「出てこい、クソガキ。そこで見てるのは分かってんだ!」アンクが恫喝した先に隠れている人物は……少女ヤミー以外に有り得ない。周囲を見渡すという現実逃避をしてみても、少女ヤミーを取り巻く世界は変わらなかった。ただ、オーズとカザリの戦いによって地面に散らされたセルメダルが光るのみである。「言っておくが、逃げられると思うなよ? その瞬間にコイツの持ってる銃がお前の背中をぶち抜くからなァ!」「人間相手にそんな物騒なことはしません!」少女ヤミーは、頭を抱えて必死に行動案を導き出そうとしていた。素直に姿を現した方が良さそうだが、正体を聞かれたら何と答えれば良いのだろう?もし「私は悪いヤミーじゃないですよ」などと弁解を試みたとしても、次の瞬間には頭に風穴が開いていそうである。ひょっとすると、「通りすがりの魔法少女です! 覚えておいてください!」ぐらいに高圧的に出た方が良いのかもしれない。……逃げようとしたら、どうなるだろうか。アンクは、黄色い魔法少女が少女ヤミーの背中を打ち抜くと言っている。黄色い魔法少女は人間相手にそんなことはしないと言っているが、その微笑みの裏にどす黒い何かが見えるような気がするのだから、人間の疑心暗鬼というのは不思議なもので……。「……人間?」その手があったか、とばかりに心を決め、両手をあげてゆっくりと少女ヤミーはマミ達の前に姿を現す。相手がこちらを人間だと思っているのなら、それを利用しない手は無いに決まっている。先ほどマミが魔法を使った際に少女ヤミーのセルメダルが増えて居場所がバレたのかと思ったが、そうではないようだ。近くでもっと膨大な勢いでセルメダルを増やしているヤミーが居るために、その気配に紛れて少女ヤミーのささやかなセルメダル増加に気付かなかったのだろう。「な、なんなんですか? 貴方達は……さっきの三色さんとか、猫さんとか、ワケが解らないです……」『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第十話:treasure sniper――殺してでも奪い取る少女ヤミーは選択肢を、一般人のフリと魔法少女名乗りの二択にまで狭めていた。羽を畳んで隠すという技能を身に付けた少女ヤミーは見かけ上はただの人間と変わらないため、ヤミーという素性を隠すことが出来るのだ。「貴女は『魔法』か『メダル』の関係者かしら?」まだ一週間も生きていない少女ヤミーは、一世一代の特大カマトトをかまそうかと思考を巡らせる。とぼけるならば『ゲームセンターにでも行くんですか?』とでも聞き返せば、この場は逃げ切れるかもしれない。だがしかし、その場合には、このグループと今後関わっていくことが難しくなるというデメリットが発生するのだ。ならば、この二人のいずれかの利害に絡む存在であることをアピールしなければ、近くを嗅ぎまわる時に不自然に思われてしまう。「一応、魔法少女をやってます」一般人騙りへの未練を若干残しつつ、少女ヤミーは魔法少女名乗りを選んだ。その言葉に若干の驚きを含んだ表情を向けながら、マスケットの銃口を下げてくれる黄色い魔法少女を見て、少女ヤミーは内心ほくそ笑んでいたりする。一旦関係者だと思われてしまえば、相手の手の内を探って利用することなど赤い手……ではなく、赤子の手を捻るぐらいには簡単であるのだから。「へぇ、魔法少女サマが俺達に何の用だ?」「騒がしいと思って駆けつけたら貴方達が居たので、しばらく前から後をつけて様子を見てました」嘘は言っていない。人外が暴れているという情報だけを頼りに見つけた存在が、たまたまアンクたちだったのである。「アンクさん、それより先に聞くことがあるでしょう」質問を続けようとしたアンクを制して、マミが口を挟む。一方、そのマミから質問されるであろう内容に全く心当たりのない少女ヤミーは、ネガティブな未来を幾つか思い描いていたりする。具体的には、キュゥべえ射殺現場に居合わせていたことを気付かれていたとか、ヤミーであることを看破されていたり、など。「貴女の名前を聞かせてもらえないかしら?」ところが、巴マミの質問は……少女ヤミーの想像の斜め上を射抜いていた。まだ、頭部を物理的に射抜かれていないだけマシと見るべきだろうか。