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No.33455の一覧
[0] ダークブリングマスターの憂鬱(RAVE二次創作) 【完結 後日談追加】[闘牙王](2017/06/07 17:15)
[1] 第一話 「最悪の出会い」[闘牙王](2013/01/24 05:02)
[2] 第二話 「最悪の契約」[闘牙王](2013/01/24 05:03)
[3] 第三話 「運命の出会い」[闘牙王](2012/06/19 23:42)
[4] 第四話 「儚い平穏」[闘牙王](2012/07/09 01:08)
[5] 第五話 「夢の終わり」[闘牙王](2012/07/12 08:16)
[6] 第六話 「ダークブリングマスターの憂鬱」[闘牙王](2012/12/06 17:22)
[7] 第七話 「エンドレスワルツ」[闘牙王](2012/08/08 02:00)
[11] 第八話 「運命の出会い(その2)」[闘牙王](2012/08/10 20:04)
[12] 第九話 「魔石使いと記憶喪失の少女」[闘牙王](2012/08/10 20:08)
[13] 番外編 「アキと愉快な仲間達」[闘牙王](2013/01/24 05:06)
[14] 第十話 「将軍たちの集い」前編[闘牙王](2012/08/11 06:42)
[15] 第十一話 「将軍たちの集い」後編[闘牙王](2012/08/14 15:02)
[16] 第十二話 「ダークブリングマスターの絶望」前編[闘牙王](2012/08/27 09:01)
[17] 第十三話 「ダークブリングマスターの絶望」中編[闘牙王](2012/09/01 10:48)
[18] 第十四話 「ダークブリングマスターの絶望」後編[闘牙王](2012/09/04 20:02)
[19] 第十五話 「魔石使いと絶望」[闘牙王](2012/09/05 22:07)
[20] 第十六話 「始まりの日」 前編[闘牙王](2012/09/24 01:51)
[21] 第十七話 「始まりの日」 中編[闘牙王](2012/12/06 17:25)
[22] 第十八話 「始まりの日」 後編[闘牙王](2012/09/28 07:54)
[23] 第十九話 「旅立ちの時」 前編[闘牙王](2012/09/30 05:13)
[24] 第二十話 「旅立ちの時」 後編[闘牙王](2012/09/30 23:13)
[26] 第二十一話 「それぞれの事情」[闘牙王](2012/10/05 21:05)
[27] 第二十二話 「時の番人」 前編[闘牙王](2012/10/10 23:43)
[28] 第二十三話 「時の番人」 後編[闘牙王](2012/10/13 17:13)
[29] 第二十四話 「彼と彼女の事情」[闘牙王](2012/10/14 05:47)
[30] 第二十五話 「嵐の前」[闘牙王](2012/10/16 11:12)
[31] 第二十六話 「イレギュラー」[闘牙王](2012/10/19 08:22)
[32] 第二十七話 「閃光」[闘牙王](2012/10/21 18:58)
[33] 第二十八話 「油断」[闘牙王](2012/10/22 21:39)
[35] 第二十九話 「乱入」[闘牙王](2012/10/25 17:09)
[36] 第三十話 「覚醒」[闘牙王](2012/10/28 11:06)
[37] 第三十一話 「壁」[闘牙王](2012/10/30 06:43)
[38] 第三十二話 「嵐の後」[闘牙王](2012/10/31 20:31)
[39] 第三十三話 「違和感」[闘牙王](2012/11/04 10:18)
[40] 第三十四話 「伝言」[闘牙王](2012/11/06 19:18)
[41] 第三十五話 「変化」[闘牙王](2012/11/08 03:51)
[44] 第三十六話 「金髪の悪魔」[闘牙王](2012/11/20 16:23)
[45] 第三十七話 「鎮魂」[闘牙王](2012/11/20 16:22)
[46] 第三十八話 「始動」[闘牙王](2012/11/20 18:07)
[47] 第三十九話 「継承」[闘牙王](2012/11/27 22:20)
[48] 第四十話 「開幕」[闘牙王](2012/12/03 00:04)
[49] 第四十一話 「兆候」[闘牙王](2012/12/02 05:37)
[50] 第四十二話 「出陣」[闘牙王](2012/12/09 01:40)
[51] 第四十三話 「開戦」[闘牙王](2012/12/09 10:44)
[52] 第四十四話 「侵入」[闘牙王](2012/12/14 21:19)
[53] 第四十五話 「龍使い」[闘牙王](2012/12/19 00:04)
[54] 第四十六話 「銀術師」[闘牙王](2012/12/23 12:42)
[55] 第四十七話 「騎士」[闘牙王](2012/12/24 19:27)
[56] 第四十八話 「六つの盾」[闘牙王](2012/12/28 13:55)
[57] 第四十九話 「再戦」[闘牙王](2013/01/02 23:09)
[58] 第五十話 「母なる闇の使者」[闘牙王](2013/01/06 22:31)
[59] 第五十一話 「処刑人」[闘牙王](2013/01/10 00:15)
[60] 第五十二話 「魔石使い」[闘牙王](2013/01/15 01:22)
[61] 第五十三話 「終戦」[闘牙王](2013/01/24 09:56)
[62] DB設定集 (五十三話時点)[闘牙王](2013/01/27 23:29)
[63] 第五十四話 「悪夢」 前編[闘牙王](2013/02/17 20:17)
[64] 第五十五話 「悪夢」 中編[闘牙王](2013/02/19 03:05)
