「悪いな、部活の仲間が待ってるんで、俺はこれで!」「え? うん。とにかく助かったよ。ありがとう」微妙に食い違っているような、二人の会話。相変わらずのフォーゼのマイペースに振り回されつつも礼を欠かさない辺りは、流石火野映司というべきか。その若者に握手を求められ、それに応じながら……映司は、思う。「ところで君、何処から落ちて来たの? まさか宇宙からじゃないでしょ?」この仮面ライダーは何処から現れたのか、と。もちろん、仮説のレベルでは大体の予想はついている訳だが。「それが、ロケットモジュールで上の方に飛んでたと思ったら、急に上下が逆転してたって言うか……良くわかんね」自分でも何を言っているか(ryまぁ、この反応も映司には読めていた。正直に言って、フォーゼを纏っているこの若者は、あまり頭が良さそうに見えないのだから。「もしかして、あの巨大円盤の面の一つから来たんじゃないかな?」そう言いながらオーズは、宙に浮かんでゆっくりと回転を続ける巨大円盤を指差していた。ガラの魔術が破られたことによって、もうじき有るべき場所に収まる予定の、一枚を。「おお? あの遠くで浮いてんのって、地面か!? 天の川学園が回転してる!!?」敬礼のように目の上に手を翳して、おそらく仮面の内側で目を細めながら、太陽の光を遮りつつ。どうやら若者は、帰還の目印となるべき場所を発見したらしい。その地点は、映司の憶測通り、ガラの魔術の余波によって裏返ってしまった土地の一枚にあったようだ。つまり、その一枚が地面に収まってしまえば、フォーゼは帰還できない可能性が高い。「早く行かないと、帰れなくなるよ」「マジか!? じゃぁ、またな! オーズッ!」『ロケット オン』再び右手へとオレンジ色のロケットを具現化したフォーゼに、手を振って。オーズはようやく、この喧しい若者と別れる事が出来たのだった。……別に、そういうタイプも嫌いでは無いが。「無茶苦茶だけど……若いって、良いな」それは年端もいかない魔法少女等にも言えることだが、彼らは時に、大人の予想もつかないような伸び代を見せてくれるものだ。フォーゼの滅茶苦茶な戦いがガラ討伐の役に立ったように。また、美樹さやかが目的と感情の折り合いを付けつつあるように。「そういえば、おかしな事を言ってたような……?」飛び去ったフォーゼが残して行った、小さな違和感。フォーゼは目的地が浮き上がっている事にも驚いていたが、そもそも土地反転現象自体に驚いていたようにも思えるのだ。だがしかし、昨日から断続的に起こっている事象に対する反応としては、いささかオーバーリアクション気味に映司には見えてしまっていた。そして同時に、疑問にも思う。反転した土地達が繋がっていた場所に関して。一枚目はドイツに、二枚目は江戸時代に、そして三枚目は中生代へと反転を遂げていた筈だ。では、四枚目は?フォーゼを呼び寄せることとなった最後の一枚は……いったい何処に繋がっているのだろうか?「意外と、『未来』……だったりして」正確な解など、誰にも分からない。過去か、未来か、それとも類似の歴史を辿った平行世界か。地へ戻って行く一枚の巨大円盤を見守りながら。オーズの呟きは、鬱蒼と茂る森の中へと消えて行った……『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第九十七話:巨大化は悪の美学Count the medals 現在オーズの使えるメダルは……タカ×2コンドル×1コブラ×1カメ×1ワニ×1プテラ×1ティラノ×1「パンツマン! ……って、アレ? もしかして終わっちゃった……?」息を切らせながら駆けつけた美樹さやかが、現場に辿り着いた時。錬金術師ガラの姿は既に見当たらず、森の中に開けた一角に立っていたのは、変身を解いた火野映司ただ一人であった。辺りを見回して何かを探しているようだが、映司は何かを失くしたのだろうか。「うん。そっちはどうだった? 駿君のお母さんと、トーリちゃんは?」「大丈夫。無事だった……。