「啓太さん、痛くはありませんか?」
「いや、大丈夫」
そんなのんびりとしたやりとりが啓太となでしこの間でかわされる。そこにはどこか熟年の夫婦の様な雰囲気がある。今、二人は部屋でくつろいでいるところ。具体的には啓太がなでしこに膝枕してもらいながら耳かきをしてもらっているところだった。
「はあ~、何かこうやってゆっくりするのも久しぶりな気がするな~」
「ふふっ、そうですね。最近は啓太さんもお忙しかったですから」
「まったくだ。休みなのに何で平日より疲れなきゃいけないんだっつーの……」
啓太はなでしこの膝枕をしてもらいながら大きな溜息を吐く。その脳裏には先日の仮名からの依頼が蘇っていた。あの時には本当に散々な目に会った……というか思い出したくもない。依頼だけでも疲労困憊だったというのに何故かやってきたともはねを含めて五匹の犬神の遊び相手までするはめになってしまった。しかもなでしことごきょうや以外は間違いなく本気でかかってくるもんだからたまったものではない。
確かに俺は薫の犬神達と仲良くなりたいと思っていたが決してあんなシチュエーションを望んでいたわけではなかった。仲良くはなれたのだと思いたいが……あいつらの様子を見てるとどうにも不安になってくる。まあとにかくそれを含めて最近は休日には依頼とともはねの遊び相手によってまともに休みを取れていなかった。まるで本当にサラリーマンになった気分だった。
「でも本当にいいんですか? わたしも休みをいただいてしまって……」
「いいのいいの! なでしこも働きづめだし今日はゆっくりしようぜ!」
どこか遠慮がちななでしこの言葉を強引に言いくるめる。俺を含めなでしこにも今日はゆっくりしてもらう。それが俺の目的。先日の薫の犬神達と遊んでいる中で気づいたのだが最近俺はなでしこをちゃんと構ってやれてなかったかもしれない。なでしこは性格上そういったことはあまり表に出さないし、恥ずかしがるので先日のように戯れることもない。だがなでしこは俺の犬神。ならその辺も何とかしてやらければ。もっとも自分はなでしこの主人、飼い主ではあるのだがあまりそんな意識は持てていないのが現状だ。だが仕方ない。契約した時にはなでしこの方が外見的には歳上だったのだから。
そして何よりも最近俺にはなでしこ成分が足りない! 最近何か見えない力が働いているかのように脱がされるようになってからこうしたまったりした時間が持てていなかった。なら今日それを補充する必要がある!
「分かりました。でも夕飯はどうされるんですか?」
「そうだな……久しぶりに寿司でも食いに行くか、依頼の報酬も入ったし!」
「あんまり使いすぎちゃだめですよ啓太さん。せっかく仮名様から多めにいただけたんですから」
「分かってるって! でも今日ぐらいは贅沢したって罰は当たらないさ!」
そう言いながら俺はなでしこの膝の上で寝がえりを打つ。なでしこはどこか苦笑いしながらも優しく俺の頭を撫でてくれる。
そう、これだ! これが俺の日常だったはず! やはりなでしこの膝枕は最高だ! この柔らかさと触り心地は安眠枕を軽く凌駕する。まさに男の夢の一つ。それを今俺は手に入れているのだ! ……っと、膝枕といえばそういえばちょっと前に何故かなでしこが俺の膝の上で寝てたことがあったがあれは一体何だったのか……まあ、あまり深くは聞けなかったが……。だが心なしかなでしこも機嫌が良さそうだ。いくらなでしこといっても犬神。スキンシップは必要だろう。もっとも俺がスキンシップをしたいのが一番の理由なのだか。
よし、決めた! 今日、俺は一歩も外には出ない! 今日は一日中なでしこといちゃいちゃ……ではなかった、スキンシップをする!
