「ほう……誰かと思えば主か。時の番人ジークハルト」
低い声と共に老人、無限のハジャは突然の来訪者を迎え入れる。ハジャの目の前にいるのは六祈将軍ではないにも関わらずそれと同等の地位を持つ男、ジークハルト。DBを使わない天然の力を扱う魔導士、エレメントマスターの称号を持つ存在。だがジークハルトはDCの幹部にあたる人物。にも関わらずハジャは全く警戒を解くことなくジークと対面している。いつ戦闘が始まっても対応できるほどの用意をしたまま。既にジークが部屋に入ってきた瞬間、人払いと防音の結界を展開しているのがその証拠。同じ組織に属する仲間に対するものとは思えないような対応。そしてハジャと同じく魔導士であるジークは当然そのことに気づいている。他の六祈将軍ならいざ知らず魔導士であるジークがそれに気づかないことなどあり得ない。ジークも表情を変えることなくハジャに視線を向けている。両者の間にまるで見えない壁があるかのように空気が緊張していく。そんな中
「何故お主がこんなところに? キングからの命令か?」
ハジャがいつもと変わらぬ声色でジークへと問いかける。何故ここに来たのかというある意味当然の問い。ここはDCの支部の中でも前線。故に副指令であるハジャが直々に指揮している場所。そんな場所にわざわざ訪れるなど不自然極まりないこと。しかも相手はジーク。他の六祈将軍ならいざ知らずある意味特別な扱いを受けているジークが訪ねてくるなどハジャにとっては予想外の事態。そしてハジャには個人的にジークに対しては明かすことのできない事情があるため警戒を解くことなくジークに対応していく。そしてジークはそんなハジャの姿を見ながら一度大きな間を開けた後、告げる。
「単刀直入に聞かせてもらう。無限のハジャ……いや、『時の民』のハジャ」
瞬間、ハジャの表情に初めて変化が生じる。目が見開き、驚愕を現したままハジャはジークを凝視する。ジークはそんなハジャの姿を見ながらも確信していた。自らが口にした言葉が間違いなく真実なのだと。
「……貴様、一体それをどこで知った?」
先程までの驚きを一瞬で消し去り冷酷な魔導士としての顔を見せながらハジャは問う。先の言葉の意味を。答えによってはこの場で戦闘も辞さない程の気配を発しながら。
(どうやら間違いないようだな……オレも半信半疑だったが……ミルツ様が仰ったことは真実だったか)
ジークはハジャの姿の豹変を前にしながらも内心安堵していた。何故なら先の自分の言葉は間違っていれば処刑されてもおかしくない程のものだったから。
『時の民』
それは時を刻む街と呼ばれるミルディアンに住む者を示す言葉。だがその民達はただの人間ではない。何故ならその街の民達は皆、魔導士であるのだから。そしてジークはその街の生まれ、住人。ハジャもその生まれであり時の民であることをつい最近ジークは知った。だがジークはそれに確信を持てないでいた。その理由。
時を守る。
それが時の民の使命。流れる時を壊さず守る。それを犯すもの、壊す危険性があるものを排除することが時の民の為すべきこと。その使命の元にジークも動いている。ならばハジャもそれに基づいて動いているはず。その男が何故DCの副官となっているのか。だがその答えをジークは知ることになった。他でもない自らの師と呼ぶべき人物から。
「……ミルツ様だ。オレがミルディアンに戻り任務の報告をした際に教えて下さった」
それは街の最高権力者である『時の賢者ミルツ』 ミルディアンの民達を束ねる大魔道士。彼からジークはその事実を知らされた。
ジークはこの四年、時の民としていくつかの任務を、使命を課せられていた。
一つが金髪の悪魔の抹殺。世界に混乱を引き起こす、時を狂わす可能性がある悪魔の子と呼ばれる子供を殺すこと。
二つ目が魔導精霊力の研究施設の破壊と魔導精霊力を持つ可能性がある者の抹殺。
だがその使命をジークは未だ果たすことができないでいた。金髪の悪魔については何度か追い詰めはしたもののDBと思われる力によって逃亡を許してしまった。だがジークもそれに甘んじていたわけではない。姿を消す能力と瞬間移動の能力であると見抜きそれに対抗した手段を用意した。そして万全の態勢を整え、襲撃を行わんとした瞬間にジークにとって想定外の事態が起こる。それは金髪の悪魔の気配を全く感知できなくなったこと。魔導士であるジークにはそれを感知する力がある。ましてや相手は恐ろしい邪悪な力を持った存在。その気配を読めなくなるなど普通はあり得ない。しかし現実に気配を追えなくなった以上ジークは目視で金髪の悪魔を探すしか手は残されていない。だがそれは絶望的な状況。姿を消す、もしくは偽装する力に加えて世界中を移動する能力をもつ相手を目視で補足するなど不可能に近い。その意味でジークは金髪の悪魔に敗北し、任務に失敗してしまったことになった。
