「呆気ない物ね」
この騒ぎの元凶である董卓軍の軍師、賈詡は狼狽えるだけの連合軍の醜態を見て溜息を吐く。自ら仕掛けた事とはいえ何と無様な事だろうか。その傲慢によって自らが救われるのだから文句を言うのは贅沢な事なのだが。
「全く以て無様ですね。まあ、この程度の輩であった事は幸いでしょう。少なくない諸侯が良く民を掌握している様ですが、その諸侯もここで露と消える。これで我等の天下は揺るがぬモノとなる」
賈詡の独白に答えるのはロリコン軍師李儒。この策謀の総指揮を執った人物であり、勲一等が間違いない人物である。どんな要求をしてくるか賈詡は今から頭が痛い。ドサクサで亡き者にしようと何度も企んだが全て李儒は叩き潰している。犬猿を通り越した関係とはいえ、その能力は互いに認めている。賈詡は董卓の為、李儒は董白の為、少なくともこの辺りの理由は双方とも信頼できた。そして、董卓と董白の姉妹関係が一体不可分である以上表向き仲違いはしない。それこそ、秩序が安定して董卓の天下が確定するまでは双方共にその能力を使い潰し利用し尽す気だった。
「栄えある我等による新秩序の前菜として眼前の連合を喰い尽すと致しましょうか。董卓様、下知を」
李儒は上座に座る美少女へ視線を向ける。一言も喋らない彼女の眼には隠し切れない殺意と憎悪が湛えられていた。ロリコンとしては惜しいと歯噛みする程の容姿的微妙さを持つ美少女。ロリにしては若干育ちすぎていて食指が動かないが、もう少し幼ければ狂喜乱舞したであろう程の美少女振り。彼女と瓜二つと言われる妹のロリっぷりからすればそれを想像するのは容易い。二人ならべればロリにとっての楽土が顕現すると言わしめた可能性。董仲頴、洛陽にて皇帝を握る現中華最高権力者にして、魔王と呼ばれる事になる少女である。李儒に促され董卓はその唇から罪を重ねる。抑えきれぬ殺意を眼前の変態へ向けながら。
「命令します。陛下に刃向う逆徒、正義の名の下に殲滅しなさい。一人残らず、鏖にしなさい。この戦いで全てに決着を」
「御意」
「解ったよ、月」
親友の内心の苦渋を理解する賈詡は辛そうに、李儒はこれから得られるだろう栄光の日々を思い悦に顔を歪めながら答える。董卓の下知によって董卓軍は動き出す。汜水関の門が解き放たれ軍勢が吐きだされる。先鋒は“神速の張遼”と“猛将の華雄”、続いて二軍を高順等呂布分遣隊、徐栄、張済、李儒、李粛、最後の三軍を牛甫、李傕、樊調、董卓、賈詡そして皇帝劉弁。関からでると淀みなく隊列と陣形を整えていく。この辺りの実戦慣れは辺境の涼州ならではといえるだろう。陣形を維持したままに董卓軍は行進を開始する。
董卓軍の出撃は当然の様に連合軍にも届いていた。ある程度の頭のある人物であればこの状況は察し得た。皇帝の勅とこの出撃、意図は容易に想像が付く。
「官軍として賊軍を討つという訳か。しかし、如何いう事かしら、私達の“網”にはこの情報は入っていなかった」
斥候からの報告を聞いて曹操は焦るでもなく余裕の態で思考する。実は内心かなり動揺して焦っているのだが、それを表に容易に出さないからこその覇王だ。右往左往している劉備達と比較するとその差はより際立つ。劉備達の反応こそが本来であれば人として正しいのだが。
「まさか、私達の監視網を潜ってこの様な策を成しているとは。申し訳ありません!!華琳様!!この筍文若の不手際で御座います」
