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No.3547の一覧
[0] パストーレ中将一代記-ある俗人の生涯-(現実→銀河英雄伝説)[パエッタ](2009/02/13 06:38)
[1] 第2話 逃げろや、逃げろ [パエッタ](2008/07/25 19:54)
[2] 第3話 大逆転??アスターテ星域会戦の巻(上)[パエッタ](2008/07/25 19:51)
[3] 第4話 大逆転??アスターテ星域会戦の巻(中)[パエッタ](2008/07/25 19:53)
[4] 第5話 大逆転??アスターテ星域会戦の巻(下)[パエッタ](2008/07/25 19:50)
[5] 第6話 ハイネセン、痴情のもつれ経由(上)[パエッタ](2009/01/03 04:03)
[6] 第7話 ハイネセン、痴情のもつれ経由(下)[パエッタ](2009/01/06 01:38)
[7] 第8話 パストーレ、大地に立つ!(上)[パエッタ](2009/01/26 08:44)
[8] 第9話 パストーレ、大地に立つ!(下)[パエッタ](2009/02/13 05:48)
[9] 第10話 ヤン・ウェンリーとパストーレの迷惑な一日(上)[パエッタ](2009/02/13 05:51)
[10] 第11回 ヤン・ウェンリーとパストーレの迷惑な一日(下)[パエッタ](2009/02/19 14:37)
[11] 第12話 出撃準備!(CVは中尾彬)[パエッタ](2009/09/08 23:09)
[12] 第13話 大逆転??第七次イゼルローン攻防戦の巻(上)[パエッタ](2011/07/06 18:50)
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[3547] 第8話 パストーレ、大地に立つ!(上)
Name: パエッタ◆262bb6b8 ID:2fbba695 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/26 08:44
私はヨブ・トリューニヒトです。
去年は1億6000万人が「自由惑星十字軍」に参加しました。
「自由惑星十字軍」は、あなたが専制主義者と戦うためのチャンスです。
今すぐ、ハイネセンシティのフリープラネッツビルか、地域の「自由惑星十字軍」に募金して下さい。

