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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/19 22:55
「ったく……結局前と同じことになっちまったじゃねえか……」

どこか恨めしそうな表情を見せ、体中に無数の歯形を付けた啓太がぼやく。服もボロボロになり、まるで獣に襲われてしまったかのよう。それはある意味真実だったのだが。

「ご、ごめんなさい、けーた様……」
「でも楽しかったですよ♪ 久しぶりに運動した気がします♪」
「楽しいのはお前らだけだろうがっ!? ちょっとはこっちの身にもなれっつーのっ!?」
「申し訳ありません、啓太様。後でちゃんと言って聞かせますので……」
「あ、ごきょうやちゃんずるいです! ごきょうやちゃんだって楽しんでたのに~」
「な、何を言っている!? わたしはそんなことは」
「ちゃんと尻尾が揺れてたの見たよ、ごきょうや」

そんな騒がしさを撒き散らしながら啓太達は屋敷の廊下を並んで歩いていた。庭でのフリスビー(途中からは鬼ごっこ)が一段落したため少し休憩しようという流れになったためだ。もっともともはねたちは特に疲労しているわけではなく、啓太の体力的問題が一番だったのだが。


まったく……結局散々な目に会ったぜ。何となく予想はしていたのだがやっぱりこいつらと遊ぶのは骨が折れる。ともはねの相手だけでいつも手一杯だったのだから当たり前っつーと当たり前だが……。しかし美少女達にもみくちゃにされるというある意味男の夢の様なシチュエーションだったはずなのに全くそんな余裕も感慨もなかった。まさしくこいつらが犬、いや犬神なのだと思い知らされたような気がする……まあ、マッチョな男たちにくんずほぐれつされるよりは雲泥の差だが………っといかんいかん!? あれはもう二度と思い出してはいけない記憶、トラウマだ! 心の奥に封印しておかなければ……! それはそうと


「そういえばたゆねの奴はどこ行っちまったんだ……? 結局帰ってこなかったけど」
「御心配には及びません。きっと山のふもとまで行ってしまったのでしょう。力を使い果たせば戻ってくるはずです」
「日常茶飯事」
「そ、そうか……でもあいつ一体何がしたかったんだ?」
「きっと遊びに加わりたかったんですよ♪ でも恥ずかしくて言えなかったんでしょうね~流石たゆねちゃん、つんでれです♪」
「あっそ……」
「つんでれってなんですか、けーた様?」

フラノの言葉に啓太は顔を引きつらせることしかできない。それが事実なのかどうかはさておきあの力は恐ろしい物がある。流石は薫の犬神の中で最強の犬神といったところか。もっともそれを使いこなせているかどうかははなはだ疑問だが。というか照れ隠しの度にあんなことになるなんて怖すぎる。ごきょうやたちは慣れた様子だったがその矛先が向けられかねない自分にとっては死活問題だ。決して冗談ではないレベルで。ちょっと本気で距離を置いた方がいいかもしれんな……スタイルは抜群なんだが命には代えられん。しかし収穫もあった。やはり少女の姿をしていてもこいつらは犬神、犬であるということ。ならば仲良くなるための方法もある。幸いにも状況からそれも可能だ。あとは

「あれ、啓太さん?」
「お、なでしこ? 今までどこに行ってたんだ?」

考え事をしながら歩いていると廊下の角でなでしことばったり出くわす。ちょうどよかった。今まさに考えていたところだ。だが一体どこに行っていたのだろうか。そんな疑問を抱いている中、なでしこの後ろから二人の人影が姿を現す。

「申し訳ありません、啓太様。わたしがなでしこを引きとめてしまっていたのです」
「せんだん? そっか、まあいいや。それよりなでしこ、ちょっと頼みたいことが」

そう言いかけたところで啓太は動きを止める。その視線の先にはなでしことせんだんの後ろに隠れるようにしてこちらの様子を伺っている少女の姿がある。それはいぐさ。どうやら二人と一緒に歩いていたらしい。だが啓太を前にすることでおどおどした様子を見せている。そんないぐさの姿に啓太はたじろぐことしかできない。明らかに自分がその原因であるのだから。だが不用意に声を掛けても先の繰り返しになってしまうの目に見えている。どうしたものかと考えていると

