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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/16 11:51
『そこまでだ! 公序良俗に反したカップル、愚者どもよ! この露出卿、栄沢汚水が成敗してくれる!』


高らかに、どこか満足気に黒ずきんとマントを身に纏った男、栄沢汚水は目の前のカップルと思われる男女に向かって宣言する。まるで時代劇の主人公のような立ち振る舞いをもって。だがそれは栄沢にとっては当たり前のこと。栄沢は本気で人前でいちゃつくカップルに天誅を下すことが自分の役目、正義だと信じている。もっともその理由は単にカップルが、恋人達が羨ましい、妬ましいだけ。ようするに単なる逆恨みだった。そんな栄沢から見て目の前に入る二人のカップルはまさに粛清の対象だった。堂々と公衆面前でキスをしようとするなど言語道断。しかも女性の方はめったにお目にかかれないような美少女。そんな羨ましすぎる、もといみだらな行為を許すわけにはいかない! 

そんな栄沢の思惑通りにカップルたちは自分の姿に釘づけになっている。カップル以外のコートを着た男と双子と思われる少女もいるがまあいいだろう。さあ、世に仇為すカップル(特に男)に天誅を、天罰を下してやろう! テンションを上げながら栄沢がその本性を、真の姿を現そうとする中、気づく。

それはカップルの男。その男は何故かどこか慌てたように自らの彼女から一瞬で距離を取っている。まるで逃げ出すかのように。同時にどこか安堵しながら、まるで自分に感謝するようなよくわからない視線を向けている。分からない。どうしてそんな視線を、態度を見せているのか。これまでのカップルたちは皆、自分が現れたことである者は恐怖し、ある者は憤怒していたというのに。そう、目の前にいるツインテールの少女のように―――――


―――――瞬間、栄沢の意識はこの世からなくなった。



「………え?」

それは誰の声だったのか。だが啓太はそれが間違いなくこの場にいる全員の声だと確信した。それは一瞬の光景だった。それは今回の目標、ターゲットであるヘンタイの幽霊、栄沢汚水が現れた瞬間だった。何故か黒ずきんにマントというまさしくヘンタイに相応しい意味不明な格好。間違いなく本人であることが分かる。だがその時の俺は感謝していた。心からそのヘンタイに、いやその登場に。ヘンタイに感謝することなどもう二度とないだろうと思えるような状況だったのだ。

それはともはねによる拘束。それだけならまだいいがあろうことかともはねはそのまま俺に向かってキスをしようとしてきた。間違いなく本気で、躊躇いなく。普段なら絶対にあり得ない恋する乙女のようなオーラを発しながら。それを前に啓太は文字通り身動き一つすることができなかった。


あれ……? 俺、もしかしてすっげーヤバいんじゃない……?


啓太はまるで走馬灯のように思考する。もしこのままともはねとキスしてしまえばどうなるのか。それは文字通り死亡フラグ。バッドエンド直行になりかねない選択肢。後先にも絶望しかあり得ない、己の身の破滅を確定するであろう禁断の果実。それを今、自分は口にしようとしている。いや、正確には口にさせられようとしている。啓太の第六感が危機察知アビリティが最高レベルの警報を発するも物理的に捕えられてしまっている状況からは逃れることができない。そしてついにその一線が越えられようとした瞬間、救世主が現れた。

ヘンタイという名の救世主が。

その登場によってともはねの意識が逸れる。その瞬間、万力のようなその拘束に一瞬の隙が生じる。そしてその光明を啓太は見逃さなかった。


「ぬおおおおおっ!?」


現役ラグビー選手もかくやという気迫を以て啓太はその拘束から逃れ、脱出する。まさに一世一代の、九死に一生を得るかのような動きだった。


あ、あぶねええ―――っ!? ほ、本気でヤバかったわっ!? 死ぬかと思ったわっ!? まだなでしこともキスしたことないのにそんなことしたらどうなるか考えただけで背筋が寒くなるわっ!? ファーストキスはなでしことって決めてるんだっ! っていうかともはねのやつ一体どうしたんだっ!? なんか様子がおかしいぞ、薬の影響かっ!?