そしてもう一つの任務、魔導精霊力の研究所の破壊と魔導精霊力を持つ可能性のある者の抹殺。これに関してはジークは任務を成功させたといっても過言ではなかった。事実ほとんどの研究所を破壊し、生き残りであった研究体である少女も排除したのだから。だが想定外の事態がここでも起こる。殺したはずの魔導精霊力の少女、腕に3173の番号を持つ女が生きていたことが判明したから。明らかに異質な魔力、少女が発している魔導精霊力の魔力をジークはすぐさま追い、再び命を奪わんとするもそれは失敗に終わる。突如魔導精霊力の反応が消失してしまう事態によって。まるで消えてしまったかのようにそれが感じられなくなってしまったのだった。
奇しくも同じような状況によってジークは金髪の悪魔、魔導精霊力の少女を見失うこととなる。(もっともそれはアキの仕業、もとい小細工なのだがジークはそれを知る術は無い)
ジークはそれから新たな任務のためにDCへ潜入していた。それはDC最高司令キングの暗殺のため。金髪の悪魔同様時を狂わす可能性を持つ存在の排除。その期をジークは狙っていた。もっとも金髪の悪魔たちを探すことをあきらめたわけではなくその後も世界中を探しまわったもののやはり収穫はなし。ジークは己のふがいなさを恥じながらも一度故郷であるミルディアンへと帰郷を果たした。任務失敗の報告と共に。ジークはその責を問われ牢獄に入れられるのも覚悟の上だった。だがそれは覆される。ミルツの言葉によって。ハジャの正体とそれに伴う新たな任務をミルツはジークへと伝えたのだった。
「ミルツめ……口を滑らせおったか」
「違う。これはミルツ様のご意志。ハジャ、オレにお前を補佐しろという命令だ」
「ふん……」
ジークの言葉にどこか不満げな声を漏らしながらもハジャはそのまま黙りこんでしまう。それはハジャにとって予想外の事態が起こってしまったから。
「ハジャ……お前の目的はキングの暗殺、そうだな?」
「いかにも。そのためにDCに潜り込み期を伺っているのだ」
ハジャは誤魔化すことなく自らの正体と目的を晒す。キングの暗殺、DCの壊滅こそが狙いだと。そこには決して嘘はない。もっともその先があることまでは今のジークに知る術は無い。
「……なら何故そのことをオレにすぐ教えなかった?」
今のジークにあるのはその疑問だけ。ある意味憤りに近いもの。自分の役目はハジャと同じ。すなわちハジャを補佐することが本当の役目。それ自体は構わない。魔導士としてハジャが自分よりも遥か高みにいることをジークは知っている。だが何故補佐の役目を自分に教えてくれなかったのか。その一点のみがジークに憤りを、そして疑念を与えていた。
「簡単なことだ。敵を欺くにはまず味方から……主はまだ若い。主に伝えることによってそれが漏れることを防ぐためにすぎん」
「…………」
ハジャはジークがいらだっていることを、疑念を抱いていることを承知したうえで答える。それは偽らざるハジャの本音。初めから自分の正体を明かしてしまえばいくらジークが優れた魔導師とはいえキングにそれが漏れてしまう危険がある。ハジャから見ればまだジークは若造。感情に流されて使命が全うできるかどうかも疑わしい存在。それを見定める意味で少し様子を見る予定だったがミルツの想定外の行動、お節介によってハジャは自身の計画を修正する必要に迫られていた。
キングの暗殺。ハジャはその機会をまだ当分先の予定にしていた。自らの力だけではキングには勝てないかもしれないことがその理由。いかな無限の魔力を持つハジャとはいえ相手は闇の頂点とまで言われる男。万全には万全を期す必要がある。ジークの力を加えれば勝率は上がるがそれでも完全ではない。そしてハジャにとっては敵はDCだけではない。今はDCの存在によって表舞台に出てきていない組織も数知れない。その中でも特に際立った勢力を持つものが三つある。
『BG(ブルーガーディアン)』 『ドリュー幽撃団』 『鬼神』