                            ――宣伝映画「自由惑星十字軍」より




1.建国者達の黄昏
「今なんとおっしゃいましたか?」
 ラップは衝撃を受けた。
「フェザーン回廊方面から艦隊で侵攻できないか、と。」
 俗人は自慢げに言った。
「しかし、フェザーンは100年以上に渡る不可侵中立の」
 ラップの言葉は、次の俗人の言葉によってさえぎられた。
「なぁ、ラップ君。誰がフェザーン回廊が平和の海だなんて決めたんだい?」
 完璧に原作のユリアンの二番煎じである。正確には、ヤンの三番煎じである。
 俗人は、まさしく俗物だったから、気にしないで自慢げに言ったが。
 しかし、ラップには衝撃を与えた。
 この時代の固定観念を完全に崩されたからだった。
 人間の認識や前提というのはおおよそ社会のそれから外れることはない。
 だからこそ、異邦人たる俗人の意見を夢想だにしなかったラップは衝撃を受けた。
「実際、さっき言ったラインハルトの同盟領への侵攻だってフェザーンを通ったんだ。」
 満足げに俗人は言った。ラップを驚かしたからだろう。そして、続ける。
「そして、カイザー・ラインハルトに出来たことが、俺達に出来ないと思うか?」
 それは、どうでしょう?とラップは、衝撃から回復したのか苦笑した。
「あーもう!じゃあ、トゥルナイゼンでいいよ!って知らないか。」
 ええ、誰ですか?それに、あの白い船の指揮官がカイザーですか、
 ヤンあたりは賛成しそうですね、とラップは応じた。
「とにかく、フェザーンを併合するしか同盟が生き延びる道はないよ。」
 俗人は、何か苦そうにいった。
 そして、フェザーンを占領する理由を幾つか挙げた
 第一に財政的にである。同盟の国家財政は、もはや破綻寸前である。
 フェザーンを併合し、フェザーン政府保有の国債をチャラにするしかない。
 勿論、経済的混乱を防ぐ為に、フェザーン政府保有の国債はハイネセン中央銀行に引き取らせることになるだろうが、
 当分返す必要はなくなり、税収も増えて財政は今よりは健全化するだろう。
 第二は経済的にである。そもそも資本主義経済の同盟が、帝国に遅れをとるのは経済が制度的に問題があるからである。
 俗人は、これは統計に基づかない仮説だけど、と前置きした上で、おそらく同盟の経済はフェザーンとの貿易において、
 著しく不利になっているはずである。なまじ、帝国の状況が分からない為にボッタクられている可能性が高いはずである。
 勿論、同盟の経済が利権政治と無意味な規制によって、健全な成長を妨げられている可能性はある。
 しかし、規制というのは経済を成長させるトリガーになる場合も多く、フェザーンの経済操作の方が変数として大きいはずである。
 故に、フェザーンを併合すれば、その経済規模もあいまって相当の経済効果が長期的には見込めるはずである。
 第三は社会的にである。同盟は建国期と違って社会が発展してきたことに加えて、社会不安の増大の為に、
 少子高齢化が進みつつある。ここに多産かつ人口の多いフェザーンを加えれば、人口的問題は解決することが出来る。
 第四は軍事的にである。一旦、フェザーンを占領すれば、回廊を守るのは少数の軍事力で済むことである。
 それに、フェザーンの出口は経済的に発展した貴族領やら直轄地など、帝国の柔らかいわき腹が盛りだくさんである。
 これを脅かせる地点を占領すれば、帝国に対して経済的・軍事戦略的にかなりの制約を与えることができよう。
「勿論、ゲームじゃないから国力が同盟+フェザーンにそのままなるとは思わない。
 でも、以上の四点の理由で同盟はかなりの間、延命できると思うんだ。」
 続いて、俗人は軍事的にどのように達成するかを説明した。
 第一段階、敵に可能な限り先んじてフェザーン回廊に侵入し、帝国側出口を占領する。
 そして、出来るだけ分厚く機雷封鎖を行い、野戦陣地を構築する。
 第二段階、フェザーンへの占領を第二梯団を用いて行う。
 これは、フェザーン政府内の協力者に自治領主になって協力してもらうのが望ましい。
 なお、同時期あるいは以前の段階にイゼルローン方面から陽動をかねて小規模艦隊に陽動と牽制を行わせる。
 第三段階、ゼッフル粒子などを用いて、機雷封鎖の穴から侵入する帝国軍を各個撃破する。
 もし、ラインハルトが来なかったら、というより来なくていいのだが、挑発行為を繰り返し、貴族軍の出戦を狙う。
 そこで、最悪でも引き分けに持ち込み、フェザーンの自由惑星同盟への編入を宣言し、一連の戦役の勝利宣言をする。
 その後は、逆撃に転じるもよし、あるいは、帝国各地の軍需施設や水素工場などに嫌がらせの戦略ミサイル攻撃を行うもよし。
 政府には、ここらへんの勝利で納得してもらい、フェザーン・イゼルローンの防衛線を形成し、帝国の内戦なり疲弊を待つ。
「とりあえず、いまここで思いつくのはこんな感じかな?あれ?ラップ君」
 俗人は、一方的にしゃべり終わると、ラップが呆然としているのに気が付いた。
 