ありがとう、トーリを助けてくれて」映司が第一に気に掛けたのは、やはりまず他人の事で。彼自身が自己犠牲精神満々の戦法をとった一件など、気にも留めていないらしい。ただ、回復能力持ちのブラカワニが機能していたお蔭で、そうそう致命傷は負わないだろうという見込みがあったため、さやかも今回に関しては特に腹を立てたりしないが。「で、何探してんの?」「いや、紫のメダルが見つからなくてさ。この辺りに落ちてる筈なんだけど……」映司が言うには、戦闘中にガラの攻撃を振り払うために射出して、その時を最後に戻って来ていないのだという事らしい。どうやら、映司の体内には未だ二枚の紫コアが残っているらしいが、紫コアは他の色と組み合わせる事が不可能らしく、役に立たないのだとか。「良いチャンスだし、このまま捨てちゃいなよ。アレって、何か凄く危険な感じがしたよ?」「まぁでも、強いのは確かだし、段々身体が慣れてきてるから、次辺りで何か掴めそうなんだ」ぶつくさと文句を言いながらも、何だかんだで自身も紫コアを探し始める美樹さやか。気が進まないと思いつつ、親友を助けて貰った負い目があるので、映司に協力することにしたらしい。一度プトティラ無双を目撃した身としては、これが良い機会だと思っているものの、紫の力も役立ったには違いないのであまり強く言えないのである。「ありゃ、もう片付いちまったか」「よく戻って来たな、火野」「はい、後藤さんたちもありがとうございました」そして、美樹さやかと似たような反応が、別のところからも現れていたりして。現場へと足を運んだ伊達明と後藤慎太郎の第一声である。後藤によるバースの調整を終わるまで待っていたら、遅れてしまったという事らしい。「火野、美樹。灰色のグリードと鳥籠の魔女から入手した品だ。死ぬかと思ったがな。受け取れ」「これは……カマキリ?」「トーリをさらったアイツか。ありがと。ってか、良く勝ったね……?」まず二人へコアメダルとグリーフシードを渡す後藤は、律儀というか、真面目というか。尚、ガメルがカマキリコアを投げ捨てた事件の説明は、省略である。そうした方が、何となく死闘の果てに奪い取ったようなニュアンスが出るからだ。もちろん、鳥籠の魔女との戦いでは軽く死線を潜っている訳だが。「ああ、そうだ。あたしもパンツマンに渡すように言われたよ、トーリが奪い返してたコアメダルだってさ」一方、さやかもまた、自身が預かっていたコアの存在を思い出していたりして。戦闘が終わっていると思って気を抜いた時から、すっかり忘れてしまっていたのである。3色5族のコアメダルを映司へと手渡しながら、忘却の事実を笑って誤魔化して見せるものの、幸いにして糾弾の声をあげるような人間は居合わせなかったらしい。ここまでは、良かった。というより、この二人が齎してくれた情報は、明るかった。「それと、俺も一つ気になってることが有んだけどよ……『アレ』って何だと思う?」だがしかし……伊達明の指差すモノへと視線を移した三人は、それまでの浮かれた気分を一気に冷やされてしまっていた。何故なら、伊達の示した方向にあったものは、ガラがセルメダルを材料に作り上げていた巨塔で。それが、段々と形を変化させていたのだから。まるで、生物のように。鳥のようなに巨大な翼を見せつけたかと思えば、身体は強靭な鱗にて覆われて。四本生え揃った脚には、鍵爪のように歪曲した刃が具現化した。顔は肉食竜のように顎が発達し、水平では無く垂直に並んだ二つの瞳が、生物的な不完全さを思わせる。そんな、体長10メートルにも及ぶ生物が、セルメダルによって形成されていたのである。しかも、巨塔を構成していた分のセルメダルを圧縮して身体を構成しているらしく、その足音は……怪物が、見た目以上の重量を誇っている事を教えてくれた。「……あの中に、紫のメダルの気配がする」「え? あんた、ここで落としたんじゃないの?」「火野がガラと戦っていた途中で失くしたなら、実はガラに奪われていたんじゃないか?」「ワープみたいな能力あったみたいだしなぁ。