そんな啓太の姿に少し呆れながらもなでしこが耳かきを再開しようとしたその時
「けーた様―っ! 遊びましょうーっ!」
チャイムの音と共に元気な子供の声がドアから響き渡る。もはやそれが誰かなど考えるまでもない。啓太の決意はわずか数秒で脆くも崩れ去ってしまう。なでしこも流石に掛ける言葉が見つからないようだ。だが無駄な抵抗だと分かっていながらも啓太は動こうとはしない。まるで何も聞こえていないと、そう自分に言い聞かせるかのように。
頼む……ともはね……今日は、今日だけはお父さんを休ませてくれ……最近ずっと働きづめで疲れてるんだ……だから頼む……お父さんではないのだがとにかく今日は勘弁してくれ……というか何でこんなに俺のところにばっか来るわけ!? お前薫の犬神だろ!? ならちゃんと薫に遊んでもらえっつーの、いい加減にしないと育児放棄で訴えるぞ!
「あ、やっぱりけーた様いるんじゃないですか!」
いつの間にか部屋に入ってきたともはねが嬉しそうな声を上げながら近づいてくる。加えてなでしこに膝枕をしてもらっているのを見て羨ましかったのか啓太に飛びつくようにのしかかっていく。いくら軽いにしても勢いを付けたそれはまるでボディブローの様な衝撃が啓太を襲う。
「ぐおっ!? い、いきなり何すんだっ!?」
「けーた様ばっかりずるいです! ともはねも混ぜてください!」
「だ、駄目だ! いくらお前でもここだけは譲るわけにはいかん……今日俺たちは忙しいんだ……あきらめて帰れ!」
「駄目ですよ! 今日、けーた様はともはねと遊ぶんです、きっと楽しいですから!」
「楽しいのはお前だけだっつーの!」
啓太とともはねはなでしこの膝の上でもみくちゃになりながら争っている。それは啓太の精神年齢がともはねとそう変わらないことを証明しているかのよう。そして啓太の抵抗空しく既にともはねと遊んでいるのと変わらない状況になってしまっている。やはり安息の休日は今回も訪れないらしい。そんな中
「啓太さん、あの……」
「ん? どうかしたのかなでしこ?」
何とかともはねを抱きかかえながら啓太がなでしこの言葉に疑問の声を上げる。そしてなでしこと同じようにその視線を玄関へと向ける。そこには
「取り込み中、申し訳ありません。お邪魔させてもらってもいいですか?」
二本足で立ち、服を着た三毛猫の姿があった―――――
「留吉じゃねえか! 久しぶりだな、元気だったか!?」
「はい、おかげ様で。啓太さんとなでしこさんもお元気そうで」
何とか落ち着きを取り戻した後、啓太達は三毛猫、留吉を家に招き入れていた。留吉は礼儀正しくちょこんと正座しながらちゃぶ台の上のお茶を啜っている。どこか様になっているのが逆に不思議な雰囲気を作り出していた。
「けーた様、お知り合いの方なんですか?」
「おう。ちょっと昔の依頼で知り合ってな」
「はい、その節にはお世話になりました」
興味深そうに尋ねてくるともはねに啓太はどこか懐かしそうに答える。それは半年程前の依頼での話。留吉は渡り猫と呼ばれる猫又であり、先祖からの遺言により、日本中に散らばってしまった仏像を探して回っていた。そんな中、啓太は留吉と偶然出会い、その仏像を探しに協力することになったのだった。
「あれから他の仏像も見つけられたんですか?」
「はい、おかげ様でいくつか見つけることが出来ました。もっともまだ全部には程遠いですが……」
「まあ、百八体もあるんじゃな……」
「そんなにたくさんあるんですか、大変なんですねー」
ともはねはそんな留吉の話に感嘆の声を上げる。小さいともはねでも何となくその大変さが理解できたらしい。同時にこんな友人がいる啓太のことを改めて見つめる。種族も違うのに啓太は全く気にすることなく留吉と楽しそうに談笑している。子供心ながらにともはねはなでしこや薫が啓太に惹かれているのはきっとこういうところなんだろうと悟る。
