぁそこらへんはどうでもいいか、それとその頂点にはハートアンダーブレード、つまり吸血鬼がいたわけだけど、今はその面影もないね。おっと話がそれちまった。でも金光鳥が人につくなんてめったにないはずだぜ。それこそよほどの立ち場のある人間にしか興味をしめさないからね』

 そういうものなのか。でもそれならおそらく最初から条件を満たしていたのだろう。
 
『金光鳥は金咬鳥なのさ、価値あるものへの欲求がえらく強い怪異だ。それに金光鳥は人の魂や記憶までからめとるからね。やっかい、というかえらく難しい怪異だよ』

「ふぅん。確かにただごとじゃない感じはしてたよ」

『はっはー!まるで見て来た様な物言いじゃないか。まぁそうだな、もし金光鳥と同化した人間にあって、その人間の目が金色に光ったら、注意するといいよ。それはその人間の中で金光鳥がある程度以上強い位置をしめている証拠だ。対応を誤ると、あららぎ君』

忍野は最後に、えらく軽快に、軽薄に、ひょうきんに言った。

『そうじゃないと、あららぎ君。奴隷にされちまうぜ』



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