構成員や種族、規模は異なるがそれぞれがDCに近いもしくは匹敵する力を持つ組織。何よりも危険視するべき点。それはその三つの勢力のリーダーがシンクレアをそれぞれ持っている可能性が高いということ。断定できたわけではないがDCの情報網によればほぼ間違いない情報。当然それらも時の民、いやハジャにとっては排除すべき障害。だがそれを単身で為し得ると思うほどハジャは自らの力を過信してはいない。それを為し得る方法もあるのだがそれにはいくつか条件があり今すぐそれを行うにはリスクが伴う。そのためハジャはDCを利用する手を打つことにした。
キングと六祈将軍の力を利用し他の勢力を根絶したのちにDCを壊滅させる。
そして全てを手に入れることこそがハジャの狙い。時の民としてではない魔導士としての、ハジャという個人としての望み、野心。それを成し遂げるための策をハジャは今まで張り巡らせてきた。それを壊しかねない危険因子がジークハルト。排除しても構わないのだがプランの一つでは利用価値もある駒。ならばそれをどう使うか。ハジャは瞬時にそこへと至る。
「そういえばお主は確か……金髪の悪魔と魔導精霊力の娘を探していたはずだったな……」
「……それがどうした」
ジークはどこか目を細めながらハジャを見据える。ハジャが時の民であることが分かり、幾分か警戒を解いているもののやはりどこか身構えたまま。そして自らが失敗した任務のことを再び挙げられ気を悪くしているのが明白な態度。それがまだハジャがジークを若造だと断ずる理由。だがそこにこそ付け入る隙が、利用する隙がある。
「なに少しお主の任務を手伝ってやろうと思ってな……DCの情報網なら主一人では探しきれない相手も捉えることができるはず。その代わりそれを排除する役目を果たしてもらいたい」
「……オレを試す試験というわけか」
「名誉挽回のチャンスだと思えばいい。さすればミルツも主のことを見直すであろう。キングの暗殺についてはまだ準備が整っておらん。それができるまでの間に果たしてくれればよい」
ハジャは淡々と言葉を繋いでいく。その言葉に嘘は無い。だが決して核心を晒してはいない。
己が既に金髪の悪魔の居場所を知っていることを。それをDCに引き込んでいることも。それを殺さずに置いているのにもいくつかの理由があるもののその一番の理由がキングの代替として。やむを得ずキングを暗殺せざるを得ない事態になった場合、そしてキングが何らかの理由で命を落とした場合の保険が金髪の悪魔、アキ。キングに比べて力も知力も大きく劣るアキならば操ることも御することも容易い。そのためにハジャはキングとアキが接触しないよう様々な手を講じてきた。レイナのきまぐれによって二人が出会った時には不測の事態を覚悟したのだがどうやらアキはキングと接触することを拒んでいるらしい。その理由は分からないが手を組まれるのが一番厄介な展開であることを考えれば問題ない。そしてハジャは知る必要があった。
アキの実力を。そしてアキが持つであろう母なる闇の使者の存在を。
アキがそれを持っている可能性は非常に高い。DBを定期的に収めていること、何よりも六星DBを持っていたこと。いかな金髪の悪魔といえども子供一人では為し得ないこと。何よりもその実力を知る必要がある。もしキングを超える力を持っているようなら計画も変更せざるを得ない。その意味ではジークはうってつけの相手。実力は大魔道の名の通り六祈将軍に匹敵するもの。
ジークが勝利すれば金髪の悪魔を排除できるのに加え一定だがジークにも信頼が置ける。キングの暗殺に関しても有効な駒となる。
もしジークが敗北したとしてもアキの実力を知ることができそしてジークという不安要素を自らの手を汚さず排除できる。
どちらに転んでもどちらかは排除でき、それから先の計画も確定できる。それがハジャが導き出した計画。
「……いいだろう。それが時のためならば」
そんなハジャの狙いを知ることなくジークはその場を去っていく。だがジークは背中を見せながらも自らの内に渦巻く言いしれぬ感情を抑えることができなかった。例えるならそう、まるで自分が見えない意志によって動かされているかのような、蜘蛛の糸に絡まれているかのような感覚。だがジークはそれを振り払いながら進んでいく。
そう。迷う必要はない。オレは時の番人。時を守ることこそがオレの使命。時のためならどんな事でもできる。否、恐れてはならない。全ては時のために。
ジークは進み続ける。自らが持つ信念に従って。だがまだジークは気づかない。それが何なのか。誰かに教えられたのではない自らの真実をまだ彼は持ち得てはいなかった――――
時はレイナがアキの尾行(襲撃)を行う少し前。大きな廃墟になりつつある場所。
