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[32493] 遥かなる恋姫の世界へ<18>
Name: パラディン◆e8b4e33c ID:10eb7829 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/25 23:27

公孫賛による虎牢関占拠の三日後、徐州・小沛の一室で軍議が開かれていた。劉備、一刀、関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、鳳統、馬超、馬岱と後に蜀を構成する面々が首を揃えていた。何故、徐州に劉備達が居るのか?それは汜水関での敗走まで遡る。賊軍に貶められた連合軍は董卓軍による一斉攻勢によって敗走し這う這うの体で各々の領地へ帰還した。勅によって賊軍にされた連合を構成する諸侯は戦争どころでは無く、本拠の維持さえ危険な諸侯が大半であったからだ。その撤退の際に多くの諸侯が一度曹操の本拠があり勢力範囲である兗州の各郡で一時の休息を取った。その際に劉備達は徐州牧である陶謙から勧誘を受けた。陶謙は汜水関からの撤退で主力の武将の大半を消失し深刻な戦力不足に陥っていた。何より彼自身が重傷を負いかなり危険な状態でもあった。彼には息子と娘が一人ずつ居たのだが、片や暗愚で片や凡庸ととても乱世を生き延びられる器では無かった。何よりも自身の死後に子供が徐州を治められるとはとても思えなかった彼は、州牧の責務として民の為により優れた人物に位を譲ろうと考えた。そうして白羽の矢が立ったのが劉備であった。

軍師及び一刀はこの申し出に渡りに船とばかりに飛びついた。これを逃せば曹操から独立する機会は無いであろうという判断だった。即日曹操へ陶謙への出仕の旨を伝え引き継ぎを行うと早々に徐州へ向かった。曹操も名目上格上の陶謙の意志を無視する事は出来ずコレを許可したのだ。徐州へ到着した劉備達を待っていたのは陶謙の病没の報せと州牧の印綬の引き継ぎだった。彼は戦傷が原因の破傷風と肺炎の合併症で帰らぬ人になっていた。思いの外早く徐州牧の地位を手に入れた劉備達だったが、世の中はそれほど甘くは無かった。まずは、徐州内は反乱の渦中で完全な無秩序状態、本拠を任されていた暗愚な息子は家中の引き締めも出来ずに反逆されて片田舎に逼塞させられる。凡庸な娘は凡庸なりに反乱鎮圧と秩序の維持を図るも、各地の豪族にはその凡庸さから舐められて命すら危ない状態であった。その為劉備達はまず徐州内の平定を行わなければならなかった。幸いな事に武将には事欠かない劉備達は順調に各地の反乱や不穏分子を鎮圧していった。そうして徐州を平定し終えこれから本格的な内政という矢先のこの報せだった。


「集まって貰ったのは他でもありましぇん。先日届いた公孫賛様からの書簡についてでしゅ」


諸葛亮が議長として噛みながらも公孫賛から送られた書簡を読み上げる。内容は虎牢関を占拠したのですぐさま汜水関に侵攻し挟撃すべしというモノだ。書簡には占拠予定日が記されており、それを信じるならば三日前に虎牢関は占領された事になる。室内の人間は一様に驚きの表情を浮かべる。どんな魔法を使えばその様な事ができるのか。


「スゲェな、虎牢関占領だってよ。なあ、蒲公英」


「そうだねぇ、お姉様」


単純に驚きの声を上げる馬超。それに気の無い返事をする従妹の馬岱。西涼軍の彼女達が劉備達の下に居るのは単純な話、帰るに帰れないからだ。帰還の最短ルートは官軍の本拠である司隷、迂回するにも土地勘が無い上に長躯になる。補給の当てのない中でそんな無謀な事は出来ない。曹操の下に留まる選択肢もあったが、色々貞操の危機を感じた馬超は誼を通じた劉備達の誘いを受けて彼女達に随行した。


