「……で、素直に交換に応じちまったワケか」真木博士が立ち去ってしばらくの後に。意識を取り戻した女子3名に施された説明は、そんなところだった。そして、マミ達の話したこれまでの経緯を耳にしてもっとも顔色を青くしたのは……蝙蝠ヤミーだったりする。トーリ等が3人がかりで戦っても真木グリードは倒せなかったというのに、その真木は映司グリードに現状では勝てないと踏んだらしいのだ。というか、そうでなくとも、映司グリードは色々と魔改造済みのカザリを倒した存在なのである。ぶっちゃけると、ウヴァさんがヤバい。既にグリードが3体も倒されているというのだから、今更ウヴァが完全態になったとしても、人間に勝てる見込みは無い。しかも、映司グリードはまだ進化の先がある可能性が濃厚であった。幸いにしてトーリの正体はまだ人間勢に知れ渡っていないらしいのだが……果たして、その要素がどれだけ今後の展望に繋がるというのか。一応、トーリにとってもう一つ幸運だと言えるのは……何となく周囲の視線が、トーリでも杏子でもなく鹿目まどかの方へと集まっていることだろう。おそらく、人間達が聞きたい事は一つに集約される筈だ。すなわち、鹿目まどかの体内にまだアンクは居るのか、と。周囲から注意が集まっている事に自覚的らしい鹿目まどか様は、どことなく居心地が悪そうに思えた。「まどかちゃん。アンクは……どうなったのか、聞かせてもらっても良いかな」であるからして、口火を切ったのが火野映司であったのは、何よりも自然な流れだったのだろう。誰も先陣を切りたがらないからこそ、この男は先頭を走ってしまうのである。まぁ、誰かが尋ねなければ話が始まらないのだから、必要な役には違いないが。「アンクちゃんは、真木博士に負けて、赤いメダルも沢山取られて……今は私の中で休んでます」鹿目まどかの意識が表に出ているという事は、アンクの負ったダメージがそれなりに大きかったからなのだろうか。だが、まどかの言葉を聞いた誰もが疑問に思っていた。何故鹿目まどかは未だに体内にアンクを飼い続けているのか、と。いずれアンクが回復すれば、再び鹿目まどかの身体は制御を奪われる危険は大きい。にもかかわらず、宿主様の説明によれば、まだアンクは鹿目まどかの身体の中に納まっているという事なのだ。……情報の整理が、必要なのかもしれない。「そもそも、どうしてアンクさんと博士さんが戦っていたんですか?」「ああ、アタシもそれは気になってたな」とりあえず、トーリが口火を切って疑問を差し込んでみた。今まで気にする余裕も無かったが、元はといえば杏子とトーリは、真木とアンクの戦いに巻き込まれたのである。しかし、それぞれの目的のために手を組んでいた筈の彼らが、一体なぜ袂を分かつこととなったのか。少し長くなっちゃいます、なんて前置きをしながら。鹿目まどかの口からは……人間達の知りえなかった情報が、あふれ出していた。ウヴァが復活したなんて聞いても、この場の面々の半数近くはウヴァさんの名前さえ知らなかったが。真木博士の目的は、完全態のグリードに他色のコアを取り込ませて、出来上がった暴走態を使って世界を無に帰すことで。そのためには完全態グリード一体を残して残りの個体からコアメダルを回収する必要があった。ところが、真木が一度にその作業を敢行しようとすれば、一部のグリードには逃亡を許してしまうかもしれない。そうなれば、真木の目的は達せられない。なので、真木は隠し持っていたコアメダルを小分けに表舞台へ出す事によって、メズールやカザリを完全態にしてやった。……人間達にグリードを始末させるために。さらに、グリードの完全態を連続して人間勢と戦わせる事によって、真木には複数のメリットが発生する。まず一つ目は、単純に人間側の疲弊である。恐竜コアによるグリード化が残されている映司はともかくとして、バースや魔法少女のスタミナは無限ではない。おそらく真木の初期プランでは、今夜コアメダルを回収する際に、そのまま人間勢をまとめて始末する手筈だったのではないだろうか。映司が紫コアとの同調率を高めたことが、結果的に吉とでたという事である。さすがに、カザリがキュゥべえを取り込む事は真木にとっても想定外だったのだろう。二つ目の利点は、残ったグリードに逃げ出す隙を与えないことだった。カザリやアンクは、残りのグリードが2体になった時点で真木に見切りをつけて逃げ出すぐらいの知能は持っている。であるからして真木には、グリードの数が残り2体になるタイミングを、生き残ったグリードに感知させないための工夫が必要だったのだ。