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No.34137の一覧
[0] キタローの幸せリア充ライフ用のぺルソナ4 【P4×P3主人公】[シンメトリー](2012/07/14 18:41)
[1] Sweet Way[シンメトリー](2012/07/14 02:22)
[2] 11:11 Pm[シンメトリー](2012/07/14 02:25)
[3] My Worst Nightmare[シンメトリー](2012/08/02 18:58)
[4] Pac-man Fever[シンメトリー](2012/08/04 12:37)
[5] Vanilla Twilight[シンメトリー](2012/08/10 21:01)
[6] Book Of Secrets[シンメトリー](2012/08/31 22:10)
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[34137] Sweet Way
Name: シンメトリー◆a001e8b6 ID:514e8ba9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/14 02:22
『────はじまるよ。君の運命の輪は、再び此処で“虹”を描くんだ』



………。


……。


…。



────微睡む意識の中。
心地よい快楽と共に、誰かに呼ばれ肩を揺すられたかの様な感覚に、ゆっくりと眼を覚ます。


「………」

顔を覆ってしまっている前髪を軽く払う。
寝起き特有の脱力感が身体を包む中、周囲を見回しても当然のごとく人影は見当たらない。
……ここは目的地へと向かう小さな電車内。どうやら、電車が走る軽やかな揺れを子守唄の様に感じ眠気を誘われて、またその揺れに眠ってしまった意識をも揺さぶられたようだ。
窓の外の景色は既に、テレビでしか見た事も無い様な“何も無い風景”へと変わっていた。


『え〜次は〜……八十稲羽〜八十稲羽〜…』

(田舎の魔力……)

頃合いを見計らったかの様に車内に響く、“目的地”を告げるアナウンスにそんな事を考える。
各地を転々としていたとはいえ都会育ちで電車に慣れている自分が、まさか目的地を前に不用意に眠ってしまうとは思わなかったのだ。言い換えればそれほどに快適な旅だったのだろう。
…最後の最後で起こしてくれたのは、田舎なりの情けなのかもしれない。
柄にも無くそんな馬鹿らしい事を考えている内に電車の揺れは収まる。…どうやら、着いたようだ。
無言で首から下げたイヤホンを装着し、walkmanのスイッチを押す。
さぁ、これから“また”新たな生活が始まる。……今日も恐怖に立ち向かう“勇気”を貰わなくちゃいけない。
割りと小さく纏まった荷物を手に立ち上がる。
────その時乗車口から見えた溢れんばかりの眩い光は、有里湊にとってこの決断を祝う希望の光の様にも見えたのだった。









「───……」

車内から降りた先の景色は、僕にとって酷く新鮮なものだった。
整備の届いていない錆びれた券売機。4人は座れるベンチが4人分全て空いている状況。雑音が無く電車が去った後は試験中のクラスの様に無音となり、鳥の声だけが緩やかに響き渡る駅のホーム────。
……培ってきた常識が覆される事はこんなにも新鮮味があるものだったのだろうか。
とはいえ、“曲”の邪魔が入らないのは素晴らしい事なのだけれど。それに、聞いた通り緑が溢れていて空気が美味しい気がする。
────ゆっくりと。時間をかけて。車内から見る景色とはひと味違う光景に軽快なBGMをかけながら駅の出口へと脚を向かわせた。
八十稲羽駅。それにしても、小さな駅だ。



………。


……。


…。



「お〜い! こっちだ〜!」

駅を出て、いよいよ新たな生活が始まる地へ踏み込むのと同時に感じるのは、ビルに隠れない太陽の暖かな陽射しと、イヤホンから流れる音楽を掻き消すほど野太く大きな男性の声。
電話越しに何度も聴いていた声────懐かしい“叔父”のものだ。どうやら待たせてしまったらしい。イヤホンを取り、小走りに駆寄る。
……太い声。渋い容姿に仄かに香る煙草の匂い。本当に変わりない。


「よう。久しぶりだな、湊。また一段と美人になったな」

「……」

「……ははは。もう高校生にもなる一端の男に使う褒め言葉じゃなかったな………あいてっ!」

背を叩かれたのか、叔父はすっ頓狂な声を上げて身を仰け反らせる。
若干“いい気味”と思いながらもその背の影に眼を向けるとそこには、見知った姿────ではなく、記憶の中の姿から大きな成長をした少女の姿があった。
…驚きは無い。子供の成長は早いのだから。少女………堂島菜々子は父・堂島遼太郎のお尻を叩いて前に出たのは良いものの、自分にかける言葉が上手くまとまらないのか、眉でハの字を作り口をぱくぱくとさせている。


