「変身!」『プテラ トリケラ ティラノ』紫のコンボ形態へと変身を遂げた映司が、翼竜の翼を広げて飛び立とうとした……そんな時だった。一つのエンジン音が、オーズへと迫ってきたのは。現在は紫の力をそれほど活性化させていないとは言っても、映司の聴覚はそれなりに鈍っている筈なのに。それでもなお映司の耳へとバイクの駆動音を届けられるという事は、接近者は余程の速度で走っているのだろう。そして、その来客達を待ってみると……何とも、意外な人物の組み合わせであった。真木博士が運転するバイクの後部座席に、暁美ほむらが乗っていた。この時点で既に、色々と突っ込みどころが満載過ぎた。片時たりともキヨちゃんを手放せなかった真木が、一体どうやって免許をとったのだろう?というか、マミ組の方のラスボスが真木だった筈なのに、その真木がどうしてピンピンしたままライドベンダーを運転して駆け付けねばならないのか。更に言うと、マミや後藤の命運は?「御心配なく。誰も、終わりを迎えた人間は居ませんよ」「それは……安心しました」オーズを目前にバイクを停めた真木が、淡々と言葉を綴ってくれた。確かに、仲間の安否は映司の危惧していた内容の一つなので、それを教えてくれたこと自体は嬉しい。どういう心境の変化なのかと真木に聞いてみたいところでもあるのだが……映司の関心は、どちらかと言えばベンダー後部座席の暁美ほむらの方に置かれていた。というのも、ほむらの表情にはありありと不安が満ちていたからだ。魔女まどかが居るのだから世界滅亡の危機に置かれているというのも間違いでは無いのだが、それにしても様子がおかしいと思われた。……と、そこまで考えてから、映司は気付いた。そもそも、真木やほむらが覚えている過去と映司の記憶は、全く別のものである可能性があるのだ。世界の過去が丸ごと改変されてしまっている都合上、映司の記憶を元に話しても会話として成立しないのが道理ではないのか。その割には、映司は真木博士とは正常に会話を交わせているが。ということは、真木博士は改変前の記憶を持っているのか?「時間系能力者である暁美君には、歴史改変への抵抗力がありますよ。その身体の一部を保持している私も、少なからず恩恵に与っています。完璧にとは言えませんが、ね」真木博士の説明によると、どうやら時間停止回避と同じ理屈が適用されたらしい。つまり、暁美ほむらも映司と同様に改変前の記憶を保持していると見て間違いない。ならば、ほむらが不安がっている理由とは……。「ほむらちゃんは……魔女になったまどかちゃんを見たことがあるんだね?」「……ええ」主に、救済の魔女の恐るべき力を知っているからなのだろう。そして映司は、ほむらが絶対に視線を落とさないようにしている対象にも、気付いていた。具体的に言うと、先程から暁美ほむらが、彼女自身の左手に備わった円盾から意図的に視線を外しているように思えた。注視するのとは別の意味で、分かりやすいと言える。映司が衰えた目を凝らしてみると、うっすらと円盾の両脇に和弓のような半透明な物質が見えた。おそらく今のほむらの盾の異常こそが、歴史改変への抵抗力が完璧では無い、と真木博士が言っていた一例なのだろう。魔法少女の武器は原則として固定品であるからして、それが形を変えようとしているということは、願いや因果自体が置き換えられつつあるに違いない。「ほむらちゃんに、頼みがある。俺が死ぬまでで良いから……巻き戻しを、待ってほしいんだ」ほむらは既に時間を巻き戻す用意が出来ているのだろう。本来であれば、ほむらが再度の巻き戻しを行うためには、あと三日のインターバルが必要のはずだ。しかし映司は何となく、ほむらが迷っている理由が能力を使うか否かという二択だと思った。さすがの映司といえど、能力の変質に伴って盾の中の『時の砂』の総量が減った副作用で巻き戻しが出来るようになってしまったという理屈までは、読み切れていない。だが、能力の変質が進み過ぎると逆行魔法の使用自体が不可能になる危険が高まるということぐらいは、容易に想像できた。もっとも、大規模な時間改変が行われてしまった今となっては、ほむらの時間逆行も成功は怪しいという事も考慮に入れているのだろうが。