前回までの三つの出来事は!一つ!念話の甲斐も無く、キュゥべえはほむらに葬られてしまった!『助けて……助け……グチュッ』二つ!遅れてきた魔法少女、巴マミが犯行現場を目撃する!「どうしてこんな酷いことを……!」三つ!マミとほむらが睨み合いを始め、オリ主である少女ヤミーは完全に出鼻を挫かれた!「タイミングを逃したみたいです……」視線を交差させる、二人の魔法少女。そしてそれを隠れながら見守る、一人の魔法少女によく似た何か。この場所にあるもう一対の目は……挽肉の中に沈み、何の光景も映してはいない。キュゥべえを殺されたことについて説明を為されなければ気のすまないマミ。一方のほむらはというと……特にマミと戦う理由を持っていなかったりする。そもそも、キュゥべえとは大量生産品のインターフェイスに過ぎないのだ。その端末の一つを潰すことは、ほむらにとっては憂さ晴らし程度の意味しか持っていない。……逃げるべき。従って、ほむら自身にとってその判断は当然のものだったが、「逃げ道なんて……あると思う?」次の瞬間には風を切る音が、ほむらの耳の真横を通り過ぎる。ほむらが退路を探してマミから目を離した一秒にも満たない時間のうちに、マミは自らの武器を取り出していたのだ。一発限りの使い捨てマスケット。それが巴マミの最も多く使う武器であり、まさに今その銃口が、ほむらに向けられていた。その足元には既に役割を終えた一本が硝煙をあげており、マミの動作の熟練ぶりを窺わせる。ほむらの背後の壁には蜘蛛の巣状の爪痕が刻まれ、その模様はほむらに退路など無いのだという事が暗示されていた……『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第五話:Cyclone effect――風が呼ぶバッティングCount the medals 現在オーズの使えるメダルは……『タカ』×2『カマキリ』×1『バッタ』×1『トラ』×1「セルメダルが、増えた……?」魔法少女たちの宴を傍観していた少女ヤミーにも、変化が訪れていた。なんと、マミがマスケットを取りだした瞬間に、少女ヤミーを構成するセルメダルが増えたのである。つまりそれは、ヤミーの親であるキュゥべえの欲望が少しだけ叶えられたという事に違いない。「お母さんの望みは、魔法少女を増やすことだったような気がします」それに加えて、魔法少女が魔女を倒すことも望んでいると言っていたはずだ。だが、今のケースはそのどちらにも当てはまらない。むしろ、魔法少女が減りそうでさえある。魔法少女が魔法少女に向けて攻撃したという状況で、どうして少女ヤミーのセルメダルが増えなければならないのか。そもそも、当のキュゥべえは食肉加工センターがよく似合う姿になっているというのに。「まぁ、このまま傍観していれば一人儲けだから良いですけど、ワケが解らないです……」ヤミーの『親』の願望は、概要だけならグリードやヤミーからもある程度までは把握できるが、基本的に『親』からの申告によって発覚する。もしそんなものを都合よく把握できるシステムがあるならば、ウヴァさんはわざわざ人間に欲望の内容を尋ねたりするはずが無いのだ。つまり、魔法少女を増やすというキュゥべえの自己申告はキュゥべえの持つ欲望の一部に過ぎなかったという事なのだが……ヤミーに関する基礎知識が抜けている少女ヤミーにそんな判断が出来るはずもない。そんな状況で目の前の事実に理由付けをしようと考えた少女ヤミーの頭に、一筋の光が差し込んだ。「なるほど。つまり……あの黒い子は実は魔女だったという事ですね!」所詮オリ主の思考能力など、この程度である。先日少女ヤミーを魔法少女と知りつつ襲い掛かってきた暁美ほむらが魔女であると、確信した瞬間だった。最早色々と面倒くさい勘違いが発生しているが、全面的にキュゥべえとウヴァによる説明不足のせいである。少女ヤミーの知る由も無い真相を明かしておくと、魔法少女の本体たるソウルジェムは魔法少女が魔法を使う度に汚れを溜めこみ、魔法少女を『魔女』に近づける。そして、その汚れの蓄積がキュゥべえの目的の一部であるために少女ヤミーのセルメダルが増えているというわけだ。実は少女ヤミーの誕生日にほむらから襲われた時も、剥ぎとられるセルメダルより少し足りない量だけ増え続けていたりしたのだが、それはされておき。「今ここで、貴女と戦いたくは無い」「私も、貴女が素直に話してくれれば、こんな物騒なものは使いたくないわ」どんどん戦ってほしいと願う少女ヤミーをよそに、ほむらとマミは案外冷静だったりする。しかも、ここからの沈黙が長く続くものだから、少女ヤミーの精神力を無駄に削ることとなるのである……「……」「……」何を話すか、話すべきか、ほむらは頭の中で整理を付けているのだろう。