「あ、あの………菜々子……」

────そんな“変わらない”姿も見る事が出来て、自然と温かな気持ちが溢れる。腰を折り目線を合わせ、出来るだけ柔らかな声を心がけて助け舟を出す。


「……大きくなったね、菜々子」

「あ………う、うんっ。………湊君も………お兄ちゃんも、すごくおっきくなったよ?」

一輪の花の様に可憐な笑顔に、自然と頭に手がのびる。……今度は大輪の花を咲かせてくれた。


「────。まぁ、何年来だ。積もる話もある。3人で家に“帰ろう”。湊、今日はお前の歓迎会だ」

「………お世話になります」

自分と菜々子、二人の背に腕を回す叔父の言葉に素直に頷く。
───自分に気を使っている叔父とその娘にぎこちない笑顔を向けられながら。
“そう言えば人と話すのは久しぶりだ”と何処までも澄んだ頭の中で、僕はそんな事を思い描いていた。





■ ■ ■ ■





「ただいま~」「…ただいま」

待っている人間はいないというのに、少女らしく元気よく帰宅を告げる菜々子と、対照的に太い声色で小さく呟く様にそれを告げる堂島。
二人の手には、行きつけのスーパーで買ったと思われるビニール袋と、予め予約しておいたのか大きな寿司袋が抱えられていた。
その足のまま二人は“歓迎会”の準備を始める。
先程の気を使っていたかの様な、何処か引き締まっていた表情は既に二人からは消え、和やかな雰囲気が居間へと訪れる。
そんな中、遅れて登場するクールドライな青年・有里湊は無言のままドアをくぐり、ふせていた瞳を上へ向け物珍しそうに家内を見回す。


「………ただいま」

再び目線を下げややあって呟いた言葉は、いそいそと食事の準備をする堂島のがっしりとした大きな背に微かに届く。
堂島はその万感の言葉に一瞬動きを止めた後、振り返り玄関に立ったままの青年へと出来るだけ穏やかな口調で声をかける。


「お前はそこら辺に座ってるといい。すぐに準備は出来るからな。……すまんな、買ったもんばかりで」

「いえ……失礼します」

「おう。……菜々子、皿は3枚だからな?」

「うん。もう出したよお父さん」

「そうか、早いな。……よし。それじゃあ乾杯といくか」

────同じく穏やかな表情を浮かべた青年が、テレビが設置されている居間へと腰掛けて幾分もなく、3人の“家族”の少し豪華な夕食は始まったのだった。









「……お兄ちゃん、寂しかった…?」

───食事の途中。明るく振舞おうと意識してはいたものの再び俯きがちになっていた菜々子は耐え切れずその言葉を零してしまう。
それは触れない様に触れない様にと注意をしていた言葉。
未だ幼い菜々子以上に神経質になっていた堂島は、ハッとした様に身をびくつかせ直ぐ様菜々子の口を塞ごうとするが、湊本人の目配せでその意図を察し渋い表情を作りながら乗り出した身体を戻し成り行きを見守る。
その質問に少しだけ驚いた表情を作っていた湊は、出来るだけ優しげな声色で菜々子へと真っ直ぐに向き合う。


「……どうして?」

「だ、だって……お兄ちゃん…………」

────菜々子と同じで、家族がいなかったから。
父から疎らに聴いた青年の生い立ちだけではなく、自身の境遇をも思い出したのか菜々子は見るからに涙目となり、その言葉の先を続けられない。
……有里湊は、今からおよそ10年前に不慮の事故で両親を失っている。
その後各地を転々としていたが、辰巳ポートアイランドの月光館学園で過ごした1年を最後に、母方の叔父であるこの堂島の家へと引き取られたのだ。
彼はこの10年間、ほとんどの時間をたった一人で過ごしている。
金銭的な援助はあったものの“家族がいない”その状況を危惧していた堂島は何度も何度も彼を引き取ろうと手段をこうじていたが、皮肉なことにそれがあだとなり、入り組んだ物事はうまく運ばなかった。
結果10年────少年が一人の男へと成長するには十二分すぎる時間が流れようやく堂島の悲願は達成される。
……遅かった。本当に。あんなに小さかった子はこんなにも大きく成長していた。もう少し、自分が上手い手段を使えていたら。家族を失う辛さは誰よりも解っているはずなのに───。
堂島の後悔は尽きない。だからこそ彼は、“これからは”出来うる限り青年に幸せと愛情を与えようと考える。それがきっとこの子の為にも………そして亡くなった姉の為にもなるのだから、と………。


