そもそも、少女ヤミーは何故この場に居るのだろうか?その理由は、ほむらによるキュゥべえ殺害事件の時まで遡る。キュゥべえの死によって、少女ヤミーの行動指針に大きな変化が生じたのだ。それは、少女ヤミーが魔法少女を増やすという大きな目標が失われてしまったことである。契約を司るキュゥべえが居ない以上、少女ヤミーは魔法少女を増やすことが出来ない。従って、少女ヤミーを構成するセルメダルも増えることは無くなる……かに、思われた。ところが、キュゥべえが殺された後にも少女ヤミーのセルメダルは増加を見せたのである。その件に関して、魔法少女が魔女と戦うとセルメダルが増えるのだろう、と少女ヤミーは当りを付けている。そこで更に事態は進展し、ワケの解らない信号男や腕怪人まで出張って来て、どうやらヤミー狩りを目論んでいるようだ。「魔法少女の敵が魔女だから、魔女の敵である腕怪人たちは魔法少女の味方……なんでしょうか?」予想外の事態が起こりすぎたことに困惑した少女ヤミーは、二つの仮方針を持つことにした。一つ目は、魔法少女が魔女を倒す現場を押さえて、地道にセルメダルを増やすことである。そして二つ目は……少女ヤミーのお父さんことグリードのウヴァを見つけて指示を仰ぐというものであった。「そして腕怪人たちの敵がヤミーだとすると、彼らはワタシの敵と味方のどちらなのか……」だが、そのどれを取るにしても魔女・魔法少女・グリードの何れかを見つけなければ話にならない。そこで、地道に近隣住民への聞き込みを使って怪しい奴が居ないかと情報を集めたところ、飲食店や食料品店が襲撃されているという異変を耳にしたのである。聞き込みの過程で羽を畳んで隠して人間に成り切るというスキルを身につけたのだが、それはさておき。魔女絡みだと良いな、と喜び勇んで騒動の近くまで辿り着いた少女ヤミーが見たものは……『スキャニングチャージ』少女ヤミーが危険視する信号男と腕怪人が、太りすぎた猫のヤミーを追い詰めている現場であったのだった。腰部に付けられた信号機としか思えない装飾品に何やら操作を加えた信号男が、不思議な音声とともに空高く跳び上がる。赤黄緑の三色のリングが何処からともなく出現し、道筋を示すその輪を潜るごとにデブ猫ヤミーへ向かって加速する跳び蹴り……の、はずだったのだろう。「あれ? 生きてる……?」「お前を邪魔した奴が居るんだ」ところが、何者かがその道筋の中にいくつもの人間大の石柱を投げ入れ、加速の邪魔にかかったようだった。充分な加速を得ることが出来なかった信号男の跳び蹴りは、デブ猫ヤミーを仕留めることが出来なかったのである。「カザリ……お前だな?」「久しぶりだね、アンク」乱入者は少女ヤミー……ではなく、ドレッドのような頭の目立つスマートな猫怪人であった。サイズはもちろん、人間大である。腕怪人によると、その痩せ猫の名前はカザリというらしい。ついでに、腕怪人の名前はアンクだそうだ。「こそこそ付き纏っているとは、お前らしいな」腕怪人の台詞に一瞬だけ冷やりとさせられた少女ヤミーだが、自身のことではないと解って胸を撫で下ろす。まだ、その存在は感知されていないようだ。おそらく、ヤミーをいつでも見つけられるというわけではなく、セルメダルが生産された直後のみにその存在を感じられるのだろう。「人間に寄生するヤミーはお前のお得意だったか」先日薄暗いビルの中で見つけ損ねたヤミーの情報も思い出しながら、アンクがデブ猫ヤミーに視線を向ける。そこには、付近に倒れていた肥満の目立つ青年の身体の中へと入り込むデブ猫ヤミーの姿があった。おそらく彼が、デブ猫ヤミーの『親』なのだろう。質量を無視しているとか、そんなことは絶対に気にしてはいけないに違いない。もっと食べ物を、と呻きながら逃亡を図るデブ猫ヤミーを追おうとする信号男に対してカザリが起こした行動は……突風を発生させることだった。「うわっ!?」「気を付けろ! そいつは取り戻しに来たんだ……!」突風に耐えきれずゴロゴロと地面を転がる信号男に、注意を呼び掛ける腕怪人。そして、信号男の腰部の装飾品を指さしながら、忌々しげに言い放つ。「その一枚は、奴のコアメダルだからな」「コアメダル? じゃあ、コイツはグリードの一人……?」