『もしもし、こちらマギブルー! 魔女が出たから病院まで来てください!』貴女は戦隊の二番手か何かなの?夕方の魔女探索までの時間を学業の復習に使っていた巴マミに、突然かかって来た念話の内容が、それだった。当然、この町を守る魔法少女である巴マミとしては、行かないという選択肢は存在しないのだが……何だか物寂しさを感じるのもまた確かなわけで。「トーリさんは……何処に居るのかしら」呟いてみるものの、やはりそこには臆病な後輩の姿は無い。マミがアンクを殺したことが発覚した日から、あの頼りない魔法少女はクスクシエの屋根裏部屋を訪れていないのだ。「また、怖がらせちゃった、みたいね」――マミさんっ! 嘘ですよね? 嘘だって言って下さいよ、ねえ!魔法少女を続けている以上、必ず何処かで会うことになるだろうが、巴マミはその時に一体どんな顔を彼女に見せれば良いのだろう。そんな思考を先送りにしつつ、脚は動かし、民家の屋根を飛ぶように跳ねて病院まで一直線に駆ける。幸いにして大して遠くも無い病院には、巴マミが思考のドツボに嵌る前に辿り着けるだろう……『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第三十七話:颯爽退場洋菓子城魔女の迷路というものは、一本道では無いことがある。そのため、進行する者と撤退する者が出会わずにすれ違ってしまうことは珍しいことではない。だがしかし……結界に入る前の段階においては、そうはいかないのだ。特に、結界の入り口にまさに侵入しようとしている一般人の後ろ姿を見れば、巴マミが引き止めないはずも無かった。「待って。その中は危険よ?」後ろから声を掛けられた女の子の背中が、まるで死神か悪魔にでも出会ったかのように、上下に揺れる。それこそ『ビクッ!』とか『ビクン!』とか聞こえてきそうなぐらいに。「貴女は……」「ひっ!?」そして、恐る恐る振り返って巴マミの方にゆっくりと視線を向けた女の子の顔に、マミは見覚えがあった。確か、マミがアンクを殺すのを、邪魔しようとした子だったはずだ。見たところ、魔女の口づけを受けている様子では無いのだが、彼女は何故魔女の結界に脚を踏み入れようとしていたのだろうか?魔法の力を持っているのなら、アンクを助ける時に使っていたはずだ。「あ……えっと……」その脚は震えていて、巴マミが怯えられているというのが、一目のもとに把握できる。何故この子と再び会ってしまったのかと一瞬だけ考えたマミだが、よく考えれば前回もこの病院で会っている。つまり、何かしらの理由で病院に通っている子なのだろう。「ごめんなさい、ね。怖がらせるつもりは無かったのだけれど」壁を背にじりじりと後退している背の低い女の子は、今にも泣きだしそうなほど、瞳が揺れていた。アンクと一緒にマスケットを向けられた恐怖を考えれば、すぐには悪印象を消し去るのは難しいかもしれない。「でも、その中はもっと怖いもので一杯なの。絶対に足を踏み入れちゃダメよ」女の子に一通りの注意を促し、巴マミは結界の中へと姿を消していったのだった。「……どうしよう?」「あの黄色いガキが居るなら、大丈夫だろ」アンクとて、自分の命は惜しい。巴マミに再殺される危険を冒してまで、魔女の結界の中のセルメダルを拾いに行くことは出来ない。それは、火中の栗などという表現が生温いと思えるほど、危険過ぎる行為だからだ。ライジングでアルティメットな拳を生身で受けるという愚行に並ぶぐらい危険かもしれない。「うーん……それもそう、かも」もう全部あいつ一人で良いんじゃないかな。……とまでは思っていないだろうが、美樹さやかが一人でヤミーと魔女を相手取る状況に比べれば、遥かにマシであることは疑う余地が無い。それに、なんと言うべきか、賢い人間特有のオーラというか余裕というか、そんなものが巴マミには見られるように思えたのだ。