「申し訳ありません、啓太様。いぐさは少し男性を苦手にしていまして……気を悪くしないで頂けると助かります」

そんな啓太の様子を見かねたせんだんが助け船を出す。その言葉に啓太の表情に少しだが安堵が浮かぶ。どうやら本気で怯えられていたわけではなさそうだと。だが本当は啓太のヘンタイさがその八割以上の理由なのだがせんだんはあえてそのことには触れない。まさに気遣いができる淑女たる彼女の美徳だった。そんな中、ふと啓太が何かに気づいたようにいぐさの顔を凝視する。

「ひっ!?」
「………」

いきなり自分の顔をまじまじと見られたことでいぐさは小さな悲鳴を上げる。だが啓太はそんないぐさの様子に気づくことなくじーっとその姿を見つめ続けている。このままではよくないとせんだんが声をかけようとした時


「……やっぱりそうだ! お前あの時、森の中で会った女の子だろ!?」
「………え?」

啓太はどこか嬉しそうな声を上げながらいぐさへと近づいて行く。まるで喉に引っかかっていたものが、胸につかえていた物がなくなったかのように。そんな啓太の様子にいぐさはもちろん、その場にいた全員が呆気にとられてしまう。目の前の事態が全く理解できなかったからだ。

「あの……啓太様、おぼえてらっしゃったんですか……?」
「当たり前じゃん、こんな可愛い女の子なんて忘れるわけないし……でも眼鏡かけたんだな。あの時は掛けてなかったんで気づかなかったぜ。悪いな」
「い、いえ……」
「啓太様、いぐさとはお知り合いだったのですか……?」
「ん? まあ知り合いって程じゃないけど、儀式の時に偶然会ったことがあってさ。結局誘おうとしたんだけど振られちまって」
「あ、あの時はその……し、失礼しました……」

緊張によってどぎまぎしながらもいぐさは何とか啓太の言葉に応えていく。せんだんの後ろに隠れながらではあるが。懐かしさと思い出せたことによる喜びから啓太も次々にいぐさへと話しかけて行く。いぐさ自身もどうやら少しずつ慣れてきたのか一言二言ではあるが会話になりつつある。そんな二人の姿を興味深そうに皆見つめ続けていた。あの儀式の中でなでしこ以外に啓太と接触していた犬神がいたとは皆知らなかったからだ。その経緯もある意味啓太らしいものだったのだが。

(これは面白いことになってきましたよ~♪)

場をかき回すことに稀有な才能を持っているトリックスターフラノは楽しそうな笑みを浮かべながら二人の間に割って入ろうとする。だがその瞬間

「っ!?」

激しい痛みがフラノを襲う。その痛みはフラノのふくよかなお尻からのもの。悲鳴を何とか噛み殺しながらも振り返ったそこには目を閉じ、すずしげな表情を見せているごきょうやがいた。だがその手がしっかりとそのお尻をつねっていた。

『ひどいです~ごきょうやちゃ~ん』

涙目でそんな心の声を投げかけるもごきょうやは応じることなくフラノの行動を制止する。せっかく男性恐怖症の気があるいぐさがあそこまで啓太と会話できているのを邪魔させまいとする配慮だった。どうやら今回はあきらめるしかないと観念したのかフラノはしぶしぶその場から離れて行く。隠れたごきょうやのファインプレーだった。そんな水面下の動きがあったことなど気づかないまま啓太はさらにいぐさへと話しかけて行く。

「そういえばお前って序列二位なんだろ? なんでそんなに序列が高いんだ?」
「そ、それは……」

啓太は思い出したかのように尋ねる。それは序列のこと。薫の犬神達は皆序列を持っており、それはある意味力の優劣を現している。現にリーダーであるせんだん、力が強いたゆねなどは上位に位置しているのがその証拠。だが目の前のいぐさは言っちゃ悪いが全然強そうではない。強さじゃともはねの次ぐらいじゃないかと思ってしまうほど。それなのに何故。