グリードという単語に、少女ヤミーは聞き覚えがあった。記憶が正しければ、少女ヤミーの誕生時にウヴァが口にした台詞の中に同じ言葉が存在したはずである。そして、警戒心を強める信号男の様子を見るに、グリードはヤミー以上の脅威であることは間違いが無さそうだ。「コアメダルって、何でしたっけ……?」そして、オリ主が動きを起こし辛い原因は、どう考えてもウヴァさんとキュゥべえの説明不足のせいである……『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第九話:灼熱地獄の黄祭「オーズなんて捨てて、僕と組まない? それは元々、僕らを封印するための存在じゃないか」戦う気は無い、と前置きしながら、カザリはアンクへと新たな提案を指し示す。それを見ていた少女ヤミーはと言うと……「オーズって人がヤミーとグリードの敵? それなのにアンクって人がグリードみたいな? ……ワケが解らないです」情報が整理できずに混乱の極みに居たりする。グリードのくせにオーズを利用しているアンクが異端だというのが正解なのだが、情報が不足し過ぎて未だそこまで判断が及んでいない。「僕と組んだ方が、メダル集めは効率的だよ」「俺としても仕方なくオーズを使っているだけだ。何しろ、これだけしか復活できていない」腕に付いた籠手のような装飾品をカザリに見せつけながら、まんざらでもないという事を示唆するアンク。もしかして腕の方が本体なのか、という突拍子もない新案が少女ヤミーの頭の中に浮かんできたが、流石に有り得ないだろうとその考えを振りかぶって捨てる。……大正解であったはずなのに。「確かに人間は面倒くさい。お前の方がマシかもな」「決まりだね。オーズはもう要らないなぁ」一転して不利な状況に陥ってしまった信号男……もといオーズは、カザリとアンクの顔を交互に観察しながら状況把握に努めているようだった。……それでも、おそらく少女ヤミーよりは現状を把握しているはずである。「待て。グリードであるお前と組むのも、それはそれでデメリットはある。少し考えさせろ」「解った。でも長くはダメだよ」すぐには要求を飲めないと主張するアンクに対して、君は油断ならない、と言い残してカザリは颯爽と姿を消したのであった……変身を解いたオーズもとい映司が、アンクに対してグリードに関する説明を求めていた。そして、その説明に映司以上に期待を寄せる少女ヤミー。「他にも、ウヴァ・ガメル・メズールの3人のグリードが居る。もし奴らのコアメダルが揃ってたら……」「『世界を喰らう』だっけ?」オーズが必ずしも必要では無くなったと言い放つアンクの言葉を皮きりに、人間の欲望に関する談義へと話が移り変わり、メダル関連の話題は終わってしまった。その後、歩き去ってしまったアンクと映司の様子を見て、どちらを追うべきかと悩む少女ヤミーであったが、「とりあえず、オロオロしてたオーズさんは頼りになりそうじゃないですね」標的をアンクに定めたらしく、こそこそと隠れながら尾行を開始したのであった。……のだが。アンクがその後にとった行動はと言えば、ひたすら携帯端末を弄り続け、不審なことといえば通行人の持っていたアイスバーをこっそりと盗みとったことぐらいである。「便利な世の中になったモンだ。空を飛びまわる必要も無い、ってか……」携帯端末の出来栄えに感心したかと思いきや急に感傷に浸りだしたり、そうかと思いきや空を見上げたりと、少女ヤミーにとって有用な情報が何一つとして出てこないのだ。上手くいけば少女ヤミーの創造主であるウヴァと落ち合うのではないかという希望的観測も、最早思い出す気も起こらない。「アイス、お好きなんでしょうか……?」どうでも良い情報しか出てこない、というより、対象が誰かと会話をしているのでなければ、言語による情報など出てくるはずがないのだ。アンクの目の前に出て行って直接情報を引き出す手も考えては居るのだが、今一踏ん切りがつかない。しかも、先ほどのカザリというグリードに加え、奇妙なバイクに乗った不審人物までもがアンクを監視しているようなのである。尾行を始めるタイミングが遅かったことが幸いしてか、他の同業者に少女ヤミーの存在は気付かれてかったことが不幸中の幸いか。