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No.34934の一覧
[0] ソードアート・オンライン 逆行の黒の剣士(SAO)[陰陽師](2012/11/26 22:54)
[1] 第一話[陰陽師](2012/09/16 19:22)
[2] 第二話[陰陽師](2012/09/16 19:26)
[3] 第三話[陰陽師](2012/09/23 19:06)
[4] 第四話[陰陽師](2012/10/07 19:11)
[5] 第五話[陰陽師](2012/10/15 16:58)
[6] 第六話[陰陽師](2012/10/15 17:03)
[7] 第七話[陰陽師](2012/10/28 23:08)
[8] 第八話[陰陽師](2012/11/13 21:34)
[9] 第九話[陰陽師](2012/12/10 22:21)
[10] 外伝1[陰陽師](2012/11/26 22:47)
[11] 外伝2[陰陽師](2012/10/28 23:01)
[12] 外伝3[陰陽師](2012/11/26 22:53)
[13] 外伝4(New)[陰陽師](2012/12/10 22:18)
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[34934] 外伝2
Name: 陰陽師◆c99ced91 ID:e383b2ec 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/28 23:01


「うわっ、やっぱりここから見る眺めは格別だね」

第二十二層のログハウス。かつて二人が二週間だけ過ごした家に、二人は再び戻ってきた。
エギルの店でレアアイテムを交渉の末、かなりの値段で売却した。その際、いつもは交渉しないキリトが交渉してきたことに、エギルは驚いていた。

「エギル。このアイテムは早々出回らないから、あともう少し上乗せしてくれ」
「そりゃ、お前の頼みだからそれくらいは上乗せはするが、珍しいなお前が交渉するなんて。それにどこか雰囲気も違う……。何かあったのか?」
「ん、まあ色々とな。そのうち話す」

と、穏やかな笑顔を浮かべるキリトにエギルは余計に混乱すると言う一幕があった。

そしてついに目標資金を集め、あの家を購入した。
アスナと合流してから一月。結婚してから二週間の事である。
あの日、二人が前の世界で死んでから約五ヶ月ぶりに彼らはこの家に戻ってきたのだ。

「なんだか、不思議な感じだね」
「そうだな。こう、本当の家に戻ってきたみたいな、そんな感じがする」

南側の眺めのいいベランダに移動し、二人はあの時と同じように外の景色を眺める。

「うん。私も帰ってきたって感じがする。不思議だね。何年もここに住んでたみたいな気がする」
「ずっとここに住めればいいんだけどな」

キリトの呟きにアスナも同意する。
しかしそれはできない。ここは仮想世界。そして現実の体は今、おそらく病院のベッドで栄養を点滴されながら、かろうじて生きている状態だろう。
永遠なんてありえない。ずっとここに、この世界にいることはできない。
だからこそ二人は進む。

「でも今は……」

そっとアスナは自分の体をキリトの体に預ける。

「少しだけ、今日だけはゆっくりしよう。明日からは、また……」

アスナの体に腕を回したキリトは、彼女のぬくもりを感じながら、小さく呟く。
穏やかな日を、今と言う日を、時間を大切にする。
明日からはまた、レベルを上げ、攻略を目指すのだとしても、今だけはこの穏やかな時間を感じていたい。
二人はお互いに体を寄せ合いながら、この美しい光景を、愛する人とともに見つめるのだった。




あれからさらに一か月。
当初の目標通りに二人はレベルを上げた。
うれしい誤算だったが、キリトは一週間前に二刀流のスキルを取得した。ゲーム開始から半年。前は一年後だったが、これも短縮できた。
これで準備は整った。あとは二刀流の熟練度を上げていくだけ。

前は隠れながら二刀流を振るっていた。公にしたのは、死ぬ前の一か月にも満たない短い時間だ。つまり前は圧倒的にキリト自身の二刀流のスキルを上げる時間が少なかった。
戦術や二刀流自体の熟練度は隠れながらに上げたが、ボスとの戦いにはほとんど使わなかった。そのため、経験が片手剣に比べて圧倒的に少ない。

