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No.33455の一覧
[0] ダークブリングマスターの憂鬱(RAVE二次創作) 【完結 後日談追加】[闘牙王](2017/06/07 17:15)
[1] 第一話 「最悪の出会い」[闘牙王](2013/01/24 05:02)
[2] 第二話 「最悪の契約」[闘牙王](2013/01/24 05:03)
[3] 第三話 「運命の出会い」[闘牙王](2012/06/19 23:42)
[4] 第四話 「儚い平穏」[闘牙王](2012/07/09 01:08)
[5] 第五話 「夢の終わり」[闘牙王](2012/07/12 08:16)
[6] 第六話 「ダークブリングマスターの憂鬱」[闘牙王](2012/12/06 17:22)
[7] 第七話 「エンドレスワルツ」[闘牙王](2012/08/08 02:00)
[11] 第八話 「運命の出会い(その2)」[闘牙王](2012/08/10 20:04)
[12] 第九話 「魔石使いと記憶喪失の少女」[闘牙王](2012/08/10 20:08)
[13] 番外編 「アキと愉快な仲間達」[闘牙王](2013/01/24 05:06)
[14] 第十話 「将軍たちの集い」前編[闘牙王](2012/08/11 06:42)
[15] 第十一話 「将軍たちの集い」後編[闘牙王](2012/08/14 15:02)
[16] 第十二話 「ダークブリングマスターの絶望」前編[闘牙王](2012/08/27 09:01)
[17] 第十三話 「ダークブリングマスターの絶望」中編[闘牙王](2012/09/01 10:48)
[18] 第十四話 「ダークブリングマスターの絶望」後編[闘牙王](2012/09/04 20:02)
[19] 第十五話 「魔石使いと絶望」[闘牙王](2012/09/05 22:07)
[20] 第十六話 「始まりの日」 前編[闘牙王](2012/09/24 01:51)
[21] 第十七話 「始まりの日」 中編[闘牙王](2012/12/06 17:25)
[22] 第十八話 「始まりの日」 後編[闘牙王](2012/09/28 07:54)
[23] 第十九話 「旅立ちの時」 前編[闘牙王](2012/09/30 05:13)
[24] 第二十話 「旅立ちの時」 後編[闘牙王](2012/09/30 23:13)
[26] 第二十一話 「それぞれの事情」[闘牙王](2012/10/05 21:05)
[27] 第二十二話 「時の番人」 前編[闘牙王](2012/10/10 23:43)
[28] 第二十三話 「時の番人」 後編[闘牙王](2012/10/13 17:13)
[29] 第二十四話 「彼と彼女の事情」[闘牙王](2012/10/14 05:47)
[30] 第二十五話 「嵐の前」[闘牙王](2012/10/16 11:12)
[31] 第二十六話 「イレギュラー」[闘牙王](2012/10/19 08:22)
[32] 第二十七話 「閃光」[闘牙王](2012/10/21 18:58)
[33] 第二十八話 「油断」[闘牙王](2012/10/22 21:39)
[35] 第二十九話 「乱入」[闘牙王](2012/10/25 17:09)
[36] 第三十話 「覚醒」[闘牙王](2012/10/28 11:06)
[37] 第三十一話 「壁」[闘牙王](2012/10/30 06:43)
[38] 第三十二話 「嵐の後」[闘牙王](2012/10/31 20:31)
[39] 第三十三話 「違和感」[闘牙王](2012/11/04 10:18)
[40] 第三十四話 「伝言」[闘牙王](2012/11/06 19:18)
[41] 第三十五話 「変化」[闘牙王](2012/11/08 03:51)
[44] 第三十六話 「金髪の悪魔」[闘牙王](2012/11/20 16:23)
[45] 第三十七話 「鎮魂」[闘牙王](2012/11/20 16:22)
[46] 第三十八話 「始動」[闘牙王](2012/11/20 18:07)
[47] 第三十九話 「継承」[闘牙王](2012/11/27 22:20)
[48] 第四十話 「開幕」[闘牙王](2012/12/03 00:04)
[49] 第四十一話 「兆候」[闘牙王](2012/12/02 05:37)
[50] 第四十二話 「出陣」[闘牙王](2012/12/09 01:40)
[51] 第四十三話 「開戦」[闘牙王](2012/12/09 10:44)
[52] 第四十四話 「侵入」[闘牙王](2012/12/14 21:19)
[53] 第四十五話 「龍使い」[闘牙王](2012/12/19 00:04)
[54] 第四十六話 「銀術師」[闘牙王](2012/12/23 12:42)
[55] 第四十七話 「騎士」[闘牙王](2012/12/24 19:27)
[56] 第四十八話 「六つの盾」[闘牙王](2012/12/28 13:55)
[57] 第四十九話 「再戦」[闘牙王](2013/01/02 23:09)
[58] 第五十話 「母なる闇の使者」[闘牙王](2013/01/06 22:31)
[59] 第五十一話 「処刑人」[闘牙王](2013/01/10 00:15)
[60] 第五十二話 「魔石使い」[闘牙王](2013/01/15 01:22)
[61] 第五十三話 「終戦」[闘牙王](2013/01/24 09:56)
[62] DB設定集 (五十三話時点)[闘牙王](2013/01/27 23:29)
[63] 第五十四話 「悪夢」 前編[闘牙王](2013/02/17 20:17)
[64] 第五十五話 「悪夢」 中編[闘牙王](2013/02/19 03:05)
[65] 第五十六話 「悪夢」 後編[闘牙王](2013/02/25 22:26)
