「……というわけだ。悪いがなでしこ君も手伝ってくれるとありがたい」
「はい、それは構わないんですけど……」
ちゃぶ台をはさんで互いに向かい合いながらなでしこは仮名からおおよその説明を受けているところ。だがなでしこはどこか歯切れが悪い様子を見せている。その表情もどこか心配げなもの。その視線の先には
「俺は本物じゃない俺は本物じゃない俺は本物じゃない………」
「けーた様、ほんものってなんですか?」
部屋の隅っこで体育座りをしながらぶつぶつ独り言をつぶやいている啓太とそれに付き纏っているともはねの姿がある。何とか仮名の説明によって誤解は解けたものの様々な精神的ショックが重なり啓太は落ち込んでしまっているのだった。だがそんなことなどお構いなしにともはねは楽しそうに啓太にちょっかいを出している。なでしこはどうしたものかと思案するがおろおろすることしかできない。だが
「とにかく、まだこの部屋にムジナは隠れている。皆で手分けして探していこう!」
このままでは埒があかないと判断した仮名は場の空気を変える意味も兼ねてそう宣言する。その姿はいつもと変わらない。とても先程までパンツ丸出しだった人間とは思えない変わりようだった。
「あんなことの後でよくそんなに切り替えれるな……」
「仕事柄あのようなことは日常茶飯事なのでな」
「あ、あの……それはどうかと……」
「はい! ともはねもがんばります!」
さらりと爆弾発言をする仮名に啓太は呆れ、なでしこは顔を赤くし、ともはねはやる気を見せている。全く意志疎通ができていないでこぼこな四人組が再びムジナの捜索を開始する。ドアと窓にカギを閉めることでムジナに逃げ場はない。そしてここは狭いアパート。見つけるのにそう時間はかからないはず。
「くっそー出てこい! ムジナっ!」
四人の中でも特に啓太は必死の形相で捜索を行っている。それはある意味やつあたりに近いものだった。
何とかなでしこの誤解は解けたがひどい目に会った……おかげでもう少しで本物になってしまう危険すらあった、いやまじで。仮名さんは慣れた様子で割り切っているが断じて俺は仮名さんとは違って本物ではない! これからは半径二メートル以内には近づかないようにしなければ……それはともかく今はムジナの捕獲が最優先。いわばこいつが全ての元凶なのだから。なでしこがこんな時間に帰ってきたのもムジナが逃げ出したことで予防接種が延期になってしまったせいらしい。おのれ……俺がこんな目に会っているのも全部奴のせいだ、奴には依頼の報酬のため、なでしこの予防接種のため、そして俺の恨みのために犠牲になってもらう!
「おおおおおっ!」
「流石だな、川平。私も負けていられん」
「ともはね、わたしはこっちを探すからあっちをお願い」
「わかった、なでしこ!」
噛み合わないものの四人は部屋の中をくまなく探し続ける。元々狭い部屋に加えて物が多いわけでない。啓太だけの一人暮らしだったなら散らかっていただろうがなでしこは毎日くまなく掃除をするため部屋には埃一つない。またその関係で啓太にとって、男にとって見られたくない物もないため啓太は臆することなく捜索を続ける。そして
『きょろきょろきゅ~』
「あ、ムジナさん!」
「待て、このやろう!」
「落ち着け、川平! 取り囲むんだ!」
ついに追い詰められたムジナがその姿を現す。だが捕まるわけにはいかないとその素早さで部屋中を駆け回る。だが狭い部屋であることと四人という数によって次第にムジナは追い詰められていく。そしてムジナは四人の中では一番危険度が低いと思われるなでしこの近くへと逃げていく。
「え? あ、きゃっ!」
なでしこは思わず悲鳴を上げる。何故ならムジナが逃げ込んだのはなでしこのスカートの中だったから。そんなところに逃げ込まれるとは思っていなかったなでしこはどうしたらいいのか分からずあたふたすることしかできない。仮名とともはねもそんなところに手を出すわけにもいかず立ち尽くすことしかできない。だがそれを破ることができる例外がこの場にはいた。