だが今回は最初から全開で使い続ける。熟練度の早期コンプリートは当然だが、それ以外にもシステム外スキルの構築に、ソードスキルに頼らない戦い方や、ソードスキルの再現などなど、やるべきことは多々ある。
それにボス戦で二刀流を使えば、それだけでボス戦での味方への負担が減る。犠牲者も今まで以上に出さずに済むだろう。

前はキリト自身が嫉妬の対象になりたくないと思っていたため、あの七十四層までは人前では絶対に使わないようにしていた。
もしそれ以前に、取得した時点から使っていれば、あるいは攻略をもっと早く、そして犠牲者の数も少なくできたのでないか。そんなことを考えてしまう。
だがそれは今さらだ。何を言っても、終わってしまったことだ。

だからこそ、今回は最初から使う。もうすでにビーターとして嫉妬の対象なのだ。これ以上増えてもそんなに変わりはないだろう。

「さて。新聞の情報によると、明日か明後日には五十層攻略って話だけど」

二刀流のために武器も一本新調し、万全の態勢を整えている。

「そうみたいだね。けど今回は……」
「ああ、クォーターポイント」

アスナの言葉にキリトも前回の記憶を呼び戻す。
攻略組を追い込み、戦線を崩壊させかけた強力なボスの姿。ヒースクリフがいなければ、確実に攻略は失敗していたし、犠牲者の数ももっと増えていただろう。
それほどに強力なボスなのだ。
今の攻略組でもおそらくは苦戦する。いや、下手をすれば壊滅するかもしれない危険な相手だ。
だからこそ、キリトは戻らないといけない。

「まっ、二刀流があるし、アスナもいるからな」
「私は今回が攻略は初めてなんだけど」
「あれ、もしかして緊張してる?」
「まさか。それに今はキリト君が隣にいてくれてるのに、どうして私が緊張するのよ」

失礼ねと、アスナは笑う。

「俺もアスナが隣にいてくれると安心する。と言うか、ここ一月、なんか知らないけど連携がうまくいきすぎる」

以前の七十五層での戦いを思い出す。あの時は、アスナもキリトも思考がダイレクトに接続しているのではないかと言うリニア感と一体感。
あれはなんだったのか。

もしかすればあれは結婚というシステム設定に与えられたスキルなのかもしれない。
今回もそれは感じられた。しかも以前よりもさらに強く。と言うよりも、どんどんと強くなっていく。

「うん。なんて言うのかな、キリト君の考えてることとか、どうしたら良いかって言うのが頭に浮かぶ感じだね」
「そうだよな。でも悪い事じゃないと思う。特にこれからの事を考えると……」
「そうだね。これならキリト君を守れるね」
「俺もアスナを守れる。何というか、いい事尽くめだな。これが茅場晶彦の作ったシステムって言うのが癪に障るけど。と言うか逆に落とし穴がないか疑う」
「どうだろうね。でも多分ないんじゃないかな」
「………まあないだろうな」

茅場晶彦と言う人間は公平さを貫く。色々と悪辣であり、趣味が悪く嫌な奴ではあるが、ゲームに関しては信用できる。
デスゲームになり、ほとんどのプレイヤーが、リスクを負う結婚と言うプレイヤー同士の関係を構築することをためらうなか、そこに至った者たちを罠に嵌めるような卑怯な手は打たないだろう。

それにこの――便宜上二人は〈接続〉と呼ぶ――は、もしかしたら茅場晶彦と言う人間の想定外の事象なのではないかと考えた。
理由は前の世界においても結婚に至ったプレイヤー達から、こんなシステムの情報は一切得ることができなかった、。
数自体も少なかったうえに、戦いにおいて連携するプレイヤー同士の結婚と言うのが皆無に近かったから情報が出なかったのかとも考えられるが、この現象はシステムに定められたものとは、二人にはどうしても思えなかった。

「まっ、どっちでもいい。それよりも今は攻略に戻ることを……」

だがそんな折、アスナにメッセージが届いた。

「メッセージ?」
「あっ、うん。リズからだ。フレンド登録してたから」
「そうなのか。で、なんて?」
「ええと、ちょっと待って」

アスナは即座に送られてきたメッセージを開く。一応、キリトと合流することで軍を脱退することと、コンビを組むことになった旨を伝えてはいた。
ただその際、ものすごく反対された。定期的にメッセージが飛ばして、安心させてはいたのだが、返事にはいつも一度顔を出せと書かれていた。
キリトと離れたくなかったのと、レベル上げなどの諸事情でここまで顔を出さなかったのだが、そろそろリズもしびれを切らしたのか……。

