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No.3547の一覧
[0] パストーレ中将一代記-ある俗人の生涯-(現実→銀河英雄伝説)[パエッタ](2009/02/13 06:38)
[1] 第2話 逃げろや、逃げろ [パエッタ](2008/07/25 19:54)
[2] 第3話 大逆転??アスターテ星域会戦の巻(上)[パエッタ](2008/07/25 19:51)
[3] 第4話 大逆転??アスターテ星域会戦の巻(中)[パエッタ](2008/07/25 19:53)
[4] 第5話 大逆転??アスターテ星域会戦の巻(下)[パエッタ](2008/07/25 19:50)
[5] 第6話 ハイネセン、痴情のもつれ経由(上)[パエッタ](2009/01/03 04:03)
[6] 第7話 ハイネセン、痴情のもつれ経由(下)[パエッタ](2009/01/06 01:38)
[7] 第8話 パストーレ、大地に立つ!(上)[パエッタ](2009/01/26 08:44)
[8] 第9話 パストーレ、大地に立つ!(下)[パエッタ](2009/02/13 05:48)
[9] 第10話 ヤン・ウェンリーとパストーレの迷惑な一日(上)[パエッタ](2009/02/13 05:51)
[10] 第11回 ヤン・ウェンリーとパストーレの迷惑な一日(下)[パエッタ](2009/02/19 14:37)
[11] 第12話 出撃準備!(CVは中尾彬)[パエッタ](2009/09/08 23:09)
[12] 第13話 大逆転??第七次イゼルローン攻防戦の巻(上)[パエッタ](2011/07/06 18:50)
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[3547] 第7話 ハイネセン、痴情のもつれ経由(下)
Name: パエッタ◆262bb6b8 ID:2fbba695 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/06 01:38
『え、ジャン・ロベール・ラップの士官学校時代について語れ?
 ああ…面白い奴だったよ。有害図書を閲覧するクラブを作ったり、アッテンボローやヤンと悪戯を企んだり…
 おまけに士官学校の職員の娘をナンパしたりとやることはやってたしなぁ。
 だが、有能だったのは確かだな。これは私が言わなくても散々言われていることだが。
 でもね、あいつはオカルト好きのところがあったのは意外だろ?
 有害図書の読み過ぎだって、同期の間では、そういう冗談が流行ったものさ。』 
                             ある同盟軍退役将校の証言
                             ユリアン・ミンツ編『オーラルヒストリー、同盟軍戦史』退役軍人連絡協議会

 

1.褐色の苦悩
 イブリン・ドールトン大尉は褐色の美人だ。
 おそらく、オリビエ・ポプランなどに評価させれば、唇が薄ければ完璧だ、とでも言うのだろう。
 彼の毒舌家としての評価を考えれば、それは絶賛に近い。
 彼女は、フレデリカ・グリーンヒルと同期であり、にもかかわらず同じ階級に出世できたのは、
 彼女の努力の賜物の結果である。そう、彼女は将来を嘱望されていた。
 しかし、それが後方勤務本部から前線の一航海参謀、それも第四艦隊司令部ではなく、
 パストーレ直率の分艦隊司令部としてだったのは昨年にあったスキャンダルの為だった。

