日も傾き次第に静けさと暗闇に辺りが包まれようとしている中、アパートの一室で一人の少年が椅子に座りこんだまま何かをずっと考え込んでいた。それはアキ。アキはまるで仕事が終わって帰ってきたサラリーマンのように疲れ切った様子を見せながらも頭を抱えていた。
(はあ……どうしたもんかな……)
それはつい先ほどの出来事、レイナとの接触に関すること。突然の接触自体にもアキは驚いたもののそれ自体は今問題ではない。ある意味レイナからすれば当たり前のイタズラ、挨拶のようなものなのだから。もっともそのたびにDBと銀術を使ってこられるのは勘弁してほしいところではあったのだが悩んでいるのはレイナのことではなくレイナによって伝えられたこと。
シュダの敗北とそれに伴うキングからの招集。
シュダの敗北についてはアキとしては安堵していい話。つまり序盤の大きな山場をハル達が乗り越えたことを意味しているのだから。マザーが傍から離れなくなってしまった以上アキはそれに介入することも監視することもできなくなってしまい気が気ではなかった。もしハル達が負けてしまえば、想定外の事態が起きてしまえばどうなるのか。だがそれは杞憂だったとアキは悟る。どうやらハル達は順調に旅を続けているらしい。故にアキが頭を抱えているのはキングからの招集。それに尽きた。
キングからの招集。それは六祈将軍であるシュダを倒した二代目レイヴマスターの抹殺指令を与えるためのもの。
もちろんアキはそんな集まりに参加したくなどない。指令そのものもそうだが何よりもキングと接触することをアキは恐れていた。前回は運よく見逃してもらったものの同じことが続くとは限らない。だが何故かキングの指名によってアキは六祈将軍でもないのにそれに参加するよう命令されてしまった。それを断れば今度こそ反逆者とみなされてしまうかもしれない。アキはどうするべきか悩むもののあることに気づきそれに参加しないことを決定した。
それは時の番人ジークハルト。彼が今回の招集に参加することをアキは思い出したから。
もしアキが参加すればジークと接触することになってしまう。これまでもアキはジークと接触しないようにDCの中でも動いてきた。もし今回の招集で、DC本部、キングや六祈将軍たちがいる場で金髪の悪魔であることが露見してしまえばどんな事態になるか分からない。ジークだけでなくDCまで巻き込んだ乱戦になってしまう可能性すらある。アキは決断した。例え招集に参加しないことで反逆者、裏切り者扱いされることになってもそれだけは避けなければならないと。結局はレイナによるキングの判断の結果待ちなのだが。
(なんだろう……もし許してもらえてもそれはそれで何か恐ろしい気がする……)
アキは背中に嫌な汗を流しながらも意識を切り替える。それはこれからのこと。レイナからの情報によってハル達が順調に旅をしていることは確認できた。だが気にしなければならないことがある。それはこれからの展開。原作通りなら今回の招集によってジークにレイヴマスターの抹殺が命令されエリーに関係する戦い、いわゆる魔導精霊力編が始まる。だが原作とは異なる事情がある。
マジックディフェンダー。
身に着けることで魔力の反応を消し、魔法を使えなくする力を持つ腕輪。それをエリーは着けている。アキがそれをプレゼントしたことによって。それは言うまでもなくジークからの追跡からエリーを隠すため。そのおかげでこの二年間、一度もエリーはジークに補足されることは無かった。そしてそれがあるということは原作のようにジークがエリーを探知する展開にはならないということ。
(マズったかな……流石にそこまで気が回らんかった……)
アキは大きな溜息を吐きながらも今更どうすることもできずに途方に暮れるしかない。 万全を期すためにはマジックディフェンダーも回収するべきだったのだがそこまでアキは気が回らなかった。それ以外に重視するべきことが多くあったため。自分の痕跡を全て消すこと、エリーが知っているアジトを全て廃棄すること、エリーの資金を没収すること、そして何よりもエリーが持っているイヤリング型のDBを回収すること。特にそれが重要だった。エリーがアキたちの影響によってもっとも変わっているのがDB関係について。もしそのままDBと会話できる状態でハルと出会えばどうなるか影響は計り知れない。それだけは絶対に阻止する必要があったためアキは細心の注意を払っていたのだがそのせいでマジックディフェンダーについては失念してしまっていた。
