「これ以上は絶対させないし、お前が乗っ取ってる人も必ず返してもらう!!」「黙れえええぇッ!!」恫喝。戦士と錬金術師による、命令の応酬。そして、互いが互いに従う意思を持っていない事など……確認するまでもなく、自明であった。ガラはその憑代として使っている身体を開放する筈も無く、オーズもその意思を曲げる訳が無いのだから。錬金術師の爪を橙色の手甲で弾き返す音が、室内へと木霊する。それと同時にオーズが地を蹴ってガラへと跳びかかった音も、また。「映司さ……ひゃっ!!?」そんな中、取っ組み合いながら塔の窓より飛び降りた二人に目を取られてしまったトーリを、ナイト兵の剣が襲う。もっとも、剣閃以上の速さを以て放たれた上段蹴りが、ナイト兵の腕部を弾き返したのだが。もちろんトーリがそんな高度な戦闘技術を持っている筈も無く、それを為したのは当然里中秘書である。どうも異常を嗅ぎ取って次々と室内へ集まってきたらしいナイト兵らが、トーリ達に襲い掛かっているのだ。鴻上会長は立ち回りが良いのか、里中秘書に守られて安全を確保できているようだが、トーリはそうも言っていられない。里中さんがトーリを助けてくれることもあるのだが、飽く迄会長優先らしく、中々トーリのカバーにまで手が回らないようなのだ。「よし! トーリ君ッ! ついに! 君の活躍の場が訪れたよッ!!」「『ついに』ってどういうことなんですか!!?」そこで頼りになるのが、まさかのトーリだ……と鴻上会長は力強く言い放ってくれた。だがしかし、トーリに何を期待しているのだろう。流石にこのナイト兵達は、トーリの電撃で一掃できるほど弱くも無い筈なのだが。「里中君ッ!」「分かりました」……と思ったら一瞬のうちに里中秘書と意思疎通を図ったらしい。里中秘書が取り出したものは……鴻上会長の身長程の長さの、ロープであった。発掘現場で使っていた備品の一つを持っていたのだろうか。その片端には、まるで西武劇のカウボーイが持っているモノのように、輪が括られていた。そして、里中秘書はその輪を重りにして、ロープの端を投げた。……トーリに向かって。「えっ……?」てっきり縄はナイト兵へ攻撃するための武器だと思っていたトーリは、その奇行に呆気にとられてしまって。自らの腰に丁度巻き付いたロープに目を落としてしまった間に、会長らが起こした行動を止める事が……間に合わなかったのだ。「空を飛ぶことは! 人類が古代より夢想し続けた欲望だよッ! 実に、素晴らしいッ!!」「頑張ってくださいね」鴻上と里中が起こした行動とは、ロープのもう一端を掴んで……そのまま窓から飛び降りる事だったのである。その奇行の意味を数秒の間理解しかねていたトーリであったが、自身に括り付けられたロープの感触を認識し直して、ようやく現状を把握し始めていた。すなわち……会長と里中さんが飛び降りて行った窓へと、トーリ自身が引き寄せられていたのだから。そのまま滑車の原理で宙に放り出されたトーリを……人間二人分の体重が、地面へと誘う。二人合わせて135kgにも及ぶ負荷が、腰に巻かれたロープへと伸し掛かったのである。「重っ!? 重量オーバーですっ!! 中身が零れそうですよぉっ!!?」「人間二人なら、載せて飛べる筈では無かったかね!?」「主に会長の体重のせいだと思いますが……」以前トーリは、火野映司と美樹さやかの両名を抱えて飛んだ事がある。だがしかし、今回は話が違った。美樹さやかと里中エリカの体重は大して変わらないのだが、火野映司と鴻上光生の体重が20kg近く違うのである。そもそも鴻上光生は190cm近い背丈の巨漢であるため、体重も自然と大きくなってしまうのだ。どうやら、トーリの現在の可載重量は100kgプラスアルファといったところらしい。もちろん、初期の頃には人間一名を運ぶのが手一杯だった時代もあるのだから、地味にセルメダルブーストで強くなっているには違いないが。必死に羽ばたいているトーリだが、高度を保てる見込みは皆無のようだった。「高度を上げるのが無理なら、滑空すれば良いんですよ」「なるほど!」