「啓太様、いぐさは特殊な才能を持っていまして……それが彼女が二位である理由なのです」
「特殊な才能……?」
「はい。一言でいえば商才です」

自ら答えることができないいぐさに代わり、せんだんがその理由を啓太へと説明していく。

いぐさは元々コンピュータの操作、金銭感覚に優れていたところがあった。それを見抜いた薫がその才能を生かす場を与えたことでいぐさはそれを発揮。オンライントレードなどを通じて多くの利益を生み出した。いくら薫といえども今はまだ学生。九匹もの犬神を養って行くことは難しい。それができているのはいぐさが経済面でそれを支えているからこそ。まさに縁の下の力持ち、サポートの役目をいぐさはこなしているのだった。

「この屋敷もこの子のおかげで手に入れることができたようなものですよ」
「ま、まじかよ……」
「い、いえ……」
「お前そんなにすごい犬神だったのか……くそ、惜しいことしたな。なあ、今からでも俺んとこの犬神にならない!? ほんのちょっとでいいからさ!?」
「そ、それは……」

啓太のどこか興奮した言葉にいぐさは顔を赤くしながらもどこか満更でもないような表情を見せている。やはり自分をほめてくれたことが嬉しいようだ。啓太ももちろん本気でそれを言っているわけではない。どうやら会話ぐらいはできるようになったことが嬉しかったのがその理由。もっともいぐさの力のおこぼれにあずかりたいという魂胆もないわけではないのだが。

だがそんな二人のやりとりを眺めていたせんだんたちは突然、寒気を感じる。それは犬神の、いや女の本能の様な物。皆が一斉にそこへと視線を向ける。そこには


どこか黒いオーラを纏っているなでしこの姿があった。


その光景に彼女たちは戦慄する。なでしこの表情はいつもと変わらない。柔らかい笑みを浮かべている。だがそれが今、余計に怖い。本人は隠している気のようだがその不機嫌さがにじみ出ている。その理由はもはや語るまでもない。いつもはそれをネタにするフラノですら固まってしまっている。全く状況を理解していないのはお子様のともはねだけだった。

「け、啓太様、そういえば先程なでしこに頼みごとがあったようですが」

せんだんはこのままではよくないと瞬時に悟り、二人の間に割って入る。珍しく男性と話すことができているいぐさには悪いがこっちの方が事態が深刻だと判断したため。その行動によって一気に先程のまでの寒気が、緊張が霧散していく。ともはね以外の犬神達は心の中で大きな溜息を、安堵を漏らす。だが当の啓太は全くそのことには気づいていないようだ。もしかしたらなでしこは啓太だけには感じさせないような術を持っているのでは疑いたくなるほど。

「そうそう、すっかり忘れてたぜ。なでしこ、ちょっと手伝ってほしいことがあんだ」
「手伝ってほしいことですか……?」
「ああ、せんだんにもちょっと頼みたいことがあんだけど……」

啓太はそのまま先程思いついた策を実行に移すべく動き始めるのだった―――――




「たゆね、ちゃんと直すの手伝いなさいよ!」
「いい加減にしないと薫様にいいつけるんだから!」
「わ、悪かったって言ってるだろ!? ちゃんと僕も手伝うって!」

いまりとさよかの恨みすらこもった抗議の声にたゆねはたじろぎながらも謝罪することしかできない。いつもならもっとぶっきらぼうに対応するのだが今回のはどう考えても非は自分の方にあるため強く出ることができないでいた。もっともたゆねとしては納得いかない物があるのだが。

(う~~! 何で僕がこんな目に……)

たゆねはどこかぶすっとした不機嫌そうな様子でテーブルに突っ伏してしまう。今、たゆねたちは夕食前ということで食堂へと集まっている。既に自分を含めた全員が席についている。本当なら啓太がいるであろう場所へは近づきたくないたゆねではあったが流石に夕食抜きというのは割に合わない。育ち盛りでもあるのだがらなおさら。だが不満だけは晴れないらしい。あの後、たゆねは結局山のふもとまで駆け下り体力を使い果たしてしまいくたくたになってしまった。そのためその原因である啓太にさらに不満を募らせている。もっとも啓太からすれば逆恨みにも程があるのだが。本質的に子供っぽいところがたゆねの長所でもあり短所でもあった。そんな中

