まえがき
ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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γ::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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. | ll ! ::::::l::::::/|ハ::::::∧::::i :::::::i ノンケのくせに
、ヾ|::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l ホモアピールする連中が増えているらしい
ヾ::::::|V≧z !V z≦/::::/
∧:::ト “ “ ノ:::/! _ (⌒)
/:::::\ト ,_ ー' ィ::/::| やれやれ
⊂⌒ヽ / ヽ /⌒つ
\ ヽ / ヽ /
\_,,ノ |、_ノ
「メインヒロインのくせに不人気のヒロインが増えているらしい」
ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
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>:´:::::::::::::::::::::::`ヽ、
γ:::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
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. | ll !::::::l::::::/|ハ::::::∧::::i:::::::i プーッ!
、ヾ|:::::::|:::/`ト-:::::/ _,X:j:::/:::l 誰そいつwwww
ヾ::::::|V≧z !V z≦/::::/
クス ∧:::ド゙゙゙゙゙゙゙Y ⌒)゙゙゙゙゙ノ:::/! さっさとモブに格下げしろよ
クス/:::::\ト ,_人 "ヽィ::/::|
/::::/ / \ \ヽ
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「出家しようかな」
やぶれかぶれになったおれは、無意識にそう呟いていた。
俗世に疲れた。女で悩むのは、煩悩に塗れているからだ。肉体の不浄の穢れが精神を侵しているのがいけないのだ。
だから山にこもって世俗から隔離し、第二の釈迦になるんだ。
リムジン乗ってる坊さんがいた気がするが、それは心が穢れているのが原因で、修行をすれば人力車に見えるはず。
インド独立の父、ガンジーは自分がSEXしてる最中に父親が亡くなったのがきっかけで禁欲を心がけたそうだ。
その後に子供を四人も授かってるけど、心がけたそうだ。うん。
「ダメじゃん……」
おれは絶望した。人である以上は、人は欲望からは逃れられないのだ。
宗教関係なら、問題がややこしくなるから手出しもしにくいと思ったんだが。
いちおう、イスラム教なら妻を四人まで娶ることが可能だったりするし。まあ、さっきのアレを見る限り、間違いなく無理だ。
箒さんたちもそうだが、みんな独占欲が強すぎて対抗心剥き出しで共存なんてできそうにない。
今でもISで大喧嘩するくらいだ。いつか本気で殺し合いをしそうだ。
「……どうしよう」
何度目かわからなくなったが、頭を抱える。シャルロットと会長の件もある。が、それに加えて束さんの予告状まで手元に収まり、おれのキャパシティを軽く超えていた。
二人だけでおれの手に負えないのに、それに束さんまで加わったら、いったいどうなるんだよ……
しかも、内容から察するに、今回は束さんも本気みたいだ。意地でもおれを奪いにくるつもり腹積もりだろう。
しかし、どうやって? おれを連れ去って、誰の手も届かない場所でずっと一緒に暮らすとか?
一夏やラウラに会えないのは嫌だ。それにおれが嫌がることを束さんが率先してするとは思えない。
家族と離れ離れにさせられ、人生を滅茶苦茶にされたのに、嫌いになれないのは、あの人がおれを第一に想ってくれている確信があるからだ。
けれど、裏を返せばおれの邪魔になる者には容赦しないということで。
「……織斑先生に相談してみるか」
以前、織斑先生が束さんを絶対に止めると息巻いていたのを思い出す。だが、何となく頼りにならない気がするのはなぜだ。
なんていうか、IS学園が総力を挙げて束さんに戦いを挑んでもまったく勝てるイメージが湧かない。世界を相手にしても余裕で勝てそうなんだが、おれの思いすごしだろうか。
というか、今って学園祭の準備期間だっけ。すっかり忘れてた。また謎の敵性物体が乱入してきそう。
この学校、何かイベントのたびに攻撃されてるんだけど、もう少し警備どうにかならないのかな。その都度、おれと一夏が何とかしてるんだけどさ、何で生徒に任せっきりなのよ。
おれ一回気絶したし、挙句の果てには一回死んでるんだけど。そろそろ織斑先生とか山田先生が、「ここは大人に任せておけ」って格好よく前線に出てくれてもいいんじゃないですか?