こっそりあの塔に送ったんじゃねぇか」というか、コアメダルの気配という超常的な察知機能が映司に備わっている件について。おそらく自身の体内に二枚残っている紫コアの影響で、同色のコアだけには反応できるようになっているのだろう。そして、誰もが気付いていた。……怪物が、四人の立ち尽くす地点へと一目散に駆け寄ってきている事に。『人間どもめぇ! 死ねぇっ!!』その声は……多少重くなっているものの、先程までオーズと相対していた錬金術師の、そのもので。しかし、先程までオーズやフォーゼと競合いを演じていた存在とは……何もかもが、一線を画した能力を誇っていた。一度身体を振るわせれば、瞬く間に周囲の木々が薙ぎ倒されて。爪を振り回せば、その轟音は森の外まで飛び出していく。そんな巨獣が……現在の、ガラの姿であったのだ。「何アレ!? 錬金術師は倒したんじゃないの!?」「俺が倒したのは端末だったみたいだ! 多分あっちが本体!」映司は、ガラの部屋に備わっていた、18のコアメダルを収めるべき器を目撃していた。だからこそ、気付けたのだ。おそらく、目の前の怪物は、橙色以外の6色18種のコアを全て使う事によって生み出されているのだ、と。そして、そんな重要物件があるならば、どちらが本体かは明白であった。「「変身っ!」」『タカ トラ バッタ』叫んだのは、どちらが先であったか。伊達明がベルトから機械音を響かせるとともに、映司もまた、姿を変えていた。およそ二週間ぶりだというのに、えらく懐かしさを感じさせる、ベルトの唄を聞きながら。赤いフェイスマスクに緑色の瞳を輝かせた、鷹の目。黄色の鍵爪を折り畳んでまとめた、虎の手甲。緑にフチどられた昆虫の跳躍力を思わせる、飛蝗の脚。古代の王に愛用され、現代のオーズも初起動の際に用いた、オーズシステムにおける唯一の混成コンボ。体力の消費が無い代わりに激しい殲滅力も見込めない、オーズの基本形態。即ち……『タトバコンボ』に他ならなかった。さやかが返還したタカメダルとトーリの奪還した複数枚によって、ようやくこの形態が使用可能となったのである。「おお? それがオーズか? そういや今日まで見た事なかったぜ!」「えっ? そうだったの……?」……銀の鎧に身を包んだ伊達が、そのヘルメットでは隠しきれない程の奇異の視線を、オーズへと注いでいたりして。そして、仮面ライダー同士って意外に連携取れてないんだなぁ、なんて呟く美樹さやかの視線が伊達に向けられていたのだとか。地面を横っ飛びに転がりながら回避を熟しているバース。同じく、ガラへとサーベルを投げつけては弾かれている、美樹さやか。そんな中、バッタレッグの軽快な跳躍によって攻撃を避けているオーズは……方針を既に、決めていたりする。というか、タトバコンボを選択した場合の戦略など、限られているのだ。緑から赤へと明滅する瞳が、透視能力によってガラの体内のコアメダルの位置を教えてくれていた。脚は一足飛びに相手の懐に飛び込むことに優れているのだから、コレを使わない手は無い。収納されていた虎爪を伸ばすことで、相手からメダルを抉り出す準備も万端だ。つまりタトバコンボとは、相手のメダルを奪取することに特化した形態なのである。狙うは、一点。ガラの腹部の奥に含まれた紫の一枚にして、プトティラコンボの構成に必要なトリケラメダルであった。腐葉土の柔らかい足場をものともせず、怪物の翼の内側へと跳び入ったオーズは、迷わずに爪を振るう。突き刺し、抉り出すことを想定しながら。だが、しかし……「刺さらない!?」甲高い音と共に、両者の戦力差が明白なものとして現れてしまっていた。突撃と同等の勢いにて、オーズの爪は弾き返されてしまったのである。更に、空中で姿勢制御の効かないオーズを……巨大なガラの凶刃が襲う。さやか剣も、後藤の銃撃も、CLAWsを起動しようとするバースの動作も、間に合わない。『クワガタ カマキリ バッタ』しかし……オーズは、既に次のメダルを用意していた。緑の3種のコアにて構成される、最高の汎用性を持ったコンボへと、身体を変化させたのである。昆虫族コンボである『ガタキリバ』。