真木清人が終の隠れ家として選んだ場所は、薄暗い地下通路であった。人通りも少なく、音が響きやすいために通行人の接近を察知し易い、そんな場所で。自らの腕を紫色の鱗で覆いながら、鋭い爪を顕現させて。真木は、自身の腹を掻っ捌いた。鮮血に紛れて銀色の鈍い輝きが、撒き散らされた。そんな中、腹の内容物は真木に現在の自分自身の完成度を教えてくれていた。すなわち、傷口から毀れるセルメダルの割合から考えて、火野映司との力量差は決して小さくないものだ、と。切り開かれた腹から赤い色が見えるということは、まだ真木が人間に近い生物であるという事象の表れでもあったのだ。真木が完成に近づけば傷口から漏れ出る紅は影を潜めるだろうし、途中からは血の色を見る事すらできなくなるだろうから。そして……真木は、自身の状態を測るためだけに自傷行為に及んだ訳では無かった。さすがの真木といえども、ステータス画面を開くのと同じ感覚で自身の腹を開ける訳では無いのだ。次の瞬間、まるで薬でも飲むような仕草で、真木博士は掌に握り込んでいた鬼札を飲み下した。……百薬にも勝る、究極の生命力を司る未知の物質を、その身体へと取り入れたのだ。すなわち、異世界の江戸の町からもたらされた、橙色のコアメダルを。先日アンクを襲った際に奪い取っていた切り札を、一思いに呑み込んだのである。たちどころに塞がっていく傷口へと、無感動に視線を落としながら。真木は、自身の研究成果の一つを思い出していた。紫のコアメダルは何故持ち主の体力を大幅に消耗させるのか、と。恐竜コアの目指す先が『無』であるのなら、宿主の体力をいたずらに削っては目的から遠ざかってしまうのではないか。……そんな些細な不審点に、真木は光明を見出していた。疑問の答えが、『持ち主のグリード化を促進するため』であるという結論に行き着いたためである。人間の体細胞は常に新陳代謝を繰り返し、傷付いた細胞ほど新しい細胞に置き換わり易くなる。その性質を利用して、紫コアは宿主の細胞を破壊しつつ、新しい細胞に紛れて身体にグリードの成分を割り込ませていくのだ。つまるところ、消耗と回復を繰り返すたびに、宿主はグリードへと近づく。であるからして、真木が自身の腑を晒した理由も、そこにあった。橙メダルによる回復能力をもってすれば、傷は癒える。その性質を利用して……一気に自分自身をグリードとして成長させようというのが、真木の目論みだった。もちろん、一回の自傷行為だけでは、現在の火野映司を超える事は出来ない。……ならば、数をこなせば良いだけの話だ。瞬く間に、地下通路は血の海と化した。肉を裂く音を響かせて、銀貨を撒き散らしながら。その音色の中から、有機的な響きが消えるまで。「この世界に……良き終末を」真木の肩に座る白人形が、血の涙を流した。『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百四十二話:ウヴァ死す自室のベッドの中で、つかの間の休息をとりながら。鹿目まどかは、漠然と今までの出来事を思い起こしていた。その記憶によると……物語の始まりは、やはりキュゥべえに会った一件なのだろうか。偶然飛来したスチール缶から暁美ほむらを庇って、病院に運ばれた先で。まどかは白猫と白兎を足したような地球外生命体と出会い、それを目の前で惨殺されたのだ。下手人がまどか自身であると思い込まされ、強迫観念に追われて、次の日に見つけた小動物の命を助けた。それが、当時掌怪人だったアンクだ。後にも憧憬の魔女の結界やらロストアンク暴走騒動やら、幾多の事件に巻き込まれて。そんな奇天烈なイベント群の中でも鹿目まどかの人生を大きく変えたのが、大親友である美樹さやかの死だった。魔法少女が魔女になるぐらいなら魔法少女で居るうちに死なせた方が良いのではないか、と本気で思ってしまう程に、さやかの存在は大きかったのだ。