一方のマミは、愛用のマスケットを握る手を緩めずに、ほむらが口を開く時を待ち続ける。ほむらはキュゥべえがどういう『モノ』であるか知っているのだが、それを信じてもらえるという期待はマミに対して全く持てていない。従って、マミの認識を覆さずにほむら自身の目的に都合の良い方に誘導することを考えた結果……少しだけ話を逸らすことにしてみた。「……そう遠く無いうちに、この町にワルプルギスの夜が来る」「そう、それは大変ね。魔法少女の仲間を増やして御出迎えした方が良かったんじゃないかしら?」ワルプルギスの夜という聞き慣れない言葉に、少女ヤミーは首を傾げる。マミが大変だと言うからには、RPGのボスキャラ的な何かが現れるのだという事は推測できるのだが、その具体的な形が伝わってこないのだ。むしろ、その到来によって魔法少女が増えるかもしれないというくだりに興味津々な辺り、現金なヤツである。契約を司るキュゥべえが既に居ないという事実が頭から抜けていないために、手放しで喜んだりはしないが。「そうならないように、アレを潰した。魔法少女は増やすべきじゃない」「『私達』が、言えることだと思う?」もちろんマミとて、軽々しく魔法少女を量産することが望ましいとは思っているはずもない。しかし、しっかりと覚悟を決めたうえで契約するならば、それはそれでアリだと考えているわけだ。その分、自身の決断に責任を持ってほしいと思ってもいるが。……切っ掛けは、突然に訪れる。マミの足元に広がる、白い霧。それに気を取られたマミの隙を逃さずにほむらが起こしたアクションは……逃亡だった。その退避方法はマミからも少女ヤミーからも目視出来なかったが、おそらく魔法で加速でもしたのだろうという程度の認識を以って思考を打ち切る。「……仕方ないわね」瞬く間に姿を消したほむらの居た場所を一瞥し、巴マミは状況の把握に努めることにしたのだった。その霧が魔女によるものであるということは、熟練の魔法少女であるマミには瞬時に予想がついた。ほむらが立ち去った後も霧が残っていることから、ほむらの仕業で無いことは確定だろう。ところが、マミ自身は未だ魔女の作り出す空間に引きずり込まれているわけではない。また、魔女が魔法少女を選んで襲い掛かる理由も、マミには心当たりが無い。それらを総合して考えると……「下の階で、襲われている人がいるってところかしら」足元に広がる霧は階下から漏れ出したものであり、そこで魔女が食事をしているという結論に至った。意外にも、キュゥべえの敵討ちよりも生きている人間を優先出来る程度には、巴マミは冷静であったようだ。丁度そのころ、CDショップを抱えた建物の中層階において、怪奇に巻き込まれる青年が二人ばかり。一人は、死人でも「嫌いじゃないわ!」と叫んで起きあがってくる程度のイケメン、火野映司。もう一方は泉京水……ではなく泉信吾という人間の姿を借りたグリード、アンク。「アンク、メダルを!」つい今しがたまで多国籍料理店で近所の女子中学生と一緒に楽しいSMごっこに興じていた映司の危機を救ったのは……皮肉にもアンクであった。アンクは、ヤミーのセルメダルが増えた時のみ、その位置を感じ取ることが出来る。その勘が、この建物の上階でセルメダルが増えていることを感知したというわけだ。女子中学生の足止めを「何故俺がこんなことを……」と呟く後藤に任せ、命からがらクスクシエから逃げ出して来たのであった……「待て、映司。こいつら……ヤミーじゃない」彼らの置かれている状況はというと……ヒゲを生やした白いボール状の何かに襲われていた。しかも、周囲がいつの間にかクレヨンで書きなぐったようなメルヘンな空間に早変わりしている。一般人ならば自身の精神の異常を疑って黄色い救急車を呼ぶであろうことは想像に難くない。もっとも、メダルに関わる諸事情を知る映司としては、メダルってそういうものなのかという程度の認識しか無かったのだが……映司の予想は外れていたらしい。そして、目の前の怪異がメダルのせいではないと解ったアンクの落胆ぶりは映司から見ても容易に判断できた。具体的に言うと、アンクが変身用のコアメダルを準備する気配を全く見せない辺りに。映司は既にベルトを巻き終えて準備万端なのだが、メダルが無くては変身することもかなわない。「この上の階にヤミーが居るかもしれないだろ? とりあえず目の前のこいつらを倒そう」「……しくじんなよ」しぶしぶ、という様子を見せながらも緩慢な動きで三色のメダルを用意したアンクが、それを映司に手渡してくれる。というか、一応ヒゲタマゴからの体当たり攻撃を散発的にかわし続けているので、どの道オーズの力で蹴散らす以外の選択肢は無かったりするのだが。