「ハアッ……ハアッ……!」
息を切らせながらもただ必死に駆ける少女。その勢いによってツインテールに結われた髪がぴょんぴょんと跳ねている。そのどこか微笑ましい光景にすれ違う通行人達は思わず笑みを漏らしてしまう。だがそれに少女は全く気付かない。いや、気づくことができる余裕すらなかった。
(くそっ……ともはねの奴どこに行ったんだ……!?)
ともはねの体を持つ啓太が内心でそう愚痴をこぼす。今、啓太は手分けしてなでしこの体になってしまっているともはねを探しているところ。本来なら仏像を探す方が重要なのだが今はそんなことをしている場合ではない。一刻も早くともはねを見つけないと面倒なことになりかねない。なでしこの様子からもそれは明らか。だが一体どこに行ってしまったのか。小さなともはねの体になってしまったことで走るだけでも一苦労だ。目線も体力も本当に子供のそれ。何とか慣れてきたものの不便であることには変わりない。早くともはねを見つけた後、元の姿に戻らなければ……
それは切実な問題。あえてなでしこの前では触れなかった問題。いや、恐らくはなでしこも気づいていたはず。それはなでしこが俺の体になってしまっているということ。そう、俺という男の体に。今はまだいい。体を動かすだけならなんの問題もないはず。だが時間が経てば間違いなくその問題に突き当たるはず。トイレという、逃れることができない問題に。それは間違いなくなでしこにとっての羞恥プレイになってしまう。いや、この場合には俺にとってのかもしれない。それだけは……それだけは何とか防がなくては! これが逆の立場だったなら全く問題ない、むしろ望むべきところだったのだが……
と、とにかく今は走り続けながらともはねを見つけなければ! 啓太がそう決意を新たにしたその瞬間、
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
啓太はそのまま曲がり角で誰かにぶつかってしまう。いや、その勢いのままその人物に突っ込んでしまったと言った方がいい。どうやら声から女性らしい。
いてて……しまった、焦ってて前をちゃんと見てなかった。だが幸い怪我はせずに済んだらしい。ともはねの体を傷つけずに済んでよかった。どうやらぶつかった相手も大事ないらしい。まあぶつかったといっても小さなともはねの体だからな……ん? そう言えば俺、今何か握ってままになってる? 何だこれ? なんかすっげえやわらかいんですけど……
「もう、一体なんだよ……ん? ともはね?」
「え……?」
いきなりともはねの名前を呼ばれたことで啓太は驚きの声を上げる。顔を上げたそこには一人の少女がいた。
ショートカットの髪に丈の短いTシャツとホットパンツという露出の高い格好。どこかボーイッシュな雰囲気を纏っている。啓太はそんな少女の姿に目を奪われていたもののすぐに我に返る。ともはねを知っているということは恐らくは薫の犬神の中の一人なのだろう。明らかな人外の気配からも間違いない。だが自分がともはねではないことを分かっていない。ならそれを説明してこの少女にも協力してもらおう。啓太がそんな考えを巡らせていると
「ちょとともはね、いつまで僕の胸を揉んでるのさ?」
たゆねがどこか呆れ気味に告げる。その言葉でようやく啓太は気づく。今、自分が鷲掴みにしているのが目の前の少女の胸であることに。
「わ、悪いっ!? これはわざとじゃなくってっ!?」
「ともはね……?」
啓太は条件反射のように一瞬で目の前の少女から距離を取る。だが少女はどこか不思議そうな表情を浮かべているだけ。啓太はようやく思い出す。今、自分がともはねの姿であったこと。だからこそ目の前の少女は胸を触られても平気な様子であるのだと。
あ、あぶねえ……もし俺が今、元の姿だったらどうなっていたか……だが凄まじい大きさの胸だった。なでしこにも匹敵しかねない大きさだ。っていうか女の子の胸に触ったのは初めてだったがあんなに柔らかいとは……これはぜひとももう一度……じゃなくて!? ここは何とか誤魔化さなくては!? 今、自分がともはねじゃないことがバレたらまずい。確かともはねに聞いたことがある。それは薫の犬神達の話。先日会った三人以外の犬神がどんな奴であるかを俺は聞いていた。その特徴と目の前の少女は一致している。そしてその内容が脳裏に蘇り、戦慄する。
目の前の少女は薫の犬神の中では最も強い犬神。そして言葉よりも手が先に出るタイプ。まさに今の状況ではもっとも危険な相手。な、何とかやりすごさなくて……えっと……名前は確か……
「えっと……た……たゆね……?」
「? どうしたの、ともはね? なんか様子が変だけど……拾い食いでもした?」
「う、ううん、そんなことないよっ! た、たゆねこそどうしてこんなところに!?」
「ジョギングだよ。最近体がなまってるからね。ともはねも一緒に来る?」
よ、よし! どうやら名前は間違ってなかったらしい。助かった。でもともはねの口調を真似てしゃべるのは何かくるものがある。まるで幼児プレイでもしているかのよう。まあそんなものしたこともないのだが。っとそんなことよりも早くこの場を離れなければ! このままバレでもしたらひどい目に会う。俺の直感がそう告げている!
