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No.31419の一覧
[0] 【真・恋姫無双】韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか[アハト・アハト](2016/04/19 00:28)
[1] 立身編[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[2] その2[アハト・アハト](2012/03/08 23:56)
[3] その3[アハト・アハト](2012/03/09 00:00)
[4] その4[アハト・アハト](2012/03/09 00:02)
[5] その5[アハト・アハト](2012/03/09 00:08)
[6] その6[アハト・アハト](2012/03/19 21:10)
[7] その7[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[8] その8[アハト・アハト](2012/03/04 01:04)
[10] その9[アハト・アハト](2012/03/04 01:05)
[11] その10[アハト・アハト](2012/03/12 18:18)
[13] その11[アハト・アハト](2012/03/19 21:02)
[14] その12[アハト・アハト](2012/03/26 17:37)
[15] その13[アハト・アハト](2012/05/08 02:18)
[16] その14[アハト・アハト](2012/05/08 02:19)
[17] その15[アハト・アハト](2012/09/26 19:05)
[18] その16[アハト・アハト](2015/02/08 22:42)
[19] その17[アハト・アハト](2016/04/19 00:26)
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[31419] その17
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:5f2d81c3 前を表示する
Date: 2016/04/19 00:26
 
+
 浚儀(臨時代行)太守となった一刀にとって、最初にして最大の問題は戦災を受けた浚儀の復興であった。
 それは建物に関する事ではない。
 生活であり、日常であった。

 浚儀やその周辺に住む人々の生活を元に戻す。
 そして日常の中で経済を回し、そして早期に税金が払える様になる事が大目標であった。
 であればこそ一刀は戦火の罹災者への直接的な支援、食料の配給や所謂炊き出し等ではなく間接的な支援 ―― 復興事業を太守府が民間へと発注し、罹災者などがそれで職を得て賃金を得て、生活を再建できる様にしようというのだ。

 これには、太守首席補佐官と相成った田淑尚が迂遠ではないかと反対を口にした。
 一刀は頭を掻いて笑う。


「確かに手間はかかるけど、無暗な支援は人から自活する力を奪う事になってしまう。それは良くない」


「自活する力、ですか」


「誰だって、“戦災支援” なんて言って<ruby><rb>炊き出し<rp>(<rt>タダメシ<rp>)が受けられるなら、勤労意欲が減るのも道理だよ。特に家屋家財が無事ならば」


 浚儀の被害は、かなり小さい。
 門を破られた東門回りの住居が戦闘の余波で損壊しているが、それ以外の地区での住居の被害は殆ど無い。
 だからこそ、一刀は住民に仕事へと従事する事で戦争という非日常から、平和な日常への回帰を進めさせようと考えているのだった。

 そしてもう1つは、浚儀住民では無く周辺住民への支援としての公共事業だ。
 多少の家財と共に浚儀に避難してきた周辺住民に報酬として現金を回す事で、故郷を ―― 戦災で荒れた田畑を立て直し、日常へ復帰出来るように支援をするのだ。


「それは中々の……」


 田淑尚は得心した様に何度も頷いた。
 目の前の問題から1つずつ片付けようとするのではなく、先を見た一刀。
 今現在の問題だけを解決するのではなく先の先まで見た絵図面の大きさは、田淑尚に、目の前の問題を解決する事を主任務とする官吏のものとは違う一刀の考えに、驚きと呆れにも言い難い感情を抱かせていた。
 或は納得。
 流石は北郷、陳留刺史府文官序列第2位である、と。



 田淑尚に変な納得をされつつも、一刀の生活復旧支援は実働した。
 損壊した城壁などの復興を、都民の動員 ―― 税、労務としてではなく戦災復興の為の公共事業として行う、いわば財政出動という新しい試み故は、開始当初には混乱も見られたが、その後は順調に推移した。
 壊れた城壁や建築物の撤去と立て直しの勢いですらも違っていた。
 これには田淑尚のみならず、多くの官吏が神算かと驚いていた。
 だが一刀の感覚からすれば当然であった。
 誰しも、割に合わぬ日銭での労務よりも、適正な対価を得られる労働にこそ全力を尽くそうというものである、と。
 更には、豊臣秀吉を真似て工事の進捗具合を班ごとに競わせ、その日、最も成果を上げた班には報酬への加算、酒を出していたのだ。
 作業効率が上昇するのも当然であった。
 その代償という訳では無いが、予定よりも工事が早く終わりそうになったので、別途、公共事業を実施する羽目になったのは笑い話である。