そのために有用であったのがカザリの結界であり、結界を張って戦ったカザリの気配はアンクからは感知されなかった。その結果としてアンクは真木からの奇襲を許してしまい、コアの殆どを奪われてしまったという訳である。「まぁ、小難しい話は置いといてさ。そのアンクってのを身体の外に出せるか? 出せるなら、とっとと倒しちゃおうよ」そんな中……誰よりも先にアンクの扱いについて提案を示したのは、杏子であった。この場の面々において最もアンクとの付き合いが短い杏子だからこそ、さっさと言いのけることが出来たのである。そして、杏子の言葉を聞いて一番顔を蒼くしているのは……やっぱり、蝙蝠ヤミーだったりする。何といっても、アンクにはトーリの正体がバレているのである。鹿目まどかがトーリの正体を口外しない理由も気になるところだが、それは脇に置いておくとして。性格の悪いアンクならば、倒される間際にトーリの正体を暴露して道連れを増やすなんて事を仕出かしても、なんら不思議では無い。だが、トーリにはアンクを庇いだてする術が何も思いつかない。「そう、よね。アンクが人間に牙をむいたのは事実だもの……」マミさんも、心残りが無いわけでは無いようだが、割り切りは終えているらしい。何も言わない映司も、アンクを始末する事に抵抗は感じているのだろうが、『やる』か『やらない』かで言ったら『殺る』人間である事は間違いが無い。「それは、違うんです! 悪いのはアンクちゃんじゃなくて……全部私なんです!」……ところが、助け舟は思わぬ場所から飛び出ることとなった。まさか、人質が誘拐犯を庇うなどという事が有り得るのだろうか。案の定、マミや杏子も驚愕に顔を染めている様子が、トーリからは見て取れた。「鹿目……ストックホルム症候群という言葉があるんだ。お前は、過度の緊張によって、誘拐犯に同情してしまっている状態なんじゃないのか」そんな中、驚きながらも真顔で華麗なマジレスをかます後藤さんは一味違った。もちろん、後藤なりに鹿目まどかの精神を案じた結果としての言葉なのだろうが。この場でアンクを殺されると色々面倒事が生じるトーリとしては、後藤は余計な事を言うなよ、と思わずには居られない。「もしかしたら、って思ってたけど……。もしかしてアンクの力が戻る前から、まどかちゃんは真木博士に興味を持ってたんじゃない?」すると、映司までもが意味の不鮮明な事を言い出した。いわゆる、「お前は何を言っているんだ」というヤツである。というか、内容的にも不自然だった。そもそもトーリとしては、鹿目まどかと真木清人の間には接点が無いように思える。せいぜい、真木博士の宣戦布告映像を、伊達明の病室で見たことぐらいだろう。「……そこまで、バレてたんですね」……が、鹿目まどかの返答内容は、肯定以外のなにものでも無かった。おそらく、鹿目まどかと火野映司の両名の間では、今のやりとりは一連の会話として成立しているのだろう。傍から聞いているトーリからは、そうは思えないが。案の定、マミや杏子に加えて後藤さんも、顔を見合わせている様子であった。ならば、トーリが解説を要求したとしても、白い目で見られる事は無い筈だ。……たぶん。「……すみません。出来れば今の話を、ワタシでも理解出来るようにお願いします」『その欲望を開放して魔法少女になってよ』第百三十七話:獅子身中の蟲そもそもの話の発端はガラの一件の最中だった、とは鹿目まどかの言であった。真木博士の使いであるバッタのカンドロイドが、連絡役としてアンクの元へと派遣されてきたのだ。その時には、事件からのアンクの撤退が推奨されただけに過ぎなかった。しかし、その三日ほど後に……人知れず、再度の使いがアンクと鹿目まどかの元へと現れたのだという。おそらく、トーリがグリーフシードから能力を引き出す実験をしていた日だろう。さやかが一度カザリに殺された日であり、呉キリカが死んだ翌日であって、人魚の魔女が倒された夜の前日である。夜分遅くに鹿目宅へと現れた真木のカンドロイドは、アンクが人間と手を切る時のために、幾つかの助言を残していったらしい。おそらく、鹿目まどかにも聞かれてしまう事を承知のうえで、アンクへと言葉を伝えに来たのだろう。その助言の一つとして、暁美ほむらの能力の破り方も含まれていたのだそうだ。すなわち、暁美ほむらの身体の一部を手に入れれば時間停止の影響を受けない、と。「んん? それっておかしくねーか?」