「虎牢関を占領などとは馬鹿げている」


「然り、これは董卓軍の謀略でしょう」


一方徐州生え抜きの文武官達は一様に荒唐無稽と切って捨てる。彼らの反応は最もだ。あの董卓軍の裏をかいて虎牢関を占領する等非現実的だ。占領自体は天運とも言える運が有れば可能かもしれないが、占領はできても維持は出来ない。虎牢関は敵地のど真ん中、その中で補給を確保するのは不可能だからだ。


「朱里ちゃん、雛里ちゃん、如何思う?」


劉備は軍師達に水を向ける。


「はい、まずは、この書簡が董卓軍の謀略ではないか、という疑いですがそれは皆無と言って良いと思います。何故なら、皆さんが仰るように内容が非現実的だからです。誘き出したいのならばもっと現実的な内容を書くでしょう」


諸葛亮は場の疑念を一切否定した。


「よって、この書簡は紛れも無く公孫賛様から送られた物であり、内容も事実であると考えられます」


諸葛亮から鳳統が引き継ぎ書簡を肯定する。軍師の肯定の意見を受けて場は再び騒がしくなる。


「静粛に!!!静粛に!!!」


騒々しい場を治めようと諸葛亮は声を張り上げる。それでも場の喧騒は治まらない。未だに己に伴わない威厳に諸葛亮は若干涙目になる。


「静まれ!!!!」


そんな諸葛亮に一刀は助け舟を出す。机を強く叩き強引に静まらせる。その一刀に向けられる視線は一様に非好意的な視線。明らかな敵意の視線に関羽等が睨みを利かせる。不穏な空気が醸成される。その空気を敏感に察知した劉備が取り無しに入る。


「愛紗ちゃんそんなに睨まないの。皆も朱里ちゃんの言葉をちゃんと聞いて」


彼女の一言で場の空気は一先ず治まる。それを察した諸葛亮は本題に入る。


「そ、それで本題なのですが、この書簡に対して私達がどの様に対応するか、それに付いて議論したいと思います」


「無論、無視に限る」


「然り」


「そもそも、援軍を送る余力などないわ」


周囲からは一斉に要請の拒否の意見が上がる。


「それでは白蓮殿が孤立するではないか!!!」


「そうなのだ」


一様の拒絶の意見に関羽と張飛が反発する。部下は兎も角、公孫賛には恩がある彼女達は見捨てる等という不義理は承服しかねた。そして、それは劉備陣営の総意であった。軍師達や一刀は場合によっては見捨てるも止む無しと思わないでもないが、それでも救援を出すべきであると考えていた。仮に見捨てれば劉備の心に深い傷を負わせるばかりか、彼女の名声に大きな疵を付けかねない。公孫賛と劉備の友誼は意外に知られた事実で、徐州牧にまでなった彼女が公孫賛を見捨てればその仁徳に疑いの目が向けられるだろう。何よりも折角安定してきた徐州が大混乱になる。安定しているとはいえ今の徐州は火薬庫同然にあちこちで火種が燻っている。まずは、劉備達徐州政府内での対立だ。現在の徐州政府内は大きく分けて三つの派閥に別れている。劉備と陶謙の遺児である陶商と陶応の三人だ。表向き劉備に忠誠を誓っているが隙を見せれば実権を奪おうと虎視眈々としている。加えて各地の豪族も大人しいが隙をみせればまた反乱を起こすのは必定だ。そもそも、劉備達は逆賊であり正式な徐州の統治権は持っていない。その支配に正当性は無く、武力による実効支配しているに過ぎない。詰り、何時でも反乱を起こされる危険を抱えている状態なのだ。劉備達が実効支配できるのは武力に加えて民草からの支持があるからだ。支持は劉備の仁徳に依存している。その仁徳を失うという事は支配力の低下を意味する。そうなれば徐州は再び乱れに乱れるだろう。


「しかし、援軍を送る余力があるのか?」


敵対派閥の長である陶商が小馬鹿にした風に言い放つ。彼からすれば劉備達の影響力を殺ぐ絶好の機会だ。これで援軍を送らなければ彼女の仁徳を貶め、援軍を送るならその武力を理由に関羽等を送り込める。これで劉備配下の武将が戦死すれば劉備達の影響力を殺げる。


