第十六話
夏休みに入って2週間。
IS学園は一般の学校のプールと同じように、夏休み中もアリーナを使用することが出来るので、俺はほぼ毎日IS学園に通い、楯無の地獄の特訓を受けている。
授業がない分、アリーナの使用可能時間の初めから終わりまで、昼飯以外はほぼぶっ通しだ。
「はぁああああああああっ!」
「せぇえええええええいっ!」
空中で俺と楯無が切り結ぶ。
楯無のランスの攻撃を俺が左腕のシールドで防ぎ、俺の右腕のエネルギーソードを楯無が左手のラスティーネイルで受け止める。
お互いが弾かれ、離れた瞬間、俺は瞬時加速で一気に肉薄右腕を振りかぶる。
瞬時回転と、二次移行したお陰で使えるようになった部分瞬時加速で瞬間的に斬りかかる。
初見では何が起こったのか分からず呆然としていた楯無だが、
「はあっ!!」
俺の攻撃を受けるのも構わずに蒼流旋で攻撃してきた。
その結果は、
「ぐはっ!」
俺だけが吹き飛ばされる。
だが、それも当然なのだ。
打鉄・不殺の単一仕様能力『不殺ノ刃』は実ダメージはスタンガン程度。
故にIS装着者には殆ど衝撃が無いと言っていい。
つまり攻撃を受けても怯む事はないのだ。
俺の攻撃が当たっている為、楯無のシールドエネルギーも70減っているが、こちらは装甲の薄さも相まって、150以上減っている。
倍以上もの差が出た。
「だからって、そうそう簡単に負けられるかよ!」
俺は再び楯無に向かっていった。
その後、結局俺は負けた。
でも、楯無のシールドエネルギーも3分の1ぐらいは減らした。
二次移行した打鉄の性能のお陰で、かなり食らいつけるようになっている。
そして今、今日の訓練が終わり、俺は地面に大の字で倒れていた。
やはりキツイ。
『お兄ちゃん、大丈夫?』
プライベートチャネルと同じような声が頭の中に響く。
(まあ、何とか………心配してくれてありがとう“空”)
『お姉ちゃんもやりすぎな気がするんだけど………』
(そう言うなって。 俺には才能が無いんだ。 このぐらいやらないと皆には追いつけないんだよ)
俺は空にそう返す。
『お兄ちゃんが良いなら良いんだけど………』
俺が今会話しているのは俺の打鉄のコアの意識である『空』。
この前空に名前を付けてから、こうやって普通に意思疎通が出来るようになった。
因みにこの事は楯無も知っている。
打ち明けた時にはたいそう驚いていたが。
すると、楯無が倒れている俺に歩み寄ってくる。
丁度俺の頭上から覗き込むような形になり、
「今日もお疲れ様。 それで明日なんだけど、休みにしようと思いま~す♪」
笑顔でそう言ってきた。
「休みなのは助かるな。 流石にキツイ」
俺はそれを聞いてホッとする。
「えっと………それでね」
楯無が何か紙切れのような物を取り出す。
「こんなのがあるんだけど…………」
俺は差し出された紙切れのようなものを寝転んだまま受け取ると、顔の前に持ってくる。
それは、
「ウォーターワールドのチケット………?」
それは、最近出来たと話題のウォータワールドのチケットだった。
その時、ふと頭になにか聞き覚えがあるような気がしたが、結局思い出せなかったため、気にしないようにした。
「…………デートのお誘いか?」
多分そうだろうとは思うが、一応確認する。
「う、うん………もちろん、盾の都合が合えば………だけど………」
楯無は顔を赤くしてそう呟く。
「まさか! 断る訳無いだろ? なにか用事があってもそっちを全部キャンセルするっつーの!」
これは本音。
俺にとって楯無……いや、刀奈が一番だ。
断る訳がない。
「そ、そうなんだ………じゃあ、明日10時に現地集合ね」
「了解。 楽しみにしてるよ」
思わぬご褒美に、俺の気分は急上昇していった。
翌日。
ウォーターワールドの前で待ち合わせているのだが、人の数が凄い。
流石話題に上がっているだけの事はある。
俺は当日券を買う人の邪魔にならない所で刀奈を待っていると、
「ん?」
