一方、ほむらと同様に怪人発生のメールを送信されたはずの美樹さやかは……メールの受信自体が不可能だったりする。理由は、単純明快である。さやかの携帯端末は、先日巴マミに盗み聞きを働いた際に粉々に砕け散ってしまったためだ。非常に特撮的理由を思わせる経緯で端末を失っている辺り、さやかにも着実にライダーによる浸食が進んでいるのだろう。だが、もしさやかの携帯電話が無事だったとしても、メールの着信には、気付いていなかったかもしれない。理由は……志筑仁美である。鹿目まどかが一人でファストフードの店を立ち去った後、志筑仁美が美樹さやかに対して言い放ったのだ。明日に上条恭介へ愛の告白を行うので、それが嫌なら事前に掻っ攫って見せろ、と。丁寧な口調と言い回しを用いていたような気がするが、大まかに要約すればそんなところである。仁美はそのあと直ぐに店を後にしてしまうし、無表情電波女さんは忽然と姿を消していて。誰かに相談しようにも、同級生には絶対に知られたくないネタである。親にも話し辛いし、こういうことは蚊帳の外な感がある人間に対しての方が話し易いかもしれない。結局、身近な人に話せば、そこから自分の周囲全般へと広まってしまいそうなので。そして、その候補は……「マミさん、キュゥべえ、トーリ……ぐらいかなぁ。あと、パンツマンもオマケしといてやるか」火野映司は正直に言って蛇足の感が否めないものの、ほか三人はさやかとあまり生活圏を共有しない人間なので、噂が広まる心配も少ないだろう。碌な人選じゃねぇ! などという突っ込みをしてはいけない。そんなことをすれば、貴方の明日は地上200メートルから落とされた直後にティロフィナーレされた挙句、契約を結ばれてセイヤーされるだろう。一見、夢見公園を訪れれば候補のうち二人が同時に捕まえられるためにお得な気もするのだが、「忘れてたけど、クスクシエの人たちの方が、そういうの詳しそうかも……?」こういう時は、やはり年上の女性が一番頼りになりそうではある。店長の白石千世子さんに、アルバイターの泉比奈さん、魔法少女の先輩の巴マミさん。よく考えなくとも、強大な戦力になるラインナップに見える。「ってか、最初の4人って一人も携帯持ってないんだよね……」あまり連絡の自由度が高すぎると作者が扱いに困るためだ……などという本音は、そんなの絶対あるわけない!そんなものは、マミさんが中二病だとかほむらさんがストーカーだとかいう噂と同レベルの言い掛かりである。まぁ、魔法少女には、念話という素晴らしい通信方法があるのだが。相手の場所が分からないと使えないというオリ設定の縛りも付けられているが、いつもの夢見公園やクスクシエに居るであろうトーリやマミさんにならば、何の問題も無く繋がるはずだ。だがしかし、ようやく進路を決めた美樹さやかの耳に、その足を引き留める声が聞こえた。『誰かっ! 誰か、今すぐ助けに来てくださいっ!』どうやら、貧弱な同輩は、こんな時に限ってお取込み中らしい。トーリ自身も弱小とはいえ魔法少女であり、しかも仮面ライダーである『オーズ』まで一緒に居るはずなのにピンチとは、いったいどういう状況なのだろうか?『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第五十話:Break the Chain――蝙蝠の意地Count the medals 現在オーズの使えるメダルは……タカ×1コンドル×1クワガタ×1ライオン×1トラ×1サイ×2ゾウ×2???×2????×1????×2「僕は……ドコ……?」「貴方の現在地は、見滝原市夢見町の夢見公園ですよ……?」トーリ達の住まう公園に訪れた人物は……『人』物では、無かった。真っ赤な体に羽のような飾りを生やした異形の怪物が、空から飛び降りて来たのだ。奇妙なことに、その怪人の顔は右半分が、まるで何処かの妖怪にでも剥がされたかのようにのっぺりとした平面を晒していた。さらに、右腕もまるでゴム手袋のように生物的な質感がまるで無いという不気味な特徴を備えている。「僕のメダル……返して……」聞き取りづらい間を置きながらゆっくりと言葉を継ぐ赤い怪人の様子を警戒しつつ、トーリはこっそり映司の懐に手を入れてみる。本来矢面に出なければならない筈のこの男は、昨夜に気絶している状態で発見されてから、いまだに目を覚まさないのだ。ゆったりとした服の中には、映司の明日のパンツに包まれた、オーズの変身ベルトと8枚のコアメダルが存在していた。コアの内訳は、赤1枚・緑1枚・黄2枚・灰4枚である。おそらく、この赤く見える怪人は、グリードなのだろうが……赤いコアは、腕怪人が既にその椅子に座っていたため、違うはずだ。