このまま行くと、束さんに連れ去られたおれが誰も知らない土地で束さんとの子供を抱いて、青空を見上げる未来しか見えないんだけどさ。
「……いちおう相談みるか」
おれは一縷の望みに賭けてみることにした。
●
「学校とは勉学に励む場であって、男女の出会いの場ではないんです。わかりますね、金剛くん」
「はい」
職員室に足を運び、山田先生に声をかけたら、返ってきた第一声がそれだった。
おれはいつの間にか説教されていた。なぜだ。
「近頃の若い子は……男子が入学してきたからって浮かれすぎです! 私が学生だったときは、皆ISの操縦を極めるべく日夜鍛錬に没頭したものでした。
なのに、今の学生ときたら、やれ織斑くんだの、金剛くんだの……色恋に夢中になって学生の本分を忘れて大変なっていません!
そうは思いませんか、金剛くん!」
「でも山田先生って教師のくせに一夏に色目使ってましたよね」
「そ、そそそんなことしてませんよ!」
巨乳を揺らして、頬を染めて否定する山田先生は、とても成人した大人の女性には見えなかった。
つーか、男子学生から言わせてもらえれば、山田先生にはもっと露出とか控えてもらいたい。
その大きい胸の谷間をひけらかす格好は、学生の勉強への意欲を著しく阻害しています。
「山田先生。先生はまだ全然若いんですから、婚期とかで焦らなくてもいいと思いますよ」
まだ女子大生くらいの年齢だろうに、何が彼女をそこまで逸らせるのだろう。理解できない世界だ。
山田先生は婚期の話題になった途端、鬼女みたいな形相になって語りだした。
「わかってないですね、金剛くんは。もう婚約者を見つけた余裕ですかっ?」
「いや、そんなつもりはないですけど……」
「教師って職業はとにかく出会いがないんですよ。四六時中生徒の相手をしてなければいけませんし、休日も部活やら授業の資料作成やらで潰れて合コンもいけませんし。
学校という閉塞的な空間から出る機会もIS学園は特に少ない上に、ここは男性職員も殆どいないので、そもそも男性に接触できる機会自体ないんです。
機会を逃すまいと榊原先生みたいにどう見ても地雷の男性に突っ込むか、気長にお見合いに期待するしかない私たちの気持ちがわかりますかっ?
花の二十代なんてあっという間ですよ! なまじIS操縦者ってスペックが高いから妥協もしにくいし、大前提として恋愛なんてしたことないからどう男性に接したらいいかもわからない私の気持ち、今まさに恋愛中の金剛くんにわかりますか? わかるんですかっ?」
「……なんか、すいません」
「いえ……私も熱くなってしまいました」
ここ職員室で、他の教員の方々もいるんだが、山田先生に同調している人が多いのを見るに否定しようのない事実なのだろう。
よくよく考えてみれば、先生方もIS学園のOGだろうから、男っ気のない青春を過ごしてきたのが容易に想像できた。
榊原先生が盛大にディスられていたが、彼女が反面教師になって自分は騙されないようにしようと身持ちが堅くなり、それで余計にハードルが上がっているのかな。
童貞も処女もこじらせると取り返しがつかなくなるんだな。
何でかな。女性団体からおれを守ってくれていた山田先生像がどんどん崩れていくよ。
「あ、あの……ところで、何の用事でここに?」
ひとしきり不満をぶちまけて平静になった山田先生が、おずおずと上目遣いで尋ねてくる。
おれは例の予告状を見せた。
「? 何ですか、これ。カード?」
「さっき部屋に入ったら机にあったんです」
経緯から話して協力してもらおうと、順々に説明しようとしたのだが、両手でカードを持ち、内容を読む山田先生の顔が硬直し、プルプル震えだした。
「――って、これどう見ても恋文じゃないですか! 熱烈なラブレターじゃないですか!