[66] 第五十七話 「下準備」[闘牙王](2013/03/03 09:58)
[67] 第五十八話 「再会」[闘牙王](2013/03/06 11:02)
[68] 第五十九話 「誤算」[闘牙王](2013/03/09 15:48)
[69] 第六十話 「理由」[闘牙王](2013/03/23 02:25)
[70] 第六十一話 「混迷」[闘牙王](2013/03/25 23:19)
[71] 第六十二話 「未知」[闘牙王](2013/03/31 11:43)
[72] 第六十三話 「誓い」[闘牙王](2013/04/02 19:00)
[73] 第六十四話 「帝都崩壊」 前編[闘牙王](2013/04/06 07:44)
[74] 第六十五話 「帝都崩壊」 後編[闘牙王](2013/04/11 12:45)
[75] 第六十六話 「銀」[闘牙王](2013/04/16 15:31)
[76] 第六十七話 「四面楚歌」[闘牙王](2013/04/16 17:16)
[77] 第六十八話 「決意」[闘牙王](2013/04/21 05:53)
[78] 第六十九話 「深雪」[闘牙王](2013/04/24 22:52)
[79] 第七十話 「破壊」[闘牙王](2013/04/26 20:40)
[80] 第七十一話 「降臨」[闘牙王](2013/04/27 11:44)
[81] 第七十二話 「絶望」[闘牙王](2013/05/02 07:27)
[82] 第七十三話 「召喚」[闘牙王](2013/05/08 10:43)
[83] 番外編 「絶望と母なる闇の使者」[闘牙王](2013/05/15 23:10)
[84] 第七十四話 「四天魔王」[闘牙王](2013/05/24 19:49)
[85] 第七十五話 「戦王」[闘牙王](2013/05/28 18:19)
[86] 第七十六話 「大魔王」[闘牙王](2013/06/09 06:42)
[87] 第七十七話 「鬼」[闘牙王](2013/06/13 22:04)
[88] 設定集② (七十七話時点)[闘牙王](2013/06/14 15:15)
[89] 第七十八話 「争奪」[闘牙王](2013/06/19 01:22)
[90] 第七十九話 「魔導士」[闘牙王](2013/06/24 20:52)
[91] 第八十話 「交差」[闘牙王](2013/06/26 07:01)
[92] 第八十一話 「六祈将軍」[闘牙王](2013/06/29 11:41)
[93] 第八十二話 「集結」[闘牙王](2013/07/03 19:57)
[94] 第八十三話 「真実」[闘牙王](2013/07/12 06:17)
[95] 第八十四話 「超魔導」[闘牙王](2013/07/12 12:29)
[96] 第八十五話 「癒しと絶望」 前編[闘牙王](2013/07/31 16:35)
[97] 第八十六話 「癒しと絶望」 後編[闘牙王](2013/08/14 11:37)
[98] 第八十七話 「帰還」[闘牙王](2013/08/29 10:57)
[99] 第八十八話 「布石」[闘牙王](2013/08/29 21:30)
[100] 第八十九話 「星跡」[闘牙王](2013/08/31 01:42)
[101] 第九十話 「集束」[闘牙王](2013/09/07 23:06)
[102] 第九十一話 「差異」[闘牙王](2013/09/12 06:36)
[103] 第九十二話 「時と絶望」[闘牙王](2013/09/18 19:20)
[104] 第九十三話 「両断」[闘牙王](2013/09/18 21:49)
[105] 第九十四話 「本音」[闘牙王](2013/09/21 21:04)
[106] 第九十五話 「消失」[闘牙王](2013/09/25 00:15)
[107] 第九十六話 「別れ」[闘牙王](2013/09/29 22:19)
[108] 第九十七話 「喜劇」[闘牙王](2013/10/07 22:59)
[109] 第九十八話 「マザー」[闘牙王](2013/10/11 12:24)
[110] 第九十九話 「崩壊」[闘牙王](2013/10/13 18:05)
[111] 第百話 「目前」[闘牙王](2013/10/22 19:14)
[112] 第百一話 「完成」[闘牙王](2013/10/25 22:52)
[113] 第百二話 「永遠の誓い」[闘牙王](2013/10/29 00:07)
[114] 第百三話 「前夜」[闘牙王](2013/11/05 12:16)
[115] 第百四話 「抵抗」[闘牙王](2013/11/08 20:48)
[116] 第百五話 「ハル」[闘牙王](2013/11/12 21:19)
[117] 第百六話 「アキ」[闘牙王](2013/11/18 21:23)
[118] 最終話 「終わらない旅」[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[119] あとがき[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[120] 後日談 「大魔王の憂鬱」[闘牙王](2013/11/25 08:08)
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[33455] 第三十九話 「継承」
Name: 闘牙王◆4daf4c7d ID:7bdaaa14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/27 22:20
全く人気が感じられない荒れ果てた荒野。それがどこまでも続いているのではないかと思えるような場所。ジンの塔。つい一週間前、世界の命運を賭けた戦いがそこで行われていた。だがジンの塔は既に見られない。あるのは崩れ去ってしまった残骸だけ。それがその戦いの激しさを物語っている。そしてその光景を少し離れた所から眺めている一人の少年の姿があった。