そして、美樹さやかは奇跡的に助かることとなり、まどかは恩人たるトーリに大見得を切ってしまった。――トーリちゃんも信じて。もしいつかトーリちゃんがおかしくなっても、トーリちゃんを元に戻してくれる人は絶対に居るって。もし誰も居なかったら、私がなる。約束するよ。見栄を張ったこと自体は問題では無い。というか、まどかにとってもトーリは普通に友人なので、奴を助けるという方針自体は間違っていない筈だ。問題は……そのための手段を、全く考えつけないということなのである。一番安直なのは、キュゥべえへの願いを使ってトーリを人間にでも変えてしまうことだろう。だが、トーリを人間にする代わりに鹿目まどかが人間を辞めるのも、何かが違うように思えた。――分かったんだ。誰かの幸せを願った分、誰かを呪わずには居られない、って。さやかが、身をもって教訓を示してくれたのだ。自分の身を犠牲にして誰かを助けても、負の連鎖に陥る可能性がある、と。つまり、鹿目まどか自身を犠牲にせずに、トーリを正気に戻す手立てを考えなければならない。であるからして、安易にキュゥべえに頼るのは間違いである。「やぁ、鹿目まどか。僕と契約して魔法少女になってくれる決心はついたかい?」……もちろん、いつの間にか部屋の中に上がり込んだ珍獣の言うことも、特に気にしなくて良いだろう。思考を戻すと、まどかにはトーリを正気に戻すための手段が必要なのである。もし鹿目まどかがオーズに変身出来たりすれば、物理的説得によって簡単にトーリを説き伏せる事が可能なのだろうが、現実はそう甘くないのだ。後藤さんがバースを手に入れた際のような拳を交えた話し合いも、やはりまどかには難しそうだった。ましてや、マミさんのように銃口を向けてOHANASHIできる訳でもない。……この街には肉体言語話者が多すぎやしないだろうか。まぁ、まどかも魔法少女になれば戦闘能力を得るだろうから、魔法(物理)を用いた対話をすることも出来るようになるだろう。その場合、魔法少女になるために必要な『願い』は、やはり自分自身のためのものであった方が良い筈だ。飽く迄、鹿目まどかが願いを叶えて魔法少女になったついでにトーリを助ける、という方向が正しいように思えた。「ねぇ、アンクちゃんはどう思う?」「自分の力が足りないなら、他の奴を利用すれば良いだろ」「自分の腕に話しかける子は割と居たけど、明確に会話が出来ているのは君が初めてだよ」そういえば、アンクは使えるものは使う主義だった。グリードであるにもかかわらずオーズと手を組むぐらいには、アンクは何でもアリなのだ。確かに、トーリがおかしくなったら、マミさんや杏子は戦力として心強い味方となってくれることだろう。――もし誰も居なかったら、私がなる。約束するよ。……ところが、まどかはあの場の雰囲気に流されて余計な一言を口走ったような気がする。あんな大口を叩いてしまったというのに結局他力本願では、何とも情けない。それならキュゥべえを利用するのマズいんじゃないかという気もするが、そこは『契約』だから問題無い。キュゥべえにも得がある『取引』ならばセーフだろう。たぶん。「キュゥべえ。もし私が『過去・現在・未来の全ての魔女とグリードをこの手で人間に戻したい』ぐらい欲張っても、願いって叶う?」「それは……いくら君が規格外な素質を持っていたとしても、さすがに無理だと思うよ」「そもそも、未来の自分も対象にしてる時点で、どの道お前自身の存在が無くなる問題は残るだろうが」無理らしい。というか、トーリが行った魔女の蘇生法的に考えて、魔女を人間に戻すために消費されるエネルギーはバカにならない。どう考えても、『全ての魔女をこの手で倒したい』以上の因果の力が必要である。そして、アンクの見立てでは結局自己矛盾によって鹿目まどかは存在を失う可能性が高いらしい。