「桂花、別に謝る事では無いわ、ここに至っては相手が一枚上手であったという事。これ程の謀略を隠し通した董卓側が優れていた。それだけのことよ。重要なのはこの死地において取り得る策は何かという事よ」
平伏し顔を歪ませる荀彧に対して微笑ながら許しを与える曹操。賊軍に定められ完全な窮地に追い込まれて尚、微笑むその余裕は場の人間の心を支える。
「曹操様の言う通りだ。今は、この死地を脱する事に全力を傾けるべきだ」
曹操の余裕に一刀も同調する。彼からすれば漢王朝というは滅ぶ王朝であり、その権威等恐れるに足らぬモノであった。曹操と劉備、二人の英雄を有する自分達が一致団結すれば敗ける事は無い。だからこその余裕であった。それを知らない曹操は一刀の冷静さに驚きの表情を浮かべる。
(たんなる屑かと思ったけれど、中々に肝が据わっている様ね。評価を改めましょうか)
曹操は一刀の評価を大きく上げる。彼は事の重大さを正確に理解していないだけなのだが。
「こんな状況だ。今は互いの感情を抑えて一致団結すべき時だ。そうですね、曹操様」
「ええ、その通りよ。北郷一刀、今まさにここは死地、己の器が試される時よ」
曹操の号令一下即座に対応が練られる。しかし、董卓軍は既に動いており時間等雀の涙ほどの猶予しかない。
「まずは、春蘭、秋蘭、全兵に臨戦態勢を取らせなさい。いいえ、私がでましょう。珪花、この場においての全権を委任するわ。対策を諸葛亮等と共に即座に練りなさい。関羽達は私に続きなさい、劉備!!!北郷!!!ここで大人しくしてなさい」
即断即決、躊躇い無く権限を部下に与えつつ動き出す曹操。この程度の窮地、乗り切れなくて何が覇王か、何が覇道か、そう己を鼓舞する曹操の覇気に当てられて部下達は動き出す。
覇王曹操の動きと同じく小覇王孫策もこの窮地に即応していた。抜群の勘で聞いた瞬間に兵に臨戦態勢を取らせた辺り戦勘は曹操を凌ぐといえるだろう。
「冥琳」
「ああ、この状況で戦うのは愚策だ。逃げるに限る」
形勢不利を理解した二人は語るまでも無く互いの意志を通わせる。
「捌きながら徐々に後退しよう。予想していたとは言え、どうやら董卓が一枚上手だったようだ。まさか、洛陽の魔窟を制圧できるとはな。」
周瑜とてこの事態を想定しなかった訳では無い。その可能性が極めて低いと考えていただけだ。褒めるべきは董卓達の手腕だろう。未だ蔓延る宦官や外戚等を全て抑え付けて今回の勅諭を発布したのだ。その政治手腕は瞠目せざるを得ない。因みに宦官は黄巾の乱後に袁紹らに滅ぼされたが、あくまで勢力としての宦官であって役職としての宦官は健在である。無くしたくても無くせないのだ。仮に宦官を全て廃せばその瞬間に王朝の行政機能は止まる。外戚も同様だ。徐々にだが彼らの力を殺ぎつつその役割を補てんしていくしか無かった。一朝一夕でできる事では無い。宦官も外戚もソレを理解しているから表向き董卓達に服従しつつもそれらの動きを妨害していた。
曹操も、袁紹も、袁術も、他の有力諸侯もそれを知っていたが故に今回反董卓連合を組んだのだ。リスクとして低いと判断したが故に。ソレが何時の間にか覆された。反董卓連合が組まれた僅かな期間に組織を補填せしめた?そんな事は不可能だ。それ程までに際どい状況であるのなら袁紹や袁術は兎も角、曹操が参戦する事は無かっただろう。なら答えは簡単だ。曹操も、袁紹も、袁術も、有力諸侯も偽情報を掴まされた、ただそれだけの事。
「覚悟を決めろ、雪蓮。董卓軍は完全に勢いを付けている」
「孫呉の興亡この一戦に在りって事ね」