「あれ……?」

そんな声を知らずたゆねが漏らす。どうやらそれはいまりとさよかも同じらしい。三人とも同じようにきょろきょろとあたりを見回している。彼女たちはテーブルについている仲間たちの数を何度も数え直す。間違いなく自分たちを含めて九人。全員揃っている。だがそれこそがおかしい。何故なら今は夕食。自分たちの食事は当番制。そのため食事の際には何名かはその準備のために席をはずしている。それなのにこの場には全員がそろっている。確か今日はせんだんが啓太たちのために腕を振るうと言っていたはず。そんな疑問を口に出そうとしたその時

「いや~悪い悪い、久しぶりだったんでちょっと時間がかかっちまった!」
「皆さん、お待たせしました」

食堂の厨房から何故かエプロン姿(裸ではない)の啓太と台車を押しているなでしこが姿を現す。その光景にたゆねといまり、さよかは呆気にとられるしかない。だが他のメンバーたちは特に驚いた様子を見せていない。どうやら自分たちだけが知らなかったらしい。ともはねにいたってはどこかドッキリ、悪戯が成功したかのように笑いを抑えている。それに文句を言う前に啓太となでしこがその台車から次々に料理をテーブルに並べて行く。啓太はともかくなでしこの姿は様になっている。というか似合いすぎていて怖いくらいだ。そんなことを考えている間に夕食の準備が完了する。

「「「おお~~~!」」」

皆から同じように歓声が上がる。少女たちの前にはどこか本格的な料理が並べられている。見た目はどこか崩れているものもあるが間違いなく美味しそうな匂いが漂っている。これこそが啓太の狙い。いわゆる餌付けだった。情けない思考ではあるが犬でもある犬神にとってはきっと有効だろうという考えによるもの。

「せっかく招待してもらったんだしこれぐらいしねえとな。ちょっとなでしこにも手伝ってもらったけどほとんど俺が作ったもんだ。味はそこそこいけるはずだから食べてみてくれ!」

どこか自信満々な啓太の様子に隣にいるなでしこもどこか楽しそうに微笑みを浮かべている。どうやら本当に啓太が作った料理らしい。控えめに見ても料理ができるとは思っていなかった少女たちは驚きの表情を見せている。てっきりなでしこが作ってきたのだとばかり思っていたからだ。

だがそんな中、たゆねだけはまるで意地のように不機嫌な態度を貫いている。そんなことをしても自分はなびかないと主張するかのように。だが悲しいことに体は正直なのか空腹によってお腹が鳴り始める。幸いにも周りには聞こえていないようだが食べるものがこれしかないのだから仕方ない。そんなよくわからない言い訳を自分でしながらも皆がその手に箸を持ち食事を始めようとする。餌付けというシンプルな、古典的な手ではあるが思いのほか効果はあったようだ。

「「「いただきまーす!」」」

声を合わせながら薫の犬神達は一斉に料理に手を出していく。その様子を啓太は満足気に、なでしこは優しく見守っている。どこか子供たちが食事をしているのを見守っている夫婦の様な空気がそこにはあった。


ふう……久しぶりでちょっと心配だったが何とかなったか。まあ家ではなでしこがいるから作る機会がなかったがやっぱり体は覚えてるもんだな。一人暮らししてた時には作らねえとやっていけなかったし……少しなでしこに手伝ってはもらったが基本的には全部俺の料理だ。フラノやてんそうじゃねえがこれで少しでも好感度が上がってくれれば儲けもんだな。


そんな身も蓋もないことを考えながら啓太も料理に手を出そうとした瞬間、その手が止まる。何故ならそこには薫の犬神達全員がどこか驚いたような表情で箸を止めてしまっている光景があったから。なでしこもそんな皆の姿に驚き呆気にとられている。


「みなさん……どうかされたんですか……?」

なでしこがどこか不安そうに、恐る恐る尋ねるも少女たちは何故か固まったまま。まるで何かに驚いているかのように。

「な、なんだ……もしかしてそんなに不味かったかっ!?」


そ、そんなはずはっ!? 確かに久しぶりだったし、なでしこの料理には到底敵わないがそんなに固まってしまうほど味は悪くないはず。ちゃんとなでしこにも味見してもらったから間違いない! い、一体何が……!?