(やっとこっちに来れたか……)


ローブを被った少年、ルシアはどこか感慨深げにその光景に目を奪われていた。今、ルシアがいる場所は先日六祈将軍オラシオンセイスたちと戦った場所。本当ならワープロードで直接ジンの塔まで瞬間移動することもできたのだが既に崩壊してしまっている場所に移動すれば危険もあるためルシアはあえてこの場所に移動してきたところ。ルシアはそのまま自らの手にある花束に目を向ける。それを手向けることがルシアがこの場に訪れた理由の一つ。言うまでもなくそれは亡くなったキングに向けたもの。本物ではないにせよルシアの身体を持っている者として。そして言うならば見捨てるに等しい選択をしてしまった罪滅ぼしとして。その意味ではここで命を失ったハルの父、ゲイル・グローリーへの手向けの意味もあるもの。同時にこれから表舞台に立つ己に対する誓いにも似た想いをルシアは抱いていた。だが


『何だ……結局そのローブを被ったままか。せっかく王になったというのにヘタレなのは相変わらずだな』


そんな空気をぶち壊すかのような言葉をかけてくる存在がルシアの胸元にいた。シンクレアの内の一つであるマザー。マザーは久しぶりにルシアと二人っきりになれたことで上機嫌になりながらいつもの調子でからかい続ける。ルシアはそんなマザーの姿に溜息を吐きながら呆れるしかない。せっかく珍しくシリアスな気分に浸っていたのに台無しにされてしまった気分。


『うるせえ……まだDCは表向きは壊滅したことになってんだ。余計な面倒起こさないためにこうしてんだよ』
『ふむ、まあそういうことにしておこうか……それで、一体何のためにここにやってきたのだ?』
『見て分かんねえのか? キングに花を贈るためだよ。忙しくて結局今まで来れなかったからな』
『キングに……? それでそんな物をもっていたのか。だが何故そんなことをする必要がある? そんなことをしてもキングが蘇るわけではなかろうに……』
『そ、それは……まあそうだが……』
『やはり人間が考えることはよく分からんな。キングといえば先日のイリュージョンの行動も我にはよく分からぬものだったが……』
『……? 何だそれ? イリュージョンが何かしたのか?』
『何だ、知らなかったのか? まあお主は戦闘中だったから無理もないか』


そのままマザーはどこか考え込むように黙りこんでしまう。ルシアはそんなマザーの姿を不思議に思いながらも改めてジンの塔、その跡地へと足を向ける。ひとまず必要な仕事はこなして来たもののまだやることは山積み。それがDC最高司令官としてのルシアの責務。ただふんぞり返っているだけではいけないという現状にルシアは頭を痛めるしかない。同時に改めてキングの偉大さに頭が下がる思い。とにもかくにもやることをやって戻ることにしようとルシアが動き出した時


『くくく……どうやらお主はよくよく面倒事に巻き込まれる退屈させてくれん男のようだな、我が主様よ』


邪悪な光を放ち、楽しげな笑いを上げながらマザーがルシアに話しかける。そんなマザーの姿にルシアは顔を引きつらせるしかない。それは知っていたから。マザーがそんな態度を見せる理由。間違いなく自分にとって厄介な事態が起ころうとしている証。同時にルシアはDBマスターとしての感覚を研ぎ澄ます。マザーがジンの塔に向かって何かあるといわんばかりの態度を見せているのを見抜いたからこそ。そしてルシアはその気配を感じ取り嫌な汗を滲ませる。それはDBの気配。ジンの塔の跡地に複数のDBの気配がある。その数は七つ。

その内の五つはキングの持っていたDB 『デカログス』『ブラックゼニス』『ゲート』『ワープロード』『モンスタープリズン』

ジンの塔の崩壊に巻き込まれてもDBたちまで壊れることはあり得ない。レイヴに関連した力でない限りDBはいかなる力を以てしても破壊することはできない。極端な話マグマに放り込まれたとしてもだ。だがその五つのDBの気配にルシアは頭を痛めているわけではない。何故ならその回収がルシアがここにやってきたもう一つの理由なのだから。だがルシアは特段キングのDBたちを自分の物にしようとしているわけではない。既にルシアは六つのDBを持っておりそれ以上持つ気も必要もない。そもそも新しいDBが欲しいならマザーに頼めば済む話(もっともその気はルシアには無いのだが)そういった意味ではルシアがキングのDBたちを回収しようとしているのは一応顔見知りであるからとハジャにそれらを回収されることが気に入らなかったから。原作ではハジャによってデカログスが回収されていたのを知っているからこそ。どうやらハジャが回収に来る前に間に合ったらしいことはルシアにとっては喜ぶべきこと。故に問題は残る二つのDB。その内の一つをルシアは知っていた。

『ゼロ・ストリーム』

流動のDB。流れるものを、力を操ることができる六星DBの内の一つ。かつてルシアがDCに渡した物の内の一つ。六星DBでありながら六祈将軍オラシオンセイスではない者が持っている矛盾した存在。それがゼロ・ストリームと共にあるDBの気配の正体。