人ごみの中に、見覚えのある金髪とツインテールを見た気がした。
俺がもしかしてと思い、その2人をよく見ようとしたとき、突然目の前が真っ暗になった。
「だ~れだ?」
これは間違いなく、
「刀奈」
俺は迷いなく答える。
「えへへっ。 当たり~!」
視界が開け、笑顔の刀奈の顔が映る。
その笑顔の魅力で、俺は先ほどの2人の事など既に忘れていた。
「じゃ、行こ!」
刀奈は俺の腕に自分の腕を絡ませ、施設の中へと引っ張っていく。
俺はそれに逆らわずに、されるがままに引っ張られていった。
着替えの為に刀奈と別れ、更衣室で海パンに着替えると、俺はプールの傍で刀奈を待つ。
しばらく待っていると、突然周りがざわつきだした。
いや、正確には周りの男達がだ。
俺がそちらに目をやると、青いビキニを身に纏い、そのモデルにも劣らない見事なスタイルを惜しげも無く晒しながらこちらに歩いてくる刀奈の姿があった。
擦れ違う男達全員が思わず振り返るほどに綺麗で、中には、彼女持ちの男も刀奈に見惚れ、彼女から制裁を受ける光景もあった。
刀奈は、一直線に俺の前に来ると、
「お待たせ!」
周りの目を気にする事なく俺に声を掛けてきた。
「あ、ああ………」
ぶっちゃけ、周りの男達と同じように、俺も刀奈に見惚れていた。
「どう? 似合うかな?」
刀奈は、俺にその抜群のスタイルを見せつけるようにポーズを取る。
豊満なバスト。
引き締まったウエスト。
形のいいヒップ。
思わず顔に血が周り、鼻から溢れそうになった。
「た、確かに似合ってるが…………大胆過ぎないか?」
俺は何とかそう言う。
「そお?」
刀奈は自分の体を確認するように見下ろす。
「それに………他の男もジロジロ見てるし…………」
俺は周りに目をやりながらそう言う。
周りの男たちは、明らかに見惚れた目で刀奈を見ていた。
「ウフフ…………嫉妬?」
刀奈は含み笑いをしながら、俺に問いかけてくる。
「嫉妬というか何というか…………ただ、面白くはないな」
俺は正直に答える。
俺の答えに満足したのか刀奈は笑顔になり、
「大丈夫♪ 私は君のだから」
そう言って、俺の腕に抱きついてくる刀奈。
胸の膨らみが腕に当たって気持ちイイです、ハイ。
ついでに言えば、周りの男達から嫉妬の視線を超えて、殺気立つ視線が痛いです。
でも、刀奈はやらんぞ。
「それじゃ、今日も楽しもー!」
そう言ってプールへ向かう俺達。
先ずは、普通のプールでひと泳ぎ。
俺も泳ぎは苦手ではなく、浮き輪が無くても普通に泳げる。
刀奈も見事なもので、まさに教科書のお手本のような泳ぎ方だ。
で、次に向かったのは流れるプール。
プールサイドに木々が植えてあり、まるで森の中を流れる川のような感覚を味わえるアドベンチャーゾーン。
俺は流れに身を任せ、ゆったりと流れる。
「ふう………落ち着く………」
俺は仰向けで水面に浮かびながら、目を閉じる。
正面に受ける強い日の光の暑さと、水に沈んでいる部分の冷たさが心地いい。
しばらくその心地よさに浸っていると、突然足を引っ張られた。
「うおっ……ガボッ!?」
突然の事に、ロクに息も吸い込めず水中に引きずり込まれる。
一体何だと水中で目を開けると、ボヤけた視界に広がる水色の髪。
これは刀奈か。
それが分かるとホッとする反面、息をロクに吸い込んでいなかったので、直ぐに苦しくなる。
俺は空気を漏らさないように口を押さえ、刀奈に息が続かないとジェスチャーで伝え、水面に上がろうとした。
しかし、
「!?」
あろう事か、刀奈は口を押さえていた方の手を掴み、自分の方へ引っ張った。
「ガボォ!?」
驚いた俺は、思わず息を吐き出してしまう。
あ、やべえ。
酸欠で意識が遠くなりかけた時、
「………………?」
突然口に柔らかな感触。
そして、それと共に空気が吹き込まれる。
意識をハッキリと取り戻すと、目の前には刀奈の顔。
そして、唇に感じるこの感触は、紛れもない刀奈の唇。
これは、(俺的)男の夢の一つ、水中での空気の口移し!