[65] 第五十六話 「悪夢」 後編[闘牙王](2013/02/25 22:26)
[66] 第五十七話 「下準備」[闘牙王](2013/03/03 09:58)
[67] 第五十八話 「再会」[闘牙王](2013/03/06 11:02)
[68] 第五十九話 「誤算」[闘牙王](2013/03/09 15:48)
[69] 第六十話 「理由」[闘牙王](2013/03/23 02:25)
[70] 第六十一話 「混迷」[闘牙王](2013/03/25 23:19)
[71] 第六十二話 「未知」[闘牙王](2013/03/31 11:43)
[72] 第六十三話 「誓い」[闘牙王](2013/04/02 19:00)
[73] 第六十四話 「帝都崩壊」 前編[闘牙王](2013/04/06 07:44)
[74] 第六十五話 「帝都崩壊」 後編[闘牙王](2013/04/11 12:45)
[75] 第六十六話 「銀」[闘牙王](2013/04/16 15:31)
[76] 第六十七話 「四面楚歌」[闘牙王](2013/04/16 17:16)
[77] 第六十八話 「決意」[闘牙王](2013/04/21 05:53)
[78] 第六十九話 「深雪」[闘牙王](2013/04/24 22:52)
[79] 第七十話 「破壊」[闘牙王](2013/04/26 20:40)
[80] 第七十一話 「降臨」[闘牙王](2013/04/27 11:44)
[81] 第七十二話 「絶望」[闘牙王](2013/05/02 07:27)
[82] 第七十三話 「召喚」[闘牙王](2013/05/08 10:43)
[83] 番外編 「絶望と母なる闇の使者」[闘牙王](2013/05/15 23:10)
[84] 第七十四話 「四天魔王」[闘牙王](2013/05/24 19:49)
[85] 第七十五話 「戦王」[闘牙王](2013/05/28 18:19)
[86] 第七十六話 「大魔王」[闘牙王](2013/06/09 06:42)
[87] 第七十七話 「鬼」[闘牙王](2013/06/13 22:04)
[88] 設定集② (七十七話時点)[闘牙王](2013/06/14 15:15)
[89] 第七十八話 「争奪」[闘牙王](2013/06/19 01:22)
[90] 第七十九話 「魔導士」[闘牙王](2013/06/24 20:52)
[91] 第八十話 「交差」[闘牙王](2013/06/26 07:01)
[92] 第八十一話 「六祈将軍」[闘牙王](2013/06/29 11:41)
[93] 第八十二話 「集結」[闘牙王](2013/07/03 19:57)
[94] 第八十三話 「真実」[闘牙王](2013/07/12 06:17)
[95] 第八十四話 「超魔導」[闘牙王](2013/07/12 12:29)
[96] 第八十五話 「癒しと絶望」 前編[闘牙王](2013/07/31 16:35)
[97] 第八十六話 「癒しと絶望」 後編[闘牙王](2013/08/14 11:37)
[98] 第八十七話 「帰還」[闘牙王](2013/08/29 10:57)
[99] 第八十八話 「布石」[闘牙王](2013/08/29 21:30)
[100] 第八十九話 「星跡」[闘牙王](2013/08/31 01:42)
[101] 第九十話 「集束」[闘牙王](2013/09/07 23:06)
[102] 第九十一話 「差異」[闘牙王](2013/09/12 06:36)
[103] 第九十二話 「時と絶望」[闘牙王](2013/09/18 19:20)
[104] 第九十三話 「両断」[闘牙王](2013/09/18 21:49)
[105] 第九十四話 「本音」[闘牙王](2013/09/21 21:04)
[106] 第九十五話 「消失」[闘牙王](2013/09/25 00:15)
[107] 第九十六話 「別れ」[闘牙王](2013/09/29 22:19)
[108] 第九十七話 「喜劇」[闘牙王](2013/10/07 22:59)
[109] 第九十八話 「マザー」[闘牙王](2013/10/11 12:24)
[110] 第九十九話 「崩壊」[闘牙王](2013/10/13 18:05)
[111] 第百話 「目前」[闘牙王](2013/10/22 19:14)
[112] 第百一話 「完成」[闘牙王](2013/10/25 22:52)
[113] 第百二話 「永遠の誓い」[闘牙王](2013/10/29 00:07)
[114] 第百三話 「前夜」[闘牙王](2013/11/05 12:16)
[115] 第百四話 「抵抗」[闘牙王](2013/11/08 20:48)
[116] 第百五話 「ハル」[闘牙王](2013/11/12 21:19)
[117] 第百六話 「アキ」[闘牙王](2013/11/18 21:23)
[118] 最終話 「終わらない旅」[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[119] あとがき[闘牙王](2013/11/23 08:51)
[120] 後日談 「大魔王の憂鬱」[闘牙王](2013/11/25 08:08)
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[33455] 第九十三話 「両断」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:7bdaaa14 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/18 21:49
時の番人と絶望。二人の超魔導による決戦が行われているのと時同じく、星跡の洞窟においてもう一つの戦いの火蓋が切って落とされていた。