『倒す』というキーワードを意図的に抜いてみたのだが、結局無限ループへの突入が回避できないのだろう。X=魔女まどかを人間に戻すためには、魔法少女まどかが相応の力を消費しなければならない。Y=魔法少女まどかが力を消費する分だけ、魔女まどかは強化される。この二つの堂々巡りが起こってしまい、結果として矛盾を解消するために鹿目まどかという存在自体が無かった事にされると推測できる。「……気になっていたんだけど、鹿目まどか。君は、自分自身の思考で存在の崩壊という結論にいきついたのかい?」「お前は黙ってろ。鬱陶しい」思考の過程も結果も堂々巡りというドツボに嵌っていたまどかに、意外にもキュゥべえの方から質問がかかっていたりして。しかも、微妙に回答に困る問いだったりする。鹿目まどかには、因果崩壊という結論を誰かから教わった記憶は無いのだ。――未来の自分自身を倒す願いとなれば、その矛盾から人としての存在を保てなくなりますからね。確かに真木博士に確認はとったものの、その時には既に自分自身の消滅についても見当が及んでいたように思う。ところが、キュゥべえの聞きたいことも、もっともだった。「君ぐらいの年の子供が因果律についてそこまで理解を深めているのは、有り得ないとは言わないけれど、不自然だ。でも、僕の監視した限りでは、君にそれらしい入れ知恵をした人間は居なかった」「はッ……知ってるか。人間の言葉では、お前みたいなのを『ストーカー』って呼ぶ」おそらく、キュゥべえ側の予想としては、犯人の第一候補はアンクなのだろう。他人に聞かれない体内会話を使って、鹿目まどかを教え導いたのではないか、と疑われているに違いない。しかし、当の鹿目まどかには、そんな記憶は無かった。というか、つい最近までアンクにも、自らの『願い』を教えてさえいなかったぐらいである。ならば、一体どうやって鹿目まどかは因果崩壊の未来を悟ったのであったか?「……言われてみれば、何でだろう? アンクちゃんは、私の記憶を見た時に何か怪しいモノ見つけた?」「お前の記憶の中で一番怪しい物体は、間違いなく目の前に居るその白饅頭だ」「こういう時、人間達は『お前が言うな』って言うんだよね。ワケが解らないけど」マスコットの座をかけて、くだらない戦いが始まっている気がしないでも無い。人造人間と宇宙人なんて、目糞鼻糞も良いトコロだった。ホムンクルスとエイリアンと言い換えれば、更に胡散臭いことこの上ない。グリードとキュゥべえの交差点であった自称記憶喪失な蝙蝠娘も、それなりの成績を残していた模様である。奴をサラブレッドと見るか雑種と見るかは、意見が分かれるところだろうが。尚、キュゥべえとグリードの良いところ取りをしようとすると、最盛期のカザリのような簡易悲劇製造機が生まれるのだろう。おそらく。「ほむらちゃんが時間を巻き戻してるって聞いたけど、その影響で私の頭に未来の知識が入って来てるってことは無い?」「初めからお前が存在しなかった世界に一度でもなったなら、いくら時間を巻き戻してもお前は存在出来る訳が無い」「暁美ほむらが無意識に漏らした通信魔法を傍受するぐらいなら有り得なくも無いけど、彼女でさえ見た事が無い情報を受信するのは難しいだろうね」珍しく、アンクとキュゥべえの意見が一致していたりして。それだけ、まどかの立てた想像が的外れだったという事なのだろう。かと言って、何か代わりの仮説が立つ訳でも無いのが困りどころである。まさか、誰かに記憶を隠蔽されている訳でもあるまい。ある意味ではこの世界の全員が暁美ほむらによって記憶を隠蔽されているとも言えるが。「そういえば、キュゥべえと初めて会った日の夜に、変な夢を見たような気がする。あんまりはっきり覚えてないけど、私が消えた後の世界を覗いて見てる、みたいな……」白い宇宙人が鹿目まどかの掌の上で惨殺死体になった日の夜。鹿目まどかは……悪夢に苛まれた。