③
最悪だ……!
どうしてだ。どうしてバレた。
ヒデオは自分の行動を顧みるが、大きなミスがあったとは思えない。選抜会場であるミスマルカ城に入るため、ただ紋章を城門の衛兵に見せただけだ。いったいどこに失敗する要素がある。
だが現実は違った。ヒデオは怪しまれ、呼び止められ、そして追われていた。
僅かな挙動を見咎められたか、事前からマークされていたか、それとも紋章自体に不備があったか。
理由はいくつも思いつくが、特定には至らない。特定できたところで事態が解決するわけでもない。だからとにかく愚直に走る。南へ、南へ。
“ヒデオ。右前方の脇道から三人”
「……っ」
急ブレーキ。
少し戻り、左へ曲がる。自分が今どこを走っているかなど、とうの昔にわからなくなっていた。
ただ方角だけは見失わぬように。遥か南の帝国領を目指して街中をひた走る。
“このまま行くと検問に引っかかるわ。路地に入って”
速度を緩めず路地に飛び込む。
いつまで経っても追跡の手は緩まない……どころか、次第に激化しているようにさえ思えた。
しかも異様に人数が多い。兵士、勇者、果てはメイドまでもが執拗に追いかけてくる。
そんな中、ノアレの誘導だけが頼りだった。もし彼女がいなければ自分はとっくに捕まっているだろう。
(……僕、は)
任務一つこなせない。ノアレがいなければ逃げることさえままならない。
仲間がいなくなった途端このザマだ。こんな自分がどの口でウィル子に会うなどと言えるのか。
一方的に依存するだけの関係など、もはやパートナーでもなんでもない。相手に直接迷惑をかけないだけ、ニートの方がはるかにマシではないか。
終わりの見えぬ逃避行は徐々に心を蝕んでいく。そして心の疲弊は体にも影響を与え始めていた。
足が鉛のように重い。酸素をよこせと心臓が鳴り響く。頭は霞がかり、思考がじわじわと侵食されて…………。
“ヒデオ、後ろ……!”
咄嗟に振り向き、伸びてきた手を払いのける。気づけば兵士がすぐ後ろまで迫っていた。
気合を入れ直すと同時、どこか遠かった意識が引き戻される。
そうだ、ノアレだけでも元の世界に帰さなくては。今も助けてくれている彼女に報いなくては、死んでも死に切れない。
それだけを胸にヒデオは足を前へ動かし続ける。かろうじて兵士の追跡を振り切った先に、やがて見えてきたのは城下を囲む防護壁。そして南の中央部に設置された防護門。あそこを抜けさえすれば……!
しかし微かな希望は即座に打ち砕かれる。
「っ……」
門は、多数の兵士たちによって封鎖されていた。
考えてみれば当たり前のことだ。厳戒態勢が敷かれているこの状況で、出入り口を開け放すバカがどこにいる。恐らく北の門に向かったところで結果は一緒だろう。
……仕方ない。ここは一旦引いて、機を見てあの門を突破しよう。
何時間か、何十時間か。いつまでかかるか定かではないが、隙ができるまで待つしかない。
ならば今は可能な限り人目につかない場所へ向かわなくては。往来の激しい防護門付近を避け、西の下町方面へ。
ヒデオは長い時間をかけて慎重に進んでいく。途中幾度も見つかりそうになるが、ノアレのフォローでどうにかやり過ごす。
迷路のような路地を進み、段ボールの家が立ち並ぶ区域を抜け、そしてたどり着いた最奥部。
(あれ、は……?)