銀髪と金髪。TCMとネオ・デカログス。レイヴとDB。全てにおいて対照的な二人の少年の戦い。二代目レイヴマスター、ハル・グローリーとダークブリングマスター、ルシア・レアグローブの二度目の決闘が今、音もなく始まった。

エリーが息のむ間もないほどの速さを以てハルとルシアは己の愛剣を振り切る。鏡映しのように両者の剣が交わったその瞬間、衝撃が洞窟を揺るがした――――

凄まじい衝撃と剣と剣のぶつかり合い。ハルとルシアは言葉を発することなく互いに視線を交差させる。まるで互いの力量を確かめ合うかのように。響き渡るのは鍔迫り合いによる金属音だけ。その光景はまさに一年以上前の時が交わる日の再現。ジンの塔で行われたゲイルとキングの戦いの再来。奇しくも両者の血を受け継ぐ者達が場所を変えながらも再びぶつかり合う時が訪れた。


「―――!」
「はあっ!」


叫びと共に剣が弾け、両者の間に大きな距離ができるのも束の間。一瞬でハルとルシアは再び剣を振りかぶりながらぶつかり合う。共に身の丈ほどもあるのではないかと思えるような大剣。それを感じさせないような速さと技術の応酬。紙一重で剣閃を躱し、寸でのところで剣撃を捌き、引き合うように刃を交差させる。見間違うはずもない、紛れもない剣士の決闘。

そう、これは単純な剣技の争い。ハルもルシアもその手にしているのは鉄の剣。何の能力ももたない基本形態。十剣という魔導士にも対抗できる能力をあえて二人は使用してはいなかった。否、使用しないと決めていた。

ハルにとってこの戦いはシンフォニアでの戦いの続き。十剣を使いながらも鉄の剣のみでルシアに完敗してしまった苦渋の記憶。その頃から自分がどれだけ成長したのか、ルシアに近づけたのか。それを証明することがこの戦いの意味。

見る者の目を奪いかねない剣技の応酬。十剣を使わない以上、この戦いは純粋な剣士としての力量が全て。何交目か分からない剣のぶつかり合いの応酬。その激しさによって火花が散り、洞窟を輝かす。一際大きな火花と金属音が響き渡ると同時に再び両者の剣がぶつかり合い、鍔迫り合いが巻き起こる。互いに一歩も譲らない力の応酬。均衡が崩れることなく二人は剣を弾き合い間合いを取りながら対峙する。それが今のハルとルシアの攻防だった――――


(す、凄い……! まるでハルのパパさんとキングの戦いみたい……でも……)


エリーは一度息を飲みながら改めて対峙しているハルとルシアを見つめる。本当なら声を上げて二人の戦いを止めなければならないも関わらず見入ってしまうほどの戦い。特にハルについては想像を遥かに超えていた。以前の戦いではルシアに手も足も出なかったにもかかわらず互角の戦いを演じている。本当にアキを止めることができるかもしれないとエリーは考えるも同時に得もしれない不安が胸を締め付ける。二人が戦う前から感じる胸騒ぎが収まることがない。それが何なのか分からないまま。エリーにできるのはただ二人の戦いを見守ることだけ。


「…………」


その場にいる最後の四人目。決闘の立会人であるシュダはただ無言のまま二人の戦いを見つめている。その表情は戦士のそれ。とても立会人とは思えないような空気。いつでも両者の戦いに割って入ることができる間合いを保ちながらシュダもまた二人の戦いを分析していた。


(これまでの戦いか、レイヴの力かは分からんが……間違いなくハルはかつてのゲイルに匹敵する強さを身につけている……)


今のハルの実力がかつてゲイルに匹敵するものであることをシュダは剣士の一人として見抜く。本来なら剣士として嫉妬するべきものなのだが今のシュダにはそんな感情に浸っている余裕はない。かつて自分が戦った時とは桁外れのハルの成長速度に驚嘆しながらもシュダには気を抜くことは許されない。


(だが、ルシアの奴には間違いなく余裕がある……あれほどの剣技を見せながらまだ先があるのか……?)