やがて苦しさが無くなり、刀奈が離れると、2人一緒に水面に上がる。
「………ぷはっ! はあ……はあ……」
俺は水面に上がると、息を吐く。
流石にビックリした。
すると、
「盾、ごめん………少し悪ふざけが過ぎたわ」
俺の様子を見て心配したのか、申し訳なさそうに刀奈が謝ってくる。
俺は刀奈に向き直り、
「別に気にしてねーよ。 いい思いも出来たしな」
そう言って笑ってみせる。
「それなら良かったわ」
それに釣られたのか、刀奈も笑って見せてくれた。
その時、ポーンと合図のようなベルが鳴る。
「ん?」
何だと思い見渡すと、看板にはアドベンチャータイムと英語で表示されていた。
そして、俺達よりも上流側にあった水門が突然開く。
そしてそこから、
「げっ!」
大量の水が開放された。
その水は激流となり、俺達を飲み込もうとする。
「刀奈!」
俺は咄嗟に刀奈を引き寄せ、流れから庇うように抱きしめる。
そして次の瞬間、背中に襲いかかる凄まじい衝撃。
当然ながらその衝撃に耐えれるハズもなく、激流に飲まれ、流される。
しかし、腕の中の刀奈だけは離さないよう、しっかりと抱きしめた。
やがて俺達は、人口浜に打ち上げられた。
まあ、設計上そうなっているのだろう。
とはいえ、結構な距離を激流に飲まれてきたので、結構辛い。
「盾、大丈夫?」
刀奈が俺の体を揺さぶる。
「一応…………」
俺は倒れたままそう答える。
少し休み、ようやく楽になってきた為、体を起こす。
すると、
「盾、次はアレに行こうよ」
刀奈が指さしたのは、ウォータースライダー。
しかも結構デカイ。
ウォータースライダーは好きな部類に入るから問題ないんだが。
ちょっと長い道のりを歩き、ウォータースライダーの入口に到着する。
いくつかある入口の内、どれにするかを選んでいた時、
「ねえねえ盾。 こっちにペア滑りコースっていうのがあるよ」
刀奈がとある入口を指しながら言う。
確かにペア滑りコースと書いてある。
「じゃあ折角だし、一緒に滑るか?」
俺がそう提案すると、
「もちろん!」
刀奈は元気よく頷いた。
「それでは、ペア滑りのご説明をいたします」
俺達は、係員さんから説明を受ける。
最初に俺が定位置に座り、それから刀奈が俺の足の間に座る。
「で、男の子は後ろから女の子をギュッとするんです。 ギュッと!」
係員さんは、両手を胸の前でクロスさせ、抱きしめる仕草をする。
それを聞くと、
「じゃあ盾、いいわよ」
刀奈は、戸惑いもせずに背中を俺の胸に預けてくる。
俺も少しは緊張するも、それでもしっかりと刀奈の前に腕を回し、抱きしめる。
「それじゃあ、いってらっしゃ~い!」
係員さんに背中を押され、滑り出す俺達。
滑り出すと、中々スピードが出る。
「うひょーーーーっ!」
丁度いいスリル感に、俺は声を上げる。
「イエーイ!」
刀奈も楽しそうに声を上げる。
そして、
――ドボーーーン