……そんな中、最初に説明に突っ込みを入れたのは佐倉杏子であった。トーリとしては、「アンクが時間停止を知らないのではないか」という説を過去に提唱したことがあるため、それを指摘されるのではないかと背筋を冷やしていたりするが。「確かに、変よね。アンクが時間停止の魔法に気付いていたとして……一体いつ、暁美さんの身体の一部を手に入れたのかしら?」……矛盾である。言われてみると、その通りだった。アンクが時間停止魔法の存在を知っていたのならば、人間を裏切る前にアンクがほむらの一部を入手するのは当然だと言える。ところが、アンクがほむらの毛髪を入手するのは不可能なのである。アンクが鹿目まどかの身体を優先的に操作できるようになったのは、人魚の魔女の一件の後なのだ。つまり、力を取り戻す以前のアンクは鹿目まどかによって監視されている筈であり、暁美ほむらの毛髪を手に入れる機会など無かったに違いない。つまり、どういうことなのか?「さっぱり、ワケが解らないです……」トーリがざっと見たところによると、後藤も解らない組らしい。なんとなく、映司だけは理解できているように思えるが。したがって、トーリに出来る事は話の先を促すことぐらいである。しかし、まさかその先は想像できなかった。「私が、ほむらちゃんの髪の毛を抜いたんです」……一同の脳内に駆け巡った驚愕は、一通りのものでは無かった。ある者は高岩成二という男に匹敵するような二度見を行い、別の者は目を見開くという芸の無いリアクションを見せていて。もしお茶会の途中だったら、ティーカップを落としたり紅茶を噴き出したりする愉快な人員が居たことだろう。なんというべきか。番組を見ていたら主人公の正体が大ショッカーの大首領である事が明かされた時の、視聴者の気分である。もしくは、「それも私だ」的な。確かに、鹿目まどかに阻止される限りにおいて、アンクは暁美ほむらの毛髪を手に入れられない。加えて、鹿目まどかが暁美ほむらの毛髪を抜き取るのは不可能では無い。だが、何故まどかがほむらを裏切るような事をしたのか。幸いにして暁美ほむらはこの場に居ないものの、当人が知れば何を言うやらである。「ええと、世界を終わらせたい真木博士っていう人の事がどうしても気になって……私も一緒に真木博士の所に行きたいって、アンクちゃんにお願いしたんです」ほむらさんが聞いたら卒倒しそうな発言であった。下手をすれば、ヤンデレにジョブチェンジして、まどかの監禁を始めるのではないかというレベルである。「……つまり、アンクが真木博士の側についたのは鹿目からアンクへの提案であって、アンクに罪は無い、という事か?」「そう、です」後藤の要約によって、ようやくトーリの頭も追い付いていたりして。まさか、である。裏切り者はアンクではなく、鹿目まどかであったということか。トーリとしては、何となく鹿目まどかは「良い人」の典型例のような人物だと思っていたのだが、これには流石に驚かざるを得ない。「アタシ達に炎を浴びせたのは、さすがにシャレにならねーだろ……?」「それは私も思ったんだけど……アンクちゃんが『映司の奴なら死んでも防ぐだろ』って言うから、つい……。ごめんなさい」たしかに、アンクが裏切り際に人間達へ放った炎は、冗談では済まない威力を持っていた。それこそ、戦闘能力を失った美樹さやかならば致命傷を受ける程度には。しかし、小さな頭を下げて謝っている鹿目まどかの姿を目の当たりにすれば、これ以上糾弾しようと思える人間が居ないのも確かであった。というか、鹿目まどかの決死の潜入捜査によって、人間達が入手できる筈も無い情報を手に入れられたのも事実なのだ。もちろん、結果が良ければ全て良しという訳でも無いが。「……そこは実際に火野さんが防げた訳だから、置いておきましょう。でも、今後に差し迫った問題は消えていないわよね?」もっとも、現状一番の問題であるアンクの処遇は、別の話である。今回の裏切り事件においては、アンクの動向は鹿目まどかの依頼によるものであった。だが、今後アンクがグリードとして世界を喰らう事を目指すのならば、問題は目と鼻の先に居座ったままである。すなわち、「今は真木博士の攻撃で弱っているけれど、アンクが力を取り戻したら、また鹿目さんの制御を外れるんでしょう? その可能性が高いなら、アンクはこの場で対処した方が良いわ」アンクが鹿目まどかの身体を自由に出来るという点である。というよりも、鹿目まどかのアンクに対する制御が完璧では無い点、というべきか。