(目障りな周囲の奴等を消せば桃香は俺のモノだ)


暗愚な陶商は身の程知らずにも劉備を狙っていた。彼女の美貌と豊満な躰を己がモノにしようと企んでいたのだ。眩い彼女を己の手で穢したいという下種な欲望を抱いてしまっていた。


「御兄様の仰る通りです。今の徐州に援軍を送る余力があるとは思えません」


陶商に賛同するのはもう一方の敵対派閥の長である妹の陶応。下心しかない兄とは違い彼女は戦力の低下による徐州の治安悪化を恐れていた。劉備達に思う処は多分にあるが徐州の為を思い彼女は劉備達を受け入れて来た。敵対派閥と劉備達に認識されている彼女だが、彼女自身は別段敵対している訳では無い。敵対しているのは彼女を中心に派閥を構成している豪族や官吏達だ。彼女は自分が州牧の器では無い事は誰よりも自覚していた。能力も、カリスマも、皆無な自分が徐州と言う広大な土地を治めるのは不可能であると理解していた。彼女は本来であればこの場に居る事すら本意では無いのだ。能力的には凡庸でもその人格までは平凡では無かった。彼女が担がれてまで徐州政府に参加しているのは兄と劉備の監視の為だ。暗愚な兄の暴走を抑えると同時に劉備達の勝手を防ぐために。

彼女は劉備に不信感を抱いていた。正確には劉備の仁徳を信じ切れずにいた。理由は彼女の配下達にある。劉備の配下達は明らかに徐州を踏み台としか見ていない、陶応はそう感じていた。天下に雄飛する為の拠点と考えている。それは良い、問題はそれを隠している事だ。隠すという事は疚しい事をしているという自覚があるという事だ。これは看過できる事では無い。彼女とて凡庸とはいえ道理は弁えている。綺麗事を並べ立てる心算も無いし、絶対の正義を主張する心算も無い。しかし、為政者は己の義を曲げるべきでは無い、と思っていた。敵を欺いても己を欺くべきでは無い、と。もしも、劉備が陶応の思っている通りの理想的な人物であれば主君として膝を屈するのは構わない。しかし、そうでないのなら陶応は屈する訳にはいかなかった。仁君を騙る不誠実な人間に徐州の民を委ねる事は州牧の娘として認め難い。父親が誤ったのなら娘が正す必要がある。


「しかし、ここで応えなければ白蓮が占領した意味が無くなる」


「その為に徐州を混乱させるのか?」


一刀が尚も援軍を訴えるが陶商の言葉に口噤む。劉備達は送らなければ拙い。もしも、袁紹や曹操が援軍を出して董卓軍を撃滅した場合は名声も恩賞も絶望的になる。下手しなくても徐州牧の地位を取り上げられる事は確実だ。劉備はソレに従うだろうが三国志の知識を持つ一刀としては承服できない。例え董卓を排して袁紹や曹操が皇帝を握っても漢が滅びるのは変わらない。誰一人として譲る気が無い以上乱世は絶対なのだから。


「送るしかありません」


陶商と一刀が睨み合う中で諸葛亮は珍しく断固とした態度で断言する。


「これは恐らく最後の好機です。これで董卓軍を討てなければ我々は逆賊として処断されます。亡き陶謙様の遺児であり私達に与してしまった皆さんも同様に」


諸葛亮の言葉に徐州生え抜きの文武官が硬直する。


「もしも、私達を売って命を安堵し様と考えているのでしたら甘い認識といっておきましゅ。董卓陣営は確実に見せしめとして反乱に与した者達を悉く処断します。少なくとも皆さんはもう命は無い様なモノと考えてかまわないでしゅ」


彼女の言葉に場に沈黙が降りる。その態度がその思惑を雄弁に語っている。


(こいつら・・・・・・・・)