とても人が住んでいるとは思えないような場所。そのホールのような場所で何かが暴れているかのような音が響き渡っていた。だがそれは突然止み、静けさを取り戻す。
「はあ………」
大きな溜息と共に壁にもたれかかりながら一人の少年が座りこんでいく。その表情は苦悶に満ち今にも気を失ってしまいそうな程疲れ切ってしまっている。だがその姿は普通ではない。黒い甲冑のようなものとマントを身に纏い、身の丈ほどもあるのでは思えるような大剣を手に握っている。まるでこれから戦争にでも行くのではないかと思えるような格好。それが金髪の悪魔、ダークブリングマスターアキの姿だった。
アキはしばらく座りこんだ後、ふらふらとまるで夢遊病のように歩きながら冷蔵庫の中から飲み物を取り出し飲みほしていく。必死に水分補給しているその姿はどこか鬼気迫ったものがある。もっともそうなってしまうほどの苦行を行っているからこそ。修行と言う名の地獄の強行軍をアキはここ数カ月ずっと続けていたのだった。
どうも、アキです……ダークブリングマスターです……何か既に死にそうですが何とか生きてます。さて……何から話したもんか……そうだな、まずは今の状況から。今俺は修行がひと段落ついて休憩してるところ。それだけならいつもどおりなのだが如何せん数か月前とは状況が変わってきている。それは修行の内容。一言でいえば鬼畜。もうその言葉でしか言い表せんくらいにスパルタです。もしかして俺死ぬんじゃねえ? って勢いです。それは言うまでもなくマザーの仕業。どうやら俺が実戦を経験したことがその理由らしい。確かにジェロと実戦、そしてシュダと小競り合い(マザーは知らない)を機に自分の実力が急激に伸びてきたのは実感してる。実戦に勝る修行はないとかどっかの誰かが言ってたような気がするがまさにその通り。やっぱそれがあるのとないのとでは雲泥の差がある。でもこれはちょっとやりすぎじゃないですかマザーさん? え? まだまだこれから? そうですかそうですか……っていい加減にしろよてめえ!? 何だ!? 修行で俺を殺す気か!? 幻相手に過労死とか冗談じゃねえぞ!?
水分を摂取したことで何とか息を吹き返したアキは自分の胸元にあるマザーに向かって抗議の声を上げるもマザーは我知らずと言った風に次の修行の準備をイリュージョンと共に行っている。もはやそれはここ数カ月の日常となる光景。アキが心を許せるのはもはやデカログスのみといった状況だった。
何故ならこの場にはアキとDBだけ。同居人であったエリーの姿はない。数ヶ月前からアキは再びDBだけに囲まれて暮らすという生活、ある意味いつも通りの生活に晴れて戻ったのだった。そのためアキはエリーを気にすることなく思う存分修行ができるという涙が出る状況に陥ってしまっていたのだった。
ち、ちくしょう……まさかこんなことになるなんて……エリーの存在の大きさが、偉大さが今になって身に染みてくるわ……
アキは心の涙を流しながらもどうすることもできない。エリーを予定通りヒップホップタウンに置き去りにし、ハルと引き合わせることに成功したことでようやくアキはエリーという呪縛から解放された気分だった。だがアキはすっかり忘れていた。自分にはエリーの比ではない程の悪魔の呪縛があったことに。
マザーが調子に乗り始めた。
それがここ数カ月のアキの苦難の原因。今まではエリーという存在がいたことである種のストッパーが掛けられていたのがなくなってしまったのだ。DBたちは基本マザーの言うことには絶対服従なため誰も止めることができない、やりたい放題の状態。しかもエリーがいなくなってからはマザーはほぼ常にアキの胸元に居座ったまま。エリーがいればマザーを押し付け、もとい預けることもできるのだが今はそれも不可能。おかげでアキはハル一行の様子を一度も見に行けていないという状況。まさにアキにとっては踏んだり蹴ったりな数カ月だった。
まったく……何でこんなことに……っていうか何でこいつこんなにノリノリなの!? いい加減気色悪いんだけど……というか四六時中話しかけてくんじゃねえよ!? しかもなんか最近イリュージョンで姿を現す頻度が増えてきてるし……朝起きて目の前にいられた日にゃ心臓止まるかと思ったわ……マジでやめてください、恰好がカトレア姉さんのなのもマジでやめてください。色々やりづらいんです。あ、ダメ? あっそ……というかこの甲冑つける意味ないだろ!? は? ムードを出すため? こんな悪趣味な甲冑いらねえっつーの……マントと合わせて罰ゲームかなんかかこれ……? あ、悪かった! 分かったから頭痛はやめろっつーの!?
