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No.34137の一覧
[0] キタローの幸せリア充ライフ用のぺルソナ4 【P4×P3主人公】[シンメトリー](2012/07/14 18:41)
[1] Sweet Way[シンメトリー](2012/07/14 02:22)
[2] 11:11 Pm[シンメトリー](2012/07/14 02:25)
[3] My Worst Nightmare[シンメトリー](2012/08/02 18:58)
[4] Pac-man Fever[シンメトリー](2012/08/04 12:37)
[5] Vanilla Twilight[シンメトリー](2012/08/10 21:01)
[6] Book Of Secrets[シンメトリー](2012/08/31 22:10)
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[34137] Vanilla Twilight
Name: シンメトリー◆a001e8b6 ID:514e8ba9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/10 21:01
────盲目な不安感を誘うスモークの様に広く濃い霧が、足元さえも覆ってしまう景観の中。
普段通り、不安や恐怖を一切表に出さない大人びた青年・有里は、そのすぐ背後を歩く二人を先導する様に三歩先を歩み、見えない道を切り開いてゆく。
意図せずともその右手は徐にブレザーのポケットへとのびており、彼がこの現象をイゴールの言う“運命”なのだと無意識に感じ始めていることが見て取れる。
また、確かに感じているはずの恐怖と不安を微塵も行動には出さず出口を探すため淡々と、それでいてどこか力強く先導をする有里の背を見て、里中と花村は小さな確信を得ていた。


(やっぱり、なんか違うな。他の……クラスの男の子達と)

……だけど、その“何か”が何であるのかを自分でもうまく飲み込めず、里中は悩まし気な吐息をつく。
頼りがい、だろうか。クールに見えて、実は小さな優しさに溢れたその人柄。それとも単に、彼は都会で育った男の子で田舎の生徒達とは何処かズレているだけなのだろうか。
さっきだってそうだった。一緒に笑える“良いトモダチ”である自分を……まるで“女の子”の様に…………。


(わっ! わっ……! せっかく忘れてたのに!)

「……テ、テンション上がってるな里中」

必死になって頭の隅に追いやっていた事を思い出してしまい、里中は顔を瞬時に沸騰させそれを振り払う様に頭を左右に振る。ふわりとしたボブカットの茶髪が霧を払うように揺れる。
有里に言わせれば、落ちて来たものをただキャッチしただけ。そこに自分がいたから。或いは友達が後ろにいたから────。
けれど“そういった”体験に慣れていない里中にとっては華麗なお姫様抱っこで助けられたという印象が大きい。
彼女にとって、この転校生はつい昨日まで、“底の見えない”人物という漠然としたイメージだった。
この田舎町ではあまり見かけない独特なアンニュイな雰囲気に、それを助長するかの様に夜の蒼に染まった髪が、同じく蒼い空を散りばめた瞳を覆い隠す。覗く顔立ちはやはり特別性を感じるほどに整っていて。
異性の友達が多く、人懐っこく、割りと世話焼きな性格も相まって異性との壁を感じさせない彼女を一歩下がらせてしまうにはそれでも充分過ぎる理由だった。
しかし今日、昨日の花村との楽しそうなやり取りを見て、勇気を持って再び話しかけてみれば彼はまた違う側面を見せてくれた。
……そして里中は、ついさっき見た有里もまた、別の“仮面”をその端正な顔に被っていたように見えたのだ。
────“不思議な人”。新しいクラスメイトである有里に対し、そんな慣れない感想を抱くのは何も里中だけではない。
転校初日から、まるで旧来の友人関係であるかのように彼の行動を追う花村もまた、言葉数少ない不思議な転校生に一種のカリスマ性の様なものを感じていた。
花村は自分よりも少しだけ小さな有里の背をじっと見つめる。


(考えてみりゃ、ホントなんでだろうな。こいつあんま喋んねーし。といっても所謂“肉食系”みたいにガツガツ前に出るタイプでもねーし……)

それは彼自身とも、そして彼が抱く理想像とも正反対なモノ。だからこそ花村は首を傾げる。
────そんな彼の無言の背が、自分を引っ張ってくれる“リーダー”のそれに見えて仕方が無いのはなぜだろう、と。