それはただのDBの気配ではない。シンクレアでも六星DBでもエンクレイムで造られたものでもない。人に手によって造られた人工DB。DBの中でも異質な存在。

それらを持つのが今、ジンの塔の跡地にいる者。


『どうした、早く行かんのか? それともいつものように逃げ出すか?』
『…………黙ってろ。さっさと行くぞ』


ルシアはマザーのからかいにぶっきらぼうに答えながらもルシアは重い足取りで歩き始める。正直なところを言えば出直したいところなのだが結局は遅いか早いかの差。考えようによっては余計な邪魔が入らない分好都合といえるかもしれない。そう言い聞かせながらルシアは向かって行く。もう一人のキングの息子、そして新たな六祈将軍オラシオンセイスとなる男がいる場所へと―――――



瓦礫によって廃墟と化してしまっている塔の跡地。そこに一人の男がいた。この地にいるのが不釣り合いと思えるような帽子とコートを纏っているどこか静けさを感じさせる姿。まるで冬の土地にいるのではと思いたくなるような風貌を持った男。その表情も無表情。およそそこから感情を読み取ることはできない。

『ディープスノー』

それが男の名前。ディープスノーはそのまま静かに献花を済ませ深く目を閉じる。ここにはいない誰かに想いを馳せるかのように。その心情を現すように静かな風がコートをはためかせる。まるで時間が止まってしまったかのような静けさが、一枚の絵画のような美しさがそこにはあった。それがどれだけ続いたのか。ディープスノーは静かに目を開きながらも振り返る。だがその動きには確かな戦う者の気配があった。およそ常人にはできないような動きと気配。ディープスノーが只者ではないことの証。その視線の先には一人の人物の姿があった。

ローブに身を纏った人物。ディープスノーはわずかに目を細めながらもいつでも動けるように体勢を整える。ここは一般人が訪れるような場所ではない。何かしらの事情を知っていなければその存在すら知られるはずがない場所。何よりもディープスノーはその立場から正体を見破られるようなことがあってはならない事情がある。だがそんなディープスノーの思惑を知っているかのようにローブの人物がその顔を晒す。その顔にディープスノーは目を見開くことしかできない。何故ならその人物を、少年をディープスノーは知っていたから。


「あなたは……」


金髪、顔にある大きな切傷。身の丈もあると思えるような黒い大剣。何よりも少年から感じられる力、雰囲気。それが何よりの証。誰よりも敬愛していた父に見間違えるような王の風格。ディープスノーは直接会ったことは無いにも関わらずすぐに悟る。新生DC最高司令官ルシア・レアグローブ。今は亡きキングの本当の息子。それが今目の前にいる少年の正体なのだと。


「俺も一緒に献花させてもらってもいいか……?」


ディープスノーは一瞬、呆気にとられながらもすぐに気づく。ルシアの手に花束が握られていることに。そして恐らくはルシアもまた自分と同じ理由でこの場に訪れたのだということに。


「はい……キングも喜ばれると思います」


ディープスノーは頭を下げながらもルシアへと道を開ける。一切の無駄のない完璧な動き。だがその表情は先程までとは大きく違っていた。それはほんの一瞬。だが確かな笑み。自分と同じくキングを偲んでくれる存在がいてくれたことへの喜び。


それがルシア・レアグローブとディープスノーの初めての出会いだった。



(安らかに眠ってくれ、キング……)


手を合わせ、頭を下げた後ルシアはゆっくりとその場を立ち上がる。とりあえずどうなることかと思ったが大きな目的の一つが果たせたことにルシアは安堵のため息を吐く。罪悪感や後悔がないと言えば嘘になるがこれは自分が選んだ選択。その確認ができただけでも十分な収穫。だがいつまでも感傷に浸っている時間はルシアにはなかった。これからしなければならないことが文字通り山のようにあるのだから。だがその中でも一番にしなければらないこと。それは自分の後ろに控えるように待機している男、ディープスノーのこと。


(さてと……どうしたもんかな。まさかこんなに早く、しかもこんな場所で会うことになるとは……)


ルシアは内心焦りながらも決してそれを表に出さないままディープスノーに向かって振り返る。もはやイリュージョンもかくやというほどの見事な偽装。この世界にやってきてからもっとも磨かれてきた悲しい技術の為せる技。ルシアはそのままディープスノーと改めて対面する。印象としては原作通り、冷静な男といったところだろうか。だがその佇まいから強者の風格が滲み出ている。他の六祈将軍オラシオンセイスたちと比べて見劣りしない、もしかしたら凌駕するかもしれない程の力をルシアは感じ取る。だが同時にある種のやり辛さもルシアにはあった。それは自分が本物のルシアではないこと、そしてディープスノーがキングのもう一人の息子同然であるということを知っていること。


「お初にお目にかかります。元DC……現在は帝国の将軍の一人としてスパイを行っているディープスノーと言います。以後お見知りおきを、キング」


そんなルシアの戸惑いなど知る由もないディープスノーは改めて膝を突き、頭を下げながら自らの名を明かす。忠誠を誓う騎士そのものの姿。全く違和感もずれもない完璧な忠誠。今まで自分にそれを見せてきた者の中でも明らかに異質なもの。ルシアは一瞬で悟る。ディープスノーが間違いなく、一切の迷いなく自分に忠誠を誓っているのだと。思わずそれによって後ずさりしてしまいかねないほどのもの。