実は既にファーストキスの相手はすぐ傍にいるのだが啓太はそのことには気づかない。というか啓太の中ではなかったことになっているらしい。忘却という人間の偉大な機能によって。トラウマと言い変えた方がいいのかもしれない。そんなことを考えながらも啓太が改めてともはねの様子を伺おうとした瞬間、


凄まじい爆音が辺りに響き渡った。


まるで爆弾が爆発したかのような爆音と衝撃が公園に響き渡る。その衝撃に啓太たちは呆気にとられるしかない。一体何が起こったのか。啓太達はその場に立ち尽くすことしかできない。煙が収まった場所にはまるでクレーターのような破壊の後が残っているだけ。何も残っていない。そう、そこにいたはずの栄沢汚水の姿も塵一つ残っていなかった。


「「「…………」」」


啓太はもちろん、仮名といまり、さよかも口を開けたままその場に立ち尽くすことしかできない。それは目の前の光景。そしてそれを起こしたともはねの姿をはっきりと目にしたから。


『破邪走行 紅蓮』

それがともはねが栄沢に向かって放った攻撃。ともはねが手を振るった瞬間に九本の深紅の衝撃波が放たれた。それは薫の犬神達が全員揃って初めて可能になるレベルの攻撃。それをともはねは難なく使用し、一瞬で栄沢を撃破したのだった。

仮名はその光景にただ呆然とするだけ。手には自らの武器である光剣、エンジェルブレイドを構えようとしたのだがそのままの体勢で固まってしまっている。当たり前だ。ターゲットが現われたと思ったら次の瞬間には撃破されてしまったのだから。というか死んだのではないのだろうか? いや、元々死んでいたのでその表現は当てはまらないかもしれないが。

いまりとさよかは体を震わせ、互いに顔を見合せながら口をぱくぱくさせている。それはともはねの力を目にしたが故。容姿だけでも既に絶望的だったにもかかわらずその実力も桁外れ。間違いなくたゆねを大きく超えている程のもの。もはや自分たちに勝ち目は、未来はない。逃れようもない絶望が双子を包み込んでいた。


「けーた様、お待たせしました! 続きをしましょう!」


何事もなかったかのようにともはねがそのツインテールと大きな胸を揺らしながら啓太へ向かって駆け寄ってくる。その姿は純粋そのもの。だがそこに確かに垣間見える。それは女としての本性、本能。先程のともはねの行動。それは自分の恋路を邪魔する者を排除する無意識の行動。言うならば独占欲。普段は出ることがないともはねの深層意識。大人の体になったことで知らずそれが表に出てきてしまっていたのだった。


啓太はそんなともはねを前にして何故か顔面を蒼白にしていた。それは先程のともはねの行動。凄まじい爆発と自分を束縛するかのような言動。それらが啓太の中の深層意識を刺激していた。


それは予知夢というべきものだったのかもしれない。最近、啓太は夢を見るようになっていた。一人の少女の夢。長い翠の髪。どこか魔性を、妖艶さを感じさせるつり目。大きな尻尾。それだけならなんでもない。むしろ喜ぶべき夢だろう。だがその内容がめちゃくちゃだった。何故か炎によって黒こげにされたり、見えない力によって服を脱がされたり、およそ考えられないような内容。夢とは自分の深層意識が現れるという。ということはそれらは自分の隠れた願望なのだろうか。

かつてヘンタイ三賢者の一人である係長にも言われたことがある。自分は天性のMだと。自分にはドSの女性も合うのだと。そんな恐ろしい、ある意味フラノの未来視にも近い予言が啓太の脳裏に蘇り、戦慄する。その夢の中の少女と今のともはねの姿が何故か重なる。雰囲気は違うのだがそのスタイルが、何よりもまるで自分を狙っているかのようなその視線が啓太の何かを恐怖させる。それはまさに本能。ここではない違う世界の自分の警鐘だったのかもしれない。


そんなことなど知る由もないともはねが再び啓太へと抱きつこうとした瞬間


『ぬおおおおおっ!! 我はっ、我は不滅なり――――!!』


息も絶え絶えの絶叫を上げながら消え去ったはずのヘンタイ、栄沢汚水が再び姿を現す。まるで光が集まるかのように、再構成されていると言った方が正しいかもしれない。その光景に流石のともはねも驚きを隠せない。確かにとどめを刺したずなのに。


「おじさん、まだいたんですか?」
『あ、当たり前だ!? 登場してすぐに退場してたまるかああっ!!』


あまりにも無慈悲なともはねの言葉に心が折られそうになりながらも栄沢は耐え忍びながら最後の意地を見せる。それはその手に持つ本。魔道書。その力によって栄沢はまさに魔王に相応しい力を手にしているのだった。