徐州勢の浅ましい考えに一刀は怒りを募らせる。


「ならば、出さねばなるまい。しかし、余力が無いのも事実。削りに削り最小にして尚且つ向こうに恩を着せなければならん」


一刀の怒気等軽く無視して陶商が話を進める。彼からすれば思惑が知れたところで問題は無い。知った処で劉備達に何が出来る訳では無いのだから。


「そこでだ、私としてはそこの天の御遣い殿を頭に関羽、張飛両将軍に加えて軍師である鳳統殿、兵士百人を派遣する事を提案する」


陶商の提案を聞いて一刀を始めとして劉備陣営の大半は即座に意図を察する。余りにもあからさまで呆れる程だ。しかし、この提案、あからさまでも非常に断り難い。それを察した軍師陣は顔を顰める。


「天の御遣い殿は今上り調子ですからね。そこに関羽将軍と張飛将軍、それに鳳雛と名高い鳳統殿がいれば戦力としては十分でしょう。何よりも顔である御遣い殿がいればそれだけで公孫賛殿に此方の誠意を示せます」


陶商の言葉の通り、この面子なら十分誠意を示せる。余力の無い中でも最大限の戦力を送ったと主張できる。何せ、劉備と同等の価値を持つ旗頭である一刀を送っているのだから。関羽と張飛は共に一騎当千の武将で鳳統の才は防衛戦でも戦闘指揮で活躍するだろう。


「駄目だ!!!御主人様をそんな死地に送る等!!!」


「ならば、関羽将軍が護ればいいでしょう?それともその自信がありませんか?」


「なにィ」


ギリギリと歯軋りして陶商を睨み付ける関羽。


「魯迅さん、如何思われますか?」


睨み合う中で諸葛亮は会議に加わらず一人背後で暇そうにジャグリングをしていた魯迅に意見を求めた。何故ジャグリング等しているかと突っ込む者はいない。そんな事をしても意味が無いと全員思い知っているから。


「んんん、そうねェ・・・・・・まあ、確かな事はその面子で派兵したらそこの御馬鹿さんとうしょうの思惑通りになるわね。多分、向こうとしても派遣されても困るわよ?求めているのは挟撃であって自分達の所に来てほしい訳では無いから。口振りから推測して兵糧はあっち持ちの心算でしょう?ハッキリ言えば迷惑ね。着いて早々に捨て駒代わりに特攻させられるわね」


魯迅の返答は想像を超えて辛辣なモノだった。


「関羽や張飛を役立つかって言われたら間違いなく隊長や副長は役に立たないっていうわね」


「何だと!!!私達が弱いとでも言う心算か!!!」


「そうじゃないわよ。あんたと隊長達じゃ戦闘論理が違いすぎる。あんた達は正々堂々敵を討つとか好きだけど隊長はその真逆よ。夜討ち朝駆け、不意打ち、騙し討ち、卑怯卑劣な事しかしないわよ?絶対に真っ向勝負なんてしないし、残虐非道もなんのそのって感じ。あんた達絶対にそれに文句言うでしょ?そんな味方求めてないのよ。隊長が求めているのは命令を確実にこなす将兵であって、自己主張する武人や武将ではないのよ」


魯迅の発言に絶句する面々、臆面も無く卑怯者であると言ってのけた事に呆気に取られる。


「特に種馬さんって最近調子こいてるし、そのままで参加したら行動に文句言う前に縊り殺されるわよ?隊長って普段は伯珪様以上の御人好しで馬鹿みたいに寛大だけど、戦闘中は逆に馬鹿みたいに狭量で容赦無いから。雑魚が図に乗った勘違いを正すなんて面倒な事はしないわよ?下手な口答えしたら種馬さん程度の実力なら瞬殺されちゃうし」


結論として一刀を向かわせる事は下策と言う事になる。ならば如何するか、代案を巡って議論が続く。不意に一刀は思い付いたままに口にした一言が議論を収束させた。


「俺が駄目なら陶商殿と陶応殿ならどうだ?」


その言葉に騒々しさが止まる。一斉に向けられる目は侮蔑と嘲笑の視線。完全に馬鹿にしている視線。それはそうだろう、そんな政治的な意図丸出しの案を彼らが呑むはずがない。そもそも、二人では要件を満たさないではないか、徐州勢の面々はそう考える。しかし、徐州勢の考えは魯迅の発言で吹き飛ぶ。


