昨日と同じ今日
今日と同じ明日
世界は繰り返し、同じ時を刻んで何も変わらない。
私がモテないのも、一人なのも、これからもずっとずっと。
やっと授業が全部終わって。
私,黒木智子は椅子から腰を上げた。
疲れた。
授業は別に苦じゃないけれど。
うちのクラスは本当にうるさい。
授業中は静かにするくせに、その反動で休み時間になると一斉に皆が会話をはじめる。
「おーい。今日カラオケ行こうぜ」
「ようし、じゃあ部活ない奴らに声かけとくわ」
……本当にうるさい。
毎日毎日ばか騒ぎばかりして。
学校は勉強しにくるとこなんだ。
必要以上に群れやがって。
いらだちを溜息といっしょに吐き出して教室を出る。
これ以上、同級生達のことを考えていたくない。
―どうせ私がカラオケに誘われることもないし―
そこまで考えて首を横に振った。
最後のは何だ。
まるで私がカラオケに行きたいみたいじゃないか。
誰が行くか、あんなうるさいところ。
そう、心の中で毒づき足を速めて教室を出た。
今日は本屋によってさっさと家に帰るんだ。
せっかくだしこれから買いに行くライトノベルの内容で妄想でもしよう。
私は世界有数の超能力者で秘密機関のエージェントで小説のイケメン主人公と恋中で……。
校舎を出て空を見上げる。
夕暮れにもかかわらず太陽がやけに強く、手の甲で光をさえぎった。
きっと、こんな風にいつまでも光を拒絶して生きていくんだろうな私は。
明日も明後日もこれからもずっと。
無意識に暗いことを考えながら本屋へと向かう。
首を横に振って頭から現実を追いだした。
私は気がつかなかった。
昨日と今日は違うことに。
今日と明日は違うことに。
世界は繰り返し同じ時を刻んでいるように見えて、
じつはとっくに崩れ出していたことを。
そして、こんな灰色の青春でもそこまで悪くなかったことを。
この時の私は知らなかった。
知らなかったんだ。