SIDE ウソップ ~海上レストラン『バラティエ』外部 船側面部~
待て待て待て!いっぺんにいろんな事が起こりすぎて収拾がつかねェ!
あの有名な"海賊艦隊"提督ドンクリークが襲ってきたと思ったらそのガレオン船がバラバラになるしナミのやつはメリー号ごと宝を掻っ攫って逃げやがるしアヤのやつは前触れもなく行方不明!?
「なんでこんな非常事態に限ってそれに輪をかけようとするんだうちの女衆は!」
「それが女ってヤツなんだろ、諦めろウソップ」
いやいやいや何でそんなに達観してるんだよゾロ! 被害にあってんの俺達だぞ!?
どうするウソップ! お前の今するべき事はなんだ! 逃げるしかできねェけど!
逃げるっつったってメリー号はナミのやろーが持ってっちまったし……第一ナミが何処に逃げたかも分かりゃしねえ!
そもそもアヤのやつはなんで行方不明になってんだ! まさか海に沈んじまったんじゃ……。
いやそんなマヌケなやつでもなさそうだし……いろいろと底が知れねェやつだが仲間見捨てて逃げたってわけでもねーだろうし……。
あああああどうすりゃいい! 考えろウソップ! 今残ってるメンバーでお前が一番頼りだウソップ!
ルフィは何考えてるか分かんねえしゾロに至ってはドンクリークとやり合う気満々だ! 馬鹿か!
相手は三千人……いやギンのやつが大半は一人に壊滅させられたって言ってたな、一人で艦隊を瀕死に追い込むってどんな化け物だよ……!
だが瀕死になってようが相手はあのドンクリーク! 俺が宙返りしたって勝てる相手じゃねェ!
がんばれルフィとゾロ! 掩護射撃は俺に任せろォ!
「んで船長、結局おれ達ァどうすんだ? 戦闘か?」
「おまえらはナミを追ってくれ、おれはこの船のケリつけてくる」
「んじゃアヤのやつは?」
「あいつはいい、大丈夫だ」
「了解」
……おれが必死になって頭働かせてるうちになんか二人で決めてるし! 新入りだからって除け者にするなよ!
耐えろキャプテンウソップ……こいつらにいつかおれのすごさを分からせてキャプテンと呼ばせるその日まで!
……で? 結局おれはどうすりゃいいんだ?
「聞いたろウソップ、船長命令だ」
「え? お、おう戦闘だな! ええ掩護射撃は任せろ!」
「違ェよバカ、おれ達の船と航海士を追うぞ」
な、なんだ違うのか……ビビった、いやビビってねェビビってねェ!
しかし追うってどうやって追うんだ? アヤのやつみたいに飛ぶわけにもいかねえだろうし。
あ、そういやヨサクとジョニーの船があったな! あれ借りりゃいいのか!
「んでもナミのやつがどこに言ったかなんて分かんのか?」
「まだあそこにメリー号が見える、それ追ってけば問題ねェ」
マジか! ほんとだメリー号が向こうに見える……いやホントによく見えたなアレ。
目ぇ凝らさねェと分かりゃしねぇよあんなの、やっぱこいつらバケモノだ。
「じゃあアヤのやつはどうすんだ?」
「あいつはいいってよ」
「いやいいって……」
「大丈夫って事だろ、あいつの事構ってたらキリねェぞ」
……妙に手慣れてる感じがするな、まさか前にもこんなことあったのか?
いやちょっと出かけてくる気分で船降りられたらたまったもんじゃねェけど。
「あいつはいっつもそうだ、泣きそうなツラしてなんか探して人に構ってほしくてバカやってる」
泣きそうなツラァ?あいつがそんなタマなのか?
おれから見りゃあいつも十分バケモノだし底が見えねェ感じだし……。
「迷子になってるガキみてぇなもんだ、ほっといたら勝手に帰ってくるだろ」
「アイツだァ!!!首領クリークあいつです!!あの男です!!!我々の艦隊を潰した男!!!」
SIDE OUT
SIDE アヤ ~オーバークルーズ号 甲板~
「何故今貴方がこうして説教をさせられているのかお分かりですか?」
「……海軍港で叫んだからです」
「そうです、では何故貴方はあそこで叫んだのですか?」
「……ちょっとテンション上がっちゃって」
「確かに冒険の経験の無い貴方にはあそこは大変テンションが上がるシチュエーションだったのでしょう、しかしあそこがもしグランドラインの後半の支部だったら? 能力者も強者もたくさんいるでしょう、この船なんか一瞬で蒸発させてしまうだけの戦力がある、そんな状況でも貴方はテンションを上げて叫ぶことができたのですか? そう、貴方は少し考えが無さ過ぎる」
見てのとおり説教中なう、一発かるーく頭を殴ったあとに正座させて現在説教中。
全く役に立たなかったしねこの馬鹿、このまま海に突き落としてもよかったけどそれは俺の良心がストップをかけてきたので止めておいた。
ちょっとこいつには立場を分からせてやる必要があるからね、あと説教されるのはいやだけどするのって楽しいね。
いまなら夢の説教五時間ができる気がする……! まだ始まって三十分しかたってないけどこの勢いなら四時間半突っ走れるよ俺。
『……アヤ様、顔が笑ってますよ』
え? マジで? いけないな何か俺の開かれてはいけない扉が全力全開になったかもしれないな。
いやいやこの子を反省させるには仕方の無い事なのです、ふふふ。
「船長説教長いぜ……子供じゃないんだから一回きりで反省するって」