 ドールトンは自室でぼんやりとしていた。
 かつての彼女は、ましく才媛であったが、今では最低限の仕事はこなすものの怠惰な女性士官でしかない。
 なんで、こうなったんだろうなぁ……彼女は思い出す。
 ジョージ・マルティン中佐は、ドールトンが後方勤務部戦力整備局第一課時代の上司だった。
 最初は、妻子持ちの頼れる、尊敬する上司だった。
 それがいつしか恋愛感情に変化し、依存するには配属されてから時間がかからなかった。
 それまで、優等生であり、恋愛にまったく興味の無かったドールトンは嵌った。
 遅すぎた春は、彼女を夢中にさせた。相手が妻子持ちであろうと関係なかった。
 マルティンは、男性的魅力に富んでいたし、その手のことは得意だったのだ。
 ただし、彼には欠点があった。
 彼は同盟軍士官としての意識が乏しく、世間とは独特の倫理観を持っていたことである。
 つまり、軍事物資の横流し、軍需投機家へのインサイダー情報の提供を含む結託を副業としていたのである。
 マルティンは、ドールトンを自分に溺れさせると、彼の副業を手伝わせることにした。
 勿論、甘言を使って序々にかつ着実にである。
 マルティン中佐の副業は、ドールトンの能力のお陰で以前にも増して大繁盛することになった。
 しかし、それがいけなかった。規模が拡大した為に、査閲部がマルティンの副業に感づいたのだ。
 それは、間一髪だった。マルティンは、査閲部の実行部隊から逃れると、
 ヴァンフリート会戦のどさくさに紛れて、帝国軍に亡命してしまったのだ。
 その後は、ドールトンにとっては思い出したくもない。
 査閲部の微細に渡る屈辱的な尋問、マルティンの妻子からの非難と罪悪感、
 上層部が彼女の能力を惜しんだことと、派閥力学や国防委員の選挙対策の都合によって
 事件が闇に葬られたことで、左遷ですんだもののエリートコースからの明らかな転落。
 そして、一部の事情を知るものからの軽蔑の視線。
 マルティンが憎い。その憎しみが純粋なものだけで構成されていないことが、なまじ分かるだけに憎い。
 しかし、貧困の中で自分を育ててくれた両親は既に無く、栄達も望めず、人間不信に陥り、
 生きる理由を失っていた彼女を生かしたのは、その憎しみだった。
 とはいえ、帝国に亡命したマルティンに復讐する術はなく、結局、怠惰な女性士官として、最低限の仕事をこなすのみだった。
 実際、アスターテ会戦では、早弁するパストーレと、上官の変貌におたおたする副官のブルック大尉を眺めながら、
 弁当を3つ平らげていた。
 パストーレは、「見かけによらず、随分食べる子なんだねぇ、ブルック君」と感心したものだ。
 もっとも、自称グルメの彼は茄子と挽肉のカレー弁当に始まり、レーションを四つ消費していたので人のことは言えないが。
 
 そろそろ、休憩時間も終わりね。
 そう思い、ドールトンがいつの間にか零れた涙を拭いて、職務に戻ろうとした時、艦内放送が流れた。
 艦隊の前方にて、帝国の情報工作艦と接触。没落男爵率いる18名の将兵を拿捕し、
 その中に元同盟軍将校のジョージ・マルティン中佐が紛れており、司令部要員はブリッジに参集せよとのことだった。
 しばし、思考をめぐらすと、彼女は、元の有能かつ勤勉な士官に立ち戻った。
 ただし、それは、かつてのように国家の為でも、男の為でもなく、自分自身の怨念返しのためだったが。


2.痴情のもつれ

『それは本当かの?パストーレとやら。』
 ええ、保障しますよ。
『よろしい。そちに降るぞよ。』
 助かりますよ。タナンチャイ君、伯爵様ご一行に粗相のないようにね!
『わしは男爵じゃよ。ほほ、そちは面白い奴じゃの。将軍、縁があったらまたの。』
 かくして、お家再興の為に、同盟内部での危険な工作活動に乗り出してきた
 マロン・フォン・マローノ没落男爵率いる18名は丁重に連行されていった。
 当初、マローノ男爵は、部下のジョージ・マルティン元同盟軍中佐を売り渡すことで、
 お目こぼしを図ったものの、そんな要求が通るはずも無かった。
 結局、彼と彼の家臣である部下達を捕虜交換リストの上位に乗せることで降伏を受諾した。 
「ねぇ、ブルック君。マローノ男爵って何でああいうしゃべり方なのよ?
 いや、見た目と違和感ないからいいんだけどさ。」
「うーん、帝国の辺境訛りはあんなもんらしいですよ。
 何百年も何百光年も離れた場所にいればああなりますって。」
 腕を組んで考え込むパストーレに、ようやく上官のノリに少し慣れてきたブルックが解説する。
 そうした騒ぎの中、いつのまにかドールトン大尉が姿を消していたことに気が付くものはいなかった。
 
 その頃、ドールトンは、ほの暗い第二ブリッジで孤独な作業を行っていた。
「航路目標……恒星シヴァに設定。所要時間三時間、航路管制を第二艦橋に集約。」
 そして、データを打ち込んでいく。
「偽装航路データ入力……事後の変更はプロテクト防御により不可とする。パスワード設定……入力。」
 ドールトンが行ったのは、航路修正後も、当初の航路どおり、
 恒星シヴァの重力を利用するスイングバイ軌道によって加速するように見えるようにした作業だった。
 勿論、本当の目標は恒星シヴァである。スイングバイ軌道に入った瞬間にシヴァの離脱不可能な重力圏内に、
 ワープアウトする予定である。
 さてと、これで完了ね。
 ドールトンが立ち上がろうとした瞬間、入り口から二つの人影が伸びていることに気が付いた。
「そこまでにしてもらおうか!」
 胸と声を張るパストーレとブラスターを構えたラップだった。