 ラップは衝撃を受けていた。
 当然だった。
 この世界では、恒星間での戦略機動なるものは銀河連邦成立以降の800年間途絶えて久しい。
 そして、戦域間での機動さえ、イゼルローン要塞成立以降は、ほとんどなくなった。
 逆に、戦術機動及び戦場機動のみが多用されるようになり、それに長けたと見做された
 ホーランド、ミッターマイヤー、ファーレンハイト、フィッシャー、ビッテンフェルトは、「有能」であると判断された。
 そして、その傾向は特定方面からの防衛及びイゼルローン要塞攻略にのみ従事するようになった同盟では特に強かった。
 だからこそ、戦略機動においてもミッターマイヤーに劣らぬフィッシャーの出世が相対的に遅れもする。
 この時代における戦争観はそうしたものだった。
 それ故に、戦略機動を重視する「機動戦」、陣地防御を重視する「消耗戦」、治安維持を重視する「対叛乱戦術」
 の議論が盛んな時代から来た俗人の意見は、ラップにとって非常に斬新かつ有効に思えたのだ。
 そして、その構想には、多くの問題や困難があるようにも思えたが、フェザーンからの侵攻作戦に
 含まれたエッセンスである戦略爆撃、戦略機動の概念は、そうした感情を上回る興奮をラップに与えた。
 そう、用兵家としての本能を刺激したのだ。
 そして、それが既に衰退過程に入りつつある同盟を救うだろうということも彼を興奮させた。
 だから、ラップは……
「……色々と検討すべき部分はあると思います。」
 とりあえず、それだけを口に出し、そして、
「しかし、大変興味深いお話です。
 決行の際は、私も参加したいものですな。」
 ラップは、微笑った。
 パストーレの基本構想を実行した場合、何人の死者を生み出すのか、
 そして、その幾倍もの悲劇を作り出すかを知ってて微笑った。
 だからこそ、
「この話が終わった後で、少しお付き合いしていただきたいところがあるのですが、宜しいですか?」


2.病院船見学

 アレシウス級病院船ザルマは、建艦より10年、幾多の戦闘に従事してきた。
 そして、第三次ティアマト会戦以降、壊滅した第11艦隊より第4艦隊に移籍して以来、
 初めての客人を迎えようとしていた。
 それは艦隊司令のウィリアム・パストーレ御一行だった。
 パストーレ以下、ビューフォート准将、ラップ少佐、ドールトン大尉の4名だった。
 参加者の人数の少なさと面子のバラバラさが、この「見舞い」の突発性を表していた。
 だからこそ、ザルマ艦長のフォルキッシャー・ベレンコフ少佐は戸惑っていた。
 そもそも、パストーレは、病院船の見舞いを行うタイプではない。
「まったく、なんだってんだ……」
 ベレンコフは、年齢相応にやや突き出した腹を撫でながら言った。
 出世には興味がなく、蓄えた口ひげの手入れと、彼の給料には見合わない高級車の手入れ
 が趣味の彼には、パストーレの気ままな行動が腹立たしく思えたのだ。
 だが、迎えないわけにも行かない。
 結局、彼はにこやかな顔をして、シャトル進入口で俗人を待ち受けることにした。

「やや!お疲れ様!」
 パストーレは、病院船ザルマに降り立つと出迎えの人間達に向かって太平楽に挨拶した。
「ようこそ、ザルマへ。」
 そんな俗人をベレンコフ艦長が、にこやかに出迎えた。
 そして、俗人はベレンコフ艦長に手を差し出すと、早速だが、病室へ案内して欲しいと頼んだ。
「了解です。ですが、何故に突然?」
 俗人は、その艦長の疑問には答えられなかった。
 まさか、フェザーン侵攻を話したら、ラップ少佐に誘われたので――と言う訳にもいかない。
 俗人が一瞬まごつき、ベレンコフ艦長が内心で「気まぐれか?」と腹立てる前にラップが進み出た。
「……今回は特に激戦だった為に、いつになく兵に無理を強いたとの閣下のお考えゆえです。
 残務処理に司令部がまごつき、突然の訪問になり、艦長以下にはご迷惑かと存じますが、
 宜しく受け止めていただければ幸いです。」
「う、うん。そうなんだよね」
 俗人は、慌ててラップの発言を肯定した。 
 ベレンコフは、なるほど、そうですか、と言うと俗人達を案内し始めた。


「ていうかさ、君達、何だって来たのよ。ビューフォート君もイブりんも」
 ベレンコフが案内する後ろで、俗人が小声で問いかけた。
「いいじゃないですか、首席副官って仕事ないんですから。
 ていうか、イブりんって、変なアクセントやめてもらえます?今度言ったら……」
 P2Pで俗人の情けない姿をバラすぞ、とドールトンが脅したので、
 パストーレ(田中)は、首席副官にしろっていったのは貴様だろうが!
 と叫びたいのを耐えて渋々、ドールトンさん、ごめんなさい、と言った。