この赤い怪人の左手の意匠が右手怪人だったアンクに似ているような気もするが、自分の事を僕などと呼ぶアンクを想像することは出来なかった。緑色と灰色のグリードは倒したはずだし、黄色はカザリで、この場には無いが青はメズールである。真木博士から『紫』のコアメダルの存在を聞いたことがあるが、まさかそのお方だろうか?『ギル』なんて名前は、無かったんだ!……いや、なんでもない。「ぱっと見たところだと、貴方の色のメダルは無いみたいですよ?」「……返して」コイツは人の話を聞いているんだろうか、とトーリは若干不安に思い始める。もし問答無用でメダルを奪取に来られたら、降伏するか逃亡するかの二択が賢明な判断に違いない。映司は、先ほどから静かに揺さぶられているにもかかわらず、全く目を覚ます気配が無いのだから。そんな逃げ腰な思考を持っているトーリだからこそ、だろう。「返して!」「ひゃああっ!?」赤い怪人が何の前触れもなく打ち出した炎弾に、対応することが出来たのは。とっさに映司を掴んで自分の傍に引き寄せ、漆黒の翼を体の前面に回して、炎弾を防御する。ガメルを爆殺した分のセルメダルブーストが効いているためか、その攻撃がトーリに与えたダメージは、無視できるレベルである。『オーズ』原作において緑のグリードこと僕らのウヴァさんが自信満々に誇っていた戦法だ。やはり、ウヴァを父と慕うこの娘は、どこかウヴァさんと思考回路が似ているのかもしれない。「話も聞かずに攻撃してくるなんて、どうかしてますよ!」相手がそんなクレームを受け付けてくれるはずもないことは、トーリとて承知済みなのだが、愚痴の一つでも言わずにはいられない。これが、トーリがウヴァさんから受け継いだ最も大きな財産である、小物臭というやつなのかもしれない。もちろん、本家ウヴァさんの圧倒的な貫禄には及ぶべくもないが。いつの時代も、父親越えというものは簡単ではないのだ。さて、そんな父親に追い付け追い越せと日々精進している(?)トーリの思考にまず最初に挙がった方針は……「私だけなら何とか逃げられそうですね……」まず、自分が生き延びる事だった。炎弾を何とか避けつつ、身の振り方についての考えを巡らせる。この赤い怪人は背中から翼を生やしており、この場所を訪れるまでに飛行してきたところをトーリは目撃している。その速度は、トーリよりも若干高いのではないか、と見た方が良いものだった。……つまり、気を失って未だに意識を取り戻す気配のない映司を囮にすれば十分に逃げ切れる相手でもあるということだ。正直に言って、グリードの蘇生方法を一緒に探してくれる映司が居なくなるのは、大きな痛手ではある。だが、トーリ自身が居なくなった時に、ウヴァを復活させることを望む人材が居るだろうかと尋ねられれば、トーリは首を捻らざるを得ない。……そのはず、なのに。逃げるしかないような気はしていて、それでもまだ、トーリは無意識に見殺しルートを避ける思考を生み始めていた。正面から戦えば、おそらくトーリはあっという間にセルメダルの山になってしまうだろう。せめて、映司をオーズに変身させることが出来れば……と、そこまで考えて。「!」こ れ し か な い !トーリに、電流走る。これ以上ないというぐらいの名案が、トーリの頭の中に突如として閃いたのだ。どうしてこんなに簡単なことに今まで気づかなかったんだろう、というレベルの簡単なアイデアだったが、思いついてしまったからにはこちらのものである。即座に変身ベルトこと『オーズドライバー』を拾い上げ、映司のパンツに包まれたコアメダル群の中から、緑と黄と赤のものを一枚ずつ選び出す。確か、映司は信号機な配色のその組み合わせをよく使っていたはずだ、と思い出しながら。そして、オーズドライバーを腰部に当て……装着した。映司にではなく、自分自身に。必死に炎弾を掻い潜りつつ、三枚のメダルを信号機の順番にベルトの溝へとセットし、イメージを固める。緑の複眼を輝かせた赤い頭部を、黄色い獰猛な爪を、強靭な脚力を誇る脚部を、そして三色に分かれた胸部のオーラングサークルと呼ばれる円環状の外部表出機を。そんな思考が必要だとも特に思わずとも、無意識のうちに働いてしまった、イメージだった。地上を横っ飛びに転がりつつ、焦げ目の付き始めた自身の羽の匂いに顔をしかめながらも、その右腕は……確実に、ベルトの右腰に備わってるオースキャナーを、掴んでいた。迷わずにベルトの前部を左方向に傾け……ひと思いにスキャナを宛がい、一気にスライドさせる。「変身っ!!」歌は、聞こえなかった。映司が赤黄緑の三色のメダルのコンボを使った時に流れるはずの、例の歌である。