 この様に復興、治安の回復自体は速やかに成された。
 更に言えば、この復興事業という特需によってまかれた銭が民の消費活動を活発化させ、ひいては浚儀の経済を活性化させたのだ。
 経済の活性化は、戦火によって浚儀を避けていた商人たちが集まる様にもなって景気は更に活発化する事となる。
 そして浚儀の経済の活性化、豊富な商人に支えられた物資の豊かさから、周辺の村や都市などから買い物に来る様になる。
 これによって消費活動は更に活発化し、それに誘われて商人が集まってくる。
 商人が集まれば、当然、税収も上がる。
 得られた税金に刺史府からの復興向け特別予算に乗せて更に公共事業 ―― 浚儀から兗州南部への<ruby><rb>道路網<rp>(<rt>インフラ<rp>)整備へ投資し、物流網を強化する。
 又、道路が整備された事で自警団が浚儀の外であっても能動的に運用できるようになる。
 それによって浚儀とその周辺は治安が良くなり、商売がやりやすいので更に商人が集まってくる。
 外部から人が集まれば、その商人旅人向けの商売も活性化する。
 公共事業が呼び水となって、良好な景気の循環が出来上がったのだ。
 その間、一刀は現場の人間、官吏や町の住人商人などから話を聞いて、経済活動の過熱化に注意を払いつつも、出来るだけ制限しない様に注意をしただけであった。
 だがそれが功を奏した。
 この時代では珍しい、否、あり得ない一連の経済政策は、一刀の受けた平成日本という世界でも有数の列強国家が行っている中等教育の成果であった。
 河内の寒村での相談役としての経験の成果でもあった。
 そして、華琳や文若といった当代随一の才人を見てきた結果でもあった。

 とも角。
 一刀が臨時の太守代行に就いて僅か3ヶ月の事で、浚儀は見事に復興したのだった。






真・恋姫無双
 韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか

 【立身編】 その17






 浚儀復興を主任務とした一刀の臨時の太守代行であったが、ある2人の女性にとって極めて残念な事にその後も継続する事となった。
 それは、兗州全域での治安悪化が原因である。
 無論、華琳の刺史としての施策が失敗したという訳では無い。
 ただ単純に賊が恐るべき速度で大規模化広域化してしまい、華琳と文若の対応速度を凌駕してしまったのだ。
 特に兗州北部は司隷を筆頭に、豊かだった諸の州と隣接している為、賊と、賊や戦乱から逃れようと言う避難民の流入で手酷い事になってしまったのだ。

 こうなると、図らずも浚儀のみならず兗州南部を安定させた一刀を動かす事は困難になる。
 安定した兗州南部が、資金と食糧、そして人員の供出といった華琳を支える重要な基盤を担う事になるからだ。
 又、流入して来る避難民の受け入れに関しても、浚儀が中心になって行われている。
 一刀の財政政策によって活性化した浚儀の経済が、避難民を労働者として受け入れる事が出来たというのが大きいだろう。
 そして、拡大した労働力で浚儀周辺のインフラが更に整備され、景気は拡大している。

 人が増えれば犯罪の種が増えるという事で、楽文謙隷下の治安警務隊の大幅な増員が行われた。
 法によって規制される軍ではなく、治安維持を主任務とする半自警組織であるが故の柔軟さであた。



 浚儀治安警務隊の結成式。
 太守府の前で整列する隊士は黒染めの揃いの外套を着こみ、腰に剣を手には棍を持つ。
 その数約500。
 先頭に楽文謙が凛々しく立ち、その後ろに並ぶ姿は威風堂々とまでは言えなくとも、中々のものであった。
 その他、この場には浚儀の市民たちも集まっていた。
 一刀が結成式を浚儀の復興と繁栄を祈る、一種のお祭り事(イベント)として告知していたからだ。

 色とりどりの垂れ幕が飾られた浚儀太守府前の広場を埋める人々の視線、その先に立っているのは浚儀太守である一刀では無く、秋蘭であった。
 隊士の前に設えた演台に登ったその姿は、常の動きやすい服ではなく礼服たる漢服を来ており、常以上に美貌と怜悧さが際立っていた。
 その顔に覇気を込めて言葉を紡ぐ。


「諸君、曹孟徳刺史の名代、夏候妙才だ」


 良く通る声が、隊士1人1人の耳へと届く。
 集った民の耳へも。


「浚儀太守である北元嗣殿の下、諸君らの活躍によってこの浚儀の地は兗州でも有数の平穏で活気ある地となった__ 」


 朗々とした秋蘭の言葉を隊士のみならず市民たちも聞き入っていた。
 秋蘭の声のみが響いている。
 それを一刀は、これが歴史に名を遺す英雄の(カリスマ)かと感心して見ていた。