なんですか、自慢ですか!? 書いたことも貰ったこともない私に見せびらかしてほくそ笑んでるんですか!?」
「多分犯罪予告だと思うんですけど」
ある意味では間違っていないが。怪盗の三代目の模倣犯というのか。おれも一度くらいは憧れたことがあった。
あなたの心です、なんてクサいセリフを臆面もなく、またこの上なく自然に言えるのは、あのとっつぁんだけだろう。
疑心暗鬼にかられる山田先生の相手がめんどくさくなり、やはり織斑先生に相談するべきだと思い直したおれは、足に力をこめた。
「山田先生」
「はい?」
「彼氏ほしいって嘆いてるだけじゃなくて、自分からガンガン責めないと一生処女ですよ」
「なあっ――!?」
驚愕と羞恥で頬を染め上げた山田先生が口を開く前に、おれは背中を向けて全力でダッシュした。
待ちなさい、とかヒステリックな怒声が聞こえたが、振り返りはしないのさ。
しかし、なんだ……独り身を憂う山田先生を見て、優越感に浸ってしまったのは、どう転んでもおれはひとりにならないとわかっているからなのかな。
事態は急転しているのに、心のどこかで嬉しがってる部分を見つけて、男のどうしようもない性と寂しがり屋の自分に、さよならを告げた。
多分、今が人生の絶頂期で――最高のどん底だろうから。
●
「なるほどな……事情はわかった。私も最善を尽くそう」
織斑先生は生徒相談室にいた。黒革のソファに腰かけ、足を組む織斑先生は、カードを忙しなく裏返したりして観察しながら、そう言った。
以前に、束さんが許せないと語った本心を思い出す。あの時の織斑先生は、教師や人としてというより、姉として怒っていた気がする。
同い年で、同じ年の離れた下の弟妹がいる親友同士でありながら、姉であることを放棄して男のことだけを考えて生きている身勝手さに憤りを感じていたのではないか、と。
織斑姉弟とは違って両親も健在なのに、それを簡単に見捨てたことへのやり場のなさもあるかもしれない。
この人たちの関係を邪推するのもなんだが、一夏があのヒロインズを放置して二十代半ばになって十近く年下の少女に現を抜かしたら、おれも殴ってでも止めるから、そんな感じかな。
「しかし、アイツも律儀というか愉快犯というか馬鹿というか……」
「性分なんじゃないですか?」
「ふっ……そうかもしれんな」
そう話す織斑先生は、どこか楽しそうで、昔を懐かしんでいるようだった。
「警備のことなんですが……あまり手荒にはしないでくださいね」
「……お前は二言目にはアイツを庇うな」
瞑目して、長く息を吐いてから織斑先生が呆れるように言った。
「念の為に訊くが、お前はアイツを好きなのか? もしそうなら、お前の意思を尊重して束の好きにさせてやってもいいんだ。
アイツが改心するのを前提でな」
「嫌いか好きかで言えば、好きだと思います。でも、恋愛感情はありません」
本心だと思える感情を口にする。過去に好きだったとしても、今のおれにとっては、クラスメートの姉に過ぎない。
美人でおれのことが好きと言ってくれるとか、おれの人生を滅茶苦茶にした張本人だとか、そういう付加要素は気にならなかった。
「そうか」
織斑先生は、そう答えて深く背をもたれた。
「お前に振られて半生の片想いが終わるなら、アイツも納得するだろう。まあ、納得しなかったときが一番怖いんだが。
……何をしでかすか予想がつかんからな」
「ハハ……」
口が半開きになって、変な声が漏れた。私のものにならないはるちゃんなんか要らない! と、こんな世界は壊れればいいんだ! の、どっちだろう。
シャルロットたちの反応からして、女の子だと同性に怒りが向くようなので二人を殺そうとするかもしれない。