シュダはルシアに改めて視線を向けるもその姿は全く変わらない。息を切らすこともなく、何を考えているのか分からない無表情のまま。対してハルは厳しい表情を見せ、表には見せまいとしているも息が荒くなっているのは隠し切れていない。端から見れば先程の攻防は全くの互角。ハルもまた全力で向かっていったのを疑う余地はない。だが今、明らかな差が現れている。剣の能力ではない、覆しようのない地力の差が。

間違いなく剣士として最高レベルの戦い。にも関わらずルシアにはまだ余裕がある。シュダはその意味を悟り、知らず体が強張る。自らが最高の剣士と認めているゲイルを超える未だ見たことがない領域にルシアが身を置いているのだとすれば。それはかつて初代レイヴマスター、シバ・ローゼスが持っていたある称号を意味する。自分の見通しが甘さを後悔しながらもシュダはただ賭けるしかない。ハルが見せている普段とは違う自信の理由に。


(ふう……とりあえずこんなもんか。ハルの奴、前より強くなってやがる。間違いなくキングやドリューと同じレベルだ)


その手にあるネオ・デカログスを握りしめながらルシアは先の攻防の手ごたえを反芻する。先程までの戦い、ルシアはかつてのシンフォニアと全く同じ強さで剣を振るっていた。それと互角の戦いを演じた今のハルは間違いなくシンフォニアの時とは比べ物にならない程成長している。ここに至るまでの修行や戦い、四つ目のレイヴを手にしたことによるもの。


(だが問題はこっからだな……できれば使わしたくないんだがここで何とかしとかねえと取り返しがつかなくなるかもしれねえし……)


ルシアは内心、大きな溜息を吐きながらもこれから自分が対処しなければならない事態に憂鬱になるしかない。本当ならハルにそれを使わせたくはないのだが今を逃せばその機会は失われてしまう。もし最終戦の段階までそれを持ちこせば第十の剣、正確にはハルのためのTCM、聖剣レイヴェルトが完成しなくなってしまうかもしれない。最悪、その段階で第九の剣を使われれば自滅してしまう危険すらある。まだ見逃すという選択肢がある今の段階で対処しなければ取り返しがつかなくなってしまう。しかしそれはルシアにとっても大きなリスクを背負う選択でもあった。


(だ、大丈夫だよな……? 俺、一応この時点では原作のルシアよりは強くなってるはずだし……マザーの奴を使う気もねえし……そ、そうだ! 自信を持て! ウタとの戦いに比べれば何てことない……はず……)


原作のルシアがこの戦いで一度敗北しているというある意味でアキにとっての死亡フラグ。別に負けること自体は構わないのだがそのまま殺されるのだけは避けなければならない。普段のハルならともかく今のハル、正確には第九の剣なら本当に殺されかねない。ルシアは今までの苦難を思い出しながら己を鼓舞する。全然実感は湧かないものの一応大魔王の称号を持っているのだから、と。


『まったく、いつまで戯れておる気だ。さっさと終わらせてエリーを奪えばよかろう。やはり我が力を見せてやらねば』
『心配するな。お前を使わない限り俺は負けねえ』
『な、何だそれは!? 普通は逆であろう! 何故我を使うと負けることになっておるのだ!?』
『マザー、戦闘中ですよ。アキ様の邪魔になるので黙っていなさい』
『これが黙っていられるか!? 我の存在意義が失われかけておるのだぞ!』
『いいじゃない、中々味があっていいと思うわよ。ちょっとあたしとポジションが似てるけどマザーと一緒なら大歓迎よ』


戦闘中にも関わらずいつも通り騒いでいる石達を無視しながらもルシアは意識を切り替える。これからが本番だと言わんばかりの空気。自分だけではない、ハルの命も危険にさらしかねない戦いを始める狼煙。


「準備運動はこれぐらいでいいだろ、ハル。そろそろお前の本気をみせろ。探り合いは十分だ」


ルシアは肩に剣を担ぎながらハルを挑発する。あり得た未来ではハルから告げられるはずだった言葉を使いながら。本当なら十剣同士での戦いも演じたいところだがそんな暇はルシアにはない。今この瞬間もジェロとジークの戦いが続いているはず。時間をかけ過ぎればジークが殺されかねない。加えてネオ・デカログスとTCMではどうしても性能差がある。五つ全てのレイヴを手にしていればいざ知らず、今のハルのTCMではネオ・デカログスには敵わない。何よりも星跡の洞窟でネオ・デカログスを使えば洞窟が崩れてしまうのは明らか。


「……アキ、一つ約束してくれ。オレが勝ったらこんなこと止めて、一緒にガラージュ島に帰るって」


ハルは一度目を閉じた後、TCMを自らの前にかざしながらアキに告げる。その瞳には確かな決意がある。今日この時に、戦いを終わらせるという覚悟が。


「シンフォニアの時の続きか……いいぜ、お前が本当に勝てたらな」
「……約束だぞ、アキ。もうオレはあの時とは違う」
「そうか……だがお前が俺に勝てたことなんて一度でもあったか?」


