※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください 非常に唐突なことではあるが、私、比那名居天子は天人である。 うん、まぁ周囲は私のことを不良天人だの天人くずれだの言うが、一応天人であり、それなりに偉い立場の者でもある。 親の七光りだといわれるとどうにも反論できないのが悔しいところだけど、それはさておき。 私はつい先週の少し前ぐらいから、暇つぶしのためによろず屋で働いている。 ここに従業員として働いているが、だからといって給料が出るわけでもないので、本来はあんまりここに来る意味は無いけど、私はそれでもここにいる。 理由……というのも、暇つぶし以外の何物でもない。理由としては本当にそんな単純で些細な理由。 それには、天界という場所が絶望的なまでに退屈だというのが、もっとも大きな要因ではあるだろうが。 あぁ、でも。ここにい続けている理由はやっぱり、仕事があろうが無かろうが、ここにいると退屈しないし、面白いからなんだけど。 「おーい、天子。買い物頼むわぁ」 「あらやだ、銀さん。とっても暇そうに見えますけど?」 「いんや~、銀さんは忙しいぞぉ? ジャンプ読むのに非常に忙しいんですよ~、これ」 要するに暇なんでしょうが。 思わずため息もついて出る。何しろ、天人であるこの私を遠慮なく扱き使うコイツは相当大物だと思う。 というか、少しは敬ってよ。頼むからホンのちょっとぐらい。 そんなことを思いもするが、この外の世界の漫画読んでるいい年こいたおじさんは口にしたところで聞きはしないだろう。 何しろ、あの幽香とかあそこらへんの幻想郷最強クラスの妖怪にすらこんな感じだし。 あぁ、そうそう。幽香がよろず屋に来はじめた辺りからぱったりと人間の客が来なくなった。 原因は間違いなくそこの優雅にお茶を飲む妖怪が原因なのは眼に見えてるんだけど……、その辺自覚してるのかしら? ここのメンツ。 「わかりました。買い物には行きますけど、いい具合に蕩けて地獄に落ちてね、銀さん」 「地獄には落ちたくねぇけど、糖分地獄とかだったら考えるよ~、銀さんは」 ……どんな地獄だ、それは? 「天子ちゃん。僕も行くよ。荷物もちぐらいいるでしょ」 「ん~、そうね。お願い」 台所の置くから登場した新八の言葉に少し考え込み、荷物もちぐらいはいるかと思考して了承する。 この分だと、定春とじゃれてる神楽と幽香も荷物もちなんてやってくれないだろうし、新八の提案はまさに渡り舟だ。この際甘えておこう。 ■東方よろず屋■ ■第七話「有頂天って実は場所のことらしいが知る人は少ない」■ 「で、眼鏡野郎。買い物はこれで全部?」 「うん。そうだけど……、いやいやいやいや。その眼鏡野郎って止めてよ。僕がまるで眼鏡しか特徴無いみたいじゃない」 あらかた終わらせた買い物の帰り、私が彼のそう言葉を投げかけるとそんな反応が返ってくる。 私は大げさに「えぇ!?」と驚いて見せて、そして一言。 「眼鏡が無かったら、あなたただの眼鏡掛けじゃない」 「うぉぉぉぉぉぉぉおおおい!! 何それ!? もはや人ですらないんですけどっ!!?」 ズビシッとしっかりツッコミを入れてくる新八。うん、相変わらずキレのあるツッコミをありがとう。 いや、よろず屋にいても退屈にならない要因は彼の存在がかなり大きい。 ちなみに、好きだとか好意だとかそういった類のものではなく、ただ単に「からかうと面白いから」の一言に尽きる。 何しろ、彼のようなタイプは幻想郷にはいないし。反応が斬新過ぎて面白すぎるというか、からかってるとおかしいというか、まぁそんな感じ。 そんな彼の反応に、私はたまらずクスクスと笑ってフォローを入れる。 「大丈夫よ、冗談じゃないから」 「フォローになってねぇよ!! せめて冗談って言えよ!!」 おっと、つい本音が出てしまった。自重自重っと。 まぁ、クックッと笑いを堪えている私を見てため息をつく新八を見る限り、ことの追及は諦めてくれたらしい。 ま、一週間近くも一緒に仕事していれば、お互いどういう性格かわかるもんだし。 そんななんでもない日常になりつつあるやり取りの途中で―――ばったりと、とある人物と遭遇することになった。 