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No.33455の一覧
[0] ダークブリングマスターの憂鬱(RAVE二次創作) 【完結 後日談追加】[闘牙王](2017/06/07 17:15)
[1] 第一話 「最悪の出会い」[闘牙王](2013/01/24 05:02)
[2] 第二話 「最悪の契約」[闘牙王](2013/01/24 05:03)
[3] 第三話 「運命の出会い」[闘牙王](2012/06/19 23:42)
[4] 第四話 「儚い平穏」[闘牙王](2012/07/09 01:08)
[5] 第五話 「夢の終わり」[闘牙王](2012/07/12 08:16)
[6] 第六話 「ダークブリングマスターの憂鬱」[闘牙王](2012/12/06 17:22)
[7] 第七話 「エンドレスワルツ」[闘牙王](2012/08/08 02:00)
[11] 第八話 「運命の出会い(その2)」[闘牙王](2012/08/10 20:04)
[12] 第九話 「魔石使いと記憶喪失の少女」[闘牙王](2012/08/10 20:08)
[13] 番外編 「アキと愉快な仲間達」[闘牙王](2013/01/24 05:06)
[14] 第十話 「将軍たちの集い」前編[闘牙王](2012/08/11 06:42)
[15] 第十一話 「将軍たちの集い」後編[闘牙王](2012/08/14 15:02)
[16] 第十二話 「ダークブリングマスターの絶望」前編[闘牙王](2012/08/27 09:01)
[17] 第十三話 「ダークブリングマスターの絶望」中編[闘牙王](2012/09/01 10:48)
[18] 第十四話 「ダークブリングマスターの絶望」後編[闘牙王](2012/09/04 20:02)
[19] 第十五話 「魔石使いと絶望」[闘牙王](2012/09/05 22:07)
[20] 第十六話 「始まりの日」 前編[闘牙王](2012/09/24 01:51)
[21] 第十七話 「始まりの日」 中編[闘牙王](2012/12/06 17:25)
[22] 第十八話 「始まりの日」 後編[闘牙王](2012/09/28 07:54)
[23] 第十九話 「旅立ちの時」 前編[闘牙王](2012/09/30 05:13)
[24] 第二十話 「旅立ちの時」 後編[闘牙王](2012/09/30 23:13)
[26] 第二十一話 「それぞれの事情」[闘牙王](2012/10/05 21:05)
[27] 第二十二話 「時の番人」 前編[闘牙王](2012/10/10 23:43)
[28] 第二十三話 「時の番人」 後編[闘牙王](2012/10/13 17:13)
[29] 第二十四話 「彼と彼女の事情」[闘牙王](2012/10/14 05:47)
[30] 第二十五話 「嵐の前」[闘牙王](2012/10/16 11:12)
[31] 第二十六話 「イレギュラー」[闘牙王](2012/10/19 08:22)
[32] 第二十七話 「閃光」[闘牙王](2012/10/21 18:58)
[33] 第二十八話 「油断」[闘牙王](2012/10/22 21:39)
[35] 第二十九話 「乱入」[闘牙王](2012/10/25 17:09)
[36] 第三十話 「覚醒」[闘牙王](2012/10/28 11:06)
[37] 第三十一話 「壁」[闘牙王](2012/10/30 06:43)
[38] 第三十二話 「嵐の後」[闘牙王](2012/10/31 20:31)
[39] 第三十三話 「違和感」[闘牙王](2012/11/04 10:18)
[40] 第三十四話 「伝言」[闘牙王](2012/11/06 19:18)
[41] 第三十五話 「変化」[闘牙王](2012/11/08 03:51)
[44] 第三十六話 「金髪の悪魔」[闘牙王](2012/11/20 16:23)
[45] 第三十七話 「鎮魂」[闘牙王](2012/11/20 16:22)
[46] 第三十八話 「始動」[闘牙王](2012/11/20 18:07)
[47] 第三十九話 「継承」[闘牙王](2012/11/27 22:20)
[48] 第四十話 「開幕」[闘牙王](2012/12/03 00:04)
[49] 第四十一話 「兆候」[闘牙王](2012/12/02 05:37)
[50] 第四十二話 「出陣」[闘牙王](2012/12/09 01:40)
[51] 第四十三話 「開戦」[闘牙王](2012/12/09 10:44)
[52] 第四十四話 「侵入」[闘牙王](2012/12/14 21:19)
[53] 第四十五話 「龍使い」[闘牙王](2012/12/19 00:04)
[54] 第四十六話 「銀術師」[闘牙王](2012/12/23 12:42)
[55] 第四十七話 「騎士」[闘牙王](2012/12/24 19:27)
[56] 第四十八話 「六つの盾」[闘牙王](2012/12/28 13:55)
[57] 第四十九話 「再戦」[闘牙王](2013/01/02 23:09)
[58] 第五十話 「母なる闇の使者」[闘牙王](2013/01/06 22:31)
[59] 第五十一話 「処刑人」[闘牙王](2013/01/10 00:15)
[60] 第五十二話 「魔石使い」[闘牙王](2013/01/15 01:22)
[61] 第五十三話 「終戦」[闘牙王](2013/01/24 09:56)
[62] DB設定集 (五十三話時点)[闘牙王](2013/01/27 23:29)
[63] 第五十四話 「悪夢」 前編[闘牙王](2013/02/17 20:17)
[64] 第五十五話 「悪夢」 中編[闘牙王](2013/02/19 03:05)
[65] 第五十六話 「悪夢」 後編[闘牙王](2013/02/25 22:26)
[66] 第五十七話 「下準備」[闘牙王](2013/03/03 09:58)
