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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 第八話
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:e383b2ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/13 21:34
あれから一か月が経過した。
現在も攻略に向けての会議である。
攻略は順調に進み続け、現在は五十七層を攻略中である。
ただ一月で六層は今までのハイペースぶりからは遅いと思われるかもしれないが、これにもきちんと理由があった。

それは第五十層で浮き彫りになった問題の改善を全ギルドで行いながら、攻略を進めると言う方針に転換されたからだ。
今までの攻略ペースが速すぎた弊害もあり、前線メンバーのレベルは高くても、それらに伴う各種スキル、またはシステム外スキルの構築と言うことが疎かにされがちだった。

キリト、アスナの合流で、その戦力は大幅に上がった。五十一層ではほとんどキリト、アスナ、ヒースクリフの三人が見せ場を奪うほどであり、ほかの面々はさして労せずにボス攻略を完了させた。
それは攻略を目指す全プレイヤーからしてみれば、何ともありがたい話なのだが、これでは後々、またまずいことになるんじゃないかと懸念の声が上がり始めた。

二十五層でキリトを外したのは、彼一人に頼りすぎては、彼に何かあった場合、後の攻略ができなくなるのではと言う懸念からだった。
今はチート戦力のような三人がいるが、この先この三人でもどうにもならない場面が現れるのではないか、もし何らかの事故などでこの三人のうち誰か、あるいは全員が死亡、あるいは攻略に出れなくなれば、それだけで攻略はとん挫する。

そのためディアベルが再び、彼らを攻略から排除はしないが、ペースを少しだけ落とし、各々のプレイヤーが自らを鍛えながら進むべきだと主張した。
ディアベルも先の戦いで自分の無力さを痛感したのだろう。だから少しでも強くなるために、攻略以外の自らを鍛える時間を欲したのだ。

その意見にキリトとしては何も言えなかった。ディアベルの主張は間違っていないし、彼には多大な恩がある。ここで自分がごねても問題しか出ない。
キリトとしては攻略を急ぎたいところだし、彼としてみれば、何も百層まで行かなくとも途中でヒースクリフの正体を暴き、デュエルで彼を打倒しこのゲームをクリアする予定であるため、ほかの面々のレベルアップはあまり気にしてはいなかった。

だがディアベルにこういわれては、賛成するしかない。それはアスナも同じだ。
しかしそれでほかの攻略を望むプレイヤー達から不満の声は出ないのかと、キリトは意見を出した。
キリトとしては反対するつもりではないが、ここで攻略の速度を故意に落とせば、軍の内部でもディアベルに対して、不満を募らせるのではないかと懸念したからだ。

「確かに絶対に出ないとは言えない。だがそこまで俺は心配していない。シンカーとも話し合ったことだが、今の軍には職人クラスのプレイヤーが大勢いる。その中でも歌などの娯楽関係を中心にスキルを上げている人たちが大勢いるんだ。その彼らに協力してもらって、少しでも不満を和らげようと思っている」

なるほどとキリトは思った。現実世界でもよくある手である。これは軍が前回よりも巨大化し、しかも職人クラスを大量生産したからこそ打てる手である。
また軍は健全化したままだし、攻略速度を多少落そうとも攻略自体は順調であり、半年しかたっていないのにもかかわらず、すでに半分を攻略した。

前回は五十層が攻略されたのは一年以上経ってからの話だ。それにそこまでいくまでに軍の精鋭は壊滅。攻略を目指すプレイヤーもかなりの数が死亡した。
それ以上に全体を見れば三千人を超すプレイヤーが死んでいた。
だから大勢のプレイヤーはこの世界から出ることは諦めてしまっていた。その日、その日を死なずに過ごすと言うことしかできずにいた。

しかし今は違う。早期に攻略のめどが立ち、死者の数も千人と決して少なくはないが、まだ絶望するほどではない。さらにキリト、アスナ、ヒースクリフと言う明確な希望を見出せるプレイヤーも存在する。

やっかみも多いが、それ以上に戦えないプレイヤーから見れば、彼らは自分達を助けてくれる救いのヒーローのようなものだ。
よくある勇者の物語にある、困ったときの勇者様、という物だ。
それでもこの世界においては希望となり、絶望を打ち消す大きな光である。前回はそんなプレイヤーがヒースクリフしかいなかった上に、攻略自体も順調ではなかった。
ゆえにヒースクリフに期待していても、儚い希望と言うようなものでしかなかった。