瞬間、空気が凍りつく。張り詰めた重圧が全てを支配する。その全てがハルによるもの。ルシアにとっては己を鼓舞し、同時にハルを本気にするための言葉。だがハルにとっては何よりも突き刺さる、認めるわけにはいかないタブー。


ハルの脳裏にいつかの光景が蘇る。幼い頃の記憶。アキとの触れあい、別れ。旅立ち。カトレアとの約束。エクスペリメントでのアキとの再会。ジンの塔の戦い。父との死別。シンフォニア、ドリューとの戦いでの敗北。もうこれ以上負けることは許されない。もうこれ以上約束を破ることはできない。例えアキが相手だとしても、今まで一度も勝てたことがないアキが相手だとしても。


ハルの視界の端に一人の少女が映り込む。エリー。自分が初めて好きになった女の子。同時にいつかの光景が蘇る。エリーの唇を奪ったアキの姿。だがその全てに蓋をし、ハルはその力を解き放つ。


「いくぞ、アキ……オレはお前には負けない!!」


今の己に残された唯一の可能性に全てを委ねることによって。


瞬間、TCMが凄まじい力を生み出しながら姿を変えて行く。十の姿に形を変えるTCMの能力。だが今、ハルが解き放ったのはその中でも異端中の異端。魔剣と呼ばれるレイヴマスターが手にする物とは正反対の属性を持つ狂気の剣。その狂気を示すかのように刀身は黒く、刃は禍々しい形を為していく。力の源である十字架のレイヴは刀身ではなく、まるでアクセサリーのように無造作に柄にぶら下げられているだけ。この形態においてレイヴなど飾りに過ぎないのだと示すかのよう。


『羅刹の剣サクリファー』


十剣中最狂の第九の剣。使い手の闘争心以外の感情を全て封じ、限界以上の力を与えるもの。その代償に使い手の命すらも奪わんとする魔剣。


「くあああ――――!!」


普段のハルではあり得ないような叫びを上げ、ハルはその手に羅刹剣を構えながら動きだす。否、駆けて行く。まるで獲物を見つけた獣同然の反応。あまりの豹変、速さにエリーは声を上げることもできない。あるのは恐怖だけ。自分が襲われているわけでもないのにその殺気に足がすくみ、今にも膝をついてしまいかねない。同時にエリーは戦慄する。そう、あのハルがアキに対して本気の殺気を放っていることに。例えとはいえ、自分がハルに殺されてしまうかもしれないと恐怖してしまったことに。何故こんなことになってしまったのか。あの剣は一体何なのか。エリーに知る術はない。分かるのは間違いなくハルが狂気に飲まれてしまっているということだけ。だがこの場にはルシア以外にもう一人、ハルの状態を理解している者がいた。


(まさか……!? あれがシバが言っていた第九の剣なのか!?)


シュダは己の武器である天空桜に手をかけながらハルの元へと駆ける。もはや立会人であることなどシュダの頭には残ってはいなかった。あるのは最悪の事態に陥ってしまったことに対する焦りのみ。シュダは羅刹剣の存在を他ならぬシバ本人から聞かされていた。使い手を操る程の危険な魔剣。シバであれば制御することはできたものの、それでも長時間の使用は不可能である程危険な形態。今のハルでは到底扱いきれない諸刃の剣。確かにあの剣ならばルシアを倒すことはできるかもしれないがその代償としてハルもまた魔剣に支配されてしまう。その名の通り、止まることのない闘いの鬼、羅刹へとなり果てる。シュダは剣を以て両者の間に割り込まんとするも間に合わない。ハルの速度は常軌を逸している。生身でありながら音速剣を凌駕する身体能力。羅刹の名に相応しい人智を超えた力。その一刀が無慈悲にルシアへと迫る。だがそれは


ルシアの超人的な剣技によってこともなげに払われてしまった――――


「なっ……!?」
「え……?」


その光景にエリーはもちろん、割って入ろうとしたシュダですら足を止めてしまう。まるで信じられない物を見たかのよう。それほどに理解できない戦いが今、目の前で起こっている。


「うああがああああ――――!!」


この世の物とは思えないような叫びを上げながらハルは身を翻し、魔剣を以てルシアを斬り裂かんと跳ねる。そこには一切の容赦も情けもない。今のハルにはそんな人間らしい感情は存在しない。あるのは目の前の敵を葬ることだけ。闘争心だけが今のハルの行動原理。ルシアを両断して余りある狂気の剣が奔る。首筋と言う人間の急所を狙った一撃。


だがその一刀をルシアは完璧に見切り、剣閃によって弾き返す。


「がっ……!?」


自らの渾身の一撃が弾かれ、地面に転がりながらもハルは息つく暇もなく再びルシアへと襲いかかって行く。だが結果は変わらない。ハルの、羅刹剣の攻撃はルシアに触れることはない。その全てが捌かれ、躱され、いなされる。それは決してハルが弱いからではない。今のハルの強さはかつてのゲイル、キングを大きく超えている。例えるならモンスタープリズンを使用したキングに匹敵凌駕する。四天魔王の領域に指をかけるほど。これは単純な事実。今のルシアは剣技のみでそれを退けるだけの力があるということ。


シュダの頭に一つの言葉が浮かび上がる。つい先ほど脳裏によぎった可能性。それが今、目の前の光景の正体なのだと。

『剣聖』

その名の通り世界最強の剣士を示す称号。かつてシバ・ローゼスのみに許されたはずの二つ名。それを受け継ぐ新たな使い手が今、この場にいたのだということを。


(よ、よし……! これならエンドレスの力を使わなくてもなんとかなる!)