 そうした光景を、ビューフォートは、肩をすくめて見ていた。
 ビューフォートは、自分を扱いにくい小銃だと思っていた。
 性能には文句の付けようもないが、反動や保守性は極めて悪い銃だと思っていたのだ。
 性質の悪いことにそれは当たっていた上に、彼自身がそれを気に入っていた為に性質が悪かった。
 何故ならば、彼に言わせれば同盟軍首脳部は「無能揃い」でビューフォートを扱うに足らなかったからだ。
 この考えはある意味正しく、間違っている。
 同盟軍将帥は、戦術機動レベルにおいては帝国軍の七元帥に劣らないだろう。戦域レベルだってそうかもしれない。
 実際、アップルトン中将でさえ、疲弊した状態で、ミッターマイヤーとビッテンフェルトを相手に戦線を維持し続けたし、
 ドーリア戦域の戦術レベルにおける第11艦隊首脳部、ランテマリオ会戦で極めて優勢なワーレン艦隊を少数ではじき返したモートンや、
 20倍の兵力のワーレンを三時間も食い止めたデュドネイ、戦術レベルで敢えて戦意を暴走させることで、あのミッターマイヤーを圧倒したザーニアル准将及びマリネッティ准将、
 たった6000で七元帥相手に主戦線を支えたパエッタは特筆に価する。
 ボロディンやウランフは言うまでもない
 しかし、恒星間の戦略機動や国家戦略、軍事戦略、戦術の有機的な結合という面ではにおいては怪しいだろう。
 ローエングラム王朝時代において、カイザー・ラインハルトの登場によって、
 戦略機動の概念と国家戦略、軍事戦略、戦術の有機的な結合が各帝国軍将帥によって叩き込まれた後は特にそうだ。
 (もっとも、レンネンカンプやケンプ等の存在を考えれば、そこまでいうのは酷だが)
 同盟軍の将帥たちはヤンを除いて、戦略機動の面で劣勢に立たされている。
 ランテマリオにしたって、もう少し、ビューフォートの通商破壊作戦の規模を大きくするか、連携を試みてもよいにもかかわらず、
 そうした気配はなかった。
 そういう同盟軍の危うさが見えるビューフォートは、かつては戦略機動の概念と国家戦略、軍事戦略、戦術の有機的な結合をうったえたこともあった。
 帝国領土への戦略爆撃や同盟領内での焦土作戦による敵の殲滅などを訴えもした。
 若き日のチェン・ウー・チェンと精力的に研究会を開き、普及活動もしたりした。
 しかし、そうした行動はイゼルーロン周辺の戦術的展開、よくて戦域的展開を考えればよいとし、100隻単位での戦闘行動に固執する
 軍首脳部には通じなかった。
 結果、チェン・ウー・チェンは統合作戦本部から国防大学教授に「左遷」され、
 (ただ、教育ポストに回したことから、かならずしも「左遷」ではないという指摘も存在する。)
 参謀として期待されたビューフォートも同じく統合作戦本部から第四艦隊の分艦隊司令に「左遷」された。
 そして、史実では第四艦隊消滅後に、辺境艦隊にまで飛ばされてしまった。
 だからこそ彼は、生来の気難しさを加速化し、世捨て人のような態度を分艦隊の外では取り、
 分艦隊の指揮やその範囲での任務に没入した。
 
 しかし、評価を大幅に変えることになったパストーレの「変貌」は、そうしたビューフォートの主義を変えることになりそうだった。
 彼こそが、自分を扱いこなし、かつ新たな軍事パラダイムを理解する理想の将帥に思えたからだ。
 だからこそ、彼はもうすこし、パストーレを見極めたかったのだ。彼と彼の愛する部下が従うに足るかどうかを。
 せいぜい、楽しみにさせていただきましょうかね、とビューフォートは、こっそり思うのだった。



