「鴻上さん、赤いコアメダルって持ってませんか?」「まさか君がコアを求めるとはね! 新しい火野映司君の誕生だよ! ハッピーバースデイッ!」初対面のトーリをそっちのけに、コレである。何時の日か巴マミの元住居でディスプレイ越しに会ったような気もするが。「あいつが居ないと俺もメダルに関する情報不足で辛いので、出来れば復活させたいんです」「残念だが、現在渡せる赤いコアは無いんだよ! ドクター真木の要請に応えて送ってしまったばかりだッ!」ドクター真木?聞き覚えの無い名前に、顔を見合わせる映司とトーリ。そんな二人を前に、鴻上会長はケーキを作り続ける。「メダルシステムの開発者だ! 実験のためのコアは惜しむべきではないと思ってねッ!」「へぇ、カンドロイドやライドベンダーを作った人ですか」トーリにぶら下がって空の旅を楽しんで来た映司だが、もしトーリが居なければライドベンダーで走って来ていたはずだ。そして、メダルシステムの恩恵を思い出しつつ期待に胸を躍らせる映司をよそに、トーリが気付いたのは別の事だった。「セルメダルを消費するシステムの実験に、コアメダルが必要なんですか……?」「トーリ君と言ったねッ! 君の『知りたい』という欲望……実に素晴らしいッ!」ケーキに盛り付けるクリームの泡を飛び散らせながら、トーリを指差す鴻上会長。この人は、常時このテンションを保っていて、疲れないのだろうか。「カンドロイドのモチーフを思い出してみたまえ!」「バッタとタカですね」「タコも居るし、あと最近ウナギが出来たんでしたっけ」それぞれ、色とりどりのカンドロイドを思い浮かべてみる二人。トラカンドロイドは、まだこの二人の面前に現れたことが無いだけだ!決して、作者がトラを貶めているなどという言いがかりはやめて欲しいものである。「メダルシステムは、コアメダルの仕組みを解析して作られている! おそらく、ドクター真木の元に送ったメダルと同じクジャクのカンドロイドが生まれるはずだよッ!」尚、公式設定において、トラカンは『トラ』ではなく『ライオン』のメダルを解析して作られたものである。……作者に悪意なんて、あるわけない。あるとしたらそれは、テレ朝公式サイトの管理スタッフの中に、作者とそっくりな奴が居るだけさ!(キリッ)「……ということは、タカやバッタのコアを会長さんは持っているんですか?」トーリ的に、タカは別にどうでも良い。重要なのは、ウヴァさんのバッタである。オーズにタカメダルを使われたら即死だという意味では、タカを確保しておいても損では無いかもしれないが。「我々がそのデータを収集したのは、グリードが復活する前だ。それらは、復活したグリードの一部となってしまったよ!」……本当だろうか?今までクジャクのメダルを隠し持っていたと明言している人物の発言としては、疑わし過ぎる。だがしかし、鴻上会長の口を割らせる手段も思いつかない。「クジャクのコアが欲しければ、ドクター真木を説得してみたまえ!」そう言いながら、完成したケーキを映司とトーリに見せつける鴻上会長。その上には、チョコレートによるデコレーションで、真木博士の研究所への簡易地図が描かれていた……『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第三十八話:口は万災のモト既に日は沈んでいたが……ケーキの寿命があまり長く無いだろうと判断した二人は、歩を進めることにした。もちろん足を使った表現は飽く迄比喩であり、トーリが映司をぶら下げて飛びましたとさ。なんせ、冷蔵庫という文明の利器を持たない二人にとって、ケーキとは割と足の速い食べ物なのであるからして「博士さんって、どんな人なんでしょうかね?」何気なく、トーリが疑問を投げかける。その口ぶりは、不思議と先ほどよりも少しだけ軽くなっていた。ただし、鴻上会長から真木博士へのプレゼントと称されるものをケーキとは別に持たされたので、実重量としてはむしろ重くなっているのだが。この中身が一体何なのかと、トーリは気になって仕方が無かったりする。「遊び心満載な人でしょ。動物が大好きなんじゃないかな」トーリが真面目な人物考察を映司に求めているので無いことぐらい、映司には分かっていた。なので、カンドロイドの開発者という者に対するイメージを捻らずに口に出して、トーリに返してみる。「トーリちゃんはどう思う?」