「そこまでだ、栄沢汚水! 貴様の悪行、もはや許すことはできん!」


復活した栄沢がその本を開くことを許さないとばかりにその手に光剣を持った仮名史郎が一瞬でその距離を詰めながら斬りかかる。栄沢はその動きに対応できず、そのまま一刀両断される。それはまさに一瞬。特命霊的捜査官の実力だった。


「おお! ナイス、仮名さん!」
「やった!」
「すごい!」


啓太たちはその光景に歓声を上げる。だがいまりとさよかはともかく啓太は結構割と本気で驚いていた。まさか普通に仮名さんが活躍するとは。今まで俺との依頼の中でまともに役に立ったことがなかったのでちょっと実力に疑問を抱いてたんだが一応大丈夫そうだな。

そんな身も蓋もない失礼なことを考えていると、突然異変が生じ始める。それは切り裂かれたはずの栄沢の体。それが一瞬で元の姿に戻って行く。まるで何もなかったかのように。いくら霊体とはいえあり得ないような事態だった。


「これは……!?」
『残念だったな! 我は不死身の露出卿、栄沢汚水! どんな攻撃も俺には通用せんのだ!』
「そ、そんなんありかよ!?」


仮名と啓太はその事実に驚愕する。そう、今の栄沢にはどんな攻撃も通用しない。その強力な思念と魔道書の力によってまさに魔王に相応しい不死身の体を手に入れてしまっていた。それが先程のともはねの攻撃を受けても無傷でいられた理由だった。


「む~、じゃあ今度はもっと強く……」
「や、やめろ、ともはねっ!? これ以上公園を壊すんじゃねえっ!?」


どこか不満げに再びその手に霊力を込めようとしたともはねに向かって慌てながら啓太が制止の声を上げる。確かにともはねの力は凄まじいが、強力すぎる。まだ未熟なともはねがそれを使い続ければ以前、なでしこの体になってしまった時のようなことになりかねない。それを思い出したのかともはねは落ち込みながらもその手を下ろす。同時に栄沢も大きな安堵の声を漏らす。どうやら不死身と言ってもともはねの攻撃は恐怖するには十分なものだったらしい。まあ塵一つ残さず吹き飛ばされたのだから当たり前かもしれない。

しかしどうすればいいのか。物理的な攻撃手段では通用しない。後考えられるとすれば成仏させること。だが啓太も仮名もそれを専門にしているわけではない。霊的な力でも通用しない相手にどう立ち向かえば。


『どうした、来ないならこちらから行くぞ―――!!』


宣言と共に栄沢がそのマントを脱ぎ捨てる。まるで真の姿を晒すかのように。いや、まさにその通り。そこには何もなかった。ただあるのは裸。紛うことなき全裸だけ。もはや語ることも必要もないほどのストリーキング、ヘンタイの姿がそこにはあった。


「いやあああ――――っ!?」
「きゃあああ――――っ!?」


その光景にいまりとさよかは悲鳴を上げることしかできない。当たり前だ。目の前にマントを着た全裸のヘンタイが現れたのだから。はっきり言ってトラウマものの光景だった。だがそんな中、啓太と仮名は表情一つ変えることなくそれと対峙している。あまりにも自分たちとは対照的な反応だった。


「ちょ、ちょっと啓太様!? 何でそんなに落ち着いてるんですかっ!?」
「そうですよっ! ……はっ!? ま、まさか……やっぱり啓太様も同じ趣味が……」
「ち、違うわ――――っ!? 何で俺がそんな趣味もっとるわけねえだろっ!?」
「だっていつもストリーキングで捕まってるんでしょっ!?」
「あ、あれは……その……」
「しっかりしろ川平、戦闘は既に始まっているんだぞ。奴から目をそらすな」
「わ、分かってるっつーの!」


いつかと同じやり取りをしながらも啓太は改めてヘンタイ、栄沢汚水と向かい合う。というかほんとなら向かい合いたくもない。


何が悲しくてこんなヘンタイの裸体を凝視せにゃならんのだっ!? いくら依頼だからって限度があるわっ!? だがこれに慣れつつある自分が怖い……というか仮名さんは既に慣れてしまっているようだが俺はまだその領域には踏み入るつもりはない! 俺は仮名さんとは違ってヘンタイではない! だが目を逸らすわけにはいかない。恐らくは奴の攻撃が始まるはず。それも絶対に当たるわけにはいかない攻撃が……