[67] 第五十八話 「再会」[闘牙王](2013/03/06 11:02)
[68] 第五十九話 「誤算」[闘牙王](2013/03/09 15:48)
[69] 第六十話 「理由」[闘牙王](2013/03/23 02:25)
[70] 第六十一話 「混迷」[闘牙王](2013/03/25 23:19)
[71] 第六十二話 「未知」[闘牙王](2013/03/31 11:43)
[72] 第六十三話 「誓い」[闘牙王](2013/04/02 19:00)
[73] 第六十四話 「帝都崩壊」 前編[闘牙王](2013/04/06 07:44)
[74] 第六十五話 「帝都崩壊」 後編[闘牙王](2013/04/11 12:45)
[75] 第六十六話 「銀」[闘牙王](2013/04/16 15:31)
[76] 第六十七話 「四面楚歌」[闘牙王](2013/04/16 17:16)
[77] 第六十八話 「決意」[闘牙王](2013/04/21 05:53)
[78] 第六十九話 「深雪」[闘牙王](2013/04/24 22:52)
[79] 第七十話 「破壊」[闘牙王](2013/04/26 20:40)
[80] 第七十一話 「降臨」[闘牙王](2013/04/27 11:44)
[81] 第七十二話 「絶望」[闘牙王](2013/05/02 07:27)
[82] 第七十三話 「召喚」[闘牙王](2013/05/08 10:43)
[83] 番外編 「絶望と母なる闇の使者」[闘牙王](2013/05/15 23:10)
[84] 第七十四話 「四天魔王」[闘牙王](2013/05/24 19:49)
[85] 第七十五話 「戦王」[闘牙王](2013/05/28 18:19)
[86] 第七十六話 「大魔王」[闘牙王](2013/06/09 06:42)
[87] 第七十七話 「鬼」[闘牙王](2013/06/13 22:04)
[88] 設定集② (七十七話時点)[闘牙王](2013/06/14 15:15)
[89] 第七十八話 「争奪」[闘牙王](2013/06/19 01:22)
[90] 第七十九話 「魔導士」[闘牙王](2013/06/24 20:52)
[91] 第八十話 「交差」[闘牙王](2013/06/26 07:01)
[92] 第八十一話 「六祈将軍」[闘牙王](2013/06/29 11:41)
[93] 第八十二話 「集結」[闘牙王](2013/07/03 19:57)
[94] 第八十三話 「真実」[闘牙王](2013/07/12 06:17)
[95] 第八十四話 「超魔導」[闘牙王](2013/07/12 12:29)
[96] 第八十五話 「癒しと絶望」 前編[闘牙王](2013/07/31 16:35)
[97] 第八十六話 「癒しと絶望」 後編[闘牙王](2013/08/14 11:37)
[98] 第八十七話 「帰還」[闘牙王](2013/08/29 10:57)
[99] 第八十八話 「布石」[闘牙王](2013/08/29 21:30)
[100] 第八十九話 「星跡」[闘牙王](2013/08/31 01:42)
[101] 第九十話 「集束」[闘牙王](2013/09/07 23:06)
[102] 第九十一話 「差異」[闘牙王](2013/09/12 06:36)
[103] 第九十二話 「時と絶望」[闘牙王](2013/09/18 19:20)
[104] 第九十三話 「両断」[闘牙王](2013/09/18 21:49)
[105] 第九十四話 「本音」[闘牙王](2013/09/21 21:04)
[106] 第九十五話 「消失」[闘牙王](2013/09/25 00:15)
[107] 第九十六話 「別れ」[闘牙王](2013/09/29 22:19)
[108] 第九十七話 「喜劇」[闘牙王](2013/10/07 22:59)
[109] 第九十八話 「マザー」[闘牙王](2013/10/11 12:24)
[110] 第九十九話 「崩壊」[闘牙王](2013/10/13 18:05)
[111] 第百話 「目前」[闘牙王](2013/10/22 19:14)
[112] 第百一話 「完成」[闘牙王](2013/10/25 22:52)
[113] 第百二話 「永遠の誓い」[闘牙王](2013/10/29 00:07)
[114] 第百三話 「前夜」[闘牙王](2013/11/05 12:16)
[115] 第百四話 「抵抗」[闘牙王](2013/11/08 20:48)
[116] 第百五話 「ハル」[闘牙王](2013/11/12 21:19)
[117] 第百六話 「アキ」[闘牙王](2013/11/18 21:23)
[118] 最終話 「終わらない旅」[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[119] あとがき[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[120] 後日談 「大魔王の憂鬱」[闘牙王](2013/11/25 08:08)
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[33455] 第五十話 「母なる闇の使者」
Name: 闘牙王◆401f0cb2 ID:7bdaaa14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/06 22:31
ルカ大陸にある巨大な山脈。岩と砂だけが全てを支配している世界。そこに一隻の船が墜落していた。だがその大きさはとても船と呼べるようなものではない。巨大要塞アルバトロス。その名が示す通り要塞であるアルバトロスは墜落しながらもまだその原形をとどめている。そういった意味では不時着したというのが正しい表現。だが既に再び飛び立つことができない程の損害を受けていることは明らか。そんな中