ともかくとして、アンクに鹿目まどかによる束縛が効かないとなれば、結局アンクを倒すしか無いのだ。身体全体を怪人態に戻せるアンクは自らヤミーを生み出せるまでに回復している筈であり、そうなればアンクがオーズと手を組む理由も無いのである。「実は……アンクちゃんは、私を支配なんて出来てないんです。力が凄くたくさん戻ったのは本当なんですけど……」……なんと?確かに、鹿目まどかが真木博士と言葉を交わしたという事は、まどかの人格が表面に出る機会はあったのだろう。だが、まさかアンクが身体の操作権限を奪えていなかったとは、トーリは考えもしなかった。言われてみれば、人間を裏切った後もアンクがヤミーを作らないのは、不自然ではあったのだ。それも、実権を握っている鹿目まどかが認めなかったからなのだろう。出演の機会を永遠に失った鳥ヤミー達が平行世界から怨嗟の念を送ってきているような気がするのは、多分気のせいである。「という事は、アンクさんを倒さなくても大丈夫ってことですよね」そして、ここまで来ればトーリも一安心である。アンクが始末される心配が無くなれば、トーリの正体をバラされる危険も目減りするのだからして。その結論に納得している面々の様子を見れば、胸を撫で下ろす思いであった。『……ねぇ、トーリさん』『何でしょう?』ところが、トーリへと個人的に繋がった念話に、少しだけドキリとさせられたりして。何の脈絡も無くトーリへとメッセージを送って来たのは……頼りになる魔法少女の先輩様に他ならない。映司や後藤によって危険な行動を嗜められている鹿目まどかの様子をよそに、マミはトーリに言いたい事があるらしい。……心当たりとしては、トーリが持っていた筈の灰色メダルがいつの間にかガメルの手に渡っていた事あたりが、突っ込まれると面倒臭い事象の筆頭である。『火野さんの様子って……おかしいと思わない?』もっとも、トーリの懸念はてんで的外れだった訳だが。どうやらマミさんは、火野映司の様子に違和感を抱いている模様である。しかし、トーリが思い起こせる限りの記憶では、映司の反応に不審な点は見当たらなかった筈だ。鹿目まどかの衝撃発言にも動揺を見せず、平常運行であったように思える。『特に驚いても居ませんし、どこか不自然でしたっけ……?』『ここまで徹底して驚かない事が、逆に人間として不自然なのよ。相手の事情を察する能力が高いという事なんだけれど、火野さんの場合はちょっと行きすぎを感じない?』……平常運行の映司が、既に人間としておかしいということか。確かに、トーリが事態をどんなに奇天烈だと思っても、映司はあまり驚かない。鹿目まどかが危険を冒して敵地に潜入したなんて衝撃の事実を聞かされても、映司は優しく鹿目まどかを諭してやるに留まっているぐらいだ。それどころか、呉キリカが自身の手足をかなぐり捨てた時だって、映司は目に見えるほどには動揺していなかったように思える。『まるで機械仕掛けの神様みたいに、察しが良すぎるのよ。それに、今回のグリード化の一件でも思ったの。火野さんが本当に人間離れしてるのは肉体の方じゃなくて、むしろ精神性の方なんじゃないか、って』巴マミの呈した疑問は……トーリにとっても他人事では無かった。タダでさえグリード陣営にとっての脅威である映司が、肉体的な力以外にも超人的な精神を持っているとなれば、本格的にグリード組に勝機は無い。しかし、だからといってトーリに何が出来るのだろう。紫メダルの力を捨てるように説得したとして、成功するとも思えない。かといって、紫メダルを用いずにグリードを倒す新たな方法を提唱しようものならば、グリードの首を絞めることにも成りかねない。ついでに言うと、そんな新手段を提唱できる程トーリは聡明では無い。……既に、詰んでいる気配が濃厚だった。というか、現状でグリード組の戦力はウヴァさんと真木博士だけであり、真木博士は現状では映司に勝てない事を宣言してしまっている。もしかしたら、紫のメダルを取り込んでいる真木博士が今後に映司より強くなるのかもしれないが。『たしかに、映司さんが人間の範疇から外れて行ってしまうのは、何だか嫌な物がありますね……』『でも、火野さんの力以外にグリードの完全態に対抗する手段が無いから、正面切って火野さんを止める方法が無いのよね……。何か、思いつかない?』そう言われても、頭脳労働適正に欠けるトーリとしては、何が何やらである。火野映司の行動を阻めば人類が滅びるのだから、人間勢は何をさしおいても映司を戦わせる他無い。