美樹さやかとは比べるのも失礼なその素質は、さやかの援軍のためのものとしては十分すぎる能力であることは疑う余地が無い。「とりあえず、上条君の面会時間を確保しておこうかな」鹿目まどかが立ち去って少しののち、猫科のグリードが結界から脱出し、更にその十数分後に女医を担いだ仮面ライダーが姿を現したのだが……どうやら彼らは、遅れて入って行った魔法少女たちと会わずに出て来てしまったらしい。そして、映司が女医を近くの窓を探して病室のベッドへと放りこんだ矢先に……魔女の結界が歪み、その中から二人の魔法少女が姿を現す。「以外にあっけなかったわね」「やっぱりマミさんは一流だなぁ!」結界の入り口が消滅し、二人の魔法少女が魔女をあっさりと倒してしまった事が、会話からは窺えた。おそらく、結界が失われたことによって復路の時間が短縮されたために、出てくるのがこんなにも早かったのだろう。少しの間だけ物陰から彼女たちの様子を窺っていた映司だったが……結局、魔法少女たちに声をかけることも無く、静かに姿を消したのだった。尚、包帯男のまま病院に放置された後藤さんがベンダー隊の部下に助けてもらったことは、全くの余談である……映司が寝床にしている夢見公園に辿り着いたとき、日は既に傾いていた。そして、その場所で映司を待ち受ける、メダルの怪人が一匹。つい何日か前まで腕怪人が居た場所にいつの間にか居座っている、蝙蝠のヤミーが映司を出迎えてくれた。「映司さん、遅かったですね」「うん、色々あってね」映司の返事に、キレが無い。トーリは何となく、そんな気がした。「ヤミーが魔女の結界に迷い込んじゃってさ。だいぶ苦労したよ。あれってよくあることなのかな?」「ワタシは見たこと無いです」自分自身がヤミーです、などとは口が裂けても言えない。「トーリちゃん。ずっと聞こうと思ってたんだけど、魔女って何なの?」「……質問の意味がよく分からないです」魔法少女が希望を振り撒いて、魔女が絶望を振り撒く。巴マミは確か、そう説明した筈だ。だが、そんな概念的な説明では、実際に対処する側にはあまり役に立たないというのも確かではある。「魔女はどうやって生まれるのか。もっと言うと、誰かが任意の場所に魔女を出現させることは可能か、ってこと」映司は、今日の出来事に気味の悪さを感じ取っていた。偶然にしては出来過ぎている、と思ってしまうのだ。あの魔女の再生脱皮の能力にしても、一歩間違えば頭を丸齧りにされるという初見殺し専門のような印象を映司に与えていた。まるで、ネズミを追っていたネコを、纏めてネズミ捕りで始末してしまうような悪辣な意思を思わせるシステムである。むしろ今回は、追われている側もネコだったのだが。「誰かが、ヤミーが居る場所を狙って魔女を出現させた……ってことですか?」「うん。カザリっていうグリードは魔女が出てきた事が想定外だったみたいだから、逆は無いと思うんだ」魔女にセルメダルを投入してヤミーを作ろうと試みていたのも気になるが、それならば焦ってシャムネコヤミーを回収するのも奇妙な気はする。おそらく、カザリもあの場に魔女が出現することなど想像出来ていなかったのだろう。「とにかく、ヤミーと戦っていたと思ったら魔女の結界の中に居た……みたいなことが、今後起こってくるかもしれない」「それは……ワタシなんか、絶対単独行動しちゃダメですね」ヤミー一匹でさえまともに倒せないというのに、魔女とヤミーを相手取ってしまった時のことなど、考えたくも無い。しかも、今回はグリードまで駆け付けてくれたそうなので、最悪も最悪である。「ところで、トーリちゃんはこの先ずっとこの公園に住むわけじゃないでしょ? マミちゃんも寂しがってるだろうし、クスクシエに帰ってあげなよ」「なんだかマミさんを悪者扱いしちゃったみたいで、帰り辛いんです」――何で私が悪者みたいに言われなくちゃいけないのよ!何となく、どんな顔をして巴マミに会ったら良いのか分からない。