3.お見舞いはシヴァを越えて

「彼は、クルラック・アブリゲ軍曹です。負傷は全治二ヶ月です。」
 パストーレが、病室に入って最初にベレンコフから紹介を受けたのは彼だった。
「よろしく、アブリゲ軍曹。」
 右肩を負傷したのか、包帯が痛々しい。
 へぇ、どうもとパストーレの握手に応じる軍曹に、俗人は負傷の理由を聞いた。
 軍曹曰く、どうやら駆逐艦の対空砲座が崩壊した際に、救助に向かい負傷したとのことだった。
 それは、凄いね、立派だねぇ!と俗人は、褒めてご家族は?と聞く
「へぇ、御家族なんていうほどじゃぁありやせんが、坊主と穣ちゃんが二人づつと女房がおりやす。
 ……子沢山だと思うでしょうが、半分は女房の連れ子でしてね。
 半年たつのに俺をおじさんとしか呼んでくれないのが悩みでさぁ。困ったもんですぜ。
 しかし、これでもう一回チャンスができたってことです。
 だから、まぁ、閣下には感謝していますよ。」
 俗人は、胸に詰まって、いやいや、というと君達の奮闘のお陰だよ、と言った。
 本当は謝りたかった。自分が生き残ることしか考えてなかったと。
 だが、それは偽善でしかなかった。自分が謝りたいだけの我侭でしかなかった。
 かつて、田中が会社を突然死んだ親から引き継いで二年目に業績が悪化してしまったことがある。
 田中が帳簿の処理を誤るなどのミスを連発したからだった。
 そこで、自分の責任だとして社員に謝ろうとしたことがあったが、友人であり部下の山田二郎に止められた。
 謝っても何にもならないと。
 確かに謝れば本人の精神的にはいいだろう。しかし、それで責任は薄れ、原因はうやむやになってしまう。
 謝られた方だって、社長の田中の力で業績が悪化したと思うのは不愉快だろう。
「ガンダム一機の働きで戦局が動くものか!」、「謝ってすむなら警察はいらねぇよ」と。
 そういう風に説得を受けた田中は退職を募る時以外は詫び言を口に出さずに、
 必死に働いて立て直し、五年目には業績をあげる事が出来たのだった。
 
