はじめに。
本編は実況パワフルプロ野球10の世界観をベースに、2004年に勃発したプロ野球再編騒動の末、1リーグ10球団制となった球史を想定したifストーリーです。登場選手及び所属球団にモデルは存在しますが、全て架空の物となります。予めご承知おき下さい。
なお、拙作の日本国政府は現行の都道府県制を廃し、道州制を導入しております。
【 …ファールボールにはくれぐれもご注意下さい…ファールボールにはくれぐれもご注意下さい… 】
『たかが選手― 』
2004年に勃発した、プロ野球再編問題。かの鍋嶋常康オーナーが遺した迷文句は今も記憶に新しい。
あくまでも囲み取材中のインタビュアーによりもたらされた、当時の日本プロ野球選手会会長である吉田淳也氏が“発したとされる要望”に対してのコメントなのだが、この一言が球史の流れを決定付けたのは紛れも無い事実だろう。
事の発端はその年のキャンプイン前日。パシフィック・リーグ全体が極度の経営不振に陥る中、親会社が1兆円超となる有利子負債を抱えるワイルドブルズ仙台が打ち出した苦肉の策ー…球団名のネーミングライツ構想だった。
当然と言えばそれまでだけど、事前に何の示し合わせもせずに行った独断専行に対して他球団は猛反発し、ワイルドブルズは直ちにこれを撤回。進退極まった同球団は売却ないし清算を検討した末、ペナントレースの真っ最中に同一リーグ内のブルーウェイヴ神戸との合併を発表している。
今は敵同士だけど、来シーズンからは一緒にやる仲間と真剣勝負?優勝を争いが激化する終盤に、手心が加わる可能性は?経営者視点では理解出来なくも無いが、1人のプロ野球ファンとしては到底納得出来るものでは無かった。
これに対して最も影響を受ける立場にある選手会は逸早く反応し、本当に合併が最善の選択であるのかを模索する時間的猶予を求め、1年間の合併交渉凍結と、リーグ全体への経営改善策を提案。強硬に合併が進められるのであれば、ストライキも辞さない反対姿勢を強く表明している。
当初は現状維持を望む世論を背景に、業界最大手のIT企業がワイルドブルズ買収に名乗りを上げた時点で事態は終息に向かうと思われていた。しかし、WB側は既にプロ野球実行委員会での承認済である事を理由に、これを頑なに拒否。
NPB及び球団と選手会の間で行われた団体交渉も平行線を辿り、最終的には選手会がNPBを相手取り合併差止を求める法廷闘争に至るも、裁判所は訴訟を棄却。選手会は遂に日本球界史上初となるストライキへと突入する。
『歴史的大暴挙!選手会無期限スト断行へ― 』
『プロ野球終焉のお知らせ?日本シリーズ開催中止も』
『ファンへの冒涜!! NPB暗黒時代到来か?! 』
一部の心無いマスコミにより連日バッシング報道が続いたが、大多数のプロ野球ファンは選手会の決断を支持。ニュース番組に生出演した吉田選手会長には賛同と彼を励ます熱いメッセージが寄せられ、カメラの前で男泣きをするの姿も見受けられた。
互いに一歩も引かない全面抗争の結果、ペナントレースはストライキ決行前日である9月17日の時点を以て全日程を終了した扱いとなり、日本シリーズも開催されないまま2004年のシーズンは幕を閉じている。
こうした一連の騒動の背景には、2球団の合併に乗じてパ・リーグ側がセントラル・リーグ側に求めた救済措置――第2の球団合併を前提にした1リーグ10チーム制への移行要請と、その実現に向けた各球団オーナーの思惑が介在していた。
この頃のプロ野球はまだまだ巨人戦放映権がドル箱と称される程の視聴率を誇っており、東京ギガンテスは刺激的な新カードを組むことに依って、頭打ちに成りつつあるマーケットへの打開策を弄したのだ。
