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No.34137の一覧
[0] キタローの幸せリア充ライフ用のぺルソナ4 【P4×P3主人公】[シンメトリー](2012/07/14 18:41)
[1] Sweet Way[シンメトリー](2012/07/14 02:22)
[2] 11:11 Pm[シンメトリー](2012/07/14 02:25)
[3] My Worst Nightmare[シンメトリー](2012/08/02 18:58)
[4] Pac-man Fever[シンメトリー](2012/08/04 12:37)
[5] Vanilla Twilight[シンメトリー](2012/08/10 21:01)
[6] Book Of Secrets[シンメトリー](2012/08/31 22:10)
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[34137] Book Of Secrets
Name: シンメトリー◆a001e8b6 ID:514e8ba9 前を表示する
Date: 2012/08/31 22:10
……16GB、32GBの間にある越えられない壁が見えた気がした。
容量も倍増した新たなWALKMANを胸に下げ心機一転で学校へ向かったものの、待ち受けていたのは物々しい緊急全校集会で全生徒に告げられた驚きの悲報だった。
丑刻の昼休み、昨日の壮大すぎる探検の影響で上向かない調子の中、屋上でチーズパンを頬張りながら考える。
────“殺人”。
今朝のテレビニュースでは名前が伏せられていたので解らなかったが、ここの学校長が言うには……3年生の女生徒・小西早紀。ついこの間実際に言葉を交わし、印象的な不透明の面影を纏っていた彼女がその被害者だというのだ。
それも、ある友達が言うには遺体は先の事件と同じように“吊されていた”らしい。この長閑な辺地で稀に見る連続殺人事件が起こってしまったというわけだ。
……自分の隣りに腰掛け、黙々とラーメンを啜っている友人をちらりと一瞥する。
2人の犠牲者、連続殺人事件。町を覆う出所不明の濃霧のカーテン。切断された蒼の異空間、ベルベットルーム。不思議とノスタルジックな淡い夢。そして────テレビの“内側”、影の反世界。
慣れることはない。この町に来てから驚きは絶えない。


(もしも……連続殺人が、あの世界と関係していたら────)

けれど、一つの“区切り”を見つけた気がする。もしかしたら、いや……やはり、もしかしたら。そんな仮定の積み重ねの螺旋。


「有里」

耳に届く、聞き慣れた声。不意に名を呼ばれ再び視線を隣りへと向けると、そこにはラーメンを食べ終えた後真剣な表情でこちらを見据える花村の姿が。
────当然、こいつも思うところがあるのは同じらしい。


「俺、実は昨日の深夜にバイト仲間のつてからこのこと教えてもらっててさ……。先に知ってたんだよ。だから一晩、よく考えてみたんだ」

「……」

「どうして小西先輩なんだろうって。何で犯人は2人を殺してしまったんだろうって……。考えてるうちに涙は枯れちまった」

「……答えは?」

目線を外し、チーズパンの袋をポケットに押し込みながら問い掛ける。
とはいっても花村はそれを理解できなかっただろうことは容易に想像できる。なぜなら彼は、人殺しとは無縁の善良な市民なのだから。
花村はやや俯き、右手で頭をかきながらぽつぽつと話す。

「───いや、全然思いつかんかった。殺された理由……この事件の真相はな。けどよ、一つだけ気になった部分があったんだ」

「……“あの部屋”」

「あぁ。……ったく、やっぱお前ってとんだ切れ者だぜ」

俺は一晩考えてやっと辿りついたのに。
花村はそう小さく零し、一切残念そうな様子も見せず溜め息をつく。


「あの時、色々とエグい部屋だったからお前カッコつけて背中で庇ったろ。里中はそれで見えなかったらしいけど俺はちょっとだけ見えてさ。っはは、俺お前より身長高けーし」

「……」

「あれは一度見て忘れられるようなもんじゃなかった。顔が切り取られたポスター……ロープとスカーフ、壁に染み込んだ赤い血……。何もかもが異常だ。考えてみりゃ事件の第一の被害者である山野アナと関係があるように思える」

顔が切り取られたポスター。写る人物は朱色の綺麗な着物を着ており、似たグラフィックデザインのポスターがジュネスには貼られていた。
それに写っていた人物は……件の演歌歌手。“そう”だとすれば、特定の人物……たかがポスターにさえ無益な憎しみを抱いてしまうような異常人物は────。