親友の厳しい言葉にニヤリと笑って応える孫策。この窮地すら楽しむかのような足取りで孫策は陣幕をでた。
董卓軍を視界に収めた瞬間、最前線に居た袁紹軍は崩壊した。袁紹軍の将兵は冀州出身者が大半を占める。名門袁家が地盤にしているだけあって、漢の儒教文化風習は強く彼らに染み着いていた。そんな彼らにとって賊軍にされる事は死にも等しい。賊軍に貶められるという事はありとあらゆる権利を剥奪された事と同じだからだ。何をされても文句を言えない。財産も、尊厳も、命も、全ての価値が否定され滅ぼされる。
儒教、本来であれば儒学という学問である筈のそれは漢王朝によって思想にまで高められた。正史においては孔子が唱えてより、営々とその後継者達によって捏ね繰り回された東アジア最大の思想。現代でも本場では未だ現役であるという末恐ろしい思想だ。この儒教とはどういう思想か、一言で言えば弱肉強食である。儒教とは自然の摂理を始めて明文化したモノである。余計なモノを交えずに自然のままだからこそ、現代でも尚通用するのだろう。
儒教において徳という概念は非常に重要視される。徳治主義を標榜し、王は徳を持って民を治める王道が政治形態として最高であると説く。徳とは正義と言い換えても良い。では、この徳とは具体的にどう言うものか。実は儒教は最も肝心なこの部分を殆ど説明していない。仁・義・礼・智・信の五常が徳と説明しているが、抽象表現で何ら具体性は無い。そして、最も重要な事はどの程度の徳を持っていれば王として相応しいのか、その定義がすっぽり抜け落ちているのだ。五常の徳性は真正の悪人を除けば誰でも多かれ少なかれ備えている。多くの人間が備えるその性質の中でどれくらい備えていれば王足り得るのか?徳の優劣は如何にして判断するのか?
無論、天才たる孔子がそれに気が付かない筈が無い。上の疑問に対して孔子が出した答え、それが易姓革命という概念だ。この概念、ざっくり説明すれば王に徳が無ければ別の有徳者が立ち上がり、その王を排して新しく王に着くという考えだ。己に徳が有ると自称し他全ての自称有徳者を殺せば自動的に王になる。自分以外に王を名乗る事が出来ない様に人々を抑圧し制圧する。何の事は無い、単なる暴力による王権だ。王道を語る儒教はその実、覇道による王権の樹立を認めているのだ。否、覇道でしか王権は樹立できないと言っているのだ。
儒教というのは孔子という男が乱世において世の在り方について迷い惑った果ての答え。理想を掲げながらも現実に敗北した残滓なのかもしれない。マイナスイメージを抱くかもしれないが素晴らしい点もあるのだ。“絶対的権力は絶対に腐敗する”という至言もある様に王朝は必ず腐敗する。易姓革命の概念はそう言った状態での反乱と革命を容易にする。これが他の文化圏、特に西洋だと簡単にはいかない。王権神授説、王権は神から授けられたモノとされた時代では、王への反乱は神への反乱になる。信心深い民にとっては反乱等不可能なのだ。
今の所、この事実を知っているのは異端足る李信だけである。同じ現代人でも一刀はこれに付いて考えは及んでいない。これは別に彼が馬鹿だとか、愚かだからという訳では無い。彼が高校生であったから、イケメンであったから、唯それだけに過ぎない。生憎な話だが、現代日本の高校生で、チンコがデカい上に男前の男子高校生が、青春の輝きを教養などに割り振る訳が無いのだ。李信がそれだけの知見は備えているのは、彼が大学受験を経験した上での社会人であり、教養を必要とする立場におかれた事があるからに他ならない。