「ああ、ハジャから話は聞いている。それとキングと呼ぶ必要はねえ。それは親父の称号だ。俺のことはルシアと呼べ」
「そうですか……ではルシア様と」
「今は二人っきりだ。敬語も様付けも必要ねえ」
「いえ……あなたは偉大なるキングの血を継ぐお方。そんなことはできません」
「……そうか」


ルシアはそんなディープスノーの姿に圧倒されるしかない。本当ならざっくばらんに話しかけたいところなのだがそんな展開など許さないといわんばかりの空気。ある意味他の六祈将軍オラシオンセイスたちとは真逆の位置にいるような存在。それが目の前のディープスノーという男の姿だった。


『どうした、何をそんなに焦っておる。いつも欲しがっていた真面目な部下ではないか。もっと喜んだらどうだ?』
『て、てめえ……他人事だと思って好き勝手言いやがって! いくら何でも度が過ぎるわ!』
『ふむ……さながら忠義の騎士と言ったところか。確かにお主が言っていたように六星DBを扱うに相応しい力を持っておる。ゼロも認めているようだしな……だが……』
『な、何だよ?』
『いや……やはりこの男が持っている、身に宿しているのはあのハジャとかいう魔導士が持っていたDBと同種のようだな。人工で生み出すのはともかく身体に埋め込むとは……やはり人間の考えることはよく分からんな』
『心配すんな……俺も分からねえよ』


マザーのからかいはともかく最後の部分についてはルシアも同意せざるを得ない。

『五十六式DB』

それがディープスノーがその体に宿しているDBの名前。誕生した暦から取った名前を持つ人工のDB。人間の潜在能力を限界まで引き出す力を持つ生物兵器。ルシアはその力を感じ取りながらもやはりその力は異質なものであることが分かる。人と融合することでDBを完全に己の身体のように扱うことができるようにする目的がそこにはあるに違いない。そしてそれと同じDBを持っている存在がいた。

『無限のハジャ』

六祈将軍オラシオンセイスのリーダーである大魔導士。ハジャもまた人工のDBである六十一式DBをその身に宿している。それこそが無限の魔力の正体。ディープスノーのものが身体能力を引き出すものだとすればハジャのそれは魔力を生み出すもの。どちらも身体的な意味で力を発揮する点では同じかもしれない。もっとも生まれながらにその力を与えられてしまったディープスノーと自ら望んでその力を得たハジャは決して相容れることはないだろうが。

そして当然、ルシアはマザーの力で人工DBに干渉することもできる。いかに人工とはいえDBには変わらないのだから。もっとも今の時点で干渉する気はルシアには無い。ディープスノーには半年後、新たな六祈将軍オラシオンセイスとして動いてもらう予定なのだから。

ハジャについても同様。ルシアとしては本当なら今すぐにでも排除しておきたいのだが様々な理由、特にジーク関連の問題があるので動くことはできない。だがすぐに命を狙ってくることは無いだろう。全てのシンクレアを集めた後にDCを皆殺しにすることがハジャの狙い。今はまだ動きを見せないはず。何よりも先の戦いでこちらの力は見せている。ルシア自身の実力もだがそれ以上にマザーの力には驚愕したに違いない。無限の魔力が一時的とはいえ使えなくなってしまったのだから。無限の魔力が無くなっても大魔導士としてはジークを大きく超える実力なので油断はできないが今のルシアにとっては大した敵とはなりえない。そんなことを考えていると


「……御心配には及びません。帝国には私がこの場にやってきていることもスパイであることも知られてはいません」
「そ、そうか……」


ディープスノーが静かに告げる。一瞬反応が遅れながらもルシアは思考を切り替える。どうやら自分が考え込んでいるためディープスノーはそんな風に思ってしまったらしい。ある意味スパイとしては当然の思考。


「それに帝国の情報については既に集め終わっています。それが取るに足らないことも。ご命令さえあればすぐにでも帝国を崩壊させることもできますが……」
「いや……それはまだいい。今は他の組織にDCの復活を気取られるのは得策じゃないからな」
「分かりました、ではご命令があるまでは任務を継続いたします」


そんなディープスノーの言葉にルシアは心の中で溜息を吐くしかない。まだ本格的に動くのは半年後。その前に帝国崩壊のイベントを起こすわけにはいかない。ルシア個人としては別に帝国がどうなろうと知ったことではないのだがそのせいで他の闇の組織が好き勝手に動かれるのは宜しくない。少なくとも半年後までディープスノーには今の任務を続けてもらうことにルシアは決めた。もっとも事態の先延ばしであるのは否めないが。だがそんな中、ルシアはどこかディープスノーの様子がおかしいことに気づく。それはほんのわずかな変化。しかし明らかに何かを意識しているような気配。


