第11艦隊、通常の一個艦隊の四分の一以下に過ぎぬ弱小艦隊は
新たなる戦いへ向け、ただ準備に勤しんでいた
■最高のスタッフゥー■
参謀長アッテンボローが選んだ艦隊首脳陣は、能力重視で選抜され
各分野におけるスペシャリストが集められていた。
【艦隊運用を担う副司令官キーゼッツ大佐】
航路担当士官あがりで何度か小艦隊を指揮した経験もあり、
艦隊の運用手腕には定評のある人物だが、度重なる戦傷によって
武勲を掴み損ねることが多く、将官への昇進を逃している不運な男でも有る
また、かつてはヘインの上官として戦場を共にした経験も有している。
【旗艦通信士官E・コクドー大尉】
優秀な通信士官でもあり、危機対応能力も非常に高い士官
芸達者なことでも知られているが、お人形遊びが趣味という
危ない一面を持った少し危険な香りがする男である。
【旗艦艦長ヴァイト少佐】
操船技術以上に気持ちの篭ったファイトで勇名を馳せる名艦長
査閲部から副業の嫌疑がかけられているが、決定的な証拠がなく
正式な処分等はされていない模様
■■
うん、『どうだ!』って感じでリスト出されても・・・
いや、確かにアッテンボローに丸投げしたけど
『なんだ、能力なら軍内部でも折り紙つきの優秀な奴等だぞ?
確かに性格や趣向、経歴等に少々の問題はあるかもしれんが、
急増の新設艦隊が集められるスタッフとしてはこれ以上の奴等はないぞ』
わかったよ・・どうせ俺みたいなぽっと出の若造の下に配属される奴は
なにかしら問題がある奴しかいないって言いたいんだろ?
『まぁ、そんな所だな。そうそう副官人事くらいはお前がやってくれよ
こればっかりは相性ってもんがあるし、勝手に決めるわけには如何からな』
あぁ、そうだな流石に全部やってもらったら悪いからな
といってももう候補は決まってるけどな
迷う事無くグリンヒール中尉で決まりだろう?
『あぁ、そりゃ駄目だ。言ってなかったか?中尉には艦隊後方士官として
彼女には補給等を主に艦隊運営面を担当してもらう事になっているからな』
■お節介な親友■
『准将はこれでアンネリーを副官に選んでくれるでしょうか?』
「さて、どうなるかは半々って所だと俺は思うがね」
ヘインが部屋を出て行ったあとに程なくして現れたフレデリカは
もう一方の共犯者たるアッテンボローに首尾を確認していた。
『はぁ、准将ってそういう方面では物凄く鈍感そうな気がして
なんだかとっても不安ですわ・・上手く行ってくれるといいのですが』
「その点の心配はないな。中尉はまだ付合いが短いから分からんかもしれんが
鈍そうな外見に反して、アイツはどっちかって言うとそっち方面の勘は鋭い方だ
アンネリーが自分に好意を持っていることには、とっくに気付いているだろうよ」
フレデリカはヘインが自分にアンネリーから寄せられている好意に
全く気が付いてないのではないか?と危惧していたのだが
アッテンボローの見立ては彼女とは異なった。
そして、彼の見解の方が正しい答えであった
そう、ヘインは自分に寄せられる想いに気付いていたし、出来ることなら自分の方から
『スキすき大好き~!』ってルパンダイブをかましたい位であった
だが、アンネリーいい子だったのだが、兄上がまずかった・・・
さすがのヘインもフォークの妹である事を考えると
迂闊に虎穴に飛び込む気にはなれなかった。
お節介な親友達の手助けを得ても二人の関係は容易に行きそうには無かった
■副官人事■
う~ん、副官どうすっかな?フレデリカちゃんでいいやって思ってたからな
正直、だれにするか全く見当がつかないな
よし!こういうときはキャゼルヌ先輩に聞いてみよう!
■■
『それで、お前さんは自分の副官すら満足に選べず、他人任せにしようと
このどこからみても忙しい俺のところにノコノコとやってきた訳か?』
いや~キャゼルヌ先輩、その目の周りの隈スポーツ選手が
墨塗ってるみたいでなんかかっこいいですね、なんちゃって・・ハハッハハ・・
いや、俺ちょっと急用思い出したんで帰ります!!
『ヘイン』 はい!