そこには一人の少年が壁を背にして、ヒデオと同じように息を荒げていた。
彼はヒデオを見るやいなや、ぎくりと身をすくめて後ずさる。
「げっ、こんなところまで……! さすがにそれは予想外なんだけどな……!?」
吊りズボンにつば付き帽子の、どこにでもいそうな姿をした黒髪の少年。
それがなぜか自分の姿を見ただけでこの反応。……いや、当然か。今や自分は犯罪者なのだから。
少年が呟いた。
「あはは、見逃してくれないかなー、なんて……」
「……見逃す?」
彼の言葉に不自然さを感じる。
どういうことかと考えていると、彼は何かに気づいたように目を丸くして言った。
「って君、もしかして噂の偽勇者? 朝からずっと逃亡中の?」
「……そうだと、言ったら?」
「ああ、勘違いしないでくれ。別に捕まえる気はないよ。……というか、こっちにもそんな余裕ないしね」
よくわからないが、何やら向こうにも事情があるらしい。
嘘をついている様子もないので、ヒデオは少しだけ警戒を解いた。
「それにしても、エーデルワイスの捜索から逃れるなんてやるなぁ。ただの犯罪者程度なら一時間も保たないはずなんだけど……」
彼は小首を傾げて言う。
と、その時。
どこからか、バタバタと慌ただしい足音が迫ってきた。それも一つではなく、複数。
「うっ……お喋りしてる時間はなさそうかな。じゃ、君も捕まらないように頑張ってね」
そう言って踵を返す少年。態度や行動から察するに、もしかすると彼も追われている身なのかもしれない。
まあ今は考えている余裕など皆無。一刻も早く逃げ……。
「あ、そうだ。お詫びに一ついいことを教えてあげよう。夜になったら南門の封鎖は解かれるはずだよ」
お詫び? とヒデオが問う暇もなく。
少年は口に手を当て、大きく息を吸い込んで。
「偽勇者がいたぞ――――!」
辺り一帯に響く大音声。
と同時に、アパートの一室に逃げ込もうとする少年の姿が視界の端に映る。
「わはははは! せいぜいスケープゴートとして頑張ってくれ!」
………………はめられた!?
「あ、あれは王子の声!?」
「しかし偽の勇者がいたと……!」
「ええい、どちらでもいい! とにかく捕まえろ!」
急速に近づきつつある追っ手の声。
ヒデオはアパートに入っていった少年を追いかけようかと逡巡するが、もし鍵を閉められていたらお終いだ。結局諦め、再び全速力で走り出す。
体力の残りは少なく、敵の数は増える一方。
いつ終わるとも知れぬヒデオの逃亡劇は続く――――。
◆
一方。もう一人の逃亡者である少年、マヒロ。
アパート……ではなく、アパートのような外観の雑貨屋。その店内に逃げ込んだ彼は、スツールに腰掛けた。
「ああ疲れた……」
「やあ、遅かったね王子」
「それがだね、エミリオ。選抜会直前に偽勇者なんてものが現れたせいで、想定以上に兵士の配備が早くなってしまって大変だったんだよ……。余はもうへとへとです」
「そりゃまたタイミングの悪い。ま、日頃の行いじゃない?」
「君にだけは日頃の行いとか言われたくないな……」
エミリオと呼ばれた金髪の少年は、涼しげな顔でコーヒーを一口。
「でも勇者の偽者なんて珍しいね。ミスマルカに現れたってことは、やっぱり聖魔杯狙い?」
「そうだとは思うんだけどさ……なーんか、様子がおかしいっていうか」
腑に落ちない表情でマヒロが続ける。
「聞いた話だと、オモチャの紋章で城に入り込もうとしてたらしいんだよね。最初は酔っ払いか何かかと思ってたけど、それならエーデルワイスから何時間も逃げられるわけないし。もう何がなんだかサッパリ」
「ふーん……イカレてるだけじゃない? 王子と一緒でさ」
「失敬な、余もそこまで意味不明な行動はしません」