それはさておき、袁紹軍を撃ち貫いた先鋒の華雄と張遼はそのまま直進して一番奥の諸侯へ殴り込む。彼女達官軍の目的は諸侯の鏖殺。兵は逃がしても良い、しかし、各諸侯の首は必ず獲れ。それが軍師である賈詡からの命令だった。誰一人逃がさぬ為に最奥へ斬り込み退路を塞ぐ。
「オラオラオラ、退けやぁ!!!!張遼が来るで!!!張遼が来るで!!!」
“神速の張遼”がその異名に違わぬ速度を持って各諸侯を蹂躙する。史実において軍神関羽と並び称される彼女の突撃はマイナー武将やそれ以下しか居ないモブ諸侯の止められるモノでは無かった。そして、それは彼女の同僚である華雄とて同じだ。
「邪魔だぁ!!!雑魚は引っ込んでろ!!!」
正史や演義では不遇とはいえ原作キャラの一人。モブ諸侯やマイナー武将では止められない。金剛爆斧が雑兵と武将を纏めて刈り飛ばす。そのまま牙門旗の下へ殺到し騎馬で踏み潰す。張遼と華雄が互いにフォローし合いながら念入りに敵陣を嬲り回した。しかし、彼女達はまだ序の口、連合軍の悪夢は第二陣から始まった。
「見せて貰おうか、連合軍の武将の武力とやらを!!!」
官軍第二陣、呂布分遣隊と併走して曹操軍に突っ込んだ李儒ロリコン隊。その部隊の第零番隊の隊長を務める仮面の変態、武安国は遥かな高みから見下ろした台詞を吐いた。零番隊、董白特務、彼らロリコンが真に主と仰ぐロリである董白を護る栄誉を与えられた部隊。良く訓練されたロリコンによって編成された呂布とは違う意味での化け物部隊。
「聞け賊軍共!!!これは天誅では無い!!これは天誅ではない!!!これは人誅である!!!美幸様に仇成す天下の蚤は、この武安国が粛清する!!!」
右手にL字型のバールの様な武器を、左手に鉄パイプの様な武器を振り回しながら馬上から跳び上がり曹操軍の真っただ中に降り立つ。
「何だコイツ!!!」
曹操兵は突如現れた不審人物に動揺が隠せない。彼だけでは無い、良く訓練されたロリコン達は次々に馬上から跳躍し曹操軍の内部に入り込む。
「そこだ!!!」
武安国は手近な曹操兵を右手のバール擬きで頸動脈を断ち切り、左手の鉄パイプ擬きで脳をかち割る。完全なオーバーキルだがこの程度では終わらない。
「遅い!!!」
覇王に鼓舞された勇敢な曹操兵を無慈悲に狩り殺していく。賊軍にされても士気が衰えない辺り、流石覇王の支配力と言った処だ。だが、如何に士気を維持できたとはいえ所詮は一般兵、良く訓練された選抜されたロリコンの前では塵に等しい。もしも、この場に李信が居たなら怒り狂うであろう光景が広がっていく。
「当たらなければ如何という事は無い!!!」
機転の利く兵士が複数で同時攻撃を仕掛けるもそれを容易く掻い潜る武安国。一瞬で穴を見抜いて体を滑り込ませる。掻い潜ると間髪入れずバール擬きで頭蓋を抉り、鉄パイプ擬きで敵兵の両腕を粉砕する。
「当たらなければ如何という事は無い!!!」
両腕を砕いた敵兵を楯にして至近距離まで詰め、舞踏の様な華麗な得物捌きで兵士を惨殺する。
「当たらなければ如何という事な無いと言っている!!!!」
何故か散々虐殺している武安国がキレる。敵兵の抵抗が煩わしいと言わんばかりの暴言。殺している兵に対する感慨等欠片も存在しない。
「何だ!!!この威圧感は?!!」
突如、武安国は湧き上がったプレッシャーに動きを止める。彼が感じたプレッシャーは呂布と李信の気のぶつけ合いだ。距離的にもかなり離れているにも関わらず、その規模から多少素養のある人間は全員ソレを感じ取った。