 尤も、そんな一刀は、浚儀の官吏たちが己を眩し気にも見ているのに気付いていなかったが。
 前太守や主要な官吏が逃げ散った浚儀にたった3ヶ月で活気を与えた兗州刺史が懐刀の1人、
大立者である、と。


「 __ 隊士諸君! 浚儀の民よ! 共に曹孟徳刺史を支え浚儀を、兗州を盛り立てようではないか!!」


 万雷の如き歓声が上がった。





「お見事」


「茶化さないでくれくれるか、一刀。私はそれ程得意じゃないんだ」


 漢服から何時もの格好に戻った秋蘭は、演説は肩が凝ると笑った。


「性分はそうかもしれないけど才能はあると思うぞ? 盛り上がったからな」


「将だからな。華琳様を支える為に学んだのだ」


 敬愛する華琳の為、それは秋蘭にとって最大の行動原理だった。
 だが、努力はしたが好きじゃないと言う。


「堂に入ったものだったのに?」


「華琳様と姉者を支えて居たら、こうなった」


「あ、あぁ」


 深く納得する一刀。
 華琳も春蘭も支え甲斐のある相手ではあるが、共に、方向性は違っていても、支える側が鍛えられる( ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● )のだ。

 何というか、同病相憐れむ様な表情で2人は小さく笑い合った。
 そんな2人は、太守府の中を歩いている。
 と、小間使いと思しき女の子 ―― まだ10代も前半と見える子供が歩いているのを見かけた一刀は、声を掛ける。


「太守様!」


「そのままそのまま。ご苦労様。それが終わってからで良いから、俺の部屋にお茶を用意してくれ」


「はいっ お任せ下さい!」


 顔を上気させて走り出した女の子。
 その背を、何とも言えない表情で一刀は見送った。


「別に走らなくても良いんだけどな」


 転ばなければ良いけど、と。
 そんな一刀に秋蘭は、不思議そうに聞いた。


「侍女にしても随分と若いな__ 」


 太守府と言えば都市の中枢、そこで働くとなればそれなりの教養とか所作とかも要求されるのだ。
 華琳の兗州刺史府に10代の子供が居ない訳では無いが、行儀見習いを受けたりしていで表で働いている事は先ず稀だ。


「 __ まさか……」


 趣味(ロリコン)か? と秋蘭の目が胡乱なものを見る形へと歪んたので、一刀は慌てて打ち消した。


「戦災孤児の臨時雇用だ!」


 男の子であれば生活の糧にそれなりの力仕事を斡旋する事も出来るが、女の子の場合、どうしても春をひさぐという形になりやすい。
 力仕事で男の子に負けない女の子も、多いのだが、許仲康や典甜馳程とまでは言わなくとも大人に混じれる程の力持ちは少ないのだ。
 そもそも、力の無い女の子はどうするのか? という問題もある。
 だから一刀は、出来るだけ太守府で戦災孤児を雇う様にしたのだった。


「そうか、お前は優しいのだな」


「出来る範囲、手の届く範囲でだけだよ」


 理想を理想として認めて、だが理想を求めない時点で自分は偽善者なのだろうと、一刀は自嘲した。
 だが、それは違うと秋蘭はたしなめた。


「理想を追うのも大事だが、我らの様な凡夫は先ず現実へと対応せねばならぬ。そうでなければ転んでしまう」


 そこにはほろ苦さがあった。
 自らの弱さを認める強さでもあった。
 そして、だからこそ、と続ける。


「その先を行こうとする華琳様を支えたいのだ。お前はどうだ北郷一刀?」


「ああ、確かに見たい( ● ● ● )な。見たい」


 曹の旗の先を、華琳の見るものを。
 2000年先にまで伝わる英傑、曹操という人間の見たものを実現する魏という国を。


「であれば、共に精進するのみだ」


「ああ」



 浚儀太守府で一番偉い部屋でありながら質素では無いにしても簡素な無い部屋、それが太守執政室だった。
 執務用の家具と書類や竹簡を置く為の棚、それに申し訳程度の飾り ―― 太守殿に “よしなに” と商人からの贈り物の中で一刀の好みのものを置いてあるだけの部屋だった。
 部屋の前主が装飾を一切合切持って去った事と、現主である一刀が、飾り立てる事に興味が無い為の現状だった。
 とはいえ機能優先ないし汚れているという風は無く、逆に、居心地が良い小奇麗な品の良さに纏まっているのは、一刀の趣味の良さであった。
 相変わらずだな、と言葉にはせぬままに秋蘭は納得した。
 伝え聞く話から、城下の姿で、この部屋を見て、一刀が一刀のままに頑張っているという事を納得した。
 そして少しだけ安心していた。
 仮とは言え地位を得た事で慢心したり、腐敗してなどいなかった事に。