どうするべきか悩み続けるもののアキはそれを見逃すことにする。確かにエリーが探知されなくなるのは原作とは異なるがそれでもレイヴマスター抹殺の命を受ける以上、ジークとハル達は接触することには変わりない。多少の差異はあるが致命的な問題ではないとアキは判断する。もっともどちらにしろ今のアキには介入することができない。
『どうした、またくだらないことで悩んでいるのか? 情けない』
目の前にいる厄介な存在、もとい共犯者のせいで。
「うるせえよ……それよりもその格好はやめろっていつも言ってんだろうが」
『ふむ……そんなに気に入らんか? せっかくお主の趣向に合わせてやっているというのに』
アキのげんなりとした声とジト目を受けながらも少女はどこか楽しげに笑い続けている。まるでそんなアキの反応を見るのが目的だといわんばかりに。アキはさらに文句を言おうとするのだがすぐにそれをあきらめる。そんなことをしても無駄なことは分かり切っていたから。
長い金髪に優れたプロポーション。そしてそんな髪の色とは対照的な漆黒のドレスを身に纏った少女。ハルの姉、カトレア・グローリーと瓜二つの姿を持つ存在。
それが今のマザーの姿。イリュージョンの力によって幻影として姿を現しているのだった。
それはエリーの入れ知恵によって始まったお遊びが原因の行動。アキの中にある理想の女性像であるカトレアの姿を借りてマザーが姿を現している。もっとも幻影なので何かに触ったりすることはできないのだがそれでも目の前にいるように見えるのでアキとしてはやりづらくて仕方ない事態。そのため禁止していたのだがエリーがいなくなってからは何故かマザーが実体化する頻度が増えていた。何度も文句を言ったのだが聞く耳を持ってもらえず(いつものこと)最近はアジトにいる時は必ずと言っていいほど一度はそれを目にすることになってしまっていた。
ちくしょう……好き勝手しやがって……全然言うこと聞きゃしねえしこいつほんとに俺がマスターだって分かってんのか? というかその格好やめてくれません? 完璧にカトレア姉さんの色違い、2Pカラーなんですけど……しかも姿は同じはずなのに全く仕草や雰囲気が違っている。一言で言えばなんていうかドSオーラが滲み出てる。もう女王気質バリバリですよこいつ……本物のカトレア姉さんとはまさに真逆の姿。それが逆に怖すぎる。頼むから俺の中のカトレア姉さんのイメージが崩壊しかねんからやめてくれ……っていうかその服の趣味どうにかしてくれよ!? どこぞの中世の王族か? ゴスロリのコスプレにしか見えないんですけど……あれ? もしかして俺の恰好ってそれに合わせてるんじゃ……
『それともまだエリーに振られたことを気にしておるのか? 未練たらしい男だな』
「な、なんでそこでエリーが出てくる!?」
『違うのか? だが仕方あるまい。ずっと一緒に暮らしておいて結局一度も手を出すこともできんヘタレでは……なあ、主様?』
「て……てめえ……」
くくくと笑いながら煽って来るマザーを前にしながらもアキは何も言い返すことができない。それは自らの作った設定、作り話のせい。それによってマザーはアキがエリーに惚れていると思い込んでいる。それに加え今回エリーを置き去りにしたことに関してもアキは新たな嘘をついた。
エリーに振られてしまった。
それがアキがエリーを置き去りにした理由の言い訳。マザーを家に置き去りにしてのエリーとのデートにおいてアキが告白し、盛大に振られ情けなさから夜逃げに近い形で街を出て行くことにした。要約すればそんな言い訳をアキはマザーに行った。よくよく考えれば情けない男の見本のような醜態。ヘタレと言われても反論しようがない話。しかし今更作り話だったとも白状できないアキは悔しさに身体を震わせながらも耐えるしかない。もっとマシな言い訳ができればよかったのだがいかんせんそれ以外いい言い訳も思いつかなかったのだから仕方ないとはいえあまりにも大きい代償だった。