「耳鳴りがする・・・・・・・・何?」
孫権は頭に響く耳鳴りの形で。
「頭が・・・・・・痛い!!!誰だ!!私の中に入りこもうとするのは?!!」
曹操は頭痛の形で。
「死が、死の河が来る!!!」
劉備は幻視の形で。
「天が震えている?」
董卓は錯覚の形で。
「天が哭いている?」
皇帝劉弁は幻聴の形でそれぞれ感じた。
「この威圧感、呂布のソレに等しい。ええい、呂布に匹敵する武を連合は持っているというのか!!」
呂布に匹敵するだろうプレッシャーを放つ存在を認識した事で武安国は焦る。事前に調べた反董卓連合の陣割から消去法でその諸侯を絞り込む。
「公孫賛か。完全に見落としていたな、件の八倍返しの武将・・・・確か李信だったか」
逸脱した変態足る彼でさえ竦み上がる呂布に匹敵する存在感。天下無双、二人と居ないと思っていた存在。完全に想定外だった。呂布に匹敵するという事は単独で戦略単位になるという事。そんな存在を野放しなどできない。この戦いの後、確実に滅ぼす事を上奏すると心に決める。しかし、そんな事よりも目前の脅威の排除と殲滅が今は急務。武安国は視線を巡らせると同時に第六感を駆使して標的を探る。高順達呂布分遣隊によって深くまで斬り込まれた曹操軍は完全に乱戦状態になっている。高順と李儒の二軍による攻撃で指揮系統はズタズタだ。その極限の混乱の中でも統制を保ち強固な塊が存在した。それこそが彼らが護るべき主君である曹操の居場所に他ならない。
「見える、敵が見える」
武安国は頬を吊り上げる。明らかに格が違う気配。英雄だろう者達の中でも別格の規模を誇る気配。そんな気配の持ち主は標的の曹操以外には有り得ない。彼は武勲への興奮を抑え付けその集団へ足を向ける。武安国の考察の通りその集団に曹操は居た。ただ、不幸な事に曹操だけでは無かった。劉備、関羽、張飛、趙雲、諸葛亮、鳳統等劉備陣営。夏候惇、夏侯淵、許楮、典偉、荀彧等曹操陣営。正史において語り継がれる英雄達が揃い踏みだった。
「はああああああああ」
「たああああああああ」
高順と関羽の得物が火花を散らす。
「はいはいはいはいはい!!!!」
「ぃやあああああああああ!!!」
姜維と趙雲双方の槍の閃光が二人の間で弾け合う。
「邪魔なのだぁー!!!!」
「舐めんな糞餓鬼!!!」
「さっさと散れぇ!!!」
張飛の剛腕が曹性と魏続へ襲い掛かる。
「華琳様へは近寄らせん!!!」
「道を開けろォ」
「夏候妙才が一矢受けて見よ!!」
「その程度の射撃!!!」
「恋様の弓に比べれば、カスよ!!!」
夏候惇と臧覇が鍔迫り合い。夏侯淵の洗礼を宗憲と候成が掻い潜らんとする。
「華琳様は僕たちが護るんだ!!!」
「ここから先へは!!」
「この!!!子供の癖に!!!」
成康が許楮と典偉に押し込まれる。英雄同士の激突は華々しくも激しい。曹操軍と対峙する高順達呂布分遣隊は曹操を前にその首に手を伸ばす事が出来なかった。双方共に英雄だが、知名度は格段に違う。さらに、曹操陣営は全て原作キャラ、補正率はいっそ詐欺ではないかというくらい違うのだ。如何に数的状況的に有利でも覆すのは容易では無い。逆に言えば、更に力が加われば崩せるという事でもある。
「曹孟徳、その首貰った!!!」
武安国の参戦によって均衡が崩れる。雑兵を塵の殺しながら彼は曹操に刃を突きつける。曹操とて易々とロリコンに首を獲らせる訳が無い。愛器である絶によってバール擬きの一撃を受け止める。