「ふう……何とかなったか……」


ボロボロになったアルバトロスから一人の少年が脱出する。全身黒ずくめの恰好に金髪。DC最高司令官であるルシア・レアグローブ。その姿は全くの無傷。とても墜落したアルバトロスに先程まで乗っていたとは思えないようなもの。


(とりあえずは大丈夫そうだな……海じゃなくて山に墜落したのは逆に良かったのかもな……)


大きな溜息と共にルシアは改めて自分が先程までいたアルバトロスに目を向ける。墜落の衝撃によって所々が崩壊しかけているものの原型をとどめているのは流石はBGの拠点といったところ。同時にルシアは先の戦い、この事態を引き落とした原因を思い出す。ルナールとの再戦。その最後の攻防の際のルナールの攻撃によって要塞であるはずのアルバトロスはその翼を失いこの山脈に墜落してしまった。それはルシアにとっても完全に想定外の事態。下手をすればアルバトロスに乗っていた者全員が命を落としかねなかったのだから。だが結果はこの通り。墜落によって大きな衝撃に襲われはしたものの船が爆発するような事態は起こらずに済んでいる。もっともいつそれが起こるか分からないためにルシアは急いで船外に脱出したのだが。もし海であったのなら移動手段が必要になってくること、船が沈没する可能性があるためそれに比べれば随分マシな状況と言えるだろう。


六祈将軍オラシオンセイス達も全員無事みてえだな……けどまだルカンの奴も生きてやがる。四人がかりでも手こずってるってことなのか……?)


ルシアは感覚を研ぎ澄ませながら今の状況を確認する。まずは六祈将軍オラシオンセイスが全員無事であること。だが明らかにDBたちの様子がおかしい。一言でいえば焦っているような状況。先のアマ・デトワールのような状況に他の三人が持つDBも陥っている。それはすなわち六祈将軍オラシオンセイス達全員がルカンによって追い詰められている、苦戦している証。対するルカンの持つDBには全くそれらが見られない。ルシアは驚くしかない。確かにルカンは六つの盾シックスガードのリーダーであり最強の男。だがまさか六祈将軍オラシオンセイス四人がかりでも苦戦する程の強さを持っているなど考えもしなかったのだから。詳しい状況を知ろうにも六祈将軍オラシオンセイス達はアルバトロスを挟んでルシアとは正反対の側にいる。すぐに向かうことができない程の距離。どう動くべきかルシアが思考しようとした時