さらに言うと、ウヴァさんの復活の見込みが立たない現状において、積極的にヤミーや魔女を倒すだけの動機がトーリには欠けていたりする。「会いたくないなら無理にとは言わないよ。でも、気が付いたら手が届かなくて後悔した……なんてことにはならないように、ね」「アンクさんの事はワタシも残念だと思って……」……と、そこまで口に出して、気付いてしまった。ウヴァを復活させる手段を知る唯一の存在であったアンクが死んだのだという事を思い直したところ、トーリの頭には次の策が浮かび上がって来たのだ。グリードを復活させる方法があるという事は、アンクを復活させる方法もあるということである。もっとも、ウヴァの復活の手段を知った時点でトーリがアンクを復活させる理由は無くなってしまうが……アンクを生き返らせることを望む人間が、居るかもしれない。「……そういえば、グリードは復活する方法があるって、アンクさんが言っていたような?」「え、それ、本当?」映司の目の色が変わった……ような、気がした。まさに、トーリの狙い通りである。「はい。確か、必須条件として同色のコアが3種5枚だったはずです」「今所在が分かってるのは……タカが2枚、だけか」尚、映司はタカメダル2枚を握り込んでいるのは巴マミだと誤解しているため、実は一枚分しか現在の状況を把握できていなかったりするのだが。「それだけでは復活しないはずですが、もしアンクさんを生き返らせる方法が見つかったらワタシにも教えてほしいです。もちろんワタシも調べますよ」メダルがただ集まっているだけではグリードは復活しない。それが出来るのなら、映司の現在所持している5枚の灰色コアからガメルが復活してくるはずだからである。……その程度の事は、映司とて説明されなくとも分かっている。「そういえば、行方不明のコアって何処にあるんでしょうか?」アンクのコアが2枚しか見つかっていないという発言を聞いて、思い出した疑問を率直に吐き出すトーリ。ウヴァのコアも何枚か行方不明のはずなので、むしろそちらが本命なのだが。そして、トーリに加えて映司もグリード蘇生術を探してくれるのならば、有難い事この上無い。「心当たりはあるよ」アンクさんも、大体の目星はついているって言っていたような?ひょっとして同じ目的語を取っているんでしょうか。「ちょっと鴻上さんの所に行ってみる。付いて来る?」鴻上さんというと、メダルシステムを提供する代わりに映司の獲得するセルメダルの40%を要求してくる会長さんである。……もしかして、効率的なメダル収集のためにトーリ銀行が襲撃される危険があるのだろうか?その鴻上財団の本拠地に乗り込むとなれば、トーリの身が危険に晒される可能性が無いとは言えない。「その鴻上さんって、危ない人じゃないですよね?」「よく分からない人だけど、大丈夫でしょ。いざとなったら俺が守るよ?」映司の言葉は……信用できるかもしれない。それでも、不安はやはり残る。トーリの下した決断は……「映司さんが守ってくれるなら……会ってみたいです」・今回のNG大賞「それでね、さやかちゃんったら『男っていう生き物は定期的に謎の白い液体を生産するんだ』なんて、突然言い出すんだよ」「さやかェ……いや、さやからしい、のかなぁ?」とりあえず上条君の病室に先にお邪魔した鹿目まどか。「流石に私だって、そのぐらいウソだって分かるのに」「えっ……もしかして、理解できてないの?」驚いて見せる上条恭介の様子から、まどかは先ほどのさやかの言葉が妄言で無かったことを悟る!「……ひょっとして、『謎の白い液体』って何か意味があるの? ねぇ、教えて! お願い!」「そ、それは……」もしかしてさやかは僕を虐めているのかい!?それを思春期男子から女子に対して説明させるなんて、あんまりだよ!美樹さやかから間接的なセクハラを受けているんじゃないかと、上条恭介は割と本気で疑いたくなったらしい。・公開プロットシリーズNo.37→ここからオリ主の逆転劇が……始まるとは思えない(何