「つっ」
曹操は予想外の重さに蹈鞴を踏む。凡夫の一撃ならば受け止められてであろうが、相手は変態だ。その一撃は凡夫のソレでは無い。
「曹操さん!!!」
「曹操!!」
「か、華琳様!!!」
護衛の手間を省き関羽達のモチベーションを高める為にすぐ近くに居た劉備達は曹操の危機に悲鳴を上げる。武安国は後退した曹操を容赦無く攻め立てる。曹操も英雄だ。そう簡単に獲られはしないが如何せん相手が悪すぎた。彼女は英雄だが武将では無く、主君として、三国の長として名を馳せた英雄だ。その武は決して武将のソレでは無い。黄巾党などの賊や一般兵ならば十分だが、仮にも英雄の名を持ち武将を語るロリコンを相手にするには力不足だ。しかも、武安国は正史において呂布と数十合斬り合い生き延びた猛者だ。勝てはしなかったが呂布から生き残る辺り尋常な武では無い。外史は正史に準拠するモノ。演義、正史の知名度はそのまま補正に掛かるとみて間違いない。
「桃香!!貸せ!!!」
曹操に危機に一刀は劉備から宝剣をふんだくるとロリコンへ斬りかかる。
「っらぁ!!!」
脳天へ一直線に振り下ろされる宝剣。愚直な一線、しかし、それは凡夫の一撃では無かった。
「ぬうううううぅ」
慮外の威力に鉄パイプ擬きで受け止めた武安国は思わず唸る。見た目と覇気、そして感じられる才覚からは想像できない一撃。それは意図せず不意打ち気味になる。何故、北郷一刀が仮にも武安国という英雄を唸らせる程の一撃が打てたのか。その理由は彼の親族にある。北郷一刀の母親の生地は鹿児島であり、小さな剣術道場の一人娘であった。一人娘のしかも初孫という事で溺愛した祖父なりの愛情表現によって、幼い頃から彼は剣術指導を受ける事になる。与えられる一刀からすれば迷惑な愛情だったが、母親も止めなかった為に嫌々ながらも一刀は指導を受け続けた。彼が指導を受けた流派、その名も北郷流。まんまと言うなかれ。そもそも、北郷家の祖は島津氏の分家である北郷家である。北郷流はその分家の剣術指南役として興ったそれなりの歴史を持つ流派なのだ。
その北郷流の思想、それは最速での一撃必殺である。“殺やれる前に殺る”“先手必勝・一撃必殺”を突き詰めた剣理である。北郷流で特徴的な点は他流派と比較して精神修養に重点を置いている事にある。修行として正式に座禅を組み込んでいる流派は北郷流以外極めて稀だ。実戦において相手の先手を取るには何よりも洞察力が必須である。その洞察の為には相手の気に呑まれず冷静さを保つだけの精神力が必要になる。冷静に相手の隙を見逃さない観察力と、相手の心理状態を見抜く洞察力があってこそ隙を突き先手を取れる。
もう一つ特徴的な点に形稽古を非常に重視している事、そしてその形の種類が非常に少ない事がある。北郷流において形は全部で三つしかない。打ち下ろし、突き、首狩りの三つだけだ。これだけしかない理由、それは北郷流の思想と剣理に関係がある。まず、考えてみて貰いたい形稽古とは何の為にするか。洋の東西を問わずに武道、武術には必ず形がある。形とは長い年月を経て蓄積され練磨されたフォームであり、最も合理的な攻撃運動なのだ。武道や武術を良く知らない素人が形稽古を軽んじるが、それは単なる馬鹿者以外何者でもない。形稽古は合理的な攻撃運動を学ぶだけでは無い。否、合理的な攻撃運動の習得は副産物に過ぎない。
