第七話
クラス対抗戦から暫く。
俺は朝練の疲れから机に突っ伏している。
クラス対抗戦前日から、訓練には楯無先輩との模擬戦を取り入れている。
しかし、未だに一撃すら入れることが出来ない。
いや、むしろ攻撃しようとする事すら出来ない。
攻撃しようとした瞬間にカウンターを貰い、そのまま後は成す術なく攻撃を受け続け、シールドエネルギーをゼロまで持っていかれる。
なので、最近ではとりあえず攻撃する事はやめて、防御と回避に全力を注いでいる。
とは言っても、攻撃に2回対処するだけで精一杯だが。
最初は防御しようとしても、防御すら躱されてボコられた。
その時に比べれば、ちょっとは成長してると言える。
と、俺が物思いにふけっていると、いつの間にか一夏が教室にいて、女子と何やら話している。
そういえば、学年別トーナメントで如何とか、付き合えるとか何とか?
そんな噂話を女子がしていたのを偶々聞いた気がする。
原作の記憶も薄れているため、細かいところまで思い出せん。
主要な所は覚えてるんだがな。
近々男装したシャルロットと、ラウラが転校してくるとか、学年別トーナメントでラウラのISがVTシステムで暴走するとか。
まあ、元々俺は頭良くないんでしょうがないんだが。
と、山田先生と織斑先生が教室に入ってきたので体を起こす。
最初に織斑先生が今日からISの実践訓練をするという事を伝えると、すぐに山田先生と交代する。
なんていうか、織斑先生より山田先生の方が担任っぽいと思ってるのは俺だけだろうか?
「えぇっとですね。 今日は転校生を紹介します! しかも2人!」
「「「「「「えぇええええええええええええっ!!??」」」」」」
山田先生の言葉に、クラス中が声を上げる。
俺は特に反応しなかったが。
っていうか、あの2人が転校してくるのって今日だったのかよ。
すると、教室のドアが開いた。
「失礼します」
「……………」
入ってきた人物を見て、クラスのざわめきがピタリと止まる。
まあ、転校生の1人(の見た目)が男なのだから当然か。
俺はいつでも耳を塞げるように身構えておく。
「シャルル・デュノアです。 フランスからきました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
シャルロットもといシャルルがそう挨拶する。
「お、男…………?」
誰かが呟いた。
実際は女だがな。
「はい。 こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を……」
そろそろかと思い、俺は耳を塞ぐ。
その瞬間、
「「「「「きゃぁあああああああああああっ!!!!!」」」」」
凄まじい黄色い声がクラス中に響く。
耳塞いでもまだうるさい。
「男子! 2人目の男子!!」
「違うよ!? 無剣君いるから3人目だよ!?」
「ああ、いたわねそんな奴!」
「でもうちのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれてよかった~~~~!」
オイ最初と3番目。
俺はそこまで影薄いか?
まあ、どうでもいいが。
「あー、騒ぐな。 静かにしろ」
織斑先生が鬱陶しそうにぼやく。
「み、皆さんお静かに。 まだ自己紹介が終わってませんから~!」
山田先生が必死に叫ぶ。
で、その当の本人のラウラだが、
「…………………」
その本人は、先程から一言も喋っていない。
騒ぐクラスメイトを、腕を組んで下らなそうに見ているだけだ。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
織斑先生の一言で、いきなり佇まいを直した。
「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私の事は織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そう言うと、ラウラはクラスメイト達に向き直り、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
それだけ言って黙り込むラウラ。
「あ、あの………以上ですか?」
「以上だ」
一夏以上に短い自己紹介だな。
冷や汗を流す山田先生。
その時、ラウラと一夏の目が合った。
すると、
「ッ! 貴様が……」
ラウラがつかつかと一夏の前まで歩いていき、
――バシンッ
一夏の頬に平手を見舞った。
うわ、痛そう。
「う?」
一夏は何が起きたのかわかってなさそうな表情だ。
「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
ラウラはそう言い放つ。
「いきなり何しやがる!」
我に返った一夏はそう叫ぶが、
「フン……」
ラウラは一夏を無視し、つかつかと歩いて行き、空いている席に座ると、腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。
「あー………ゴホンゴホン! ではHRを終わる。 各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。 今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。 解散!」
織斑先生がそう言ってHRを終了させたため、一夏の怒りの矛先はどこにも向けられない。