これは単なるトーリの勘違いが生み出した事象であって、大した問題ではなかった。正しいタトバコンボが『タカ』『トラ』『バッタ』の三枚から生まれるのに対して、トーリがセットしたメダルが『クワガタ』『トラ』『コンドル』であったというだけの話なのだから。何処かの町の半熟探偵が、師匠の決めポーズを左右逆に覚えているようなものである。もっと大きな問題は……別にあった。「……アレ?」「?」それは……オースキャナーのメダル読み取り音声が聞こえなかったことである。すなわちそれは、スキャナがメダルを認識しなかったということでもあり。つまり、「変身、できない……!?」トーリは、知らなかった。オーズに変身できる人間は、800年の封印からオーズドライバーを解き放った『火野映司』ただ一人しか居ないということを。別の時間軸上で、アンクが火野映司と後藤慎太郎に対して説明した、大前提の一つだったのだが……特に時間を遡れるわけでもないトーリが知っている筈も無かった。そして、トーリの動作に見覚えがあったらしく、手を止めてしまっていた赤い怪人と、目が合ってしまって。「……オー、ズ?」その怪人が何を認識したのか……トーリにはなんとなく、分かってしまった。「ち、違うんです! ワタシはオーズじゃなくてですね、そっちに寝てる人が……!」「僕を……返してよぉぉっ!!」「ワケが解らないですよぉっ!?」赤い怪人……『ロストアンク』には、800年前に封印された時の記憶が、ほとんど残っていない。だがしかし、自身の一部を削がれる恐怖と共に本能の底に刻み付けられたものも、ほんの少しだけ存在していた。その一つが、『オーズ』だ。強欲な王がグリードから抜き出したメダルの力を吸収するために作り上げた兵器であり、グリードの憎むべき天敵。遠距離攻撃では埒が明かないと踏んだらしいロストが、ほぼ地上0メートルすれすれを飛行し、一直線にトーリのもとへと飛び寄る。その伸ばされた左手を、トーリはとっさに身体の前面に回した強靭な羽で防御しようとして、「っ!?」捕まれた右羽の先が、『焼き千切られ』た。金属を焦がすとき特有の鼻を突く匂いが、一瞬だけ頭を支配する。次にトーリが感じたものは地面に散らばるセルメダルの音で。不思議と、あまり痛みと呼べるものは感じなかった。むしろ、羽の先の部分だけだったから失ったセルメダルは50枚ぐらいで済んだかな、などと何処か冷静に考えられている自分自身が、不思議だった。「このぉっ!」相手が突進してきた勢いが死に切らないうちに、考えるよりも早くカウンター気味の蹴りが飛び出し、何とかロストを引き離すことには成功する。だが、「僕の……」トーリが襲われた時のようなセルメダルの落下音が全く聞こえないことが、彼我の力の差をこれ以上ないぐらい雄弁に語っていた。こちらはロストの攻撃を防御することも叶わず、ロストはカウンターを合わせられても傷一つ負わない。これが、現実だった。トーリの戦闘技術が足りないという理由もあるのだが、圧倒的な攻防力の差が、越えられない壁として目前に存在している。そして、さらに悪いことに、翼が一部欠けてしまったという予想外の事態が発生していた。ヤミーなのだから数分もあれば身体の他の部位からセルメダルを回して欠損を補うのも不可能ではないが、その数分をロストが許してくれるはずもない。つまり……飛行して逃げることが、出来ない。飛ぶこと自体が不可能なわけでは無いが、おそらく目の前の翼人から逃れられるほどの速度は出ないだろう。『誰か、誰か助けてくださいっ! 夢見公園です!』とりあえず見滝原中学とクスクシエ方面に念話を飛ばし、その後はひたすら無差別放出である。危険な暁美ほむらや一般人の鹿目まどかに繋がる可能性もあったが、やはり一番可愛いのは自分の身なのであって。一人でも増援が来てくれれば、その人を囮にして逃げ……ではなく、協力してロストを撃退できるかもしれない。しかし問題は、「返してよぉぉぉっ!!」この翼人が、先ほどから映司に見向きもせずにトーリのみを集中的に攻撃しているということである。そして、壊滅的にコミュニケーションが成立しない。壊れたレコードのように同じことしか言わないロストとのやり取りは、まるで『会話のピッチングマシン』とでも呼ぶべき代物だ。ただし、そのピッチングマシンから発射される弾は、全弾が時速100マイルのボークである。強くて頼りになる銃使いの先輩なら、きっとそんな弾でも素手でキャッチしたうえで、表面に書かれた数字を読み取れるはずだが。必死に打開策を考えるトーリだが、なかなかに上手くいかない。なんとなく敵の雰囲気がグリードっぽいとは思っているため、グリードとの対戦記憶を洗ってみているのだが、これも芳しくないのだ。