(……まぁ、んなこと考えだしたらなんで俺達が仲良くなれたのかってのもミステリーだしな)

変わらない霧の情景を、顔を顰めて見渡しながらも花村は不安を掻き消す様に思考を止めない。それを全て、“運命”という一言で片付けられれば簡単なのだろうが。


「……こっちに扉がある。開くよ」

恐怖を一身に背負う青年を、熱を帯びた瞳で見つめながら、二人は奇しくも同じ事を頭に思い描いていたのだった。





■ ■ ■ ■





扉を開いた先。霧によってぼやけていた幻影ばかりを捉えていた眼は、突如浮かぶ部屋中に付着した刺激色…………“血の様に赤い糊”に釘付けになる。
……灰吹きから蛇が出るくらいの覚悟はしていたつもりだったのだけど、流石に主は留守らしいこんな凄惨な部屋に遭遇して“驚くな”という方が無理があるだろう。最も言い訳にしかならないのだが。
────赤い一室。旅館やホテルの一室を思わせる整頓された部屋の中、囲う壁紙にはどう見てもそれを連想させる鮮明な赤が所狭しと染みている。顔の部分を切り取られたポスターも不気味な雰囲気を誘う。
中央にあるのは明確に“死”を伝える、地に聳える椅子と、スカーフの様なものを括り作られた天から伸びる縄。それに加え、まるでこの世界がこの部屋を見せつけようとしているみたいに霧が薄い。


「んげっ………なんだよこれ……。 椅子とロープの配置があからさまにマズいんだけど……」

扉を開けたままの姿勢で固まる自分の背後、あごを肩に乗せる様にして怖々と中を見ている花村の脇腹を肘で小突き、そのまま扉を閉める。
自分と花村の背に隠され中を見ることが出来なかった里中は当然不満げな声を漏らす。


「ちょ、ちょっと! 私まだ中見てないんだけど!」

「……出口“は”無かった」

「“は”……!? そ、それって他に何かあったってことだよね。 私にも見せてよっ」

そう言いながらもぐいぐいと身体を押し退けようとする里中に“どうしたものか”と思い精一杯邪魔をしていたら意外な所から助け舟が。


「まぁまぁいいじゃねーの、里中。こいつの事だ。何も意地悪でしてる訳じゃねーんだしさ」

「う……それは、そうだけど…………ってあんたも見たじゃん!」

責められる役を代わりながらも花村は僕を見てニヒルなウィンクをする。余りにもキャラに似合わないそれに思わず笑みを漏らしながらも頷く。
必死に隠しているようだけど、割りと恐がりな里中にはこの殺伐とした部屋は悪い影響しかないだろう。
気になるものはあったものの、今の目的は1から最後の番数迄“出口”のみ。花村は僕の思惑を察して瞬時に庇ってくれた。そういえば、自分で自分は参謀タイプなんて称していたことを思い出す。


「ちょちょ、有里さん……! 助けて下さい……!」

……そんな押されっぱなし参謀タイプの“自ら助けに入り自ら助けを求める”という高等技術をまざまざと見せつけられ、リーダーとなる人物に同情をし再び前へ出る。
いや……その人物は、ある意味幸せなのかも知れない。


「────里中、一緒に帰ろう。ここはあまり関係のない場所だった」

「あ……う、うん。そうだよね。今は帰れる場所を見つけないと……」

「納得すんのはやっ!? 何だよ、俺のアシストなんていらねーじゃねーかこの完璧超人!」

悪口になっていない悪口を受けながらも、再び先頭に立つ。
ここも違った。頭の中でトレースしている簡素な地図に“×”を付ける。
……次に目指すべきは、北西だ。一度方向をリセットするため霧のスタジオへと向かう。



………。


……。


…。



長いような短いような、曖昧な時間をかけ黄色いスタジオへと戻って来た。
この地点から遠ざかるごとに薄まっていたと感じていた霧も、ここではやはり、視覚だけの情報で思わずむせてしまう程に濃い。
ブレザーのポケットに眠る銀銃をお守りの様に握り締めながら、歩みを進めてゆくと、以前とは異なる要素を見つける。────それは、何かの“影”。
鼓動が高いテンポを刻み出す。眉を顰め、いそいそと蠢いているそれを前に二人を庇う様に前へ歩き出し、静かにイヤホンをつけるのと同時に流れる動作でポケットから銀銃を取り出す。


