開幕3連戦を白星先行(2勝0敗1分)で終えた作世州オールスターズは、その後も勢いそのままにスルスルと快走。
レッドエンジェルスやプリンスラビッツと並び解説者達からはCチーム(8~最下位)と目されていたにも係わらず、優勝候補の一角に数えられている西東京カイザースと同率首位で4月を終え、世間をアッと驚かせた。
今のところリーグ全体の目新しさと好調な滑り出しに対するのファンの期待感も相俟って、興行収益は上々の数字を叩き出している。
球場運営会社の負担で増設させたエキサイティングシートや選手と交流出来る特典付チケットの販売も概ね好評で、特に十十なぎさがデザインしたマスコットキャラクターは野球ファンと全く関係無い層からも絶大な支持を集め、ネットでしか買えない関連グッズが飛ぶように売れる嬉しい誤算のオマケ付き。
‥‥‥ゆるキャラと云うジャンルに属するらしいのだけど、何が魅力なのかが私にはサッパリ理解出来ないわ。
「ですからァ、1度試すだけ試してみたって良いんじゃないンですかァ?」
その日のミーティングルームには世渡HC以下、1軍コーチ陣と2軍監督、球団スコアラーが結集しており、室内には打撃コーチの訴えが響き渡っていた。
善くも悪くも注目を集める新球団にはシーズン終了後に放映するドキュメント番組の企画も持ち上がっており、今も絶賛密着取材中。彼のやや芝居がかった言動も、ソレを意識してかと推察するわ。
「そうですとも、多少の粗さには目を瞑るべきです!」
対戦カードが5球団からほぼ倍となる9球団に増えた今シーズンは、ゴールデンウィークを迎えた段階でようやく一巡するかしないかと云う状態だった。
その対策として組まれた2連戦が6カードも続いたり、旧セ・旧パ(カイザース含)がホームとなるか否かで予告先発と指名打者制度の有無が決まる変則的な日程に適応出来ないチームが調子を落とす等、巡り合わせが味方したと見る専門家も多い。
中には好発進の原動力としてSABR-metricsをベースに私独自の解釈を加えた起用指針が挙げられたりもしているけど、球界関係者からは単なるビギナーズラックと酷評される声の方が遥かに強かった。
‥‥‥私達の戦い方が日本球界の新機軸として立証されるまで、あと何シーズン要するんでしょうね?
「ま、試してみる価値は有るんじゃないかと」
とにかく今は昨年猛威を奮ったギガンテスの“史上最強打線”を凌ぐ勢いで躍進中の我等が“マシンガン打線リローデッド”の調子が低迷する前に、早くも投壊現象の兆しを見せている投手陣の再整備が急務と化していた。
だが自軍ファームを隅々まで見渡しても埋もれたままの逸材は発掘出来ず、海外市場に食指の動く優良助っ人の姿も無い。
こうなれば後は現場の手腕に期待を寄せたいトコロだが、投手出身の世渡HCが提唱するSNT(本人曰くシークレット・ナイト・トレーニング)は、参加した野手陣には効果覿面だった一方で、投手陣には却って悪影響を及ぼしていた。
顕著な例を挙げれば、自ら球界を代表するサウスポーとして育て上げると公言した良見佑治と茄子野匠のフォームを無残なまでに破壊し、2軍に幽閉してしまったのだ。
現状打破の起爆剤として打撃コーチが主張しているのが、今のトコロDH限定起用となっているG=ファニーニョのフル出場。投手陣が4点取られるのならば、5点取れる打線を組めば良いとでも?
