前回までの三つの出来事は!一つ!「知ってるか? ソウルジェムは投げ捨てるものさ」巴マミのソウルジェムが、不審な魔法少女に持ち去られてしまった!二つ!「折れたッ!?」メダジャリバーが、ついにその耐久限度を超えてしまった!三つ!「強欲人魔跋扈するこの人間道、ロストアンクはここに居るッ! グリード爆現ッ!」ロストアンクが奇跡の復活を遂げる!映司の腕を掴んだ異形の左腕が……深紅に輝く。それは、陽炎と焦臭を発する、灼熱の焼き籠手で。「……っ!?」思わず開いてしまったオーズの手からは、メダルが零れ落ちる。先程ジャリバーに投入し、つい今しがたになって漸く拾い直したばかりの三色のメダルが。その中の一枚を……ロストは、迷わずに掴み取る。コンドルの意匠が凝らされた、オーズの足パーツを構成する役割を持つ一枚を、手中に収めていたのだ。「僕の、メダルッ!」「待っ……」映司の言葉に返ってきたのは……至近距離からの、火炎弾だった。直前までロストに捕まれていたオーズは、為す術も無くその連弾の全てを防御する間も無く受け、変身を解除させられてしまう。いつもと変わらずに変身して戦っていたように見える映司だが……何気なく、数分前までは意識不明の病人だったのである。その身体は、本調子であるはずもない。「お前は……アンク、なのか?」「アン、ク……?」不思議そうに聞き返す翼人の反応を否定だと解する映司だが、それでは一体コイツの正体は何だというのだろうか?右腕だけのグリードと右腕の無い怪人の関係性を見逃すほど、火野映司という男の勘は鈍くは無い。しかも、翼人の左手の形状は、右腕だけだったアンクと瓜二つなのだ。……一応、オリ主も少しだけ疑問に思うぐらいの反応は示した、という事にしておこう。それはさておき。「早く……『僕』を見つけなきゃ……」一方の翼人は……映司に興味を失ったわけでも無いが、新たな標的の待つ方角を探っているようだった。そして火野映司は、持ち前の勘の鋭さを見せ、その翼人の目的地となるべきものに目星をつけていた。赤いコアメダルがアンクのものであるはずだという話はともかくとして、この翼人は、先ほど映司が使っていたコンドルを自分のコアだと言ったのである。つまりこの翼人は赤いメダルを求めているわけだ。映司が思い至った結論は……最悪、だった。現在の火野映司が把握している赤いコアの所在は、二か所である。一か所は、真木博士の研究所からクジャクのコアを持ち出したという、暁美ほむら。そしてもう一枚は……トーリに運んでもらっている巴マミがタカメダルを所持しているはずなのだ。この翼人がどちらへ行くにせよ、ここで手を伸ばさない選択肢など……火野映司には、有り得ない。「行かせるわけには、いかない」腹から真二つに折れてしまった剣を握る手に、力を込め直し。先程爆散した暴走体が撒き散らしたセルメダルの一枚を拾い、その刀背から投入する。幸いにして折断部の金属パーツが拉げていたため、セルメダルが零れ落ちることも無かった。『シングル スキャニングチャージ』焦げ目やヒビが特盛のフレームは……以前ほど滑らかに、オースキャナーを通してはくれない。先程まで空間を切り裂く一撃を放っていたその大剣は、既に限界など大きく超えてしまっている。それ、でも。「セイ……ヤァァッ!!」その手を伸ばす、ために。死に体のメダジャリバーに鞭打って、セルメダル一枚だけのスキャンを行い、申し訳程度に威力を上げて。映司の行った行動は……投擲だった。歪みと欠損の激しいその大剣は、当然綺麗な軌道など描かないが、それでも尚ロストへと到達する。そして、その刀片を焼き払うロストを尻目に映司が走り込んだ場所は、「せめて変身できれば……っ!」先程暴走体が爆散した時に散らばったコアの中の、一枚。銀色のセルの中に混ざって存在を薄められている、灰色のメダルだった。火野映司の手が、伸びる。そこに散らばる欲望の結晶を、掴むために。だがしかし、運命の悪戯は……起こって、しまった。