ハルの一撃を捌きながらルシアは何とか自分の目論見どおりに事態が推移していることに安堵する。この戦いにおいてルシアが懸念していた問題はたった一つ。


ハルの羅刹剣に生身の自分が対抗できるか否か。


それができるかどうかがこの戦いの分水嶺。もしそれができなければ最悪エンドレスの力を引き出し、エンドレス化するしかなかったのだがルシアにとってはどうしてもそれは避けたかった。エンドレスが直下にいる状況でそんなことをすればどんな影響があるか分かったものではない。シンクレアを使用することすら控えなければならない。故にかつてシンフォニアでの戦いのように鉄の剣のみでハルを抑えることが理想。しかしそれが可能がどうかがルシアには確証が持てなかった。

『大魔王』

ウタとの戦いを通して得た新たな称号。これはエンドレスの力を引き出す者、正確にはエンドレス化を習得したことを意味する物。だがもう一つ、ルシアは新たな称号を手にしていた。

『剣聖』

魔界一の剣の使い手であるウタを倒したルシアにはその称号を手にする資格がある。もっともルシア自身には全くその自覚がなかった。エンドレス化はともかく剣技についてはウタとの戦いの中で成長したものであり、ある意味無我夢中で実感する暇もなかったため。だがその称号を間違いなく自分が手にしているのだとルシアは確信する。

今のハルの力はまさしく本物。羅刹剣ではあるがかつての自分を超える剣。身体能力という点では間違いなく今の自分を凌駕している。剣の速さも重さも全てがハルが上。にもかかわらずルシアはその全てを捌いている。剣技という純粋な技術によって。

いわば今のルシアとハルの戦いは人と鬼、獣の戦い。今、人の剣が鬼を上回っている。単純な、それでも確かな差だった。

だがそれに浮かれている時間も余裕もルシアには許されていない。この戦いは己の強さを見せびらかすための物ではない。ハルに羅刹剣の危険性を伝え、同時に羅刹剣を使っても自分には敵わないことを見せつけ、二度と使わせないためのもの。さらに先を見据えるならシバのTCMではなく、自分自身の剣が必要であることを示すための戦い。

加えて時間をかけることは愚の骨頂。ジークの安否にも加え、ハルの体にも羅刹剣は大きな負担をかける。使用後にはしばらく腕が使い物にならなくなるほど。ルシアにはアナスタシスという回復手段があるがハルにはそんな都合がいいものは存在しない。ならば一刻も早く決着をつけるのみ。


ルシアは大きく体を沈みこませ、ハルの一刀を躱すと同時に剣を薙ぎ払う。その衝撃によってハルの動きに微かな隙が生じる。いかに羅刹剣といえども物理法則まではかえられない。


(――――ここだっ!!)


その隙を見逃すことなど今のルシアにはあり得ない。かつて戦王であるウタを退けたルシアにそんなミスは許されない。剣聖に相応しい一閃がハルに向かって振るわれる。その一刀によってダメージを与え、羅刹剣を解除する。だがルシアの狙いは


まるで鎧のように硬質化した羅刹剣の浸食によって防がれてしまった――――


「っ!? これは―――!?」
『何をしておるアキ、油断するでない!』


今一体何が起こったのか分からないまま、マザーの叱責に反射的に後方に飛ぶもハルの一刀がルシアの肩を切り裂き、鮮血が舞う。既に後ろに飛んでいたことから傷自体は浅いもののルシアは先の事態も合わせて混乱することしかできない。ともかく一端距離を置くことでルシアはようやく気づく。それは


(な、何だよあれ……? まさかあれが全部羅刹剣の浸食だってのか……?)