「どうした、何か他にもあるのか……?」
「………ルシア様、一つお聞きしていいでしょうか?」
「ああ……何だ?」


ディープスノーはどこか聞きづらそうな雰囲気を纏いながらもすぐにいつも通りの空気を纏いながらルシアを見据える。そして少しの静寂の後


「ルシア様は何故、キングにご自分が息子であることを明かされなかったのですか……?」


ディープスノーは口にする。どうしても聞いておかなければならなかった疑問を。何故キングに本当のことを明かさなかったのか。そんな当たり前の、子供のような問い。その姿にルシアはようやく気づく。ディープスノーの姿の違和感の正体に。それは外見とその精神の差、ギャップのようなもの。ディープスノーは生物兵器として生み出されたがゆえにその成長も人間よりも早い。そのため身体年齢では二十五歳なのだが実年齢は十歳程。もっとも精神年齢が低いわけではないのだがやはり深層意識ではまだ幼い、純粋なところがある。普段の冷静さもそれを気取らない様にする無意識の行動。


「…………」


それを感じ取りながらもルシアは口を噤んだまま。ディープスノーの問いに答えることは無い。答えることはできない。自分が本当はルシアではないことを。自分の目的のためにキングを見捨てたことも。

同時にルシアは自分が知ることもディープスノーに伝えることはできない。本当はキングがディープスノーのことをもう一人の息子だと思っていたことも。悪の道に染まってほしくないからこそ帝国のスパイとしたことも。自分が知っていてはおかしい話なのだから。仮にそうでなかったとしてもルシアがそれを伝えても何の意味もない。本当の息子であるルシアの言葉ではディープスノーには本当の意味では伝わらない。敵であるシュダの言葉だからこそディープスノーはそれが真実だと悟ったのだから。


「……いえ、出すぎた発言でした。申し訳ありません」


そんなルシアの姿に思う所があったのかディープスノーはそのまま再び頭を下げる。ルシアもそれ以上何もいうことができなくなってしまう。同時にどこか居づらい、やりづらい空気が辺りを支配し始める。もっともそう感じているのはルシアだけ。ディープスノーは自分が出すぎた真似をしたことを恥じ、マザーは右往左往している自らの主の姿を楽しそうに観戦している。ある意味いつも通りの状況。そんなマザーの姿に怒りを覚えながらもルシアは強引に動き始める。それはこの場にやってきたもう一つの目的を果たすため。


「ルシア様……どうされたのですか……?」


ディープスノーはそんな声をかけることしかできない。だがそれは無理のないこと。ルシアが突然、崩れ去っている廃墟に向かって歩き始めたのだから。完全に崩壊しているとはいえ足場も不安定、下手をすれば崩れ去ってしまうかもしれない危険な場所。だがそんなことなどどうでもいいとばかりにルシアはその瓦礫の道を進んでいく。ディープスノーの言葉など耳に入っていないかのように。ディープスノーはただその後に着いて行くことしかできない。それがどれだけ続いたのか。そろそろルシアを止めた方がいいのでは。そんな風にディープスノーが思い始めた瞬間、ルシアは唐突に動きを止めてしまう。まるで目的地に辿り着いたかのように。その視線の先には一際大きな瓦礫がある。自分たちの優に十倍はあるかのような巨大な瓦礫。同時にルシアはその背中にある大剣を抜き放つ。


「ディープスノー、少しここから離れてろ」


そんな言葉に従うと同時にルシアが剣を振り下ろす。瞬間、凄まじい爆発が巻き起こる。その力によって巨大な瓦礫は跡形もなく吹き飛ばされ姿を消してしまう。その力にディープスノーは目を奪われるだけ。新生DCの最高司令官、新たなキングの力の片鱗に。だがそれだけでは終わらなかった。


(あれは……?)


爆発による粉塵が収まった先には五つの光があった。それはDBの光。その内の四つは宝石の形をした物。そして残る一つは大剣。だがその姿はまさに今ルシアが持っている剣と瓜二つの物。だがそんなことがありうるのか。同じDBがこの世に二つあるなどと。そしてようやくディープスノーは悟る。これを見つけるためにルシアは瓦礫の中を進んでいたのだと。そして恐らくはそのDBがキングの物であろうことを。


(ふう……何とかなったか……)


ルシアは内心安堵しながらも五つのDBの姿を確認する。気配は感じ取っていたため居場所を探すのは簡単だったが巨大な瓦礫に関しては想定外。一応DBがレイヴ以外の力では壊れないと知ってはいるもののやはり爆発の剣エクスプロージョンを使うのは抵抗があった。しかし結果は問題なし。長い間瓦礫に埋もれていたため汚れてしまってはいるがDBたちには問題なさそうだ。それでも一応大丈夫かとルシアが話しかけようとするも


『待っておったぞ……魔石使いよ……』


それよりも早くそんな低い老人のような声がルシアに向かって掛けられる。それは五つの内の一つ、デカログスから発せられているもの。まるで歴戦の戦士を思わせるような老人の声。ルシアが持つデカログスが歳をとればこんな声になるのではないかと思えるようなもの。以前のキングとの会合で声自体は知っていたものの直接話すのは初めてであるルシアは驚きながらも話しかける。


『だ、大丈夫そうだな……でも何で俺のことを待ってたんだ? 別に約束してたわけでもねえのに……』
『いや、お主ならやってくるだろうと皆確信しておったよ。魔石使いのお主ならと……』
『そ、そうか……』


キングのデカログスの言葉にルシアはどこか申し訳なさを感じてしまう。どうやらDBたちの中ではルシアの評価は想像以上に高いらしい。昔マザーに言われた言葉を思い出す。曰く、自分にはDBに愛される才能があるのだと。ルシアとしては嬉しくとも何ともない才能だった。