「そもそも守り勝つ野球なんて、ウチのカラーじゃありませんしねー…ハハ」
守備走塁コーチの自虐的ネタに、他のコーチ陣がドッと沸く。いや、断じて笑い事では無いのだが。因みにプレイングマネージャーである十十はチーム編成はGMの仕事、戦略を練るのがヘッドコーチの仕事、と丸投げを決め込み顔すら出していない。
オープン戦の頃にファーストとサードで数試合起用された時には“辛うじて試合に出せるレベル”“ムサ苦しい置物”“バミューダ・トラペジアム※”と酷評されていた彼だったが、当たった時の長打力には目を見張る物があった。
他の選手より出場試合数が少ないにも関わらずホームランダービーにその名を刻んでおり、ドジャースに強奪されたT=レックスやギガンテスに攫われたO=ドリトンの2名より遥かに高いコストパフォーマンスを得ている。現時点では怪我の功名と言えるだろう。
でもそれは彼の苦手とする守備のプレッシャーを無くし、適度な休養を与え、コンディショニングコーチの細やかなケアの上に成り立っているからで、リミッターを解除すればどういった結果になるのか判らない。
※古本阿斗・築耳呈一・右井儀の3人と内野陣を形成した際の守備範囲を揶揄して。他に男木寸田と未知数だった左腕・十十が加わる場合も。
「ぅぅぅ=もぉシ者疲れたょ~~珈琲煎れたげるからイ木も!みんなゎその間にテレビでも観ててっ」
喧々諤々の議論が飛び交う中、時間を見計らったかの様なタイミングで十女史が論議を強制中断する。こんな行為がアッサリと見逃され、この子のする事だから仕方が無い、と平然と罷り通るのが彼女の凄いトコロで、その奔放さが大変羨ましい。
‥‥‥6年前まで外の世界を殆ど知らない少女がこんなにも逞しく生きているんだから、私だってもっと頑張らねば。
『皆さんこんばんは、希保田響子です。GWも終盤に入り、全国各地では本格的に帰省ラッシュが起こっている模様です。ドライバーの方々は交通ルールを守り、安全運転を心掛けて下さいー…さて、デーゲームの結果をお伝えする前に4月の月間MVPの発表が有りましたので、ソチラからイッてみましょう。響子の、イチオシのコーナ~~~っ!』
何年経っても相変わらず元気な希保田キャスターの名物シャウト。事前に取材を受けていた人物を把握しているだけに、録画予約をしていてもリアルタイムで観れるのは、少しだけ嬉しかった。
『まずは月間MVPおめでとうございます!』
『あざーっス。まさか頂けるとは思いませんでしたw 』
『…開幕から4月末まで22試合連続安打(継続中)のリーディングヒッターで打率.573。HRも十傑入りの11本。ご謙遜なされる数字じゃ無いと思いますが?』
まるで憑き物が落ちたかの如く打撃が開眼した十十は、出場する度に安打を積み重ねた。
勿論ヒットだけでは無く、勝利至上主義の象徴として採算度外視で招き寄せられたUBLの英雄・B=バンガード、旧パ本塁打王の常連・亜力士=キャブレラとタフィ=狼主の“ハンドレッドパワーズ”を相手に互角の本塁打王争いを演じている。
決して将来を嘱望された選手では無い。高卒・大卒・社会人と彼を獲得するチャンスは再三有った。にも関わらずスルーされ続け、コネ入団と嘲られたルーキーが、だ。
ネット上では“無能”“絶許”と影山スカウトの一押しだった彼の獲得を見送った、当時の所属球団フロントに対する不満の声が高まっていた。そんな話題を見聞きするだけで、私の胸に熱いモノが込み上げて来る。
‥‥‥それだけでも、球団経営に乗り出した甲斐があったと言えるだろう。
『ぃゃ、その他2冠王にウチの投手陣がフルボッコにされてますでしょ?首位っても最終日に追い着かれて翌日には蹴落とされた訳だし』
『ぁ゛ー…いえ、失礼しました。ちなみに御自分の中で1番印象に残ったプレーは何でしょう?』
開幕緒戦を白星で飾り意気揚々と臨んだ2戦目で、オールスターズは早くも躓きを見せる。