「ち、違います啓太様。とても料理はおいしいのですが……」
「うん、美味しいんだけど……」
「これって……」

どこか慌てたせんだんの言葉に続くようにいまりとさよかがどこか要領を得ない言葉を口にしながらある方向に、いやある人物へと視線を向ける。それに続くように他の犬神達も同じ人物へと視線を向ける。そこには


「ごきょうやの料理の味だよね……?」


どこか言い表せないような難しい表情を浮かべているごきょうやの姿があった。


「確かに、わたしもそう思ったんだけど……」
「ごきょうやちゃん、啓太様達を手伝ったんですか~?」
「え? でもごきょうやはあたしたちとずっと一緒にいたよ?」

皆同じことを思っていたのが分かり、どこかざわざわした雰囲気が食堂を支配していく。どうやら薫の犬神達は皆、啓太の料理がごきょうやの料理の味付けとそっくりだったことから驚いてしまったらしい。だが啓太には何が何だか分からない。

「えっと……何がどうなってんの……?」

そんな啓太の様子、そして周りの仲間たちの姿に一度溜息をつきながら、どこかあきらめをみせながらごきょうやはいつもどおりのクールな姿でそれに応える。


「……似ていて当たり前です。啓太様の料理はわたしの料理の味付けと同じなのですから」


その言葉に皆首をかしげることしかできない。だがそんな中、なでしこだけは何かに思い至ったのかはっとしたような表情を見せている。だが当の本人の啓太にはさっぱり理解不能だった。

「ごきょうや、啓太様に料理をお教えしたことがあったの?」
「え? 俺、ついこの間までごきょうやと会ったことすらなかったんだけど……」
「そうです。わたしが料理をお教えしたのはあなたのお父様、宗太郎様です」
「え!? 親父の!?」
「……ええ、わたしはかつてあなたのお父様の犬神だったのですよ、啓太様」

ごきょうやはどこか感慨深げに、目を閉じながら告げる。その表情からごきょうやの感情を読み取ることはできない。だがその言葉によって啓太はおおよその事情を悟る。

(そういうことか……)

どこか納得がいった表情を見せながら啓太は考える。川平宗太郎。今はイギリスで啓太の母と共に暮らしている父。啓太はその父から料理を教わっていた。普通は母から教わるのだろうが啓太の母は家事がからきしできない仕事人間。宗太郎はそんな母をサポートする主夫のような立場だった。そして宗太郎は啓太が物心ついた頃から既に一匹も犬神を持っていなかった。それを不思議に思っていた啓太だったがやっとその理由に気づく。

それは母の存在。啓太の母は一言で言うと嫉妬深い。犬神とはいえごきょうやの様な女性の犬神がいることを許せなかったのだろう。そして宗太郎はそんな母の言葉にはきっと逆らえなかったに違いない。だがこれで合点が言った。何故ごきょうやが初めて会った時に妙な視線を自分に向けていたのか。さっきのフラノの言葉の意味も。


「………」
「………」

どこか気まずい沈黙が二人の間に流れる。何か言わなければいけないと思う啓太だったが咄嗟に言葉が出てこない。いや、出てきたとしてもこんな全員の前で言うのも何だかはばかれる。ごきょうやも目を伏したまま。そんな中

「と、とにかくみなさん、料理を召し上がって下さい。冷めてはいけませんから」
「そうね。せっかく啓太様が作ってくださったんだからいただきましょう」

このままではいけないと判断したなでしことせんだんがその場の空気を変えるため皆に告げる。その言葉で何とかいつも調子を取り戻した犬神達は次々に料理に手を出していく。啓太もその流れに身を任せることにする。そんなこんなでサプライズである夕食はあっという間に過ぎて行くのだった―――――