予想ではなく直感、いや予知に近い確信。それはこれから相手が間違いなく自分達の服を脱がす攻撃を放ってくるであろうこと。これまで数多のヘンタイ達と遭遇し、そして戦って来た、ヘンタイを統べる王たる裸王だからこそ分かるものだった。


『さあ、覚悟しろ! 貴様らもこちらの仲間入りをさせてやる!』


宣言と共に栄沢の持つ本から光が放たれる。それはピンク色のもやのようなもの、邪気の塊だった。だがそれに触れれば間違いなく身につけている服が消されてしまう。それを啓太と仮名は本能で感じ取る。そしてそこからまさに芸術とも言えるような神業が展開される。

『何っ!?』

栄沢は驚愕の声を上げる。そこにはまるで信じられないような光景があった。雨の様に降り注いでいる自分の攻撃、邪気。逃げ場など無いほどの圧倒的な物量。だがその隙間を縫うように、そして避けきれない物はその剣で、霊符で防ぎながらそのすべてを回避している二人の男の姿があった。それはまさにダンスを踊っているかのような優雅さがあった。その光景にいまりとさよかも呆気にとられるしかない。だが当人たちにそんな余裕は一片もない。あるのは唯一つ


『全裸になりたくない』


そんな情けない、だが切実な想いだけだった。


だがその想いの強さは不可能を可能にする程の物。その証拠に一発も邪気は二人を捕えることはない。まさにプロの技。それがヘンタイを相手にするためのものでなければ誇ることができる技術だった。だが啓太達にはそれを避ける以外に栄沢に対する対抗手段がない。このまま受けに回っていてはいずれ力尽きる。その時が自分たちの最期(いろんな意味で)となればやはり栄沢を成仏させるしかない。だがどうやって。そんな思考を巡らしている啓太と仮名の顔に変化が生じる。それは自分たちが避けた邪気。それが自分たちの後ろにいるいまりとさよかに向かって飛んで行ってしまう。位置関係から逃れることができない事態だった。


「ちょ、ちょっと嘘でしょー!?」
「いやあああ――っ!?」


いきなりの事態に双子は悲鳴を上げることしかできない。いきなり全裸になったヘンタイに、怪しい邪気による攻撃。それに目を奪われていた二人はそれに対応することができない。というか何で自分達がこんな目に合わなければならないのか。ちょっと啓太様とお近づきになろうとしただけなのに、ともはねには完璧に敗北し、ヘンタイの裸体を見せられ、今度は全裸にされんとしている。まさに踏んだり蹴ったりな状況。そんな現実に絶望しかけた時


「うおおおおおおっ!!」
「させるかあああっ!!」


二人の漢が二人の目の前に現れる。文字通りその身を盾にするために。それはまさに決死の覚悟。絶対に犯させるわけにはいかない領域を、事態を防ぐために献身。例え自分達の服が失われることになろうとも。その邪気が啓太と仮名を直撃し、身に纏っていた全てが消し去られていく。だが不思議と啓太の心は穏やかだった。


『ああ、やっぱりこうなるんだな』


そんなどこか納得したような、さわやかな気持ちが啓太を支配しようとした瞬間、


まばゆい光が辺りを包み込んだ。そう、まるで自分たちの姿を覆い隠すかのような救いの光が。それは


「か、仮名さんっ!?」
「か、川平! 今の内に何とかするのだ!」


仮名の光剣、エンジェルブレイドから放たれている光だった。その輝きがまるで太陽のようなまばゆい光を放っている。そう、全裸になってしまった二人の姿を隠すかのように。それによっていまりたち、そして一般人からはまだ啓太達が全裸になっている姿は見られていない。それは紳士たる、ヘンタイになることを認められない仮名史郎の最期の悪あがきだった。


「い、急いでくれ……川平……もう……長くはもたん! ぬ、ぬうううううっ!!」
「わ、分かった! 任せろ、仮名さんっ!」


か、仮名さん……! あんたって人は……! 役立たずのヘンタイだと思ってたが……間違いなくあんたは漢だ! 任せろ! あんたの犠牲は無駄にはしない! あんたが作ってくれた最後のチャンス、掴み取って見せる!