「……もう一つ。マヨナカテレビだ。お前は知らねーかもだけど山野アナは殺される前にマヨナカテレビに映るって噂になってたんだ。そしてその後、俺達はマヨナカテレビで小西先輩を見て、再び事件は起こった。これ、偶然にしちゃあ出来過ぎだと思わないか……?」

……よく、煮詰めている。朧げに積み重ねていた自分の考察とほとんど同じ。合わせ鏡。やはり花村は、少し熱くなりやすい部分はあるけど、しっかりと物事を整理できる人間だ。


「それだけで?」

「……ッ……」

刺がつかない程度、出来る限り諭すような口調で言葉を紡ぐ。
……しかし、それだけであの危険極まりない世界へ再びダイブするのはリスクが大きすぎるのだ。前回はクマのお陰で何とかなったが、次は彼と会える保証なんて何処にも無い。急拵えで楽しく向かうことができる場所ではないのだ。
その事を頭では解っているはずだけれど、花村はここにきて押し寄せる感情を我慢できず、冷静さを失い勢い良く立ち上がり叫ぶ。


「あぁ、それだけの理由だよ! 何の証拠も……保証だってねぇ! でも俺自身の責任はある! 俺にとっちゃ“何もしない”ことの方がよっぽど無責任なんだよ!! 大切な人が殺されたってのに……!」

「────……」

「だから頼む、有里! 俺と一緒に“向こう”の────」

昼食・屋上派の面々の視線が集まり出したところで花村の口を塞ぐ。そこから先は、口に出すべきではない。


「“どうでもいい”」

驚くことに、気づくと口は勝手に答えを紡いでいた。
本当は、行くなら自分一人でと思っていた。花村の必死な独白に心揺さぶられ、咄嗟に出たらしい己の口癖。肯定と否定……どちらにもとれる都合のいい言葉。
……でも、今回は花村の“勝ち”のようだ。


「うぉー! 心の友よー!!」

「……暑苦しい」

返答をきいた花村は、きょとんとした表情から一気に喜びの表情へと変わった。
答えを呟いた際の僕の顔は、どうやら“肯定”だと思われる類いのものだったらしい。
……けどハグはいらない。皆に誤解されてしまう。


(……僕が、守ればいい)

必死の想いで事件を糾明する決意をした花村と同様に、ならば自分はその友を守ってみせようという決意をする。
単純な話だ。真実は遠いだろう。けれど幾ら時間がかかろうが自分が“真実を追う者”を幾度となく窮地から守るのなら、いつか必ずその類いに辿り着くことができるはず。
……大切な友人の頼み。もう後戻りはしない。
たとえ、僕自身が犠牲になろうとも─────前を向いて、歩んでいくんだ。









「おーい有里ぉー……ってお前くつろぎ過ぎだろ!?」

待ち合わせ場所であるジュネスの家電コーナーの近く。
急いで来たのか額に汗をかいている待ち合わせ相手の遅れた登場に、身体をあずけていた展示用カウチソファーからゆっくりと立ち上がる。慣れた動作でイヤホンを外し首に下げる。
こいつのせいで午後の授業をサボることになったんだ。これくらいは許されるだろう。


「ったく、これじゃパシリみたいじゃねーか」

むしろパシリそのものだろうというツッコミは置いといて、頼んでいた物を受け取る。
手に馴染む滑らかな和柄の布袋の中から現れるのは一振りの竹製の日本刀……の代替品。テレビに潜るにあたって花村に頼んでおいたもの……それは“武器”だ。盗品もとい竹刀を再び袋におさめ、花村に対して小さく頷く。


「あ、それでよかったか? 苦労したんだぞ。なんせ道場はどこも授業真っ最中! 軽くスパイになった気分だったぜ。……そういや、校門らへんでも一年が何かやってたんだけどお前どうやって抜けたんだ?」

「ストレート(正面突破)」

「マジで!? もはや怖いもん無しだな! 俺が女の子なら頭がフットーしちまってるぜ」

気軽な冗談を交わし笑みを浮かべ、なるべく気負わずにテレビの中へと足をのばす。









銀銃はやはり、有里湊にとっての“鍵”だった。
銃を持つ右手と竹刀を持つ左手。テレビへと干渉し、暗い液晶に波紋を投げかけたのは利き手である右の方だったのだ。
イゴール達との契約…………この鍵が無ければ僕達はこの世界に入ることさえできなかったのだろう。