もし、ロストの知能がさほど発達していなければ。対峙している敵本体から目を離してはいけないということを、トーリから学んでいなければ。メダジャリバーの残骸を左手で握り潰したロストが背面の翼から放った炎は、間に合わなかったはずだった。そして……『無』の力が目覚めることも、無かったのかもしれない。火野映司が夢見公園跡地において最後に見た光景。それは、自らの身体の中から飛び出した『紫』が、映司を襲った炎弾を掻き消す姿だった。火野映司の意識は……そこで、暗転する。『プテラ トリケラ ティラノ』『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第五十五話:Time judged all――運命を奪い取れCount the medals現在オーズが使えるメダルは……タカ×1クワガタ×1トラ×1プテラ×2トリケラ×1ティラノ×2蝙蝠ヤミーは、目的地を決めかねていた。意識が途切れて変身が解けてしまっている巴マミと美樹さやかを両腕に抱えて、ゆっくりと風を切りながら。クスクシエに戻ろうかとまず思ったが、いつ意識が戻るかも分からない二人を放置するのも考えものである。白石千世子店長に二人の様子を知られたら、大騒ぎになってしまうかもしれない。病院という線も考えてみたものの、魔法少女を一般の医師に診せても大丈夫なのだろうか?「いっそのこと、鴻上財団に丸投げもアリなんじゃ……?」某電話会社のビルにそっくりな鴻上財団本社の建物が、視界の隅に入ってくる。確かに、財団ならばある程度魔法少女の事情は察してくれるかもしれない。ところが……今日のこの日に限って、その財団は頼りになりそうに無かった。どうしてトーリがそう思うのかと言えば、財団本社ビルの周りに見える赤いオブジェクトが原因に違いない。別に、先程の赤い翼人様とは関係が無さそうではあるが。「アレは……救急車と消防車、でしたっけ?」災害時にしか出動を許されないはずの特殊車両が、ビルの周りを取り囲んでいたのだ。財団を挙げての避難訓練だったら良いのだが、そんな楽観視を抱えていられるほど、トーリの可乗重量は大きく無い。その現場の見物に行こうかという野次馬根性に若干駆られたトーリだったが、映司から二人のことを任された経緯もあるので、危険に手を出さないに越したことはない。結局トーリは、最も誤魔化しが利きそうなクスクシエの屋根裏部屋へと向かうことのしたのだった。千世子さんに見つかった時のための言い訳を、考えながら。トーリは、気付かなかった。自身が撤退してしばらくの後に夢見公園跡地を飛び立つ二つの影があった、事に……そいつらは、『空』から降ってきた。唐突に、説明も無く、晴天の霹靂という言葉を体現するかのように。アンクが、町中からヤミーと親の気配を感じるという意味不明な現象に再遭遇した、直後だった。そのせいでクワガタのヤミーを追えなくなって機嫌を悪くしているところを、鹿目まどかに慰められていた、矢先。『赤いグリード』が、降り立ったのだ。鹿目まどかとアンクの、眼前に。「……えっ?」状況を把握できていない鹿目まどかの様子は特筆すべきことも無い。だが、その腕に抱かれるアンクが与えられた混乱は……それ以上、だったのかもしれない。「俺……だと……!?」過去に、自分以外の誰かが赤いメダルの力を使っている気配を感じたことは、あった。前回の日曜日に訪れた野原には、アンクのメダルを使ったとしか思えないほど強烈に焼き焦がされた痕跡があったのだ。それに、先程バースに襲いかかった暁美ほむらからも、アンクは自身のメダルの気配を感じ取っている。そんなアンクでさえも、完全に想定外の出来事としか思うことが出来なかった。欠けた右腕と顔面の半分。その差異さえ無ければ……目の前の存在は完全に、在りし日の『アンク』自身の姿に他ならなかったのだ。「見つけたっ! 僕だあああっ!!」そして、アンクは想定も出来なかった。左手を伸ばしてこちらに向かってくる目の前のコイツが、アンク達を襲いに来たのではなく、「――ッ!!」