『そんなに構えるでない。我らは主に礼を述べたかっただけじゃ』
『礼……? 何のことだ……?』
『我らが主、キングのことじゃよ……主とイリュージョンのおかげでキングは救われた』
『え……? い、いや……でも俺、キングには何も……』
『主と話せたことがキングにとっては救いだったんじゃよ……それとイリュージョンによる雪によって我が主は孤独から解放された……』
『イリュージョン……? そういえばさっきもマザーがそんなこと言ってたっけ。一体何があったってんだ?』


事情がまったくつかめないルシアに向かってキングのデカログスが順を追って説明していく。

キングの持つ五つのDBたちはキングの孤独を知りながらもどうしようもできないことに悩んでいたこと。それについてルシアのDBたちと話し合いをしていたこと。

キングの息子であるルシアが現れその言葉によってキングが救われたこと。

最後の戦いの時、また犯してはいけない間違いを犯しかけたキングをイリュージョンが幻によって止めてくれたこと。

そんな自らが知らない間に起こっていた出来事の内容にルシアは言葉を失い顔面を蒼白にするしかない。


(あれ……? もしかして俺、知らない間にめちゃめちゃヤバい状況じゃったんじゃ……?)


ルシアは戦慄する。自分が六祈将軍オラシオンセイスとの戦いに臨んでいる間にまさに原作崩壊、世界の危機が起こっていたのだと。最悪ハル達が全滅しかねない事態が起こっていたのだと。もしイリュージョンがキングのDBたちの話を聞かずに力を使ってくれなかったら全てが終了してしまっていたかもしれない。まさに崖の上での綱渡りを知らない間に行っていたようなもの。


マザーよ。申し訳ありませんでした。我らの勝手な願いを聞いてくださり……』
『ふん、気にするでない。やったのはイリュージョンだ。我は何もしておらぬ』


そんなルシアの心境など知らぬままマザーは尊大な態度をとりながらキングのデカログスに答える。もっともマザーは本当に何故デカログス達がそんなことをしているのかよく分かっていなかったのだが。そして少しの間の後、キングのデカログスが改めてルシアに向かい合う。その空気が先程までとは大きく違う。貫録を、何かの決意を感じさせる姿。


『ど、どうかしたのか……?』
『……魔石使いよ。一つ頼みがある。ワシの力を、キングの力を受け継いではくれまいか?』
『え……? キングの力って……お前を俺に使えってこと?』


ルシアは突然の提案に目を丸くすることしかできない。まさかそんな話題が出るなど思ってもいなかったから。五つのDBは皆キングに忠誠を誓ったものたち。故にルシアは回収することはあっても使う気は毛頭なかった。何よりも


『気持ちは嬉しいけど……やっぱいいわ。第一俺にはもうデカログスがいるし……』


ルシアは既にデカログスを持っている。もう一本持って二刀流という手もあるかもしれないが両利きではない自分では使いこなせない上に二本持ったところで大きなメリットはない。むしろ扱いづらくなるデメリットの方が大きいだろう。だが


『心配することはない。主に託すのは力のみじゃ。同じ剣は二本もいらぬ。主なき剣もまた同じじゃ……』


デカログスはどこか感慨深げに告げる。その言葉はまるで遺言。これまでのキングと共に生きてきた五つのDBたちの総意でもあった。ルシアはそんな理解できない事態に立ち尽くすことしかできない。


マザーよ。ではお先に失礼いたします。我儘お許しください』
『…………よい。お主の命だ。お主の好きにするがよい』


マザーは答える。その言葉に。そこには確かな母の姿がある。例え自ら生まれたのではなくともDBである以上それは変わらない。そんな自らの母の姿を見ながらもデカログスは自らの役目を果たさんとする。


瞬間、光が辺りを包み込んだ。


「なっ――――!?」


ルシアはただ驚愕の声を上げることしかできない。目の前に起こった光。キングのデカログスから放たれている光が自分に向かってくる。だがそれが自分に向かったものではないことにルシアはすぐに気づく。

それはもう一本のデカログス。自らが持つデカログスに向かって光の奔流が流れ込んでくる。凄まじい力が。同時にキングのデカログスの姿が消えていく。まるで砂に変わって行くかのように、光の粒子となりながら。その全てがアキの手にあるデカログスに飲み込まれていく。その光景にルシアは見覚えがあった。

双竜の剣ブルー=クリムソン。二刀剣が元の一本の剣に戻る光景。それが今、目の前で起こっている。だがそれは別々の剣。マザーによって生まれたものとエンクレイムによって生まれたもの。本来あり得なかった二本の剣。それが今、一つにならんとしている。

凄まじい光と力。それが辺りを支配しながらも次第に収まって行く。徐々にだがルシアの視界が戻ってくる。その瞳がゆっくりとそれを捉える。自らの手にある剣。それが大きく姿を変えていることに。

刀身は大きく変化し、そこには十個のDBが埋め込まれている。それは十の剣にそれぞれ対応したもの。剣の力を極限にまで引き出すことができる力。かつてのデカログスはTCMと対を為した剣だったが今ルシアの手にある剣はそうではない。完全なる上の存在。