かけられたのは、とある有名な魔法少女がOHANASHIする際に使ったと伝えられている、魔法の言葉である。「名前……?」私は巴マミでこっちはアンクさん、そう自身らを紹介するマミは、まさか想像もしていないだろう。目の前に居る少女ヤミーに、名前が無いなどという事は。少女ヤミーの背中に隠された羽が、だらだらと流れる気持ちの悪い汗に湿り始める。まさかここで「言えません」とでも抜かそうものならば、不信感は決定的となってしまうだろう。だがしかし、予想外すぎる質問に対して、何か良い名前が突然浮かぶはずもない。「どうした? 早く言わないとおっかないお姉さんがお前の頭に風穴を開けたくてウズウズしはじめるぜ?」「さっきから何なんですか!? 私がまるで快楽殺人者みたいじゃないですか!?」アンクの煽りを受け続けていたマミの突っ込みが少しずつ激しくなっているなどというどうでも良いことを考える程度には、少女ヤミーは現実逃避を望んでいた。どうしよう。ああ、今日は空が碧いなぁ。うん、空が碧かったら仕方ないよね。某河落ち脚本家のもう一つの得意技が炸裂しても良いよね?「実は私、記憶が無いんです。名前も含めて、ここ数日より前のことは覚えてません」嘘は……言っていない、はず。先日生まれたばかりのヤミーには、それより前の記憶など持っていないのだから。――胡散臭ぇ……アンクの細められた目がそう言っているのが、少女ヤミーには瞬時に感じられた。人の良さそうなマミでさえ、アンクと少女ヤミーの姿を交互に眺めながら状況を窺っている始末である。信用されていないとしか思えない。もしかすると、MOVIE大戦2011辺りの世界に居るアンクさんなら信じてくれたかもしれないのだが。「ま、まぁ、最初から疑ってかかっちゃいけないわよね」咄嗟に少女ヤミーをフォローしてくれる巴マミの姿は、頼り甲斐があるというよりはたどたどしいと言わざるを得ない。というか、反応が出遅れ過ぎている辺り、マミだって疑っていることは間違いないのだ。本音と建前を使い分けるという仮面の取捨選択が、まだ完全に体得できていなかったというだけの話で。……だからこそ、巴マミが少女ヤミーに対して魔法少女の『証明』を求めるのもまた、必然と言えた。「とにかく、貴女のソウルジェムを見せてくれない? 魔法少女なら必ず持っているはずだから」――ソウルジェム……?少女ヤミーの、知らない単語であった。こればかりは、魔法少女なら必ず知っていると言い切れる程度には常識のはずだったのだが、少女ヤミーには解らない。キュゥべえから、全く何も聞かされていないのだから。「ええと、ソウルジェムって何でしたっけ……?」他人にモノを尋ねることをあまり恐れない所は、もしかするとウヴァさんに似たのかもしれない。解らないものを解らないと言える能力は、時に称賛されるべきものであるのだ。……ただし、飽く迄『時に』でしか無いことを忘れてはならない。場合によっては、マスケットを持ったおっかないお姉さんに不信感130%の視線を向けられる結果を招くことだってあるのだ。心なしか、銃を握る手の握力が強くなったような気配さえしてくる始末である。特に、アンクとアイコンタクトを交わすのはやめてほしい。少女ヤミーの精神衛生的な意味で。「多分、名前を知らないだけで、どういうものか説明してもらえば、見せられると思います!」少女ヤミーの精神力ゲージが、ガリガリと音を立てて削られている。それはもう、現在別の場所でチーターレッグの連続蹴りを受けているデブ猫ヤミーさんに親近感を覚えても良い程度には。尚、オーズとデブ猫ヤミーの戦闘は全面的にカットする予定なので、デブ猫ヤミー氏はもう二度とこのSSに登場することは無いだろう。黄色のコンボを使えるオーズが序盤の敵相手に俺TUEEする場面を適当に想像していただければ、デブ猫ヤミーもきっと本望に違いない。……合掌。そんなことはどうでも良いんですよ。「こういう形の宝石よ。持っているわよね?」巴マミが手のひらにおいて見せたモノは……黄色い卵型に格子のような装飾が付けられた宝石だった。全体的に綺麗な黄色の輝きを放っているが、端の辺りに少しだけ黒く濁っているような部分が見られる。