「あ?」
「なんでもございません反省しておりますなにとぞ御慈悲を!」
この野郎まだ反省が足りないと見える、こりゃあ説教の時間を延ばすほかあるまい。
いやこれは手遅れ過ぎて説教では反省できないのかもしれないな、だったら方法は一つしかあるまい。
即ち体罰、その身をもって俺の恐ろしさと自分の犯した業の深さを知るがよい。
「え? 船長なんで指を鳴らしながらこっちに来てってちょっと待って話せば分かる――」
「問答無用」
鴉は海に夢を馳せる
第二十三話 道に迷うとなんか一周回って楽しくなってくる
さてはれて俺の物となったこの船オーバークルーズ号、なかなかデカイね。
まぁサウザントサニー号よりはちょっと劣るけど二人と一匹住むにはやっぱり贅沢すぎるっしょ、キッチンに大浴場も完備されてるし。
ただ風呂が男女に分かれてないんだよね……交代で入るのかー、まぁ元男だし全然構わないがね。
覗こうものなら刃九郎のエアカッターが炸裂するからね、ニックのひき肉の完成だね。
ていうかキッチン広いんだけど、超広いんだけどなにこれ普通に宴会できるよこれ。
やばいな……ここに腕のいいコック置いたらまさにユートピアができるね、甲板から直だし甲板で宴会ってのも乙かな。
他は宝物庫と食料庫もあるし普通の小部屋も数個……医務室もあるけどニックは応急処置レベルっていってたな。
コックも欲しいけど医者も欲しいね、航海は……まぁなんとかなるといいな(願望)。
あとは雑魚寝室と砲弾とかが置いてある倉庫が船の最深部、大砲は十門か。
しっかしよくもまあこんな質のいい海賊船を仕入れたもんだ、あんなアホ男が。
あーさっさと他の仲間が欲しいね、あのアホ男だけが航海の頼りとか命綱なしのバンジーのほうがよっぽど生存率高いわ。
さっさと次の島……次の島?
あ、ログポース……忘れてた……。
いやいやまだ望みを捨てるには早い! あのアホ男が持ってるかもしれないし!
甲板に急いで飛び出すとマストにぶら下げられたアホ男が目に入る、滑稽……じゃなくて!
「ニック! 貴方ログポース持ってます!?」
「え!? まさか船長持ってないのかい!?」
あ、駄目だこりゃこの旅終わったわ。
いやいや! ちょっと待てちょっと待て!
「貴方自分の故郷の島からあのロッカーアイランドに行ったんでしょう!? どうやって行ったの!」
「おれの故郷の島はロッカーアイランドよりもグランドラインを進んだところにあるからログポースじゃ行けなかったんだよ! だからエターナルポースで来たんだ!」
くそっ! なんてこった! やっぱこいつ頼りにならん!
あーもうどうするんだよロッカーアイランドに行こうにも完全に入った瞬間海兵に囲まれるのは目に見えてるし!
「なら貴方のエターナルポースで貴方の故郷に向かいますよ!」
「……それならとっくに捨てちまったよ、男に帰る故郷は要らないのさ」
こいつ殺す! マジで殺す!
どうするんだよ完全に将棋やチェスで言う詰みの状態じゃねーか!
こんな広い大海原にこんな阿呆と二人きりで遭難とかいやだー! 絶対やだー!
『アヤ様……二時の方角に船が見えます、おそらく他の海賊船かと』
それは本当かい刃九郎! やっぱ頼れるのはお前だけだわ!
よしその海賊船にログポース譲ってもらおう! あとついでに宝と食料も譲ってもらおう!
「ニック! 舵を二時の方角に!」
「へ? それはいいけどこの縄ほどいて欲しいな船長」
「自分でほどく! とっとと動く!」
やはり天はこの俺を味方している……! 風はッ! 『俺に向かって吹いている』!
もはや恐れることなどなにもない! 天が味方している以上俺は無敵だ!
いかんフラグに見えてきた、いやまぁログポースは手に入ったも同然だしね、テンション上げてもいいよね!
「面舵いっぱーい」
その緩い感じむかつくなこの野郎、一体誰のせいでこうなったと思ってやがる。
まぁ船を運んできてくれたことには素直に感謝するがな、同時に厄介事も運んできたけど。
あーもう遅い! もう俺一人で行く!
『私はどうしましょう』
「留守番よろしく!」
大体距離にして二百メートル! 大きさはこの船よりも小さい! 旗は新聞読んでるけど見たこと無い!
相手は弱小←結論、楽勝だね……んじゃ行きますか! 俺に見つかった不運を呪うがいい!
うんフラグって訳でもなくただの雑魚海賊団だったわ、船長も無名で顔面ワンパンKO。
あーなんか逆にテンション下がるわ、面白みに欠けるっていうかね。
そんなこんなでものの二分で敵船は全滅、船長は現在ピクリとも動かないってことはご臨終?
まぁ身も知らない奴のことなんかどうでもいいさね、うんちゃんと腕にはログポースつけてるって事は夢を持って海に出たんだね。
可哀相にね、まぁ世の中弱肉強食……弱いやつが悪い。
しょぼいお宝とそこそこの食料を甲板に出してたらちょうどオーバークルーズ号が近づいてきた。
遅いっての、もう終わっちゃったよ。
本当に役に立たないやつ、全く先が思いやられるわ。
「船長ご無事……ですよねー」
「遅い、ログポースは手に入ったからさっさと次の島に向かうわ」
「了解」
さてさて次の島はどんな所かな、面白いところならいいな。