だが今回はキリトのビーターと言う悪名と二刀流、ヒースクリフと神聖剣、そしてそれを支えるアスナと言う三つの矢が存在するため、その期待は大きくなり、儚い希望ではなく、確かな希望として存在している状況だ。

「それに事情も新聞などで説明するから、ある程度の反発はあっても、大きなものにはならないと思う。それに後方でシンカーがイベントなどを行って、みんなの不安や不満を解消すると言うことになっている」
「イベント?」
「ああ。攻略組も交えた模擬決闘やスキル別対抗大会とか。軍が主催して、優勝者には賞金や賞品を出す方針だ」

主にスキルは生産スキル系統から料理や釣り、歌と言った項目だなとディアベルが説明すると、キリトは感心した。

「へぇー」

キリトは本当に今の軍は凄いと思う。それならば不満もある程度解消できるし、職人クラスは自らの力を見せられるし、名前も売ることができる。
それに軍も商品や賞金を出すと言えば、ほかのギルドも参加するだろう。金額やアイテムにもよるが、軍は今までに結構な額の貯蓄をしているはずだ。
前回と違い今回はキバオウが暴走していないので、そのあたりはきちんと管理されていた。

またレアアイテムも買い手や使い手が見つからない、または保留となっている物もいくつかある。
それを放出しようと考えているようだ。
それに模擬決闘。これはかなりキリトにとってありがたい。ヒースクリフとの一騎打ち。

前はアスナの一時退団を懸けた勝負だった。今回は最強の称号を懸けるつもりだったが、軍がそれを主催してくれれば手間が省ける。
それにその場合、大勢のプレイヤー達はキリトとヒースクリフの戦いを見たいと思っているだろう。
だからこそ使える。大勢の前でヒースクリフの不自然さを露見させることも可能だろう。

「いいじゃん、それ」
「キリト君もそう思うか? 俺としても攻略組のみんなの強さをほかのプレイヤーに伝えることも大切だと思っているからね。まあ君やヒースクリフさん、アスナ君みたいな強さはないが、全員が腕試しをしたいと思っているだろう」

周りはうんうんと頷いている。

(いや、全員、お前をぼこるみたいな目で俺を見てるんだけど……)

キリトはこの場にいる大勢が、合法的にキリトをボコボコにできるかもしれないと息巻いているのではないかと感じた。
レベル差、スキル差はどうするんだと考えるが、その場合、ハンデをつけろと言ってくるかもしれない。
実戦ならともかく、こう言う場合は確かにキリトやアスナ、ヒースクリフはハンデをつけて参加と言われる可能性の方が高いだろう。見世物ならば特に。

(あんまり見世物にはなりたくないけど、ヒースクリフと一騎打ちができるんなら、出るしかないよな)

ちらりとヒースクリフを見る。彼も何か考えているようだ。おそらくはキリトと戦う合法的な場所を見つけたからであろう。
しばらく考えた後、ヒースクリフが口を開いた。

「私もそれに同意しよう。血盟騎士団の全員が参加するかは未定だが、希望者はできる限り参加させるようにしよう。むろん、私は参加させてもらうが」
「いえ、ヒースクリフさんが参加してくれるとなれば、みんな盛り上がるでしょう」

ここで攻略をさぼるなと怒る人間はいないだろう。別にさぼるわけではないし、今後もきちんとペース配分を決めて攻略を続けるとすでに決まっている。

「キリト君は……やはりこう言うイベントへの参加は嫌かな?」

ディアベルもどこか遠慮勝ちに聞いてくる。キリトの性格的に、こう言う大勢がいる舞台と言うのは苦手だろうと思ったのだろう。
だがキリトは首を横に振る。

「俺も参加させてもらいます。色々と興味もあるので。それとその場合、デュエルの時は、二刀流は使わずに片手剣だけで戦います。さすがに二刀流は俺自身も反則だと思うので」

その言葉に周囲がどよめく。これは下剋上のチャンスと思っているプレイヤーも少なくない。
ただキリトの場合、片手剣だけでもチートくさいレベルに到達しているのだが、二刀流のインパクトが強いせいで、それを忘れている、もしくは知らないプレイヤーも多い。
そう言ったプレイヤーはあとで泣きを見ることになる。

「私も参加します。デュエルよりも私はほかのスキル対抗の方にですけど」

アスナの場合、キリトと一緒と言う意見をこの場で出すとまた色々と言われると思ったので、当たり障りのない意見を述べる。
尤もアスナは料理スキル対抗に興味を惹かれていた。なんとなく、一度やってみたかった。
ただSAOの料理は簡略化されすぎて面白味にかけるが、それでも料理バトルは楽しそうだ。