“貴方という一冊の本が、他の棚のスペースへと埋まったように”。

────頭の片隅に、徐々に己の立場というものが投影されてゆく。


「っ……」「っとと……!」

浮遊感と共に思考は終わり、地に降り立つ。流石に二度目となるとそこまで慌てずに対処ができた。二人揃ってしっかりと脚から着地をする。


「ほげっ……き、キミタチ!? なんでまた来たクマ!?」

「て、てめぇは……! あん時のクマか!」

……どうやら幸先が良い。鼻にかかった甲高い声と共に霧の中から現れるのは前回の“救世主様”ことクマだ。本当に幸運である。これで帰りは保証されるのだから。


「───だから何で俺らが“犯人”になるんだよ!? つーか探しに来たんだよそいつを! それと真実をな! とっとと案内しろってんだ!」

「だが断るクマぁぁあ!! 翔子! ……あ、違ったクマ。ショーコ、証拠を…………およ?」

いつの間にか息の合った熟練コントを繰り広げていた2人を制し、クマと向かい合う。顔は自然と柔らかな笑みを浮かべ、あの時言えなかった言葉をこの世界に押し戻す。


「……昨日は、ありがとう」

「く、クマ〜ンっ」

「おわぁ、キモっ!」

感謝の言葉に大いに照れながら身体をくねくねさせているクマの毛(?)を軽く撫で、上機嫌になったところでここに来た目的と協力をしてほしい旨を正確に伝える。


「……犯人、ゼッタイ捕まえるって約束してくれるクマ?」

不安げな大きな瞳(?)に、二人で顔を見合わせ確信を持って強く頷く。途端にクマは花咲くような笑みを見せ、スキップで歩き出す。こいこいと踊る手の動作から、どうやら自分たちを先導してくれるらしい。


「…………有里。お前女の子の扱いも手慣れてるだろ」

「……」

……やけに抑揚の無い声色で呟かれた花村の言葉を意図的にスルーしてクマの後を追う。









「ふんがっらんらん~♪ ふんがっらんっらんっ~♪ ……あ、ついたクマ」

ひょこひょことコミカルな足音(?)と共に鼻歌のようなものを歌いながらクマは僕達を先導する。
花村に渡されたオレンジの眼鏡同様、自分に渡されたどこにでもありそうな無色のコンタクトレンズは降り下る霧を魔法の様に掻き消す。
怪奇な世界においてやけに安堵を誘うその緩やかな歌に耳をかしながら、通された“場所”を見渡した。
────柔らかな曲線を描いていた眼は、一瞬にして険しいものへと変わる。


「こ、ここって……中央通り、か……?」

稲羽中央通り商店街。ギャハハと笑いあったその日を思い出す。ここは“表”のその場所に非常に似通っている。赤と黒に染まっていても、それは変わらない。
冷や汗を流しながら呟き、ふらふらと目の前の酒屋に吸い寄せられる花村を視界の端におさめながらもクマに確認をとる。
クマが真実を目指す僕達に協力し、その類いが存在すると考えたこの世界の一つの場所。
……被害者・小西先輩の、実家────。


「───あ!? ま、待つクマ! そこ、“シャドウ”がいるクマ!!」

「は、はぁ? シャドウ……? クマ、てめ何言って…………ぁ、うわぁあ!?」

と、思考に沈みかけた意識はクマと花村の尋常ではない叫びの声に強引に呼び起こされる。ほとんど条件反射の様に下がりかけていた頭を上げ、忙しなく動く視線はふらふらと店先に向かった花村に視点を合わせる。
────身体が、全身が、熱を持つ。


『────』

そこに見えていたモノは、“友達一人では無かった”。
“シャドウ”。クマはそう叫び、警戒を促した。腰が砕け震えている花村の目の前に“在る”のは、蒼い鋼鉄の仮面を背に携えた、丸い球体の形をとる異形。巨大な舌を垂らしただらしのない姿。
けれどその存在は余りにも異質、自分が知る“世界”で見たことも聞いたことも無いものであり、クマのみならずこの世界がいかに異常なものであるのかを強く意識させるものだった。