何故ならば、すぐにこの部屋で女子が着替えを始めるからだ。
「おい、織斑、無剣。 デュノアの面倒を見てやれ。 同じ男子だろう」
織斑先生にそう言われ、一夏がシャルルに近付いて行く。
「君が織斑君? 初めまして。 僕は………」
「ああ、いいから。 とにかく移動が先だ。 女子が着替え始めるから」
シャルルが近くにいた一夏に自己紹介をしようとすると、一夏がそう言って中断させ、シャルルの手を取ると、
「盾、行くぜ」
「へ~い」
俺達はそそくさと教室を出る。
一夏は、シャルルに説明を始めた。
「とりあえず男子は空いているアリーナの更衣室で着替え。 これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん………」
困惑していたシャルルが頷く。
すると、
「ああっ! 転校生発見!」
「しかも織斑君も一緒!」
同学年の他クラスだけでなく、2、3年のクラスからも噂を聞きつけた生徒達がやってきたのだ。
「いたっ! こっちよ!」
「者ども出会え出会えい!」
まるで武家屋敷のような掛け声をする生徒達。
「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」
「しかも瞳はエメラルド!」
「きゃああっ! 見て見て! 織斑君とデュノア君! 手繋いでる!」
「日本に生まれてよかった! ありがとうお母さん! 今年の母の日は河原の花以外のをあげるね!」
叫びながら俺達を追ってくる生徒達。
「な、何? 何で皆騒いでるの?」
状況が飲み込めないシャルルが一夏に尋ねる。
「そりゃ、男子が俺達だけだからだろ」
「………?」
言われたことが理解できないのか、首を傾げるシャルル。
「いや、普通に珍しいだろ。 ISを使える男子なんて、今のところ俺達しかいないんだろ?」
「あっ! ……ああ、うん。 そうだね」
「それに、ここの女子達って、男子と極端に接触が少ないから、ウーパールーパー状態なんだよ」
「ウー……何?」
「20世紀の珍獣。 昔日本で流行ったんだと」
「ふうん」
そう言いながらも追いかけてくる女子達から必死で逃げる俺達。
そこで、俺はふと思った。
なんで俺まで逃げてるんだ?
女子達の目的は一夏とシャルルなんだし。
俺がそう思ったとき、更衣室への最短距離の通路に女子達が先回りしていた。
「げっ!?」
一夏が声を漏らし、手前にあった通路を曲がる。
俺は、その道を曲がった瞬間、柱の影へ身を隠した。
女子達は、俺に全く気付かずに一夏とシャルルを追いかけていく。
10秒ほどして女子が全員通り過ぎていったことを確認すると、俺は最短距離で更衣室へと向かった。
俺が更衣室でISスーツに着替え終わったとき、更衣室のドアが開いた。
「はぁ………はぁ…………」
そこには息を切らした一夏とシャルル。
「お疲れさん」
俺はそう声を書ける。
「お、お前……いつの間に消えたんだよ………」
一夏は息を切らせながらそう言ってくる。
「さてね。 まあ、もうすぐ時間だから、遅れないように急げよ」
俺はそう言って更衣室を出た。
その後は、概ね原作通り(多分)。
一夏が山田先生にラッキースケベかましたり、セシリアと鈴が山田先生に撃ち落とされたり、一夏が箒をお姫様抱っこしたり。
あ、俺もこの時は専用機持ち扱いとして、指導側に回った。
最初の自由に班分けするときは、俺のところには一人も来ないと思っていたのだが、何とのほほんさんが1人だけだが来てくれた。
なんでも、
「お嬢様から、むっきーは努力家だってきいてるよ~」
だそうだ。
ちなみにのほほんさんよ。
俺が努力しているのではなく、楯無先輩に努力させられているの間違いだからな。
ちなみに俺が受け持った班は、何事もなく一番早く終わった。
それから時間が経ち、早くも学年別トーナメント前日。
やはり一夏達はラウラと一悶着あったらしいが、相変わらず俺は関わってない。
で、いつもの特訓であるが、
「どわぁああああっ!!」
俺は楯無先輩に吹っ飛ばされ地面に倒れる。
シールドエネルギーは既にゼロ。
模擬戦時間1分ちょい。
相変わらず一撃入れることなく負けである。
ただ、防御と回避に集中しているため、模擬戦の時間そのものは長くなっている。
最初の30秒でやられた時に比べれば、だいぶマシになったと言えよう。
相変わらず攻めに出ようとするとカウンターを受けて、そこから無限コンボに繋げられ、約25秒でやられるが。
「防御と回避は、そこそこ上達してきたね」
地面に倒れている俺に、楯無先輩が声をかける。
「まあ、攻める隙もなくやられ続けてれば嫌でも上達しますよ」
俺はそう答える。
その答えに楯無先輩はクスクスと笑い、
「そういえば、明日のタッグトーナメントだけど、ペアになる人はいるの?」
そう聞いてきた。
「いる訳ないですよ。 俺の評価は最初の特訓でドン底ですからね。 男性操縦者が3人もいると、物珍しさも薄れますから。 俺は他の2人と違ってイケメンでも無いですし。 俺は抽選待ちです」
「そうなんだ。 う~ん、残念だなぁ。 もしおねーさんが君と同じ学年だったら組んであげても良かったんだけど………」
「あはは………それだったら、最強と最弱で釣り合い取れていいかもしれませんね」
もし、楯無先輩と組んだとしても足を引っ張るだけだろう。
「ふふっ、とりあえず明日に備えて今日はここまで。 しっかり休んで、体調を万全にね」
「りょ~かい!」
そう返事をして、今日の訓練は終わった。