文字通り里中エリカに手綱を握られながら行路を安定させる、珍獣トーリ。誰かの手下で居る姿こそ、実はトーリには似合っているのかもしれない。……その本来の主が緑のカリスマことウヴァさんであるということは、説明すべくも無いが。「良い調子ですね。このままのペースを維持しましょう」「はい!」少しだけ誉められて安心しているトーリの頭からは、完全に抜け落ちているのだろう。腰に巻かれた綱によって無償労働を強いられているんだッ! という事が。最初に無茶振りを見せられたせいで、思考が制限されてしまっているのである。例えるならば、13人の仮面ライダーが殺し合う企画を申請したとして、それが通る可能性は限りなく低い。だがしかし、『一年間で50人の仮面ライダーを殺し合わせます!』という予定を最初に申請しておくとしよう。そこで、それが却下された後に『じゃぁ、13人ぐらいにしておきます』と譲歩を見せると、あら不思議……無茶だったハズの企画が通ってしまったのである。飴と鞭を使い分ける里中さんが優れていると見るべきか、トーリが甘くて無知だというべきか。真相は藪の中……もとい、ドイツの森の中であった。空中に浮かび上がっていた3枚の巨大メダルのうちの二枚目も、既に地面へと帰還を始めていて。事態は……着実に、収束への一途を辿っていた。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第九十五話:Switch on! ――切り替わる舞台確かに、鹿目まどかの姿を模った何者かが口にした理屈は、そこまで理不尽なものでもない。暁美ほむらの時間停止能力を使えば、決して無理な話ではないのだ。より分かり易く説明するならば、ガラの大魔術によって江戸と東京の土地が入れ替わった現象を便宜上『A』としよう。この『A』は実際にはタイムスリップではないのだが、女ピエロと映司の会話の中に限っては、映司が『A』を時間移動であると認識している以上、時間移動として扱われるのだ。さらに、暁美ほむらが単体にて10秒間の時間を止めた時、相対的にほむら以外の全ての人や物が知らずに10秒間のタイムスリップを行っているという事も出来る。これを『B』と呼ぼう。最後に、暁美ほむらが火野映司を巻き込んで10秒間の時間を止めた時、ほむらと映司の二人は10秒間のタイムスリップを経験した事になる。この作業を『C』とする。つまり、先程の女ピエロと映司の問答は、こういう事である。――貴方だけは(『A』が実施される前の)元の時代に戻ることが出来ます。――俺と一緒に(『B』と『C』において)この時代に来た人も(『A』が実施される前の時代に戻れる人間の中に)加えて欲しい。暁美ほむらの能力を教えられて一瞬のうちに、ここまでの作戦を立てられるのか、というのも尤もらしい疑問ではある。だがしかし、他人の命が賭けられている状況ならば映司が正答する事をアンクは信じ、映司は結果を出した。それが、世界を回した決断の正体であったのだ。もっとも、そのための前提の幾つかに、暁美ほむらは納得できていない訳だが。であるからして、ほむらが鹿目まどからしき人物に問いかけた言葉は……至極、当然のものであったのだろう。「何故私の能力を知っているの? それと……貴女は、『誰』?」魔法少女……暁美ほむらより問いかけられた、言葉。話題に挙げられたその『能力』とは、周囲の時間を停止させて自身だけが行動するという固有魔法に他ならない。「そうだなァ。とぼけても仕方ないか。俺はアンクだ。グリードのな」そしてアンクは……暁美ほむらが何を知っていて何を知らないのか、確認する必要があると感じていた。グリードという単語を聞いても困惑しない暁美ほむらは、おそらくメダルに関する知識を多少備えているのだろう。どうやら、暁美ほむらは油断できる相手では無いらしい。「……私の能力に関しては?」「そんなモンは、一度見れば分かる」アンクがそう言い放った瞬間、破裂音が響き渡った。