『何とかなった……か。なるほど、確かにそうだな……で? その脇に抱えておるのは何なのだ、主様よ?』


どこか背筋が寒くなるような空気を纏ったマザーの言葉がルシアに向かってかけられる。瞬間、ルシアはびくん、と反応し背筋を伸ばすしかない。まるで親に悪戯がバレてしまった子供のよう。ルシアは顔を引きつらせ、冷や汗を流しながらも恐る恐ると言った風にマザーに、同時に自らの抱えているものに目を向ける。そこには気を失ってしまっているものの健在なルナールの姿があった。


『い、いや……これはその……な、なんとなくだよ! なんとなく!』


ルシアはしどろもどろになりながらも弁解する。もはや言い訳にすらなっていない程の焦りよう。それは自らが抱えている、助け出してしまったルナールに対する言い訳。先程まで戦っていた、自分の命を狙っていた相手を助けるというマザーから見れば信じられないような行動。それを分かっていながらもルシアはどうしてもそれをせずにはいられなかった。もっともほとんど条件反射に近いものではあったのだが。そんな中にあってもルシアは何とかいい言い訳がないかと考える。だがどんな言い訳もマザーに通用するようなものではない。こうなれば無理やりだが死なせるには惜しいので仲間にするために助けたという理由でごり押ししようとルシアは開き直ったのだが


『ほう……何となく、か。では先程の戦いも何となくで手加減したということか? 我が主様よ』


そんなルシアの浅知恵などお見通しだといわんばかりの威圧感もってマザーはルシアを問い詰める。その言葉によってルシアは息を飲むしかない。それはマザーに自分の企み全てを知られてしまっているかのような感覚。


『て、手加減……? な、何言ってやがる! 俺はちゃんと全力で戦ったっつーの! てめえも見ただろうが、文句なしの完勝だろうが!』
『……侮るなよ、主様よ。我が気づかぬとでも思ったのか? 本気で戦えば剣の一振り、いや二振りで終わっておったろうが』
『っ!? い、いや……それは……』


マザーの言葉によってルシアは言葉を詰まらせるしかない。それはマザーの言うことが全て正しかったから他ならない。先のルナールとの戦い。見ることができない程の高速戦。それは正真正銘ルシアの全力を出したもの。そこに手加減は無い。だが根本的な差があった。それはルシアにとっては高速戦をする必要すら本来は無かったということ。最初からネオ・デカログスを使っていれば剣の二振りで勝負が決していたという事実。それをあっさりと見抜かれてしまったことにルシアは戦慄するしかない。


『そういえば結局アルバトロスは墜落してしまったな……しかも他ならぬBG側の仕業で。残念だったな、主様? せっかく敵を殺さないように細心の注意を払っていたというのに……いや、結局兵士達は死んでおらぬようだから良かったというべきかの?』


くくく、という笑いと共にマザーはさらにルシアを追い詰める。その笑いとは裏腹に目は全く笑っていない。まるで最初に出会ったころを彷彿とさせる雰囲気。限りなくエンドレスに近い姿。それに気圧されながらもルシアは思い知る。最初から自分の考えなどマザーには見抜かれてしまっていたのだと。


『敵を殺さないようにすること』


それがルシアが今までの、そして今回の戦いで誓っていること。それを守るためにルシアはあえてネオ・デカログスを使ってはいなかった。それはネオ・デカログスの威力があまりにも強力すぎるため。相手を殺さずに制することができた爆発の剣エクスプロージョンですら既に例外ではない。その証拠にここ半年の修行は誰もいない、広大な砂漠で行っていた。そうしなければ周囲の被害が洒落にならないレベルになってしまう。マザー曰く『歩く自然災害』レベルの力が今のルシアにある。そんな強さになってしまってからの初めての実戦。ルシアにとっては戦々恐々とするしかない戦い。今までの自分の身を心配してことではない。そう、敵の身を心配してのこと。

先のルナールの戦いでも闇の真空剣テネブラリス・メルフォース闇の封印剣テネブラリス・ルーンセイブの連続技を使えば一瞬で勝負は決まっていた。闇の真空剣テネブラリス・メルフォースはその速度と範囲からルナールも避けきれず閃光化を使うしかない。後はその直後に闇の封印剣テネブラリス・ルーンセイブを振るうだけ。だがそれを知っていながらもルシアは使うことができなかった。それは大きな二つの理由。

一つが闇の真空剣テネブラリス・メルフォースを使えばアルバトロスが墜落してしまうから。いや、そんな生易しいものではすまない。使った瞬間にアルバトロスは真っ二つに両断されてしまうだろう。そうなれば六祈将軍オラシオンセイスはもちろん船にいる一般兵も巻き添えにしかねない。