「いんじゃない?一応、前州牧の遺児だし」


魯迅の思わぬ肯定に陶商と陶応は驚きの声を上げる。二人にとって思わしく無い流れに成り始める。


「ちょっと待て、私に軍事的な才は無いぞ」


不穏な空気を感じた陶商が己では不足であると主張する。


「それは私も同じです。私は経験すらありません。そんな人間が援軍に来ても」


陶応も未経験を理由に不適格を主張した。しかし、両者の主張を魯迅が真正面からぶった切る。


「問題無いでしょ。必要なのは徐州の意図を示す事なんだから」


劉備達からすれば二人を送るのに問題は無い。寧ろ、願ったり叶ったりだ。最大の問題である公孫賛側だが魯迅が問題無いと太鼓伴を押したのなら躊躇う必要はない。


「決まりだな、白蓮への援軍は陶商と陶応の二人に行って貰おう。兵力はそうだな、二人の私兵を全て連れて行って構わないだろ?」


一刀の意見に諸葛亮が肯いて同意を示す。合計しても二千に届かない数だが、今の徐州ではキツイ数だ。それでも公孫賛への義理を果たせる事に比べれば必要な痛みと割り切れる。何よりも有力派閥の二人が同時に徐州を離れるという事は劉備達の権力基盤を強固にする機会と言える。その点では収支的にはプラスと言えるかもしれない。瞬時にそう計算した諸葛亮や鳳統はだからこそ気が付かなかった。魯迅が意図的に言葉を変えていた事に。彼女は敢えて“意図◍◍を示す”と言って、誠意◍◍と言う言葉を使わずミスリードした事に。魯迅が協力的であり続けた為に、善良な彼女達は彼女が真面であると味方である誤解していた。残念な事に彼女は李信の配下であり、大隊に所属する隊員である。詰まる所、鳳説の様な全裸を肯定するような輩であるという事を失念していた。


(さてさて、この捨て子達を隊長は如何料理するのかなぁ)


魯迅は内心で今後起こるだろう展開に胸を高鳴らせる。劉備達は誠意が伝わると考えているが魯迅の予想ではそんな風に李信達は捉えない。彼らはこう考えるだろう。


――――――――――塵捨て場代わりにしやがった


幾ら陶商達が前徐州牧陶謙の遺児であろうと、彼らは何の実績も無い単なる荷物に過ぎない。正直な処公孫賛達にとって誠意等何の意味も無いのだ。彼女達からすれば軍を動かして挟撃に動いて貰わなければ滅亡する。勝算こそあれ命を賭けているのだ。その命賭けの鉄火場に厄介者を捨て駒同然に送り付けられれば如何な公孫賛でもキレる。これで戦後の両者の対立は決定的になる。


(そうすれば見えるかもしれない。あのりしんが種馬に何を見い出したのか、を)


彼女はただ己の欲望を満たす為に暗躍を続ける。








――――――――――虎牢関占拠・八日目


「公孫賛に告げる。貴様は天意に逆らい、天下を乱す逆賊である。貴様は己が地位と名声、そして我が身可愛さに未だ反逆を続けている。貴様に一抹の良心があるのなら門を開けて降伏せよ。今降伏すれば貴様の配下と兵の命は安堵してやる」