「ご、ごめん、あたし用事があるからっ!」
啓太はそう言い残した後、脱兎ごとくその場を後にする。そんないつもとはどこか様子が違うともはねをたゆねは追おうとするもその姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「変な奴……」
首をかしげながらもたゆねは気を取り直しながらジョギングを再開する。彼女がその理由を知ることになるのはもう少し後のことだった………
「なにをしているのですか、なでしこ?」
はけはその手に扇を構えながら目の前にいるなでしこに対峙する。それはどこか優雅さすら感じられるほど。だがそんな姿とは裏腹にはけの胸中は穏やかなものではなかった。
今、はけがここにいるのは啓太へと依頼を頼むため。もっともいつもの様に宗家からではなく薫からの依頼ではあったのだが。そんな中で先程の光景をはけは目にする。なでしこが何かに向かってその力を放とうとしている光景に。もし自分が割って入らなければ街に被害が出ていたであろう規模の攻撃だった。それはまるでいつかの日の再現。はけはいつでも動けるよう、臨戦態勢のままなでしこを見据えている。それはまさに本気のはけの姿。そうしなければならない程の理由がなでしこにはある。
先程の攻撃。何とか防ぐことができたものの間違いなく煉獄レベルの攻撃。複数の犬神が合わさって初めて可能な程の威力。それをたった一人で、息を切らすこともなくやってのける。まさに最強の犬神の名に相応しい力。だがそれすらもその力の一端にすぎない。何故ならなでしこはその力の大半を天へと返しているのだから。それをしても尚、今の自分と互角以上の力を持っている。まさに怪物と言ってもおかしくない程の力。だがはけはそんななでしこを危険視することはなかった。なでしこは三百年以上前から戦うことを放棄していたから。それは今に至るまで決して破られることはなかった戒め。それなのに一体どうして。
だがいくら考えても仕方ない。ともかく今は目の前のなでしこを止めなくては。はけは思い出す。やらずになる前のなでしこの姿。普段の温和な、穏やかな姿からは想像もできない程の獰猛さ。それをなでしこは戦いの際に見せる。まさに戦闘狂、闘争本能をむき出しにした獣。ある意味、犬神という存在の原初の姿。もし、その頃に戻ってしまっているのだとしたらこちらも本気で立ち向かうしかない。天に返した力がない今なら自分でも足止めぐらいはできる。その間に啓太が来てくれればあるいは。
決死の覚悟と共にはけはその扇を構える。だが目の前にいるなでしこは先程から身動き一つ見せない。一体どうしてしまったのか。まだ自分はなでしこに攻撃も何もしかけてはいない。はけが訝しみながらも話しかけようとしたその時
「うわあああん! はけさまあああっ!!」
なでしこはその眼に涙を流しながら、泣きながらはけに向かって抱きついてくる。はけはそんななでしこにされるがまま。当たり前だ。あの状況からどうしてこんなことになると予想できるだろう。だがそんなはけの困惑に全く気付かないままなでしこははけに抱きついたまま泣き続けている。まるで子供のように。
「お、落ち着きなさい、なでしこ。一体どうしたというのです?」
「う、うう……あたし、あたし……」
そんななでしこの姿に一気に毒気を抜かれてしまったはけは呆れながらもあやすようになでしこに話しかける。だがなでしこは泣いてばかりで要領を得ない。一体何がどうなっているのか。はけがどうしたものかと途方に暮れていると
「おーいっ! お前らーっ!!」
そんな少女の声がはけの耳に響いてくる。目を向けたそこにはこちらに向けて大きく手を振っているともはねの姿があった―――――