「俺に任せろ、なでしこっ!」
そんな叫びを上げながら啓太は迷うことなくムジナに向かって、いやスカートの中に向かって手を伸ばす。それはまさに神業と言ってもいいほどのタイミングとスピード。だが彼のために弁明するなら間違いなく啓太にはこの時、やましい気持ちはなかった。それはまさに本能に近いもの。啓太はなでしこに対してはセクハラの類は行わないことを信条としている(あくまで本人基準)。だがどうしてもその根本は変わらない。それがこの状況にでてしまった。無意識の中でこの状況ならば不可抗力が、正当防衛? が成立すると。そしてそれが致命的だった。
『きょろきょろきゅ~』
啓太の手がまさになでしこのスカートの中に届かんとした瞬間、再びまばゆい光が部屋中を覆い尽くす。啓太達はそれを前にして身動きを取ることができない。それが収まった後には再びムジナの姿は見えなくなってしまった。先程の啓太と仮名の状況の焼き回しだった。だが違うところがあるとすれば
「………え?」
「………ん?」
啓太の手がなでしこのお尻にくっついてしまっていることだった。
「ちっ違うんだっ、なでしこ!? こ、これはわざとじゃなくって……!!」
「け、啓太さん、あ、あんまり動かさないでください……!」
「あ、わ、悪いっ!」
啓太は狼狽しながらなでしこのお尻から手をのけようとするのだが叶わない。しかし何とかしようとするたびに手が動き、なでしこのお尻を撫でてしまう。それをなでしこは顔を真っ赤にしながら耐えている。だが羞恥心によってなでしこは既に涙目だった。
な、何だ!? 何でこんなことになった!? こんなおいしい……じゃなかった、困った状況になってしまうなんて……。まるで俺が無理やりなでしこを襲っているみたいじゃないか。ち、違う! 俺は断じてそんなことはしない! 確かに俺はエロだがヘンタイではない! し、しかしどうすれば……俺は別にかまわないのだがなでしこのためにこの状況を何とかしなければ……だが動かせば動かすほどなでしこのお尻を撫でるような形になってしまう。なでしこは既に恥ずかしさで真っ赤になり涙目だ。一刻も早く何とか……そうだ! これは仮名さんの時と同じだ。直接手がなでしこのお尻にくっついているわけじゃない。ならそれを脱がせればこの状況を打破できる!
啓太はそう判断し、いざそれを実行に移さんとする。だがその瞬間ふと気づく。それは直感。混乱していたためそこまで頭が回っていなかった。
そう、今、自分の手にくっついているのは仮名のズボンではなく、なでしこのパンツであることに。
「うおおおおっ!?」
何とか寸でのところで俺は動きを止める。あ、あぶねえ……危うく普通になでしこのパンツを下ろすところだった。そんなことをすれば二度と俺はなでしこの前に立てないだろう。例えわざとではなかったとはしても完璧にヘンタイだ。し、しかしならどうすれば……このままずっと触っているわけないし、この状態ではムジナを捕まえることもできない。な、何か手は……
啓太がどうしようもない状況に頭を悩ませていると
「あ、あの……啓太さん、わたし目をつぶってるので……その……いいですよ……」
「………え?」
なでしこがそんなよく分からないことを口にする。だがその言葉の意味を理解し、啓太は固まってしまう。
え……それってこのままパンツ下ろしちゃっていいってこと……? だがそんなことを聞き直すこともできない。なでしこは既に目を閉じたまま何かを待っているような姿。それが何を意味しているかなどもはや語るまでもない。しかしいいのか? それは俺がなでしこをノーパンにするということだ。そう、ノーパンに。いや、それだけではない。なでしこはいつもノーブラだ。それはつまりなでしこはノーブラ、ノーパンになってしまうということ。そんな素晴らしい、ではないひどいことをしてしまっていいのだろうか。だがここで引き下がるのは男としてしてはならないこと。現になでしこも目をつぶったまま待っている。そう、ならば俺はそれに応えなければ!