「リズ、怒ってるだろうな……」

と友人の顔を思い出し、アスナは冷や汗をかく。いや、実際にかいているわけではないのだが、釈明が大変そうだと嘆く。

「キリト君!」

しかしアスナはそのメッセージを見た後、声を張り上げた。
何事かと、キリトはアスナのメッセージを見る。
そこにはこう書かれていた。

『シリカが大変なことになった! すぐに戻ってきて!』と。




第三十五層、ミーシェ。

ここにリズとシリカはいた。この二人はアスナの友人であった。前の世界ではアスナとシリカは直接出会ってはいないが、キリトと軍の影響で一緒に軍に所属することになった。
開始から三カ月まではほとんど一緒にいたし、アスナがレベル上げを行っていた一月の間も、何かと行動を共にしていた。

アスナに影響されたのだろうか。二人も下層ではなく中層まで足を踏み入れることも何度もあった。
安全マージンはそれなりに取っている。またソロでプレイするわけでなく、あくまで軍に参加という形である。レベルもアスナのおこぼれ的なものもあり、それなりには上がっていた。
しかし戦闘に関してのスキルが高いかと言われれば、二人ともお世辞にも高いとは言えなかった。

それでも二人は協力して冒険を行った。軍のプレイヤー達と一緒に、あるいはほかのギルドのメンバーとも何度かパーティーを組んだ。
軍は巨大ギルドのため、自分達のところでもパーティーは十分に組めるが、余所と組むのも基本的にはOKだった。

プライドの高い、ほかの有力ギルドならば、軍とはパーティーを組まないと言う所は多いが、小規模ギルドはその限りではない。
今回もそんな中、何人かのギルドの面々とパーティーを組み、三十五層の北部に広がる通称迷いの森であるクエストに参加していた。

ここにも貴重な鉱石がたくさん眠っている。森林フロアゆえに、鉱山などに比べれば少ないが、それでもここでしか取れない鉱石も多数あったのだ。
リズは鉱石を集めることを目的とし、シリカはそのお供だった。この頃には、シリカにも相棒のモンスター、フェザーリドラのピナの姿があった。
この世界においてもシリカは偶然、ピナのテイミングに成功した。それは約三か月前の話である。

今回は簡単なクエストであり、彼女たち二人合わせて六人のパーティーで十分こなせる内容だった。
だが彼女たちのパーティーを、大量のモンスターが襲った。
明らかに通常発生のモンスターの数を超えていた。

MPK。モンスター・プレイヤー・キル。
この世界において、直接プレイヤーを殺害するPKは禁忌とされる。実際に死ねば、現実世界の人間も死ぬ。
だからこそ、ほとんどのプレイヤーはゲームであっても人を殺すことをためらった。

それが崩れたのは、ゲーム開始二ヶ月目。
最悪のギルド、ラフィン・コフィンの登場である。
彼らのせいで、わかっているだけでも十人以上のプレイヤーが殺された。知られていないプレイヤーも含めれば、その数は数倍に膨らむと言われていた。
だがラフィン・コフィンは殲滅された。
誰が手を下したのか、それは闇に葬られたが、ビーター・黒の剣士キリトなのではと言うのが専らの噂だ。

と言っても、大多数のプレイヤーはラフィン・コフィンの脅威を取り除いた相手に、表向きには感謝しないまでも、内心ではありがたいと思っていた。
いつ何時、ラフィン・コフィンに標的にされるのではないか。またどんどんPKが広がるのではないかと懸念されていたからだ。

ラフィン・コフィン壊滅後はPKの話は、まったくと言って良いほど聞かなくなった。噂でPKするプレイヤーには黒の剣士がやってくると言う、都市伝説のような話が広まったからである。

それはともかく、そんなプレイヤー同士の殺し合いが泥沼化する前に終息した事件だったのだが、それでもMPKと言う事件は皆無ではなかった。
直接手を下すわけではないので、犯人が特定されにくい。今までも何度か報告されており、軍でも警戒していた矢先だった。