「魔法少女を使った人体実験を考える危険人物で無ければ、嬉しいですねぇ」現在進行形でカザリから『器』の実験体として扱われているトーリとしては、身体を調べられるのは一発死亡ルート確定である。もちろん、器の件が無くても身体がセルメダルで構築されている時点で、調べられてはいけないのだが。そう考えると、巴マミの持っているタカメダルも、何かの間違いで火野映司に渡るぐらいならトーリが握り込んでおいた方が安心かもしれない。というか、手段があるのならばいっそのこと割ってしまうのも手だろうか。「あと、メダジャリバーのモチーフになったコアって何なんだろう?」「そういえば、思い当たりませんね」踏破済みの場所に該当する部分のケーキを口に運びながら、映司も素朴な疑問を口に出してみる。歩きながら食べるのがマナー違反なら、飛びながら食べるのってアリなのかな? なんてどうでも良いことを考えながら。「それを言ったらライドベンダーもですよね。それと、私もケーキ欲しいです」「その辺りも真木博士に聞いてみようか。はい、あーん」「んぐ」何だか男女間で行われると特別な意味がありそうな動作だが……特に気にする様子も無く、映司から差し出されたケーキのピースを頬張るトーリ。別に映司も恋愛沙汰的な意図を以って行ったわけではなく、トーリもその辺りの観念にはやや疎い所があるのかもしれない。強いて言うなら、仲の良い兄妹という珍しい人種が、今のトーリと映司の間を流れて行く空気に近いものを持っているのだろう。頭の中を打算的な考えで一杯にしつつ、今回は特に妨害も無く、二人は無事に真木博士の研究所へと辿り着くことが出来たのだった。「火野映司君にトーリ君ですね。話は会長から聞いています」「「初めまして」」二人が夜分遅くに尋ねてきたにもかかわらず、嫌な顔一つせずに出迎えてくれるドクター真木。もっとも、その顔はトーリと映司にではなく、真木博士の左肩に載せられた不気味な人形へと向けられているのだが。真木博士の目の下の黒くて輝きの無い部分が……彼の睡眠時間が足りていないことを読み取らせる。「まさか、あの人形が本体だったりするんじゃないですか……?」「流石にそれは無い、でしょ……?」鴻上財団のメダルシステム開発主任がメダルの怪人だなんて、まさかそんな事が……案外ありそうだから困る。あの会長なら、素晴らしいッ! の一言だけであっさり採用してしまいそうだ。初っ端から『キヨちゃん』の初見殺しの魅力に捕らわれた二人であった。「博士さん。これは、会長さんからのプレゼントだそうですよ」トーリが足元に置いていた段ボール箱に目を落としながら、トーリが会長から承った任務を遂行しようとしていたりして。両腕でようやく抱えられるサイズのその段ボール箱は、何やらずっしりとした重みを感じさせるものであった。「そういえば……そんなものもありましたね」今思い返せば、昼間に会長が、ケーキとプレゼントを送ると言っていたはずだ。あの会長がケーキをこのような無骨な箱に入れることは考え辛いので、おそらくプレゼントの方だろう。しかし、ケーキの方は何処に行ったのだろう……と考え始めて、直ぐに気付いた。真木清人の頭脳を以てすれば、容易に推測は立つ。おそらく、会長がケーキの存在理由を言わなかったために、この二人が食べてしまったのだろう。まぁ、真木としては物事の生誕には大して興味が無いので別に構わないが。そして、トーリがちらちらと段ボール箱に視線を向けていることにも、当然気付いている。「中身が気になるのなら……開けてみても構いませんよ」「……それでは、遠慮なく」これだけ重いのだからメダルが入っていてもおかしくない、という期待に胸を膨らませて、トーリはその封を切ってみる。真木博士への贈り物なのだから横領は出来ないと思いつつも、中に緑のメダルがあったらどうしよう、ぐらいには思っているのだ。満を持して段ボール箱の中から姿を現したものは……「……瓶?」黒くて半透明な、瓶だった。高さ20センチメートル程度の瓶が、大量に収められていたのだ。缶ではなく、瓶である。ガラスで出来た容器に水分が保管されていれば、それが重いのは納得ではあるが……トーリとしては残念な感は否めなかった。「これは……」そして、その内容物に真っ先に反応した人物は……今まで傍観していた火野映司だったりして。黄色いラベルの張られた黒い瓶をおもむろに一本取り出して、しげしげと眺めている火野映司の様子を見れば、トーリの期待も若干盛り返してくるというものである。