啓太はそんな訳の分からない思考をしながらその手に力を込めようとする。だが混乱しているのは啓太だけではなくなでしこも同じ。本当なら啓太に目をつぶってもらうべきところを何故か自分が目を閉じているのだから。そしてついにそれが行われんとした時
「……ごほんっ。盛り上がっているところすまないがその辺にしておいてはどうだ。ここにはともはねもいるんだぞ」
「「……っ!?」」
どこか気まずそうに咳ばらいをした後、仮名は顔をそむけながら告げる。その言葉によって啓太となでしこは我に返る。そこにはどこかピンク色の空間を作り出している自分たちとそれを興味深そうに眺めているともはねの姿があった。
「……二人とも何をしてるんですか?」
「い、いや……それは……」
「そ、その……」
ともはねの純粋な疑問に二人はしどろもどろになるしかない。二人はまるで小さな我が子に情事を見られてしまった夫婦の様な反応を示している。仮名はあえて触れまいと明後日の方向をむいたまま。だがそんな四人の隙を狙ったかのようにムジナが再び動き出し、窓に向かって行く。そしてそのまま自ら鍵を開け、外へと逃げ出してしまう。
「なっ!?」
「そんなっ!?」
その光景に啓太となでしこは驚きの声を上げるしかない。まさかムジナが自分でカギを開けるなど思いもしなかったから。だが忘れてしまっていた。相手は普通のムジナではないということを。同時に気づく。このままムジナが捕まらなければ自分たちはずっとこの状態であることに。
「三人ともここに残っていてくれ、ムジナは私が必ず捕まえてくる!」
今の状態の二人とともはねではムジナを追うのは難しいと判断した仮名はすぐさまムジナの後を追って行く。その姿はまさに捜査官に相応しい貫録を備えたもの。二人はそのまま後のことを仮名に任せようとするが
「待ってください仮名様! あたしも行きます!」
「ま、待て! ともはね!」
「待ちなさい、ともはね!」
それを追うようにともはねも部屋を出て行ってしまう。啓太となでしこは何とか制止しようとするもともはねはあっというまに見えなくなってしまうのだった―――――
『きょろきょろきゅ~』
「く、くそ……何て素早さだ……!」
仮名は全速力でムジナの後を追いかけるがなかなか追いつくことができない。体力には自信があったのだがやはり野生の動物相手では分が悪い。自らの武器であるエンジェルブレイドも使用できない。使えばムジナを傷つけることになってしまうからだ。だがあきらめるわけにはいかない。これは元々は自分の任務。啓太達に頼ってばかりでは面目がたたない。しかし既にかなり人ごみの中に近づきつつある。道路や信号も増えてきた。このままではまずい。そう仮名が焦り始めた時、ムジナが突然動きを止めてしまう。どうやらムジナも度重なる追跡によって疲労しているらしい。ならばこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「もらったあああっ!!」
仮名はまるで獲物にとびかかる獣のようにムジナへとせまる。だがそれはムジナの罠だった。ムジナは光を放つと同時に仮名の足元を通り抜けながら走り去ってしまう。その光によって一瞬動きを止めてしまうものの仮名はさらに追跡をせんとする。だが
「ん?」
仮名はその場を動くことができない。いや、正確には手が何かにくっついていて動くことができない。一体何が。仮名は自らの手に視線を向ける。瞬間、仮名の背中に冷や汗が滝のように流れ始める。そこには
巨大なダンプカーの後部にくっついてしまっている自らの右腕があった。
それが一体何を意味するのか仮名は瞬時に悟る。ここは道路。そしてこの位置では運転手は自分を見ることができない。まるで走馬灯のように思考が巡ったと同時にダンプカーが信号が青になったことで動きだす。そのまま仮名の手をくっつけたまま。
「ぬおおおおおおおっ!!」
「ムジナさん、待ってー!」
ともはねはそんな仮名に気づくことなくただ一直線にムジナの後を追って行く。仮名は凄まじい叫びを上げながら全速力でダンプカーと並走する羽目になったのだった―――――