本能的な直感に従ってアンクの元へと『逃げて』来たこと、など。思い至ったはずも、無かった。グリードの中でも最強を誇るアンクの姿をしたそいつが、追い詰められていることにも。ロストの背後から突き立てられた鋭利な爪が、ロストの歩みを止めさせるとともに、セルメダルを撒き散らす。その光景はまさしく、絶対的強者による捕食の一景だった。捕食『劇』などと呼ぶにはまるで華の足りない、原初の蹂躙にして圧倒的に儀礼を欠いた、破壊行動。「僕がっ、あるのに……っ!」必死に翼人が伸ばそうとした腕が……横槍によって、貫かれる。捕食者の肩から伸びる、角とも爪ともつかない光沢を持った槍が、それを為していたのだ。翼人の炎を纏った腕がまどか達に届いていれば二人はただでは済まなかったはずだ。つまり翼人は鹿目まどか等にとっての脅威で、その敵対者は彼女達を救ってくれたということである。そんなことは分かっている。そのはず、なのに。鹿目まどかの視線は……捕食者の方へ釘付けだった。「やっと、見つけた……のにぃっ!」まどかへと焼き籠手を差し向ける翼人の泣き叫ぶ声が、どうしようもなく心を揺さぶって。それなのに、足は震えて、頭の奥で除夜の鐘を早回しにしたような音がガンガンと鳴り響いていて。あの絶対者の近くに居てはいけないということが、思考などという高尚なものをすっ飛ばして分かってしまう。「何、なの……これ」鹿目まどかが出来る事は、膝を地面につけて、ただ眺めることだけだった。そうしなければ自分の足は今にも逃げ出してしまいそうだ、と思ったから。自分自身にも、分からなかった。何故、逃げ出してしまわないのか。何故、背筋がこんなに寒いのに頭の奥が沸騰しそうなのか。そして何故、脅威と分かっている筈の恐獣に……こんなにも、惹かれるのか。「映、司……?」鹿目まどかの声に応えたわけでは、なかった。ただ、目の前の捕食者の胸に輝く印象的な円環に目を引かれ、そこから気付いてしまったのだ。忘れるはずもない、グリードの天敵の持つ黒と水色の装飾品を、そいつが身に着けていることに。その三つの溝に収まっている紫のメダルにこそ見覚えが無いものの、800年も昔からの長い付き合いであるそれをアンクが見間違うはずもない。「映司って、火野さんのコト……? なんで、何が起こってるの、どういうことなの!?」まどかが問いかける間にも、800年という時を無念のままに過ごした亡霊の伸ばした手が、無残に打ち払われる。必死に振りかぶった生物感の無い右腕は、瞬き一つをする間に掴み取られ。次の瞬間には捕食者の背部から伸びた尾によって、赤い二の腕の先にはセルメダルが飛び散っていて。亡者の呻き声が、恐獣の雄叫びに塗り潰されて、見滝原の町の中へと消えて行く。「前に、『オーズ』について話したろ。覚えてるか」800年前に生まれたメダルの怪人がグリードで、その天敵がオーズ。そんな簡単な説明を、退院後のまどかは受けたことがあった。そして、メダルを撒き散らしながら悲鳴をあげている翼人は、おそらくグリードなのだろう。「オーズの資格者が、映司だった。そういうことだ」衝撃、だった。少なくとも、鹿目まどかただ一人にとっては。火野映司という青年は……『優しい』存在だった。そう、鹿目まどかは思っていた。だが、眼前の怪獣の様子は、その像とはまるで一致しない。その姿はどこまでも凶暴で、攻撃的で、残忍で、恐ろしくて。「とにかく……助けなきゃ」「あの抜け殻を、か?」このガキの思考にも慣れ始めたアンクだが、それよりも気になることがある。目の前の、赤いメダルのグリードにしか見えない存在の事である。直感的に、アンクが封印された時にあぶれたパーツが使用されていることは間違いないと思えるのだが、一体コイツは何故動いているのか。「アンクちゃん、あの赤い人が誰だか知ってるの?」おそらく出力的には他のグリードの1.3倍程度だろうが、敵対した時の体感としては3倍近くに感じられるかもしれない。