そのうえで……巻き戻すべきかどうか、ほむらは態度を決めかねているに違いない。暁美ほむらがどの程度世界改変の内容を理解しているのか不明瞭ではあるものの、魔女まどかを倒して人間に戻すことが出来ればハッピーエンドであることは分かっているらしい。したがって、ほむらが迷っている最後の内容は……戦力としてのオーズを信じられるのか否か、という事に決まっている。「俺は、命を失う一歩前でまどかちゃんに助けを求めた。求めることが、出来たんだ。自分が生き残るべきだって、思えた。だから……あの最後の魔女と戦っても、絶対に負ける気は無いよ」おそらく、下手に理屈をこねまわしても、暁美ほむらを安心させることは出来ない。この場面で必要なのは、理性による『説得』ではなく感情による『納得』なのだ。紫メダルの力が他の全ての欲望に対して優位に立てるのだということぐらい、ほむらも承知しているハズなわけで。能力の関係を知って尚ほむらが不安に思っているのだから、もはや理屈ではダメだろう。「私は……もう、本当に……巻き戻さなくても良いの……?」本当に、という言い回しも、映司としては気になるところではあった。他の誰かが、巻き戻しを用いないハッピーエンドの導き方でも暁美ほむらに教えたことがあるのだろうか。しかも、その手法は既に失敗した可能性が濃厚である。だが、全ては後回しにすべき些事だった。重要なのは、暁美ほむらが『巻き戻したくない』という思いを根本に秘めてくれていたということなのだ。「……ごめんなさい。一度は貴方のことを犠牲にしようとした私が言うのは、身勝手だけれど……」ほむらの意図ぐらい、映司はワルプルギスの夜との戦闘中に気付いていた。それでも映司は、構わないと思った。誰かを助けて死ぬならそれで良いと、かつて映司は本気で思っていた。だが……それも、映司に大切な物を気付かせてくれる結果を導いた。もちろん人助けも重要だが、映司自身も犠牲になる訳にはいかないと思えるようになったのだ。だからだろうか。映司が暁美ほむらへと怒りを抱くことは、やはり無かった。「まどかを……私の友達を助けてください。仮面ライダー、オーズ」火野映司が鹿目まどかを頼って、鹿目まどかが火野映司を頼った。それ以外にも数えきれない程の人々の想いが、巨大な円環のように繋がっている。そうやって人間同士が繋がって、力を合わせ続ければ。きっと、どんな苦難の中でも何とかなる。映司がまどかから教えられたのは、そういう事だった。「必ず、この手で掴み取ってみせるよ」『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百四十七話:また あした ――俺たちの 私たちのほむらと真木から幾つかの餞別を受け取って、紫のコンボの翼を用いて飛び立ったオーズは、決して振り返らなかった。背後で人間が地面に倒れる音が響いた気がしたが、絶対に地上に目を落とすことは無い。最後の魔女が人間から生命力を吸い取るというのならば、地上の二人に何が起こったのかなど、確認するまでも無かった。それよりも、映司の為すべきことは……鹿目まどかのグリーフシードの奪取だ。映司には、魔女の中のグリーフシードの位置を感知するような都合の良い能力は備わっていない。しかし、体積を東京ドーム単位で換算するのがバカバカしく思えるほど巨大な魔女の身体の中を逐一散策する訳にもいかない。なので、映司は一応の目的地として……頭か腹だろうという目途を立てた。『ゴックン』次の瞬間には、砲撃形態となったメダガブリューが火を噴いた。既に巨大魔女の腹部付近まで飛びあがっていたオーズが、突入のための風穴を魔女の漆黒の体皮へと拵えたのだ。基礎的な出力の桁が違っても、やはり欲望を否定する無の力は救済の魔女に対して有効らしい。さらに、オーズは一寸の迷いもなく孔へと飛び込んだ。瞬く間に闇が押し寄せ、オーズの退路を押し潰していった。絶望で出来た泥のような物体が、紫のオーズを飲み込もうとした。世界そのものを変えた代償としての闇の力をもってすれば、外界からの光を絶つことなど至極容易な所業に違いない。『ゴックン』だが、そんな魔女の巨体を、一筋の紫電が駆け抜ける。