ちなみに、映司自身さえ半信半疑の仮説だったが、当の少女ヤミーは未だに上階の物影に隠れていたりするので、実は大正解であった。手渡された三種のコアメダルを、ベルト前部に掘られた溝にセットし、ベルト右腰部に装備されたスキャナを手に取り。メダルをセットした台部を傾けてベルトを待機状態にすると同時に……スキャナをベルト前部に走らせ、三種のコアを読み取らせる。その色は、鳥系メダルを示す『赤』、猫科を現す『黄』、虫系の『緑』の信号配色という、オーズの基本形態を作り上げるためのもの。「変身!」『タカ トラ バッタ』歌が無いことは気にするな。TV本編より若干寂しい感があるものの、『仮面ライダーオーズ』、ようやくの登場である。タカの眼力にトラの爪と腕力、バッタの跳躍力を持った古代の戦士……それが現在のオーズの姿、『タトバ』形態であった。……13世紀を古代と呼ぶと誰かに怒られそうな気もするが。飛来するヒゲタマゴをバッタの脚力で蹴り返し、時に虎腕の爪で叩き斬る。ヒゲタマゴが弾幕の体を為して襲い掛かってくれば、タカの目で一筋の抜け道を見出す。だがしかし、敵一体ずつの戦力は大した問題となるものではなかったが……いかんせん、数が多すぎた。決してタカやトラやバッタのコアメダルの力が弱いわけではない。多分。「何やってんだ、映司!」自身も右手だけの怪人態を振り回しながら、アンクが怒声を発する。その手の中には握りつぶされたヒゲタマゴの姿があり、ヤミーに辿り着けずにアンクが苛立っている様子が、映司には手に取るように解った。「分かってる!」際限なく襲い来るヒゲタマゴを捌きつつ、映司は打開策を探る。……メダジャリバーは、使えない。もちろん、先日鴻上ファンデーションより届けられたオーズ用追加装備のその大剣は、使おうと思えばいつでも使う事は出来る。そこにセルメダル3枚を投入して、広範囲斬撃である『オーズバッシュ』を発動すれば、確かにこのヒゲタマゴの群れを容易に殲滅出来るかもしれない。だがしかし、オーズバッシュは対象範囲内にある全ての生命を対象としてしまうため、周囲の安全を確認しなければ使えないのだ。映司たちが現在足止めを食っている建物は、周囲に似た高さの建物が並ぶ街並みの中にあるため、下手をすると隣の建物の中の人間まで一緒に切ってしまうという事態が起こり兼ねないのである。……アンクには悪いけど、時間をじっくりかけて少しずつ数を減らそう。思考が最終的にそこに落ち着く辺り、映司とアンクの人間関係というものが非常によく表れていると言えるだろう。もちろん、面と向かってそんなことをアンクに言ったりはしないが。そう、映司が思っていた時だった。「……え?」目の前でトラクローの餌食となる直前だったヒゲタマゴが、突如として砕け散ったのは。それに始まり、次々とオーズの周囲のヒゲタマゴが弾けて消えて行く。空間を埋め尽くしていたはずの白い球体たちは、瞬く間に火の手をあげてその存在を抹消されていったのだった……「なんだ? 何が起こった!?」「マスケット、だ」何が起こったか把握していないアンクに対して、映司は飽く迄冷静に、自身の分析した情報を伝える。かつて旅人だった頃に紛争地帯を訪れ、日常の中に散りばめられていた兵器たちのうちに、映司はそれを見たことがあった。一発の弾丸を込めると装填に時間がかかるが、防弾ジャケットを着た兵士をその身体ごとブッ飛ばす威力を持った、対重装兵用のあまり実用的でない飛び道具を。これだけの弾丸と発射音が聞こえるのに装填する音が全く聞こえない、という感知状況から、判断したのだ。「御名答です」いつの間にかオーズとアンクを囲んでいたメルヘンな空間が消え、二人の前に現れた人物は……物騒な銃を片手に下げた、金髪の少女であった。帽子と黄色いスカートが印象的な衣装に身を包み、幼さの残るその容姿からは10代半ばであることが読み取れる。そしてその周囲には、硝煙をあげる厳つい火器がいくつも宙に浮かぶという不思議な光景が広がっていた。青年は、そんな年齢の少女が平然と兵器を扱っている様を見て、どのような表情をしているのだろうか。怪人は、オーズでも無い人間が当たり前のように強大な力を振るっている光景に、一体何を思ったのか。タカの目は、何も語らない。魔法少女と仮面ライダーの物語は、既に交わり始めている……・今回のNG大賞「あれ? タトバの歌が聞こえない……?」アルカディアの利用規約をよく読むんだ、映司!・公開プロットシリーズNo.5→活字だとタトバは強そうに見える! 不思議!・人物図鑑 アンク鳥類の怪王。その性質は嫉妬。他者の台頭を許さず、その破滅を望む。在りし日に大空を翔けた栄光を、今はただ求め続ける。好物の冷菓子さえ持っていれば簡単に懐柔できるだろう。