「全く……ちゃんと人の話は聞けよ、ともはね」
「ごめんなさい……けーた様……」
「とにかく無事でよかったぜ……お前はとりあえずここでじっとしてろ。これ以上なでしこの体を使うのは禁止だ。いいな?」
「はい……」
ともはねは啓太の説教を受けながらしゅんとした姿を見せている。実際にはけがいなければ大変なことになっていたのだからともはねも返す言葉がない。はけはそんな二人の様子をどこか不思議そうに眺めている。一応啓太から事の経緯を聞いているため事情は理解しているのだがやはり実際に目にするとおかしなものがある。姿だけ見ればともはねがなでしこに説教しているように見えるのだから。
「よし……そういえば助かったぜ、はけ。さんきゅーな。お前がいなけりゃやばかったわ」
「い、いえ……それはいいのですが……」
「? 何だよ? 何か気になることでもあんのか……?」
啓太はどこか変な様子を見せているはけに首をかしげることしかできない。だがはけは何かに気づいていながらもそれを口に出していいものかどうか迷っているかのよう。一体何を気にしているのか。だがしばらくの間の後、はけは一度深呼吸し、真っ直ぐに啓太を見つめながら
「啓太様……あなたは……驚かれないのですか……?」
静かに、確かめるようにそんな疑問を口にする。それはどこか核心を隠した、誤魔化した問い。そこにはもし、啓太がそのことに気づいていないならば誤魔化せるようにというはけの意図が込められていた。
啓太はそんなあいまいな問いにどこかぽかんとした表情を見せている。それははけの言葉の意味がすぐに理解できなかったから。だがその意味に気づいたともはねがどこかはっとしたような表情を見せる。そんなともはねの姿を見ることでようやく啓太ははけが何を自分に尋ねているのか悟る。
「ああ、そのことか……二人ともなでしこには内緒にしといてくれよ。あいつ、俺には隠してたいみたいだし……」
啓太はどこかばつが悪そうに頬を掻きながら告げる。まるでまずいことをしてしまった、知られてしまったという姿を見せながら。はけはその言葉と姿で悟る。啓太がなでしこの力のことを既に知っていたのだと。
「啓太様……一体いつから……?」
「うーん……確か契約してから結構すぐだったかな……? まあなんとなくだったけど」
はけはそんな啓太の言葉に驚きを隠せない。てっきりなでしこがそのことを自分が知らぬうちに啓太に伝えたのかと思ったがそうではないらしい。
「啓太様は……なでしこに何も聞いてはいないのですか……?」
「まあな。あいつも俺には知られたくないみたいだし……まあ、いつかは話してくれるだろうから気長に待つさ」
全く気にした風のない啓太の姿にはけは呆気にとられるしかない。何故そんな態度を取っていられるのか。そう、自らの犬神に隠し事をされているというのに。それも普通ではない程の隠し事を。契約を破棄されても仕方がない程の秘密を。
「啓太様は、何故そこまでなでしこのことを……」
それは無意識に近いはけの問い。それは隣にいるともはねの問いでもあった。それを
「決まってんだろ、あいつが俺の犬神だからさ」
啓太は何でもないことのように、あっさりと、当たり前のように答えた。
その言葉にはけはしばらく驚き、呆然としながらもすぐに微笑む。まるで自らの孫を見るかのような、そんな視線を啓太へと向けながら。
「な、何だよはけ? 気持ち悪いぞ」
「いえ……なんでもありません」
はけは確信する。自分の心配など全くの杞憂だったのだと。この方には心配など無用なのだと。その姿にかつての主の、そして初代の面影が見えた。同時に安堵する。間違いなくなでしこが、最高の主に仕えることができているのだと。啓太が間違いなく、誰よりもなでしこのことを理解しているのだと。思わずその関係に嫉妬を抱いてしまうほどに。