人外と化した自分自身が嬉々として魔法少女を殺し続ける、そんな夢だったように思う。今思うと、その夢を見た辺りから、漠然と願いに関する鹿目まどかのスタイルが固まり始めたような気がしてくる。「人間の夢は、脳内情報の整理機能の一部だから、一時的にそれぐらいの発想力を見せても不自然とまでは言えないね」結局、微妙に釈然としないものの、それ以上の推論も立てられずに。いつしか眠りに落ちて行った鹿目まどかは、思いもしなかった。まさか、日も落ち切らないうちに安眠が打ち破られることなんて。戌の刻を回った頃。それは、既に脅威を露わにしていた。風は荒れ、山は啼き喚いた。雲が集い、波は怒り狂った。闇夜に響いた拡声器ごしの音響が、町中に非常事態を宣告していた。本日の日没頃より突如として観測された異常気象は、見滝原市の気象観測施設によってスーパーセルだと認定されたのだ。付近の住人には避難が勧告され、人間達はただ避難所にて天災が過ぎるのを待つ他無い。……だが、避難など毛頭考えていない異形もまた、確かにこの世界には存在した。ざぶん、なんてお約束な音を立てながら東京湾より陸地に上がったグリードが、一体。海水に濡らした翠の身体を鮮やかに輝かせながら、昆虫の王が首都へと再来していた。いわずもがな、最強のグリード(自称)のウヴァさんである。「……ここまで来れば、もう安心だ!」大分上陸に時間がかかったようにも思われるかもしれないが、それも致し方ないことであった。突如として現れたワルプルギスの夜の影響で暴風が発生したため、ウヴァの遠泳は困難を極めたのだ。当然のように襲い来る高波の前には、流石の完全態グリードといえど進路を見定めることが難しかったという理由があった。決して、無計画に泳ぎながら同じところをグルグルと回っていたりした訳では無いのである。断じて無い。北の方向を示す7つの星を使って進路を確認しながら泳いでいたのに、天候が変わったせいで目印を失ってしまい、少し手こずっただけなのだ。その後に幸運にも灯台の光を見つけることが出来たため、何とか上陸できたという訳だった。なぜかウヴァが陸地に上がる直前に灯台の光が消えてしまったが、電球でも切れたのだろうか。そんな中、ウヴァは自身の周囲に広がった不自然さに気づきつつあった。海が荒れていたのと関係があるのかは不明だが、どうにも付近に生物の気配が全く無いのだ。……おかしい。静かすぎるぞ。周囲に注意を向けると、ウヴァの視界は細長いシルエットを捉えていた。こんな時間に誰かいるようだ。半日ぶりにようやく陸地に上がったウヴァを待ち構えていたのは……「ドクター……なぜこんなところに居る?」一体の、紫色の怪物だった。哺乳類の体温を感じさせない冷たいウロコで身体を覆った一体の異形が、ただ立っていたのである。ウヴァとしては、真木の計画を知っているため、既に真木を仲間だと認識してはいなかった。残りのグリードがウヴァとアンクしか居ないのならば、真木はウヴァを暴走態の器に選ぶつもりに違いない。しかし、ここで『ここがお前の墓場だァーッ!』などと叫んで襲い掛かろうものなら、手痛い反撃をくらう事は目に見えていた。全身を紫のグリードの姿に変えてしまっている真木は、おそらくグリードの完全態と同等以上の力をもっているだろう。奴がこんなに大きな力を持っていたとは……早く他のグリードに知らせなければ!「簡単なことです。『無力』の魔女の襲来が近づいていると聞きましてね。『無』のメダルの力を活性化させて、あれを早めに呼び寄せました」真木博士が『あれ』と呼ぶものの詳細を、ウヴァは知らない。だが、グリードの愚鈍な感覚器官をもってしても、その脅威を察知する事はできた。遠く、見滝原市の上空に浮かんだ巨大なヒトガタは、世の中の理不尽を体現したような規模の魔女で。天から吊り下げられた愚者は、暴風と雷雨を引き連れて、文明の産物を打ち砕き続けていた。