『この士官リストを持って行け、多少の参考にはなるだろう』
流石キャゼルヌ先輩!!ちょっと惚れちゃいそうですよ
『わかったから、とっとといって決めてこい』
■■
『で、アッテンボロー、お前に頼まれたリストを渡したが
一体なにが目的だ?お前が決めれば済んだ話じゃないのか?』
「いや、それじゃ意味が無いんですよ。今回の場合はアイツに選ばせないとね」
『やれやれ、なにを企んでいるかは知らんが、当然報酬の中には
その目的や結果を教えるといった項目は入っているんだろうな?』
「ええ、勿論ですよキャゼルヌ先輩♪その報酬をお支払いする際には
ウィスキーの秘蔵の逸品を何点かを併せて用意させて頂きますんで
楽しみに待っていてください。もっとも少しばかり掛かりそうですが」
『構わん構わん。旨い酒といい結果を得るには、ゆっくりと熟成させる時間が要るからな』
とことんお節介なアッテンボローはヘインの行動を先読みして
キャゼルヌのところにも抜かりなく、仕込みをちゃんとしていた。
その意図的に作られたリストで、はずれを強制的に引かされ続けた
哀れなヘインは、統合作戦本部内をひたすら歩きまわさる破目になっていたが。
■■
なんだよ!このリストの奴らみんな異動不可で駄目な奴ばっかじゃないかよ
もうどんだけビル内部をぐるぐるまわったか分からなくなって来たぞ
まぁいい、この最後の戦略研究2課勤務の中尉に断られたら
キャゼルヌの野郎にドロップキックしに行こう。
コイツだけ写真も名前も載ってないところがあやしさ爆発だけど
ここまできたら一応コンプしてやろうじゃないか
『あれ、准将こんなところまでどうしたんですかー?』
アンネリーか、この疲れた俺にはその笑顔は眩しすぎるぜ!
『もう、何言ってるんですか。それで今日はどうしたんですか?』
いやちょっと人を探して戦略研究2課まで行こうと思ってね
『あ、そこわたしの所属じゃないですか!直ぐそこですからご案内しますよ』
悪いね。ついでにこのリストの人を副官に誘いに来たんで
ちょっと紹介してくれると助かるかな
『えっと、このぺージの人ですか・・・ふむふむ、えっ・・・♪♪・・・』
うん?どうかしたか?
『准将、嬉しいです・・本当に嬉しいです。わたし精一杯頑張ります
まずは副官としてですけど、准将のことを立派に支えて見せます!!』
あれ、ええと・・あっまぁ、よろしくお願いします???
■
予期せぬ抱きつき攻撃で見事撃沈したヘインは目出度く
アンネリーを副官に向かえて艦隊人事をコンプした。
この小さな艦隊メンバー達と過ごした時間は
ヘインにとって忘れ難い大切な、大切な物となるが
このときの彼は、そんな未来図を描がかれるとは全く予想だにしていなかった
■始まりのアスターテ■
宇宙暦796年、帝国暦487年の初頭
ラインハルトに率いられた帝国軍2万隻が同盟領内に侵攻し
同盟軍は4万3500隻の艦艇をもってその迎撃に当たろうとしていた。
■■
スクリーンに映された星の大海に包まれた艦橋に足を踏み入れた
キルヒアイスは、自身の忠誠の対象たる金髪の青年の下まで歩み寄り声をかけた
『閣下、星を見ておいでですか?』
「キルヒアイスか、少しな・・ところで何か用件があるのか?」
問い返されたキルヒアイスは頷くと、現状で分かる敵の動きについて報告を行う
叛乱軍が三つに別れて進軍し、自軍を包囲殲滅しようとして動いている
戦況図を敵艦隊との距離や兵力等をディスプレイに表示しながら
「よく分かった。では、まず数が少なく最も近い艦隊から片付けるとしようか」
■死せる水■
帝国軍との戦闘を行うにあたって
第2、第4、第6艦隊に加えて動員が決定された第11艦隊の
各艦隊首脳陣は帝国軍に対する迎撃作戦を立案するため
超光速回線を利用した作戦会議を一応は行っていた
やはり階級差の影響も大きく、会議におけるヘインやヤンの発言の効果はなく、
原作通りのダゴンの再現を狙う包囲殲滅作戦が採られることになり
ヘイン率いる第11艦隊は原作で2番目に各個撃破される
第6艦隊の支援として行動を共にすることが決定されてしまう。
こうして原作通りにことは推移し、第四艦隊が敵の奇襲にあったとの報せが
作戦開始後程なく、残りの艦隊司令官のもとへと届くことになる
死への恐怖と絶望感でヘインの頭はもう沸騰しちゃいそうであった
■■
まずい、まずいぞ!このままじゃラップ先輩と一緒にムーアの野郎と仲良くあの世行きだ!