ハルの身に起きている変化。正確には羅刹剣の柄から使い手を侵食している異形の物体が腕だけでなく、全身に広がって行きつつある信じられない光景。思わず目を逸らしたくなるほどの醜悪な姿。だがその意味をルシアは知っていた。羅刹剣はその浸食によって使い手の力を引き出す。その限界は腕、肩口まで。それ以上は浸食されてはならないデッドライン。もしそれ以上犯されればルシアとて抗うことはできない。他ならぬデカログス自身から教えられた情報であり、事実ルシアもウタとの戦いではそれを見越して制限時間を設けていた。もちろんルシアはそれを計算に入れてハルと戦っていた。先程まで間違いなく羅刹剣の浸食は腕までだった。にもかかわらずあの瞬間、浸食は一気に広がり今は胸まで取り込まれている。先のルシアの剣を防いだのもその一端。鎧のように硬質化した浸食が使い手であるハルを守ったため。だがそれは羅刹剣だけの意志ではない。

アキに負けたくない。それがハルの意志であり、今のハルの戦う理由。もしそれが純粋な物だけであったならここまでには至らない。しかし今のハルにはそれ以外の感情に囚われている。

不安、嫉妬、怒り。人間の負の感情と呼ばれるものと羅刹剣は親和性を持っている。十剣の中でも魔剣であるが故の特性。今のハルは闘争心だけでなく、負の感情にも囚われている。他ならぬルシアの影響によるもの。

幼いころからの劣等感、挫折。憧れ、嫉妬。負けるわけにはいかないという気負い、焦り。エリーを奪われたくないという恐れ。その全てを吸収しながら羅刹剣は成長し、ハルを侵食し続ける。


(どうなってやがる……!? 何でこんな急に……いや、今はそんなことはどうでもいい! 早く何とかしねえとハルが……!!)


今のルシアにその原因を知る術はない。ただ分かることはもはや一刻の猶予もないということだけ。ともかく何とかして羅刹剣をハルから引き剥がさなくては。しかし


「――――――!!」


声にもならない断末魔のような咆哮と共にハルがルシアへと剣を振るう。それ自体は先程と変わらない。だが違うのはその速度と力。


「ぐっ……!!」


ルシアは何とかハルの攻撃を防ぐもそのまま遥か後方まで吹き飛ばされる。肩の傷については既にアナスタシスによって再生されている。にもかかわらずハルの攻撃を捌き切ることができない。つまりそれはハルの、羅刹剣の力が先程よりも増してきているということ。しかもその速度は尋常ではない。既に胸から浸食はもう片方の腕、そして両足へと広がりつつある。代償を得た代わりに力を与える。まさしく魔剣の名に相応しい禁忌の剣。


(ちくしょう……!! これ以上好き勝手させるかよ!!)


ルシアは瞬時に闇の音速剣の形態を取ることで一瞬でハルの背後を取る。もはやなりふり構っていられる状況ではない。ウタとの戦いとは違う意味での絶体絶命の事態が目の前に迫りつつあるのだから。同時に音速剣が光を帯び次の形態へと姿を変える。

闇の重力剣。十剣中最強の物理攻撃力を誇る剣。ネオ・デカログスの中でも周囲に影響を及ぼさない、対人戦に特化した用途に使えるもの。だがその威力は桁外れ。いくら手加減するとしても万が一があり得る故に使うことができなかった策だがルシアはその全てを振り切って重力の剣を振り下ろす。あの鎧にも似た羅刹剣の浸食を突破してダメージを与えるにはこれしかない。完璧な速度と背後を取ったタイミング。

だがそれをハルは振り返ることなく剣で受け止める。まるで後ろに目があるかのような神技。だが真に驚くべきは別にあった。


(まさか……闇の重力剣を受け止めてやがる!?)


片腕で闇の重力剣を受け止める。ビルを易々と崩壊させる程の威力を誇る一撃を受け止めるなどあり得ない。いくら羅刹剣を以てしても不可能なのでは思えるような絶技をハルは見せつける。だがその代償はあまりにも大きい。ルシアは確かに感じ取る。それは骨が軋み、砕けて行くような感覚。自らではなく、剣を受け止めているハルの腕が、支えている足が折れてしまった感覚。にもかかわらずハルは声を上げることも表情を変えることもない。痛みすら感じていない。羅刹となり果てた証。このままではハルの体を砕いてしまう。恐怖によってルシアの動きに躊躇いが生まれ、その隙を見逃すまいとハルの剣が振るわれルシアは再び吹き飛ばされる。すぐさま受け身を取るもののあまりにも理解できない事態の連続にルシアの動きが鈍る。その瞬間、風が全てを覆い尽くした。


それはただの剣圧だった。何の能力もない、ただ剣を振るうだけの行為。だが今のハルのそれは闇の真空剣にも匹敵した破壊をもたらす一撃。咄嗟にルシアは闇の封印剣によって相殺するも余波だけで洞窟は揺れ、辺りにあった水晶が粉々に砕け散って行く。


「きゃあ!!」
「ちっ! 小娘、そこを動くな!」


凄まじい破壊の嵐に晒され、エリーはその場に蹲るしかできない。シュダはそんなエリーを庇うように動くもそれ以上出来ることは何もない。否、できるはずもない。今のルシアはもちろん、ハルを止めることはシュダにはできない。もし割って入ればその瞬間、自分が殺されるだけ。もしそうなれば羅刹剣は血の味を覚え、殺戮を繰り返す。己の無力さを呪いながらもシュダはただエリーを守るだけ。