「……ッ!」

……大きい。とんでもなく、巨大だ。
図体だけではなく、それらから感じる畏怖という名のプレッシャーが竦む自分を一歩後ずらせる。恐ろしい……本当に。けれど、覚悟を決めてここに来た。
僕達は、前に進むしかない。


(そうだ────助けるんだ)

長い舌を鞭の様に撓らせるシャドウを視界にしっかりとおさめ、震えそうになる脚を鼓舞し、左手に竹刀を構え右手の銀銃を異形へと向けた。


「───……」

震えが伝わる小さな銃口に、止めどない焦りが生まれる。しかしそれ以上に…………確かに胸に灯ったはずのなけなしの勇気と焦りは、一つの揺るがぬ疑問によって暗転する。
─────“使い方”を間違っているのではないか、と。
つい昨日、この世界の住民へと銃口を向けたときにも感じた小さな違和感は、ここにきて突き刺さった茨の棘の様に異を唱え始め、思考回路をショートさせる。
それを自覚した瞬間、興奮に熱くなる身体は溶ける剛剣で寸断されたかの様に更に高熱を持ち、視界は蒼く暗い深海を彷徨う深海魚のそれのごとく一切の光を閉ざす。
助けると誓った…………僕が手を差し伸べるべき大切な友の姿を見ることは叶わなくなってしまった。
けれど、疑問、焦燥の代わりと言わんばかりに新たにこの胸に訪れるのは漠然とした安堵の想い。手段を捥がれ、危機が迫っている友を見失ったこの時、僕は確かに安堵していたんだ。
底知れぬ闇の心象風景の中で、震える身体が耳にした厳かな“吐息”は、確かに己の内の“忘れられた古傷”を思い起こすものだったのだから。


「ペ──────」

“僕は何時でも、力になるよ”。
新たに、歓喜と悲愴が脳内を駆けずり回る。“思い出す”高揚感と、僅かばかりの不透明な不安感。しかしそれを凌駕する突き抜けた快感に、口元は厭らしい笑みを浮かべ“トリガー”を無意識に、いや、流動的に口ずさむ。


「ル──────」

敵へと向けられていた銃口はあるがまま、自然と■■へ─────。暗転したこの世界で自覚できるのは、己自身の存在のみ。
漆黒の闇の世界で眼を泳がせ光を探した時、既に自分は、自ら瞳を閉じているのだということを知り小さく嗤い声を漏らした。


「ソ──────」

────ギチリ、と錆びた硬質の音が響く。鎌首を凭れる恐ろしい音。或いは、嘲笑う闇が、僕に虚言をしたのか。
急激な勢いで紐解かれてゆく己の頁(記憶)。これらが全て光のごとき“一瞬の出来事”なのだと実感した時─────。



“ごめん、なさい”。


彼女の涙を、最後に“思い出す”。


『─────!!』

最後の節を言い終えるのと同時に迷い無く引き金が引かれ銃声が響く。打ち抜かれた頭は、内部から破裂したかの様な衝撃と共に清々しいまでの開放感を得る。見開かれた瞳は既に闇から解放され周囲に浮かぶ蒼く輝く欠片を写し出し、その先に存在するシャドウをおさめる。
さぁ…………外れた運命の輪は、再びここで虹を描くのだ。


『我は汝。汝は我────。我は汝の心の海より出でし者…………幽玄の奏者────オルフェウスなり』

眩い蒼き光りと共に己の背に現れるのは、堅琴を携えた遊牧詩人。
自己の擬似的な臨死体験により表面化する抑圧された反面の存在。
────有里湊の“ペルソナ”、オルフェウス。
眼を向けることはない。それを己自身の視界におさめることは、奇妙なことなのだから。


「有……里……」

小さく漏れた、呆けた友人の戸惑いの声。魂の抜けたその声を合図に重心を前方にずらし身を屈め、酒屋を守るように蠢く異形……シャドウへと一直線に突進をする。
ペルソナによる身体基盤の強化により、獣もかくやという勢いで相手のテリトリーへと脚を踏み入れる。
一切の反応を見せないシャドウは、それを見透かしていたかのように舌を踊らせ僕を迎え撃つ。突進の勢いは止まらず、直線上にある敵の鞭へと自ら激突しそうになるが─────。