「……少しだけ」

菜々子の言葉の続きを待つまでもなく湊は思ってもいないことを口にした。
本当は寂しくなんてなかったのだ。“誰か”が、何時も一緒に居てくれている気がしていたのだから。


「怖かった………かな」

───しかし思い返してみれば、それは安堵と共に言い知れぬ“恐怖”を自身へと与えていたと彼は考える。
漠然とした“何か”。自分が無気力なのはまるでそれを甘受するためなのではないか、と。


「じゃ、じゃあ………菜々子とお父さんが一緒にいるから、もう怖くないよね…? お兄ちゃんは、一人じゃないんだよね…?」

まるで自分の事の様に縋る菜々子に、湊はうっすらと笑みを浮かべて頷く。少女は青年がようやく見せてくれたその笑顔に感極まり泣きつく。
救いを与える者と与えられる者。どちらがどちらなのか解らない状況。
───そのやり取りを静かに見守っていた堂島もまた、溢れ出る感情と涙を堪えるかの様に強く握りこぶしを作っていた。





■ ■ ■ ■





何処までも広くそれでいて何一つ物が無い、檻の様に暗い空間の中。
────不思議な香りがする。
それは自分にとって近くて遠い存在。
…水面ニ浮カブ月。羽ヲ休メル蝶。蒼イ薔薇。張詰メタ弓。静寂ノ夜───。別の物に例えることはいくらでも出来るが、朧げで決して明確に掬いとる事が出来ない感覚。
矛盾の螺旋。しかしはっきりと自覚はしているんだ。だからこそ、それを“香り”なのだと自ら意図して錯覚をしていた。
───あの日から、有里湊が心の内にずっと抱えていた綻び………真実の楔。


『やぁ』

そんな時、ふと声がした。


『一つだけ───良い事を伝えにきたんだ』

誰だ、とは言わない。…言おうとしても口にすることはできない。これは“夢”なのだと知っていたから。


『つい最近にね。君は、己の定めとなる“運命の輪”から………弾かれた』

────虹を描く、運命の輪。その美しい軌跡から自分は弾かれたのだと、“彼”は言う。


『…あぁ、でも安心してくれていいよ。それはきっと、君にとっては良い事なんだから。そして────僕にとっても、ね』

“思い出したんだ。一足先に────全てを”
胸の内から響く声、姿を見せない彼はそう告げる。その中性的な声色は何処か不安定な揺らぎを感じさせた。
“外”にはいないと無意識に感じてはいながらも、耐え切れず手をのばす。
しかし─────。


『……また、逢いに来るよ』

別れの言葉と共に、黒一色に塗り潰されていたはずの周囲の空間は硝子の様に割れ、砕け落ちる。
夢には余りにも不相応なその苛烈さに驚き思わず視界を閉ざし、やや間を持って再び眼をあける。
するとそこには暗転した世界は無く、月明かりがよく映える“あの”大橋へと舞台が変わっていて─────。


『──ごめんなさい………』

その中で、のばされた己の腕を両手で握り締める、見目麗しい顔を悲しさに歪めた金髪蒼眼の女性の姿があった。









───たった3人でひっそりと行われた歓迎会の翌日。
この日初登校ということでそれなりに早めに目覚めた僕は、叔父にあてがわれた見慣れぬ自室の中で今朝の不思議な夢を反芻していた。


「───……」

腰掛けるのは西洋風の椅子の上。朝の光りが漏れるブラインドを開くこともせず、ただただイヤホンから流れる音楽に耳をすませ、“握られた”腕を見つめる。


(………。…“ごめんなさい”)

……全てを覚えている訳ではない。
一般的に夢は記憶の整理作業と言われている。その夢の中の出来事でさえも記憶として脳に完全に残すのならばそれは整理とは言えないものだ。
覚えているのは“救われた”という漠然な安堵。そして────“涙を流してしまいそう”な位に悲し気な表情を浮かべた女性の姿。より強く残っておるのは後者の方。
自分が今まで見たことも無い程に美しく、或いは人形の様に整った、人離れした風情を持っていた女性。
……心奪われるとはこういう事をいうのかも知れない。
あまりにも鮮烈なイメージ────彼女は夢の中だというのに、自分の意識を揺さぶったのだ。あの瞬間に目覚めたのははっきりと記憶にあるのだから。
……しかしだからこそ、そのヒトが悲し気な表情で自身に謝るという状況が気に掛かった。