そしてもう一つがルナールを殺してしまう危険性があったから。ただの封印剣ルーン・セイブなら加減もできるが闇の封印剣テネブラリス・ルーンセイブであれば振るった瞬間、閃光化しているルナールは消滅しかねない。


ルシアがハードナーと六つの盾シックスガードをまとめて相手をしたくなかった本当の理由。それは乱戦になれば手加減ができず弾みで誰かを殺してしまうかもしれないから。


ルシアはそれをこれまでマザーに知られないように必死に誤魔化してきた。かつてのように自分が死ぬのが嫌で戦いたくないのだと装って。もし敵の身を案じているなどと知られればどうなるか分かったものではない。

だがそんな自らの考えが甘かったことをルシアはようやく気づく。それはアルバトロスの弾幕によって自分が攻撃された際のマザーの言葉。そして自分とのやり取り。ルシアは事ここに至って悟る。既にその時に自分はマザーに全てを見透かされていたのだと。


『マ、マザー……俺は……』


ルシアは息を飲み、緊張状態のままマザーに向かい合う。どう言い訳をするべきか。そしていかに許しを乞うべきか。だがルナールを殺すことはもちろん殺しを行うことはルシアにとっては禁忌に近い行為。ルシアには確信があった。もしそれをしてしまえばこれまでの自分が崩壊してしまう。そんな予感。だがそれを口に出すこともできない。そのままルシアはただマザーと向きあい続ける。マザーは唯無言でそんな主の姿を睨んでいるだけ。今にも崩れてしまいかねない程の極限の緊張状態。それがいつまでも続くのでは思えたその時


『………くくく、ははははははは!!』


そんなあまりにも場違いな笑い声が辺りに響き渡る。まるで悪戯に、ドッキリに成功した小さな子供のような無邪気な笑い。マザーはもう我慢できないとばかりにただひたすら笑い続ける。もし実体化していれば腹を抱えてその場に笑い転げている少女の姿があったに違いない程の騒ぎよう。だがそれはマザーだけ。ルシアはただそんな光景を前にその場に目が点になったまま立ち尽くしているだけ。一体何が起こっているか分からない。そんな状態。


『くくく……いや、中々に楽しませてもらったぞ、主様。まさかそこまで焦ってくれるとは我の想像を超えておったわ……』
『…………は? な、何言ってんだ、お前……? っていうかどういうことだおい!? 何でそんなに笑ってんだよ!? さっきまでのは何だったんだ!?』
『ふふっ、そう喚くでない、騒々しい。見ての通り、ちょっとした悪ふざけだ。お主の浅はかな考えなど全てお見通しよ。だがなかなかハラハラしたじゃろう? やはりお主はそうでなくてはいかん』


まだ笑いが収まらないのかマザーは息も絶え絶えにネタばらしをする。今までの言葉も、態度も全てルシアを驚かすためにドッキリであったことを。


『ふ、ふざけんなあああああ!? どういうつもりだ!? こっちはまじで死ぬかと思ってたんだぞ!?』
『失礼な。我が主を殺すことなどあり得ぬ。それにこれはちょっとした戒めだ。お主が敵を殺すことができんヘタレであることなどとうの昔から知っておる。我がいつから主と共にいると思っておる』
『そ、それは……じゃあ何か。俺が敵を殺さなくてもお前は構わないってことかよ?』
『うむ、おおむねの。だがそれはあくまでも主が勝つことが前提だ。相手を気遣って負けるなど本末転倒。まあその時には我が手を下してやろう。主にそれをさせることで妙な趣味に目覚められでもしたら面倒なことになるからの』


マザーは上機嫌になりながらも告げる。既にルシアの考えていることなどお見通しなのだと。ヘタレという言葉もそれを示すもの。ルシア自身のことでなく、敵を殺すことができないことを揶揄した言葉。ある意味ルシアのことを誰よりも理解しているマザーだからこそのもの。ルシアはそうと知らず勝手に右往左往していただけ。道化に相応しい間抜けっぷり。そしてそれを楽しむマザーのドSぶり。ようするにいつもどおりに二人組の姿だった。


『じゃ、じゃあ……俺は一体今まで何を……』
『ふん、我に隠し事をしようとした報いだ。だが殺しはせんにしても閃光のDBは奪っておけ。気を失ってはおるがいつ目が覚めるかは分からんからの』
『あ、ああ……最初からそのつもりだ……』