出口のプールに思いっきり突っ込んだ。
結構楽しめたと思った俺は、プールから出ようと移動を開始したとき、
「ま、待って!」
突然後ろから刀奈に抱きつかれる。
「うおっと………どうした?………って!?」
抱きつかれた際に、背中に2つの膨らみが押し付けられるのだが、その際に違和感を感じた。
あるはずの布地の感触が無いのだ。
「おい………まさか………」
俺は首だけ回して刀奈を見る。
「水着…………流されちゃった…………」
代表的なプールでデートのアクシデント、『水着流されちゃった』に遭遇した。
「ちょちょちょ、ちょっと待て!」
俺は慌てて周りを見渡す。
運良く近くに人は居ないようだが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
次の人が何時出てくるかも分からないのだ。
「か、刀奈! スライダーを滑ってる最中にはあったんだよな!?」
俺は半ば叫びながら刀奈に尋ねる。
「う、うん…………このプールに飛び込む前まではあった筈だよ」
それなら近くにあるハズ。
俺は背中の感触を意識しないようにプールの中を注視する。
スライダーから流れてくる水で、水面がユラユラと揺れて見にくいが、今までで一番と言わんばかりに目を凝らす。
そして、
「見つけた!」
スライダーの出口の右下あたりに沈んでいる水着を発見した。
「刀奈、せーので一緒に潜るぞ」
「う、うん」
俺は刀奈が頷いたのを確認し、
「せーのっ!」
プールの中に潜り、沈んでいた水着を拾った。
この後、何とか次の人が滑ってくる前にプールから出ることが出来た俺達は、ホッと息をついた。
精神的に疲れた俺達は、施設内の喫茶店にいた。
昼にはまだ早い時間であり、ちょっとした休憩だ。
「あはは………まさかのアクシデントだったね」
苦笑混じりの笑みでそう呟く刀奈。
「まあな……」
俺が相槌を打つと刀奈が顔を寄せ、
「………私の胸の感触はどうだった?」
小声で爆弾発言をしてきた。
「ッ~~~~~!?」
俺は思わず取り乱すが、少し考えると、
「……………っていうか、それ以上のこと既にしてるだろ。 俺達」
小声でそう返す。
刀奈の顔が、ボッと言わんばかりに赤くなる。
「「……………………」」
互いに顔を赤くしつつ、何とも言えない雰囲気になった時、
「つまり、一夏さんは自分の代わりに『ここに行かないか』と言ったのですね」
「そーねー」
聞き覚えのある声が、後ろの方から聞こえた。
気になった俺は首を回して後ろを見ると、
「はぁ………おかしいと思いましたわ。 ええ、最初から何か怪しいと思っていました」
「ウソつけ。 私服、めちゃ気合い入ってるくせに」
「なっ!? こ、これは、その………礼儀として、そう! 礼儀としてですわ!」
「あー、はいはい」
そこには案の定、鈴とセシリアの姿があった。
こいつらが何でここに?