「僕から見れば似たようなもんだけど……まぁいいや。僕は出発の準備をしてくるから、夜までゆっくりしててよ。本当に帝国陣地まで行くんだったら、今のうちに寝ておいた方がいいんじゃないかな」
……まあ。あの男の素性や目的を考えたところで、どうにかなるわけでもない。
マヒロはエミリオの申し出に従って眠ることにした。ソファの上に積まれたガラクタを適当に押しのけ、空いたスペースで横になる。散々走り回ったせいか、すぐに睡魔がやってきた。
「それじゃ、お休み」
「お休み、王子」
④
ヒデオが追われ始めてから、三日目の昼。
現在の居場所は連合側の最前線、ラズルカ。ここまで来るとさすがに捜索の手も緩くなっていた。
ミスマルカ城下の時とは打って変わって、今は兵士やメイドに追われるようなこともほとんどない。
(ミスマルカ、か……)
ヒデオは初日のあの夜を思い出す。果たして本当に少年の言った通り、日が落ちると防護門の封鎖は解かれていた。
どうしてそんなことを知っていたのか、彼は何者なのか……謎は残るが、結果こうして無事に逃げてくることができたのだから、一応感謝しておくべきなのだろう。
とはいえまだまだ油断はできない。何せこの先ほんの一キロ程度の場所には連合国陣地が存在するという話。
それに加えて、今朝から勇者らしき人物の姿も頻繁に見かけている。どうにかしてここを抜けねばならないのだが、まだいい方法は思いつけていなかった。
(…………)
いっそ今からでもヴェロニカに戻るか。……いや。下手に時間をかけてしまうと、神殿教団からの追っ手が来てしまうかもしれない。それが一番マズい。
逃げるならば最短距離を。もはや帝国領は目前だが、間に立ちはだかるは十万からなる連合軍。
いったいどうしたらいい。どうしたら……。
“……ねえ、ヒデオ。考え込むのは仕方ないけど……少し休憩したら? 酷い顔よ”
「……っ、あ、あぁ」
ノアレの声で意識が引き戻される。
思い返せばここ三日間、ロクなものを口にした記憶がない。溜まった疲労も限界に近かった。
どこかで休憩を取らなければとは思うが、まさか店に入って悠長に食事するわけにもいかない。ヒデオはしばらく迷った末、露店の集まるマーケットエリアへ向かうことにした。
露店の数もさることながら、遠目から見ても人が相当多い。上手く紛れ込むことができればいいのだが……。
とりあえずマントで口元を隠し、適当な店を物色する。立ち止まったのは果物を置いた小さな露店。
「……すみません」
「ひッ……!? な、なんだアンタ!」
「…………いや、それを」
「こっ、これが欲しいのか? 金はいらねえ、持っていってくれ!」
大柄で筋肉質な店主が、ただ一言声をかけただけでこの有り様。今の自分はどれだけ酷い形相になっているのだろうか。
……ともかく、今は誤解を解く時間すら惜しい。
並べられた果物をいくつか手に取ったヒデオが、無言で通貨を置こうとしたその瞬間。
ガッ、と。
急に横合いから伸びてきた手に、ヒデオは腕を掴まれた。
「見つけたわよ……」
尋常ではない気配に振り向くと、先日のシスターが薄ら笑いを浮かべてヒデオの斜め後ろに立っていた。
「勇者の詐称に恐喝の現行犯……もう言い逃れできないわね、この異端者め」
「…………」
直感的にヤバイと確信した。
何というかもう目つきが人に対するそれではない。
「大丈夫。今すぐ死ぬか異端審問会に引き渡されてから死ぬか選ばせてあげるから…………ってちょっと!?」
掴まれた手を振り払い、全力で駆け出すヒデオ。
冗談ではない。自分はまだこの世界に来て何もしていないのだ。それが、こんなところで。
(死んで、たまるかっ……!)