しかし、その過程で映司が人間離れしていく事を、マミは良しとしないという事だ。つまり、映司にコアを砕かせる作戦の代替となる案が求められていると言える。ちなみに、マミが杏子では無くトーリに相談を持ちかけた理由は……おそらく、杏子と映司の関係が薄いからだろう。映司が自身の意思でグリード化を選ぶというのならば、杏子は率先して映司を止めるモチベーションを持っていないだろう、という判断からに違いない。『いっそのこと、映司さんの負担を軽減するために、緑のグリードを戦力として人間側に引き入れてしまうのはどうでしょう? グリード側も積極的に暴走したいとは思わないでしょうから、乗ってくるかもしれませんよ?』……が、一応トーリの伏せられた正体は蝙蝠ヤミーな訳で。とりあえず、ウヴァさんが生き残る確率がもっとも高そうな提案を示してみた。というか、他のルートだとウヴァさんの死亡フラグがマッハ過ぎる。真木博士とグリードの同盟を維持すれば、ウヴァさんはいずれメダルの器として暴走させられてしまうだろう。かといって、ウヴァさんが我武者羅にオーズに殴りかかっても、虫けらのように屠られてしまうこと請け合いである。どのみち、人間に協力して真木博士を追い詰めつつ土壇場で裏切ってオーズもろとも真木を倒すぐらいの一発逆転を狙わなければ、ウヴァに勝利の目は無いのだ。なおその場合、アンクや魔法少女勢はどさくさに紛れて死ぬ、という希望的観測が期待される。そこまでしても、映司達に作戦を見切られて返り討ちにされる気配が濃厚な辺り、やっぱり詰んでいる気がしないでも無い。『……トーリさんの思考の柔軟性って、たまに凄いと思う事があるわね。確かに、完全に有り得ない作戦とも言い切れないけれど』マミさんも、姿を見た事も無いグリードを信じるのは大分不安らしい。どうもカザリやアンクのせいで、グリードは狡猾で悪賢いというイメージが強いのだろう。グリードの中にはガメルやウヴァのように素直な個体も居るというのに、風評被害も甚だしいところである。まぁ、それでもマミに然程選択肢が残っている訳でも無いのだ。映司を助けるためなら已む無し、とも思ってくれるかもしれない。どうせなら、その時不思議な事が起こったレベルの奇跡が発生してくれても良いのに。例えば、人間態ウヴァさんの爽やかなイケメンスマイルによってマミさんがニコポされるとか。……現実逃避である。ともかくとして、トーリの方針は固まりつつあった。というか、真木邸に居るであろうウヴァさんを放置する選択肢は存在しないのだ。真木博士の帰宅次第、ウヴァさんがそのまま暴走態の器にされてしまう危険が高いためである。なので、ウヴァさんには『偶然映司達の近くを通り掛かって』もらえばいいのだ。もちろん、トーリがグリードと手を組む提案をした後に都合よくウヴァさんが通りかかるのも、不自然なのは間違いない。しかし、ウヴァさんの命運が懸かっているのだから、トーリにも選択肢は残っていないのだ。という訳で、屋敷に残っている筈のウヴァさんに通信を繋げてみた。『ウヴァさん、聞こえますか?』『俺のヤミーか? どうやって喋ってる?』……そういえば、念話で話しかけられるのも初めてだったんですね、ウヴァさん。一応通信魔法の存在自体はトーリが教えた筈だが、実体験が伴わなかったために頭の中で連想が起こらなかったらしい。そんな事は脇に置いて、トーリは状況を吹き込む作業にとりかかったわけだが。『……という訳なんですよ。今から、市内の動物園に来てください』赫々云々、というヤツである。正直に言ってグリード側からも分の悪い賭けに思えるだろうが、他に生存ルートが見当たらないのだ。まぁ、マミをして発想が柔軟だと言わしめたトーリよりも、ウヴァさんの方が頭が柔らかい可能性もあるが。捻らない素直さを持ったウヴァの頭は、時に見る者の度肝を抜くアイデアを見せてくれるのだから。案の定、『そんな面倒な事をしなくても、カザリや真木と戦ったせいで人間達は疲れ切っているんだろう? 今から俺が行って一網打尽にしてやるッ!』『 ! ? 』虫怪人の勇猛果敢な叫び声は、『飛んで火に入る夏の虫』そのものであった……・今回のNG大賞『ここまで徹底して驚かない事が、逆に人間として不自然なのよ』『何にでも「ハッピーバースデイッ!!」って返してしまう鴻上会長の方が人間として不自然な気がしますよ……?』会長は……会長だから会長なんだよ!・公開プロットシリーズNo.137→俺に任せろォーッ!!