その効果は……自身と同じ性能を持った分身を、生み出すこと。もちろん、ガラの腕が目前に迫っている状況で大量の分身を生み出すには時間が足りないため、オーズが生み出した分身は一体のみであったが。「ハァッ!」生み出した一体の分身を足場として、バッタレッグの瞬発力による緊急回避を行ったのだ。ガラの振り抜いた暴虐の一撃は、オーズ本体へ届くことは無かったのである。土台となった分身体はガラの強烈な一撃によって地面へと叩きつけられて瞬く間に消し去られてしまったものの、本体のオーズは逃げ延びた。「……ッ?」……はずだった。そう、誰もが思ったに違いない。おそらく、超絶回避を演じたオーズ自身でさえも。にもかかわらず……現実は、そうは成っていなくて。オーズが無傷で着地した筈の地点では、変身が解けてしまった火野映司が、膝から崩れ落ちていたのだ。「パンツマン!?」「火野!?」「気ぃ散らすなッ! 死んじまうぞ!!」荒れ狂う巨獣の尾の振り下ろしを回避しながら、各々に、叫ぶ。オーズの安否を気にした二人と、注意を喚起した一人。バースに少しだけ遅れながらも何とかガラの攻撃を回避した二人を尻目に……伊達は、考えていた。火野映司の身に何が起こったのか、という事を。何かの原因で過去に脳へのダメージが入っていれば、突然気を失うのも有り得ない話では無い。だが……伊達は、オーズだからこその可能性へと、考え至っていた。「まさか、さっきの分身技は……本体と体力を共有してんのか?」それは、ガタキリバの特性故のダメージだったのではないか、と。その事を火野映司自身も知らずに、ガラの攻撃の回避に使ったつもりで居たら、直撃分のダメージを受けてしまったという訳だ。ここに……火野映司の、メダルに関する知識と応用力の不足が、再び顔を出してしまっていたのである。後藤と共に能力を確認したメダルも過去にはあったが、ガタキリバに関しては一回実戦投入したきりであったために、映司は詳細を知らなかったのである。ただの便利な分身コンボだと、そう思っていたのだろう。そして、他三名にとってそれ以上の急務として考えなければならないのが、倒れて意識を失っていると思しき火野映司の安全の確保である。ガラが映司へとトドメを刺そうとしているのを止めなければ、人間側はオーズという一大戦力を失ってしまうだろう。『クレーン アーム』『キャタピラ レッグ』「させるかよ!」咄嗟に追加武装を起動し、右肩から腕部へと一体化したクレーンの先を伸ばして、ガラの翳した腕へとワイヤーを巻き付ける。加えて、キャタピラの踏ん張りによって、一時的にガラの巨腕の動きを鈍らせる事に成功していた。威力が減退した爪攻撃を、さやかが縦に構えたサーベルを以て、何とか受け止める。もちろん長くは続かないだろうが、少しの時間だけでも充分なのである。ライドベンダーを駆った後藤が速やかに映司のもとへと辿り着き、その身の回収にかかったのだから。「オレンジのメダルで回復させてやって!」「分かった!」バイクの爆音を伴って、映司を連れながら一時撤退を決行する後藤の背中を視界の隅に収めながら。伊達明は、今後の見通しについて考えていた。映司の回復を待って、不死身のブラカワニを前衛に立たせて持久戦を行えば、勝利の目は無い訳では無い。ただし、現在のバースが持久戦に耐え得るかと言われると、怪しいものがある。後藤が臨時メンテを行ったとはいえ、きちんとした機材も無く行われたメンテに過度な期待は禁物だろう。加えて、魔法少女もグリーフシードというMP制限があるため、致命的に持久戦には向いていない。つまり、ブラカワニコンボの持久戦に付いて行けるサポートは存在しないのだ。もしオーズがガラを倒せたとしても、それが終わる頃には地球が滅びていそうである。ブラカワニには、他のコンボ程の決定力は備わっていないのだから。「美樹ちゃん! 魔法少女の増援って呼べねえか?」「そんなの……そういえば、一人居たっけ。ちょっと通信してみる!」佐倉杏子はそこまで義理堅くは無いだろうし、トーリは戦力外である。