『────!!』

それは些細な弊害に過ぎない。
耳障りな悲鳴を上げ四散するシャドウへと、後方に佇むオルフェウスから放たれたのは小さな火球、“アギ”。
銃撃からやや遅れて放たれたディレイスキルは身を屈め走る僕の背をすり抜け寸分狂わずシャドウを燃やし尽くす。
────足を止めない。“元々の目標”……消えたシャドウの直線上、驚きに顔を青くし身体を震わせている青年を見据える。
役割を終えたオルフェウスを掻き消し、身体強化の限界をバネの様に無理矢理引き伸ばす。二三歩の距離を残し勢い良く地を蹴り、屈めていた身体を捻り竹刀を横薙ぎの姿勢で構え、敵に向けて力をためる。


「ぅおッ……!」

間抜けな声を上げて両手を前に出す花村の────。


『───!!』

背に潜み、花村に覆い被さらんと飛び出して来たもう一体のシャドウ……“目標”を竹刀で一閃する。無聊の咆哮さえも許されなかった臆病なシャドウは綺麗に真っ二つになった身体の形骸を保てず即座に消滅した。
右手の銀銃を再度頭に突き付けたまま、内に宿るオルフェウスの力でこの場をサーチするが、やはりこの一帯ではアレが最後だったようだ。
元来オルフェウスは索敵に秀でたペルソナではないけれど、酒屋周辺という狭いスペースならば見通すことも可能だ。


「あ、有里ぉ……」

視界の隅から聞こえてくる馴染みの声に、頭に思い浮かべていたトレース、イメージを放棄し、突き付けていた銃を仕舞う。
目線を下に向けるとそこには、後ろ手に身体を預け、とても言葉には出来ないような何とも言えない表情を浮かべた友人の姿が。
……花村の面白可笑しい反応に、助けることが出来たという安堵。二つがブレンドされ強張っていた顔に自然と笑みが浮かぶ。


「────大丈夫か、相棒」

言葉尻に竹刀でポンと花村の頭を軽く叩く。緊張が解けたように破顔する花村横目に、僕は戦闘での高揚、そして大橋での記憶を思い出すことが出来たことに万感の想いを感じていた。









「うはぁ、マジすっげ!? 超クールだぜ有里ぉ! さすがイケメン、爆発しろ! つーかあの化けもん、いやお前何もんだよ!? 俺の知ってる有里と違う! なんかこう、頭パーンってやったらカッてなって○ルトも真っ青なスピードでこっちくるし! ス○ンドみたいの後ろに浮いてるし! ……って頭は大丈夫なのかお前!? 怪我とかないのかよ!?」

「……」

────落ち着け。
そう言いながら、溢れんばかりのオカンの包容力で力強く肩を揺らすのが正解なのだろうか。
しかし生憎自分にそんなものが満ち足りている訳でもなく、眼前で起きた興奮に少年の様にテンションを高くし捲し立てる花村にどうしたものかと途方に暮れる。
とりあえずと、徐にイヤホンを耳につけ、MPが下がりそうな花村の踊りに軽快なBGMをかけ無表情にジッと眺める。半開きの口から溢れる小さな溜め息。


「落ち着くクマ、ヨースケ。マスターが困ってらっしゃるクマ!」

「は、はぁ? “マスター”だって?」

するとその溜め息に反応したのか、思わぬところからの助け舟が入る。花村の身体をぐいぐいと押しながらこちらに振り返りやけに芝居がかった動作で頭(?)を下げるのは異世界の協力者・クマだ。
クマは頭を上げた後満面の笑みでこちらを見つめ、再度花村へと向きなおる。


「ヨースケが言ってたクマよ? マスターは自分と違ってシャドウが爆発するくらいイケメンでもう一生マスターとして敬っていく所存でございって。嫉妬に狂ってついでにヨースケも爆発四散しそうって」

「勝手に脚色すんなよ!? なんで俺が爆発しなきゃならねぇんだ! つーか急に俺にだけ砕けた態度とりやがってこのえせアニマルッ……!」

「……」

売り言葉に買い言葉。何度目だろうか、花村とクマは仲良く“ケンカごっこ”を始める。
……助けに入ってくれたはずの存在に、更に場をややこしくされるという状況にデジャブを感じながらも、背後の酒屋の入口から微かな“声”を感じ、イヤホンを取り簡潔な言葉の羅列を頭のキャンバスに思い描く。