自らの全ての霊力を賭けて全裸のまま光剣を輝かせている仮名の魂の叫びを聞き届けた啓太は光で霞む目を何とか頼りにある物へと手を伸ばす。


それは黒いボストンバック。啓太が依頼を受けた時に一緒に持ってきた物だった。そしてその中にはある物が入っている。そう、替えの服が。それはこういった事態を予測した備え。かつてセバスチャンが用意していたのを見てから計画していた啓太の秘策。それが今、日の目を見る時が来た。(無論、来ない方が良かったのだが)


啓太はそれを手にしながらも霞む視界の中、仮名の元へと駆けて行く。己の役目を、約束を果たすために。


「仮名さああああん!!」
「川平ああああああ!!」


二人の男の叫びと共に、辺りを包んでいたまばゆい光が収まって行く。どうやら仮名の霊力が底をついたらしい。辺りは静寂に包まれる。まるで時間が止まってしまったかのように。いまりとさよかは目をこすりながらも自分たちを庇ってくれた二人に礼を言おうとする。だがそこには



何故か仮名のパンツに手をかけている全裸の啓太と、啓太にもたれかかるように抱きついているパンツ一丁の仮名の姿があった。


「きゃあああっ!? 何やってるんですかっ!? 啓太様っ!?」
「ま……まさか……本当に仮名様と啓太様は……これはいぐいぐに報告しないと……」
「ちょ、ちょっと待てお前ら――――っ!? これは違うんだっ!? 俺は仮名さんを助けようとして……なあ、そうだろ、仮名さん!?」
「………」


冷や汗を滝のように流しながら全裸の啓太が仮名に向かって助けを求めるが仮名は全く反応を示さず、その逞しい肉体で啓太に抱きついたまま。ピクリとも動こうとしない。自らの霊力を全て使いきった代償だった。


ちょ、ちょっと何なのこの人っ!? せっかくパンツを穿かせてやったのに自分だけ力尽きるとか!? 今回は電球の真似事しただけで退場っ!? どんだけ使えねえんだよっ! っというか俺も一体何してんだ!? まず自分から服着ればいいのにわざわざ仮名さんのパンツを穿かせるのを優先するなんてどう考えてもおかしいだろっ!? 場の空気に流されてしまったのがいけなかったのか……結局全裸晒しちまったっつーのっ!? てかおい!? そこの双子、まるで汚物を見るような目で俺を見るんじゃねえ!? お前ら庇ってこうなったんだから少しは感謝しろよっ!?


だが啓太はそのまま両手を使って自らの秘部を隠すことしかできない。自分に抱きついてきている仮名を振り払うこともできず、その場に立ち尽くすだけ。もう生きているのが嫌になるほどの惨状だった。


『思い知ったか……この俺を止めることなど誰にもできない! ははははははっ!』


自らの勝利を確信し、栄沢は高らかに笑いを上げる。自分は不死身、負けるわけがない。これで男二人は戦闘不能。残るは双子とツインテールの少女のみ。だが双子の少女は自分の姿の前に恐怖し、身動きすら取れない。もはや手を下すまでもない。そう確信した瞬間、


じ~っという擬音が聞こえてきそうなほど自分をじっと見つめているツインテールの少女の姿があった。


「………え?」


栄沢はそんなともはねの姿に呆気にとられるしかない。当たり前だ。何故裸体を晒している自分に向かってそんな視線を、態度を取ることができるのか。普通は悲鳴を上げ、恐怖し、逃げ去っていくかその場に座り込んでしまうというのに。そこにいる双子の少女のように。だが栄沢は気づく。


そう、ともはねは自分が全裸を晒してからも全く動じる様子を見せていなかったことを。


知らず、栄沢の背中に冷や汗が流れる。もう生身の体ではないにもかかわらず。それほどの寒気が、悪寒が体を支配する。それはともはねの視線。それが間違いなく自分の体の一点を見つめていた。紛れもない男の証を。全くためらいなく、自然に、それでもしっかりと。


同時にともはねがその視線を啓太へと向ける。いや、正確には啓太が隠しているその場所へと。再び、ともはねは栄沢へと向き直る。そして刹那に近い間の後


「小さいんですね」


なんでもないことのように、ぽつりと、死刑宣告を告げた。



「「「―――――――」」」


瞬間、声にならない衝撃がその場にいる者たち(男だけ)に駆け抜けた。まるで電流のように、いや、雷のような激しさをもって。


それはまさに男にとっては死刑宣告。その言葉は全ての男にとってはその存在を、価値を否定されるに等しい言葉、いや凶器といっても過言ではないもの。しかもそれが美少女によって、しかも間違いなく嘘偽りない、心からの感想。その無邪気さが残酷さが、逃れることができない絶望を栄沢へと与える。その心を完全に破壊してあまりある一撃、オーバーキルだった。