アキはげんなりしながらも自らの手にある剣、デカログスに目を向ける。アキ自身の能力の底上げ。それが今の修行の課題。それはジェロ戦でも反省を生かしたもの。
アキはデカログス以外にも四つのDBを使っている。戦闘に使用できるのはマザー、イリュージョン、ワープロードの三つ。だがそれに頼りすぎているのがアキの問題点。それが通じなければ途端に勝率が下がってしまう。それはこれまでの修行でも見られてきた傾向。ジェロ戦ではそれが特に顕著だった。(もっとも相手が規格外過ぎたのも大きな要因)
そのためこの数カ月はアキの地力、デカログスを使いこなすことを念頭に修行が行われている。そして今はその最終段階、羅刹の剣の制御まで進んでいるところだった。だがそのせいでアキは精神的にも身体的にもすでにボロボロだった。
魔剣とまで呼ばれる第九の剣。使用者の精神を封じ込め闘争本能のみを引き出し限界以上の力を与える剣。原作ではハルもそれに取り込まれ後一歩でプルーを殺してしまう程危険なもの。だがアキはそれを何とか三分ほどなら制御できるようになった。それはDB側、デカログスからの補助が受けれるDBマスターとしての力と精神汚染に強い耐性があるアキだからこそできることだった。
マジでこれ洒落にならないくらいヤバいんですけど……ちょっとでも気を抜くと凄まじい破壊衝動に襲われるし、使った後には体中ガタガタになるし……何だろう、クスリでもやってるみたいだ……これが制御できたとはやっぱシバは半端ない。というかもういいんじゃない? これ使う機会なんてそうそうないっつーの……っていうかこれを使う状況って死ぬ一歩手前でしょ? そんなこと起きるわけな……いと言いきれないのが恐ろしい……うん、真面目に修行しよう! やってて損は無いもんな! っとそういえば結局まだ第十の剣は使えてないな。確かダークエミリアだっけ? 能力はよく分からんかったが……まあ聖剣レイヴェルトの対の剣だから闇属性の魔剣なんだろうけど……あれか、やっぱ俺が本物のルシアじゃないから使えないのか? それともレベルが足りないのか……まあいっか、そこまで習得する必要もないし、ガチでハルと最終決戦するわけでもなし。
とりあえず今はこの筋肉痛を何とかしたい……こんな時はあれだ、シンクレアのアナスタシスが欲しくなるな。あれがあれば傷なんて一瞬で治るし、ほぼ不死身になれる。汎用性は多分シンクレアの中でもトップクラスだろ。ハードナーにはもったいない代物だな。この際ラストフィジックスでもいい。あれがあれば物理攻撃は効かなくなるし、あとは封印の剣を持てばまさに無敵! ヴァンパイアも引力と斥力使えば万能に近い力を持ってるし半端ない! こうなったら全部集めて…………じゃねよ!? 何考えてんだ俺!? んなことしたらエンドレスになっちまうじゃん!? あ、あぶなかった……何か知らない間にやる気になりつつあるところだった……気をつけねば……うん? そういえばもしかして俺、一番使えないシンクレア引いちゃってるんじゃ……まあハルの叫び声にかき消される程度の能力だし仕方ないか。よし! 当てにならないマザーはほっといていっちょやるとしますか!
アキはそのまま気分を変えながら再び修行に取り組んでいく。だがアキは侮っていた。マザーの力を。
後にアキは知ることになる。マザーは力、相性の上でもシンクレアの中で頂点に立つ存在であることを―――――