「映司さん、それが何だか知ってるんですか?」「ああ……昔放映してたヒーロー番組に出てたな、って思い出して、懐かしくなってね」それは、親子で宣言キャンペーン、と謳われていた例の栄養ドリンクに違いない。何処かの仮面ライダーはその栄養ドリンクの万引きを疑われ、また別の仮面ライダーはそれに良く似た『変身一発』という飲み物を飲んで戦ったことで知られる、『例のアレ』である。ここで、とある平衡世界の話をしよう。某日本の秋田県に住んでいた渡部秀という青年は、日曜の朝に放映されている一連の番組をこよなく愛していた。だが、この青年の恐ろしいところは……自身もヒーローの一員にならんと試みて身一つで上京し、無事にオーディションに受かってしまったという点だ。そしてその青年は、オーディションに受かって一月以内には、絶対に次のような期待を持っていたはずである。自分も先輩たちに倣ってあの栄養ドリンクを作品中で扱うなら、どんな形になるんだろう、と。だがしかし……現実は非常だった。大塚製薬が、彼が主演を務める番組に関して例年ほどの積極性を見せなかったのである。結局、映像媒体でのタイアップは夢のままで終わってしまったのだった。……つまりッ!この火野映司の爽やかな笑顔ッ!さり気なくラベルを見せる洗練された動きッ!発明に疲れた真木博士に瓶を手渡す計算し尽くされたタイミングッ!そのシーンの全てを、役者であり一人のライダーオタである渡部秀氏へ捧ぐッ!これは即ちッ!仮面ライダーオーズへのッ!歴代の仮面ライダー達へのッ!『尊敬』ッ!『賞賛』ッ!『敬意』ッ!『感服』ッ!圧倒的ッ!圧倒的ッ、『オロナミンC』ィィッ!!……という電波を、ガイアメモリとそっくりな音声で受信したトーリだったが、さらっと受け流しておいた。そんなことはともかく。映司から受け取った栄養ドリンクを飲んで少しばかり顔色が明るくなった真木博士は、ようやく本題に入ることが出来そうである。「クジャクのメダルなら……もうすぐ『データ収集』も終わります。そうなれば特に用途も無いので、火野君に譲ることも吝かではありません」「ありがとうございます」真木博士の予想外にあっさりした答えに、素直に謝礼を述べる映司。まぁ、この後に何か条件を付けられるのだろう、とは思っているが。「その代わりに、新しいカンドロイドのテストをして頂けませんか?」「はい。俺なんかで良ければ」今度は何の動物をモチーフにしているのだろう、という火野映司の期待を背負い、出て来たカンドロイドは……黄色い身体をしていた。真木博士が付近に備えてあったライドベンダーをバイク形態へと移行させ、どういう原理か幅1メートル程の大きさに巨大化した黄色いカンドロイドが、バイクの前輪を押しのけてその位置に収まる。押しのけられた前輪は二つに分かれて後輪と並列に並び、一つの円筒の形状へと変化を遂げた。これぞ、トラのカンドロイドとライドベンダーの融合体……トライドベンダーである。まるで暴れるように跳ね回り始めたその様子は、何処か野性味を感じさせる。「火野君、変身を」『クワガタ トラ ゾウ』「変身!」即座に変身し、気ままに跳びまわるトライドベンダーに飛び乗る映司だが、「うわっ、こいつ、全然言う事聞かない……っ!」どうやら、かなりの暴れ馬らしい。扱い方を覚えるには……大分時間がかかりそうだ。「トライドベンダーは、ラトラーターのコンボを使えば制御が効くという機体コンセプトなのですが……やはりコンボ無しでは無理のようですね」相変わらず腕元の人形に視線を注ぎながら、真木博士は時折顔を動かしてオーズとトライドベンダーを観察する。そして、段々暇になって来た感のあるトーリ。「博士さん。メダルシステムって、コアメダルの情報をもとに作られてるんですよね?」「会長から聞きましたか。その通りです」暇つぶしに真木博士に話題を振ってみるトーリは……一応、メダル関連の知識は持っておいて損では無いぐらいには思っているのだろう。その頃、トライドベンダーから振り落とされたオーズは、冗談抜きで食い殺されそうになっていたりする。トラクローとメダジャリバーをつっかえ棒にして何とか噛み付き攻撃を防ぐものの、相手の顎の力に執念染みた何かを感じるのは、何故だろう?「メダジャリバーって、何のコアを元にしてるんですか?」