とりあえず初戦でアンク&マミから逃げ出したのはカウント外としても、カザリにあっという間に組み伏せられ、メズールには速攻の緊縛プレイである。というか、目の前の翼人はグリードとしてどの程度の強さを持っているのだろう?「っ……!」得意でもない近接戦闘を強いられ、ロストの焼き籠手によってじりじりとセルメダルが削られている。トーリ自身、セルメダルが増えるたびに耐久力が上がっているような気がしてはいたものの、これは逆説的に今後のピンチを示してもいた。セルメダルが削られ続ければ防御能力が下がり、さらにセルメダルを削られやすくなるという負のスパイラルに陥りかねないのだ。そもそも、目の前の翼人のコアは何枚ほどなのだろうか?クズヤミーを瞬時に生み出して盾にしながら、トーリは思考を必死に回す。人は盾、人は石垣、というヤツである。もっとも、雑魚戦闘員に見えて意外と打撃耐久力には定評のあるクズヤミーさんたちなので、3~4発ぐらいの攻撃は耐えてくれる根性があったりするのだ。結局セルメダルを消費しているには違いないが、割られたセル1枚から2体も生まれてくるクズヤミーさん達のお得感は、なかなか馬鹿に出来ないものがある。話を戻すと、どうもロストの出力は、カザリやメズールよりも高いような気がするのだ。カザリとメズールの二人がどれだけのコアを持っていたかは分からないが、ガメルが倒されたときに7枚であったことを踏まえると、その数値の前後だろう。それに対して目の前のロストは、思考能力に制限があるのか攻撃が単調であるために何とかクズヤミーの盾で凌ぐことが出来ているのだが、おそらく7枚よりもコアが多いのではないかと思えた。実はトーリのこの目算は間違いであって、この時にロストの持っているコアは、5枚しか無かったりするのだが。それだけロストの出力が規格外だということでもあるのだが、今はそれどころではない。一方、トーリの現在取り込んでいるコアは、緑5枚と灰2枚の計7枚である。コアを取り込んでいようとも、そもそも王として生まれた者と手下として生まれた者の、歴然たる差がこの状況だった。虎は何故強いのか、というやつである。……オーズの世界における『トラ』の強さは気にするな!トーリは、考えてみた。映司の持つ8枚のコアを全て自分が取り込んでみたときの、勝率を。トーリをメダルの器として使いたいカザリさんなら、炬燵から飛び出て来て真木博士と肩を組みながらコサックダンスを始めるぐらいに喜ぶかもしれない。だがしかし、コアの吸収には暴走の危険が常に付きまわる。それは、前回灰色を二枚取り込んだだけで目を回してしまった経験からも、明らかだ。……そもそも、ワタシが暴走したとして、この人に勝てるんでしょうか?炎を使えばクズヤミーを簡単に壊せるということに気付いたらしいロストが、口から火を吐いてクズヤミーを燃やし始める。綺麗な白が目に痛い包帯男の見た目通り、クズヤミーは可燃物だったらしい。クズヤミーを時に自身の羽で庇うという本末転倒のような作業をしながら、思考の起点になりそうな手掛かりに、ようやく思い当たる。おそらく、現在のトーリが暴走せずに取り込めるメダルは3枚、多めに見積もっても4枚といったところである。「そもそも、自色のコアが10枚揃っていても、一度に5枚までしか取り込めないんじゃ……」そう考えると、コアブーストは緊急時に頼るべき手段ではないのかもしれない。そして、先ほどから打撃と炎弾を使い分けて攻撃を始めたロストさんに知性らしいものが見えるのだが、これは一体どうしたことだろう。この短期間で知性が急成長を遂げるという意味不明な頭脳インフレでも発動しているというのだろうか?トーリとしてはそんなことは考えたくないのだが、急ぐに越したことは無さそうである。しかし、暴走しても勝ち目がなくなるどころか、下手をすればこちらの理性が飛んで選べる手札が一気に消える可能性だってあるうえに、そもそも元に戻れるのだろうか?カザリの慎重な態度を見ていると、その辺りの不安は尽きない。この場でトーリが使えるものは、『4色8種15枚のコアメダル』、『オーズドライバー』、『2000枚強のセルメダル』、そして『気絶している火野映司』。この状況から導き出される解は?「それなら、いっそのこと……!」……追い詰められたオリ主が、何かを思いついたようです。・今回のNG大賞「僕のメダル……返して……」「このコンドルコアですよね。どうぞ!」こうしていれば、たぶんロストさんは大人しく帰ってくれたはず。でも、そんなに勘が鋭いオリ主なんて、トーリじゃない。・公開プロットシリーズNo.50→クズヤミーさん達を燃やしてみたかったんだ☆