形稽古の最大の目的は“体”を造る事になる。合理的なフォームを繰り返す事でそのフォームを行なえる様に肉体を最適化する作業。それが形稽古の本来の意味だ。良く考えればこれは当然の事だ。元より武術とは何の為に生まれたか。武術とは本来は弱者が強者に打ち勝つために試行錯誤して積み上げた術理。先天的な差を後天的に補う技術。そして先人たちが“技術”の限界を悟るのは当然の帰結だ。どんなに小手先の技術を磨いても元の肉体(せいのう)差を埋めるは容易では無い。ホイールやステアリングそしてドライバーが如何に優れていようと馬力に差が有り過ぎれば無意味だ。コーナリングだけでレースに勝てはしない。限界を悟った先人達が無策でいるか?そんな筈は無い。自然と武術の修練に肉体改造が含まれる事になる。そして、段々と武術は技術の習得から肉体改造にウェイトが移っていく。
「ケリャァ!!!」
再び脳天へ宝剣を撃ち降ろす。北郷流・天誅撃、上から真一文字に振り下ろされる剣撃。重力を利用した一撃は自然の摂理に沿うが故にそれすら力に変えて敵を切り伏せる。唯打ち下ろすだけでは無い。体重移動で己の体重すら剣撃に乗せて打ち込んでいる。よって、見かけの体格以上の威力を剣に乗せられる。残心すらも眼中に入れない比喩抜きで一撃必殺の剣。捨身と何ら変わらない。本来なら無謀な行為だが北郷流においてはコレが正解。何故なら北郷流において技を出すという事は“必殺”なのだから。殺す以上、残心等という警戒は不必要なのだ。
「ケリャァァァァウ!!!!」
一刀は横薙ぎで首を狩り獲り行く。北郷流・草薙。草を薙ぎ刈る様に首を獲る一撃。その一撃を武安国はスウェーバックでやり過ごす。捨身故に振り切った後は隙だらけだが武安国はその隙を突かなかった。正確には突けなかった。戦闘力を量り切れない事を警戒したのだ。曹操の側に居た事から護衛の一人と勘違いしてしまったのだ。鎧を纏っていたので学生服の大半が隠れてしまい天の御遣いだと判断されなかったのだ。
「はあっ!!!」
北郷流・人誅貫、体ごとぶつからんとする勢いで心臓目掛けて突き抜く。その一撃を武安国は鉄パイプ擬きで撃ち払う。そして撃ち払われて体が泳ぐ一刀の腹を思いっきり蹴り抜く。
「グハッ」
蹴り抜かれ吹き飛ぶ一刀。鎧越しでも臓器を責め苛む威力の蹴りだ。鎧が無ければ内蔵破裂でお陀仏だっただろう。
「御主人様!!!」
劉備が悲鳴を上げる。
「かはっ、かぁ、はぁ、はぁ」
吹き飛ばされた一刀はそれでも戦意を消す事無く武安国を睨み据える。対する武安国は余裕だ。大方一刀の能力を量り終えた彼からすれば一刀は既に敵では無い。
「奇妙な少年だな。持ち得る才にしては不相応な技量だ。底も浅いにも関らず技量は中途半端に練磨されている」
武安国の指摘に一刀は顔を歪める。彼の指摘に思い当たる点が多々あるからだ。武安国が指摘しているのは自分が嘗て修めていた剣術の残滓の事だろうと予想は付く。一刀自身、未だに幼い頃の修練が生きているとは思っていなかった。三つ子の魂百までもということだろうか。最後の方は略惰性だったとはいえ、祖父の教えは自身の中に確かに根付いていたのだ。
「だが、それもこれまでだ。君の底は知れた。諸共死にたまへ」
武安国はバール擬きを振り下ろそうとして・・・・・・・・・その場を飛び退いた。彼が飛び退いた後には次々と短剣の様なモノが飛来し突き刺さる。
「不安具!!!」
「ちちぃ!!!」
閃光の様な速度で飛来する投擲剣・“不安具”。投げたのは魯迅だった。ジャグリングの様にクルクルと“不安具”を扱いながらニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