「その割には、あの場所から魔女が動こうとしないようだぞ? 何か失敗したんじゃないのか?」「おそらく、あの巨大魔女の直下で火野君が紫のメダルの力を使い始めたのでしょう。途中から、魔女の関心を完全にあちらに持っていかれてしまいました」ウヴァは、感覚的に理解していた。真木はオーズと同等以上に紫の力に馴染んでいる、と。推測するに、巨大魔女が火野映司の方へとヘイトを稼がれているのは、ひとえに魔女との距離の問題だろう。オーズと巨大魔女の距離のほうが、真木と巨大魔女の距離に比べて小さいからに違いない。にもかかわらず、真木はワルプルギスの夜を放置している。それはつまり……ワルプルギスの夜が多少真木の誘導を外れてしまったという悪状況に甘んじてでも、真木には遂行すべき目的があるという事なわけで。ウヴァが上陸する現場に真木が待っていたという状況は……すべてをウヴァに理解させるに、充分すぎた。「……ウヴァ君」「と、ところで、ドクター! 俺は海底に忘れ物をしたんだ。先にオーズのところに行っていてくれないか?」ドクターが、ウヴァへと一歩を踏み出した。静かな圧力の前に……ウヴァは、思わず後ずさってしまっていて。俺に構わず先に行け、と格好良く言い放ったウヴァの台詞に従う気配など、真木は微塵も見せなかった。先に行けよ……心配しなくても、すぐに追いついてやるからさ……。なんなら、ドクターが先に行ってオーズを倒してしまっても構わん!「君に」「そうだ、すぐそこで物音がしたんだ! 少し様子を見てくる!」何とか真木から離れようとしたウヴァは……而してそれが不可能であることに、ようやく気付いていた。じりじりと距離を詰めるドクターを前に、ウヴァは完全に呑み込まれてしまっていたのだ。もはや自分自身に退路が無い事を、ウヴァはこの時になって初めて悟った。……背を向けて逃げ出せば、その瞬間にやられる。言われずとも、そう分かった。こんな化物と一緒の土地に居られるか! 俺は海中に戻るぞッ!!もし陸地に帰ってくる事があったら土産話を持って来てやるから、待っていてくれ!「良き終わりが訪れんことを」「やめてくれ……ッ! 俺は、嫌だァァァァッ!!!」直後、真木の腕から放たれた数多の輝きが……ウヴァに襲い掛かった。赤、黄、青、灰、橙。20枚にも近い数の光芒は次々とウヴァの身体へと吸い込まれていって。まるで身体をばらばらのセルメダルへと吹き崩すような剥き出しの暴力が、内側から襲い来た。ウヴァは、身体の中に荒れ狂う指向性の無い力によって、息を吐く間もなく食いつくされていった。800年の昔に錬金術師が生み出した、欲望の輝石が。ウヴァという器を食い破って、その真価を発揮しようとしていた。瞬く間に、ウヴァは自身の身体が四肢を失ったのを感じ取っていた。元々鈍かった身体感覚はさらに衰え、辛うじて自分自身の身体が空高く浮かび上がっていることだけが分かった。その姿は……すでに生物の意匠を帯びた怪人ですらなく、ただ幾何学的な八面体となっていた。巨大魔女に匹敵するほどの巨体に成長した外見とは裏腹に、ウヴァの意識は限りなく希薄になってしまっていて。数秒の後、それは完全に『物』になった。周囲の物体を無機有機にかかわらず欲望の結晶たるセルメダルへ還してしまう、その終末兵器は。先程までウヴァだったものの、末路だった。「光栄に思う事です。この世界に良き終末をもたらす、担い手となることを」・今回のNG大賞――俺は誰なんだ? ――とウヴァは思った。真木は、ウヴァに更なるコアメダルを投げ込んだ。なんの痛みも感じなかった。――これは俺じゃない――八面体の姿にされているせいで、咳をすることも出来ない。ぼろぼろと、ゴミのように屑ヤミーが地表に零れ落ちていく。……以下略。・公開プロットシリーズNo.142→あの日見た巨大魔女の名前をウヴァさんはまだ知らない。