ルシアはがっくりと肩を落としながらもルナールの持つライトニングを没収し、地面へと横たわせる。封印剣ルーン・セイブによるダメージがあるためすぐに目覚めることは無いだろうが念のための処置。いかにルナールといえどもDBなしでは戦闘力は大幅に落ちる。これでこの場はひとまず丸く収まった。次にどう動くべきか。ルシアが思考を切り替えようとしたその時


「なるほど……てめえがシンクレアを持ってた小僧か……」


地に響くような低い声と共に一人も男が悠然とルシアに向かって近づいてくる。一歩一歩確実に。まるで執行者のように。


「…………」


ルシアは自らの背後からその気配を感じ取る。死角によって姿を見ることができないものの既にそれだけで十分だった。声から、足音からだけでも伝わってくる圧倒的な存在感。辺りの空気が重くなるような感覚。ただそこにいるだけで人が跪きかねない威風。それを持ち得る程の力とカリスマ。百万の兵士の頂点に君臨する空賊の王。


「初めましてってところか……自己紹介はいるか、金髪の坊主」


BG船長 『不死身の処刑人ハードナー』


世界に五つしかない闇の頂きに選ばれた一人の王がそこには君臨していた。



(こいつがハードナーか……確かにキング並みってのは嘘じゃねえな……)


ルシアは振り返り、ネオ・デカログスをいつでも抜けるようにしながらハードナーと向かい合う。まずその巨大さに圧倒される。同じ人間とは思えないような大男。左腕にはマシンガンが据えられ背中には一本の剣が携えられている。まさに処刑人の二つ名にふさわしい姿。まだ戦ってもいないのにその強さが伝わってくる。ルシアは知らず自分の見通しが甘かったのだと悟る。ルシアはシンクレア持ちの中ではハードナーは最も組みしやすい相手だと考えていた。確かにハードナーが持つシンクレア『アナスタシス』の再生の力は脅威。どんな傷も瞬時に再生してしまう無敵の力。だが逆を言えばハードナーにはそれしかない。後は純粋な剣技のみ。そして再生の力にも限りはある。ドリューやオウガが持つシンクレア、そして使い手自身の強さからルシアはハードナーはシンクレア持ちの中では最弱だろうと思っていた。だがルシアは感じ取る。それは直感といってもいいもの。これまでの戦闘経験とDBマスターとしての勘。それがルシアに警鐘を鳴らす。目の前の男、ハードナーが決して楽に倒せる相手ではないことを。


「カハハ! 何だ、黙ったままかよ。新しいDCのキングってのは随分無愛想なんだな」


挑発的な笑みを見せながらもハードナーはそのまま動きを止める。そこは剣を持っているルシアの間合いの一歩外。ふざけきった態度とは対照的にその瞳は確実にルシアの姿を射抜いている。微塵の隙のない戦士の王たるものの力。それを目の前にしながらもルシアもまたその場から動こうとはしない。動けばその瞬間に戦いが始まることを悟っているからこそ。ルシアはただ無表情でハードナーを見据えたまま。


「まあどうでもいいさ。今から死ぬ奴に名乗っても仕方ねえ……しかしまさかここまで一方的に醜態をさらすとは思ってなかったぜ。使えねえやつらだ……」


ハードナーはその口にくわえた葉巻から煙をふかしながらどうでもよさげにルシアの足元に目を向ける。そこには意識を失い蹲ってしまっているルナールの姿があった。だがハードナーは自らの仲間が倒れているのを前にしながらも全く気にする風もない。負けた者に用は無いのだと告げるかのように。ある意味でルシアとは対照的な王の姿。力こそが全ての悪の組織においては当然のもの。


「この調子じゃあ六つの盾シックスガードの連中も同じようなもんか……オレの船を壊しておきながらこれかよ、情けねえ。そう思わねえか、坊主?」
「…………」
「成程、どうやら思ったよりも甘ちゃんみてえだな。で、どうする。大人しくそのシンクレアを渡す気はあるか」