「いや、まさかここまでとは思いませんでしたよ」
「だろう?これで信じてくれるよね、ラップ君。」
 彼らがここに至った理由は単純だった。パストーレが原作での事情(小説だとは言わなかったが)
 をラップに説明したのだ。
 原作でのドールトンは、アムリッツア後の捕虜交換で帰還したマルティンを抹殺する為に、
 航路情報を変更することで、ハイネセンへ向かう船団ごと恒星へ、かつての愛人もろとも突入させようとしたのだ。
 結局、フレデリカの二時間に渡る説得もむなしく、ヤンの魔術に追いこまれた彼女は、
 マルティンが搭乗したと思い込まされた脱出シャトルを撃墜、立てこもった管制室の中で自殺したのだった。
 もっとも、ヤンによれば、ドールトンは全てを承知しての行動だったとのことだが。
 このことから、おそらくドールトンは似たような行動に出るだろう、と俗人はラップに説明した。
 そして、ラップは、やはりヤンには探偵の才能も有ったのだなと思ったものの、正直、半信半疑だった。
 しかし、一応、約束は約束だし、他にパストーレを見極める方法も無かったので、
 ラップは、ドールトンを尾行し、ここに至ったというわけである。
 一方、ドールトンは驚いていた。
 所在データを偽装することで、彼女は最下層ブロックの洗面所にいることに電子情報上ではなっていたのだがから。
「信じざるを得ませんね。アスターテでのお手並みに加えて、この事実。
 彼女のスキャンダルは一部の人間しか知らないはずですしね。
 加えて、貴方が大尉の電子的詐術を見破れるはずもない。それに行動まで完全に予測されるとは……」
 ラップは、さぁ、無駄な抵抗やめるんだとドールトンを促した。
「どうやら、私の過去まで全てご存知のようですね」
「そうそう、今なら無かったことにするからさ。無駄な抵抗は辞めようよ。」 
「あら、そう?」
 ドールトンは、右手をサッとコンソールに走らせた。
 ラップは、慌ててドールトンの右手をブラスターで打ち抜こうとしたが、遅かった。
 ドールトンが、第二ブリッジの照明を全開にしたため、俗人とラップは目が眩んでしまったのだ。
 そして、同時にラップと俗人の間に緊急用隔壁が降りてきてしまった。
 結果、偉そうに前に出ていた俗人は、ドールトンと閉じ込められてしまった。
 勿論、ラップも第二艦橋のハッチを完全にロックされたので助けを求めることも出来ない。
「さて、恒星シヴァまでの短い間ですが、ご一緒していただこうかしら、閣下?」
 俗人は背中を緊急隔壁に押し付けると、ぶるぶる!と首を横に振った。
「へぇ、そうですか。じゃあ、貴方死んで見る?別に死体でもかまわないのだけど。」
 慌てて、俗人は、とんでもない!全力でご一緒させていただきますと、全力で肯定した。


3.呉越同舟な二人

「まったく、アスターテの英雄が情けないものね。」
 ドールトンは、嘆息すると再びコンソールの前に座りなおし、
 画面に恒星シヴァの画像を表示させた。
「だから男なんて、男なんて、ヒック!」
 いつのまにか愚痴になり、いつのまにか涙が出ていた。
 俗人は、えらい美人さんやな、と思った。
 そして、達磨さんがころんだの要領で、
 何とか後ろからブラスターを奪おうと近づこうとした。
「近づいたら撃つ。変なことしようとしたも撃つ。さっさと戻りなさい。」
「もう、撃ってるじゃん……」
 俗人の試みは振り向いたドールトンが、
 彼の横をブラスターのレーザーが掠めた為に挫折した。
 結局、レーザーポインタをおでこに照射されてパストーレは、
 部屋の隅で体育すわりした。
「あのさ」
「何ですか?タメ口に文句でもあるんですか?」
 いや、そういう問題じゃないんだけどなぁ、と俗人は思ったが怖くて口に出来ず、
 いえ、どうぞ、もう階級とかこうなったら関係ないから、別にいいよと言った。

 ちっくしょー!どうしよう!?
 よーし、俺があのビッチ、もとい元女房を口説いた言葉を言ってみよう。
 元ネタ恥ずかしいけど、要は勝てばよいのだ
「それで、あれなんだけどさ、あんまり今の気持ちを本気にしないほうが良いよ。」
 これで話を聞きだして、説得しよう!それしかない!
 これで、皆もパストーレさま素敵!ってなるよ、うふふふ