砂金のようなセミロングの髪、黄金色の瞳に、まるで人形のような服装の少女。 「あら、人形野郎」 「あら、地震野郎」 にっこりと笑い、お互いに軽い言葉(ジャブ)を繰り出してけん制する。 そんな私の様子に何事かと思ったのか、荷物を抱えた新八が私の目の前にいる人物に視線を向ける。 「あれ、アリスちゃん。どうしたの、こんなところで」 そう、私の目の前にいるのは七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。 ぱっと見は人間に見えるが、れっきとした種族としての魔法使い。 その魔法使いは私から一旦視線をはずし、新八に視線を向けて特に表情を変えずに言葉をつむぐ。 「今日はハクタクのところで人形劇をね。今はその帰りよ」 「ハクタクって言うと、慧音さんか」 アリスの言葉に、新八は少し考え込んでその言葉に納得がいったらしく、うんうんと頷いていたりする。 そういえば、ちょくちょく人里に人形劇をやってるっていう話を誰かから聞いたような……、誰が言ってたんだっけかな? 「仕事熱心ですよね、アリスさんって。銀さんにも見習ってもらいたいぐらいですよ」 「別に仕事ってわけじゃないわよ」 シレッと愛想の無い返答をする人形遣い。まぁ、もともと人との係わり合いとか気にするタイプには見えないし、仕方ないといえば仕方ないのか。 ん? でも宴会には絶対に参加してるのよね、彼女って。その辺考えると、やっぱり人付き合いは良いほうなのかしら? そんな疑問を浮かべている私に向かって、……いや、私たちに向かって、アリスは言葉をつむぎだす。 「そういうあなたたちこそ、今日は買い物?」 「えぇ、今日はうちのトップの命令でパシリよ」 やれやれといった具合に、私は肩をすくめて見せる。 言葉はまぁ悪いけど間違いじゃないし、実際これじゃ本当につかいっ走りだ。 否定できないのがなんとも悔しい気もするが、アレは絶対に動かないし、誰かがやらなくちゃいけないのもまた事実なのである。 ま、退屈するよりはいいんだけどね。 「天人をパシリにするとか、大物なのか、ただの馬鹿なのか……」 「さぁ、多分両方なんじゃないの?」 呆れたように言葉にした彼女に向かって、私はそんな風に苦笑しながら言葉を返していた。 ほら、なんていうかあそこまでやる気がないとかえって清々するというかなんというか……あとで全力でぶん殴るときに遠慮しなくていいし。 っと、徐々に徐々に近づいて来る気配がする。 一体何事だろうと、私とアリスはその気配のほうに視線をむける。 そこに居たのは、何の面識も無い、そこらへんに転がっていそうな何の変哲も無い人間の男二人だった。 ……あ、アリスが露骨にいやそうな顔してる。 「よぉ、姉ちゃんたち。俺たちに付き合えよ。そんな眼鏡より楽しいぜ?」 げらげらと下品な笑みを浮かべる男二人。 自然と、眉がつりあがって目の前の二人組を睨み付けてしまう。 なんというかハッキシ言って私の大ッ嫌いなタイプというかなんというか、こんな笑い方する奴にろくな奴がいねぇというのが私の持論である。 ん? あれあれ? 眼鏡って……誰のこと? 「……誰が眼鏡だよ」 っと、そんなことを思っていると私の背後からそんな声が聞こえて、ようやくその人物に合点がいった。 新八……、アンタってツッコミ入れてないときは本当に空気ね。 「オメェだよオメェ。オメェなんかがこんな可愛い子ちゃん二人と一緒にいることが場違いなんだッてぇの。俺たちにこそ、そこの嬢ちゃんたちはふさわしいって先生言ってたぜ」 「なんでやねん!!」 アッハッハッと、変なコントなのか微妙なことやって笑っているアホ二名。 今のどの辺がおかしかったのかぜひとも詳しく聞いてみたい気もするが、やっぱどうでもいいや。 とりあえず、目の前のゴミ(確定)を掃除しようと緋想の剣を取り出そうとして――― 「ツッコミが甘いんじゃボケェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」 ボグシャァッと、なんかすさまじい轟音が響いて、ツッコミいれたゴミの片割れが「ぐえっ!?」