「我が勇者! それに護衛さんたちも、早く! こっちこっち!」
シスターの声にいち早く反応した片腕の男はジェスか。
後に続く三人も、身なりからして凡百の冒険者とは一線を画した歴戦の勇者、剣士。
多少鍛えられたとはいえ、ヒキコモリとは元々の身体能力が違う。それに加えて連日の疲れもある。ノアレのナビという優位をもってしても、こればかりはどうにもならない。
必死に逃げるもじりじりと追い詰められ、気づけば袋小路のような場所にまで。左右は高い壁、背後は固く閉ざされた扉。もはや逃げ道はどこにもなかった。
「ほら、あたしの言った通りでしょ。やっぱりこの男、異端者だったじゃない」
「そうだな」
「……我が勇者、ちょっとは申し訳なさそうにしなさいよ」
「ああ、悪かったな」
「あのねぇ汝……」
「早く捕まえなくていいのか。逃げちまうぞ」
「…………ま、それもそうね。さあ勇者シーナ、やっておしまいなさい」
シスターに指名されたシーナというらしい女勇者が、辟易とした顔で言った。
「なんで私が……っていうかこの状況で逃げられるわけないでしょ。私と大陸最強のリーゼルがいるのよ? パリエルだって近衛騎士なんだし、偽者の勇者なんかに……」
「いや、油断しねえ方がいい」
ジェスの炯眼がヒデオを睨め付ける。
「ああ、ジェスの言う通りだ。勇者の集まるミスマルカ城にたった一人で乗り込んできた男……警戒しておいて損はないさ」
純白の鎧を纏った青年が一歩踏み出し、抜剣。戦闘に疎いヒデオでも明らかに雰囲気が違うとわかる二刀の勇者。
先のシーナの言葉を信じるとするなら、彼がリーゼル……大陸最強、なのだろう。
「……うん、そうね。リーゼルがそう言うなら私も本気で行くわ」
シーナは呟き、双眸を鋭く、警戒を強く。
ヒデオも負けじと睨み返すが、臆する様子は欠片も見られず。やはり並みの相手ではない。
そんな彼女に加え、対する敵は救国の英雄と大陸最強、中原の近衛騎士。
もし彼らがその気になれば、自分など瞬く間に殺されてしまうのだろう。そして、そんなちっぽけな命でも奇跡なのだと教えてくれた仲間たちは、もういない。
「ちょ、ちょっと待ってよ皆。偽者っていっても、オモチャの紋章を出しただけでしょ? それはちょっと説教してやらないとなー、とは私も思うけど。ただの冗談かもしれないんだし、そんな殺気立たなくても……」
「ただの冗談じゃ済まないのよ。パリエル」
シーナが言った。
「武器を持ったまま連合のトップに謁見できる。ただのお供ですら王城に入れてもらえる。それだけ勇者の称号は重いものなの。仮にこの男が爆弾でも抱えてミスマルカ王に近づこうとしていたのなら……」
「っ……」
最悪の光景を想像したのか、パリエルと呼ばれた近衛騎士の表情が引きつる。
「それにわざわざミスマルカ城に潜入しようとしたんだもの。冗談や何かにしてはタイミングが良すぎるわ。あなた、どうせ聖魔杯を狙った帝国のスパイなんでしょう?」
疑問、というよりは半ば確信を抱いたシーナの視線。
「…………だとしたら、どうする」
ヒデオの言葉に、彼女は語調を強くした。
「どうする……ですって? 帝国なんかにどうして加担するのかこっちが聞きたいくらいよ! 彼らは人間を奴隷にしようと企ててるのよ!?」
「……待て、待ってくれ。人間を、奴隷に……? それは、いったい……」
「しらばっくれないで。今や誰もが知っている事実よ。そうでしょ、リーゼル」
「ああ、信じたくはないが……俺もそう聞いている」
馬鹿な。
帝国に居た自分だからこそよく知っていた。あの国では人間も魔人も一緒になって平和に暮らしていたではないか。
あの皇女たちが、率先してそんなことをするような性格とは思えない。
第一、人間であり長谷部の家系であるあの沙耶香が。そんな行いを見過ごし、帝国に手を貸すはずがない。
彼女たちの言っていることは、つまり。
(……プロパ、ガンダ)