もっともエリーというライバル(?)がいなくなったことでマザーは調子に乗り、そしてアキの気を引くためにイリュージョンによって姿を現しているのだがアキはそんなことなど知る由もない。
『冗談だ、そんなに気にするでない。やはりさっきのホワイトキスの主が言っていたことを気にしておるのか?』
「まあな……」
『キングとやらの招集、参加せぬつもりか? 敵対することになるかもしれんぞ。我は別に構わぬが』
「キングはまだいいんだがジークのことがあるからな……」
『ジーク……ああ、あの蒼髪の魔導士のことか。まだそんなに恐れておるのか? 今のお主なら気にする程の相手ではなかろうに……なんなら我が消し飛ばしてやってもかまわんぞ。あやつには随分追いかけ回されたからな』
「お、お前な……絶対に余計なことすんじゃねえぞ! やりやがったらまた地面に埋めてやるからな!」
マザーの言葉に思わずアキは冷や汗を流す。それはマザーの言葉が冗談ではなく本気だと悟ったからこそ。マザーからすれば何度も自らの主の命を狙ってきた相手。遠慮も容赦もする必要もない。そもそもそんな概念はマザーにはない。自らに敵対する者、邪魔者は排除する。それがマザーの考え、在り方。
(そうできればどんなに楽か……ちくしょう……)
アキは改めて頭を抱える。自らの置かれた状況に。アキとしてはマザーの言う通り、好き勝手できるならそうしたい。初めの内は戦うこと自体避けていたが今は色々経験も積み戦えるようにもなった(もっとも戦闘が避けられるならそれにこしたことはないが)もし本当にマザーの言う通りに消し飛ばすかどうかは置いておいて相手を何も考えずに倒すだけでいいならどんなに楽か。
もしルシアではなくハルに憑依、もしくはハル側の立場であったならそれでもよかった。力の限り敵を倒していく展開でも何の問題もなかった。だがそれはアキには許されていない。アキは悪、DB側の存在なのだから。
例えばDC。もしアキが力の限りを尽くしDCを壊滅させたとする。だがそれは何の意味も持たない。確かに一時的にDCに虐げられている人々は救えるかもしれない。だがそれは新たな問題を引き起こすだけ。DCが壊滅することによる他の組織による闇の派閥争い。それが起こってしまうだけ。しかも原作よりも早い段階で。ハル達が成長する暇もなく。下手をすればDCが壊滅することによって原作よりも大幅にハル達が弱体化してしまうことすらあり得る。
それを補うために他の闇の組織であるドリュー幽撃団や鬼神、BGをアキが殲滅したとしてもやはり意味がない。むしろ事態は悪化してしまう。シンクレアが集まってしまうことによってエンドレスが完成してしまうのだから。そうなればゲームオーバー。成長の機会を奪われてしまったハル達ではエンドレスを倒すことなどできるわけもない。アキが無双すればどうにかなるわけではない。むしろそんなことをすればバッドエンド直行。できるのは出来る限り原作に近い展開、時間の流れを作ること。それがアキができる唯一の道。
『ふん……つまらん。せっかく力をつけてきているというのに……一体いつになったら動き始める気だ?』
マザーはそのまま静かにアキへと目を向ける。その姿にアキは空気が凍って行くような気配を感じ取る。幻であるにも関わらずその瞳にはまるで氷のような冷酷さが、機械のような無慈悲さがある。先程まで楽しげにアキをいじっていたマザーの姿はそこにはない。あるのはDBとしてのエンドレスの一部としての意志だけ。ある意味二重人格とでも言うべき豹変。
母なる闇の使者の真の姿。
「……前にも言っただろ、もう少しだ。それまでは大人しくしてろ」
それを前にしながらも怯むことなくアキは告げる。
九月九日。それはまるで必然のように歴史に残る事件が重なる日。
レイヴが生まれた日。
大破壊が起きた日。
ゲイル・レアグローブとゲイル・グローリーが生まれ、争い命を失った日。
そしてハル・グローリーとルシア・レアグローブが争い、決着がついた日。
それはまさに運命の日。世界の意志が働いているといえる日。
それが『時の交わる日』と呼ばれる日。自分達が表舞台にあがる日だと。
『よかろう……大人しく従うことにしようかの、我がマスター』
マザーは笑う。妖艶さと無邪気さを合わせ持った笑みで。
母なる闇の使者と魔石使い。世界を終焉に陥れようとする者とそれを阻止せんとする者。