と奇妙な悲鳴を上げて吹っ飛んだ。 下手人の名は志村新八。一体どこにそんな力が隠されていたというのか、2m近く跳躍して思いっきり跳び蹴りを側頭部に叩き込んでいた。 綺麗過ぎる跳躍。まるで絵のような美しすぎる軌道。その姿はまさしくライダーキック。 物理法則にしたがって男の顔が捩れて、その衝撃で体が宙に浮き、ギュルンギュルンとなんかありえない音を立てながら空中で回転して吹っ飛んでいく。 「なっ!?」 「そんなんでこのSSのツッコミが勤まると―――」 再び響く骨が砕けたような音。新八の拳は仲間が吹っ飛ばされて呆然としていた男の顎に突き刺さり、綺麗に頭部を跳ね上げる。 その隙に裏に回りこみ、ガシッと両腕で胴体を固定する。 「思っとんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」 それは等しく、魂の絶叫(ツッコミ)だったに違いない。 持ち上がる男の体。男の体は今この一瞬、確かに重力という戒めから開放された。 一瞬の光景。しかし映る光景はまるでスローモーションのように鮮明に、その姿を流していく。 大きく反れる新八の体。しかし、それは美しい技の体現であり、その光景は怖気がするほど完璧だった。 ジャーマンスープレックス。その究極を再現した新八の手により、男は後頭部からまともに地面に垂直落下して、グシャッとなんかつぶれる音と共に地面に叩きつけられた。 カァンカンカンカァァァァン!! と、どこかで甲高いゴングの音がなったような気がしないでもない。 新八が殲滅(ツッコミ)を開始してわずか1秒半。見事なスピード勝負で決着がついてしまったのだった。 ……いや、その台詞危険だから!? とか、いろいろツッコミたいことはあるんだけど。 なんていうか、ツッコミが関係すると恐ろしく強くなるのね、新八って。 妖怪もなんのそのな勢いであっという間に殲滅した新八を、私とアリスは呆然と見つめていた。 スタッと立ち上がり、それと同時に降ってきた買い物袋を綺麗にキャッチ。 多分、最初の跳び蹴りのときに上に放り投げていたんだろう。 ……どこの曲芸師だ、アンタは。 ―――うおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! と、突然湧き上がるギャラリーからの咆哮。 とりあえず、みな一様に「感動した!!」だの、「アイツらには俺たちも手を焼いていたんだよ」だの、「スゲェ、君は超人か!!?」なんて新八に言いよっているのが眼に映った。 ……、超人って……ジェロニモとか? なんか以前神楽がそんなこといってた気がするけど。 アッハッハッとか大笑いする町民一同。どうやら相当嫌われていたらしい、あの二人組み。 うん、でもあれだ。とりあえず、そのテンションについていけてない新八に気がついて欲しいのだが……、まぁいいや、もみくちゃにされてる眼鏡野郎が面白いからもうちょい見ていよう。 そんなわけで、あれからアリスと別れ、よろず屋に戻ってみると、これまた珍客が姿を現していたのである。 彼女の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。月の兎の少女は、緊張したように椅子に座っており、その向かいッ側にやる気なさそうな銀時と、これまたやる気のなさそうな神楽の姿が視界に映る。 「どうぞ」 「あ、お構いなく」 コトッと、鈴仙にお茶を出す幽香に、彼女は恐縮したように慌てて言葉をつむぐ。 うーん、彼女のことを知ってるならその反応も、まぁわからないでもないけど。何しろマジで幻想郷最強クラスの妖怪だし、幽香は。 「そんで、ウドンゲ。依頼ってーのは?」 「あ、はい。実は―――」 銀時の言葉に、鈴仙はいいずらそうに口ごもる。 なんだ、本当に今回の依頼人になるわけだ、彼女。 新八が台所の奥に消えていく中、私は遠慮なく椅子に座って彼女の言葉を待った。 すると、やがて小さく、しかし確かに――― 「実は、永遠亭の大掃除を手伝ってもらいたいんです」 ―――そんな、思わず自分達でやれよ!? とツッコミたくなるような言葉をつむいでいたのだった。 ■あとがき■ こんばんわ、白々燈です。 今回も試験的な話。ちょっと短いですが銀魂メンバー以外の視線で話を組んで見ました。 前回の話は自分でもある程度覚悟していましたが、やっぱりいろんな人がネタにしてたみたいですね。 自分の力不足を再認識する形になりましたが、これを糧にこれからもがんばって生きたいと思います。 皆さん、厳しい意見。ご感想。どうもありがとうございました。 と、最近感想とか見てると銀魂知ってて東方知らないという方が多い様なので、今までに登場した東方キャラの簡単な説明でもしてみようかと思います。 大体あとがきに5キャラずつぐらい。もしかしたら、自分の勝手な妄想も入ってるかもしれないですが、その辺指摘してもらえるとありがたいです。いらないと思われるなら遠慮なくいってください。その場合、ちゃんと消しますから。 さて、そんなわけで、第一回東方キャラ紹介、やってみようと思います。 ■東方キャラクター紹介■ 【博麗霊夢(はくれいれいむ)】 ・種族 人間 ・能力 「空を飛ぶ程度の能力」 ・東方シリーズの主人公。異変解決の専門家の巫女。非常に陽気で危機感に欠ける。誰にでも同じように接し、優しくも厳しくも無い。そんな性格からか、強い妖怪から好かれやすく、弱い妖怪には恐れられる。平たく言うと誰に対しても容赦しない。 能力は名前だけ聞くとそうたいしたことのないように聞こえるが、実際は「あらゆる束縛から解放される」というとんでもない能力だったりする。 ちなみに、彼女は仕事をしないことで有名。 【霧雨魔理沙(きりさめまりさ)】 ・種族 人間 ・能力 「魔法を使う程度の能力」 ・東方シリーズもう一人の主人公。元幻想郷最速だった人。職業が魔法使い。性格は人を馬鹿にしたような態度をとり、思いやりがあるようには思えないが垢抜けており、一緒に居ると楽しくかんじる。見た目に反して結構な努力家。 ルパンと次元のような関係な人物はいないがその代わり、ルパンととっつぁんの間柄な人物ならわりと多数。ちなみに「借りていく」の名目でしょっちゅう本を盗む。 魔力駄々漏れで燃費が悪いらしい。 【比那名居天子(ひななゐてんし)】 ・種族 天人くずれ ・能力 「大地を操る程度の能力」「気象を操る程度の能力(緋想の剣の能力)」 ・東方緋想天のラスボス。不良天人だの天人くずれだの言われるとおり、性格は天人らしくなく、非常にわがまま。言動はSッポイのにストーリーモードでは全員からワザとボッコボコにされていたことが原因でM疑惑が浮上中。 暇で退屈だからという理由で幻想郷に異変を起こした前代未聞な人。 彼女本人のストーリーモードで多くのキャラに連戦して勝利していく様から、多分強キャラではあるだろうが、紫にギッタンギッタンにされたことを考えると最強クラス一歩手前ぐらいの強さと思われる。 【風見幽香(かざみゆうか)】 ・種族 妖怪 ・能力 「花を操る程度の能力」 ・自称、幻想郷最強。ただし、それも自他認めるほどの実力の持ち主で、阿求いわく、人間じゃ到底かなわないとまで言われている。一年中花に囲まれて生活し、邪魔が入れば絶大な力で問答無用で滅ぼしにかかる。他の生き物にまるで容赦しない。 花を操る能力は実際オマケ程度で、実際は人間をはるかに凌駕した身体能力で戦うほうが得意。 花を飛ばしたり、傘で攻撃したりする優雅な戦い方をする。特定の力を持った人間か、同じくらい強力な妖怪しか相手にしない。 人の神経を逆なでるのが大好きな困ったさん。 【射命丸文(しゃめいまるあや)】 ・種族 天狗(鴉天狗) ・能力 「風を操る程度の能力」 ・幻想郷最速の鴉天狗。性格は真面目で社会適応性は高いが根は狡猾。強いものには下手に、弱いものには強気で接する。ただし、取材対象には常に礼儀正しい。 実は一回だけゲームで主人公を務めていたりする。ONとOFFの言葉使いの違いが大きい。地味に強キャラで最強クラスの実力の持ち主だが、天狗ゆえにあまり本気を出さない。文々。新聞という新聞を発行しており、妖怪の山以外の場所の出来事も記事にする。 妖怪の山の外の人間や妖怪を記事にするのは、天狗の中では彼女だけらしい。