首都ハイネセンに降立った帰還兵に対する歓迎は
近年にないほど盛大なもので、間近に控えた選挙に対する
暫定政権の意気込みがそこから窺えた・・・
■捕虜帰還式典■
予定されている捕虜帰還式典に参加しないメンバーは
一足早くヤンやヘイン達と別れ、それぞれの目的地へと向かう
ポプランは数多くのガールフレンドとの義理を果たすため
ヴァイトは自給の良いアルバイト先へと向かう
また、リンツは結婚した姉夫婦の家へ、フレデリカは父親の待つ家へと向かう
虚ろな目をしたコーネフはというと両親と四人の弟妹の待つ家に
最高の笑顔を見せるイブリンと仲良く、久しぶりの帰省をする事になっていた
式典に出ないメンバー達も短いが忙しいハイネセンの滞在になりそうだった
■■
しかし、相変わらず政府主催の式典は豪勢だな
このなんか良く分からない肉料理なんか絶品だな
ほんと、酒も上手いし最高だよ。
『ヘインさん、あんまり飲みすぎないで下さい!あと、もう少し押さえてください
ちょっと、周りの視線が痛いです。恥ずかしいですから、ガッツかないで下さい!』
ふ~ん、さっきまでかわいいほっぺ膨らましてたのは
どこにいたお嬢さんだったかな~?『もう知りません!』
怒らせちゃったか・・・まぁ、今度お詫びにおいしいアイスクリームでも
ご馳走して機嫌を直して貰うとしましょうかね
■■
「あの可愛らしいお嬢さんには申し訳ないことをしたようだね」
なに、未来の議長殿を待たせる訳には行きませんから
彼女にはちゃんと埋め合わせはしますのでご心配なく
「それならばいいが、私も同盟軍が誇る名将と久しぶりに親交を深めたいと思ってね
式典パーティもそろそろお開きの時間だ。よければ、もう一件付き合って貰えるかね?」
よろこんでお付合いさせていただきますよ。
もっとも、あなたのお誘いを断れる人はこの同盟にはいませんが
「そうあって欲しいものだが・・・」
■
ヤンやユリアンが式典パーティを早々に抜け出したのとは対照的に
ヘインは積極的にトリューニヒトや国防委員長を始めとする
トリューニヒト派議員達と積極的に会食を愉しんだ。
医者や政治家に友達が多くて困ることは無いのだ
せっかく強力なコネが目の前に転がっているのに
手を出さずに指を咥えているマネはヘインには出来なかった。
決して名前の長い学長達とベロベロするお店に行きたかった訳ではない・・・かな?
■友が守ったもの・・・■
式典の翌日、ヘインはだらしなく昼過ぎまで眠りこけていたが
お腹に被保護者の猛烈なダイブを受け、強引に眠りの世界から呼び戻らされると
パンを口に咥えながら『遅刻、遅刻!』と呟きながら
慌てて統合作戦本部ビルを目指して駆け出す
統合作戦本部幕僚総監に加えて統合作戦本部次長を兼務することとなった
ウランフ大将との会談予定時刻はとっくに過ぎていた。
■■
『相変わらずのようだなヘイン・・まぁ、息災そうで何よりだ』
執務室に飛び込んできた若年の同僚を苦笑い交じりに迎えた
勇将の力強い言葉に比して、その顔色はそれほど良くなかった。
その様が、ウランフの置かれる状況の厳しさをより際立たせているように見えた
「旦那の方は苦労しているみたいだな・・・そんなに悪いのか?」
『お前に隠しても仕方があるまい。軍の・・いや、この国は最悪の未来へ
向かおうとしている。それを腐りきった政治屋や軍高官達は知ろうともしない』
帝国領侵攻作戦で被った傷は同盟にとって
致命傷になりかねないほど大きく、すでに慢性的な戦争状態によって
国家の基盤が揺らぎ始めていた所へ止めの一撃となっていた
「まぁ、悲観しててもしょうがないし、なんとか頼みますよ
こんな時にどっかの馬鹿が何かしでかしたら、終わりですから」
『分かってはいる。だがなヘイン、俺もときどき思わずにはおれぬのだ
ボロディンは何のために死んだのか、今の体制のままでよいのかとな』
沈黙がその場を支配し、どちらも目を逸らすことはなく
ただ静かに次の相手の言葉を待つ
『まぁ、他ならぬお前の頼みだ。善処するとしよう
根は広く深く伸びていて断ち切るには苦労しそうだが』
「やっぱ伸びてたんですか・・・、イゼルローンに行く前に頼んどいて良かった」
沈黙を破りニヤリと笑って頼もしい返答にヘインは胸を撫で下ろし思わず本音を吐いた。
ウランフは以前の依頼を守って、根の広がりと深さを掴んでいていくれたのだ。
『余り過剰な期待をするな。まだ尻尾を掴んだ訳ではないぞ
あくまで、動きと範囲の目測が立っただけに過ぎん
まだ、どちらにどう転ぶのかもはっきりとせんのだからな』