と、一瞬思ったが、そう言えば原作の夏休みでこんなイベントがあったような………
夏休みのイベントは印象が薄くてあんまり覚えてないんだよなぁ。
まあ、話を聞くに、一夏と約束してたんだろうが、なんやかんやで鈴とセシリアの2人だけになってしまったと。
そんな所だろう。
「あれ? あの2人って鈴ちゃんとセシリアちゃん?」
刀奈がそう呟く。
流石生徒会長、有名な生徒は頭に入ってるか。
刀奈なら、生徒全員覚えてそうだがな。
「だな。 大方一夏に約束ドタキャンでもされたんだろ?」
俺はそう言っておく。
「あの2人の様子からすると、大体正解みたいだね」
刀奈もそう頷く。
後ろの2人がもう帰る雰囲気になってきた時、とある園内放送が響き渡る。
『では! 本日のメインイベント! 水上ペア障害物レースは午後1時より開始いたします! 参加希望の方は12時までにフロントへとお届けください!』
そこまでは鈴もセシリアも興味無さげだったのだが、
『優勝賞品はなんと沖縄5泊6日の旅をペアでご招待!』
それを聞いた瞬間、明らかに2人の雰囲気が変わったのが見て取れた。
「セシリア!」
「鈴さん!」
2人は腕を交わすと、
「「目指せ優勝!!」」
一語一句違わぬ唱和で気合を入れ、一目散にフロントへと駆けていった。
何やってんだか。
俺が半ば呆れていると、
「ねえ盾、私達も出てみない?」
刀奈がそんな事を言ってきた。
「はぁ?」
俺は思わずそんな声を漏らす。
「何でだよ? 出ても俺が足を引っ張るだけだと思うが………」
ISの操縦は大分上手くなったとは思うが、生身では筋トレぐらいしかやってないので、動けるかと言われれば首を傾げるしかない。
「大丈夫! 盾は生身でも強くなってるから!」
「そうか?」
刀奈にそう言われ、自分の体を見下ろす。
毎日の訓練で、太っては無いと思うが、細マッチョという訳でもない。
入学した頃に比べれば筋肉はついてると思うが、4ヶ月かそこら鍛えたところで、劇的に変わるわけでもない。
「やっぱ気が進まないんだが………」
俺はそう言って断ろうとしたが、
「いいからいいから!」
刀奈は俺の腕を掴んで強引に引っ張っていく。
こうなった刀奈を、俺が止められるわけは無かった。
フロントに着いて、まず初めに思ったことは、
「なあ刀奈、これって男は出られないんじゃないか?」
その言葉を口にする。
先程から、申し込もうとした男達は、『お前空気読めよ』と言わんばかりの受付の笑みで退けられている。
「大丈夫! 私に任せなさい!」
刀奈は自信たっぷりにそう言うと、受付に向かっていく。
「すいませーん。 男女のペアで出たいんですけど!」
刀奈がそう進言する。
「えっ? 男女ですか?」
「はい!」
「え~っと…………」
受付は、ちょっと困った顔をするが、
「もしかして、男は出ちゃダメなルールですか?」
刀奈が間髪入れずそう尋ねる。
「いえ、ルールには記載されていませんが…………」
受付は、刀奈の後ろに控えている俺に視線を移し、今までの男達と同じように、『お前空気読めよ』と言わんばかりの笑みを向けようと…………
「じゃあ問題ありませんね!」
突然、俺と受付の視線の間に刀奈が割り込み、満面の笑みを向けている。
「えっ? ですから、あのっ…………」
「問題あ・り・ま・せ・ん・ね!?」
対暗部用暗部『更識家』の当主としての威圧感を満面の笑みに込めて放っている。
おいこら、裏の顔をこんな時に使うな!
「はっ、はいぃっ!!」
受付は声を上ずらせながら頷く。
…………刀奈の奴………押し切りやがった。
俺は半ば呆れつつため息を吐いた。
「さあ! 第1回ウォーターワールド水上ペア障害物レース、開催です!」
司会役のお姉さんが大きくジャンプし、大胆なビキニから豊満な胸が溢れそうになる。
が、俺は顔を逸らす。
刀奈に嫉妬されたくねーし。
しかし、観客の男達からは大きな歓声が上がる。
「さあ皆さん! 参加者の女性陣に今一度大きな拍手を!」
巻き起こる拍手の嵐。