そうなったら、なるようにしかならないか。
織斑先生は、包み込むようで、それでいて不敵な笑みを浮かべた。
「どうなろうと、お前の人生だ。好きに生きてみるといい。私も教師として……姉としても、弟の友人だ。出来る限り、手を貸してやる。
どういう選択をしようと勝手だが、ま、悔いのないようにな」
「……はい」
迷ったけれど、声だけは確かに返事をして、生徒相談室をあとにする。やっぱりかっこいいな。
異性だが、憧れてしまう部分がある。
「あー、ちょっと待て」
「はい?」
胸を満たす感慨に浸りながら出ようとしたのを、額に手をあてた織斑先生が呼び止めた。
織斑先生は逡巡して、腕を組み、あさっての方向を見て言う。
「あの、そのだな……一夏と小娘共の間に、なにかあったのか?」
なんだそれは。おれは眉をひそめた。
「いや、ないと思いますけど」
「そうか……」
「どうしたんですか?」
尋ねると、彼女は凛とした表情を不安で崩してしまった。
「いや、一夏がな……怯えた顔をして私の元を訪ねてきて、『千冬姉……女の子って怖いんだな』などど相談してきおってな。
私がなにかあったのかと訊いても、はぐらかして要領を得ない。これは、また奴らがやらかしたのかと思ったんだ」
「……」
それは、ひょっとしてもしかしなくても、あの二人の修羅場を目撃したからではないでしょうか。
おれは察して、弟に思い悩むブラコンなお姉ちゃんの観察を続けることにした。
「おい、金剛はなにか知らないのか。お前は一夏の親友だろう」
「さあ」
「くっ……まぁ、いい。だが、一夏をあんなに怯えさせるものなどあるのか? 普段からISで殴られても平気な奴だぞ。まさかアイツ、あの年でお化けが怖いのか? いや、まさか……」
何やらブツブツ悩み始めたお姉ちゃんを、白く生暖かい眼でおれは見つめた。
どんなに格好良く完璧に思える人でも、抜けている部分はあるものだ。
だが、それは時にギャップとして凄まじい破壊力を有するので注意が必要だ。
人間というものは、とかく異性が絡むと腑抜けになる生き物なのである。腰抜けでも可。
●
自室に戻ると、会長がシャワーを浴びているようだった。
タイミングが良かったのか、悪かったのか。水滴が床を打つ音を聞きながら、ベッドに腰をおろす。
普段は、会長が入浴中は無心になったり、本を読んだり、勉強したりして気を紛らわせているのだが、今日はそんな気分になれなかった。
シャルロットはもっと大人しい性格をしていると思っていたが、実際はもっと気丈で譲らない激しい気性を隠していた。
会長はもっと冷静で一歩引いた視点で物事を見聞きしていると思っていたけれど、実際は嫉妬深くて負けず嫌いだった。
つまるところ、おれの目は節穴だった。理解しているようで、彼女たちのことなんてわかってなかった。
こんなに倒錯してしまった状況で、今度の学園祭に束さんがやってくるなんて告げたら、目も当てられなくなるのは確実だ。
敵の敵の味方と団結する可能性も無きにしも非ずだが、どっちにしろ決裂するのは明白なので期待してない。
一夏のところの鈴さんとセシリアさんを見てると仲が良さそうなんだが、ぶっちゃけあれは、共通の敵であるおれを排除しようと躍起になってただけだし。
「あ……帰ってたんだ」
まだ湿った髪の毛、熱の冷めやらぬ体にバスタオルを巻いただけの会長が、おれを見てつぶやく。
様子からして本当に気づいていなかったようで、放課後の後遺症は思いのほか深かったみたいだ。
「はい。湯冷めするんで服着ましょうね」
会長のベッドに投げ捨てられていた衣服の類を手渡すようにして押し付ける。