メダガブリューを大戦斧形態へと変化させたオーズは……空間斬撃にて、その巨体を切り裂いていた。もちろん、救済の魔女が巨大過ぎるという理由もあり、魔女の胴を両断するほどの攻撃範囲を確保することは出来ない。……ならば、数を重ねれば良い。二撃、三撃、四撃。ひたすらに腕を振るって、オーズはただ魔女を斬り続けた。まるで世界中の怨念を物質化したようなヘドロが、継続的にオーズへと降り注ぐ。恐るべき粘性を持った漆黒は、映司の幾分か退化しているはずの痛覚にさえ、焼けつくような痛みを通した。それでも、オーズは止まらない。押し寄せた闇を振り払って、求めるものを探し続けた。そのたびに、魔女の巨体からは呪いの暗黒が零れ落ちた。刃を重ねに重ね、無の斬撃は絶えず漆黒を切り裂く。「……!」……映司の運が、良い方に傾いたらしい。がむしゃらに放ち続けた空間斬撃の一つの通りが悪かったのを、オーズは見逃さなかった。その方向に魔女の核たるグリーフシードが存在することは、間違いないだろう。『ゴックン』再び砲撃形態へと変化させたメダガブリューに、セルメダルを飲み込ませて。オーズは、一点突破を目論んだ砲撃を仕掛けた。薄く広く切り裂く空間斬撃よりも、一か所に集中させた力のほうが有効打になると踏んだのである。紫の波動は、一陣の閃きとなって闇の中の一点へと襲い掛かる。……が、それで終わるはずもなかった。小さな円盾を構えた黒い影が魔女の核の前に現れ、砲撃を凌いだのだ。漆黒の泥を固めて人間の形を模したそのシルエットに、映司は見覚えがあった。「おっと!」次の瞬間には、別の方角から超音速の弾丸がオーズを貫こうとした。とっさに翼を動かして回避行動をとったオーズは、やはり既視感を抱いていた。この鋭い狙撃を、どこかで見たことがある筈だ。さらに、サーベルを握りしめて突撃を仕掛けてくる影が新たに現れたものの、オーズは振り向きざまにその接近者を両断した。胴より下と泣き別れになった泥人形が、笑った……ように思えた。同時に、オーズの胸に漆黒の闇で出来たサーベルが付きたてられ、焦げ付くような痛みが映司を襲った。「ぐっ……あ……!」とっさに左腕の爪をつかって、泥人形に残された上半身を引き裂く。それでも……オーズに出来たのは敵との距離をとることだけであり、サーベルを握った影は再び元の五体満足な状態へと回復してしまっていて。ようやく、映司は敵達の像を把握することが出来ていた。モノトーンの泥人形は人間の質感を帯びてこそいないものの、その造形は……どこかで見たことのあるものばかりだ。細長い銃器を持った影とサーベルを持った影がオーズへと襲い掛かる隙を窺い、円盾を装備した影は魔女の核を守ったまま動かなかった。戦い方といい、得物といい、3体の影人形たちの振る舞いは……どこかの魔法少女達そのもので。映司は、直感的に理解することが出来た。鹿目まどかの印象に最も強く残った数名の魔法少女達が、魔女の核を守る最後の守護者たちのモチーフとなっているのだろう。……映司は、彼女達の厄介さを知っていた。時間停止の無い暁美ほむらは脇に置くとしても、回復して何度も襲い来る美樹さやかと多彩な技が持ち味の巴マミは、敵に回すと一筋縄ではいかない相手なのである。『スキャニングチャージ』オーズはスキャナーにて再びベルトの紫コアを読み取らせていて。再び剣を構えて突進攻撃を企てたさやかの影を……オーズの肩から伸ばされた黄金の角が、貫く。もちろん、痛みなど感じない影が、その程度の攻撃で止まる訳も無い。依然としてサーベルを振りかざしたまま、影は腹の穴が広がるのも構わずに、オーズへと前進を続けた。だが、ようやくオーズの間際まで接近できた影は……その腕を振り抜くことが出来なかった。さやかの影が叩きつけようとしたサーベルは、オーズの鼻先三寸のところで動きを封じられた。影人形の全身が、オーズの角より伝えられた激烈な冷気によって内側から氷漬けにされてしまっていたのだ。間をおかずに、オーズの背部には紫の鱗に覆われた強靭な尾が具現化されていて。長く伸ばした尾を振るって、オーズは氷漬けの影を打ち据えた。ただし、影を砕いてしまわないように手心を加えながら。なまじさやかの影を砕いてしまうと、また回復して襲ってくる恐れがあるので、こういう手合いは遠くに弾き飛ばして放置するのが一番である。