「まあ、若干1名そうでないのも居ますが気にしないで行きましょう。 っていうか、空気読めよ、このKYヤローーーーッ!!」
「「「「「「「「「「KYヤローーーーーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」
司会のお姉さんの掛け声に合わせて(主に男性陣から)ブーイングが飛ぶ。
「はぁ…………ま、ブーイングには慣れてるけどさ」
俺は溜息を吐きつつそう漏らす。
「あら? 誰かと思えば無剣さんではありませんか?」
「何? 男の出場者ってアンタだったの? 何でアンタがここにいるのよ?」
セリシアと鈴が、今になって初めて俺に気付いたらしく、声を掛けてくる。
「それは俺が聞きたい…………」
俺はそう呟く。
「はあ? フン、ま、いいわ。 悪いけど優勝は“私”達が頂くわ。 残念だけど、諦めることね」
「ええ、誠に残念ですが、“私”達も全力で優勝を狙ってますので」
どちらも“私”を強調している。
水面下では既に2人のバトルは始まっているようだ。
因みに、2人とも優勝賞品に目が眩んでいるのか、刀奈については何も言ってこない。
というより、気付いても居ないようだ。
司会のお姉さんがルール説明を始める。
簡単に言えば、何でもいいのでプール中央のワイヤーで空中に吊り下げられている浮島に辿り着き、フラッグを取ったペアが優勝との事だ。
ただ、コースはショートカットが出来ないように工夫されており、プールを泳いでゴールにたどり着くことは出来ない。
いや、プールを泳げても、スタート地点以外では、島に上がることが出来ないのだ。
更に、障害物はペアでなければ抜けられないという面倒なものだ。
ついでに、このレースは妨害OKで、怪我をさせなければ基本何やっても良いらしい。
っていうか、それって俺がかなり不利なのでは?
女尊男卑のこの時代、イベントとは言え、妨害どころか接触しただけでセクハラ等と訴えられかねない。
多分俺が男だからという理由だけで俺を集中して妨害してくる女も少なからず居るだろうし………
例え向こうから妨害してきても、それを防いだりやり返したら、ほぼ確実に俺が悪者だ。
そうなると、一度も接触せずに回避だけに専念しろと?
無理ゲーにも程があるわ!!
そう心の中で叫んでも、今更どうにもならない。
やがてルール説明が終わり、
「ルールは以上です。 何かご質問のある選手は居ますでしょうか!?」
司会のお姉さんはそう確認する。
普通なら、こんな簡単なルールなので誰も質問がないと思いきや、
「はーい! 一ついいですか?」
刀奈が手を上げた。
「はい、何でしょう?」
司会のお姉さんが返事をすると、
「フラッグを取れれば、どんな手を使ってもいいんですよね? 例えばコレを使ったり………」
そう言って見せるのは、手に持ったミステリアス・レイディの待機状態である扇子。
おいこら。
「はい。 基本的に怪我をさせなければ何をしてもOKです。 もちろんショートカットもOKですよ。 できるのならね」
あ、司会のお姉さん墓穴掘った。
刀奈の奴、言質取るのが目的だったな。
見れば、既に刀奈の足元からチョロチョロと水が流れ出ており、プールに流れ込んでいる。
「…………………」
最早呆れるほか無かった。
「さあ! いよいよレース開始です! 位置について、よーい………!」
パァンッ! と競技用のピストルが鳴り響き、一斉に駆け出した。
俺も一緒に駆け出すが、
「男のクセに、生意気なのよ!」
「男が女に敵うわけないでしょ!」
予想通り何人かの女は俺に集中して妨害行動を仕掛けてきた。
俺は、無駄だと思いつつも回避行動を取ろうとして、
「おろ?」
自分の予想以上に体がよく動いた。
最初の平手打ちをいきなりかまそうとしてきた女の腕を身を屈めて躱し、続いて足を引っ掛けようとした女の足を飛び越え、最早ルール無用と言わんばかりにハイキックを放つ女性の足を後ろに反ることで避け、最後の体当たりをしてきた女を身を捻る事で避け切った。
そして、最後に体当たりを仕掛けた女性が前の三人を巻き込み、勢い余って4人揃ってプールに落ちる。