湯上りの体から薫る甘い薫香と熱気が五感を眩ませたが、何となく慣れていた。だから下着も触れる。何だかんだ、半年も女性と暮らしてきた。耐性はついていた。
「……」
しかし、会長はうつむいて受け取ろうとしなかった。会長の着替えを持つ手は、会長に触れる手前で止まっていた。
「会長?」
「ねえ、しない?」
何の脈絡もなく出た誘いに、心臓が凍った。
「……何をですか?」
「エッチなこと。少し早いけど、しちゃおっか」
冗談でごまかすには、声と様子が雰囲気を帯びすぎていた。
いつもの人をからかうためだけの格好ではなかった。
「おれたちってまだ、学生で――」
「でも、男と女だよ」
いつもの正論を封殺して、会長はおれを上目づかいで見つめた。潤んだ瞳。泣きそうに見えたのは、気のせいではなかったかもしれない。
「榛名くんが我慢してるのと同じで、私も我慢してるんだよ? 今日は、特にムラムラしてるの。ちょっとくらい強引に襲われてもいいかな」
「また怒られたいんですか?」
「それも好き。でも、今は榛名くんがいい」
強情で反応に困った。どうしたらいいかと迷っていると、トンと軽く胸を押された。ベッドに押し倒されて、服が散らばった。
会長が馬乗りになる。髪から滴る水滴が頬についた。
「ほら、榛名くんを襲うのなんて簡単なんだよ。本当はいつだって出来たし、いつもこうしたかった。
次は、どうしよっか。これより凄いことする?」
艶やかな手つきで会長の指が首筋を這った。キスマークを撫でられて鳥肌が立つ。タオルがはだけ、大きな乳房が露出していた。
熱に浮かされた顔が微笑する。
「私、凄いドキドキしてる。榛名くんもドキドキしてる? 抱き合ってるだけであんなにあったかいんだから、肌の触れ合いってもっと気持ちいいよ。
一緒に気持ちよくなろ?」
そして、一瞬の間をおいて唇が迫って来るのを見て、おれは会長の左頬に手を添えた。
会長がそれをどう取ったのか、目を瞑る。おれは――
「会長、頬、赤くなってますよ。どうしたんですか?」
見開かれる瞳が、おれの手に移り、会長は慌てて身を起こしておれの手を引き離した。
自分の手で頬を隠し、曖昧に笑った。
「あ、あはは……そんなに目立つ? 参ったなぁ……今日の挑戦者がちょっと難敵でね。不覚にも手こずっちゃったんだ」
会長が気後れしたのを見て取ったおれは、起き上がって平静を装って言葉をつづけた。
「気をつけてください。会長の肌は白くてきれいだから、余計に目立つんで」
「――う、うまいこと言ったつもりか、バカッ!」
バスタオルを顔に投げつけられて、おれは塞がった視界のまま、再びベッドに倒れた。
「着替えるから見るなっ」
そして衣擦れの音がして、おれの口から乾いた笑いが漏れた。
耳元で心臓が鳴っている。驚いて状況が呑み込めなかったが、そんなおれでもはっきりとわかるくらい、会長の体は震えていた。
おれも動揺していたが、会長たちのそれは想像以上のようだ。
学園祭が終わったあと、おれは生きていられるんだろうか。
少なくとも、今みたいに逃げてばかりだと、どうしようもなさそうだった。
●
おれの中でのほほんさんが実は凄腕の暗殺者ではないかという憶測が成り立った頃には、学園祭の準備期間も終わり、当日を迎えようとしていた。
ゲームでは序盤から出ている頭の緩そうなキャラが実は裏切り者だったりする。のほほんさんもその系譜なのではないか。
左手は添えるだけだけど女の子は両手を使う二刀流だ。二刀流は雑魚と言われるが、実は成功率がワンハンドに比べて高いのだ。
ISは接近戦だけでなく遠距離のビームも打てる両刀が強い。でも切れ味は片刃の刀が強い。
しかし、おれは何を言っているのだろうか。のほほんさんに旦那様と呼ばれて混乱しているのだろうか?