別に、映司の目的はこの影人形たちと戦う事では無いのだ。闇の底へと落ちて消えていくさやかの影に一瞥をくれてやりながら、しかしオーズの意識は既に次の行動へと移っていた。――まず、一体。マミの影が、大量のマスケットを空中に浮かべながら圧倒的な数の暴力を用いた弾幕を創り出したのである。尾を振り回して弾丸を叩き落とすオーズを嘲笑うように、影の放った弾丸は容赦なく紫の鱗を食い破り、オーズの尾を引き千切った。オーズの胸部の円環装甲にも、肩の角にも、区別なく泥の弾丸が突き刺さった。弾幕の合間から……マミの影がティロ・フィナーレのための巨大砲台を創り出しているのが、見えた。と同時に、オーズもまた、メダガブリューを砲撃形態へと変化させていて。しかし、オーズがガブリューの喉へと押し込んだ輝きは……銀色では無かった。迷うことなくオーズは、黄のソウルジェムをメダガブリューへと呑み込ませたのだ。暁美ほむらから授かった、魔法少女たちの形見の一つだった。『ゴックン』「ハァッ!!」砲撃を放ったのは、一瞬だけ影人形の方が早かった。紙一重でかわそうとしたオーズは、闇色の弾丸によって紫の翼を消し飛ばされたが……大した問題では無かった。オーズの翠色の瞳は、既にマミの影へと照準を定め終えていて。メダガブリューから放たれた黄金色の輝きがマミの影を貫いたのは、オーズの遥か後方にて闇色の弾丸が巨大魔女の体皮を突き破るのと同時だった。――これで、二体。紫の翼の片方を失って、オーズは体勢を崩しつつあった。それでも、最も骨の折れる相手であるマミの影を倒せたのなら、損では無い。案の定というべきか、回復を繰り返していたさやかの影とは違って、マミの影は再起する気配を見せなかった。様々な平行世界を目の当たりにした鹿目まどかの印象として、マミは強烈な攻撃をくらうとあっさり死んでしまうというイメージが強かったのかもしれない。映司の掌の中には……既に、次の手があった。失った紫の翼をも凌駕する、切り札が。「最後の力を……俺に貸してくれ! アンクッ!!」いつもの小気味良い音が、三連続で木霊する。ベルトへと三枚セットのメダルをセットする音色は、映司が何よりも聞き慣れた響きで。ただし、そのうち一つだけは、少しばかり大人しかった。二つに割れてしまっているタカのメダルを、無理やりオーズドライバーの溝へと収めたためだ。『タ カ クジャク コンドル』先程の黄金色以上の光輝が、周囲の闇を塗り潰した。降りかかる漆黒の泥を焼き払いながら、虹色に輝く翼を広げて。真紅のオーズ……タジャドルコンボが、その姿を現す。片手にこそ紫の砲を握ったままであったが、立ち上る炎熱をまとった姿は、その全てが光に彩られていた。左腕のスピナーも陽炎のようなゆらめきを放っており、どこか通常のタジャドルコンボよりも大きな力が湧いてくるように思えた。なまじタカのコアメダルに異常が出ているせいで、出力の箍が外れてしまっているのかもしれない。さらに、オーズは二つ目のソウルジェムをガブリューの喉に通して、三体目の影へと急接近を遂げた。瞬く間に、大戦斧へと姿を変えたガブリューをオーズは振るった。ほむらの影が円盾をかざしての防御を試みたようだったが、そんなものは意味が無い。まるで空気を薙ぐように、あっさりとオーズはその腕の刃を振り抜く事が出来た。そして、ほむらの影の後ろに隠れていた四体目の影が繰り出した槍によって、深紅の体躯の中央を貫かれた。「……ッ!」息が、漏れる。考えてみれば、杏子の使いそうな手である。無駄な力は使わずに、相手が油断したところを一突きで仕留めるという、それだけのことだ。案の定、紅のオーズが受けた傷は、明らかに致命的であった。……映司の、読み通りに。刹那、杏子の影の放った槍にて貫かれていた筈のオーズの姿が……虚空へと消えた。元から居なかったかのように、という比喩は不適切だった。事実として、杏子の影に刺し貫かれたオーズなど、初めから居なかったのだ。『ゴックン』呑み込み音が届くよりも早く、紫の魔力に彩られた極大砲撃が杏子の影を死角から消し飛ばした。ほむらの影に斬りかかって杏子の影に打ち取られたオーズは……幻であったのだ。