「あらま、ビックリ」
俺は自分で自分の行動に驚く。
まさか、カスリもせずに全部よけられるとは思ってなかった。
「言ったでしょ? 盾は生身でも強くなってるって」
刀奈が微笑んでそう言う。
「あ、ああ………そうみたいだな」
未だに信じられず、呆けた声を漏らす俺。
それなりに目立つ行動をしてしまった俺だが、それ以上に目立つ2人(鈴とセシリア)がいたので、殆ど注目はされなかった模様。
この後の妨害は鈴とセシリアに集中していたので、俺達は問題なく障害物をクリアする。
と、そこで邪魔者の水着を奪い取るという方法で妨害を振りきった鈴とセシリアが全力で挽回してきたため、俺達は第3の島で抜かれてしまう。
「ハハン! お先に!」
「お先に失礼しますわ!」
そう言い残し、2人は身体能力を活かして、障害物そっちのけで島を次々とクリアする。
俺達が第3の島をクリアした時には、鈴とセシリアは既に最後の島、第5の島に到達していた。
「どうするんだ? 多分もう追いつけないぞ」
俺が刀奈にいうと、刀奈は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「フフッ! 奥の手を使うときが来たようね」
刀奈は扇子を開く。
そこには『切札』の文字が。
っていうか、奥の手も何も、刀奈が初めっから全力を出せば、1人でクリア出来たんじゃないかと思わないでもない。
「それじゃ、行くわよ!」
刀奈は島から飛び降り、俺も続けて飛び降りた。
『おおっと、いきなり島から飛び降りたペアがいるぞ! 勝ち目がないと悟ってやけになったか!?』
司会のお姉さんがそういうが、
「忍法、水蜘蛛の術!」
刀奈がそう言って、“水面”に着地した。
「「「「「「「「『へっ?』」」」」」」」」」
観客たちの声が一斉に素っ頓狂な声を漏らす。
続いて俺も水面に着地。
ネタを明かせば、刀奈がスタート前にプールに流し込んでいたのは、ミステリアス・レイディのアクア・ナノマシン。
それを操って足場にしているだけだ。
観客の驚きを気にせずに最後の島に向かって水面を走っていく俺達。
そして、
「忍法、波乗りの術!!」
刀奈がノリノリで叫ぶ。
俺達の足元の水が隆起し、俺達を宙吊りの島へと押し上げる。
丁度その時、鈴がセシリアの顔面を足場に、格闘系マッチョ・ウーマンの2人を躱し、フラッグへ手を伸ばしていた。
「よしっ!」
鈴は、確実に勝利を確信していただろう。
ところが、
「残念無念また来週!」
目の前で波に乗ってきた刀奈に掠め取られた。
「へっ?」
目の前にあったフラッグが突如消えたことで、茫然自失となる鈴。
鈴にとっては、一夏と旅行し、結ばれるという夢が、ガラガラと崩れ去っているに違いない。
鈴は両膝と両手を床に付け、項垂れる体勢になる。
ま、例え旅行できたとしても、鈴の素直になれない性格と、一夏の超絶鈍感で、鈴の妄想通りにはならなかったとは思うが。
因みに、鈴に顔を踏まれたセシリアといえば、2人のマッチョ・ウーマンのタックルを受けて、一緒に数メートル下の水面へと落ち、高い水柱を築いていた。
その水柱が収まった頃、
「ふ、ふ、ふ…………」
凄まじく重い笑い声が響く。
次の瞬間、先ほどの倍ぐらいの水柱が立ち、
「今日という今日は許しませんわ! わ、わたくしの顔を! 足で! ――鈴さん!! それに、勝利するならばともかく、横取りされるなど―――!」
ブルー・ティアーズを展開したセシリアが水柱の中から現れた。
すると、項垂れていた鈴がユラリと立ち上がる。
「うっさいわね…………今アタシははらわた煮えくり返ってるのよ……………やろうってんのなら相手になるわ!! 甲龍!!」
鈴も感情を爆発させ、甲龍を纏う。
「な、なっ、なぁっ!? ふ、2人はまさか――IS学園の生徒なのでしょうか!? この大会でまさか2機のISを見られるとは思いませんでした! え、でも、あれ? ルール的にどうなるんでしょう………?」
別に競技中にIS使ったわけじゃないので良いのでは?