「有里!?」「有里君!」

二人もその存在に気づいたらしく、向かう自分を止めようとする大げさな叫びが木霊する。
爪先に近づいても尚、うずクマったままであるその物体に震える腕で銃を突き付けるが────。


「ね、狙い撃たれるクマぁぁあ!!」

……それが喋り、人間であるという証明に気付き慌てて銃をポケットに戻したのだった。
“これは、違った”。駆け寄る二人に意識を飛ばしながらそんな事を考える。目の前で頭(?)を抱え、震えながらうずクマっている存在は、確かに言葉を発した。なら、彼はきっと“人間”だ。いや、そうでなくては困る。
────ようやく見つけたこの世界の綻び、そして微かな希望。けれど僕は大きな希望を抱いて彼に言葉を投げ掛けた。




■ ■ ■ ■



◆◆◆ 天城雪子 SIDE ◆◆◆



────ふと、ぼんやり空を見上げてみれば。
田舎に映える夕暮れを、まるでカタチを造るかのような大きな雨雲が覆い隠しているのがわかった。眼を細めて、気まぐれに手をかざし雨雲を叱る。


(橘……ううん、菊柄かな)

雲の隙間から零れ落ちる薄らいだ光りと水滴は、まるで私自身の持て余した感情を表すかのよう。
……私、天城雪子は今日もこうして、変わらない私自身の日常から“逃げていた”。
雨のせいで少しだけ波が高くなっている河川が見える土手の、その一角にある小さな休憩場所みたいなスペース。
何か面白い物があるわけでもないし、居るだけで前向きになれる癒しの空間があるわけでもない。
けれど、旅館の手伝いの片手間、子供のように“嫌な事”から逃げ出してしまう私にとっては、きっとここは特別な場所なんだろうな。
そんなふうに自嘲しながら、かざしていた手を降ろしそのまま濡れた髪を払う。
……今日もそう。事件の影響で日増しに増えていくマスコミの対応に我慢出来ず、傘をさす事さえも忘れて着物姿のままここに来てしまった。


「…………もぅ、イヤだ……」

一人になれる場所。弱音をはける場所。
静かな空間に、川の流れる音と小雨の雨音だけが聞こえる中、自分でも驚くくらいにか細い声で呟かれた言葉はすぐに溶けていってしまった。
ドラマで語っていたり、クラスの女の子達がよく口にしていたりする“運命”というありふれた魔法のコトバ。
“あらかじめ決められているレールの存在”に憧れているって、みんなは言っていた。私が思い浮かべるのは、ずっと描いていた“私だけの王子様”。私だって、そんな存在に憧れている。
……けど。けど、もしも。今の現実が、天城雪子にとっての“運命”だったのなら、そんなモノは────。


「……!」

暗い表情でそこまで考えたとき、ふと近くで水の跳ねる音が聞こえた。
こんな天気の中、私以外にこの場所に足を運ぶ物好きな人がいるのかな……?
その人の姿を窺おうとしてハッとし、慌てて着物の袖で自分の顔を隠す。今の私は桜柄の着物姿という事をすっかり忘れていた。その間にも、水の跳ねる音……足音はこっちに近づいてくる。
────“バレてしまう”と、きっとアレが飛んでくる。


『さすが老舗旅館の娘ね〜。やっぱり女将修行大変なの? ……はぁ〜、将来の事までしっかり見越してるなんて私達とは違うなぁ』

……違う。違うよ。
答えなんて、ホントはないんだ。旅館の手伝いを強く断ることが出来ないのは、間違いなく私自身なのだから。
けど私の“仮面”の内側は、そんな事少しも望んでいない。
────ただそれを誰も解ってくれないだけであって。


(どうして私ばっかりっ……!)