 そうした経験があったからこそ、相手を尊重するが故に、俗人はアブリゲ軍曹に詫びずに、褒めたのだった。
 その後も、俗人は何人かの病人を、ベレンコフに紹介を受けて見舞っていった。
 ビューフォートが手馴れていたので、俗人はそれを見習ったこともあり、段々と堂に入っていった。
 ただ、皆、活躍した「英雄」ばかりだったのが気になったが・・・
 そして、ベレンコフが、次の部屋に移動しようと促した時に部屋の隅が気になった。
 落ち込んで泣いているような若者がいたのだ。
 彼は?と俗人がいぶかしげに尋ねた。彼こそ、見舞うべきだろう、そう言いたかったのだ。
 ベレンコフは、いえ時間も有りますし……と婉曲に止めようとしたが俗人は無視することにした。
 俗人はラップにベレンコフの相手をさせると部屋の奥へと入っていき、
 その若者に声を掛けようとしたが、一瞬戸惑ってから声を掛けた
 左手以外の四肢が無くなっていたからだ。
「君の名前は?」
「ヨシュア・ジョンストン少尉です。
 グエン分艦隊第二集団第六戦隊所属、駆逐艦ルグラークの航法士官でした……」
 そうかい、とパストーレは頷き握手を求めた。
 ヨシュア・ジョンストンには右手がなかったので、左手を俗人は差し出した。
「助かってよかったね。年は幾つだい」
 俗人は、右手を添えて両手でジョンストンの手を包み込むと、何とかそう言った。
「19です。」 
「そっか、若いのに大変だったね。でも無事でよかった。立派に戦ったんだね」
 そういうと、ジョンストンは突然泣き出した
「いえ……いえ、そうじゃないんです。自分が航法を上手くやれなかったせいで、
 ルグラークは、ルグラークは大破して、みんな、みんな……」
 俗人は言葉につまり、ジョンストンの左手を握りながら肩をさすってやることしか出来ずにいた。。
 と、ドールトンが黙って手元の端末をいじると俗人に差し出した。
 その端末には駆逐艦ルグラークの顛末が書いてあった。
 ナガシノ会戦(アスターテ第一次会戦)の劈頭、パストーレの直属分艦隊に所属していた駆逐艦ルグラークは、
 隕石群及び機雷などを利用した「野戦陣地」に進入するも、壊乱状態で各艦が進入した為に、
 先行する戦艦を避けようとしたものの、失敗。隕石に激突し、大破したとのことだった。
 乗組員は30名。生存者は……航法担当のヨシュア・ジョンストン少尉のみ。
 それを読み終えると、俗人は、何かが苦く思えた。
 隕石に衝突したのは30隻。人的損害は1000から3000人。
 まぁ、そんなものかと。所詮は、アニメの世界だしなぁ。
 あの時は、そう思えたんだよな。
 だが、両手から伝わってくるのは、確かな生命の実感と、自分が殺した多数の死者だった。
「すみません、すみません……俺のせいで艦長も、先輩もみんな、みんな。」
 しゃくりあげながら、そういうジョンストンを見て、パストーレは言葉を切り替えることにした。
「ジョンストン君、それは君の責任ではない。
 あの状況で訓練もなしに、突然の作戦変更に対してよくやってくれた。
 それに君が戦艦に直撃していれば、死者は200人を超えていただろう。
 いや、事故が連鎖すれば被害は拡大し、会戦に重大な影響を与えていただろう。
 私が君達に限界以上のことを要求したにもかかわらず、君達は見事にベストを尽くしたのだ。
 そう、君は自由惑星同盟建国以来の、リン・パオとユースフの子孫として見事な役目を既に果たしたのだ。」
「あ、ありがとうございます。でも……」
 俗人は遮って聞いた。ご家族はいるのかね?
 ジョンストンは、それに対して母親が一人いると言った。
 父親は既にイゼルローン攻略作戦で死んだという。
 俗人は、ジョンストンの両肩を握った。
「元気を出しなさい。
 ヨシュア、君は最善を尽くしたのだ。
 これからは軍務を離れてお母さんに孝行するべきだ。
 それにね、私は安心しているんだ。
 ある親子が二代続けて、祖国に死んで報いることがなくなったと。
 腕や足を無くしてまで国家に献身したんだ。これ以上は過剰というものだよ。
 これからは、生きて存在し続けることで死んだ人たちに報いるんだ。
 もし義手や生活で困るようなら私に相談に来なさい。」
 そう俗人は言い切った。
 らしくないな、と思ったが違和感を感じた。
 ヨシュアにではない。彼は呆然とし、泣いていた。
 なにしろ、相手は百万人単位の長なのだから、当然なのかもしれない。
 しかし、俗人は別の声が背後から聞こえるのを感じた。 
 その病室にいた皆がすすり泣いていたのだった。


4.友情の始まり
 アレシウス級病院船ザルマからパストーレのシャトルが離艦していく。
 それをベレンコフ艦長は直立不動で敬礼をしていた。
 あれから、俗人は精力的に活動し病室を回りに回ったのだった。
 元が中小企業の経営者ということもあり、彼のお見舞いは上手くやれた。
 ベレンコフは驚きつつ、俗人を認めざるを得ないと思った。
 今までの指揮官は戦意高揚の為に、「英雄的な負傷者」のみを見舞いたがったし、
 ムーア中将などはジョンストンのような人間を見ると明らかに罵声を飛ばした。
 だからこそ、彼は意図的に高級将官の見舞いは誘導的にしたし、それに嫌気がさしてもいた。
 だが、パストーレは普通の経営者が部下に接するように応対し、
 彼の部下であるドールトン、ラップ、ビューフォートもそうだった。
 とても、近年の同盟軍における短絡的な軍事ロマンティシズムとは無縁のように思えたのだ。
 実際は、俗人の行動とて軍事ロマンティシズムの範疇なのだが、ベレンコフはそうは考えなかった。
「少しは、面白くなりそうかな……」
 彼は、自分の予想は半分辺り半分外れていたことを後に知る。