阻止せんとする者であるアキは溜息を吐きながらもまずはレイナからの報告を待つことにするのだった――――
ハードコア山脈にある巨大な城、DC本部。その大きな廊下に背をもたらせている一人の女性がいた。それはレイナ。レイナはそのまま目を閉じたまままるで誰かを待っているかのように身動き一つしない。
(まったく……どうなることかと思ったわ……)
レイナは心中でそんな愚痴を漏らす。それは先程まで行われていたキングの招集によって開かれた会議のこと。結局参加者は自分とジェガン、ジークの三人。本当にアキが来なかったことでレイナは気が気ではなかった。命令違反でアキは反逆者扱いされてもおかしくないのだから。アキが金髪の悪魔かを確かめる前に処刑命令が出てしまいかねない事態。だがそれはいらぬ心配だった。レイナが内心焦りながらアキの欠席を伝えるもキングは特に気にした様子を見せることは無かったから。むしろ何故見逃してもらえるのか不思議なほど。一度ならず二度までも。気にはなったもののレイナはキングにそれを尋ねることはしなかった。そのせいでキングの気が変わってしまえば本末転倒。とりあえずその件については問題はなし、解決したと言っていいだろう。既に会議は終わり解散となっている。議題は予想通り二代目レイヴマスターの抹殺。それを誰が行うかの人選だった。ひと悶着あったもののそれは時の番人ジークハルトが負うことになった。そして彼こそがレイナがこの場で留まっている理由。
「あら、やっと来たわねジーク」
「……レイナか。何の用だ。オレを監視しろとでもキングに言われたか」
「さあ? 想像にお任せするわ」
廊下に現れた男、ジークハルトに向かってレイナは笑みを浮かべながら近づいて行く。対照的にジークは冷静に、見定めるようにそれをみつめている。その言葉にも警戒が現れている。レイナはそんなジークの戸惑いを見て取りながらも素知らぬ顔を見せ続けている。
ジークの言葉は当たっていた。レイヴマスターの抹殺。それがジークが与えられた任務。それを成し遂げるかどうかを監視することがレイナが与えられた任務。DCへの貢献、忠誠が他の者より見られないジークを試す、警戒する意味での任務。
「それよりもさっきの話の続き、聞かせなさいよ。女を探してるんでしょ? 何? やっぱり昔の女なわけ?」
レイナはそんな空気を変える意味で話題を変える。それは先の会合でジークが口にしていた言葉。もっともレイナが個人的に興味があるだけだったのだが。
「違う。それに聞いていなかったのか。オレが探しているのは男と女だ」
「どっちでも同じじゃない。何? 三角関係? 面白そうじゃない、聞かせなさいよ♪」
まるで鬼の首を取ったかのような喜びようでレイナはジークに迫って行く。レイナとしてはいつも冷静な、すました姿のジークの女性関係に少なからず興味があった。それに加え二代目レイヴマスターの抹殺もすぐに終わってしまうと分かり切っているためレイナはそれに関しては興味を持っていない。それだけの力をジークハルトは持っている。六祈将軍と同等の扱いを受けているのは伊達ではないのだから。
「いいだろう……もっとも、お前が聞きたいと思っているような内容ではないだろうがな」
ジークは目を閉じながらも話し始める。まずは自らが追っている女、3173の女について。それはこれ以上いらぬ詮索をされたくないから。そして自らの任務をDCのレイナに伝えることでDC の疑念を晴らすため。これ以上DC側に疑念を持たれることはジークとしては避けなくてはらない。キングの暗殺と言う目的を果たすためにはまだDCと敵対するわけにはいかないという配慮だった。
そしてその内容にレイナは驚きを隠せない。だがそれは無理のないこと。女を殺すこと。しかも魔導精霊力を持っているというのだから。
『魔導精霊力』
禁呪とまで呼ばれる究極の力、魔法。かつてレイヴを作ったリーシャ・バレンタインだけが持っていたといわれる力。その死と共に失われてしまったはずのもの。その力は世界を崩壊させてしまうほどのもの。レイナは納得する。ジークが殺気を見せてまでそれにこだわっている理由に。
「なるほどね……あんたがそこまでムキになる理由も分かったわ。でも男の方は何なの? その3173の女の方がよっぽど危険だと思うんだけど」