啓太には留吉のほかにもタヌキの知り合いもおり、偶然啓太が命を助けた恩返しにやってきたこともある。その際にはお礼として惚れ薬を持ってきてひと騒動あった。啓太はそれを使い、女の子にモテようとしたのだがおばさんや老婆、男に惚れられ追いかけ回され、一番の目的だったなでしこには惚れ薬は何の効果もなく、散々な目にあったのだが。
「それで今日はどうしたんだ? なんか手伝ってほしいって言ってたけど……」
「はい、実は啓太さんにこの仏像探しを手伝ってもらいたいんです」
一通りの世間話を終えた啓太が尋ねると留吉は持っていた袋の中から一体の仏像を取り出す。それは片手で持てるほどの小さな仏像。だが普通の仏像ではなかった。何故なら
「なんだこれ、光ってる……?」
「はい、これは双子の仏像の片割れなんです。不思議な力を持った仏像でもう片方の仏像が近くにあると反応するようになってるんです」
「じゃあ近くに同じような仏像があるっていうことですか?」
「はい。それを追って来たんですけどちょうど近くに啓太さん達の家があったので手伝っていただけたらと思って……お礼はしますので手伝ってもらえませんか?」
「それは構わねえんだけど……この仏像めちゃめちゃ光ってねえ?」
啓太はその仏像を手に取りながら呟く。その光りは凄まじくライトの様だ。留吉もそれに戸惑っている。まるですぐ近くに仏像があるようだと。そんな時
「あ、けーた様、あたしそれと同じ物持ってますよ!」
ともはねが思い出したようにその着ていたパーカーのフードの中からそれを取り出す。そこには間違いなく啓太が持っている仏像と瓜二つの仏像があった。
「と、ともはね、お前どこでそんなもん手に入れたんだっ!?」
「あたしじゃなくてマロちんが見つけたんですよ。ね、マロちん?」
『きゅる~』
どこか得意気なともはねの言葉に仏像と同じようにフードの中にいたマロちん、ムジナが鳴き声を上げる。先日の一件以来ムジナはともはねに懐き、行動を共にしているのだった。そんなともはねに啓太は呆れるしかない。
こいつ……落ちてた物を拾って来たのか。そんな犬みたいなことを、って犬だったっけこいつ。犬神だけど。まあとにかく良かった。偶然とはいえ留吉の探してた仏像を見つけれたわけだし。ともはねが持ってる仏像も俺が持ってる物と同じように光を放っている。間違いないだろう。
「よし、ともはねちょっとそれこっちによこせ。確かめてみる」
「わかりました、はい!」
一応並べて比べてみようと啓太がともはねから仏像を受け取ろうとした瞬間、
「だ、ダメです! その仏像をくっつけちゃっ!?」
「え?」
留吉が慌てながら声を上げるも間に合わず二つの仏像が触れ合ってしまう。同時に辺りにまばゆい光が広がって行く。啓太達はそれを前にして身動きを取ることができなかった―――――
「……ん」
啓太は目をこすりながら辺りの様子を見渡す。一体さっきの光は何だったのか。だが部屋の様子は特に変わっていない。だがさっきまで持っていたはずの仏像の姿がない。どこに行ってしまったのだろうか。
「ともはね、なでしこ、大丈夫か?」
俺はそう二人に尋ねる。怪我はないだろうが念のためだ。しかしさっきの留吉の態度は何だったんだ? 何かに慌ててたようだけど。だが留吉は何故か驚いているような、困惑したような表情で俺を見下ろしている。
「はい、大丈夫です。ともはねは?」
「うん、あたしも平気だよ」
なでしことともはねも互いの無事を確認し合う。ふう、どうやらみんな無事だったらしい。じゃあとにかく何故か無くなってしまった仏像を探さなければ。そう動きだそうとした瞬間、ふと俺は動きを止める。それは違和感。
あれ……俺、何でなでしこの膝の上に座ってるんだ? あと心なしか視線が低くなってるような気がするんですけど……。そういえばさっき俺、何かすごい女の子みたいな声出してなかった……?