自分の正義を持った者同士がぶつかり合い、争いになるのは仕方ないことなのかもしれない。
そうすることで分かり合える何かもきっとあるのだと……自分はあの大会の最後に、そう思った。
だが、こんなすれ違いで争いが起きるのは。互いの意思すらはっきりとしないまま、聖魔杯が争いの種にされるのは。
それは……あまりにも。
あまりにも悲しすぎるではないか。
「……その、程度か」
「なっ、突然何を……」
ヒデオの眼光が鋭さを増す。
「その程度の勇者なのかと、言っている。人間を奴隷に? 何を、馬鹿な。君たちはその目で、確認したのか」
「そ、それはっ……でも、嘘だとは限らないじゃない……!」
「人間の僕が。こうして、自分の意思で帝国に手を貸している。三剣の一人だって、魔人ではなく人間だ。なぜ、疑問に思わない」
「そんな……だって……!」
シーナは助けを求めるようにリーゼルに視線を向ける。
しかし彼は、沈痛な面持ちで黙したまま。
「……帝国には、帝国の正義がある。彼らは、魔王に対抗するため。大陸の、人類の統一を目標に掲げた」
「……っ、もし、それが真実だったとして! それでも帝国が戦争を仕掛けてきたことには変わりない! どんな大義があろうと、戦争なんてっ……」
「僕だって……戦争が正しい選択だとは、思わない」
「じゃあ、どうして!? なぜあなたは帝国に手を貸すの……!?」
「……帝国が、聖魔杯のチカラを手に入れれば……きっと戦争は終わる。人類は、一つにまとめられ……魔王だって、倒せるかもしれない。少なくとも、今の状況よりは……」
何もわからないまま、聖魔杯のチカラだけを求め。殺し合いを始めるよりは、よっぽどマシだ。
「っ…………!」
シーナは反論しようと口を開き、しかし言葉が見つからなかったのか、唇を噛んで黙り込む。
沈黙。
長い静寂が続き……やがて、ヒデオが再び口を開く。
「……君たちは、なぜ」
ヒデオは僅かな怒りを自分の中に感じた。
それは、彼らがプロパガンダされていたことに対してではなく。
「今、僕が言ったことだって……全部デタラメかも、しれない。なのに、なぜ揺れる。なぜ迷う。君たちの正義はっ……そんな軽い、ものなのか……!」
自分の知っている勇者なら。
彼ならば、決して揺れも迷いもしなかった。己の正義にどこまでも純粋で、一直線で、時には我が身の犠牲さえ省みない、そんな勇者。
「…………」
そして何のチカラも持たないヒキコモリで、逃げるだけが精一杯の自分だからこそ。
勇者のチカラを持つ彼らが羨ましかった。憧れだった。
そんな彼らが、自分の言葉程度で簡単に揺れてしまうことが無性に悔しかった。
「ああ、コイツの言う通りだ」
ジェスが言う。
「帝国の事情なんざ関係ねえ。てめえらには守るもんがあるだろう。なら自分の正義に従って、ついでに勇者を騙る馬鹿を捕まえてやりゃいいだけだろうが」
唯一、彼の隻眼だけは一切の迷いがなく。
彼の言葉を聞いた他の勇者たちもまた、その表情に強い意志が宿り始める。
「……ああ、それでいい」
それでこそ、争う価値がある。
もはや言うべきことは言い尽くした。自分にできることは、血反吐を吐くまで逃げるのみ。
“ええ、閣下。逃げ道は私が作ってあげる。……でも気をつけて。ヤバいのが迫ってるから”
そうノアレが言った、まさにその瞬間。
ヒデオたちのいる袋小路へ、野太い声が投げかけられた。
「神威である」
機械のように表情のない長身痩躯の大丈夫。
男は美しく輝く長剣を抜き放ち、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
傍らには、厚手の鎧を纏いフードを被った若い女。白銀の戦槌を手に、淡々と言い放った。
「こちらは異端審問会第二部、アズレセウス・ラドル・キュリオン高級審問官。私はベルゼリア・ミラ・レカルネン一等補佐官。異端者の浄化を行います。そこを退きなさい、勇者たち」
絶望が、幕を開けた。