街の中を凄まじい勢いで走り抜けていく人影がある。だがその光景に通行人達は目を奪われるしかない。何故ならそこにはなでしこを抱いたまま走っている啓太の姿があったから。
「け、啓太さん、大丈夫ですか……?」
「あ、ああ大丈夫だ、気にすんな……!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらも心配そうになでしこは啓太に声をかける。啓太はそんななでしこにそう答えるものの息も絶え絶え、とても大丈夫には見えない。結局あの後、啓太はムジナの後を追うことに決めた。正確にはそれを追っているともはねを。仮名さんがどうなっても知ったことではないがともはねに何かあってはいけない。一応遊ぶ約束をした上に薫の犬神でもあるのだから。だがそれを考えながらも啓太には違う深刻な問題が起きようとしていた。
まずい……マジでやばい! あの状況でなでしこのパンツを下ろすわけにもいかずそのままなでしこを抱きかかえながら(俗に言う御姫様抱っこ)走っているのだがそのせいで手に今まで以上になでしこのお尻の感触が襲いかかってくる。くそっ……こんな状況でなければ心行くまでこの至高の感触を堪能できるのだが今はそれどころではない。今まで抑えていた煩悩が溢れださんとしている。このままでは俺の理性が持たない! だ、だがこんなところで負けるわけにはいかない……そうだ! 身内フィルターの応用だ! これはなでしこの尻ではない……そう、これはかあちゃんの尻だ! そんなもの触ったこともないがとにかくそうだ! かあちゃんの尻、かあちゃんの尻、かあちゃんの尻………
そんなわけのわからない呪文の様な物を脳内で連呼していると啓太の目にともはねの姿が映る。かなり遠くだが間違いない。後は何とか追いつくだけ。そう安堵しかけた時
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
どこかで聞いたような声が横を通り過ぎていく。その声はまるで救急車のサイレンのように遠ざかるに連れ小さくなり聞こえなくなっていった。
「啓太さん……今のって仮名さ」
「気のせいだ、なでしこっ! とにかくともはねを追うぞ!」
なでしこの言葉を力づくで抑えながら俺はただ前に向かって走り続ける。
そうだ、あの仮名さんがあんなことになるはずがない。ダンプカーと並走するなんて訳が分からない光景なんて見えなかった。あれはきっと俺の心が生み出した幻だ。心のどこかで仮名さんに頼ってしまっていた俺の心の弱さだ。だから見ててくれ、仮名さん……俺はあんたの悲願を達成して見せる!
啓太は心の中で涙を流しながらただ走り続けるのだった―――――
「よいしょ……よいしょ……」
そんな掛け声を上げながらともはねは体を動かしている。その先にはムジナがいる。そこはともはねの頭上の方向。電柱のてっぺん。ともはねは電柱を登りながらその跡を追って行く。いつもならそれが危ない行為だと分かるのだがもはやともはねにはムジナ以外のことは頭になかった。
それは犬神故の特性。犬である彼らは何かを追いかける行為が大好きであり、それはある意味得物を追いかける狩りに通じるものがある。幼いともはねは特にそれに没頭してしまい周りが見えなくなってしまっていた。
だが既にムジナにも逃げ場はない。まさかムジナもここまで追ってくるとは思っていなかったからだ。そしてついにともはねは頂上まで辿り着き、ムジナをその両手で抱きかかえる。
「捕まえた、ムジナさん!」
『きゅる~』
満面の笑みでともはねはムジナを抱きかかえ、ムジナもどこか観念したような鳴き声を上げる。これで上手く行ったとともはねが安堵した瞬間、
「……え?」
ぐらりとその体が傾く。ともはねはその感覚にそんな声を出すことしかできない。両手を使ってしまったこと、その安心感から気を抜いてしまったことでともはねは電柱の頂上から落下を始めてしまう。その浮遊感が、恐怖がともはねに襲いかかる。それが何を意味しているのか幼いながらもともはねは本能で理解する。だがどうすることもできない。ただ目を閉じることしかできない。
その刹那、ともはねの脳裏に浮かぶ。それは自らの主人。いつも自分に優しい、助けてくれる大切な人。
(薫様………!!)