短いような長いような、注射針が迫ってくるかのような……それを待つ時間の中。固くつむられた瞳から、雨とは違う水の雫がこぼれ落ちそうになった時…………。


「……天城?」

「……ぇ」

止まった足音。袖をとおして聞こえてきた中性的な声色は、いつもの心の底に突き刺さる運命への“決めつけ”ではなくて、私への問いかけの言葉を乗せていた。









薄紅色の傘をさしながらこっちに来た物好きな男の子、私のクラスの転校生である有里湊君は、促されるままゆっくりとした動作で傘をとじて私の隣へと腰掛ける。
……とっさに座りなよと誘ったのはいいのだけれど、こうしてちゃんと話すのは初めて。席が斜め同士なのもあって、失礼だとは分かっていても隣に座った彼の顔をちらちらと観察してしまう。
───小柄だけど品やかで、スマートなラインを描くスタイル。彼がまとうミステリアスな雰囲気を助長するかのような、前下がりアシンメトリーな前髪が特徴的な奇抜な髪型。湿気でしっとりとしたその色はダークブルー……群青色だ。シルバーのイヤホンがよく映える。
長い前髪の隙間から見える顔立ちは、クラスメイトの女の子達が嬉々として話すように“可愛くてかっこいい”というへんてこな表現がしっくりくる。
きっと見る人によって、別々の感想を持つんだと思う。……こうして間近で盗み見る(?)ことで、私は“意外とベビーフェイスで可愛い”と思ったみたい。
そして何よりも、視線を奪うのは…………。


(……“氷”みたい)

思わずそんな感想を抱いてしまう、曇りが一切見えない澄んだ蒼の瞳。
彼が教壇に立ったその日から、私が彼に対して出所のわからない“恐怖”を抱く元凶。
とはいっても、それはとても曖昧で漠然とした気持ち。こうして肩を並べる事だって、気を使うけど特に嫌じゃない。
……だから、出所の分からない恐怖。とても失礼だ。
言うのなら……そう。彼の吸い込まれそうなその瞳を見ていると、まるで得体の知れない“死神”が見えてくるようで────。


「着物」

「え?」

「……似合ってる」

考えることに没頭する私を呼び起こしたのは、その張本人である青年の言葉。
短く、そして雨音にかぶせるように静かに呟かれた言葉は、確かな想いを私に告げてくれる。ほんの少し頬が熱くなる感覚と一緒に、いつの間にか顔と顔を向き合う形になっていたことに慌てて身体の向きを戻して顔を隠すように俯く。
……学校でも、そして大嫌いな家でも。散々聞き慣れてしまったお決まりのお世辞。だけど同年代の男の子にこんなにも近くで、面と向かって言われると不思議と悪い気はしない。


「あ、ありがとぅ……」

消え入りそうな声で呟かれたお礼は、文字通り雨音に掻き消されてしまった。
“いつものお世辞だよ”と頭の後ろで思ってはいても、やっぱりお世辞でも嬉しいという気持ちはおさまってくれない。何よりもそれを口にしてくれたのが苦手意識を持っている彼だということが意外で、尚のこと嬉しかった。
赤く染まった頬をごまかすためにとっさに思いついた話題をふる。


「そ、そうだ。今日いっしょに遊べなくてごめんね。今、ちょっと旅館の方が忙しくて……」

「気にしてない」

「本当……? なら良かった。……また誘ってね。次は一緒に行くから」

「……なら、“次”は大丈夫だ」

次? ……何のことかな。
彼の言葉の真意はよくわからなかったけど、クールが代名詞な彼が見せる、珍しい少し疲れたかのような表情に思わずふきだしてしまう。
そんな私の反応に、自然と有里君もつられて小さく笑っているようだ。


(……かわいい)

ふとした時に見せるあどけない表情。かっこいいのに愛らしい。クールでドライなのに人を惹き付ける存在感。やっと私にも彼の人となりが解った気がする。
初めて見る彼の微笑みは、陰鬱で泥に塗れた私の心を、外の雨雫の様に洗い流してくれる“天使の微笑み”だった。