暁美ほむらの右手に握られたハンドガンが、内部で火薬を炸裂させたのである。その標的となった風穴はアンクの足元の地面に広がっており、その攻撃が威嚇であった事をこれ以上無いほどに物語っていた。「虚偽は認めないわ。初見の人間はまず、私の能力を『速さ』だと勘違いするものよ。いきなり『時間停止』なんていう突飛な発想には至らないわ」「ハッ……自分で言ってりゃ世話無いな」アンクを睨みつける暁美ほむらの、瞳。しかし、そこには何処か、敵意が足りないように思える。鹿目まどかの姿を借りたグリードの正体を、測りかねているからだろうか。魔女の口付のようなもので操られているという可能性も、考慮しているのかもしれない。そして、アンクが並列して考えている事象の中に……鹿目まどかの身体の事情を伝えるべきか否か、という問題が存在していた。姿を真似ているだけで鹿目まどかとアンクは無関係だと説明した場合には、情報提供の後に釈放される可能性は存在している。だが同時に、その場で処分される可能性も。「このガキの頭から記憶を細かく読んだら気付いたんだよ」「……やっぱり、その姿は鹿目まどかのものだったのね。でも、彼女は私の能力までは知らない筈よ」そこでアンクは、ここは大事をとって鹿目まどかの存在をアピールしてみた。米神を右手の指で軽く叩いて見せながら、そこに人間の脳があるのだという事を印象付けつつ。これで、即時射殺のフラグを叩き折ったのである。「あのキュゥべえとかいう白饅頭が病院で殺られた時の、このガキの記憶をコマ送りで見たら、すぐに分かった。思い出してみろ。あの病室にあったモノをなァ」かつて暁美ほむらがキュゥべえを惨殺し、その罪を鹿目まどかに被せたという事件が起こされた。その際、ほむらは時間停止の能力を使ってキュゥべえを惨殺するという、世の中の推理小説全般に喧嘩を売るようなトリックを用いてそれを為したものだった。だがしかし、能力を見破られるようなヘマをやらかしただろうか?「……キュゥべえが死ぬ瞬間の前と後で、風に流されたカーテンの形が同じだったのかしら?」「カーテンなら、偶然同じ形に流されることも無い訳じゃない。確率は低いが、証拠としては弱いだろ」ニヤリと意地悪く笑って見せる鹿目まどかは……どこか、暁美ほむらの反応を見て楽しんでいるように思える。その本来の持ち主なら絶対に見せない表情で、皮肉っぽく口元を歪めながら。暁美ほむらより低い筈の背丈から、ほむらを見下ろすような視線を向けてきていたのだ。どうも、そこに威圧感や不快感が足りないのは、従来の鹿目まどかの人徳なのかもしれないが。「別に、謎かけを楽しみに来たわけじゃないわ。早く答えを教えなさい」「セッカチなことだ。自慢の能力で考える時間を増やせば良いだろうが。まァ良い。教えてやる」回り回って錬金術師の盲点を突く契機となった、たった一つの小さな取っ掛かり。腕怪人アンクが病室の光景より見出した違和感の正体とは、果たして……「時計があったんだよ。あの病室には。秒針付きのヤツがなァ」病院に備え付けてあった、時計だった。コマ送りで鹿目まどかの記憶を見ていたアンクは、視界の隅に映るその情報を発見して、理解したのだ。キュゥべえを幾筋にも及んで切り刻むという作業が、ソニックブームさえ引き起こさずに刹那の内に行われたのだという事を。そんなことが可能とする能力ならば、おそらく時間関連の何かだろう、とアンクは当たりを付けていたのである。もっとも、ほむらへと声をかけた時に『時間停止』と言い切った部分には、カマをかける目的も含まれていたりしたのだが。時間能力者が時計に足を掬われるとはなァ、なんて皮肉を漏らしながら、怪人は笑う。暁美ほむらの大切な人の口で、声で。それが……酷く、ほむらの不安を誘った。悪い夢を見ていると思った方がまだマシな、地面から足が離れているような気味の悪い感覚に精神を煽られているのだ。「フン……この身体を開放しろってなら、却下だ」そして、そんな暁美ほむらの胸の内を見透かしたように、アンクは希望を斬り捨てる。