この迷いの森では転移結晶は使えない。と言うよりも使えてもランダムで森のほかの場所に飛ばされる使用になっていた。
それにランダムなので、転移結晶をそれぞれが使えば全員が別々の場所に飛ばされ、余計に危険なことになりかねない。

このパーティーのリーダーの盾持ちの剣士であるグリセルダが、必死にモンスターを倒しながら、ほかのプレイヤーに声をかける。
今回のクエストは黄金林檎と言う総勢八人のギルドとの共同だった。
シリカやリズがこの誘いを受けたのは、ギルドのリーダーが女性であり、腕の立つ剣士だったからだ。

「シリカちゃん、リズちゃん。大丈夫、これくらい切り抜けて見せるわ」

安心させるように二人に言うグリセルダは、どこか頼れるお姉さんを二人に想像させた。

「カインズ! シュミット! ヨルコ! このまま逃げ切るわよ。お互いに援護できるように距離を取って!」
「はい、グリセルダさん! カインズ、お願い!」

ヨルコと呼ばれる緩くウェーブする濃紺色の髪の毛が特徴的なプレイヤーが声を上げる。

「ああ、ヨルコ。絶対に君は死なせない!」
「ったく。最近付き合いだしたからって、張り切りやがって。それにフラグ立てるなよ」
「おい、シュミット!」

二人の男プレイヤーの掛け合いに、グリセルダはくすくすと笑う。

「そうね。少しはいいとこ見せないとダメね、カインズ」
「リーダーまで。ええい! シュミット! このまま絶対に抑えるぞ!」
「当たり前だ。俺もこんなところで死ぬ気はない!」
「その意気よ、二人とも。じゃあ行くわよ!」

グリセルダとシュミット、カインズが前衛を受け持ち、ヨルコが援護する。黄金林檎の面々は中層プレイヤーの中ではかなり強い部類に入る。特にグリセルダは上層プレイヤーにも届くのではと思われるほどの剣技を有していた。
全員がそれなりにライフを削られたが、まだレッドゾーンではない。回復アイテムもある。
これならば無事に切り抜けられる。全員がそう考えていた。

だがそれが油断につながる。ここは森の中である。生い茂る木々に視界を奪われる。
彼らを襲っているモンスターはドランクエイプと呼ばれる、この森最強のクラスのモンスターである。
そしてその容姿が物語るように猿人である。巨体ではあるが、ある程度の俊敏性も持ち合わせていた。

だから彼らは木の上からも襲い掛かれる。大量発生したドランクエイプの一匹が木の上から襲い掛かったのだ。
全員が虚を突かれた。唯一反応できたグリセルダも目の前の数匹に手いっぱいで援護に回れない。
そして悲劇は起こる。前回の、一度目と同じようにシリカを、彼女の相棒たるピナを。
ピナは襲い掛かってきたドランクエイプの攻撃から彼女を守り、その身を散らせた。

「ぴ、ピナァァァッ!」

そこから先はグリセルダの機転と能力もあり、何とかドランクエイプの大群を一掃できた。
しかしシリカは心に深い傷を負った。




宿に戻り、泣き崩れるシリカ。それを何とか慰めようとするリズだが、ピナが残した一枚の羽根を持ったまま、ずっと泣き続けた。
彼女にしてみれば、友達の一人を亡くしたようなものだから、仕方がない。この三カ月ずっと一緒にいたのをリズはよく見ている。

だから何とかしてあげたいと思った。でも自分一人では無理だ。ならばとリズはアスナに連絡を入れた。彼女も一緒ならば、あるいはと思ったからだ。
だがそれは最善の手だった。アスナとともにやってくる人物こそが、ピナを、そしてシリカを救う手段を知っていたのだから。




「リズ!」
「アスナ!」

三十五層の宿で約二ヶ月ぶりに再会した二人だったが、とても喜んでいられる状況ではなかった。

「何があったの? シリカちゃんが大変って?」
「うん。実は……」

リズは何があったかをアスナに話す。MPKを受けたことも同時に。犯人は分からないそうだ。
誰を狙ったのか、それすらも不明。

黄金林檎の名前を出した時、アスナは驚いた顔をした。そんな彼女に怪訝な顔をするリズだが、それよりも優先させなければならないのシリカの件だ。
そこからピナがシリカを庇って羽根だけを残して死んだと言う。