 
「ねぇ、ラップ君。俺を試したんだね。最終試験てやつかい?」
 ラップは、そう苦笑しながら尋ねる俗人に、ええ、そうです、申し訳ありません、
 と言って、シャトルのキャビンにあるバーの中で頭を下げた。
 ラップは、俗人に着いて行こうと決めた。彼の方針の正しさも認めた。
 だが、彼の将器と人間性を見極めたかったのだ。
 少なくとも銀河をゲーム感覚で遊び続けるような男なら粛清しなければならない、そう覚悟していたのだ。
 だから、ラップは、今日の様子を見させていただいた結果、誓約します、
 貴方が同盟を救う将帥であり続ける限り、無限の忠誠を誓いましょう、と言った。
 そんなラップに俗人は、有難うと言った。
 俗人は、ラップがそういってくれたのが嬉しかったし、自分の考えの甘さを突かれたからだった。
 確かに、自分はこの世界の人間なんだという覚悟が薄かったと。
 自分がアニメや小説で見た世界とはいえ、今の彼にとってはこれが現実であり、そこで生きている人間達が多くいるのだと。
「飲むかい?」
 俗人の薦めにラップは従った。
 ウィスキーを自分のグラスに注いでもらうとラップは呷った。
 そして、ラップは、今度は同じように俗人に注ぎ、俗人は同じように呷った。ちょっとむせてしまったけれども。
 だが、それは二人のある種の契約、本当に意味での絆を作る儀式だったのかもしれない。
 それが早弁提督と名参謀のコンビの本当の始まりだったと、ラップは後に回想することになるのだった。

 ビューフォートとドールトンは、そういうラップと俗人の光景を眺めていた。
 ドールトンは、ビューフォートの中央時代に、彼の研究会に出入りし、
 ある程度の親交があったから、二人で話していたのだ
「男の友情ってのはいいもんだね。ああするだけで作れるんだから」
 ビューフォートは、そう楽しそうにぼやいた。
 将器、まさに俗人は、その持ち主であるように思えたのだ。
 軍才と将器、あとは自分が智謀と戦術レベルでのマジックを提供すれば
 銀河の統一さえ夢ではない。そのようにさえ思えた。
 勿論、それは壮大な買いかぶりだった。
 軍才に関しては、たまたま俗人が軍事パラダイムにおいて、
 この時代よりも結果的かつ大幅に進んだ時代から来たウォーゲーマーだったからに過ぎないし、
 将器についても単なる俗物の優しさの発露がそう見えただけかもしれない。
 だけれども、このひねくれやの天才は、意外と感動しやすい寂しがりやだったから、
 パストーレを認めたのだった。初めての上官として。
 もっとも、それをあからさまに言うことは無かったけれども。
「貴方もそうなんですか?あの提督を認めるのですか?」
 だから、ドールトンがそういうとビューフォートは切返した。
 君はどうなんだい?と。
「……何もしない御気楽な立場を手に入れたって喜んでいた、
 それも、あんなにパストーレの旦那を馬鹿にしていた君が、
 旦那を手助けしてやるとは驚いたよ。」
 少し意地悪そうにビューフォートは言った。
 それは事実だった。
 ジョンストンの時に、俗人を助けてやって以来、
 一応副官として、不慣れな俗人のお見舞いを陰ながら助けてやったのだ。
 あるときはさり気無く患者のデータを教えてやったり、
 スケジュールを調整して可能な限り見舞えるようにしたり
「そ、そりゃぁ!あんな姿を見たら可哀想じゃないですか。
 あんな腰抜けのオジサンに下手なお見舞いされたら彼らが可哀想過ぎるって思ったからで……
 絶対に、私はビューフォート先輩と違って、上官として認めたわけじゃないんですかねっ!」
 ちょっと慌ててドールトンは食って掛かった。
 ビューフォートは、わかったわかった、俺は混ざりに行くが来るか?と言った。
 ビューフォートの目論見は当たった。 
 ドールトンは、それを丁重に辞退するとブツブツ文句をいいながら、シャトルの自分の席に帰っていったのだ。
「まったく、俺以上に素直じゃないんだから……」
 ビューフォートは、ジョンストンと俗人の会話の時に、イブリンが泣いていたのを見ていたのだ。
 


つづく

次回予告
第9話 パストーレ、大地に立つ(下)
ついにハイネセンの大地に降り立つパストーレ。
待っていたのは大歓迎のヨブたん、会ったことも無い自分の娘、そしてトリューニヒトを告発する女性だった。


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