もっとも、鹿目まどかは他のグリードなど、アンクしか見たことが無いのだが。「ああ、800年前に行方不明になった、俺の身体だ。多分なァ」そして、もう一つ、気になることがある。映司が、アンクを視界に入れても無反応であることだ。突発的な遭遇だったために隠れる動作が遅れてしまったアンクは、映司に見つかってしまっているはずなのである。そのはずなのに……まるで、目の前の獲物しか目に入っていないとしか思えない挙動を、オーズは繰り返している。「それなら、尚更助けなきゃ……」アンクとしては、得体の知れないそいつをまずはオーズに解体させて、その後でじっくりとメダルを回収したいところである。だがしかし、それをどう鹿目まどかに説明したら良いものか。アンクがそんなことを考えていた、ちょうどその時だった。ロストが、既に何度目になるか分からないダウンを、迎えたのは。そして、何処から取り出したのか……何時の間にか巨大な斧を右手に握って、それをロストへ振り下ろそうとしているオーズ。決まった、とアンクは思った。……その時。一瞬でも、思考を……止めてしまったのだ。「だめええええっ!!」必然的に、アンクの反応は遅れることとなる。両者の間に強引に割り込む鹿目まどかを、アンクは引き留め損なったのだ。アンクが気付いた時には既に、まどかはその小さな両腕を広げてオーズと相対していて。「……っ!」だからこそ、その光景は、予想外だった。オーズが、その戦斧を……寸の所で、止めていたのだから。4人のうち誰のモノかも分からない息を飲む音が聞こえた……ように、思えた。鹿目まどかのその姿は、忘我状態であった火野映司の深層心理を揺さぶるのに、十分すぎる力を持っていたのだ。嘗て映司が某国の内戦に巻き込まれた際に、そこで死を看取った子供の影を、思い出させることによって。だが……そこで終わる筈が、無かった。ぐちゃりという、水分を多く含んだものが潰れる音。紅く染めあげられた、赤い左腕。それが……オーズドライバーに手をかけ、捥ぎ取ろうとしていた。そのこと自体は、ロストに800年前の記憶が微細ながらも残っていたのだと考えれば、大して不思議なことでは無い。アンクが意識を向けたのは……そんなことでは、なかった。「あ……れ……?」不思議そうに口を開いた鹿目まどかの声は、ほとんど音になっていなくて。オーズが咄嗟の判断でロストを左腕の肩口から脇腹にかけて切り落とした鈍い響きに、掻き消されてしまっていた。失ったものの大きさを主張するロストの絶叫が、それをさらに上書きする。そして、熱を纏った翼による羽音が、彼が背面を起点とした火炎の攻撃の準備を始めていることを何よりも雄弁に語っていた。一方、操り糸か精神の糸でも切れたようにオーズの姿が人間のそれに戻り、その身に纏っていた狂気は霧散していて。映司に対して距離を取ったロストに追い打ちをかけることも、出来なかったのだ。膝から崩れ落ちながらも、その『手』を伸ばそうと試みていたようだったが……映司自身の体力も尽きていたらしい。倒れ込んだまま、それでも手を伸ばそうとする映司のその目は……既に、焦点が合っていなかった。その手の先にあったものは……血溜まり、だった。オーズが千切った赤い腕が突き出されていた直線状には、鹿目まどかの身体があって。ロストにとってその子供が重要ではなかった。それだけの、ことだったのだ。左腕の形を成していたものが形状を失ってメダルへと崩れる。それとともに、『栓』を失った水風船からは、水が溢れ出す。その水風船は……鹿目まどかの、心臓だった。・今回のNG大賞「オイ! あいつを止めるための力、半分だけ貸せよ! 『俺』!」「行くよ、『僕』!」「「俺(僕)たちは、二人で一人のグリードだ(さ)ッ!」」メダル一枚になっても喰らい尽くその心そのものがグリードなんだッ!「過去と今のアンクちゃんが一つに!?」それも微妙に間違っていない気もする不思議。・公開プロットシリーズNo.55→まどかさんマジヒロイン。