アスナもシリカがピナと言う使い魔を連れていたことは知っている。なんだか前にキリトがポツリと漏らしたビーストテイマーの女の子って、彼女の事だったんじゃないかと考える。

「それで私だけじゃ慰めきれないから、アスナもいてくれたらって思って」
「うん、わかった。シリカちゃんもきっとものすごくつらいよね」

アスナもよくわかる。自分の場合はキリトだ。もしキリトが自分を庇って死んでしまったら……。想像もしたくない。

「………ちょっといいかな」

と不意にアスナの後ろから声がした。リズは驚いた表情を浮かべながら、そこに立っていた少年と言って良い男の姿を見る。
眼鏡をかけた黒髪の少年。背もそんなに大きくない。服装は初期装備とそう大差ない、茶色のジーンズのようなズボンと同じく茶色っぽいジャケットを羽織っていた。

これはキリトの変装である。変装と言っても別に顔を隠しているわけではない。
彼の場合、黒づくめであるからこそ黒の剣士と言われている。だからこそそれらをしなければ、高確率で彼だとは気付かれない。さらには眼鏡まで装備している。
それに今の彼は最前線にいた時とかなり雰囲気が違う。もし知り合いに会っても、一瞬見ただけではキリトだと気が付かない。
ちなみに眼鏡をかけたキリトを見たアスナは……。

「うっ……、め、眼鏡をかけたキリト君も凄くいい。なんだかいつも以上にキリッとしてるって言うか、凛々しいって言うか」
「あー、それはギャグなのか?」
「ち、違うよ! こ、こう、なんて言うのかな。いつも以上に知的と言うかクールと言うか。ああ、もうカッコいいよ!」

と頬を赤らめながら、ちらちらとキリトを見るアスナ。そんなものかなと、キリトは思いつつも、まあこんなアスナを見れたんだから、良しとするかと前向きに考えることにした。

「誰?」

リズは疑問の声を上げた。

「あっ、この人は私が今コンビを組んでる人でキリト君って言うの」

一瞬、キリトの名前を出してしまったと言う風な表情を浮かべたアスナだったが、リズはそれには気付かなかった。

「コンビを組んでるって……。あんまり強そうに見えないけど」

確かに装備も見た目もハイレベルプレイヤーには思えない。リズの意見は極めて正しい。それにキリトの名前を出しても、反応もしない。

(あれ? 俺の悪名ってあんまり轟いてないのか?)

前線では散々騒がれていたのだが、中層では意外とそうでもないのかとキリトは疑問に思った。
これはキリトの事がビーターやら黒の剣士としての通りなの方が有名であるのと、今の彼の装備が黒系統ではないためであった。

キリトの顔もそんなに出回っていないし、まさかあの悪名高いビーターがこんなところにいるとは誰も思わないだろう。
それにキリトの名前に気が付いても、今の彼の姿を見れば名前を語る偽物か同じ名前の他人としか思われない。

「あー、俺の事は良いとして、その話なんだけど、詳しく聞かせてもらっていいか?」

キリトの言葉にリズは怪訝な顔をする。いくらアスナが連れてきたとは言え、シリカの事はデリケートな問題だ。
見ず知らずの話を聞いただけのプレイヤーが、彼女の心を癒せるとは思えない。

「いや、もしかしたら力になれるかもしれない。そのシリカ、さんだっけ。彼女の使い魔だけど、今ならまだ助けられるかもしれない」
「!? ほんとに!?」

キリトの言葉に驚きの表情を浮かべながら、リズは彼に詰め寄った。

「ああ。その使い魔が死んでまだ時間がそんなに経ってないんだったら、助けることが可能だ。だから少しだけそのシリカさんと話をさせて欲しい」
「………嘘だったら、承知しないわよ」
「わかってる」