啓太はどこかゆっくりと、静かに視線を自らの体へと向ける。そこには紛うことなき尻尾があった。まるでツインテールの様な可愛らしい尻尾。小さな手足。そしてツインテールに結ばれた髪。
どっからどう見てもともはねだった。
「なんじゃこりゃああああ!?」
「ど、どうなってるんですか!?」
啓太は驚きの声を上げることしかできない。当たり前だ。自分が何故かともはねの姿になってしまっているのだから。それはなでしこも同じ。啓太は気づく。自分の声が聞こえてくる。しかも何故かなでしこの口調で。その意味を悟り違う意味で冷や汗が流れてくる。そこには啓太の体になってしまったなでしこの姿があった。
「な、なでしこっ!? なでしこなのかっ!?」
「え? ともはね……じゃなくて、啓太さんなんですか!?」
啓太となでしこは互いの顔を見合わせる。その口調から間違いなくお互いが本人だと分かる。だがどっからどうみても姿が違う。啓太の口調でしゃべるともはねとなでしこの口調でしゃべる啓太。訳が分からない異次元空間がそこにはあった。
「啓太さん、それはさっきの仏像たちの力なんです! 仏像を合わせた時に触れていた人の中身を入れ替えるもので……」
「ふ、ふざけんなっ! 何でそんな大事なこと先に言わなかったんだ!?」
「ご、ごめんなさい! すぐに仏像が見つかってビックリしてしまってて……」
「啓太さん、とにかく落ち着きましょう……!」
慌てて謝罪している留吉の姿に気づき、何とか啓太は落ち着きを取り戻す。しかしなんだこの違和感は。自分の声で話しかけられるのってめちゃくちゃ変な気分になるんだけど……っていうかなでしこの、女口調でしゃべる自分が気持ち悪すぎる! 決してなでしこが気持ち悪いわけではないのだがやっぱり気持ち悪いもんは気持ち悪い! まるで俺がオカマになってしまっているように見える。もっともなでしこから見れば男口調でしゃべっているともはねも十分気持ちが悪い。これは一刻も早く解決しなければ大変なことになる、色々な意味で。
「留吉、仏像はどこにいったんだ!?」
「え、えっと窓から外に飛んで行っちゃったみたいで……」
「何で仏像が空を飛ぶんだよっ!?」
「僕が集めてる仏像の中には不思議な力を持ってるものもあるんです……ごめんなさい……」
もはや突っ込んでいる場合ではない。とにかく後を追わなければ! 啓太となでしこが顔を見合わせた後、部屋を出て行こうとしていると
「見てください、けーた様! ともはねの胸がこんなに大きくなっちゃいました!」
「ぶっ!?」
どこか興奮した、嬉しそうな様子でともはねが自分の胸、いやなでしこの胸元を広げ、自分で胸を揉みながら近づいてくる。啓太はそれをもろに目の当たりにする。白い二つの大きな桃、いやメロンがそこにはあった。その光景に思わず啓太はその場に倒れそうになってしまう。どうやらともはねの体になっても男であることには変わりがないらしい。だがそこでようやく気付く。ともはねがなでしこの体になってしまっているのだと。
「や、やめなさいっ! ともはねっ!」
「え? なでしこ? でも啓太様は?」
顔を真っ赤にしながらなでしこはともはねに迫り、そのあられもない格好を何とかしようとする。ともはねは事態が掴めていないのかポカンとした様子でされるがまま。
くそっ……ともはねのやつなんてことを……よくやった! だが残念だ。何故俺がなでしこの体になれなかったんだ……そうなっていればあんなことやこんなこともできたのに……! い、いや、落ち着け俺! そんなことしたら本当になでしこに嫌われかねない! それだけは絶対避けなければ! し、しかしともはねのようにしゃべるなでしこの姿も凄いものがある。ロリコンではない俺が見てもそれは凄まじい威力。まさにロリ巨乳爆誕! といった感じだ。っといかんいかん。とにかくこの状況を何とかしなければ!