「過去にも一度クジャクを少々参考にしましたが……主に紫のメダルです」目の前で繰り広げられる性能テストの様子から、ライドベンダーは黄色のメダルを元にしているのだろうと予測が付いてしまったトーリがぶつけてみた質問が、それだった。そして、帰って来た答えは、予想の遥か外を行っている。トーリが今までに聞いたことのあるメダルは『赤』『黄』『緑』『灰』『青』の5種だけであり、『紫』とは初耳である。「紫の、コア……ですか?」「ええ。完全な状態、10枚の形で残っているコアメダルが発見されましてね。現地から送られて来たデータは、効率的にセルメダルをエネルギーに変換するシステムの良い参考になりましたよ」それは先日ヨーロッパで発見されたもので、近日中に会長が直々に日本まで移送する予定である、ということらしい。そして、真木博士の台詞に、トーリはいつもの発想の転換を見せる。「同種のコアが10枚って、危険じゃないんですか? グリードが復活しそうですけど」ここで、真木博士がポロりとグリード復活の手段を口にしてくれれば、儲けものである。一方のオーズは、跳びかかってくる機械の獣に対して、腰を落として相撲のような構えを取っていた。そして、その頭をまるで礼司のように下げ……次の瞬間にはその強靭な角を使ってトライドベンダーを真下から投げ飛ばすという荒業を披露していたして。その様子は……何処か、理不尽な人造昆虫アニメを思い出させる。「10枚揃っている限りは、グリードは生まれません。そこから何枚かメダルを取り除いた時、その欠損を埋めたいという欲望が生まれ、グリードはその形を為すでしょう」「ということは、映司さんが持っている灰色のメダル7枚から何枚か取り除いたら、ガメルさんは復活するんですか?」実際には、現在の映司が持っている灰色のコアは5枚である。トーリが、昼間にケーキの魔女の結界内部で起こったメダルの移動を知らないだけで。「10枚の状態から取り除いた時の記述は古代の遺跡から発見されていますが、それ以外の復活方法は私は知りません」「ですよねぇ……」予想外の情報のデフレに、若干の期待を抱いたトーリだったが……ダメだったらしい。一応、コアを10枚集めてそこから1枚ずつ除いて行けば復活出来るとは分かった。だが、それはアンクが言っていた最低条件の5枚という数字と何か関係があるのだろうか?……まさか、10枚集めてから5枚になるまで取り除くと復活するとか。真木から得た情報は持っておくに越したことは無いが、正直に言って役に立つのかどうか判断に余る知識でもある。そして、ようやくトーリと真木博士の会話が一段落着いた頃。二人の視線の先には、ゾウレッグの激しい踏み鳴らしによって地割れを起こし、そこにトライドベンダーを突き落としてやっと息を吐いているオーズの姿があった……サメヤミー編で活躍できなかっただとか、そもそもオーズに黄色コンボが揃っていないだとか、彼も彼で色々と物申したいことがあったのだろう……真木博士はこの時、『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』という言葉を思い出したという。「……そろそろ、ですね」「何か言いました?」博士の、何気ない一言。その内容が分からずに聞き返したトーリの足元が……揺らいだ。建物全体を震わせる、拡散する衝撃が走り抜ける。堅くて重いモノが崩れる音が響き渡り、足元の振動に加えられた。「今の音は爆弾……おわっ!?」思いがけない音に気を取られた映司は、乗り直したトライドベンダーからまた放り出されていたりして。だが、そんな物騒な音を聞いておきながら、火野映司という男が駆け出さない筈も無かった。音が発せられた場所が研究所の裏手であることを瞬時に察知した映司は……走る。トーリを引き連れた映司が、爆音の発信源に辿り着いた時に、見た物。それは、焼けただれた分厚いコンクリートの壁を、火薬と砲弾を用いて破壊した痕跡だった。その場所にあったと思しき研究機材の中には、再利用が可能と考えられるものは見当たらない。二人は、気付かない。真木清人が、いつの間にか姿を消していた事に。「まさか、俺の起こした地割れのせい……じゃないよね?」・今回のNG大賞チョコで書かれた地図を頼りに進む二人だが、「地図が気温で溶けてるっ!?」「古典的過ぎですよ!?」バッタカンドロイドで里中さんに連絡を入れましたとさ。・公開プロットシリーズNo.38→某海賊戦隊の「ハカセさん」っていう呼称の違和感が、凄く気にいっただけなんだ。