ともはねが目をきつく閉じながらその名を心の中で叫んだその瞬間、
「なでしこっ!!」
「はいっ!!」
そんな声が聞こえてくる。同時にどこか温かい感覚に包まれる。恐る恐る目を開ける。そこには自分を抱きとめてくれているなでしこ、そしてなでしこを抱きかかえている啓太の姿があった。
「うおおおおおおっ!!」
啓太は絶叫を上げながらそのまま勢いを殺しきれず地面を転がり続ける。それは全速力でともはねの元まで疾走してきた代償。まさに火事場の馬鹿力と人並み外れた身体能力をもつ啓太だからこそできたもの。だがすぐに止めることはできず転がり続けることでその勢いを相殺する。だがなでしことともはねには傷一つない。それを庇うことが啓太の意地だった。
「………はあ、何とかなったか……大丈夫か、なでしこ、ともはね?」
「はい、ありがとうございます啓太さん」
啓太の言葉になでしこは微笑みながら答える。そこにはまるで当たり前だと言わんばかりに雰囲気がある。それは自らの主を信頼している犬神の姿。そんな二人の姿にしばらくともはねは目を奪われぼうっとしている。だがすぐに我に返り
「あ、あのけーた様、ありがとうございます……それと……ごめんなさい」
そうどこか言いづらそうに、意気消沈しながら謝罪する。そんなともはねの姿に啓太となでしこは顔を見合せながらも笑う。
「おう、今度からは気をつけるんだぞ!」
「……はい!」
啓太の言葉でともはねは笑顔を取り戻し、いつもの姿に戻る。まあとにかく怪我がなくてよかった。そう啓太が安堵した瞬間、今までくっついていた手が離れる。そこにはともはねの頭に乗ったムジナの姿がある。どうやらもう逃げる気はないらしい。
「ふう……やっと取れたか……」
大きな溜息と共に啓太はなでしこを地面へと下ろす。個人的には残念だが色々問題がありすぎる。なによりもこれ以上面倒事に巻き込まれるのは御免だった。そんな中
「……あ……」
「……? どうかしたのか、なでしこ?」
「い、いえ……なんでもありません……」
なでしこがどこか変な声を上げる。一体どうしたのだろうか。だがなでしこは顔を赤くしたまま。それを尋ねようとするも
「じゃあけーた様、帰ってともはねと遊びましょう!」
「ま、まだ遊ぶ気なのか!?」
「はい、まだけーた様に遊んでもらってませんから!」
「分かった、分かった……とにかく家に戻るぞ……」
ともはねの言葉によってそれは遮られる。どうやらまだ遊び足らないらしい。もっとも今までのは依頼であり確かに遊びではなかったのだがまだそんな元気があるとは……やっぱり子供というのは侮れん。そのままともはねと一緒に家路につこうとした時、ふと気づく。なでしこが何故かその場にとどまり考え込んでいる。
「何かあったのか、なでしこ?」
「いえ……何か忘れているような気がして……」
「? 何かあったけ? 気のせいじゃないか?」
「そうでしょうか……?」
「二人とも、早くしないと置いていきますよー!」
「ま、思い出せないなら大したことないだろ。さっさと行くぞ」
「は、はい……!」
なでしこは少し慌てながら啓太とともはねの後を追って行く。その胸に何か引っかかりを覚えたまま――――――