「アスナの場合は料理か?」
「そうだよ。あとは裁縫かな。こっちはまだスキルがそんなに高くないから、ちょっと無理かもしれないけど」

と話しをする二人にヒースクリフは聞き耳を立てる。

(なるほど。これは使えそうだ)

と心の中でヒースクリフは呟いた。

「よし! じゃあ攻略組も賛成で構わないかな? もし何か意見があるなら、あとで各ギルドの長に言ってくれ! それを俺が聞かせてもらう! ソロプレイヤーは直接頼む。けど結構この企画は楽しいと思うぞ!」

デスゲームの中にいるからこそ、彼らは娯楽に飢えていた。
しかし前回の一度目はこんなことを主催する余裕など、誰にもなかった。
あのキリトとヒースクリフとの決闘はそれなりのイベントとなったが、それでもあんなイベントは稀だ。

こんな風に、大勢のギルドが参加する平和的なイベントなど、前回なら考えられなかった。
あるいはこれがデスゲームではない、本来のソードアート・オンラインの楽しみ方の一つではないかとキリトは考える。

もしデスゲームになってさえいなければ、あのヒースクリフとの決闘のようなイベントが頻繁に行われ、多くのプレイヤー達が熱狂し、ゲームを楽しんでいたことだろう。

軍が巨大化し、健全であること。ラフィン・コフィンが壊滅していること。そして攻略が順調であるからこそ、できる事であろう。
こうして会議を進めつつ、各々が自己鍛錬と強化を行うことで話はまとまった。



「攻略が若干遅れるかもしれないけど、悪い話じゃないな」
「そうだね」

キリトとアスナは迷宮区の攻略を続けながら、会話を行っていた。
アスナはキリトから今後の方針を聞いていた。だからこそ、ヒースクリフと決闘を行うタイミングを探していたのだ。

「あとはうまくやるさ。それよりも問題は……」

ちらりとキリトは己の剣を見る。

「やっぱりエリュシデータに見合うだけの剣はないね」

キリトの悩み、それはエリュシデータと釣り合う武器がないと言うことだ。キリトは重い武器を好んで使う。それなりの武器を探しているのだが、やはり未だに見つけられない。

今は間に合わせの剣などを使っているが、やはりバランスが悪すぎる。ボス戦の時は、同じ武器を強化して使っているが、前回同様ソードスキル発動の場合、一気に耐久値を削られ、武器が壊れてしまう。

エリュシデータの方が威力は高いが、やはり二刀流の場合、左右でバランスのとれた武器を使わなければ、能力をフルに発揮することができない。
今後の事を考えれば、早急にキリト自身に見合う武器をもう一本入手しなければならない。

「ああ。モンスタードロップ待ちじゃ、いつになるかわからないからやっぱりプレイヤーメイドだな」

キリトとしては当てがないわけではない。と言うよりも当てはある。

「けどな~、俺が欲しい武器が作れるかどうか」

ガシガシと頭をかく。あれはリズが作ってくれた彼女の最高傑作と名高い武器だ。前の世界でも死ぬ直前まで愛用した白の剣『ダークリパルサー』。
それを製作できるプレイヤーが、今いるかどうか。

「リズに頼んでみようか?」

「それが一番だと思うんだけど、今のリズのレベルで作れるかな。まあ素材のある場所と取り方は問題ないんだけど、あればっかりは運の要素もあるからな」

あれの素材は五十五層で手に入る。取り方も知っている。現在は五十七層なので、二つ前の層で入手可能だ。
しかしあれはマスタースミスがいなければダメなクエストでもある。

たとえ巣に落ちても、マスタースミスがいなければ、あの素材は出現しない。後の検証で証明されたことである。
大量に素材を手に入れておけば、まあ一度くらいは成功するかもしれない。だがあれを今すぐに作れるかどうかは疑問である。

作り手のレベルももちろん、時期やタイミング、運の要素も多分に含まれる。
あの一回であれだけの物が作れたのは、ひとえにリズの能力も大きいが運にも左右されたのだろう。あるいはキリトは知らないが、リズの想いがシステムに何らかの影響をもたらしたのか。