赤いソウルジェムをメダガブリューへと呑ませて、オーズの分身を作り出したうえで、槍使いの影を誘き出すためのフェイントとして使ったのである。杏子の影の死角に突如としてオーズが出現したのは、紫のソウルジェムも密かにメダガブリューに呑み込ませたからだった。――三体目。残った一体の影は、攻撃してくる気配を見せなかった。外敵の排除よりも、あくまで魔女の核を守ることを念頭に置いた存在なのだろう。それが、幾つもの過去と未来を視た鹿目まどかが抱いた、最終的な暁美ほむら像に違いない。……ゆえに、生半可な攻撃では最後の影を突破することは出来ないに決まっている。というか、杏子の影を倒した砲撃にはほむらの影も巻き込まれていた筈なのだが、全くダメージが通っているようには見えなかった。最後の影人形へとオーズが接近するものの、影人形は円盾を構えたまま動かない。オーズがゆっくりと左手を伸ばせば、影人形の構えた円盾に掌を宛がうことができた。それでも尚、ほむらの影は動かない。「大丈夫。ほむらちゃんの友達は、君を泣かせたりしないよ。絶対に」映司の左手のバックラーには、いつの間にか7枚のコアメダルが収まっていた。不思議と、映司自身にはタジャスピナーを操作した記憶が無かったが……現実にスピナーの7つの窪みは全て満たされていたのだ。ひょっとすると、いつだったか初めてタジャドルコンボを使った時のように、映司に認識されない誰かが『手』を貸してくれたのかもしれない。『クジャク コンドル プテラ トリケラ ティラノ プテラ』円環を描いて盾の中を回り始めた赤と紫の光芒を束ねる。もはや、周囲に暗闇など無かった。オーズは溢れんばかりの輝きを撒き散らしながら、ただスピナーへと炎を集め続けた。タジャスピナーを装備した左手を、ほむらの影へとかざしながら。映司は、炎の発射口を開かなかった。高まり過ぎた灼熱によって、内側からスピナーにヒビが広がっていった。目の前の影を消し去るには、どのぐらいの火力を用いれば良いのだろうか。超至近距離からの一撃とはいえ、映司には判断がつかなかった。密着状態からの最大火力を用いれば映司自身もただでは済まないはずだが……なぜだか、映司は死ぬ気がしなかった。ベルトの中にたった一枚だけ残したタカのメダルが、映司のことを守ってくれるように思えたから。「……セイヤァッ!!」最後に世界を覆い尽くした、眩いばかりの光の最中で。映司は、確かに見た。もう居ないはずの『あいつ』が、笑った顔を。……分かったよ。お前は死んじゃったけど、だから、お前の欲しかった物は手に入ったんだって。――知ったような口をききやがって。お前こそ、手に入れたのか。ああ、俺はまどかちゃんに頼ったから生き残れたし……それに、魔法少女のみんなの魔法にも頼って、今もお前に頼れた。こんな簡単なことが、俺が本当に求めていた『世界のどこまでも届く手』だったんだ。――ハッ。そんなことも分からないほどに、お前はバカだったんだ。お前だって、俺のこと言えないだろ?アンクが本当に欲しいものを手に入れる方法に気付いたのだって、昨日とか今日のくせに。……って、どこに行くんだよ、アンク。――分かってんだろ? お前の掴む腕は、もう俺じゃないってことだ。そうかもしれないな。でも、お前の手を掴んだのも、絶対に間違いじゃなかった。だから……俺はお前の腕も、また掴んでみせるよ。俺一人じゃ無理でも、他の誰かの手を借りれば……やれないことなんて、あるわけない。そう、教えてもらったからな。――そうか。そうだなァ。その答え、お前にしては……上出来だ。映司の握りしめた拳の中には……最後の魔女の卵が、二つに割れたコアメダルと共に眠っていた。・今回のNG大賞救済の魔女のもとへ飛び立とうとした映司のもとへ、真木博士と暁美ほむらが駆け付けた!「あれ? 真木博士……? なんだか、博士の服装がおかしいように見えるんですけど……?」「火野君。どうやら、紫のコアメダルの影響で視力が大分弱っているようですね。私は、不自然な服など何も着ていませんよ」そうだよね。まさか全裸でライドベンダー運転して来たりしないよね!・公開プロットシリーズNo.147→未来の、いつかの明日に! 次週、最終回!