何とか落ち着いたともはねを含めて改めて俺たちは話し合う。どうやらあの仏像たちは一度力を使うと逃げて行ってしまい、それをもう一度捕まえることができれば元に戻れるらしい。そうと決まればさっそく動くしかない。最近似たようなことがあったような気がするが気のせいだろう。そう思わなければやってられない。だが俺たちは自分ではない体。慣れていないこともあり一筋縄ではいきそうにない。特に子供のともはねになってしまっている俺は尚のこと。そんな中
「大丈夫です! 大人になったあたしに任せてください、けーた様!」
どこか自信満々にともはねが宣言する。どうやら大人に、なでしこの体になれたことがよっぽど嬉しかったらしい。だがそれは当然のこと。ともはねは薫の犬神の中でも最年少。それ故にできないことも多く、悔しい思いをしてきた。そんな中、偶然、なでしこの体とはいえ大人になれたのだから。そんなともはねに落ち着くよう啓太が一言告げようとした瞬間、
凄まじい音と衝撃が部屋中を襲う。
「…………え?」
啓太はそんな声を上げることしかできない。それはなでしこと留吉も同じ。そこにはまるで何か巨大な物が落ちたかのようにめり込んだ床があるだけ。ともはねの姿はどこにも見えなくなってしまっていた………
「ち、ちくしょう! ともはねの奴どこまで行ったんだ!?」
「は、早く見つけないと……!」
「ごめんなさい……僕のせいで……」
「き、気にすんな! とにかく何とかしねえと……」
啓太達は慌ててともはねの後を追うも完璧にその姿を見失ってしまった。一体どこに行ってしまったのか。仏像たちを追ったはずなのだがそれがどこに行ったのかも見当がつかない。そして既に啓太の息は上がってしまっていた。慣れない体に加えて子供であるともはね。犬神の体の使い方も手探りの啓太には余裕が全くない。幸いにもなでしこの方は啓太の体に慣れつつあるようだがそれでもどうしても人手が足りなかった。しかし、なでしこの胸中は焦燥に駆られていた。
(早くしないと、ともはねが……!)
なでしこは焦りで冷や汗を流す。それは自分の体を心配してのことではない。それに乗り移ってしまっているともはねと、それによって起こるかもしれない事態を危惧してのものだった。
『最強の犬神』
それがかつてのなでしこの二つ名。その力は里を襲って来た大妖狐を一人で追い詰めてしまうほどのでたらめなもの。だが今のなでしこはその力を封印している。二度と戦わないという戒めと共に。だがその力を封印した状態でもなでしこははけと同等の力をその身に宿している。だがなでしこはそれを表に出すことなく数百年過ごしてきた。
だがそれが今、ともはねの物になってしまっている。元々自分の体ではないことに加えてその力。幼いともはねにそれが制御できるはずもない。例えるならペーパードライバーがいきなりF1カーを運転するようなもの。どんな事故が起こるか分からない。だがそれを啓太に伝えることもできない。自分の力のことを、それがあるにもかかわらずずっと隠してきた、騙してきた自分を知られることが怖かった。でもどうすれば。
「どうかしたのか? なでしこ?」
「い、いえ……」
啓太がどこか様子がおかしいなでしこを心配したその時
「どうやらお困りのようですな、『裸王』」
そんな男性の声が啓太に向かって掛けられる。驚きながら振り向いたそこには三人の男の姿がある。だがそれを見た瞬間、啓太の顔が引きつり、固まってしまう。
一人は黒のタキシードにマント、シルクハットを被った男。どこか紳士的な雰囲気を醸し出している。
二人目はどこかの職人様な雰囲気を持つ大男。だがその格好は常軌を逸している。何故か頭に女物の下着を被り、胸にはブラジャーを付けている。
最後の一人はどこか小太りのサラリーマンの様な男。だが何故か亀甲縛りをされた状態で地面に這っている。
まさにヘンタイの見本市の様な光景。それを前にして啓太はもちろん、なでしこと留吉も言葉を発することすらできない。
『ドクトル』 『親方』 『係長』
今、吉日市が誇る変態三賢者が裸王こと川平啓太の危機を救わんと現れたのだった―――――