占拠から八日間、董卓軍と公孫賛軍は対峙したまま只管に言葉合戦に終始していた。言葉合戦とは言葉によって敵を揺さぶり士気を下げたり内応を誘ったりする戦術だ。攻城戦は基本的に攻撃側が不利なので往々にしてこの様な手段で内側から切り崩す戦術が取られる。この手の戦術は敵が兵を良く掌握している状態では効果が出るのに時間がかかる。被害の少ない戦術だがその分時間を喰うのだ。現状で董卓軍はあまり悠長に攻城戦をしている余裕はない。それなのに言葉合戦に終始しているのは単純な話、攻められないのだ。戦力の大半は兗州や冀州方面に展開しており、攻城兵器も全て其方に回していた。その戦力の招集、厳密には戦力の再配分と攻城兵器の準備の為に少なくとも一ヶ月攻城戦は出来ない。虎牢関前に陣取ったのは汜水関の後背を脅かされない為の抑えであり、攻めないのは冀州兗州方面で有事の際に戦力を抽出する為である。


「まあ、乗る訳ないわよね」


遥後方で虎牢関を睨みながら賈詡は呟いた。ダメ元の言葉合戦に結果など期待していなかった。そもそも、後方に潜伏して虎牢関を占拠維持する様な軍勢がその程度で揺らぐ筈も無い。


「攻城兵器の準備と戦力の再配置まで約一月どうするか」


初日の狂乱等感じさせない冷静さで思考を重ねる賈詡。交替要員であるロリコン軍団が来れば彼女は一度汜水関に戻り戦力の再配置を決定しなければならない。その戦力の再配置を決める為の大前提である戦略の段階で彼女は迷っていた。虎牢関を落すか、それとも抑えを置いて他の諸侯を先に潰してから後から捻り潰すか。公孫賛がどの程度の戦力なのか不明な為に必要な戦力の概算も出せない。試しに一戦するのが常道だが、董卓軍はその戦力すら惜しい状況だ。


(現状判明している戦力は恋を打倒できるだけの武将を備えているという事だけ。問題は恋よりもどれだけ上なのかなんだけど)


推測に推測を重ねても意味は無いと知りつつも重ねるしかない賈詡は思考する。


(辛勝だったのか、それとも考えたくないケド恋を圧倒したのか)


呂布を圧倒する様な武将なら生半可な戦力は鴨になるだけ、その場合全力の力押しで落とさなければならない。下手に戦力を拘束されるより一度冀州や兗州方面の軍を下げてでも潰す必要がある。



賈詡が悲壮な覚悟を決めている一方で虎牢関の公孫賛は何をしているのか。


「これは旨いな」


優雅な昼食の最中であった。卓の上に並んでいるのは工夫の凝らされた料理の数々だ。


「ケツギョのすり身と鶏卵を混ぜ合わせて燻製にしたものです。一度燻製にした後に笹の葉で包み再度燻す事で長期の保存が可能になりました。今の所半月の保存に成功しています。料理法としては炒める或いは煮込みが適しているかと」


「へえ、そんなに保存できてこの味か。これも採用だな」


公孫賛の好評を受けた魚肉ソーセージ擬きの燻製の欄に判が押される。次に彼女が興味を示したのは炒飯、ハムの欠片と韮や人参が入っている庶民的な料理だ。


「これも美味いな」


「糒と塩漬け肉の燻製、日干し塩漬け野菜の炒飯です。糒は一年、肉の燻製は四か月、野菜は一年持ちます。塩分の補給はこの食事十分かと」


公孫賛が食べている料理、それは全て保存食を使ったモノ。新しい保存食の評価と陣中食の選考会としての昼食だった。軍事において食事というのは極めて重要な事柄だ。旨い食事はそれだけで兵の士気を上げる。更に保存食のレパートリーが増える事はそれだけ飢饉や旱魃に対する抵抗力が付くという事になる。もっと言ってしまうと、保存食の生産と流通は巨大な経済活動を生み出す。その経済活動のイニシアティブを取れば膨大な富と名声を得る事が出来る。


「寿徳様が提案されました苗代法によって栽培効率が八倍に跳ね上がりました。ゆくゆくは米を主穀物に据えて行きたいと考えております」


米、麦、玉蜀黍の三つは現代において三大穀物と言われているが実は米は頭一つ抜けて優れている。米は耕地における単位当たりの収量が他の二つよりも優れている上に、水田という耕地を最大効率で使用できる栽培が可能なのだ。水田農法は唯一連作障害の起らない農法であり、休耕地等で土地を遊ばせる事無く栽培が出来る。江戸時代に日本が爆発的な人口の増加を受けながらそれを維持できたのは、日本が水田を主農法としていたからだ。水が潤沢にあるという土地柄もあったが大きな平野が乏しい日本で、三千万以上の人間を養えたのは間違いなく水田農法のお陰だ。