「ちょ~っと待って貰える?そこの御遣いにはまだ用があるのよね。曹操は上げるからそこの少年は勘弁して貰えないかしら?」
いきなり曹操を売り払う魯迅。他勢力の長を自身の所有物の様に交渉の材料に使う。不遜も極まっている。
「ほう、仮にも主君を売り払うとは大した不忠者だ」
「ああ、私、曹操軍じゃないから」
武安国の揶揄を薄ら笑いのまま否定する。魯迅は周囲を見回しながら面白そうに状況を評価する。
「大した攻撃力ね。相手を賊軍にして士気を挫き、全戦力で一網打尽殲滅するか。それにしても董卓軍がこれ程の戦力を持っていたとは意外だったわ。何よりも素晴らしいのがこの戦力を今の今まで秘匿し遂げた事ね。私達すら尻尾を掴めなかった。大したものよ、ホントに」
「お褒め預かり恐悦至極と返しておこう。して、君はこの状況どうするのかね?」
あくまで余裕で対応する武安国。その態度を見て増々笑みを深める魯迅。その表情は万人が皆同じ様に評するだろう表情だった。曰く――――――下種い。
「見た所、貴方達・・・・・・・・何らかの変態ね?そうね、この感じからして・・・・・・・・・・・・幼女趣味って処?多分、単一属性か或いは多くて三重属性程度ね。それにしても見るべき処はその純度の高さ、ここまで純度の高いのは私達でも上位者にしかいない。ああ、この場に隊長が居たらどんな表情するのかしら・・・・・・絶頂しそう」
下種い表情に淫靡さを湛えながら股間を弄り始める魯迅。美少女の突然の変態的な奇行に武安国も流石に面を喰らう。
「これは死ねないわね。これを隊長に教えないと。ねえ、貴方達はどんな声で哭くのかしら。それを、聞かせて?」
見下した視線の侭に告げる魯迅。意味不明な程に自信満々な態度を理解できずに困惑する周囲。その自信の根拠は直に実証される。突如、彼らの目の前を“何か”が通り過ぎる。飛んで行った方向へ視線を向ければ一人の少女が倒れ伏していた。
「愛琳!!!」
曹操が叫びを上げる。吹き飛んできたのは彼女の従妹である曹洪だった。吹き飛ばされた彼女はピクリとも動かずに呻き声すら上げない。何よりも異常なのは全身がどす黒く変色している事だ。如何なる手段を採ればこの様な状態にできるのか?その場に居た魯迅以外誰一人として思い至れなかった。知る筈が無いのだ、彼女を殺した業は未だ世に知られぬ異端の絶技なのだから。
「強い奴はいねぇがぁぁぁぁ」
異端の絶技の主が戦場に吼える。梁幹、“最初の大隊”が十傑衆、その第二位が地獄を纏って降臨した。
あとがき
最後まで読んで頂き有難う御座います。転生人語改訂版第十三話如何でしたでしょうか。
董卓さん出陣、何と皇帝までおわします。全戦力を繰り出して鏖殺体勢。終に正体を露わにする董卓軍ロリコン軍団、現在曹操さん達と交戦中です。一刀君は大活躍、設定上存在する筈なのに今まで活かされなかった御実家の力が大爆発。魯迅さんは相も変わらずやりたい放題し放題。そして、混乱の戦場に梁幹さんが乱入。曹操さんの従妹である曹洪さんを殺害するという暴挙、命が惜しく無いのだろうか。
沈黙を破って終に董卓軍ロリコン軍団がその姿を現しました。李儒に続いて二人目は武安国。仮面のロリコン・・・と言えば最早モチーフは何であるかは言うまでもありませんね。NTの片鱗も見え隠れしていましたし。
次回は参戦した梁幹さん対武安国さん達ロリコン軍団との対決。戦闘狂対幼女狂の血みどろの戦いが。