「…………ペルソナ」

「「え?」」

「シャドウを駆逐したのは、僕のペルソナ“オルフェウス”だ」

言いながらしっかりと右手に握られていた銀銃を頭頭部の側面に向けるが、自裁を思わせるその光景に未だ慣れないのか慌てて手をのばしてくる花村にそれを止められる。
対面、ブラウンの瞳としっかりと視線を交差させながらも用意された言葉を紡いてゆく。


「暗冥で竪琴を弾く、涙に濡れた吟遊詩人。有里湊の……解離したもう一つの側面」

「ぺ、ペルソナ……? 解離した……もう一つの、側面だって……?」

「ヨースケ。難しく考える必要はないクマよ? ペルソナは“自分自身”クマ。オルフェウスからは変なカンジもしたけど、確かにマスターの匂いがしたクマ」

「お、おう。要するに…………有里にはあのシャドウとかいう化物を倒せる力がある訳だな。ペルソナってのはやっぱりよくわかんねぇけど……。な、なぁ有里、クマ。もしかしたら、俺も────」

再び輝く眼を見せ始める花村の肩口から、赤黒に染まった酒屋の入口を指差す。
疑問符と共に振り返り、思い出したように言葉を失う花村の背に用意していた最後のしめ言葉を投げかける。


「……お前の目的は“あっち”だ。だからお前は前に歩けばいい」

僕が守る。守らなきゃいけない。────守る力が僕には、あるのだから。
地に横たえていた竹刀を再び手に取り軽く払う。言霊は戸惑う友だけを叱咤、鼓舞したのではなく、“思い出した”、今は無き死への恐怖に微かに震える自分自身にも向けられたものだった。


「───おう」

「あ、ヨースケ。クマも行くクマ!」

「クマクマうっせーよ!」

花村は呼吸を整えるように一度眼を瞬き、思い出した決意に顔を引き締め目先の目的を変える。
……酒屋にシャドウの気配はない。けれどこの異常の塊みたいな世界で、僅かな危機感さえも感じないと言えば嘘になる。
けど、耳をすませば…………ほら、“お前”の吐息が聴こえるんだ。どんな恐怖にだって、立ち向かってみせる。
いつの間にか固く握り締めてられていた竹刀を今度は力強く大きく払い、気持ちを新たに地を踏み締め後を追った。









酒屋の中は、暗く見通しが悪く、鼻腔をつつくアルコールの慣れない独特な臭いも相まって、肌を撫でる空気がどことなく粘つき、湿っているようにも感じた。
……先入観はあるけれど…………要約するとあまり居心地の良い場所ではないということだ。
所謂“造り手の苦労”というものが少し解る気がする。


「───……」

一室を見渡すと、先に足を踏み入れた花村とクマは部屋の奥のスペースで何かを手にとり一心不乱にそれを眺めている様子だった。
こちらに背を向けており表情は読み取れない。やや暗い視界の中、地に散乱する角材や作業ゴミに足を取られないよう気をつけながらそちらへと向かう。


「……?」

近づいても一向に反応を見せない花村に違和感を覚え、真横から身を乗り出し手に持っているものに眼を向けるとそこには…………。


『私、花ちゃんのこと…………ずっと、ウザいと思ってた』

小さな紙に写る“物体”が切り裂かれた写真の“一部”だと機敏となった脳が気づくのに、少しもかからなかった。


「……っ!」

「ク、クマ!?」

それとほぼ同時に頭に響く“声”に必要以上に驚いてしまい、意識することもなく勢い良く竹刀を振るわせる。しかし周囲を見渡しても声の主は視界には現れない。


『勘違いしてさ。一人でガキみたいに盛り上がってて…………本当、ウザい。私はアイツの事もジュネスの事も、全部どうでもいいのに────』

しかし、厭らしく歌うような彼女の独白は続く。その女性と思われる声のトーンが微かに聞き覚えのあることに考えがいたり、柄にもなく露骨に顔を顰めてしまう。


「せ、先輩……? そんなっ…………嘘だよな、こんな」

「ヨヨヨースケ!?」

声が届いたのは自分だけではない。いつもは朗らかな笑みが浮かぶ端正な顔を、驚愕に青く染めている花村のよろめく身体をクマが身体いっぱいにして必死に支える。
クマだけでは無理だ。自分も支えようと手をのばした時に肌に感じた微かな空気の変動感に花村とクマを自分の後ろに引き寄せ“そちら”へと身体を向ける。