強くて頼りになる先輩は、一人マミっている始末だ。だがしかし、さやかには一人だけ心当たりがあった。むっつりな、時々訳の解らないことを言い出す転校生様が、思い当たったのである。『見滝原中学より現れよ! 電波転校生暁美ほむら様ァッ!!』直後、音量の壊れた念話が……見滝原中学の方向へと一直線に放たれたのだとか。もっとも、実は目的のヒトは見滝原中学には居ないのだが。そして、当の暁美ほむら本人はと言えば……「諦められるわけ……ないじゃない」「あァ?」もう用事は無いだろうと言わんばかりに背中を向けようとしたアンクへと、食い下がっていた。正直なところとして暁美ほむらは、既にアンクを説得できる見込みを持っていた訳では無かった。だが、今回に関しては暁美ほむらは諦める事など、出来そうに無かった。バースや美樹さやかの協力を得て、ワルプルギスの夜を倒せるかもしれないという見込みが、ようやく立ったのだから。江戸時代に送られた際には、流石に諦めかけたものの、その状態が解消された現在となっては訳が違う。今のところ鹿目まどかの契約も防げているので、見通しの明るい回だ。そう、ほむらは思っていたのである。……この怪人の存在を知る、までは。「せっかく上手く運んでいたのにっ!」気が付けば、小さな肩を掴んで、地面へと押し倒していた。鬱陶しそうに視線を突き刺して来る、良く知った顔を、睨み返しながら。彼女がそこに居る筈にもかかわらず……断絶は、絶望的であった。その額へと銃を突き付けてみるも、やはり怪人はその顔に恐怖を表すことは無かった。暁美ほむらが撃てないと思っているのか、若しくは死への恐怖が存在しないのか。「ハッ……それで、どうする? 俺はこの身体を捨てるのは、『損』だが『無し』じゃない。だが、困るのはお前等だろうが」こいつの眉間に銃弾を撃ち込んでも、結局何も変わらない。むしろ、事態は悪化するばかりだろう。もし無理矢理アンクを引き剥がしたとしても、鹿目まどかが即死してしまう。そうなれば、暁美ほむらは再ループを強いられるのだから、元の木阿弥である。「何か、手段は……」暁美ほむらは、他人を治癒する魔法少女に、覚えが無い訳では無い。巴マミにも多少の治癒魔法の心得はあったはずだし、隣町では千歳ゆまという少女が契約していた回も存在した。だが、現在ほむらは巴マミとの折り合いは最悪だ。加えて、千歳ゆまの存在はイレギュラー中のイレギュラーであって、彼女は魔法少女にならない時間軸の方が圧倒的に多い。「なら、取引だ」そして、ここで仕掛けたのは……アンクの側からであった。馬乗りされている体勢とは裏腹に、会話の主導権は既に逆転してしまっているのだ。「お前がこのガキの身体を治す方法を見つけるまで、コイツは俺が生かしといてやる。代わりに、その時になったらお前の持ってるコアメダルを寄越せ」……如何にも恩着せがましく偉そうに言うのが、ポイントである。実のところとして、アンクはそれ程優位に立っている訳でも無いのだが、ハッタリも使い手次第だ。というか、アンクという怪人は元来、自ら進んで他人と契約を結ぶような性格など持ち合わせていない。そもそも、実は治癒能力を持つ魔法少女はほむらの身近に居るのだから、この条件には殆ど意味が無いのである。しかも、ロストのコアを取り込み終えていないアンクは、ほむらが所持するクジャクコアを直ぐに渡されても、保持しておくことが出来ない。それらの悪条件を誤魔化しながら、アンクは一時的にでも暁美ほむらを黙らせるために、ほむらに不利な方向へと会話を誘導したのだ。「私の……? 私はコアメダルなんて、持っていないわ」「…………寝ぼけてんのか?」もっとも、アンクの要求の意味は、自身の状態を理解していない暁美ほむらには通じなかったようだが……。・今回のNG大賞その頃の杏子@ガラの塔。「金銀宝石、お宝の山じゃねーか! こりゃー丸儲けだな! って、アレ……? 足元が崩れて……落ちるううッ!!?」みんな、空き巣はやめようネ!・公開プロットシリーズNo.97→痛恨のメダル選択ミスッ!!