ハードナーは嘲笑いながらも告げる。大人しくシンクレアを渡せと。もちろんハードナーは本気でそんなことを聞いてなどいない。その証拠にその手が背中にある剣の柄に伸びる。戦闘の開始を告げるもの。表情には狂気とも言うべき笑みが浮かんでいる。これから起こる戦いを前に疼きを抑えきれない戦士としての本能。それはハードナーにとっては戦闘ではない。処刑と言う名の一方的な蹂躙。それが不死身の処刑人の二つ名の所以。だがそれを前にしてもルシアは眉ひとつ動かすことは無い。これから起こるDCとBGの戦争の決着をつける大一番を前にしても一言もしゃべることは無い。しかしそれは決してルシアがハードナーを無視しているわけでも、侮っているわけでもない。もう一つの深刻な戦いが巻き起こっていたからに他ならない。それは


『おい!何を好き勝手に言わせておる!? さっさとお主も名乗りを上げんか!』


ルシアの胸元にいるマザー。そのテンションがこれまでにない程に上がってしまっているということ。マザーはまるで自らの子の授業参観に来たかのように舞いあがり、そしてルシアに向かって捲し立てる。ハードナーに対抗するかのように。親バカ同然の姿。


『うるせえよ! 何で俺が名乗りなんてあげなきゃなんねえんだよ!? やりたきゃてめえが勝手にやれ!』
『できるのならとっくにやっておるわ! だがあのデコハゲには我の声は聞こえん! さっさと言い返さんか、我はお主の物だと! 今言わずにしていつ言うつもりだ!?』
『何そんなに必死になってんだよ!? これから戦闘なんだからてめえは黙ってろ、集中できねえだろうが!?』


ルシアは圧倒されながらも必死にマザーを抑えようするもそんなことなどどうでもいいとばかりにマザーは興奮しっぱなし。せっかくシリアスに最終戦を迎えようとしているのにある意味台無しになりかねない状況。マザーの声がハードナーに聞こえていないのが唯一の救い。もし聞こえていたのなら放送事故ばりの大惨事になってしまっていただろう。だがマザーにとっては無理のない話。いわばこれは五十年間待ちわびてきた戦い。自らの主がシンクレアを統べるに相応しいと示すための儀式。この時のためにマザーはルシアを鍛えてきたのだから。だが端から見ればぎゃあぎゃあと痴話喧嘩をしているだけ。ルシアが本気でワープロードでアジトに送り返すしかないとあきらめかけたその時


『そこまでにしなさい、マザー。そのままでは器が知れますよ』


そんな聞いたことのない、聞こえるはずのない声が響き渡る。ルシアは一瞬、理解できない事態に放心状態になってしまうもののすぐにその正体に気づく。その視線がハードナーの胸元に向けられる。その声の主がそこにはいた。

母なる闇の使者マザーダークブリングの一つ。

『アナスタシス』

それが今、マザーに話しかけてきた声の正体だった。


『……ふん、余計な御世話だ。貴様も全く変わっておらんようだな、アナスタシス』
『ええ、おかげさまで。でも驚きました。本当にあなただったのですね、マザー。見違えましたよ。あなたがそんなに流暢にしゃべっているなんて』
『っ!? な、何だ! 我がしゃべっていることがそんなにおかしいのか!? 貴様こそ変わらずに気色悪いしゃべり方をしおって……』
『ご心配なく。これは私の地ですから。ですがどういう風の吹き回しですか。あなたは私達の中でも我らの意志に最も近い存在だったはず。感情など必要ないと仰っていたはずでは……?』
『ぬ……そんなことはどうでもよい! それよりもどういうつもりだ! 我がアキとどうしようと貴様にとやかく言われる筋合いはないぞ!』


ルシアは一体何が起こっているのか分からずただ無言で二人の応酬を聞くしかない。そう、二人の。ここに至ってようやくルシアは気づく。今まで特別なのはマザーだけなのだとルシアは思っていた。だがそれが大きな間違いだったのだと。それはつまりマザーと同じ存在がまだ四つ存在しているということ。それが出会えばどうなるか。それが今、目の前で行われている光景。シンクレア同士が言い争いをしているという意味不明の光景だった。


『いえ、そういうわけにはいきません。あなたの言動は自らの主を軽んじています。分かっているのですか、マザー? 私達は主に仕える者。分をわきまえなさい』
『ぐ……そんなことは言われるまでもないわ! だがこれが我とアキの在り方だ! 貴様の考えを押し付けるでない!』
『そうですか……それは失礼しました』
『ふん……それに何だその担い手は? そんなでかいだけの男が好みだったのか? 随分な悪趣味をしておるの?』
『……前言を撤回しなさい、マザー。主に対する侮辱は許しませんよ』
『ハ! ようやく本性を現しおったか。では聞かせてもらおうか、貴様はその男のどこに惚れたというのだ?』
『惚れてなどいません……私はただハードナー様のお力になりたいだけ。容姿など関係ない。彼は心に大きな傷を負っている。それを癒すことが私の願いであり彼の願いです』
『ふん……お涙頂戴というわけか。確かに貴様が好みそうな男だ』
『なんとでも。それに彼の願いは我らの意志とも合致しています。彼以上にシンクレアに相応しい担い手はいません』
『ほう、よく言った。だが残念だったな。全てのシンクレアを手にして王となるのはアキだ。貴様の主など相手にもならんぞ』