「それに素材集めにもマスタースミスがいないとダメだからな。リズ、今のレベルってどれくらいなんだ?」
「わからない。聞いてみる」
「頼む。今の軍は大きいから、後方支援の連中って前線に出るほどレベル上げてないはずだから、リズも最前線近くに参加できるほどじゃないだろうし。その場合、鍛冶スキルは前と同じかそれ以上ってこともあるかもしれないけど。鍛冶スキルが高い場合、ある程度は経験値も入ってレベルも高いんだけどな」
「そうだね……。でも安全マージンよりもかなり低かったら、さすがに私とキリト君がいても、万が一ってこともあるよね」
「今回の場合、ドラゴンの相手をしないといけないしな。前回のやり方と変えたとしても、万が一ってことはあるし。この間のシリカの時みたいにはいかないだろうな」

前回の五十層の攻略前にあった事件を思い出す。キリトとアスナが攻略に遅れた理由がそれだったのである。
前回、あのクエストに参加した時は、それよりも八も上の階層まで攻略が進んでいた時だった。

今回は先日攻略されたばかりの階層だ。最前線に近い階層に、攻略組でもない鍛冶職人を連れて行くのは、かなり無謀だろう。

「でも一応話だけしてみるね。リズもそろそろ戻ってきて、直接話をしろって言ってるし」

この世界でもアスナの友人であるリズは、あの新聞を見て以来、しつこく事情を説明しろと言ってきていた。
しかし攻略組であり、かなり騒がれていたため、今日までリズの所に顔を出すことができなかったのだ。

幸いにもアルゴの協力で二十二層のことは話題に出ていない。ほかにもアルゴは二人のために色々と手を打ってくれている。

「了解。あとその時は俺、どっかに雲隠れしてるから」

なんとなーく嫌な予感がするので、キリトは逃げると宣言した。だがガシリとアスナに腕をつかまれた。

「ダメだよ、キリト君。奥さんをおいて出かけちゃ」
「い、いや、別に遊びに行くわけじゃ。それに女の子同士の会話に男が混じるのはどうかと」

しどろもどろになりながら、キリトは何とか逃げるための言い訳を考える。
しかし大魔王……もといアスナからは逃げられない。

「だーめ。あっ、もし逃げたらしばらくごはん抜きね」
「!?」

キリトは雷に打たれたかの衝撃を受けた。

「そ、それだけはご勘弁を!」

アスナの料理なしでは生きていけない。いや、最近はマジで餌付けされた感が否めなくなったキリトだが、アスナの料理が食べられないなど、考えるだけでも恐ろしい。

「じゃあキリト君も一緒に来てね」
「りょ、了解です……」

ドナドナとどこからか聞こえてくる気がした。
キリトは思う。もうアスナに逆らえないんだなと……。

「ふふ。ごめんごめん、キリト君。意地悪する気はなかったんだけど」
「ううっ、アスナがいじめる」
「だからごめんって。でもそんなに嫌なの? 私の料理が食べられなくなるの?」
「アスナの手料理無しとか、俺に死ねとおっしゃいますか!?」

アスナとしては、そんなに効果的とは思っていなかったようだ。不思議そうに聞き返してきたが、キリトにとっては死活問題だ。くわっと大層な表情を浮かべ、アスナに抗議する。

「も、もう。大げさなんだから」
「大げさなもんか! アスナの料理を一食抜くだけでも、精神的に大ダメージなのに、しばらく抜きとかそんな生活に俺は耐えられない!」

うがーっと叫ぶキリト。もしここに第三者がいたら、あれ、マジでビーターのキリト? と疑問に思っただろう。
と言うよりもオレンジギルド『しっと団』に連絡を入れていたことだろう。

キリトの言葉にさすがのアスナも焦る。そんなに嫌だったのかーと、ちょっと悪いことしたなと彼女自身も反省する。
だが同時にそんなにも自分の料理を喜んでくれるキリトに、内心すごく喜んだ。これも前も含めた努力の成果だとアスナは心で拳を握りしめた。

(料理スキル、取っててよかった)

と、かつての自分を褒める。

「だからこれからも俺にご飯を作ってください」
「ふふ、困った人ね。うん、わかった。これからもキリト君に毎日ご飯作るから、心配しないで」

その言葉を聞き、キリトは良しとガッツポーズをする。そんな姿にアスナは苦笑する。
ここで一言、お前ら、末永く爆発しろ。





第三十五層・ミーシェ
現在、リズベットとシリカは未だにこの街に留まっていた。
軍に所属している二人だったが、それでも以前同様自分たちのスキルを上げ、中層にてさらにレベルやスキルを上げていた。