え?刀奈?
刀奈は事前に確認取ったから無問題だろ。
「ぜらぁぁぁぁっ!!」
「はあぁぁぁぁっ!!」
2つの刃がぶつかり合う。
「ティアーズ!」
すぐさまビットを射出するセシリア。
だが、
「甘いっての!」
鈴は、足のスラスターを巧みに使って、距離を離しては寄せ、近付いては下がるを繰り返す、所謂対狙撃制動でセシリアの狙いを絞らせない。
「くっ! 対狙撃制動とは……………相変わらずやりますわね!」
「衝撃砲はあんたのと違って早いのよ! ほらほらぁっ!」
逆さまの体勢から衝撃砲の3連射。
1発はセシリアに当たるがもう2発は外れ、プールに直撃…………するかに思われたが、プールの水が盛り上がり、衝撃砲を防ぐ。
刀奈が、また水を操って防いだようだ。
っていうか、よく弾が見えない衝撃砲をタイミング良く防げるもんだ。
刀奈の凄さをここでも実感した。
鈴が青龍刀で斬りかかり、セシリアはあえてライフルでその刃を受ける。
「動きが止まれば、こちらのテリトリーですわ!」
セシリアは、残り2つのビットを射出した。
「この距離なら衝撃砲の方が早い!」
鈴も負けじと衝撃砲を最大出力でチャージし、
「そこまでよ!!」
今まさに爆発しようかという所で、刀奈の声が響き、プールの水が再び盛り上がり、2人のISに絡みつく。
「な、何ですの!?」
「ちょ、何なのよこれ!?」
2人は突然の事に驚いているが、
「2人とも、ちょっとやりすぎだと思うのよね……………と、いうわけで」
刀奈はそう言いながら右手を顔の前に持ってくると、
「反省してね♪」
その言葉と共に、パチンと指を弾く。
その瞬間、
――ちゅどーーーーーーん!
2人同時に爆発に飲まれ、
「「きゅう………」」
――ぼっちゃーーーーん!
目を回した2人は仲良くプールへと落下した。
帰り道。
「♪~~~~~~~~~♪」
鼻歌を歌いながら上機嫌の刀奈が俺の隣で歩いている。
その手には、優勝賞品である沖縄旅行のペアチケット。
「フンフーン♪ 楽しみね、沖縄旅行♪」
機嫌良さげにそう言ってくる刀奈。
「確か、夏休みの最後の週だっけ?」
「うん、そう! ちゃんと予定開けとかなきゃダメだぞ!」
刀奈はウインクしつつそう言ってくるが、
「元々訓練の予定だったから、何も予定なんざ入ってないっての」
予定を入れれるわけがない。
「それもそうだね」
刀奈そう言うと、ふと何を思ったのか、
「初めての2人っきりの旅行だけど………これって婚前旅行って事になるんだよね?」
「ブフッ!」
そんなことを言い出し、俺は思わず吹き出す。
「ま、まあ、婚前旅行は、恋人同士で行く旅行の事だから、間違ってはいないな………」
なんか、婚前旅行と聞くと、なんというか、こう………むず痒い感じがするな。
「フフッ、楽しみだね、盾」
「ああ」
でも、ま、楽しみなことには違いない。
俺達は手を繋ぎつつ、夕日に照らされる道を歩いて行った。
あとがき
どうもです。
第十六話の完成。
テイマーズの方を見てない人は、あけましておめでとうございます。
かなり間が空きましたが次話の投稿です。
さて、今回は夏休みイベントの方を勧めておきました。
盾君の更識家訪問は2、3話後ぐらいで。
原作では鈴とセシリアが大暴れしたこのイベント。
刀奈こと楯無さんがいいトコかっさらって行きました。
代表候補生もISを完全に展開せずに即殺する楯無さん、チートです。
盾君も少し頑張りました。
相変わらずのブーイングの矛先になっとりますが………
2人のイチャラブな雰囲気は出せたでしょうか?
では、次も頑張ります。