「うーん……」

夕食後、自分の部屋に戻った啓太はどこか真剣に、ずっと何か考え事をしているかのような顔を見せながら唸っている。その真剣さは普段の啓太からは想像できないような深刻なもの。それほどの理由が今の啓太にはあった。それは先程のごきょうやとのこと………ではなく、お風呂のこと。決してごきょうやとのことをないがしろにしているわけではないが今すぐそれを何とかしようとしても無理が出るだろう。現にごきょうやは内緒にしていたかったみたいだし……まあ、それは日を改めるとして。

とにかく今は風呂! それが一番重要だ! 夕食後、俺はせんだんにお風呂を勧められた。なんでも温泉を引き込んでおり、ガラス張りの温室、大きなプールの様な豪華な風呂らしく、薫からもぜひ堪能してほしいと伝言があったらしい。確かに聞いただけでその凄さが、素晴らしさが伝わってくる。だがそれだけではない。きっと薫の奴も分かっているに違いない。

そう、今夜なでしこはもちろん、他の犬神達もそこに入るであろうということ。

それこそが一番重要だ! 男としてそれを見過ごすことなどできない! むしろ覗く……ではない見過すことの方が彼女たちに失礼だろう、決して俺がヘンタイだからではない。こう……なんていうか、川平啓太としてこれは避けて通れない儀式のようなものだ!

そんな訳が分からない理論を展開しながら啓太は静かに彼女たちの入浴時間を探るため動きださんとする。だがその瞬間、閃光のように啓太の脳裏にある光景が蘇る。それは

今日見たたゆねの暴走によって破壊しつくされた森の惨状だった。

その瞬間、啓太はまるで飛び跳ねるようにその動きを止める。まさに獣様な動きだった。


あ、あぶねえ――――っ!? 俺、今何考えてたんだっ!? 死ぬ気か俺っ!? なでしこだけならともかくたゆねにそんなことしたらどうなるか想像したくもない……っていうか間違いなく死ぬ! いや、助かったとしても間違いなく全身包帯姿になるのが目に見えてる。これは予想ではなく確信だ! ふう……マジで危なかった……危うく悪魔のささやきに身を任せるところだった……俺が紳士でなければ命がなくなっていただろう……

啓太が冷や汗を流しながら一人でぶつぶつ独り言をつぶやいていると

「けーた様! 一緒にお風呂はいりましょー!」
「ともはね? 一緒にって……俺とか……?」
「はい! けーた様一人だけじゃ可哀想ですから!」
「そ……そうか……そうだな! じゃあ一緒に入るか、ともはね!」
「はい、みんな一緒の方が楽しいですよ!」

啓太は何故か心の涙を流しながらともはねと一緒にお風呂へと向かって行く。ともはねは啓太と一緒に入浴できるからか上機嫌だ。そんなともはねの姿をどこか感慨深げに啓太は見つめている。


うう……ともはね、なんていい子なんだ! 一人で入る俺のために誘いに来てくれるとは! ついさっきまで邪なことを考えていた自分が恥ずかしい。心が洗われるようだ。よし、ここは明日の修学旅行に備えてともはねと一緒に薫の家の風呂を堪能させてもらうことにしよう!


啓太は気分を切り替え、上機嫌にともはねとともにお風呂へと向かって行く。そんな啓太の雰囲気を感じ取ったのかともはねもはしゃぎながらその後についていく。だが啓太は気づいていなかった。それはともはねの言った『みんな』という言葉。その意味。ともはねは幼いころから女性だけの犬神の中で生活してきた。そして薫とも一緒にお風呂に入っている。そのため男と女が一緒にお風呂に入ることの意味をよく分かっていなかった。純粋な子供であるが故の無知。いつもの啓太ならそのことにも気づいたかもしれない。だがフラノ達と遊んだことで体力的に、たゆね達とのことで精神的に疲れていた啓太にはそれができなかった。

そしてその結果がここにある。


「………え?」


その声は果たして誰のものだったのか。だがそんなことすら啓太の頭にはなかった。それは目の前にいる少女達も同じ。ただいつもと違うところがあるとすれば………互いに一糸まとわぬ姿、全裸だったこと。