前の世界でもそうだったが、今回は軍の進軍にあわせてと言ったところだ。
はじまりの街には今も大勢のプレイヤーが駐在している。
ナーヴギアの年齢制限に引っかかるだろうと言う、子供たちも多数存在したが、それは軍が積極的に保護した。
女性プレイヤーの中の有志が子供達の面倒を見ている。
その中でもサーシャと言うプレイヤーが中心となり、彼らの母親代わりを務めている。

余談だが、ここにはキリトも匿名で資金を援助している。以前の記憶にもあった場所であり、金が必要でなかったキリトが、軍以外にコルを回す場所と決めていた。
ここの子供たちも何人かは軍について中層に赴いている。サーシャは危険だと反対したが、やんちゃな子供たちはあまり聞き分けがよくなかった。

そしてシンカーの副官でもあり、軍の女性代表であるユリエールに相談した結果、軍内部の協議で比較的安全なフィールドに軍の護衛をつけて向かわせると言うことで話が付いた。
下手に強制し、変な行動を起こさせるよりもある程度こちらでルールを決め、それを守らせて行動させた方がいいと言う考えからだ。遠足と同じようなものである。

と言ってもサーシャとしては気が気ではないが、子供たちが目をキラキラと輝かせているのを見ると、それを止めることもできなかった。
理由としてはキリトの影響であった。
彼の噂は良くも悪くもアインクラッド中に広まっている。
悪い噂も多いが、良い噂や、彼を英雄視する話もある。

一人でフロアボスを攻略したとか、一人で軍の精鋭全員に勝利したとか、一人で百を超えるモンスターに囲まれながらもそのすべてを倒したとか。
そんな嘘か本当かわからない話だが、それを聞いた子供、特に男の子達は俺もそんな風になりたい! と影響されまくっていた。

これもある意味、前とは違う攻略が順調に進んだ弊害だろう。
いつ解放されるかもわからない世界ではなく、明確な希望があり、軍と言う彼らを守る国や警察のような存在がいる。
その中で、精神的な余裕を取り戻した好奇心旺盛な子供たちが、行動を起こそうと考えるのは、別段不思議ではない。

そんな中で引率を務めるのが、リズやシリカだった。と言っても、これも交代制であり大半は軍の中層を活動拠点にする男プレイヤーである。
リズとシリカは街に籠るのも性に合わず、それなりの冒険もしてみたいと言う好奇心も後押しし、はじまりの街にとどまらず、中層に進出した。
まあレベル上げに夢中だったアスナの影響も少なからずあったのだが。

「じゃあアスナさん、今日これから来るんですか? キリトさんも?」
「そうそう。二人で来いって言っておいたから。アスナもようやく観念したみたい」

あの新聞が出て以来、リズはしつこくアスナにメールを送った。それはもう毎日毎日。
しかし返事はあまりいいものではなかった。リズもアスナが想像以上に騒がれているのは知っていたし、攻略組として忙しいことも理解している。
だがそれはそれ、これはこれである。

一か月前、シリカのためにアスナが戻ってきて、その際にキリトを連れてきたときは、事情をあまり聞くことができなかった。
一緒に行ったシリカだけが、二人と多く話をしたし、ある程度の話も聞かされていた。

「ったく、結婚ってなによ。それにお相手があのビーターの黒の剣士なんて、どんな冗談よ」

ビーター・黒の剣士の噂はリズも耳にしている。おそらくは尾ひれや背びれがついた話だろうが、色々な噂が存在する。
しかしまさかあんな自分と年もそう変わらない、下手をすれば年下の少年が噂の剣士だったとは。

「キリトさんはいい人ですよ。全然怖くなかったです」
「けど全然強そうに見えなかったのよね……。本当に強いの、あいつ?」
「すごかったですよ!」

目をキラキラを輝かせながら語るシリカに、リズは胡散臭そうな目を向ける。あれが本当に強いのか。シリカが嘘をついているとは思えないが、リズには想像できなかった。

「人は見かけによらないって言うけど、あれはないわよ」

前に会った時の事を思い出す。散々こき下ろしたのだが、あれがまさか名実ともに最強プレイヤーとされる男だったとは……。

(うん、全然見えなかったな。でも納得する部分はあるのよね)

短い会話と、彼が見せたいくつかの表情。リズの脳裏に今もはっきりと浮かぶ。

「はぁ、しかしアスナはよくあんな奴と知り合って、コンビを組むことにしたわよね。聞いた話じゃ、今まであいつ、誰とも組んでなかったって話じゃない」
「でも二人ともすごく信頼し合ってましたよ」