『────悲しいな……可哀想だな…………俺ぇ……。……ぁ……ぅ…………けどよぉ、何もかもウザいと思ってんのは、心底こっちの方だっつの! ハハハハハ!!』

「っ……」

「なっ……! お、俺と……同じ……!?」

────“金色の瞳を持った花村陽介”と向かい合う。
ギロリ、と剣呑な瞳がこちらを射抜く。信じられない事に、その身体、容貌は自分に最も近い友人である花村陽介と余りにも一致しているものだ。けれど身構えていた分、驚きは少ない。驚きがあるとするならばそれは別のことだった。


(シャドウの反応は無かったはず)

そう、この周囲一帯は小さく、オルフェウスでも十二分にトレースが可能だった。クマは元より、間違いなくこの場所にシャドウの反応は感じられなかったのだ。けれど眼の前の奴から感じるのはシャドウの気配。
これもまた事実であって。


(なら、こいつは……)

瓜二つの容姿。矛盾。“こっちの方”────。
散りばめられたピースは一つの仮定を作り上げ、右手で銀銃を取り出そうとしていた僕の動きを鈍らせる。


「お、お前ぇ……! 何なんだよ、何で俺と同じなんだよ!! お、俺は────“ウザい”なんて……!」

『───嘘つけ。カッコつけやがって。商店街、ジュネス、田舎…………先輩にそしてコイツ。何もかもがウザくてウザくてしょうがねぇんだよ“お前”は。だからこそこの世界に興味持ったんだからよ』

「なっ、あ……ぁ…………」

目の前の人物に己を重ね慌てて言葉で取り繕う花村を“嘘”なのだと断じる言葉は、花村の反論とは比べ物にならないほどの強い意思を含んでいた。
……その瞳が自分ではなく、端から花村を貫いていたのだと解った時には、一足遅かったのだ。


『認めろ腑抜け。俺は、お前だ。決してこいつの様な物語の“ヒーロー”なんかにゃなれなねーんだよ……!』

「ち、違う……」

『ッハ! 何も違わねぇよ。お前は、俺なんだッ!!』

「────違う! 俺は……お前じゃない!!」

責める様な口調と鋭い瞳に花村はなすすべもなく押し切られ、シャドウにとっての待ち望んだ、自己否定であるその“トリガー”を口から漏らしてしまう。
直後一室を揺るがす程の爆発的な奔流と甲高い叫びが響き渡り、僕が我を取り戻したときには既に花村は無惨に倒れ伏せていた。


「……花村っ────」

『────我は影、真なる我』

振り向いた背から感じる強大な力の主よりも、守ると誓ったはずの友が地に横たわる姿が電流のように思考をかき乱す。上体を抱き上げ、脈をとると意識を失っているだけだということがわかり身体を強ばらせていた力が抜ける。
しかし変わりに、身を焦がす激しい怒りが背後に控える存在と、情けない己自身へと牙を剥く。
覚醒が明確に意図する事────こいつは、花村自身の“仮面”。それを知り、己自身との対面に部外者が横槍を入れるべきではないと、僕は頭の片隅で考えてしまったのだから。


『退屈なモノは、全部、ブッ壊すッ!! ……まずは────』

…………そうだ。それには賛成だ。全部壊してしまおう。
この場において、“どうでもいい”ものは全て、この手で。光に照らされなすすべもなくあるがままに行き場を失う暗闇の様に。
眠る花村の身体をクマに預け立ち上がり─────。


「「お前からだッ!!」」

宣言と共に初めて視線を交え、戦いの火蓋を切る。






■後書き■
そんなこんなで駆け足でペルソナ覚醒!
テンション上がっていろいろ厨ニっぽくしてたらアホみたいに長くなりましたw
小西先輩の下の名前の漢字を何時も紗季って書いてしまい後から修正するこのみじめさったらない(´Д` )


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