マザーは自信満々に宣言する。ルシアこそがシンクレアを持つに相応しい担い手であると。ルシアはただそれを黙って聞いていることしかできない。突っ込みたいところは山のようにあるのだが今の二人(?)の間に割って入ることなどできない。いや、割って入ってはいけない空気がそこにはある。まるで自らの彼氏自慢を延々と聞かされているかのような空間がそこにはあった。そんな中


『失礼、ご挨拶が遅れました。私はシンクレアの一つ、アナスタシスと申します。以後お見知りおきを、魔石使いダークブリングマスター
『あ、ああ……ルシア・レアグローブだ。宜しく……』


アナスタシスがルシアに向かって意識を向け挨拶をする。いきなりのことに呆気にとられながらもルシアは何とか言葉を返すもルシアの中にはアナスタシスのイメージとでも言うべきものが伝わってくる。透き通るような声とどこか上品さを感じさせる言葉遣い。もし実体化しているなら黒髪の和服美人が目の前でお辞儀しているであろう光景。


『何を普通に挨拶をしておるのだ、アキ!? こいつは敵だぞ!』
『い、いや……まあそうだが……』
『そこまでにしなさい、マザー。それにしてもレアグローブということは……金髪の悪魔ですか? ですが確かかの存在は既に消えていたはずでは……?』
『そ、それは……』


アナスタシスの言葉によってマザーは口ごもってしまう。まるで痛いところを突かれてしまったかのように。ルシアは一体二人が何の話をしているのか分からず口を出すことができない。


『……なるほど、あなたの仕業ですか。不完全な時空操作を使ってまで自分好みのマスターを作り上げているというわけですね……あなたの方が十分悪趣味だと思いますが……』
『う、うるさい! 我らのことは我らの問題だ! アキがシンクレアに相応しいことには変わらん!』
『まったく……まあいいでしょう。このままどちらの主が上かを言い争っても仕方ありません。そんなことをする必要ももはやないでしょう?』


一度大きな溜息を吐きながらもアナスタシスの空気が変わっていく。ハードナーの戦う意志に呼応するかのように。瞬間、凄まじい力が辺りを支配していく。今までルシアが戦ってきたどんなDBとも比べ物にならない圧倒的な存在感。DBの母たるシンクレア。その一つが完全に自分を消し去らんとしている。DBマスターとしての感覚がそれを感じ取る。知らずルシアは息を飲む。自分が戦うのはハードナーだけではない。アナスタシスという闇の頂きの一つ。それを打ち負かさない限り勝利とはならないのだと。


『分かっておるな、アキよ。手加減など無用だ。アナスタシスに見せつけてやれ、お主の力をな』


マザーは高揚しながらもルシアへと告げる。全力で戦えと。だが言われるまでもなくルシアは理解していた。今から始まる戦いにそんな余裕など無いことに。相手は百万の兵の頂点に立つ王であり、再生の力を司るシンクレア。ただ全力を尽くすのみ。そしてルシアは口に出す。戦いの狼煙を上げる宣言を。マザーにさんざん言われたように名乗りを上げながら。


「ルシア・レアグローブだ……お前が持っているシンクレア、力づくで奪わせてもらう」


DCとBGの決着をつける戦い。そしてシンクレアを賭けた戦いを意味する言葉。だがそれは


『っ!? 何だそれは!? 何故奴を口説いておる! そこは我を渡さんと啖呵を切るところであろうが!?』
『痛てててっ!? く、口説く!? 何を意味分からんこと言っとんだ!? いいから頭痛をやめろ! 負けちまうだろうが!?』


マザーのヒステリックとも言える叫びで台無しにされてしまう。しかも頭痛というおまけ付き。とても最終戦とは思えないような空気(ハードナー以外)を残しながらも金髪の悪魔と不死身の処刑人、そしてマザーとアナスタシスの頂上決戦の火蓋が今、切って落とされた―――――


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