リズの言葉にキリトは深く頷いた。



「ほ、本当にピナを生き返らせることができるんですか!?」

リズに案内されたシリカの部屋で、彼女に蘇生クエストが存在することをキリトは告げた。

「ああ。まだほとんどのプレイヤーが知らない情報なんだけど、第四十七層の南の〈思い出の丘〉ってフィールドダンジョンがある。名前の割には難易度がそこそこ高いんだけどね。で、そこのてっぺんに咲く花が使い魔蘇生用のアイテムらしい」

ピナを生き返らせることができると聞いたシリカは、一度は喜んだが四十七層と言う言葉を思い出し、肩を落とした。
今いるフロアから遥か十二層も上であり、まだまだ最前線に近いフロアである。今のシリカのレベルは四十だった。

この世界のプレイヤー達もキリトの情報である程度の効果的なレベルアップが可能となり、シリカも軍に所属し、それなりにフィールドに出ていたこともあり、半年でここまでのレベルに到達した。

ただこのフロアでさえ、安全マージンが足りない状態だった。まあそこは軍のパーティーにいることや、ほかのギルドと協力するからある程度は大丈夫なのだが。
それでも四十七層に行こうと思えば、あと十五以上もレベルを上げなければならない。軍にお願いして、パーティーを組んでもらうこともできなくはないが……。

「ただ時間がない。使い魔を蘇生できるのは、死んでから三日の間だけ。それを過ぎれば蘇生は不可能なんだ。それに花を咲かせるには、使い魔を亡くしたビーストテイマー本人が行かないとダメだって制約もある」

そのキリトの言葉でシリカは再び絶望する。あと三日。もうピナが死んでから一日は経っている。実質あと二日。ここから軍に護衛の依頼を行っても、最前線近くに迎えるプレイヤーをすぐに用意することなどできないだろう。
自分一人では到底無理だ。
せっかく希望が見えたと思ったのに……。
先ほどまで止まっていた涙が再びあふれ出す。

「ちょっとキリト君! その言い方はダメだよ! それじゃあシリカちゃんが泣くのは当然だよ!」
「えっ!? いや、俺はそんなつもりじゃ! その、ごめん、シリカさん。言葉が足らなかった! 俺とアスナが協力するから、一緒にその子を生き返らせに行こう!」

アスナに怒られ、あたふたしながらも、キリトはシリカに謝罪する。同時に一緒に行くと彼は告げた。

「えっ?」
「俺とアスナが一緒なら君を守りながら、丘に行くことはできる。それに一応ある程度の装備があるから、それをシリカさんが装備すれば安全マージンは十分とは言えないけど、何とかなる」

言いながら、キリトはカーソルを操作する。トレード用のウインドウだ。
そこにはシリカも見たこともない装備が浮かぶ。

「これとこれとこれと……。これでレベルは最低五はあげられる。まあ戦闘は俺かアスナのどっちかが担当して、一人は君を守ることに専念すれば全然問題ないんだけど」

言いながら、キリトは即座に操作を終了する。

「アスナもそれでいいよな?」
「私は構わないよ。シリカちゃん、大丈夫だから。絶対にピナを生き返らせようね!」

笑顔で言うアスナにシリカは何とか泣くのを堪え、ありがとうございますと告げる。

「って、アスナ。あんた大丈夫なの!? 四十七層って言ったらほとんど最前線じゃない! それもシリカを庇いながら行くって」

あとこの男って信用できるのかと聞いてきた。

「大丈夫だよ、リズ。それにキリト君は信用できる。ううん、この世界で一番頼りになる人だよ」

笑顔で告げるアスナにリズは本当にこんなのが頼りになるのかと、疑うような目でキリトを見る。

「あ、あのキリトさん、で良いんですよね?」
「ああ、うん」
「本当にピナを助けられるんですか?」
「大丈夫。俺みたいな初対面の男の言葉は信じられないかもしれないけど、今は信じて欲しい」
「いえ。信じます。ピナは私を助けてくれました。今度は私がピナを助ける番ですから」

涙ぬぐいながら、シリカは何とか笑顔を作る。

「じゃあ時間も惜しいし、すぐに準備して出よう」
「はい!」

こうして、キリトは再びシリカの相棒を甦らせるために協力することになる。
ただし前回とは違い、頼もしい相棒とともに。



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