最近、考えることが多すぎて常時こんらん状態だ。時折、わけもわからずじぶんをこうげきしたい衝動にかられる。
なんかね、みんなもうひどいんだよ。僕は執事になんかなりたくないのに執事指導だとか言って明らかに漫画知識の接客を徹底的に叩き込んでくるし、いつの間にかおれは非童貞キャラになってるし、貴腐人には親の仇のように睨まれるし。
会長とシャルロットの確執以降、微妙に気まずくなったのかラウラくらいしか碌に話しかけてくれる人もいないし。
そのラウラにメイド喫茶について妙な知識を吹き込む部下に、「現実のメイドなんてババアしかいねえだろうがッ!」と怒鳴ってやったけど、クラなんとかさんはいったいなんなんだ。
日本のメイドさんは美人しかいないと思っているのか。現実見ろよ。おれだって見たくないけど、残酷な現実が、いつだって生きている人間には突きつけられるのだ。
だが、それがいい。その不条理がいい。人は荒波に揉まれ、高い壁を越えて成長していく生き物なのだから。
「タバスコって美味しいよね、そう思わない、ラウラ?」
「調味料としては美味いが、母のように飲むものではないぞ……」
どうしてタバスコは出にくいのか。刺激で痛い唇と臭くなった口で、そう考えた。
「なぁに、辛味は甘さで中和でできるから平気平気。砂糖ドバー」
「そのような報告は学会で聞いたことがないぞ」
「甘いって言ったら、サツマイモのテンプラでどうやってご飯食べるんだよ。おでん、テメーもだ。お前ら絶望的にご飯に合わないんだよ!」
「私が思うに、日本の食卓は塩分が濃すぎると思うのだが」
「それはね、日本人はしょっぱいものしか三食に認めないからだよ、ラウラ」
現実逃避して、不平不満を吐き出していたが、そろそろ辛くなってきた。
付き合ってくれたラウラに心の中で感謝する。本当にいい子だ。
おれはこれから悪い子になる。おれを反面教師に育ってくれ。
おれはタバスコを放り捨てた。
「金剛くん! それ喫茶店で使うやつよ!」
「ご、ごめんなさい」
鷹月さんに怒られ、頭を下げる。娘の前で怒鳴られる情けない親がいる。おれだ。
「本格的に奇行が……」
「漫才でしょ」
どっかからそんな話し声が聞こえた。聞こえない聞こえない。
ところで、おれの一夏はどこにいるのだろう。おれと同じく執事調教されているのかな。
何で執事って鬼畜なのが多いのかな。何でメガネは鬼畜かデータの二択しかないのかな。
思索に耽っても答えはなかった。だって、男の子だもん。
「榛名、ちょっといい?」
耳慣れた声、けれど聞き覚えのないトーンに振り向くと、シャルロットがいた。
例の一件以来、久しく会話をしていない。微妙な居心地の悪さを感じながら頷く。
「……燕尾服、似合ってるね」
「窮屈で動きづらいけどね」
おれは天邪鬼なので褒められると素直にありがとうと言えないのだ。
燕尾服は、ぶっちゃけシャルロットの方が映えると思うのだが、本人が気にしていそうなのでやめておいた。
シャルロットは後ろ手で手を組み、俯きがちにもじもじと逡巡してから、
「ねえ、榛名。もしよかったら……よかったらでいいんだけど」
「……うん」
「学園祭……一緒にまわらない?」
躊躇いがちなセリフに、心中を察する。強く出られないワケも分かりきっていたから、答えるのに時間がかかった。
「無理ならいいんだ。先約があるなら、そっちを優先しても、いいから」
「いや……いいよ。そのくらいなら」
「……いいの?」
「うん」
首肯すると、ぎこちなく顔を輝かせて、ホッとしたように笑った。
別に、嫌いになったワケでも、疎遠になったワケでもないのに。
恋愛と言うのは友情とか大切なものを色々とぶち壊すものなのだと、否応なく思い知らされた。
男女間の友情が成り立たないのも、きっとそれが原因なんだろう。
あー……学園祭に弾が来て、一夏と新しいカップリングの新風を吹き込んでくれないかな。
あとがき
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ハヽ/::::ヽ.ヘ===ァ
{::{/≧===≦V:/、
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|iγ::::::::::::::::::::::::::::::::ヽi|
〈/::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ_》箒ちゃんの出番増大こそが
!::::::l::::/|ハ:::::::∧::::i:::::::i 人気回復の最大の切り札
|::::i∨ ト-:::::/ ,X:j:::/:::::l 早くセシリア、鈴とレズレズしろ
ヽ::::|(◯), !V、(◯) i/:::::/
ゝ:}"  ̄ 'ー=-' ̄" ノ:::::/::!
「あ、もうそろそろ終わるから」
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