ほむらの能力を知っているために、アンクには逃亡という選択肢が存在しないのだ。したがって、何とか暁美ほむらを言い負かさなければ、生き残る目が無いのである。だからこその、会話の先取りであった。「別のグリードに、風穴開けられちまってる。俺が離れたら即死だろうなァ」「な……っ!?」親指で、鹿目まどかの平坦な胸部を指差しながら。暗に伝えてもいた。アンクの気分次第で、何時でも鹿目まどかの命を捨てられる、と。もちろん、アンクがそれを実行するか否かは、また別の問題だが。この時、暁美ほむらは……既に気付いていた。既に、ほむらの立場は尋問者では無くなっている、ということに。いつの間にか会話の主導権は、怪人アンクの方へと流れてしまっていたのだ。だがしかし、美樹さやかが他人の治療を行えるという当時間軸特有の事象を、ほむらは知らない。従って、打つ手も見えないのである。そして、ほむらは気付かなかった。アンクの言葉が、治療魔法に関する暁美ほむらの認識について、アンクが確認するための誘導であったことに。即ち、美樹さやかの魔法の内容を暁美ほむらが知らないという情報を、アンクは入手してしまったのである。形勢は……傾き切っていた。鬱蒼とした森林へ響き渡る、爪と甲羅によって奏でられた高音。それが……王と錬金術師の戦いを、彩っていた。生命力を司る動物を模したオーズと、毒々しい黒紫の鎧を具現化したガラが、互いの凶器を削り合っているのだ。塔から飛び降りた二人が戦場としたのは……奇しくも、初対面時と同じ森の中であったらしい。尚、方々から「撮影上の都合」という言葉が飛び交ったようにも思えるが、全面的に気のせいである。この場所は飽く迄ドイツから転移された森林地であって、決して関東圏の某緑地とは関係はありません。「ハァッ!」「どうしたァッ!!」そんな中、錬金術師ガラの斬撃を手甲にて捌いてカウンターを浴びせようとするオーズだが……戦況は、芳しく無かった。どうも、ブラカワニコンボは一撃の威力はあるものの、あまり身のこなしに優れた形態では無いらしい。ガラの爪を弾いて反撃に出ようにも、伸縮自在の腕による連撃を貰ってしまって、間合いに入れないのである。回復能力が効いているために押し負ける事こそ無いものの、押し勝てる気配も無い。振り下ろされた爪を横薙ぎの回し蹴りで叩き落としても、身体が一回転する前に次の一手を打たれてしまって。ガラの長い腕による大振り攻撃を回避したかと思えば、叩き折られた大木の群れがオーズの歩みを止めに来る。決め手の無いオーズが攻めあぐねていた……そんな、時だった。「お母さんっ!」声が、聞こえたのは。少年特有の高さの目立つその声の主を、火野映司は知っていた。同時に、その少年が戦闘の場に居合わせることの危険性も。「大丈夫! こっちの安全は任せてよ!」だが……どうやら駿少年も、無策でこの場に足を運んだ訳では無かったらしい。そこには、駿少年を背負って走ってきたと思しき美樹さやかが、息を切らせていたのだ。さやか本人は今すぐにでもトーリの下へと駆け寄りたいのだろうが、とりあえず空中で鴻上会長らとコントを繰り広げているトーリの様子を確認して、まず少年の案件を優先したのだろう。そして、駿少年の声の効果は……覿面であった。鎧に包まれた錬金術師の動きが、あからさまに鈍くなったのだから。「まさ、か……?」「効いてる……?」……若葉駿の呼びかけが錬金術師の障害になっていることに、駿をこの場へ連れて来た美樹さやかさえも地味に驚いていたりして。実は期待していなかったか、もしくは、効果が有ったらいいなぁというぐらいに思っていたのか。ともかく、駿少年の呼びかけによってガラが動きを阻害され始めている事は、間違いが無い。そんな中、真っ先に動いたのは案の定、火野映司……オーズ。その人であった。ガラが咄嗟に振り回した横一線の左腕を、腰を屈めて回避して。近距離から突き出されたガラの右腕を……敢えて防御せずに胸部に受けつつ、強行的にガラの懐へと飛び込んだのである。