あれはカップルと言うよりも夫婦だ。いや、結婚してるのだから夫婦なのは当然か。
シリカは一月前の事を思い出しながら、笑みを浮かべた。少し、いや、かなり羨ましいと思ってしまった。

今まで男の子と会話することもそう多い方ではなかったシリカ。この世界に来てから、男のプレイヤーに言い寄られたり、お付き合いや結婚を申し込まれたこともあった。
それらはすべて断ってきたが、キリトとアスナの関係を見て、自分も二人のようになりたいと思ってしまった。

(もしアスナさんよりも先にキリトさんに出会っていたら、私もキリトさんとあんなふうになれたのかな……)

と、思い出して顔を赤くしてボンと煙を上げる。あううっ……とシリカは呟きながらぶんぶんと頭を振る。
その頭の上でまったりしていた、復活したピナは振り落とされそうになるが、何とかしがみついて振り落とされないようにする。

それに気づかないシリカはいやいやと頬に手を当てて、何かを妄想しながら、さらに首を左右に振る。
ピナはいや、ちょっと、あっ、ダメ、と思いながら、ぎりぎりで頑張り続ける。

「ちょっと、シリカ。何考えてるのか大体わかるけど、あんまり自分を安売りしちゃだめよ。それと頭のそれ、落ちるわよ」
「えっ、リズさん。私は別に……。って、ああ、ピナ!」

頭の上からずり落ちそうになっているピナに気が付き、シリカはピナを両手で捕まえて自分の胸元に引き寄せる。
ふぅっ、酷い目にあった、と言うような表情を浮かべながら、ピナはシリカの腕の中でまったりし始める。

と、その時、二人がいた部屋の扉がノックされる。
来たわねと、キラーンと目を光らせるリズ。シリカもまた二人に会えると思い、わくわくとその後に続く。

「リズ、久しぶり」
「……お邪魔します」

そこには変装をしたキリトとアスナがいた。
そんな二人を見ながら、リズは満足げな表情を浮かべる。

「いらっしゃい。さあ、色々と話してもらうわよ」
「お、お手柔らかに」

と苦笑するアスナとキリトであった。




最前線から下の階層。
鼠のアルゴは今日もまた情報収集と情報の売買に勤しんでいた。

「まいど~」

あるプレイヤーに情報を売り終え、アルゴはまた次の依頼人の下へと向かう。優秀な情報屋であり、ビーターであるキリトともよくつるむ彼女の事を疎ましく思うプレイヤーは多い。
しかしそれ以上に優秀な彼女の情報が仕入れられなくなるのはつらく、キリトと同じく扱いにくい存在として大勢のプレイヤーに認識されていた。

(しかしこの間食べたアーちゃんの料理はうまかっタ)

先日訪れた二十二層のキリトとアスナの家でごちそうになった料理を思い出す。
まさかこの世界でマヨネーズとしょうゆを味わうことになろうとは。
久しぶりに食べたさしみはおいしかった。あれならば、頑張れば寿司も作れるのではないか。
思い出しただけでよだれが出そうになる。間違っても女である自分がよだれなど出しはしないが!

(キー坊はずるいヨ。あんな料理を毎日食べられテ。はっ! まさかこれがオイラとの差カ!? むむむ、やはりキー坊も家庭的な相手の方がよかったカ……)

いや、実際に自分もアスナのように料理スキルが高く、戦闘も強い異性なら、クラッといきかねない。それほどまでにアスナの料理は絶品だった。

(あれでまだ料理スキルをコンプリートしていなのだから恐れ入ル。あそこからまだ上がるのカ)

これからさらにおいしい物を作るだろう、アスナに戦慄すら覚える。聞けばしょうゆもマヨネーズも自分で色々と解析し、研究して再現したと言うのだから、キリトとはまた違ったチートだろう。

(オイラも料理スキルを取っておいた方がよかったかナ。いや、今さらそれを言ってもしかたがないカ。にゃははは、オイラもずいぶんと未練たらたらだナ)

似たもの夫婦とはよく言うが、ここまでチートくさい夫婦もそれはそれで珍しい。と言うかなんかひどい。

(けどオイラは定期的に家に行く権利を貰ってるから、いつでもあの料理をごちそうになれル)

これで楽しみはまた増えた。本当にキー坊様様である。

(っと、楽しみは後にして、今は次の依頼をこなさないとナ。今度の依頼人は……ええと、ギルド・月夜の黒猫団、カ)




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