「裸王! やっと追いついたぜ!」
「啓太さん、大丈夫ですか!?」
そんな中、騒ぎを聞きつけたなでしこたちが啓太達の元に集まってくる。どうやら皆無事の様だ。もっとも係長は親方に担がれ、ドクトルはその場にはいなかったが。
「ともはね、大丈夫!? 怪我はない!?」
「う、うん、大丈夫だよ、なでしこ」
「心配ありません、なでしこ。わたしが来た時には既にともはねは止まっていましたから」
「は、はけ様!? どうしてここに?」
ともはねを心配しているなでしこに向かってはけが説明を始める。無論、先程の話や暴走のことは隠したまま。啓太もそれを見過ごしながら改めてその上空に目を向ける。そこには自分たちの様子を観察しているかのように舞っている双子の仏像の姿があった。それを何とかしなければ事態は収まらない。だが今なら何とかなる。何故なら
「はけ、お前も手伝ってくれ!」
「承知しました」
ここには最も頼りになる存在、はけがいるのだから。偶然ではあるが本当に助かった。はけがいれば何とかなるだろう。だがはけがその扇を使い、力を見せようとしたその瞬間、
「いえ、それには及びません。裸王」
そんな聞き覚えのある声が辺りに響き渡る。その声に啓太達は驚きを隠せない。何故ならその声の主、ドクトルは上空に、双子の仏像のすぐ傍に姿を現したのだから。
「っ!?」
いきなりの事態に仏像たちも驚いたような動きを見せる。仏像たちは相手の動きを感じ取り、読みとることに優れた力を持っている。それは先程のともはねとのやり取りからも明らか。だがそんな仏像ですらドクトルが接近していたことに気付けなかった。はけもその気配を全く感じ取ることができず、驚きの表情を見せている。
それこそが覗きのドクトルの力。まさに神すら気づかせない程の隠遁術。もっとまともなことに使えば間違いなく世のためになるであろう力。もっとも本人は覗き以外に使う気はないのだが今回は自らの王たる裸王のためにその力を発揮したのだった。
ドクトルは一瞬でその手に仏像を手に取る。だが仏像の内の一体が間一髪のところでその手から逃げ出す。まさに意地とも言える動きを以て。流石のドクトルもその動きを追うことはできない。仏像はそのまま遥か彼方へと逃走を開始せんとする。
「や、やべえっ!」
啓太が焦りの声を上げる。ドクトルの活躍によって片方の仏像は捕まえることができたがそれだけでは意味がない。双子の仏像を両方捕まえなければ元には戻れない。このままでは逃げられてしまう。どうすれば。そんな啓太の不安を吹き飛ばす勢いの声が辺りに響き渡る。
「ここは俺たちに任せな、裸王!」
「やっと僕たちの出番が来ました!」
「っ!? 親方、係長っ!?」
啓太はその声に、そして光景に言葉を失う。それはまるで砲丸投げ。親方が係長の体を縛っているひもを持ちながら回転を始める。さながら砲丸投げの選手のように。その勢いは凄まじく、遠心力も相まってその亀甲縛りの縄が係長の体に食い込んでいく。ぎしぎしという効果音と共に。まさに正気とは思えないような危険な行為。啓太は慌てながらそれを止めようとするが
「だ、大丈夫です……裸王! これは僕にとっては日常茶飯事……むしろご褒美の様なものです!」
「何言っとんじゃ!? 明らかにやばい音がしてんだろうがっ!?」
「甘いぜ裸王! 係長はこんなもんじゃねえぜ! 行くぜ、係長!!」
「は、はい! お願いします、親方!!」
「どっせ―――――いっ!!」