「分かってますって♪いや~それにしても流石はウランフ幕僚総監殿、仕事が速い!えらい!」
■
ウランフとの会談を終えたヘインはスキップをしそうなぐらい陽気さで統合作戦本部を後にする
なんとか原作の流れを変える目処が立ったのだから、それも無理も無いことであった。
一方、要塞赴任以前にヘインが動いていることを当然知らないヤンは
宇宙艦隊司令長官ビュコック大将に近い将来起こるであろう
叛乱を未然に防ぐことを依頼すると共にある物の手配を依頼していた。
■二人の女神・・・■
ウランフとの会談を終えたヘインはナカノ・マコをフレデリカに預けると
ハイネセンの中心街にある小さな喫茶店に足を運ぶ
会わなければいけない女性と話をするため
■■
『久しぶりねブジン大将、大層ご活躍なさっているようね』
「いきなりトゲトゲしいなぁ・・・」
まぁ、無理も無いか。かたや反戦派の聖女と言われる女評議員に
政治屋代表の暫定議長ベッタリの戦争屋だからな
友好的にしようっていう方が無理な話だ・・
「まぁ、お互い忙しい身だからな単刀直入に話させて貰うかな
ジェシカ、評議員なんか辞めて田舎に帰れ。それが一番いい」
『ふん、呆れて物もいえないわ。突然呼びつけたと思ったら
評議員をやめろ?思い上がるのもいいかげにしたらどうなの!』
まぁ、いきなりこんなこといわれりゃ怒るよな
だけど、もしクーデターが起きたら、
ジェシカは『スタジアムの虐殺』で命を落とすかもしれない
「憂国騎士団の襲撃は相変わらず続いてるんだろ?それに主戦過激派の
軍人からも睨まれている話も聞いてるんだ。危ないことはやめてくれ」
『危ないからやめろ?力が無い身を守れないものは黙っていろ
あなたのような考え方が、暴力で物事を解決させようとする
愚かな人々を増長させることに繋がるの!それが分からないの!』
「ちがう、俺はただお前のことが心配だから!ラップ先輩だって・・」
『あなたが!あなただけにはジャン・ロベールの名前を呼ばれたくない!!』
「・・・・すまん、失言だった。これは友人だった男からのお願いだ
ジェシカ、どうか自分の身を大事にしてくれ。無理だけはしないで」
『もう、行くわ。心配してくれてありがとう。さようなら・・・』
俺は臆病者だ・・・本当にジェシカを助けたいなら
グリーンヒル大将に直接会って説得でもするべきなんだろうけど
暗殺されるかもとビビッてウランフの旦那にチクる程度
決意が変わらないと分かっているジェシカを説得して
止めた形だけつくって『免罪符』にしようとする姑息さ
「まったく、なかなか上手く行かないな・・」
■■
『次、上手く行くように頑張れば良いじゃないですか
とりあえず、これで濡れた顔と頭を拭いてください
水も滴るいい男もいいですけど、風邪引いちゃいますよ』
ちょっと近すぎる所で待ち合わせたのは失敗だったな
待ち合わせまでの時間潰しのためにアンネリーが
ここによるって可能性を考えるべきだったな
「情け無いとこ見られちゃったな・・・」
『そんなこと無いですよ。それに、大将が情けなかったとしても
わたしはそれ以上にやさしい大将のことが大好きですから♪』
やっぱりアンネリーには敵わないな
ここまで、慕って信頼されたら足掻くしかなくなるだろ
ほんと、柄にもなく無理してもいいような気になってくるから困る
■
ジェシカに冷や水を浴びせられたヘインであったが
ヘインに会うために休暇を取ってハイネセンまで訪れた
アンネリーのおかげでいつもの調子を取り戻す事に成功する
その後は、二人一緒にふらふら街をぶらついて買い食いしたり
サスペンス映画を仲良く爆睡しながら見たりと
特に何かをする訳でもなくまったりと過す日々を
滞在期間と休暇が終わるまで続ける
しばらくぶりの心地よい日常であった
■休暇の終わり■
それぞれ思い思いの日々を過したメンバーは
イゼルローンへの帰路につくためハイネセン宇宙港に集まっていた
そのなかには好対照な表情を浮かべている二人組みもいれば
再びくる別れの時間を少しでも遅らそうと『襟が曲がっている』等々
理由をつけて世話を焼く女性の姿もあれば
ヴァイトは魂の叫びをあげ続け
周りの人間から奇異の目で見られるとともに空港職員に取り押さえられていた
個性的なメンバーの旅立ちに相応しい光景を見せていた。
■■
「閣下、アンネリーと離れるのはやはり寂しいですか?」
ああ、大尉と同じかそれ以上に寂しいと思ってる
『ふ~んヘインさん達はアツアツなんだ~、別に~いんですけど~』
なんだよ、マコちゃん機嫌悪いなぁ
ちゃんと、式典の時のお詫びはしただろ?