どちらにせよ、少女ヤミーが出方が解らずに途方に暮れていたのは変わらなかったり……結局、アンクが付近の飲食店前で映司と合流するまで、有効な情報を何も得ることが出来ないまま少女ヤミーは尾行を続けてしまったのだった……「疑い深いグリードは、その疑いから裏切り、メダルを狙う。馬鹿でも面倒でも、人間の方がまだマシだなァ」映司とアンクの合流場所に現れたカザリはアンクの協力を期待していたようだが……アンクはオーズと共に行動するという。どうやら、カザリがアンクの周囲を嗅ぎまわっていたのがお気に召さなかったらしい。『タカ トラ バッタ』「変身!」アンクから映司へと3色のコアメダルが投げ渡され、それをベルトの溝へと素早く差し込んだ映司が変身を遂げる。古代の戦士オーズへと、その姿を変えたのだ。相も変わらず歌が無いのは、勘弁していただきたい。決して作者にタトバコンボを貶める意思など存在しないのだが、飽く迄利用規約との兼ね合いで削除せざるを得ないのである。「それに、もう一つ良い忘れてたことがあったか」変身直後のオーズに跳びかかるカザリに対して、まるでどうでも良いことであるかのように、アンクは言葉を続ける。カウンター気味にトラクローを突きだすオーズにそれ以上の速さの先制攻撃を加えようとしていたカザリは、アンクが続けた言葉を意識の隅で聞きながら……空中で急減速するという珍しい体験をしていた。決して、カザリが突如として空中戦能力に目覚めた訳ではない。「グリードに対抗できる『人間』は、オーズだけじゃない」突如響いた銃声と共に、カザリの身体を横殴りの衝撃が襲ったのである。しかも、その胴体にオーズの両手のトラクローが的確に突き刺さるというダブルパンチをお見舞いされたりしていた。それでも何とかオーズの胴を蹴って自らの体に刺さった異物から離れる選択肢を取れたのは、流石と言うべきか。オーズの片側3本ずつの爪が抉りだしたモノは……『4枚』のコアメダル。コンボ用の3枚に加えて、チーターのダブりが出ているという大儲けである。本来の歴史ならば付いてこなかったライオンコアに加えて、奪われるはずだったカマキリコアも無事という原作乖離ぶりを見せていた。「コイツは儲けたなァ!」「くっ……!」捨て台詞を残す余裕も無く全力でその場を離脱するカザリの背を見ながら、少女ヤミーは周囲を見渡す。何らかの遠距離攻撃によってカザリが撃ち落とされたのだということは推測出来たのだが、その攻撃が何処から来たのか解らなかったからである。「上出来だ」「助かったよ、ありがとう」「お役に立てて嬉しいです」オーズとアンクが言葉を向けた先に現れたのは……少女ヤミーの知る、魔法少女であった。どうやら、アンクか映司のどちらかが携帯端末からの連絡で呼び出したのだろう。物騒な銃を片手に下げた魔法少女の姿が、そこにはあった。「じゃあ、このままヤミーの所に行ってくるよ」「儲けてこい!」「助けが必要になったらまた呼んでくださいね。大丈夫そうですけど」変身を解かずに近隣の飲食店に居るであろうデブ猫ヤミーの元へ走り出すオーズの背中を見送る二人は、最早オーズの勝ちを信じて疑っていないように思われた。マミとしては、ソウルジェムの濁りの増加を気にせずに使い魔を倒すことはあっても、オーズが居る状況ならば出来る限り温存したいというのも本音であったりするのだ。「それで、ネズミ狩りでしたっけ? 猫さんはもう居ませんけど」オーズを送り出したアンクに向かってマミが口にした、不穏な単語。既に嫌な予感が、少女ヤミーの脳裏を駆け回っている。「出てこい、クソガキ。そこで見てるのは分かってんだ」アンクさんの目付きの悪い視線が捉えている方向に隠れているのは、少女ヤミーしか居なかったり……・今回のNG大賞「会長! オーズを監視していたら、二人目の不思議少女を発見しました!」「未確認生命体B2号の誕生だよ! ハッピーバースデイッ!」・公開プロットシリーズNo.9→アンクならマミをこう使う……はず?・人物図鑑 カザリ猫科の怪王。性質は傲慢。貪欲に力を欲し、他者を利用することを躊躇わない。全ての生命を平等に見下し、その上に立とうと目論む。狗尾草を持って行けば簡単に気を引くことが出来るだろう。