いまりとさよかは何故栄沢がそんなにショックを受けているのか分からず困惑している。だが霊力の枯渇によって意識を失いかけている仮名ですらその衝撃に体を震わせていた。もし今の言葉が自分に向けられていたら。想像するだけで寿命が縮む思いだ。

それは啓太も同じ。いや、それ以上に違う意味で啓太は戦慄していた。

それは今のともはねの反応。それは普通の少女ではありえない。全裸の男を前にしてまったく動じず、そのとどめを刺すような言葉を言い放つなど。いや、ともはねとしてはそんな気は毛頭なかったに違いない。ただ思ったことを素直に言っただけ。だが男の全裸に対して、その秘所に対して全く羞恥心がないこと。それがもっとも恐ろしいこと。いくら小さいとしてもあり得ない。だがその原因が何であるかなどもはや語るまでもない。


そう、それは間違いなく、紛れもなく、川平啓太のせい。

その裸体を、ストリーキングを何度も目にしているため。それがともはねの反応の理由。啓太はその逃れることのできない、自分の罪を自覚しながらも思わずにはいられなかった。それは仮名も同じ。


ともはね……恐ろしい子……!


その瞬間、栄沢はまるで魂が抜けたかのような、どこか安らかな顔で光に包まれていく。天に召され、そして昇天されていく。まるで憑き物が取れたかのように。少女のたった一言によって魔王にまで化した魂が召されていく。それが栄沢汚水の最期だった―――――




「ただいま、啓太さん。あれ……?」
「おう、おかえり。なでしこ」

なでしこはその手に買い物袋を下げながら部屋に帰ってくるなり驚きの表情を見せる。それは部屋の中。それが出てくる前よりも片付けられ、清掃されている。帰ってから掃除をしようと思っていたのにそれが終わってしまっていることに驚きを隠せない。だがそれだけではない。

「啓太さん、一体どうしたんですか……?」
「いや、たまには俺も料理しないといけないと思ってな。さあ、夕食にしようぜ!」

啓太はそのままエプロンを付けたまま台所から料理を運んでくる。どうやら夕食も作ってくれていたらしい。だがなでしこは首をかしげることしかできない。確かに啓太が料理をするときはあるがそれは自分に許可を取ってから。それは家事は自分の仕事だと啓太が知っているからこそ。なのにどうして今日に限って。

「……何かあったんですか、啓太さん?」
「な、何言ってんだ? とにかく早く食べようぜ! 冷めると不味くなるからな!」

啓太はどこか慌てながらも、それを誤魔化すようになでしこの背中を強引に押しながら部屋の中へと押し込んでいく。そんな啓太の姿を見ながらなでしこは思った。


まるで浮気を誤魔化そうとしている夫の様だと―――――



日が暮れかけた薫の屋敷。その一室、ともはねの部屋で大きな音が何度も響き渡っていた。それはまるで大掃除でもしているのではないかという騒音。その音は広い薫の屋敷でも他の者が気づいてしまう程騒がしい音だった。

「何をしているんだ、ともはね? 部屋にまで聞こえてきているぞ」

どこか呆れ気味に頭をかきながら白衣を着た少女、ごきょうやが現れる。だがともはねはそんなごきょうやに気づくことなくせわしなく、焦りながら部屋をあさり続けている。まるで自分の住処を作ろうとしている犬の様だ。その姿はいつもと変わらない。小さな子犬のような雰囲気を感じさせるもの。といっても年齢から言えば子犬なのだから当たり前といえば当たり前だが。

「……ともはね、何をしているんだ? 探し物か?」
「え~ん! はいごうひょうが見つからないよ~!? あれがないと大きくなれないよ~!? せっかくけーた様に見てもらえたのに~!」
「配合表……?」

涙目になりながらよく分からないことを呟いているともはねにごきょうやは首をかしげることしかできない。ともはねはあきらめきれないのかさらに部屋の中をひっくり返しながらそれを探し続ける。あと一歩のところで薬の効果が切れてしまい、慌てて部屋に帰ってきたものの置いてきたはずの薬の配合表が見つからず、ともはねは大捜索を行っているところ。だが事情が分からないごきょうやはそんなともはねにどうしたものかと途方に暮れている。そしてそんな二人の姿をドアの近くで覗き見している二つの影があった。それはいまりとさよか。その手には小さな紙が握られている。


二人は罪悪感を覚えながらもその場を後にする。自分たちの地位を守るために。

結局数年程度の時間稼ぎにしかならないことに気づかないまま―――――


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