「……」

見つめていた腕でそのままプレイヤーを停止させ、前髪を払う。
…単なる夢に過ぎないのは解っている。だけど思考の巡りは未だ止まらない。
彼女が自分に謝ったということは、彼女は僕を知っているということに繋がる。あの大橋には何となく見覚えがあるものの、正直な所女性には全く見覚えがない。
この一つの矛盾が、やけに心を乱す。…まるで異を唱えるかの様に。これがもしも矛盾等では無いとしたならば、それは────。
僕は………有里湊は、彼女を “忘れて”いるという事だろうか。
そこまで思考しハッとし、前屈みの身体を起こし時計を見る。
…もうすぐ予め定めておいた時刻だ。
仕事柄叔父の朝が早いのは知っている。だからこの家にお世話になる上で自分が朝御飯等の準備はしなければならない。
立ち上がり、イヤホンを取り外し首にかける。
部屋を立ち去る際に、先程まで熱心に思考していた懸念に対して最後に浮かんだ言葉(想い)はただ一つ…………“どうでもいい”。
だというのに─────。


「………大丈夫」

扉が閉まろうとする無人の部屋に向けて呟かれた言葉は、その謝罪に対する小さな答えだった。
────“有り得ない”はずなのに。腕にはほんのりと、彼女の温かさが残っている気がする。









眠気眼を擦りながら、菜々子が部屋から居間へと到着したころには既に朝食の準備は完了していた。
…とはいっても食べ盛りの自分と、成長期である菜々子にとっては少しだけ物足りないものではあるだろうけど。
限られた時間で朝食にと用意したのは、ホットケーキとスクランブルエッグ、それとサラダ&野菜スティック。気まぐれにミキサーでフルーツジュースなんてものも用意してみた。勿論、どれも子供が食べやすい様に小さく切ってある。
…一人暮らしは無駄に長いので、自炊は“それなり”だ。冷蔵庫の中身を把握していなかったにしては及第点だとは思うが、先に家を出た叔父が残していった食器やゴミを片付けるのに多少手間がかかってしまった。
今日は登校初日ということで、朝食用意の時間に加えて少しだけ余裕をもって起きたのだが、明日からも大体この時間帯に起きた方がよさそうだ。


「うわ〜! すご〜い! “ようふう”だ〜!」

……簡素だけど、それでも菜々子はキラキラと眼を輝かせてくれる。
頬を上気させ、待ちきれないと言った風に椅子の上で可愛らしく身体を揺らす。
流石に小学生に朝食をごちそうになる訳にもいかず、昨夜の歓迎会で自分が担当する事を予め伝えておいた。
菜々子は渋々にといった感じで了承をしてくれたのだけど、どうやらこの子のお眼鏡にあうぐらいには出来ているようだ。
────子供ながらに気を使ってくれたとしても、悪い気はしない。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ホットケーキの作り方、今度菜々子にも教えて!」

「…いいよ」

昨日の涙はどこにいったのやら、こんなにも幼いのに女性らしく料理の作り方を知ろうとする少女の姿に自然と笑みが溢れる。ケーキにバターをのせようと動いていた手は、いつの間にか小さな頭の上にのせられていた。


「あっ………えへへ…」

菜々子は照れた顔を見せ、もじもじと身体を震わせる。
────最近は年に一度、会うか会わないだった少女との関係。年を重ねるにつれその頻度が少なくなっていた。
再会した時はもちろんお互いが驚いたのだ。対面する相手は、記憶の中の姿からあまりにも成長をしていたのだから。


「お、お兄ちゃん………ごはん食べたら、学校、いっしょに行こ…?」

思い出したかの様に、ぎこちなく囁かれたその言葉に小さく頷く。久しぶりの再会に自分も菜々子もまだまだ“心の壁”を作っている。
けれど、温もりを求めているこの子となら────それが必要無くなる日も遠くはないだろう。
永く感じていなかった温かな気持ちを抱きながら。僕は小さな、けれど確かな幸せを感じていた。


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