………。


……。


…。



そのあと、少しだけ打ち解けることのできた彼との会話は弾んだ。
といっても、いつもよりはといった感じだけれど……。


「……それじゃ」

「うん。またね、有里君」

来た時と同じように、有里君は唐突に別れの挨拶を告げて腰を上げる。揺れる長い前髪と呼応するように光りを反射する銀のイヤホンが踊る。思わず笑みが溢れてしまう。
意外と自由奔放(マイペース)なのかな。“フリーダム”……花村君が彼に対してよく言っている言葉だ。
雨の中を颯爽と歩いて行く彼の背をじっと見つめる。大都会にある月光館学園のものらしいオシャレな制服をまとう彼の背中は、雨のカーテンに覆われてもしっかりと自己主張をしている。
月並みだけど、その光景はまるで一枚の絵画のよう。



「……またね」

もう一度確かめるように小さく呟き、その背中に向けて手を振る。
……雨が降っていても、今日はここに来ることを選んで良かったな。前にいた学校のこととか、彼自身のこととか、色々なことを知ることができたから。
見上げた空は、少しだけ暗くなってきている。旅館は嫌いだけど、皆に心配をかけるのは嫌だ。そろそろ私も帰ろう。
そう思いながら重い腰を上げて、お尻を叩いているとふと小さな異変に気づいた。


「傘────」

彼が持って来たシンプルな傘。それがさも当たり前のように自分の隣に“忘れられて”いるのだ。
……有里君は、とても頭がいい男の子。千枝はよく私に“有里君に助けられてる”ことを話すので知っている。授業中の真面目な態度も相まって、各教科の先生方の第一印象も良好そのもの。“うっかり”という言葉がとても遠い存在だ。
そもそも彼は、話している間右手で傘をつかんでたと思う。
それなのに“雨の降っている日”の帰りに、傘を忘れていることに気づかないなんてことがあるのかな。


(────優しいんだね)

薄々と感じていた願望のような結論。それに辿り着き、そっと傘を胸に抱く。
────きっと、私のために“わざと”忘れてくれたんだ。
自然で、どこかぎこちないその思いやりに、胸には暖かい気持ちが溢れ、暗く曇っていた空が途端に明るく晴れたかのような清々しい気分になる。
……いつもいつも、一人で弱音をはいていたこの場所。なのに今日はこんなに心は晴れている。
彼の背中に私が重ねていた死神は、とっくの昔に消えてしまっていた。





■ ■ ■ ■




────携帯のアラーム。そして身体を揺すった時の、耳元感じる僅かな異物感に目を覚ます。
寝ぼけ眼で携帯を弄り、耳に手をのばそうとするが中々うまくいってくれない。寝起き頭はぼんやりし、身体の節々が微かな熱を帯び、胸にある得体の知れない圧迫感が口元にまでのぼっている。
このダルい感覚は、“二日酔い”……だろうか。最も、体験したことなんてないけれど。


「────……」

……冗談。本当の原因なんて解り切っていることだ。この体調の不安定は昨夜から続いている。おそらくテレビの内側に入ったことが何らかの影響を与えたのだろう。何しろ得体の知れないどころか知る方法さえも解らない場所なのだ。
少しずつ鮮明となる意識の中、緩慢な動作でようやく耳に手をやるとそこにはイヤホンが。身体を見下ろすと案の定コードがいたるところに絡まっていた。どうやら聴きながら“寝落ち”してしまったらしい。
毛布の中からプレイヤー本体も探し出すが、やけに暗い画面に歪な文字列が表示されている。俗に言う“バグっている”状態だ。
そこでようやくWALKMANと自分の身体の現状を思い出す。
────そうだ。僕は昨日、クマに助けられた後、ジュネスから濡れて帰ったんだった。



………。


……。


…。



「……」

長年連れ添ったWALKMANをそっと机の引き出しに休める。ダブルコンボで“風邪”をひいてしまったのは僕だけではなかったのだろう。
濡れて帰ったあの時にバッグに入れておけばと思わなくもないけど、幸いバッグの中にはもう一つの相棒候補が眠っている。
それに今更傘を忘れたことを後悔なんてしていない。新たな一面を見せてくれた天城の代わりに雨に濡れることなんて苦ではないのだ。
────僕にとっては変わらない毎日。何一つ破綻していない日常の風景。




■後書き■
さして攻略とかさせてないのに千枝ちゃんと雪子との会話は変な空気に…w
クマのとこはカット! すまんクマ


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