レイナは首をかしげながら尋ねる。それはジークが探しているという男のこと。ジークの言いようではまるで3173の女と同列に扱っているかのようだった。だが魔導精霊力以上に危険なものなどあるのだろうか。だがそんなレイナの疑問は
「いや……男の方も軽視していい存在ではない。『金髪の悪魔』……それがその男の二つ名だ」
ジークの言葉によって一瞬にして砕け散ってしまう。
「……? どうした。金髪の悪魔を知らないのか?」
「い、いえ……知っているわ。ちょっと驚いただけ……あんた、金髪の悪魔を追ってるの……?」
「そうだ。何度か追い詰めたことはあったが逃げられてしまっている。恐らくは姿を隠す力、瞬間移動の力を持つDBを持っているのだろう」
「そう……どんな姿をしているの?」
「偽装していた可能性があるので断言はできないが……見た目は黒髪の少年だ。今はあの時よりは成長しているはず」
「…………」
ジークは二年前の光景を改めて思い返しながら口にする。ローブを被っていること、偽装している可能性はあるものの恐らくは間違いない。二つ以上のDB,を持っていることも確定的。だがそれ以外の情報はジークも持ってはいなかった。実際に戦闘の際には金髪の悪魔は抗戦してくることなく逃亡するだけだったから。
だがレイナはそんなジークの姿にまったく気づくことなくただ己の内に入り込んでいた。それはジークの言葉。金髪の悪魔。ジークがそれを追っていたという事実。そしてその内容。
その全てがアキと一致している。その風貌も、能力も。それならば先のアキの態度も納得がいく。ジークという名を聞いた瞬間の反応。レイナは看破する。だからこそアキはこの場に来なかったのだと。そしてジークが一度もアキと面識がなかったこともそれで説明がつく。
知らずレイナは自らの腕を抱く。まるで欠けていたピースが全て揃ったかのような感覚。だがまだ確定ではない。しかし限りなく正解に近いもの。それを確定できる人物が、術が目の前にある。
「ジーク……相談があるわ。私が二代目レイヴマスターの相手をしてあげる」
レイナはそのまま改めてジークに向かい合いながらそう提案する。自らがレイヴマスターの抹殺。その指令を行うと。
「……どういうつもりだ。何を考えている?」
ジークは目を細めながらレイナを睨みつける。だがそれは当然のこと。先の会合であれほど嫌がっていた、面倒がっていた任務を代わりにやるというのだから。しかもそれはある意味キングの命令にも背くこと。その側近であるレイナが取るとは思えないような行動。何か狙いがあることは明らか。
「そんなに怖い顔しないで頂戴。簡単な取引よ。私にもその金髪の悪魔に関して協力させてほしいの」
「金髪の悪魔に……? 何故だ?」
「単純な興味よ♪ どんな奴なのか見てみたいって思ってたの。その代わりあんたの任務をこなしてあげる。悪い話じゃないでしょ?」
「……興味本位で関わるとタダではすまないかもしれんぞ」
「あら、心配してくれるの? 大丈夫よ、これでもキングの側近なのよ。それにちゃんとエスコートしてくれるんでしょ?」
「…………」
ジークはそんなレイナの提案について思案する。レイナが一体何を狙っているのかは定かではない。興味があるというのは本当だろうがそれだけではないのは確か。だがレイナの協力自体は魅力があるものではある。既にジークは金髪の悪魔のおおよその居場所をハジャから伝えられている。奇しくもそこは二代目レイヴマスター達が滞在していると思われる場所とも近い場所。レイナがレイヴマスター側の相手をしてくれるのならそれに越したことは無い。どちらにせよレイナは恐らくキングから自分の監視を命じられているはず。ならば結局憑いてくることには変わらない。
「……いいだろう。だが邪魔をするようなら容赦はしない」
「分かってるわ。こういう刺激的な関係も悪くないわね。楽しい任務になりそう♪」
『時の番人ジークハルト』と『六祈将軍レイナ』
本来敵対するはずだった二人は一時的な同盟を結ぶ。金髪の悪魔、アキという存在によって。
『ダークブリングマスター』 『DC』 『時の民』 『レイヴマスター』 そして表には出てきていない勢力。
それぞれの思惑を胸に全てがソング大陸最大の都エクスペリメントに集おうとしていた――――