一方、既得権益を害される立場にある他のセ・5球団が1リーグ移行に難色を示すのは極々自然な流れであって、元々ワイルドブルズ-ブルーウェイヴ間及び協議中とされる第2の合併を承認は彼らにとって、セ6:パ4堅守に対する見返りの筈だった。
しかし、業を煮やした球界の盟主が自軍のパ・リーグ移籍を仄めかし、両リーグが5球団となった暁には2リーグ維持の妥協案として提示されていた年間数試合程度の交流戦を、同一リーグ内での対戦カードから溢れた球団同士で行えば良いと恫喝する。
本当にそうなってしまっては本末転倒。2リーグ制を続ける旨味が完全に失われてしまうのだから、何の意味も無い。
丁々発止のせめぎ合いが続く中、球界には更なる混乱の種がバラ蒔かれた。同年のドラフトの目玉であった高校球児・友沢亮への栄養費支給が発覚し、ギガンテス、ライガース、キャットハンズ、ブルーウェイヴの球団オーナーが引責辞任する社会問題へと発展。
続いて証券取引法違反により埼玉レオポンズグループのオーナーに有罪判決が下るなど、1リーグ推進派の中核となる球団関係者が相次いで失脚する事態となった。
その上、第2の合併候補の片割れとされていた福岡スーパーフェニックスの親会社が自力経営再建を断念し、協議中であった幕張マリナーズとの合併を白紙撤回すると一方的に宣言。
追い打ちを掛ける様に大阪ライガースホールディングスが投資ファンドの標的となり、伝統あるタテジマが売却対象に陥ると、最早NPBはリーグ数云々ではなく運営そのものが危うくなっていた。
そして混沌の度合いが頂点を極めたのは、スーパーフェニックスとの交渉決裂から僅か1週間足らずのマリナーズが、これまで1年毎に更新されていた明治神宮球場の使用契約を突如打ち切られたセ・リーグ所属の新宿スワロウズとの電撃合併を発表した、その数時間後。
1リーグ移行に嫌気が差した横浜キャットハンズ母体企業の、球団経営撤退がリークされた時だろう。
球界関係者のみならず、チームを愛する日本中のプロ野球ファンや政財界をも巻き込んだ大きなうねりは、終着点を求めて迷走。そんな未曾有の危機に瀕した日本プロ野球界の救世主となったのが、猪狩コンツェルン総帥・猪狩茂氏であった。
氏は先のIT企業に依るスーパーフェニックス買収の仲立ちを果たすと、ライガースに対しては友好的TOBを。レオポンズに対しては敵対的TOBを断行し、同グループのレクリエーション部門解体に着手。
最終的には自らの手で川崎ユニオンズ以来、実に半世紀振りとなる新球団・西東京カイザースを創設する。
依然球界の盟主として君臨する東京ギガンテス。そのライバルである西の雄・大阪ライガース。本騒動には一貫して静観の立場を保った中京ドジャースと、市民球団・瀬戸内レッドエンジェルスの旧セ4球団。
北の大地に根を下ろしたばかりの北海道プリンスラビッツ。不死鳥の如き再生を目指す福岡スーパーフェニックス。東西ダブルフランチャイズ計画が頓挫し、一躍ヒールと成り果てた陸奥ワイルドブルズ。WBと共に55年振りとなる1リーグ回帰の立役者となった、幕張マリナーズの旧パ4球団。
上記9球団は興行日程や地域保護権等、多くの問題を抱えながらも新生セントラルリーグの船出に漸く漕ぎ着けた。後は身売りor解散問題が急浮上したばかりのキャットハンズを、どう対処するかに焦点が集まる。
当面保有の説得を試みて、来季以降への持ち越しを決断させるのか?新セ界の幕明けに間に合わせるべく、早急に売却交渉を成立させるのか?時代は後者を選択し、その挑戦者として白羽の矢が立ったのが、我々であった。