とにかく、ムーア中将をラップ先輩と一緒に説得しよう
それでその後どうすればいいかはラップ先輩とかに考えて貰おう
ラップなら、そうラップ先輩なら何とかしてくれる!
まず、ムーアの野郎の所にいって、ラップ先輩の力を借りよう。
「E・コクドー大尉、第六艦隊旗艦に回線を繋いでくれ
緊急事態に付き至急そちらにシャトルで行くと送ってくれ」
■
戦力の分散をとめる事が出来なかったヘインは
第六艦隊と仲良く心中することだけは避けようと、ヤンお墨付きのラップの将器に縋り
共同でムーア中将の説得に当たることを決意し、即実行に移したのだが
この決断は、より大きな絶望をヘインに与える事になる
そう第六艦隊ムーア中将は、中将は・・・半端なかったのだ
■■
『ウヒョヒョヒョヒョ・・若造がこのムーア様になんのようだ』
これは予想外です。なんかムーアの野郎が丸い球体に入ってうっ、浮いてます・・・
とっとりあえず話を進めようかな・・このさい細かいこと?は無視した方がいいよね
そうだ!まずはこの先生きのこることを最優先に考えるべきだ
では、『ラップ先生』後はお願いします!!
『現在我々は危機的状況にあります。兵力分散の愚を犯し、それを敵に見事に突かれました
この上は、速やかに第二艦隊と合流し、敵より多い兵力を急ぎ揃えることが先決と考えます』
『うひょひょひょひょ、そんなことはせずとも良い。貴様達はバうモス様に任された、
わしに従って行動しておればよいのだ!第四艦隊がやすやすと敗退などしておらぬわ』
『では閣下、小規模で小回りが利く第11艦隊を遊撃艦隊に戻し
その自由な裁量権と行動力によって不測の事態に当たらせるべきです』
『うるさいゴミどもめ!そこまで言うなら勝手に行動しろ
死せる水を飲まされたくなければ、とっとと出て行け!』
■さよなら、先輩・・・・■
「すみませんラップ先輩、なんか司令官との関係悪くしちゃって」
『なに気にするな。俺はお前の予測の方が正しいと思ったから
進言をしただけだ。お前に頼まれなくても自分で行っていたろうよ』
「でも、敢えてムーアを怒らせて俺たちを第6艦隊から離れれるようにしてくれて・・
そうだ、ラップ先輩も一緒に行きましょう!とりあえず数の多い第二艦隊方面へ・・」
『いいんだ・・へイン、お前達だけでもヤンのいる第二艦隊と合流して最悪の事態に備えてくれ
それに、まだ第四艦隊がやられたと決まったわけじゃない。もしかしたら杞憂かもしれんさ』
なに言ってんだよこの人は、俺なんかより頭良くてすごくて
自分がどんなにやばい状況下分かってるはずなのに
ジェシカだってハイネセンで待ってるのに
なんで死ぬかもしれない場所に平気で留まっていられるんだよ!!
なに笑って、俺なんかに気なんか使ってるんですか・・・
『それに、参謀が司令官を見捨てて逃げたら、兵士はどうすればいい?
兵士を、同僚を置いて俺だけがお前と一緒に行く訳にはいかないだろう?』
「先輩一緒に行きましょう、司令官だって勝手にしろって言ったじゃないですか!
ジェシカだって、少しでも安全な所にいて欲しいって思ってますよ!!一緒に・・・」
■
再度、一緒に行こうと懇願する後輩に対し、ラップは首を縦に振る事無く
ただやさしく、それでいて力強く参謀たる者の役目を説いた
最悪の事態を少しでもよくするために、最後まで司令官の傍で
自らが最良と思う作戦を立案し続ける、それが参謀だ・・と
そうして、少しでも多くの兵士を故郷に帰す方法を考えるのが自分の仕事だと
ジャン・ロベール・ラップはあるがままに運命を受容れている
ヘインの目にはそう映り、更なる説得を断念して失意の内に旗艦へと戻った
後ろに回された彼の手の震えに気が付くことなく・・・・
■司令官のお仕事■
ムーアの説得だけでなく、ラップへの説得も不調に終わったため
ヘインはらしくない暗い表情で、艦橋の指揮シートに座り込んでいた
自らの保身と安全を考えるならばラップの勧めは渡りに船であるはずなのだが
同い年でもあり、士官学校在学時代からの友人ジェシカの婚約者でもあり
良き先輩であるラップのことを見捨てる決断がどうしても下せないでいた。
また、ラップを失ったジェシカが辿る道を知っているが故に
ヘインの後ろ髪をより強く引いていた
死にたくはないが、最悪の結末は見たくない
ただ、それを整合させる才能がヘインには決定的に欠けていた
そう、己の能力で先を読み変えることもできるヤンとは違うのだ
だが、罪悪感と希望的観測という最悪なトッピングが
ただ知っているだけの凡人に無謀な選択をさせようとしていた。
■■
そうだ、いいこと思いついた!とりあえず少しだけ第6艦隊から離れて
奇襲を仕掛けてきた帝国軍に、逆に伏兵攻撃してやればいいじゃん!