それに毎回毎回アイスばっかりバクバク食べてると太るぞ?
『もういです。ヘインさんなんか知りません』
なんだぁ、何急にプルプリしてるんだ?女の子の日か?・・・って大尉!!
ブラスターを額にグリグリするのは勘弁してください
冗談です!ホントスンマセン!悪乗りしすぎました。
「ほんとに閣下は・・・、彼女の気持ちちゃんとお分かりですよね?」
まぁ、お父さんが取られたみたいな感じがしてってやつだろ?
そう考えるとちょっと嬉しいな。少しは保護者として認めてくれたのかな?
「まぁ、当たらずも遠からずという所ですわ」
どんぴしゃじゃないのかぁ?まぁ、大尉がそういうならそうなんだろうけど
それじゃ、おしゃまなお嬢さんのご機嫌取りをしてくるんで失礼するよ
「閣下はきっと、良い父親になれますわ。彼女のことも大切にしてあげて下さい」
はいはい、ありがとさん
■
少し照れたような顔をする元上司を見送り終えると
フレデリカは一人溜息をついた。他人の世話を焼いている場合じゃないわと
彼女の受難の日々はもう少し続きそうであった。
こうして、騒がしくも平穏な帰路についた一行であったが
その平穏は唐突に終わりを迎えることになる
首都ハイネンでその終わりを告げる衝撃的な事件が起きたのだ
統合作戦本部長クブルスリー大将暗殺事件、その凶報は同盟中を震撼させた
■狂狼の牙■
統合作戦本部の最高幹部であるクブルスリーとウランフが
軍内部で蠢動する過激派に対する討議を秘密裏に行うため
統合作戦本部ビルの一階フロアに降り、別の場所へ向かおうとする時
刃渡り60cmを超す凶器を片手にもったある人物が猛然と彼らに襲い掛かる・・・
■■
統合作戦本部長クブルスリー大将、幕僚総監ウランフ大将・・・
この二人は、このアンドリュー・フォークが殺る!!
『ゴッガッ・フッ・・』『グッ・・・『本部長閣下!!ウランフ総監!!クソッ』
「やれやれ、仕込み杖は携帯には便利だが強度が無さ過ぎる。やはり刀は日本刀に限る・・」
『遅い!突かれる前に防がずしてなにが衛兵か!役立たずが共が!捕らえろ!』
「阿呆が、お前ら如きにこの俺の剣を止めることなどできん!」
『ぐはぁっ・・・』『相手の刀は折れてるんだぞ!!』『撃て!撃たんかぁ!!』
ふん、他愛無い・・・、この程度の力しか持たぬ者が本部の衛兵とは
「さて、小官はそろそろ失礼するとしましょう」
『追え!!逃がすな!捕らえろ!!』「増援を呼べ!!相手は折れた刀一本だぞ!!」
■
怒号が飛びかう統合作戦本部をアンドリュー・フォークは悠々と後にする
その剣腕は士官学校時代から些かも衰えてはいなかった。
大きな挫折と屈辱による敗北が、フォークの隠れた牙を表に出させたのだろうか・・・
統合作戦本部長クブルスリー大将はほぼ即死だった
そして、立て続けに折れた刀で腹部を抉られたウランフは
臓器の損傷出血の多さで意識不明の重体に陥り生死の境を彷徨
統合作戦本部の最高幹部僅か数秒の間に失われてしまったのだ
そして、彼等の危難によって掴みかけたはずの陰謀の鍵もまた失ってしまう
■
「やれやれ本部長は凶刃に斃れ、ウランフの意識も戻らぬか・・・」
最初にその凶報を受取ったビュコックは椅子から飛びあがるほど驚かされた
それほどの衝撃がこの報せにはあった
また、これで事件が終わるとはさすがに思えず
その事態の深刻さに剛直を持ってなる老提督も頭を抱えたくなっていた
『司令長官閣下、緊急の要件で国防委員長から通信が入っております』
ビュコックは短く頷くと通信を自分のもとへと回させる
統合作戦本部のトップが不在になったのだ。早急に代理を立てる必要があった
■
結局、臨時の本部長代行の座についたのはドーソン大将という
統合作戦本部次長の任についていた者であった
最初は、ビュコックに兼務と言う形で打診があったのだが
組織のトップを一人の者が兼務することによる独裁の危険性と
テロの対象を分散させるという目的も有って就任を固辞したためである。
一部にはヘインを推す声もあがったが、年齢が若すぎるということもあり
その案は残念ながら見送られることになる。
危機が迫る中、人望の無い男が軍のトップに立つ
この不本意な人事も合わさって同盟の危機は俄に大きくなっていくことになるのだが
それを止める術を凡人は果たして持っているのだろうか?
・・・ヘイン・フォン・ブジン大将・・・銀河の小物がさらに一粒・・・・・
~END~