崩落の煙が次第に晴れ、ルシアはその姿を目に捉える。煙の影だけでも見て取れるほどに変わり果ててしまったハルの姿を。


「ハル…………」


既に体は浸食され、残されているのは首から上のみ。腕も足も羅刹剣に取り込まれてしまっている。瞳には何の意志も感じられない。光もないただの漆黒。人形のような無機質さ。もはや鬼ですらない。ただの戦うだけの化け物。それが今のハル。羅刹剣に身を委ねた使い手のなれの果てだった。


その姿にルシアはただ恐怖する。今のハルの強さは四天魔王にも匹敵する。しかしルシアが恐怖しているのはそこではない。今のハルの姿。それは決して他人事ではない。ウタとの戦いの時、もし羅刹剣に飲まれていれば間違いなく自分もああなっていたのだから。同時に後悔する。初めから羅刹剣などハルに使わせる間もなく倒すべきだったのだと。ただハルの身を案じていればこんなことにはならなかった。己の甘さが、弱さがハルをここまで追い詰めてしまっている。


もし浸食が頭まで及べばもはや為す術はない。その瞬間、ハルという人格は消滅する。洗脳ですらない自我の消失。その事実にルシアは凍りつく。ハルの安否、そしてもう一つ。マザーの洗脳、エンドレスの縛りによって自分もあんな姿になり果てる可能性があるのだと。だがそんな恐れと不安は


『…………無様だな。見るに耐えん。アキよ、早く引導をくれてやれ………』


マザーの言葉によって払われる。ルシアはただマザーの言葉に我を忘れたかのように呆然とするしかない。マザーの言葉自体に驚きはない。マザーからすれば当然のもの。だがそこにはハルを嘲笑するような空気が全くなかった。ただ純粋に哀れみにも似た空気がマザーにはある。普段のマザーではあり得ないような姿。だが以前、一度だけルシアは同じような姿を見たことがあった。

ジンの塔でディープスノーと初めて邂逅した日。キングの持つデカログスがルシアの持つデカログスと融合し、一つになる際に見せた何かを憂うような言葉と態度。その意味を知ることはなく、それでもルシアはようやく己を取り戻す。


今のハルにはネオ・デカログスであっても通用しない。よしんば通用したとしてもダメージが意味がないことは先の攻防で明らか。原作のようにプルーによって正気を取り戻す可能性も恐らくは皆無。今のハルは原作とは比べ物にならない程心も体も羅刹剣に取り込まれている。同じ手段は通用しない。だが一つだけ。ハルを救う方法が存在する。それを行うことによる影響も何もかも捨て去り、ルシアは剣を構える。ただハルを救うために。


「――――――」


ただ剣を以てハルはそれに応える。体の全てを侵食されたことによって速度は闇の音速剣を超え、腕力は闇の重力剣を超えている。人間を超越した鬼。その一閃がルシアの首を跳ねんと振るわれる。瞬きすらできない程の刹那。だがそれを前にしてもルシアは微動だにしない。剣を手にし、瞳は確かにハルを捕えているにも関わらずその場を一歩も動かない。完全な無防備。


「いやああああ――――!!」


エリーは涙を流し、絶叫する。ハルがアキを殺す。そんなあり得ない、あってはいけない幕切れ。それを前にして何もできない自分。走馬灯のように様々な思いが脳裏を駆け巡るも時間は止まることはない。為すすべなく、ハルの剣閃がアキの首を跳ねる――――はずだった。


「――――っ!?」


それが誰の声だったのか。息遣いだったのか。あるのはただ驚愕だけ。羅刹剣がルシアの首に振るわれながらも首の皮一枚のところで止まっているという奇跡。だがそれはハルが自ら止めたわけでも、羅刹剣が解除されたわけでもない。ただ単純に羅刹剣がルシアの纏っている光を突破できなかった。ただそれだけ。


『エンドレス化』


エンドレスの力を引き出し、その身に宿す奥義。ウタの戦気にも酷似した極み。攻防一体の盾であり矛。これを破ることができるのは大魔王であるルシアの強さを超える者のみ。すなわち今の人間界、魔界においてもそれを超える者はあり得ない。例えそれが羅刹剣によって鬼と化したハルであったとしても。


想像だにできない事態にハルの動きが止まる。それこそがわざとハルの剣を生身で受けた理由。絶対に次の一撃を外さないためのルシアの執念。ゆっくりとルシアの剣が動く。エンドレスの力に包まれた鉄の剣はどんな物にも勝る剣となる。


「…………悪い、ハル」


ぽつりと、誰にも聞こえないような呟きと共に終わり亡き剣が振るわれる。その言葉の意味を知ることなく全ては終わる。光のような一閃と共に羅刹剣の悪夢は消え去っていく。


残されたのはかつて世界の剣であった物だけ。ルシアは羅刹剣の狂気と共に、シバの魂が込められた剣を両断する。


それがこの悪夢の終わり、そして剣士としてのルシアとハルの戦いの終わりだった――――


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