セーブの付かない4点リードで迎えた9回、前夜に引き続きマウンドに登ったJ=クルゥンゲキは打者2人をたった4球で片付け、WBファンを絶望の淵に追い遣った。
しかし、3番の亜力士をストレートのフォアボールで歩かせると4番の悪童・番堂長児相手にまさかの危険球退場。幸い乱闘騒ぎにはならなかったが、緊急登板となった手二一結がベンチの指示に従い5番の狼主との勝負を避け、敢えて満塁策を選択。
すると次に控える猪狩世代の1人・飯田太志(満腹高)が起死回生のグランドスラムを夜空に打ち上げ、試合を振り出しに戻してしまった。
その後は決着が付かぬまま延長戦に縺れ込み、規定により12回引き分け。十十が放ったプロ第1号となる先制アーチは空砲となり、お立ち台に上がる彼の姿を待ち侘びた私の期待は完全に裏切られたのだ。
前夜と違い仕事の都合で帰京していたから、何の道一緒に喜び分かち合うのは不可能だったけどー…多分、あの口惜しさは生涯忘れられないだろう。
3者凡退か、一打逆転の大ピンチ。時に波乱を招く守護神のピッチングは、早くも一部のファンやマスコミから“ハラハラドキドキの狂運劇場”と有り難くないフレーズを頂戴しているわ。
『4月14日の両打席本塁打ですね』
『え~っとー…その日は確か2度目の達成で、2ケタ失点の大惨敗でしたよね?』
『えぇ。でも必ず打つってファンのヒトと個人的に約束してたんで』
『なるほど、ソレは素敵ですね。その方がとっても羨ましいですー…では、監督として4月を終え、手応えの方は如何ですか?』
‥‥‥画面をマトモに観れない。それでも周囲の生暖かい目が、私に注がれているのが手に取る様に判った。
『ん~~どっちも弩ルーキーなモンで名将として名高い八木監督の胸を借りるだけでも一杯一杯なのに、球界を代表するスラッガーの松井選手や大先輩の神童選手と同じ舞台で遣り合うんスから、どんだけぇ~?と。HCとGMの力を借りてどーにかこーにかってカンジです』
『なるほど、巨頭体制では無く三位一体ですか』
『えぇ。出来たヨメが2人居る的な (´∇`*) 』
「~~~っ!! 」
「どうでしょう?ファニーの件が難しければ、せめて奥ー…失敬、四条GMから+さんにビシっと言っちゃあ貰えませんかねぇ」
莫迦っ、と叫びたい気持ちを無理矢理押し殺す私に、頃合と見た世渡HCが意見の取り纏めに入った。どうやら潮時と言う事だろう。
GWに入ってようやく全球団との対戦を終え、本格的な戦いがこれから始まる。私がなかなか首を縦に振ろうとしなかったG=ファニーニョの1塁手起用。DH制の無い試合でも9番に座り“最凶のラストバッター”に固執する十十の説得。
チームの舵取りを一任されてはいるが、彼らにも長年この世界で生きて来たプライドが有る。選手だけで無く、スタッフも個人事業主の寄り合い所帯。一蓮托生の運命共同体なのだ。
首位を快走しているならまだしも、最終日に同率に追いつかれ、既にAチーム(3位以上)争いに巻き込まれている現況では、何具体的な対案でも示さない限り納得しないだろう。
「‥・・・・わかりました。それでは丁度DHの無くなる、連休明けのカードからで宜しいですね?」
快く働いて貰わなけれらば、何処かしら支障を来す。例え遠回りになる選択でも、そうせざるを得ない時も有る。
組織とは、そう言う物だ。
【ペナントレース順位表(2005.5.8現在)】
1位:西東京カイザース(20勝9敗)
2位:福岡スーパーフェニックス(2.0)
3位:大阪ライガース(0.5)
4位:作世州オールスターズ(17勝12敗)
5位:中京ドジャース(1.0)
6位:東京ギガンテス(3.5)
6位:幕張マリナーズ(0.0)
8位:瀬戸内レッドエンジェルス(12勝17敗)
9位:陸奥ワイルドブルズ(0.5)
10位:北海道プリンスラビッツ(1.5)