オーズの胸へ深々と突き刺さったガラの右腕を……オーズは何の躊躇も無く、掴み取った。まさにブラカワニの回復能力に頼った、捨て身の組み打ち攻撃。だがしかし、火野映司の目的は……達せられようとしていた。「ようやく……『掴』んだっ!!」狙いは、オーズの胸部に突き立てられたガラの右腕では無く、ガラのもう一本の腕であった。オーズの空いた手によって掴まれたガラの左腕は……いつの間にか『二本』になっていたのだ。鋭い爪を輝かせた黒紫のそれの他に、人間の白い腕が、セルメダルの鎧の綻びから露出していたのである。堅牢なカメの甲羅を叩きすぎたせいで、耐久能力が削られていたのかもしれない。もしくは……駿少年の声に反応した母親が、何らかのアクションを起こしたのだろうか。「おおおおおおっ!!」「王に……触れるなァッ!!」オーズの内蔵を抉るガラの右腕の動きなどお構い無しに、オーズは力を込め続ける。人間の緒を繋ぐために、少年との約束のために、そして自分自身が後悔しないために。ただ、ようやく見えた人間の左腕を、力の限り引くのみ。「オーエスッ!!」加えて……人間から分離してしまった怪人ガラの左腕が、突如としてオーズとは逆向きに引かれ始める。その正体は、オーズでもガラでも駿少年でも無い、この場に居合わせたもう一人。青を基調とした衣装を具現化した、美樹さやかであった。駿少年の安全確保に専念するような事を言っていたような気もするが、その発言自体がガラへのブラフだったか、若しくはオーズの捨て鉢ぶりを見て居られなくなったのか。「お母さんっ!!」その叫び声が……最後の、切っ掛けとなった。滝のように零れ落ちるセルメダルの音と共に、ついに。駿少年の母親、若葉五月の全身が、ガラの怪人態より引き剥がされることとなったのだ。「おのれええええッ!!」「さやかちゃん! 二人を安全なところに!」「オッケーッ!」独国の森の響き渡る再度の恫喝と……それに対する歓喜の声。それが、事態の全てを物語っていた。憑代となるべき若葉五月へとガラの伸縮自在の腕が伸びるも、「逃がすものかッ!」「させないっ!」そこに横から加えられた一閃がガラの攻撃を逸らし、駿少年等を抱えた美樹さやか自身の回避行動も幸いして、若葉五月の安全は守られることとなってしまう。ワニの頭部を模った半透明な物質がオーズの右脚から具現化して、ガラの腕へと食い付いていたのだ。オーズの身体へと刺した右腕を抜く事も叶わず、左腕はオーズより具現化したワニ頭によって固定されてしまって。ガラにとっての不幸は、ただ一つ。自身も足技を使うべきだ、とガラが判断するよりも、オーズが空いた片腕を動かす方が早かった事……その一点であった。映司は、先程まで若葉五月を掴んでいた右腕が、既に自由になっているのである。『スキャニングチャージ』オーズの一手は、ベルトに装填された橙色の三枚のコアメダルを、再びスキャナによってなぞる動作に他ならなかった。遅れてオーズに襲い掛かったガラの脚撃は、あふれ出す橙色のエネルギーによって実体化したカメの甲羅に防がれてしまっていて。絶対の力を以てガラの両腕を固定するオーズの姿は、伝承のヘビのそれにも似た執念深さを感じさせる。そして、ガラの固定に使っていない最後の一本の脚を宙へと持ち上げ、一瞬だけ自らの身体の全てを地面より離して、頭部から伸びた蛇の胴によって重心を操りながら、「セイヤァッ!!」オーズの基本5色中最高の脚力を持つコンドルにも匹敵する出力を以て、自身に許された最大威力の技を放つ。トラバサミ式ライダーキック……ワーニングライドのゼロ距離版を。衝撃の、瞬間。オーズが視界に入れたのは、呻き声をあげる錬金術師でも、撒き散らされたセルメダルでも無く。既に小さく見える、二人の人間を背負って走る美樹さやかの背中であった……・今回のNG大賞「重いですっ! 重量オーバーですよっ!」「最悪、トーリさんを緩衝剤にすれば助かるので大丈夫です」「ワタシが大丈夫じゃないですよ!?」・公開プロットシリーズNo.95→次回、来るぞ……『奴』が……ッ!