真の魔剣ネオ・デカログス


それがその魔剣の名。キングの意志とDBの力を継承した剣の姿。究極の武器アルティメットウェポン。それが今ルシアが手にした新たな力だった。



ディープスノーはその光景にただ目を奪われていた。ルシアがキングのDBを見つけた後、そのままずっと黙りこんでしまったことに呆気にとられていたのも束の間、その剣が光を放ちルシアの剣と一体化してしまった。見たことも聞いたこともない光景。だがその意味をディープスノーは誰よりも理解していた。キングの力が、意志がルシアに受け継がれたのだということ。本当ならそのことに嫉妬するべきなのかもしれない。だがそんな感情すら今のディープスノーには生まれない。あるのはただあり得ない程の高揚感。キングの本当の息子だからではない、王たる者の力をその目にしたことによるもの。ディープスノーは心の中で誓う。ルシアという個人に対しての忠誠を。新たなる王に相応しい力を目の前にすることによって。



「―――――」


ルシアはただ呆然としながら己が持っている魔剣に目を奪われていた。正確にはその底が知れない力に。DBマスターとして力を付けてきた今の自分でも扱いきれないのではないかと思えるような圧倒的な力。マザー程ではないものの間違いなく六星DBを遥かに超えるDB。原作のルシアが終盤に手に入れていた最強武器。知らずルシアは身体が震えていた。それは武者震い。戦うことが嫌いなルシアであったとしてもこの力を早く試してみたいと思ってしまうほどの力がこのネオ・デカログスにはある。だがすぐにルシアは正気に戻る。それはあることに思い至ったがため。


『っ!? そ、そうだ! し、師匠っ!? 師匠なんですかっ!?』


それは自ら持つデカログスの安否を心配してのもの。キングのデカログスの提案がデカログス同士の融合であることは分かったもののその精神がどうなるかまでは全く分からない。ルシアは焦りながらもネオ・デカログスに向かって話しかける。もしかしたら元のデカログスではなくなってしまっているかもしれない。そんな不安。だが


『情けない声を上げるんじゃねえよ、マスター……オレならここにいる』


心配無用だといわんばかりにデカログスの声が聞こえてくる。間違いなくルシアが持っていたデカログスの声が。


『師匠……大丈夫なんですか?』
『ああ……もうジジイはいなくなっちまったけどな。ったく……断りもなくやりやがって……』
『そうか……』


どこか納得いかなげな様子を見せているデカログスを見ながらもルシアは安堵する。どうやらキングのデカログスはその力だけを渡し消えてしまったらしい。いや、同化したと言った方が正しいのだろう。そのことに悲しみながらも同時に感謝する。自分に力を渡してくれたことに。だが


『…………』


そんな中、マザーはネオ・デカログスを見つめたまま黙り込んでしまう。今まで見たことのないような雰囲気を纏ったまま。ルシアはそんなマザーの姿に首を傾げるしかない。いつものマザーなら自分が新たな力を身に付けたことで喜びこそすれこんな態度をみせることなどあり得ない。


『……どうかしたのか、マザー?』
『……いや、何でもない。少し感傷に浸っていただけだ』
『感傷……? お前が……?』
『ほう……我が感傷に浸ることがそんなに珍しいか……いいだろう、せっかく新しい剣が手に入ったのだ。予定を早めてさっさとシンクレア集めを始めるとしようか……』
『っ!? い、いや……その、何だ、まだ剣も使いこなせてないし……それに言っただろ! お前を使いこなせるようにするって!』
『ふん……まあいいだろう。DBマスターがDBを使いこなせんのでは笑い話にもならん。とっとと修行にするぞ』
『あ、ああ……』


ルシアはそのままとりあえず自分の修行メニューが増えたことに喜べればいいのか悲しめばいいのか分からないまま。そしてルシアはディープスノーと共にジンの塔を後にする。最後に一度だけその光景を焼きつけながら。


「それでは私はこれにて。もし何かあれば呼び出してください。すぐに駆けつけます」
「あ、ああ……その時はよろしく頼む」
「はい。それでは」


ディープスノーはそのまま一度大きく頭を下げた後、ルシアとは反対方向に向かって歩いて行く。恐らくは帝国へと戻るために。ルシアの手にはキングの残った四つのDBがある。それはディープスノーによって渡されたもの。ルシアはその四つをディープスノーに渡そうとしていた。本来ならすべきことではないのだろうが自分だけがキングの力を受け継いで置きながらさらに他のDBまで独占するようでどうしても罪悪感があったから。だがそれをディープスノーはあっさりと断った。

自分にはキングやルシアのように複数のDBを扱うことはできないこと。そして自分にはルシアによってDCにもたらされた六星DBがあるからと。

そして言葉には出さなかったものの、ディープスノーが言いたいことはルシアには伝わっていた。

例えDBがなくともキングの魂は自分の中で生き続けていると。



(なんだろう……何かめちゃくちゃ俺って嫌な奴なんじゃ……)


およそ自分には持ち得ないような純粋な想いを持っているディープスノーの姿に自分の浅ましさを感じながらもルシアは戻って行く。自分の表舞台へと。次にディープスノーと会うのは半年後、その時こそが自分の正念場だと。だがルシアはすぐ気づくことになる。


そんな甘い考えが自分に許されることがないということに―――――


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