「……すみません、見たこと無いです」「俺が許す。そいつを撃ち殺せ」「アンクさんはちょっと黙っててください!」アンクは、意地でもマミにマスケットをぶっ放して欲しいのだろうか。こっそり尾行したことがそんなに不快だったんですか、と聞けるような雰囲気でも無いので聞けないが。「じゃあ、武器は? 魔法少女なら、何かコンセプトが決まった武器を出せるはずよ」「はい! 羽が使えます!」信じてもらえる最後の希望が見えたとばかりに、少女ヤミーは背中に収納してあった黒い羽を、展開した。展開して、しまった。羽を見せてから、少女ヤミーは自身の迂闊さに気付いて顔を蒼くする。なんだか自分の羽は外見が『武器』っぽく無いのだが、これは本当に巴マミが言う魔法少女の『武器』のカテゴリに含まれるものなのだろうか?むしろ、ヤミーという人外の持つ身体的特徴と言われた方がまだ納得できる代物である。いや、キュゥべえ母さんだって武器って言っていたんだから……でも、あの人は常に説明不足だし……「大層な羽だなァ。ソイツで空は飛べるのか?」「はい、出来ます……」その羽を見たアンクの目の色が変わったのが、更に恐ろしい。まさか、同型のヤミーを見たことがあるとでも言いだすつもりなのだろうか。戦々恐々とする少女ヤミーに向かって歩みよるアンクの形相は……やはり不気味である。思わず後ずさる少女ヤミーの腕を掴み、その瞳を真っ正面から覗きこんだアンクが発した台詞は、「お前、俺のモノになれ」「……!?」ぶっ飛んでいた。むしろ、色々なものをぶっ飛ばしていた。「わ、ワケが解らないですっ!」「お前が便利そうだから、お前の身体を俺のモノにするって言ってんだ」衝撃発言にも程というものがある。油断すると脚から力が抜けそうになるという珍しい感覚を味わいながら、少女ヤミーは体中に襲い来る悪寒と戦っていた。先ほどまでとは違う危機感……具体的には乙女と貞操のピンチで凌辱チックなXXX版的展開を思い描いて体を震わせていたのだ。しかも、のっけから便利な女扱いとは恐れ入る。「ごめんなさい! 出直してきますっ!」咄嗟にアンクの手を振り払い、少女ヤミーは展開していた羽を最大限に活用して、一目散に空へと逃げていく。その航路がどこか覚束ないのは、先ほどのアンクからの申し出が余程衝撃的だったからなのだろう。「おい、待て!」その背に手を伸ばそうとするアンクだが……その爪先を一発の銃弾が掠め、動きを止めさせる。「最っ低……!」巴マミがアンクに向けて、愛銃ことマスケットを発砲していたのだ。それはもう、額に青筋を視認できる程度には怒りを見せながら。ひょっとすると、今まで散々おちょくられて来たストレスも爆発したのかもしれない。「女の子の純情を何だと思ってるの!? ツバメじゃないのよ!?」「五月蠅い! 俺は少しでも強い身体が欲しいんだ!」アンクは鳥類全般の王だったりするのだが。そして、当然、というか読者の皆様は解りきっていたことだろうが、アンクの発言に性的な意味合いは一切含まれていない。今現在アンクが借りている泉信吾刑事の肉体よりも強い肉体へ乗り移るという、軽いステップアップ程度のつもりでしか無かったのだ。昔のように自由に空を飛びたいという羨望も、もしかするとあったのかもしれない。その場合には泉刑事は死んでしまうので、実は巴マミのナイスセーブだったりするのだが、それはさておき。「マミちゃんとアンクって、こんなに仲が良かったっけ……?」ラトラーターコンボを使ってデブ猫ヤミーを始末し、体力を大幅に消耗してふらふらのまま帰ってきた映司が見た光景は、「良かったわね! お望み通り、あの世でキュゥべえに会えるわよっ!」戦場もかくやという強さの硝煙の残り香を身体全体から放ちながらマスケットを構えるマミと、「映司ィィッ! 命令だ! 俺を助けろッ!」狙撃拘禁されている情けないアンクの姿だった……今回のNG大賞「アンク、その魔女は……?」「あのマミってガキだ。俺を撃ちまくってと思ったら、いきなりこうなったぞ」「(しまった! バカなことに魔法を使い過ぎて……!)」コンボも魔法も、計画的に使いましょう。公開プロットシリーズNo.10→オリ主の名前を決め忘れていたことには、作者は8話目執筆時ぐらいには気付いていたぜ!