 壁際の椅子に並んで座る。
 日当たりが良く、風が心地よい。
 目を閉じた秋蘭は遠くの、浚儀市街から響く喧噪を聞いた。


「しかし、華琳様から聞いてはいたが、浚儀の活気は凄いものだな」


「皆、良く頑張ってくれてるよ」


 一刀にとって、掛け値なしの本音だった。
 構想と大まかな方向性を決めるのは自分だけど、それを実現する為の実働部分は多くの人間の協力があってこそだと。

 だから、一刀は式典を催したのだ。
 多少の特別賞与(ボーナス)を配り、式典で名誉 ―― 達成感が得られる様にしたのだ。
 秋蘭が先ず華琳の名を先に出したのも、それ故にだった。


「この気配りが一刀らしいな」


「秋蘭にも迷惑を掛けた」


 秋蘭は浚儀を襲撃した賊の残党討伐を続けており、いまだ忙しい身であったのだから。
 一刀は華琳の了解を得て、秋蘭に部隊の休息も兼ねて浚儀へと寄ってくれる様に連絡したのだ。

 尚、3ヶ月間かけても討伐しきれていないのは、秋蘭の能力に帰する理由では無かった。
 否、秋蘭指揮下の部隊はそれなり以上の成果を上げ、総じは5000からの賊を捕縛してはいたのだ。
 だが、今だ、残党と思しき黄色い巾を身に着けた賊が兗州を跳梁しているのだ。
 外の州からの流入にしてもおかしいというのが、華琳や文若の判断でもあった。


「構わぬよ。遡っては華琳様の為だ。それに兵の休養にもなる」


「其方は任せてくれ。酒は残念ながら少ないが料理の量は絶対に不足させない」


「頼むよ」


 互いの近況、華琳や春蘭を話題にしての歓談。
 話が盛り上がって喉も乾いてきた頃合いに、小間使いの女の子がお茶を運んできた。


「お茶をお持ちしました」


「有難う」  


 一刀の言葉に嬉しそうに相好を崩して、女の子は去って行った。
 その後姿を秋蘭は楽し気に見た。


「明るい娘だな」


「……」


「心配するな、他意はない」


「……そう?」


「ヘソを曲げるな。ただな、お前の政が上手く回っている事をあの娘が示しているのだなと感心したのだ」


「それは……うん、嬉しいよ」





 その夜、秋蘭とその配下を歓迎しての宴会が行われた。
 浚儀警務隊士や浚儀警備隊、それに秋蘭隊が混じっての無礼講だ。
 豊富な料理、少ないながらも酒も振る舞われ、今日はハレの日とばかりに大騒動となった。
 それは一刀や秋蘭も一緒だった。
 雰囲気に当てられ陽性の気分で挨拶し、適当に飲み食いする。
 それから上官が何時までも居ては気も抜けぬだろうと一刀は、秋蘭を応接室に誘った。


「ふむ、何だか女性を誘うのに手慣れていないか?」


「接待だ接待。仮でも太守だとアレコレと気を使うんだよ!」


 応接室では小間使いが酒とツマミとを用意していた。
 ツマミは干し肉やメンマといった、簡単で味の濃ゆいものが殆どであったが、宴席でそれなりに食べていた2人には、それで十分だった。
 夜も遅いのでと小間使いを下げると、杯になみなみと酒を注いだ。

 酒の匂いの良さに、秋蘭も相好を崩す。


「良い酒だな」


「こればかりは太守の特権だな」


 新しい酒が出来たから太守様にと、献上された品だった。
 贈り物だったので飲まずにとっておいたのだ。


「乾杯」


「乾杯」



 そもそもの話として、新しい酒が献上された理由は、この新しいという部分が起因するからである。
 宴席で商人が目新しい酒を探していると言っていたので、であればと伝えたのだ。
 蒸留酒という概念を。
 アルコール度数の高い酒の作り方を。