「苗代法?聞いたことが無いな」


李信が提案したと聞いて興味を持つ公孫賛は文官に尋ねた。


「はっ、苗代法というのは従来では直に田畑に籾を蒔いていたのですが、それをある程度生育させて苗の状態にしてから植える農法です。この農法の利点は主に二つ。一つは従来ですと無駄になっていた籾が無くなり必要量が減った事で相対的に米を多く得る事が出来る点。二つ目は規則的に上る事で田畑を効率良く使え、収量予測が立てやすくなった点です」


文官の説明に肯きながら公孫賛は李信の天才振りに感嘆するしかなかった。聞けば本当に簡単な事だが、それを思い付けるかどうかが凡人と天才を分けるのだ。苗代法を考え付いた人物の名は歴史上しられていないが、考案した人物は偉人として教科書に載っていただろう。


「天才だな」


公孫賛の呟きに同意する文官。この場に李信がいれば居た堪れないだろう。何せ苗代法は李信が考えた訳では無く現代では常識だったのだから。しかし、気付いただけオリ主の面目躍如といえる。同じ現代知識を持つ人間でも気が付かない一刀もいるのだから。両者の差は結局の所その環境に拠るものだろう。一刀の場合は周囲が大抵の事を彼自身よりも効率良く熟してしまう。そもそも既に“天の御遣い”という至上の価値を持っているので己の価値を示す必要が無かった。対して李信は常に価値を示さなければならない立場だった。文字通りの命賭けで当たらなければならない。完全な成り上がりである彼は他者を黙らせるだけの実績を上げなければならなかった。尤も遣り過ぎた感は無きにしも非ずだが。


「王佐の才とは彼の方の事を言うのでしょう。そして、彼の方を従える伯桂様こそ次代の王に相応しいのでしょう。これぞ天意」


御世辞でゴマ擦る文官の言葉を聞き流しながら公孫賛は李信の実績を思い返す。“最初の大隊へんたい”の影に隠れているが彼個人の功績は実は多い。鐙、拷問火、炙り出し、そして今回の苗代法と四つもある。たった四つとも言えるが影響の大きさを考えれば十分だ。特に内三つは文字通り世界を変えたのだから。大陸辺境を悩ませていた遊牧民族を文字通り完全に屈服させた。鐙は軍事的に、拷問火は心理的に、炙り出しは信用という商取引に最も必要な要素を提供して経済的に取り込んで屈服させた。最早、幽州に接する遊牧民族は二度と牙剥く事は無いだろう。そして、苗代法が普及して大陸、特に南部の生産性が飛躍的に向上すれば幽州だけでなく涼州も同様にできる。


「天意か・・・・」


皮肉気に呟く公孫賛。的を得ている表現だ。現代知識と三国志の知識、そして原作知識の恩恵を与える彼はある意味で“天の御遣い”と同類だ。現状齎した恩恵の大きさを考えれば寧ろ李信の方が“天の御遣い”だろう。そして、これから齎し得るだろう恩恵も勘案すれば本当に李信の方が“天の御遣い”らしい。ゴマ擦っている目の前の文官もその言葉には半分本音が入っている。当の本人がその天を憎悪しているだから公孫賛が皮肉に思うのも無理は無い。





あとがき

最後まで読んで頂き有難うございます。転生人語第十八話如何でしたでしょうか。

今回は幕間というかインターバルというかそんな感じの回でした。劉備さん達は史実に基づきドサクサで徐州領有。内部に不穏分子を抱えつつも順調に地盤を強固にしています。白蓮さんは御食事をしつつ幸平君の成果を確認しました。いずれはこの辺りの事も書かないと。



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