啓太はただその光景に目を、言葉を奪われてしまっていた。そこにはまさにこの世の全て、桃源郷がある。もはや言葉は必要ない。いや、言葉で表すことなどおこがましいと、後の啓太は語る。それでもあえてそれを為す。透き通った肌、美しいライン、大小様々な胸、もはや大きさなど何の意味もないと思えてしまうほどの光景。風呂上がりのせいで普段よりも蒸気した頬も素晴らしい。今ここで死んでも悔いはない。そう思えるほどの光景。鼻血を出すことすらできない衝撃だった。

そんな啓太の突然の登場に少女たちの顔が驚きと羞恥に染まる。唯一状況が分かっていないともはねだけがぽかんとしている。そして少女たちの甲高い悲鳴が響こうとしたその瞬間、


「啓太さんっ!! 今すぐ出て行きなさいっ!!」


そんな鬼気迫った、いや鬼よりも恐ろしいかもしれない声が響き渡る。その衝撃によって悲鳴を上げようとしたせんだんたちですら驚き、動きを止めてしまう。そこには普段の温和な、穏やかな姿からは想像もできない、本気で怒っているなでしこの姿があった。もしその矛先が自分に向けられていたから間違いなくトラウマに、泣いてしまうほどの迫力だった。そして


「ご、ごめんなさ―――――いっ!!」


その声にまさに光を超える速さで反応し、脱兎のごとく啓太は走り去ってしまう。まさに悲鳴に近い絶叫をあげながら。その光景にせんだんたちは呆気にとられるしかない。ついさっき裸を見られてしまったことすら忘れてしまうほどの衝撃だった。だがそれを向けられた啓太は自分たちの比ではないだろう。そしてそれは当たっていた。

まさに啓太にとって忘れることができないトラウマ。一緒に暮らし始めて唯一、啓太が本気でなでしこを怒らせてしまった記憶。それと同じ姿を、声を聞いてしまったことで啓太はまさに本能のまま逃げ出してしまったのだった。それはたゆねですら可哀想なのではと思ってしまうような光景だった。


「な、なでしこ……何もそんなに怒らなくてもよかったんじゃなくて……?」

どこか恐る恐る、まるで爆弾でも触るかのようにせんだんが皆の意見を、総意を伝える。知らず皆息を飲んでいた。それほど先程のなでしこの姿は恐ろしいものだった。普段怒らない人が怒ると怖いと言うがそんな次元を遥かに超えたもの。できれば夢だと思いたいほど。そんなドン引き、怯えている皆の姿に気づいたのか、


「い、いえ、その……みなさんの裸を見られてはいけないと思って……!」


慌てていつもの調子戻りながらなでしこは何とかその場を誤魔化そうとする。なでしこ自身どうやら反射的にしてしまった行動らしい。自分でも驚いているのかぱたぱたと落ち着かない様子。いつものなでしこに戻ってくれたことでせんだんたちも安堵のため息をつく。文字通り生きた心地がしなかった。だがそんな中、ふと気づいたようにいまりが疑問を口にする。


「あたしたちのって……じゃあなでしこは見られてもよかったの……?」


それは先の言葉から感じたいまりを含めた全員の疑問。それはなでしこは自分の裸を見られたことを怒っていたのではなく、啓太が自分たちの裸を見たことを怒っているかのようだったから。


「え? あ、あの……それは……その……」


なでしこは自分の言葉の意味を思い返し、真っ赤になりながら顔を両手で隠し、いやんいやんと首を振っている。どうやらいまりの言葉は正鵠を射ていたらしい。そんな恋する少女のようななでしこの姿にせんだんたちは呆気にとられるような表情を見せるだけ。もはや啓太に裸を見られたことなど微塵も頭に残ってはいなかった。あるのはただ一つ。


『このバカップル、早く帰ってくれないかなー』


それが全員の心の声。それが薫の犬神達(ともはね除く)が初めて心の底から一致団結した瞬間だった―――――


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