『ヘイン・・・』
そうだよなアッテンボロー、これで第六艦隊もラップ先輩も助かるぞ
よし、さっそくキーゼッツ大佐にいってこよう。忙しくなるぞ
あぁ、お前には逃げる振り作戦を頼もうかな?そうすりゃ更に助かる可能性が・・
『いい加減にしろ!!・・・お前は最初からこうなる事を予想していただろう
第四艦隊はやられて、次の標的は第六艦隊と俺たち第11艦隊になったんだよ
ラップ先輩にも言われたんだろ?ムーアの低脳が説得に応じなかった時点で
一番数の多い最後に残った第二艦隊と合流するのが、最も勝算が高い方法だと』
だけど、先輩を見捨てるなんて、それにジェシカも・・・
『そのためになら、他の犠牲者が増えても構わないのか?』
・・・・・・アッテンボロー、司令官なんて・・なるもんじゃないなぁ・・・
より勝算が高い方法を選び、より少ない犠牲で敵に勝利する
たしか、士官学校で習った良い司令官の条件だったよな
でもさ、その少ない犠牲に良い先輩がいて、その犠牲を悲しむ友人がいる場合もあるなんて
俺は習った記憶がないぞ?それとも居眠りしてる時に言ってたか?
「副司令官を呼んでくれ、第六艦隊撃破後の帝国軍の動きと
第二艦隊の艦隊移動を計算して、最適な合流方法を立案させる」
『了解しました。司令官閣下』
■
後背からの奇襲を受けた第六艦隊は壊滅的な打撃を受け
短時間の戦闘で約7割の艦艇を失い、戦闘不能状態に陥った。
その失われた艦艇リストには旗艦ペルガモンの名も刻まれていた。
■■
第六艦隊の無残ともいえる状況をスクリーンで見つめながら
ラインハルトは傘下の提督から戦況報告を受けていた
『敵艦隊はほぼ壊滅状態であり、戦闘不能とみて問題ありません』
「ご苦労メルカッツ大将、次は残りの敵の第三隊に向けて艦隊の針路を取る」
報告に対し、短く指令を出すと通信スクリーンを閉じた
ラインハルトの興味は既に倒した敵にはなく、
ここで倒すはずの消えた小艦隊に移っていた
『敵の第二隊から離脱した小艦隊の指揮官が分かりました。
ヘイン・フォン・ブジン准将が約3500隻を率いているようです』
「潜入作戦時に俺を追い詰め、ティアマトで味な事をしてくれた・・あの男か」
面白くなってきたとラインハルトは感じていた
正直なところ、同盟の二個艦隊を相手に完勝を収めたものの
あまりにも不甲斐ない相手に少々拍子抜けしていたのだ
『ラインハルト様、油断ならざる敵手がいるようですが、どうなさいますか?
わずかな犠牲で敵の二個艦隊を壊滅させ、武勲の方はもう充分と言えましょう』
「いや、この際、あの小癪な男もろとも敵の第三隊を撃破しておこう
いまの戦力と戦意があれば、完勝を望んでも欲張りすぎではないだろう?」
キルヒアイスの慎重論に、悪戯っぽい笑顔を見せながら答えたラインハルトは
完全なる勝利を得る意思を示すと、すぐさまその笑顔を消し去った。
既にその顔は新たな獲物を狙う黄金の獅子の顔に移り変わっていた
多くの犠牲を生み出したアスターテ会戦は遂に最終局面を迎える
・・・ヘイン・フォン・ブジン准将・・・銀河の小物がさらに一粒・・・・・
~END~