 しかし、それは逆効果だった。
「他人に何が分かるって言うのよ!あんたら、あんたらに。こんだけ裏切られて惨めな気持ちが分かるの?
 しかも、何人にも迷惑を掛けて!どうしようもない事をして!
 しかもつぐないの機会さえ与えられなかった。」
 俗人は、別の感情を引き出してしまった。
 お陰で、ドールトンは叫びながらブラスターを乱射し、縮こまるパストーレを掠め、服を焦がした。
 その結果、スプリンクラーが作動し、パストーレやドールトンを濡らした。
 勿論、ドールトンが火災報知器を解除するまでの少しの間だけだったが。
「まったく、あんたなんかに何が分かるっていうのよ」
 そして、ぼそっと、パストーレ閣下なんかに言ってもしょうがないのにね、私何やっているんだろう、と小声で付け加えた。
「わかるさ、少しは」
 恐る恐る俗人が応えた。
「え、?」
「俺も女房に裏切られた口さ。
 大学時代からの付き合いだったんだが、俺が見る目が無かったのか、
 俺が彼女を堕落させたのか、部下と寝ちゃったんだよね、ははは。」
「そう、そうだったんだ……」
「いや、一回は許したんだよ。煮えくり返るような、悲しいような気持ちのままだったけど。
 でもさ、二回だぜ?で、理由を聞いたら、相手の男がかわいそうだったからってさ。
 傑作だよな。」
 俗人は嘲った。自分を嘲ったのだった。
 ドールトンは、ちょっとびっくりした様子で俗人を見つめていた。
 五分たっただろうか。哂い続けて沈黙した俗人に声を掛けたのはドールトンだった。
「ばっかみたい。貴方、悲劇のヒーローになりたいだけじゃないの!」
「え……?」
 田中は驚いた。もしかしたら、どこかで優しい言葉を期待していたのかもしれない。
「聞いていたら自分の話ばっかりじゃない。何が彼女を堕落させたって?
 貴方が、彼女のことをしっかり見ていなかっただけじゃない。
 貴方は自分を好きな相手が欲しかっただけ。誰でも良かったのよ。
 だから相手の男に走った。それだけでしょ。
 そりゃ法律や道徳業者に言わせれば悪いのは元奥さんの方だけど……
 ばっかばっかしいったらありゃしない!」
 ドールトンが一気に言い切ると田中は詰まった。
 悔しかったし、お前に言われたくないと思ったが、
 彼女の言うことは真実を含んでいたから言葉に詰まった。
 ようやく、言葉を繰り出す。
「そりゃあ、そうだが……お前さんに言われたくないねっ!」
「そう、そうね……あー!馬鹿らしくなった。もう濡れて寒いし、ヤメヤメ!辞めた!」
 へ?パストーレは思わず間抜けな声を出した。
 あんさん、何言ってるの?と思った。
「設定、今から戻すから話しかけないでくれる?」
 ドールトンは、そういうと椅子に座り、作業に取り掛かり始めた。
 しかし、途中で作業をやめる。
「あ、そう言えば無罪放免って本当?」
「そりゃあ、もう!艦隊ごと心中なんて辞めてくれるなら。」
 正直、パストーレは、このビッチめ!と思っていたが、
 そこは無茶な仕様書を出してくる元請だと思って我慢することにした。
 これでもパストーレの中の人は色々37年間、忍耐しているのである。
 パストーレは首を縦にぶんぶん振った。
「じゃ、もう一つ条件。私を気ままな立場にしてもらえる?
 航路設定って結構しんどい割りに評価されないしね。」
「……そんなの、あるわけが…ないです。」
 ……の部分で、何言いやがる!この(以下略、と叫びそうになるが、
 レーザーポイントを再び額に照射されたので、37年間の忍耐力で耐えた。
 というより、おとなしくなった。
「あるじゃない?第四艦隊司令部付き無任所参謀でも、首席副官とか、そういうのがいいわね。
 何もしなくても大丈夫なのにかっこいいし。あ、人事部にちゃんと要請していただけない場合は、
 ここでの会話記録を古典的だけどP2P回線で全宇宙に放出するのでよろしく。」
 わかりました、と俗人は観念した。もっとも、これで彼が開放されたわけではない。
 ドールトンが電子的後片付けをする間に、念書をきっちり書かされていた。