 一刀は経験者だからチビチビと舐める様に飲んだ。
 秋蘭は常の酒の様に飲んだ ―― 杯を一気に呷った。

 そして、酔った。



「しかし一刀、早く戻ってきてくれ。姉者が大変なのだ」


 絡み酒。
 呂律も姿勢も崩さぬままに、秋蘭という女性は崩れていた。


「本当に大変なのだ」


「ん、書類仕事、文若が褒めてたよ? 字はともかく内容は読めるようになってきたって__ 」


「違う。手綱の方だ。書類仕事なら私が幾らでも支えられるが、離れての戦場ではどうにもならぬ」


 日頃の才女っぷりが消えて、殆ど涙目になっている秋蘭。
 酒精の漂う目元の色っぽさに、視線を外しながら一刀は尋ねた。
 返事は予想外だった。
 賊軍を追撃していたら、荊州にまで追撃してしまい騒動になってしまったのだと言う。


「…………豫州じゃなくて?」


「荊州だ」


「Oh ……」


 一刀が思わず天を仰いだのも赦されるだろう。
 豫州なら、間違って入ってしまったと言えば通るだろう。
 だが荊州となると良い訳不能である。
 追いかけ続けた春蘭の気迫、闘争心を褒めたたえるべきか呆れるべきか。
 後、逃げた賊にも呆れるしかない。


「取りあえず、凄いな」


「姉者は凄い。凄いが……」


 焦点の合わぬ(レイプ)目で己を見ている秋蘭に、一刀は酒の入った壺を差し出した。


「今日は飲もう。飲もう秋蘭」


「すまん一刀、飲ませてくれ」


「大丈夫だ、酒はまだある」


「旨いな__ 」


 







 一夜明けた浚儀太守府。

 顔に当たった朝日に目を覚まされた一刀。
 うすぼんやりとした視野の中、最初に感じたのは鈍痛だった。


「っつぅ……のみ過ぎた」


 後、体の痛み。
 一刀は、どうも自分が寝台か何かに顔を突っ込んでうつ伏せになって寝ていた事に気付いた。
 変な格好で寝入ったのか、首だの腰だのと身体の節々に痛みを感じた。


「あー ぁー つか、蒸留酒はヤヴァイ。というかあと一歩耐えられれば布団で寝れたのに、つぅ……」


 ゆっくりと身を起こす一刀。
 白い寝具が見えた。
 青と紫の服が見えた。
 白い肌が見えた。


「ハァ!?」


 寝台には秋蘭が寝ていた。
 一刀の意識が一気に覚醒、心臓が跳ねた。


「っっっっっ!!!???」 


 驚きの声を上げそうになって、慌てて自分の口を塞ぐ。
 口を塞いだままに1と2と3とと深呼吸。

 寝入っている秋蘭は乱れた服と相まって実に色っぽく、緊張の無い表情にはあどけなさがあった。

 色香に見入りそうになる目を慌ててそらし、自分の服を確認。
 服も下着も異常なし。
 チラ見する形で秋蘭の服も確認。
 服は乱れているだけ、下着は見れない。
 共に房事の残滓が無い事を認識した一刀は、思わず安堵半分の溜息を洩らしていた。
 残り半分が残念だというのは、一刀とて健全な男子だという事だろう。


「ふぅーっ」


「余り溜息を突かれると傷つくというものだぞ? 自分に魅力が無いのかと心配になってくる」


「ああすまない……い?」


 油の切れた機会の様な動きで一刀は首を動かす。
 目と目が合った。
 秋蘭は茶目っ気ある爽やかな笑顔を一刀を見ていた。


「おはよう」


「おっ、オハ……ヨウ」





 少しだけ脹れた顔で朝食を頬張る一刀。
 秋蘭は少しだけ、バツの悪そうな顔をしている。
 或は反省だ。
 一刀が人品よく才もあり、何より会話をしていて楽しい相手という事で少しからかい過ぎたか、と。

 目が覚めた時、傍らで寝入っている一刀の横顔を見た秋蘭は何かくすぐったいものを感じたのだ。
 だから、或は一刀を己の男にしても良いかもしれないとも。

 だから、からかってしまった。
 遊んでしまったのだ。
 ある意味で秋蘭は、一刀と居る事の楽しさに浮かれたのだった。

 そんな秋蘭にとって、些か現状は宜しく無い。
 楽しくない雰囲気は気持ちが良くない。
 さて、どう改善しようかと考えようとした時、闖入者が現れた。


「御免! 北太守、夏候将軍はおられますか!? 曹刺史よりの早馬です!!」


「ここだ、ここに居るぞ!!」


 声を張り上げた一刀。
 2人の顔が、空気は切り替わった。

 才気を溢れさせるが如きその姿に、給仕をしていた女性は、これが曹刺史仕える懐刀であると得心していた。






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