叫びと共に親方はその手を離す。瞬間、まるで解き放たれたかのように係長が空に、天に舞う。それはどこか神々しさすら感じさせる光景。弾丸のように発射された係長は凄まじい速度で仏像へと迫る。その光景に仏像は身動きが取れない。当たり前だ。何故かサラリーマンの様なスーツを着た小太りの男が紐に縛られたまま、しかも光悦の表情を見せながら飛んできているのだから。加えてその思考。仏像たちの力である相手の思考を読み取る力。それははけが相手だとしても後れを取らない程のもの。しかしそれが今、何の意味もなさない。
何故なら仏像には係長の、いや変態三賢者の思考が理解できなかったから。むしろ理解できた方が問題なのだが。そう言った意味で仏像たちにとって彼らはまさに天敵とも言える存在だった。
「アイキャンフラ――――イ!!」
そんなわけが分からない叫びと共に係長がその唯一使える口で仏像を捕獲する。まるでパン喰い競争のように。そしてそのままの勢いで地面へと墜落する。それは逃れることができない物理の結果だった。
「か、係長―――――っ!?」
啓太は悲鳴を上げながらその墜落地点へと駆ける。その瞬間、啓太は気づく。それは自分の体。それがいつの間にか元の体に戻っている。どうやら係長が仏像を捕獲した時点で解除されたらしい。だが今はそれは後だ。今は一刻も早く係長を見つけなければ。っていうのか生きているのかどうかも怪しい。とても人間業ではないような光景だった。だが
「係長っ!? お前大丈夫なのかっ!?」
「と、当然です! 僕は痛みに対しては無敵です、裸王!」
そこにはボロボロになりながらもいつもと全く変わらない係長の姿があった。もはや人間であるのかどうかすら怪しいがとにかく無事でよかった。
「心配いりません、裸王。我らはあなたがいる限り永久に不滅です」
「そういうこった! これからも頼むぜ、裸王!」
「お、お前ら………」
いつのまにかやってきていたドクトルと親方がどこか誇らしげに啓太へと笑みを向けてくる。まるで長い間共に戦い続けてきた戦友のように。その光景に知らず啓太の胸が熱くなってくる。まさに自分への揺るがない信頼と忠誠がそこにはあった。
こ、こいつら……そんなにも俺のことを……なのに……なのに俺はこいつらのことをヘンタイだのなんだのと……! 俺が間違ってた! こいつらは確かにヘンタイかもしれない、でも間違いなく俺の仲間だ! 命を掛けて俺を助けてくれた……そう、まさに心友だ!
啓太がそんな心の涙を流しながら三人へと近づこうとしたその時
「君達、ちょっと署まで一緒に来てもらえるかな?」
「…………え?」
そんなどこかで聞き覚えのある声が傍から聞こえてくる。冷や汗を流しながら振り返ったそこにはお巡りさんがいた。紛うことなき警官がいた。それも知っている警官だった。何故なら
「またお前か、川平啓太! いい加減留置場じゃすまなくなるぞ! 他の連中もだ! さっさと付いてこい!」
それはいつも啓太がストリーキングで捕まる時にお世話になっているから。もはや啓太の存在は警官達の中では常習犯となっていた。
「ち、違うっ! 俺は何の関係もねえ! ほ、ほら、俺は服を脱いでもいないし、全裸でもないだろっ!?」
「おお、流石は裸王。我らと共に留置場まで来てくださるとは!」
「持つべきもんはやっぱ友達だよな!」
「やはりあなたは最高です、裸王様!」
「いやああああああっ!!」
啓太は叫びを上げながら思った。何故今に限って自分はともはねの姿ではないのだろうと。
それが啓太の記念すべき、ストリーキング以外での留置場送りの瞬間だった。
「い、いいんですか、啓太さんが連れてかれちゃいましたけど……?」
「相変わらず面白い方ですね……啓太様は……」
「ええ……」
「けーた様ー! またすぐ迎えに行きますねー!」
そんな啓太の姿をなでしこたちは見送るだけ。結局いつも通りの結果に落ち着くある日の休日だった―――――