 10分後、苦笑するラップとパストーレは再会した。
 第二艦橋から両手を頭にやり、自室へ帰るドールトンを見やるとラップは苦笑しながら言った。
「ご無事でなにより」
 ちょっと!ラップ君なに笑ってるの!
 俗人は膨れながら抗議した。 
「いや、会話が聞こえてましてね。閣下の手腕はお見事だったと思いますよ。
 これで、一件落着ですな。閣下は彼女の要求をどうするので」
「いや、認めるしかないよ。あんなのP2P回線で流されたら、間違いなく首になって退役、飢え死にだよ。」
 げっそりした顔で俗人は言った。
 そして、それに、面白いことを俺にはっきりいったしな、とボソっと言ったが、
 ラップは聞こえない振りをしてやった。
「それよりもだ、俺としては、この先、快適に生き残る為の方策を話したいと思うんだ。
 君が認めてくれるなら。」
「いいでしょう、閣下」
 ラップは、この時、初めてパストーレに対して色気のある敬礼をした。


4.痴情のもつれの終わりと新しい関係の始まり

「じゃ、ちょっと風呂入らせてもらえる?ぶぇっくしょん!スプリンクラー浴びちゃってさ。」
 ええ、それではまた、とラップは見送った。
 認めざる得ないな、と思った。
 アスターテでの動き、ドールトンの暴走を予言したこと、そして、ドールトンとの極限状態での会話内容……
 これらのことから間違いなくパストーレは、この世界の今後を知りうる世界からの異邦者だ。
 正直に言えば、ドールトンが自分とパストーレを分断した際、ラップは無線機を使うことも出来た。
 が、しなかった。極限状態であるならば、化けの皮も剥がす事も出来ようと思ったのだ。
 だから、静観した。そして、その結果はパストーレの証言と合致するものだった。
 勿論、未だに自分でも信じられないが。
 
 そして、もう一つ認めざるを得ないと思ったのがパストーレの将器である。
 結果的かもしれないが、あの問題児ビューフォート、グエン・バン・ヒューを
 上手く手懐けた手腕は、感心せざるを得ない。
 また、この戦いで兵士の心を掴んだことも見過ごせない。
 そして、なにより、パストーレは、誤算もあり、結果的には敗れたものの、
 この時代にない新しいドクトリンを持ち込み、二倍の敵に背後に回られても生還し、
 敵の提督を討ち取っているのである。撃破した数では、あのヤンより上かもしれない。
 全てが幸運であるかもしれないし、ヤンより遥かに裁量権が大きかったゆえだろうが、
 少なくとも凡庸な指揮官ではないだろう。
 この男に賭けてみるか……ラップは新たな決意をしたのだった。
 
 
 ドールトンは、シャワーを済ますと途端におかしくなり、ベットに倒れこんだ。。
 何故、こうなったのか、自分でも良くわからない。
 ただ、パストーレを感情的に罵った時に、自分の行動が馬鹿らしく思えたのだ。
 それより、この奇妙な将軍をからかったり、観察する方が楽しいのではないか、と思えたのだ。
 ドールトンは、本当は生きたかったのだ。勿論、巻き込むつもりも無かった。
 ただ、生きるのに絶望していたのだ。
 だから、本当は、シヴァに突入することが直前で分かるようにし、
 マルティンを散々嬲り、脅した上で行動を中止し、自殺するつもりだった。
 だが、先述のように、パストーレに興味を覚えた。だから、当分、死ぬのは先延ばしにしようと思ったのだ。
 それは、本当は生きたいと思った彼女が自分にさせた思い込みかもしれない。
 だから、そこに恋愛感情は、現在のところない。
 面白い奴、というのが正直なところだ。
 将来、この奇妙な上官と部下の関係がどうなるかはまだわからない。
 彼らの関係は始まったばかりなのだから。
 
「や、待たせたね」
 50分後、風呂に入り、お肌のケアを行った上にビールまで済ましたパストーレが、ラップの部屋に現われた。
 スカーフは相変わらずポプランのようだったが。
 俗人としては、諦めてこのままでいくらしい。
「いえ、待つのも部下の任務ですから」
 ラップは俗人を招き入れると、早速本題を切り出した。
「で、貴方はどうするつもりなんですか?
 今後、発生する帝国領への侵攻を食い止めるおつもりですか?」
「いや、それは難しいだろう。あの流れは止められないと思うよ。
 だから流れの方向と量を変えてみようと思うんだ。」
 確かに、とラップは思った。
 現在の同盟及び同盟軍がイゼルローン要塞を陥落させれば、侵攻論は盛り上がるだろう。
 何せ、150年間も一方的な侵略を帝国から受けていたのだ。
 永久要塞を奪取したから講和、ではなく、拠点を得たから侵攻になるのは当然である。
 しかし、方向と量を変える?
「では?まさか!」
 ラップはあっけに取られた。まさか
「フェザーン回廊方面から艦隊で侵攻できないかな?」

つづく


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